弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人滝沢寿一同津田利治の上告理由第二点の(二)について。
 原判決は「(三)被控訴人(被上告人)は本件口頭弁論の途中で、本件手形は被
控訴人(被上告人)が控訴人(上告人)に売渡した靴下代金七百八十万円の内金の
支払のために振出されたものであると主張したことがあるが、控訴人(上告人)は
被控訴人(被上告人)から靴下を買受けたことがないから、右手形はその手形行為
の原因を欠くものというべきであつて、控訴人(上告人)は被控訴人(被上告人)
に対しこれを理由として右手形金の支払を拒絶する」との上告人(控訴人)の主張
に対し「控訴人(上告人)は被控訴人(被上告人)において、本件手形が靴下売買
代金の支払のために振出されたと主張するけれども、かかる靴下を買受けたことが
ないというのみで、自ら具体的に事実を明示して本件手形が原因を欠缺している旨
の人的抗弁を主張しないのであるから(此点は当裁判所が釈明を求めても具体的に
主張しない)この(三)の点は具体的な事実の判断に入るかぎりでない」と判示し
たことは所論のとおりである。
 しかして、原判決の本件手形振出の経緯に関する認定事実によると、訴外Dが上
告人(以下上告銀行と称する)の代理人として、訴外Eと共同で被上告人と靴下の
売買契約を結び、その代金の一部として被上告人に対し本件手形を振出交付したの
か、それとも靴下の売買契約は訴外Eと被上告人との間に於て結ばれ本件手形は、
右両者間の売買に関し訴外Dが上告銀行の代理人としてEのために振出したもので
あるのかの点に付て明確を欠くのであるが、本件手形が靴下の売買代金支払のため
に上告銀行D支店長と訴外Eと共同で振出されたものであることは明らかにされて
いるので、若しもその売買が、上告銀行の代理人としてのD支店長と訴外Eとが共
同の買受人として契約を結んだものであつて、しかもそれがD支店長の無権代理行
為であるとすれば、上告銀行に対しては売買の効力がないことになるから、上告銀
行はかゝる原因欠缺の抗弁を主張して、本件手形金の支払を拒絶し得るの理である。
 ところで上告銀行の前記手形振出の原因関係欠缺の主張は、その内容簡にしてい
ささか明確を欠く嫌いがないでもないが、(なお此点に関し調書上原審において釈
明を求めた形跡もない)その趣旨とするところは、仮りにD支店長の本件手形振出
行為が上告銀行の権限ある代理人としてなされたものであるとしても、その原因た
る売買はD支店長の無権代理行為であつて、上告銀行に対してはその効力なく、結
局上告銀行は靴下を買受けたことがないことに帰するのであるから、本件手形の振
出は原因関係を欠くものであるとの抗弁と解することができる。してみれば、裁判
所はよろしく、その原因たる売買が訴外Eのほか上告銀行をも契約の当事者とする
ものであるかどうか、当事者であるとすれば右売買契約の締結がD支店長の無権代
理行為であるかどうか等の事実を確定して、前記上告銀行の原因欠缺の抗弁の当否
を判断すべきである。されば原審が前記上告銀行の抗弁について判断しなかつたの
は、審理不尽若くは判断遺脱の違法があるものというべく、この違法は原判決に影
響を及ぼすものと認められるから、此点に関する論旨は理由があり、原判決を破棄
し本件を東京高等裁判所に差し戻すべきものとする。
 よつてその余の論旨に対する判断を省略し民訴四〇七条に従い裁判官全員一致で
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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