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平成27年4月13日判決言渡
平成25年(ワ)第51号損害賠償請求事件(以下「甲事件」という。)
平成25年(ワ)第310号損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)
主文
1被告Aは,原告Bに対し,5233万2067円及びこれに対する平
成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2被告Aは,原告C及び原告Dそれぞれに対し,1500万5516円
及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
3被告Eは,原告Bに対し,3112万7992円及びこれに対する平
成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
4被告Eは,原告C及び原告Dそれぞれに対し,893万1998円及
びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
5被告Aは,原告Fに対し,1472万4000円及び,うち130万
円に対する平成24年4月30日から,うち1342万4000円に対
する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
6原告Bは,原告Fに対し,981万5999円及び,うち86万66
66円に対する平成24年4月30日から,うち894万9333円に
対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
7原告C及び原告Dは,原告Fに対し,各245万3999円及び,う
ち21万6666円に対する平成24年4月30日から,うち223万
7333円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
8原告B,原告C,原告D及び原告Fのその余の請求をいずれも棄却
する。
9訴訟費用中,甲事件について生じた費用はこれを10分し,その5を
被告Aの,その3を被告Eの,その余を原告B,原告C及び原告Dの負
担とし,乙事件について生じた費用はこれを10分し,その4を原告F
の,その3を被告Aの,その余を原告B,原告C及び原告Dの負担とす
る。
10この判決は,第1項ないし第7項に限り,仮に執行することがで
きる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1甲事件
被告A及び被告Eは,原告Bに対し,連帯して5233万2067円
及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
被告A及び被告Eは,原告Cに対し,連帯して1500万5516円
及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
被告A及び被告Eは,原告Dに対し,連帯して1500万5516円
及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
2乙事件
被告Aは,原告Fに対し,2403万5000円及び,うち218万
5000円に対する平成24年4月30日から,うち2185万円に対
する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
原告Bは,原告Fに対し,1602万3300円及び,うち145万
6600円に対する平成24年4月30日から,うち1456万670
0円に対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
原告Cは,原告Fに対し,400万5800円及び,うち36万41
00円に対する平成24年4月30日から,うち364万1700円に
対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
原告Dは,原告Fに対し,400万5800円及び,うち36万41
00円に対する平成24年4月30日から,うち364万1700円に
対する平成25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,被告Eが保有し原告Fが運転する普通乗用自動車(以下「F車」
という。)と訴外Gが保有し被告Aが運転する普通乗用自動車(以下「G車」
という。)が正面衝突し,G車に同乗していた亡Gが死亡した交通事故(以
下「本件事故」という。)について,
亡Gの相続人である原告B,原告C及び原告D(これらの者を併せて,
以下「原告Bら」という。)が,G車を運転していた被告Aに対しては民
法709条及び719条に基づき,F車の保有者であり原告Fの使用者
でもある被告Eに対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」とい
う。)3条本文,民法709条及び715条に基づき(ただし,自賠法3
条本文に基づく請求は,人損部分に係る請求に限る。),連帯して損害賠
償金及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求め(甲事件)
原告Fが,被告Aに対しては民法709条に基づき,原告Bらに対し
ては自賠法3条本文又は民法709条に基づき,連帯して損害賠償金及
びこれに対する本件事故の日又は本件事故の後の日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(乙事件)
る事案である。
2前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定
できる事実)
当事者等
ア原告Fは,本件事故当時,被告Eの代表取締役の地位にあった者で
ある。
被告Eは,本件事故当時,F車を自己の運行の用に供していた。
イ亡Gは,本件事故当時,G車を自己の運行の用に供していた。
原告Bは亡Gの妻であり,原告C及び原告Dは亡Gの両親である。
なお,亡Gに子はいない。
本件事故の発生
ア発生日時平成24年4月30日午前7時14分ころ
