弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金3074万0052円及びこれに対する平成11年
4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
,,,,
本件は原告が被告に委託した商品先物取引に関し被告の従業員らから
違法な勧誘を受け,十分な説明もされず,その後の取引の過程において違法な
取り扱いを受けるなど,一連の不法行為によって,損害を受けたとして,民法
709条又は715条に基づいて,被告に対し,その賠償(付帯請求は,取引
終了日である平成11年4月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金である。)を請求した事案である。
1争いのない事実
(1)原告は,昭和4年1月18日生まれで,被告との間で商品先物取引を行
,。
うまでは商品先物取引の知識・経験を持っていない新規委託者であった
(2)被告は,東京工業品取引所,東京穀物商品取引所等の商品取引員であっ
て,商品取引所法に基づく金その他の商品についての商品取引市場におけ
る売買並びに取引の受託等の業務を行っている株式会社である。
また,原告との関係では,被告岡山支店が取引を行っており,A,B,
C及びD(以下「D」という)は,被告の従業員である。

なお,被告は,東京メディクス株式会社の商号で設立され,平成7年5
月1日,国際トレーディング株式会社と商号変更を経て,平成11年8月
2日,現在の商号となった。
(3)原告は,被告との間で,東京工業品取引所における売買取引の委託契約
を締結し,平成9年11月17日から平成11年4月20日までの間,原
告名義で,別紙建玉分析表記載のとおりの,金,銀,ゴム,パラジウム及
び白金の商品先物取引を行った(この一連の取引を総称して,以下「本件取
引」という。


原告は,本件取引に際し,現金2762万2000円及び株式627万
9097円相当を支払い(以上合計3390万1097円,取引上の損

失が1152万5600円,委託手数料が1562万3800円,取引税
が1万9468円,消費税が78万1184円となり,595万1045
円の返還を受けた(返還を受けた金額を差し引くと,原告の支出は,27
95万0052円となる。


2主たる争点
(1)被告の責任の有無
ア原告の主張
(ア)被告従業員らは,各自役割分担の上,共謀し,先物取引の形態を利
用したいわゆる「客殺し」の手口,すなわち,以下のとおり,商品取
引所法,同法施行規則,受託等業務に関する規則,旧受託契約準則,
旧取引所指示事項及び取引所定款に定める禁止事項等に違反する行為
を重ねた。
①説明義務違反
商品先物取引の新規勧誘に当たっては,商品取引員の社員は,その
仕組み,その特徴,さらにはその危険性の存在