イ発生場所福井県あわら市α第β号γ番地先路上
ウ事故態様福井県あわら市δ方面と同県坂井市ε町ζ方面とを結ぶ
国道(以下「本件道路」といい,本件道路のうち福井県あ
わら市δ方面から同県坂井市ε町ζ方面に向かう車線を
「南進車線」,同県坂井市ε町ζ方面から同県あわら市δ
方面に向かう車線を「北進車線」と各いう。)において,
被告Aが,G車を時速約50㎞で運転していたところ仮睡
状態に陥り,G車を対向車線である北進車線に進行させ,
同車線上を進行してきた原告F運転のF車に衝突させた
(本件事故現場付近の道路の状況の詳細は,別紙1のとお
りである。)。
責任原因
ア本件事故について,被告Aには,自らが運転していたG車を対向車
線に逸脱させた過失があり,被告Aは,原告F及び原告Bらに対し,民
法709条に基づく責任を負う。
イ本件事故について,亡Gは,原告Fに対し,自賠法3条又は民法7
09条に基づく責任を負う。
本件事故による受傷等
ア本件事故により,亡Gは脳挫傷,左第1肋骨骨折,左大腿骨頸部骨
折,左坐骨骨折及び肺挫傷の傷害を負い,平成24年4月30日午後
7時10分,搬送先のH病院において死亡した。
イ本件事故により,原告Fは,腰椎圧迫骨折,肋骨骨折及び右足関節
捻挫の傷害を負った。
また,本件事故後,原告Fは,以下のとおり入通院した。
I病院
a平成24年4月30日から同年5月15日まで入院
b平成24年5月16日から平成25年4月23日までのうち
10日間通院
J医院
a平成24年5月15日から同年6月1日まで入院
b平成24年6月8日,同月14日,同月25日に通院
さらに,原告Fは,平成25年8月26日,画像診断上第3腰椎圧
迫骨折が認められることから「脊柱に変形を残すもの」として自賠法
施行令別表第2(以下「後遺障害等級表」という。)11級7号に該当
するとの認定を受けた。
損害の填補
ア原告Bらは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として
32万3540円の支払を受けた。
イ原告Fは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として,
平成24年6月8日に100万円,同年8月2日に140万円,同年
12月14日に100万円の支払を受けた。
また,原告Fは,G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金と
して,平成25年8月29日,331万円の支払を受けた。
3争点
甲事件関係
ア本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び責任原因
イ過失相殺
ウ亡G及び原告Bらの損害及びその額
乙事件関係
ア本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び過失割合
イ原告Fの損害及びその額
4当事者の主張
甲事件関係
ア争点ア(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び責任原因)
について
(原告Bらの主張)
自賠法3条に基づく責任
被告Eは,F車の運行供用者であるから,自賠法3条に基づき,
本件事故により亡G及び原告Bらに生じた損害を賠償すべき責任が
ある。
なお,この点について,被告Eは,本件事故について原告Fは無
過失であったのであるから,自賠法3条ただし書により,自賠法上
の賠償責任を負わない旨主張する。
しかしながら,原告Fは,前方の安全を十分に確認して運転すべ
き注意義務があったのに,これを怠り,自車の左方にいた歩行者に
気を取られてG車の発見が遅れたために,G車に衝突した。本件事
故の直前,F車の前方には先行車が2台いたところ,これらの車両
は,中央線を越えて北進車線に進入してきたG車を回避しているこ
とからも,原告Fに前方不注視の過失があったことは明らかである。
そして,原告Fが,より早くG車を発見していれば,対向車線(南
進車線)に回避する,その場で停止する,クラクションを鳴らすな
どの措置を執ることも可能であり,その場合,少なくとも亡Gが死
亡するという重大な結果は避けられた可能性がある。
したがって,本件事故について,原告Fにも前方不注視の過失が
あることは明らかであり,自賠法3条ただし書の適用はない。
民法715条に基づく責任
本件事故について,原告F
あるところ,被告Eは,F車を運転していた原告Fの使用者であり,
原告Fは,本件事故当時,被告Eの業務に従事していた。
したがって,被告Eは,原告Bらに対し,民法715条に基づく
責任も負う。
なお,被告Eは,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべきであり,
被告Aの過失は極めて重大であるから,仮に原告Fに軽度の注意義
務違反があったとしても,これを,本件事故についての「過失」と
評価すべきではない旨主張する。
しかしながら,この点について,被告Aの過失に係る上記事情は,
亡Gと原告Fとの間では無関係である。そして,このことは,亡G
がG車の使用者兼運行供用者であることによって左右されない。
(被告Eの主張)
本件事故は,被告AがG車を対向車線に逸脱させたという,被告A
の一方的な過失によって生じたものであり,原告Fは本件事故につい
て無過失であった。
すなわち,G車は,F車と衝突した地点の約80m手前(北側)か
ら中央線を逸脱し始めたところ,F車の前には先行車がいたためにF
車からはG車の動向を発見しづらい状況にあったことや,F車が進行
していた北進車線は,上記衝突地点の手前(南側)約100mにわた
って路側帯が約0.6mしかなく,その外側にはガードレールが設置
されていたために,F車がG車を回避できる余地はなかったことから
すれば,原告Fが,中央線を逸脱して進行してきたG車を避けること
は不可能であった。
さらに,原告Bらは,原告Fがもっと早くG車を発見していれば,
対向車線(南進車線)に回避する,その場で停止する,クラクション
を鳴らすなどの回避措置を執ることも可能であり,その場合,少なく
とも亡Gが死亡するという重大な結果は避けられた可能性がある旨
主張するが,そもそも,対向車を避けるために対向車線に回避するこ
とは極めて危険な行為であるし,自車の前方に対向車が迫っていると
いう緊急事態において,咄嗟にその場で停止をしたり,クラクション
を鳴らすなどの回避措置を講ずることも困難である。さらに,仮に原
告Fが上記の措置を講じていたとしても,G車との衝突や,亡Gの死
亡という結果が避けられた可能性があるとはいえない。
したがって,原告Fには過失はなかった。
また,仮に原告Fに軽度の注意義務違反が認められるとしても,運
転中に仮睡状態に陥り自車を対向車線に逸脱させた被告Aの過失は
極めて重大であることや,本件事故現場付近は追い越し禁止場所であ
り,原告Fにおいて,中央線を越えて対向車線に逸脱してくる車両が
いることは想定し得なかったことからすれば,原告Fの上記注意義務
違反をもって,本件事故についての「過失」と評価すべきではない。
なお,この点について,原告Bらは,被告Aの過失に係る上記事情
は,亡Gと原告Fとの間では関係がない旨主張するが,亡GはG車の
使用者兼運行供用者であるのに対し,被告Aは当該運行の補助者にす
ぎないことからすれば,被用者の過失が使用者の過失と同視されるの
と同様,被告Aの過失について,被害者側の過失に係る事情として,
亡Gの過失と同視すべきである。
以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であるから,被告
Eは,原告Bらに対し,自賠法3条ただし書により,自賠法上の賠
償責任を負わず,また,民法715条に基づく賠償責任も負わない。
イ争点イ(過失相殺)について
(被告Eの主張)
被告Aの過失についての亡Gの責任
本件事故について,被告Aの過失を被害者側の過失として亡Gの
過失と同視すべきであることは,上記ア「被告Eの主張
たとおりである。
また,被告Aの過失を亡Gの過失と同視することができないとし
ても,亡Gは,G車の使用者として,運転者である被告Aに対し,
車両の速度や運転者の心身の状態に関し道路交通法等で規定する事
項を遵守させるように努めるべき義務(道路交通法74条2項)を
負っていたところ,これに反し,被告Aが過労のために正常な運転
ができないおそれがあることを認識しながら,被告Aの運転を許可
した過失がある。
シートベルト不装着
本件事故当時,亡Gはシートベルトを装着しておらず,その結果,
頭部打撲による脳挫傷で死亡した。
このことも,亡Gの過失として考慮されるべきである。
(原告Bらの主張)
被告Aの過失についての亡Gの責任について
本件事故について,被告Aの過失を被害者側の過失として亡Gの
過失と同視すべきでないことは,上記ア「原告B
べたとおりである。
また,事故を起こした車両に同乗していた者が,共同運行供用者
として当該事故の発生を抑止すべき立場にあったとしても,上記同
乗者が負う責任は,運転者の過失割合を上限とし,運行支配及び運
行利益の程度に応じて,その一部を自らの過失として評価されるに
すぎないというべきである。仮に,本件事故について,亡Gが共同
運行供用者として責任を負うとしても,本件における亡Gと被告A
の運行支配及び運行利益の程度は,亡Gが2割,被告Aが8割とみ
るべきであるから,亡Gは,被告Aの過失割合の2割の限度で,原
告Fに対して請求をし得なくなるにすぎない。
シートベルト不装着について
否認ないし争う。
ウ争点ウ(亡G及び原告Bらの損害及びその額)について
(原告Bらの主張)
亡Gの損害
a治療費関係合計32万3540円
治療費31万4640円
⒝一般死亡診断書3150円
⒞死体処置料3430円
⒟死亡退院浴衣代2100円
⒠大人用紙おむつ代220円
b戸籍謄本取寄料1650円
c葬儀費用150万円
d逸失利益4449万4791円
亡Gは,本件事故当時34歳であったから,本件事故によって
死亡しなければ,33年間は就労が可能であった。また,本件事
故時の亡Gの年収は463万4150円であった。
(計算式)463万4150円×0.6(生活費控除率4割)
×16.0025(33年ライプニッツ)
=4449万4791円
e死亡慰謝料1700万円
f車両時価額81万円
gレッカー料5万1660円
h廃車・抹消登録手続費用1万5000円
i既払金32万3540円
j小計(差引額)6387万3101円
原告Bら固有の慰謝料
原告Bらが被った精神的損害を慰謝するに足りる金員は,妻であ
る原告Bにつき500万円,両親である原告C及び原告Dにつき各
300万円を下回らない。
弁護士費用
弁護士費用も本件事故と相当因果関係のある損害であり,その金
額は原告Bにつき475万円,原告C及び原告Dにつき各136万
円が相当である。
(被告Eの主張)
「原告Biは不知。
その余は否認ないし争う。
乙事件関係(乙事件の相被告である被告A及び原告Bらは,乙
事件についての双方の主張を,それぞれ自己に有利に援用している。)
ア争点ア(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び過失割合)
について
(被告A及び原告Bらの主張)
本件事故について,原告Fにも前方不注視の過失があったことは,
原告Bらの主張」のとおりである。
(原告Fの主張)
否認ないし争う。
被告Eの主張」のとおりである。
イ争点イ(原告Fの損害及びその額)について
(原告Fの主張)
入院雑費4万9500円
休業損害240万円
本件事故前まで,原告Fは,自らが経営する被告Eの代表取締役
として月額60万円の報酬の支払を受けていたところ,平成24年
5月から7月までの間は全く職務を行うことができなかったために
無給となり,同年8月及び9月は報酬の半額しか支給を受けること
ができなかった。
逸失利益1895万4720円
本件事故により,原告Fは,第3腰椎圧迫骨折により脊柱に変形
が残存し,30分程度の着座や運転で,首から臀部にかけてこわば
りや鈍痛が生じるなど,体幹の維持,動きに制約が生じる後遺症が
残り,これについて,後遺障害等級表11級7号に該当するとの認
定を受けた(症状固定日は平成25年4月23日)。
症状固定時,原告Fは45歳であり,就労可能年限である67歳
までの22年間,労働能力を20%喪失した。
(計算式)720万円×0.2
×13.1630(22年ライプニッツ)
=1895万4720円
入通院慰謝料130万円
後遺障害慰謝料420万円
既払金及び小計(差引額)
原告Fは,被告Aから,本件事故による損害賠償金の内金として,
平成24年6月8日に100万円,同年8月2日に140万円,同
年12月14日に100万円の各支払を受けた。
また,原告Fは,G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金
として,平成25年8月29日,331万円の支払を受けた。
これらについて,上記
円)及びこれに対する本件事故日からの遅延損害金に充当すると,
平成25年8月29日時点における未払金の額は,2185万円(1
000円未満切り捨て)となる。
弁護士費用218万5000円
(被告A及び原告Bらの主張)
上記「原告Fの主張」,その余は否認ないし争う。
J医院への転院は,原告F自身の希望に基づくもので
あるから,その後の入院期間に係る部分については,本件事故と相当
因果関係がない。
,について,役員報酬には労働対価部分と利益配当部分があり,
休業損害及び逸失利益の対象となるのは,そのうち労働対価部分に限
られる。
また,について,原告Fには本件事故による脊柱の変形が認めら
れるものの,脊柱の支持性や運動性には支障がなく,常時の疼痛もな
いから,原告Fに後遺障害が残存したとは認められない。
第3当裁判所の判断
1甲事件のうち被告Aに対する請求について
被告Aは,甲事件に係る請求原因事実(第2の
原告Bらの主張」記載の事実)を争う
ことを明らかにしないから,これを自白したものとみなす。
なお,亡G及び原告Bらの損害のうち,慰謝料の額及び弁護士費用の
額についても,前提事実,証拠及び弁論の全趣旨に照らし,原告Bらの
主張する金額のとおり認めるのが相当である。
したがって,原告Bらの被告Aに対する請求は,全部理由がある。
2争(本件事故の態様並びに原告Fの過失の有無及び
責任原因等)について【甲事件及び乙事件共通】
認定事実
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア本件事故現場に至るまでの状況
亡Gは,新潟県長岡市内で開催されるコンサートに,自らが誘っ
た被告A及び訴外K(亡G,被告A及びKを併せて,以下「亡Gら」
という。)と共に参加するため,本件事故の前日である平成24年
4月29日午前10時ころ,福井県坂井市所在の自宅を出て,被告
A及びKを迎えに寄った後,自らG車を運転して新潟県長岡市に向
かった。なお,途中,新潟県内で被告Aが亡Gに代わり30分ほど
G車を運転したことがあったが,それ以外は,すべて亡GがG車を
運転していた。亡Gらは,同日午後6時ころ,長岡市に到着し,夕
食を取った後,同日午後9時ころから翌30日午前1時ころまでの
間,コンサートに参加した。
その後,亡Gらは,仮眠を取ることなくそのまま福井県に帰るこ
とにし,亡GがG車を運転して国道8号線を南下し,福井県に向か
った。同日午前4時ころ,亡Gらは,富山県内の飲食店で食事を取
った。飲食店を出た後,しばらくは亡Gが運転をしていたが,亡G
が「そろそろ限界だ。」と言ったことから,被告Aは,「運転代わ
ります。」と亡Gに声をかけ,少なくともG車が富山県小矢部市内
を走行する間までに,亡Gと運転を代わった。被告Aと運転を代わ
った約10分後,亡Gは,G車の助手席でシートを少し倒した状態
で眠った。また,このとき,Kは,G車の後部座席で眠っていた。
原告Fは,本件事故当日の平成24年4月30日,本件事故現場の
近くのゴルフ場で開催されるゴルフコンペに参加するために,F車を
運転し,本件道路を時速約50kmで北進していた。
イ本件事故現場付近の道路状況について
本件事故現場付近の道路の状況の詳細は,別紙1のとおりである。
すなわち,本件事故の現場となった道路(本件道路)は,南北に走
る片側1車線の国道であり,アスファルトで舗装された平坦な直線道
路である。北進車線及び南進車線の幅員はいずれも約3.3mであり,
両車線の外側には,車道外側線で仕切られた路側帯がそれぞれ設置さ
れている。G車とF車が衝突した地点(以下「本件
衝突地点」という。)の約2.5m北側の北進車線の路肩には電柱(別
紙1,2のうち「基点電柱」との記載があるもの。この電柱を指して,
以下「本件基点電柱」という。)が設置されているところ,北進車線
のうち本件基点電柱より南側部分の路側帯の幅員は約0.7mであり,
路側帯の外側にはガードレールが設置されている。また,北進車線の
うち本件基点電柱より北側部分の路側帯の幅員は約2.3mであり,
路外にはモーテルがある。他方,南進車線のうち本件基点電柱より南
側部分の路側帯の幅員は約1.8mないし2.5mであり,その外側
には柵が設置されている。
本件事故現場付近は,最高速度が時速50kmに制限されており,
追い越しのためのはみ出し通行が禁止されている。
本件事故現場付近の見通しは良く,視界を妨げる障害物はない。ま
た,本件事故時の天候は曇りであり,本件事故現場付近の路面は乾燥
していた。
ウ本件事故発生時の状況
本件事故当時,G車は,時速約50kmで南進車線を進行してい
たところ,被告Aは,平成24年4月30日午前7時13分ころ,
本件衝突地点の約800m手前(北側)付近で疲れを感じて前を見
ていることができなくなり,仮睡状態に陥った。
G車は,本件衝突地点の約100m手前(北側)付近で中央線上
を走行するようになり,そのままゆるやかに中央線をはみ出し,本
件衝突地点の約80m手前(北側)付近では,車体が50cmほど
対向車線にはみ出す形で走行するようになった。このとき,F車の
2台前を北進していた車両(以下「先行車①」という。)は本件基
点電柱の約47m北側(すなわち,本件衝突地点から約49.5m
北側)を時速約50kmで走行しており,先行車①とG車との距離
は約29mであった。先行車①の運転者は,その場でハンドルを左
に切ってG車を避けた。また,その後,F車の前を北進していた車
両(以下「先行車②」という。)も,左側に寄りG車を避けた。そ
の直後,F車とG車正
面衝突した。
本件事故の後,F車とG車は,本件衝突地点の約1.6m南方で
停止した。
本件事故により,G車及びF車は,各車両の前部が大破した。
エ本件事故直前の原告Fの動向について
原告Fは,本件衝突地点の手前で,北進車線の路側帯に歩行者が
いるのを発見し,その方向に視線を移した。
その後,原告Fは,本件衝突地点の手前(南側)でG車を発見し,
その場で急制動の措置を講じたが,G車と正面衝突した。
なお,原告Fは,平成24年6月5日に行われた実況見分におい
て,本件衝突地点の約62.2m手前(南側)付近(別紙2の㋐の
地点)で,前方約18mの位置(別紙2のⒶの地点)に北進車線の
路側帯を同一方向に歩行している歩行者を見た,その後,本件衝突
地点の約16m手前(南側)の地点(別紙2の㋑の地点)でG車が
前方約33mの位置(別紙2の①の地点。本件衝突地点から約17
m北側の地点)にいるのを発見し,その場でブレーキをかけた旨,
具体的な説明をしている。しかしながら,原告F自身,上記説明の
うち各車両の厳密な位置関係等については正確ではなかった可能性
がある旨供述している上,上記実況見分は本件事故から1か月以上
経った後に行われていることや,本件事故によりF車は大破し,原
告Fも救急搬送されて全治2か月の入院加療を要する腰椎圧迫骨折
及び肋骨骨折等の傷害を負うなど,本件事故の衝撃が相当大きなも
のであったと認められること等の事情に照らすと,原告Fが本件事
故直前の状況を正確に記憶していないとしても不自然であるとはい
えないことからすれば,上記実況見分で説明された位置関係が,す
べて厳密に正確なものであるとまでは認められない。
以上を前提に,まず,本件事故について原告Fが無過失であった
といえるかどうかについて検討する。
ア本件事故について,被告Aには,自らが運転していたG車を対向車線
に逸脱させた過失があることは
実によれば,本件事故直前に,被告Aが過労のために仮睡状態に陥り,
そのままゆるやかに中央線をはみ出し,ついには対向車線に自車を逸脱
させてF車と正面衝突したという本件事故の態様からすれば,本件事故
の発生について,被告Aに極めて重大な過失があることは明らかであ
る。
その上で,原告Bらは,原告Fは本件事故直前に脇見をしていたとこ
ろ,仮に原告Fが脇見運転をしていなければ,より早い段階でG車の動
向に気づき,F車を停車させるなどして本件事故を避けることが可能で
あったのであるから,原告Fには,本件事故について前方不注視の過失
がある旨主張し,原告Fが無過失であることを争っている。
これに対し,被告Eは,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯
にいた歩行者を見たものの進路前方を全く見ていなかったわけではな
い,F車の先行車の存在等により原告Fがより早い段階でG車の動向に
気づくことは不可能であった,仮により早い段階でG車の動向に気づい
たとしても,対向車線に回避する,その場で停止する,クラクションを
鳴らすなどの原告Bらが主張する措置を咄嗟に講ずることは不可能で
あったし,仮にこれらの措置を講ずることができたとしても本件事故が
避けられたとはいえないなどと主張している。
そこで,以下,これらの点について検討する。
イまず,原告Fは,本件事故直前に北進車線の路側帯の歩行者を見たこ
と自体は認めているところ,本件全証拠によっても,原告Fが脇見をし
ていた正確な地点及びその時間は明らかではない。
もっとも,原告Fにおいて,路側帯の歩行者の動向に注意を払うべき
事情があったとしても,原告Fが自認しているとおり,歩行者の動向に
注意を払うのと同時に,進行道路前方を注視することも不可能ではない
ことからすれば,原告Fに前方不注視の過失があったかどうかを判断す
るに当たっては,結局,原告Fにおいて,どの段階でG車の動向に気づ
くことが可能であったかが問題となる。
この点,G車が中央線上又はこれを越えて対向車線である北進車線
を走行するようになった後,F車の前方には先行車が2台存在したとこ
ろ,F車からG車方向の見通しは,これらの先行車との位置関係によっ
て左右される。そして,上記認定事実によれば,先行車①が本件衝突地
点の約49.5m北側を走行していたとき,G車はその前方約29mの
位置を先行車①と対向して走行しており,先行車①とG車はほぼ同速度
であったことからすれば,先行車①とG車は,本件衝突地点の約64m
北側ですれ違ったことになり,さらに,原告Fが急制動の措置を講ずる
までのF車の速度と,G車の速度がほぼ同速度であったことからすれ
ば,先行車①とG車がすれ違った時点で,F車は先行車①の約128m
後方を走行していたことになる。これに対し,本件事故直前の先行車②
とF車との距離は,証拠上明らかではない(なお,先行車①の運転者は,
先行車②がG車を避けた「直後」にG車とF車が正面衝突した旨説明し
ているところ,G車の速度が時速50kmであったことを前提とする
と,そもそもG車が先行車①とすれ違ってからF車と衝突するまでの時
間は5秒足らずであり,「直後」という表現をもって,G車が先行車②
とすれ違ってからF車と衝突するまでの時間を特定することはできな
いといわざるを得ない。)。
その上で,先行車①及び先行車②が中央線の0.8m内側を走行し
(先行車①については,同車の運転者の説明に基づく位置である。),
F車が中央線の0.5m内側を走行していたことを前提とした上(原告
Fの説明に基づく位置である。なお,原告Bらは,F車は,実際には,
より中央線に近い位置を走行していたはずである旨主張するが,これを
認めるに足りる的確な証拠はない。),仮に,先行車②とF車との距離
が40mであり,かつ,先行車②とF車が同速度であったとすると,F
車からG車の動向を発見することができたのは,早くとも,先行車②が
北進車線の左側の路側帯に回避可能となった時点,すなわち,F車が本
件衝突地点の約35m手前(南側)付近に位置していた時点ということ
になる。また,上記と同条件の下,仮に,先行車②がF車と先行車①と
の中間(すなわち,F車の64m前方)を走行していたとすると,F車
が本件衝突地点の約50m手前(南側)付近に位置していた時点では,
F車からG車の動向を発見することができたと認められる。そして,上
記のとおり,G車が先行車①とすれ違った時点における先行車①とF車
との距離は約128mであり,G車が先行車①とすれ違った直後に先行
車②とすれ違ったとすれば,先行車②とF車が64m以上離れていた可
能性もあるところ,その場合には,F車は,さらに手前(南側)の位置
でG車の動向を発見することができた可能性が高い。
ウ以上の事実に加え,時速50kmの車両の停止距離は約24.48m
であるところ,仮に,原告Fにおいて,実際よりも早い段階でG車の動
向を発見していれば,その時点で急制動の措置を講じてG車と衝突する
以前にF車を完全に停車させることにより,少なくとも衝突による衝撃
を減じたり,クラクションを鳴らすことにより衝突を回避したりするこ
とができた可能性も否定できないことからすれば,本件事故について,
原告Fに前方不注視の過失がなかったということはできない。
次に,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があったとい
えるかどうかについて検討する。
F車からG車方向の見通しは,F車と
先行車,特に先行車②との位置関係によって左右されるところ,F車と
先行車②との位置関係は,本件全証拠によっても明らかではない。した
がって,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能であっ
たかについては,特定することができないといわざるを得ない。
さらに,原告Bら及び被告Aは,原告Fがより早い段階で急制動の措
置を講ずることによりG車と衝突する前にF車を減速又は停車させてい
れば,あるいは,クラクションを鳴らしていれば,少なくとも衝突の衝
撃が減じられた結果,少なくとも亡Gの死亡は避けられた可能性がある
とも主張するが,結局,G車と衝突する以前にF車を完全に停車させる
ことが可能であったかどうか(あるいは,どの程度減速を図ることがで
きたか)や,急制動の措置を講ずることに加えてクラクションを鳴らす
程度の心理的余裕があったかどうかは,G車の動向に気づくことができ
た段階で,G車とF車がどの程度離れていたかに依拠することになる。
そうすると,原告Fにおいて,どの時点でG車を発見することが可能で
あったかを証拠上認定することができない以上,この点からも,原告F
に過失があったと認めることはできないといわざるを得ない。
なお,原告Bら及び被告Aは,原告Fにおいて,上記の措置に加えて,
対向車線である南進車線に進入することによりG車を回避すべきであっ
たとも主張するが,被告Aが中央線を越えて北進車線に進入しているこ
とに気がついた場合,直後にG車を南進車線に戻す可能性もあり得るこ
とからすれば,F車が対向車線である南進車線に進入すること自体危険
を伴う行為であり,原告Fにおいてかかる措置を講ずるべきであったと
はいえない。
以上によれば,本件事故について,原告Fに前方不注視の過失があっ
たということもできない。
小括
以上のとおり,本件事故について原告Fは無過失であったと認めるこ
とはできない一方,原告Fに過失があったとも認められない。したがっ
て,被告Eは,原告Bらに対し,自賠法3条に基づき,本件事故により
亡Gの生命又は身体が害されたことにより受けた損害の限度でこれを賠
償する義務を負う一方,民法715条に基づく損害賠償義務を負わない。
他方,被告Aは民法709条に基づき,亡Gは自賠法3条又は民法7
09条に基づき,それぞれ原告Fに対して損害賠償責任を負うことにつ
いては当事者間に争いがないところ,原告Fに前方不注視の過失がある
ことを前提とした過失相殺の主張は認められない。
3について【甲事件関係】
まず,被告Eは,亡GがG車の使用者兼運行供用者であることから,
被用者の過失について使用者の過失と同視されるのと同様,被害者側の
過失に係る事情として,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべきである
旨主張する。
しかしながら,使用者が被用者に対して一方的な支配関係を有するの
とは異なり,同乗者たる運行供用者と当該車両の運転者がそれぞれ有す
る運行支配や運行利益の程度は事案によって様々であって,一律に運転
者の過失を運行供用者の過失と同視すべきであるとはいえない。さらに,
亡Gと被告
Aの関係性等に照らせば,本件について,被告Eが主張するように,被
告Aが亡Gの補助者にすぎず,運行支配や運行利益を一切有していなか
ったと認めることもできない。
また,本件について,他に,被告Aの過失を亡Gの過失と同視すべき
事情も認められない。
したがって,被告Eの上記主張は採用することができない。
本件事故に至る経緯,す
なわち,亡Gは,本件事故の前日午前10時ころに自宅を出てから同日
午後6時ころに新潟県長岡市内に着くまでの約8時間の大半にわたって
G車を運転しており,その後,亡Gらは,翌日(本件事故当日)午前1
時ころまで飲食をしたりコンサートに参加したりした後,そのまま休憩
を取ることなく亡Gの運転で福井県に向かっていたところ,富山県内で
亡Gが「そろそろ限界だ。」と言ったことから,被告Aが亡Gと運転を
代わったことからすれば,亡Gにおいて,自ら交通事故が発生する危険
性が高い状況を招来し,そのような状況を認識した上で被告Aと運転を
代わったものと認められ,その限りで亡Gにも本件事故についての帰責
性があるといえる。
これらの事情に加え,亡GはG車の保有者であったことや亡Gと被告A
との関係性,本件事故に至る状況等の一切の事情,さらに,本件事故につ
いては被告Aの過失が極めて重大であると認められる一方,仮に原告Fに
前方不注視の過失が認められるとしても,その程度は極めて低いものであ
るといえることからすれば,本件事故についての亡G及び原告Bらの損害
額の算定にあたっては,原告Fに対する関係でも,その損害額の3割を減
じるのが相当であるというべきである。
本件事故当時,亡Gは,シートベルトを装着せず,助手席のシートを少し
倒した状態で眠っていたこと,本件事故はG車とF車が正面衝突したもの
であり,G車の前部は原型をとどめないほど破損しているところ,亡Gは,
本件事故により脳挫傷等の傷害を負い,これにより,本件事故の約12時
間後に搬送先の医療機関で死亡している一方,シートベルトを着用してい
た被告Aは,本件事故により1か月の入院治療を要する左腸骨骨折等の傷
害を負っているものの,致命傷に至るまでの傷害を負っていないこと(な
お,G車の運転席及び助手席のいずれもエアバッグが作動していた。)か
らすれば,亡Gがシートベルトを装着していなかったために亡Gの損害が
拡大したと考えるのが合理的である。
したがって,この点についても,亡G及び原告Bらの損害額から1割
を減じるのが相当である。
小括
以上によれば,被告Eは,本件事故により亡Gの生命又は身体が害さ
れたことにより受けた損害のうち,6割の限度で,これを賠償する義務
を負うというべきである。
4ウ(亡G及び原告Bらの損害及びその額)について【甲事件関係】
ア亡Gの損害(人損部分に限る。)
治療費関係合計32万3540円
前提事実,証拠及び平成25年6月5日付け調査嘱託の結果によれ
ば,亡Gは,本件事故により,脳挫傷,左第1肋骨骨折,左大腿骨頸
部骨折,左坐骨骨折,肺挫傷の傷害を負い,平成24年4月30日,
搬送先のH病院において死亡した。
そして,H病院における治療費として31万4640円,一般死亡
診断書代として3150円,死体処置料として3430円,死亡退院
浴衣代として2100円,大人用紙おむつ代として220円がそれぞ
れ支出されたことが認められ,これらは本件事故と相当因果関係のあ
る損害と認められる。
戸籍謄本取寄料1650円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,亡Gの戸籍謄本取寄料として,合
計1650円を要したことが認められ,これも本件事故と相当因果関
係のある損害と認められる。
葬儀費用150万円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告Bらは,亡Gの葬儀費用とし
て少なくとも合計166万6890円を支出したことが認められると
ころ,このうち150万円について,本件事故と相当因果関係のある
損害と認められる。
逸失利益4449万4791円
本件事故前年度の亡Gの年収は463万4150円であったとこ
ろ,亡Gの収入のうち生活費控除率は4割と認めるのが相当である。
そして,本件事故当時,亡Gは34歳であり,就労可能年数は67
歳までの33年間であるから(対応するライプニッツ係数は16.0
025),逸失利益の額は以下のとおりとなる。
(計算式)463万4150円×0.6(生活費控除率4割)
×16.0025(33年ライプニッツ)
=4449万4791円
死亡慰謝料1700万円
ほか,本件に顕れた一切の
事情を考慮すれば,亡Gの死亡慰謝料は上記金額を下回らないと認め
られる。
過失相殺後の金額
の合計額は6331万9981円となるところ,
上本件事故における亡Gの過失割合は4割とすべき
であるから,過失相殺後の金額は,3799万1989円(1円未満
四捨五入)となる。
既払金の充当関係
前提事実によれば,原告Bらは,被告Aから,本件事故による
損害賠償金の内金として32万3540円の支払を受けたところ,か
かる金員は,本件事故により原告Bらが被告Aから賠償を受けるべき
損害額全体から控除されるべきである。
そうすると,原告Bらが被告Aから賠償を受けるべき金額から上記
金員を控除した金額は,被告Eが原告Bらに対して賠償すべき金額を
上回ることになるから,結局,被告Eが原告Bらに対して賠償をすべ
き金額に影響しない。
そうすると,被告Eが亡Gの損害について原告Bらに対して賠償す
べき金額3799万1989円を原告Bらの法定相続分
で割った金額,すなわち,原告Bについて2532万7992円(1
円未満切り捨て),原告C及び原告Dについて,それぞれ633万19
98円(1円未満切り捨て)となる。
イ原告Bらの固有の慰謝料
前提事実,及び証拠のほか,本件に顕れた一
切の事情を考慮すれば,原告Bらが被った精神的損害を慰謝するに足りる
金員は,亡Gの妻である原告Bにつき500万円,亡Gの両親である原告
C及び原告Dにつき各300万円と認めるのが相当である。
もっとも,原告Bらが被告Eに対して請求
しうるのは,上記金額から4割を減じた額であり,原告Bにつき300万
円,原告C及び原告Dにつき各180万円となる。
ウ弁護士費用
原告Bらは,本件訴訟の提起を代理人弁護士に委任しているところ,
上記の金額や本件事案の難易等に照らすと,本件事故と相当因果関係の
ある弁護士費用としては,原告Bにつき280万円,原告C及び原告D
につき各80万円と認めるのが相当である。
エまとめ
以上によれば,原告Bの被告Eに対する請求は,3112万7992
円及びこれに対する平成24年4月30日から支払済みまで年5分の割
合による金員の支払を求める限度で理由があり,原告C及び原告Dそれ
ぞれの被告Eに対する請求は,893万1998円及びこれに対する平
成24年4月30日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を
求める限度で理由がある。
なお,上記1で認めた被告Aが原告Bらに対して負う債務と,被告Eが
原告Bらに対して負う各債務は,それぞれ不真正連帯債務となる。
5原告Fの損害及びその額)について【乙事件関係】
入院雑費4万9500円
前提事実のとおり,本件事故により,原告Fは,腰椎圧迫骨折,肋骨骨
折,右足関節捻挫の傷害を負い,平成24年4月30日から同年5月15
日までの間はI病院に,同日から同年6月1日までの間はJ医院にそれぞ
れ入院した。
そして,前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告Fは,本件事
故直後に救急搬送されたI病院において第3腰椎圧迫骨折や肋骨骨折等
の診断を受けたところ,平成24年5月7日からは硬性コルセットを着
用した保存的治療が開始されたものの,J医院に転院した同月15日時
点においても,骨癒合は認められず,腰椎の骨折部に疼痛も残存してい
たために,自立歩行を含め日常生活が困難な状態であり,さらに,骨折
部の圧潰により下肢の神経症状が出現する可能性があったことから,引
き続き入院加療を継続する必要性があったこと,その後,同年6月1日
まで,J医院において入院加療が続けられたことが認められる。
したがって,本件事故当日の平成24年4月30日からJ医院を退院し
た同年6月1日までの入院(33日間)について,本件事故と相当因果関
係があると認められる。
そして,入院雑費の額は,1日当たり1500円と認めるのが相当で
あるから(弁論の全趣旨),入院雑費の合計額は,下記のとおり,4万9
500円となる。
(計算式)1500円×33日=4万9500円
休業損害180万円
原告Fは,被告Eの代表取締役であるところ,証拠及び弁論の全趣旨
によれば,原告Fは,平成19年から,被告Eにおいて主として造園事
業を行うようになったこと,本件事故当時,被告Eの従業員数は16名
程度であったところ,このうち,被告Eの事業の根幹となる設計業務,
現場管理業務及び営業業務(なお,これらの業務は自動車による出張を
伴うものも多い。)を行っていたのは,原告Fのほか従業員1名の合計
2名であり,本件事故前の被告Eの年商のうち約3分の2を原告Fが受
注していたこと,本件事故後,被告Eは原告Fが従前行っていた上記業
務の一部を行わせるために新たに1名を契約社員として雇用しているこ
と,原告Fは,本件事故後平成24年7月末までの間,入院及び自宅療
養のために被告Eの業務を一切行うことができなかったこと,原告Fは,
本件事故の前まで被告Eから月額60万円を報酬として受領していたと
ころ,平成24年5月ないし同年7月までの3か月分については一切報
酬を受領していないこと(なお,同年8月及び9月分の報酬については,
経理上の問題から,最終的に原告Fが全額を受領した旨の処理がなされ
た。),以上の事実が認められる。
そして,上記した被告Eの会社の規模や業務の実態,その他一切の事
情に照らせば,原告Fが本件事故前に受領していた報酬額は,その全額
について原告Fの労務提供の対価とみるべきである。
そうすると,本件事故と相当因果関係のある原告Fの休業損害は、平成
24年5月から同年7月までの3か月分の報酬額である180万円と認
められる。
逸失利益1326万8304円
原告
Fは,本件事故直後に救急搬送されたI病院において腰及び背中の痛みを
訴えていたこと,J医院への入院期間中も頻繁に腰部痛や背部痛を訴えて
おり,特に座位を30分ほど続けると腰部痛が出現する旨繰り返し述べて
いたこと,その後のI病院への通院期間中も同様の症状を訴えていたこ
と,平成25年4月23日,同病院において第3腰椎圧迫骨折により同日
症状固定との診断を受け,同年8月26日には,福井自賠責損害調査事務
所から,画像診断上第3腰椎圧迫骨折が認められることから「脊柱に変形
を残すもの」として後遺障害等級表11級7号に該当するとの認定を受け
たこと,原告Fにおいては,現在も,首から臀部にかけて日常的に張りが
あり,座位を30分ないし1時間程度継続すると同所に鈍痛が生じるとと
もに偏頭痛が起きることもあること,また,1時間以上運転を続けると右
足がしびれたような症状が生じること,これらの原告Fの症状のうち腰部
痛や背部痛については,腰椎の前弯がなくなり局所で後弯していることが
原因であり,今後もこれらの変形が元どおりに治癒することはないこと,
以上の事実が認められる。
そうすると,原告Fについて,本件事故により,後遺障害等級表11級
7号の脊柱変形及びこれに伴う疼痛について後遺障害が残存したことが
認められるが,他方,脊柱変形による明らかな運動障害は認められず,上
記原告Fの後遺障害による労働に対する支障は,脊柱変形それ自体ではな
く,もっぱら脊柱変形に伴う疼痛を原因とするものであること,脊柱の変
形についても症状固定時において画像上は改善が見られたことも考慮す
れば,後遺障害による原告Fの労働能力喪失率は14%であり,喪失期間
は就労可能年限である67歳までの22年間であると認めるのが相当で
ある。
そうすると,原告Fの本件事故の前年度の収入は720万円であるか
ら,これを基礎収入として原告Fの後遺障害逸失利益を算定すると,次の
とおり1326万8304円となる。
(計算式)720万円×0.14
×13.1630(22年ライプニッツ)
=1326万8304円
入通院慰謝料100万円
これまでに認定した原告Fの傷害の内容及び入通院状況を考慮する
と,入通院慰謝料としては,100万円と認めるのが相当である。
後遺障害慰謝料290万円
290万円と認
めるのが相当である
損害の填補等
前提事実イのとおり,原告Fは,被告Aから,本件事故による損害
賠償金の内金として,平成24年6月8日に100万円,同年8月2日
に140万円,同年12月14日に100万円の各支払を受け,また,
G車に付保されていた自賠責保険に係る保険金として,平成25年8月
29日,331万円の支払を受けた。
ろ,これに対する本件事故日から各支払日までの遅延損害金,元本の順
に充当すると,平成25年8月29日時点での未払金の額は,別紙3の
とおり,1342万4000円(1000円未満切り捨て)となる。
弁護士費用
原告Fは,本件訴訟の提起を代理人弁護士に委任しているところ,上
金額や本件事案の難易等に照らすと,本件事故と相当因果関係の
ある弁護士費用としては,130万円と認めるのが相当である。
まとめ
以上によれば,弁護士費用も加えた原告Fの損害額は,1472万4
000円となる。
したがって,原告Fの被告Aに対する請求は,1472万4000円
及び,うち130万円(弁護士費用相当額)に対する平成24年4月3
0日から,うち1342万4000円に対する平成25年8月30日か
ら,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由
がある。
また,亡Gの相続人である原告Bらは,原告Fに対し,それぞれの法
定相続分に応じて上記金額を賠償する義務を負うから,原告Fの原告B
に対する請求は,981万5999円及び,うち86万6666円に対
する平成24年4月30日から,うち894万9333円に対する平成
25年8月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払
を求める限度で理由があり,原告Fの原告C及び原告Dに対する請求は,
各245万3999円及び,うち21万6666円に対する平成24年
4月30日から,うち223万7333円に対する平成25年8月30
日から,各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で
理由がある。
なお,被告Aが原告Fに対して負う債務と,原告Bらがそれぞれ原告
Fに対して負う上記債務とは,不真正連帯債務となる。
第4結論
よって,主文のとおり判決する。
福井地方裁判所民事部
裁判官原島麻由
(別紙部分はすべて省略)

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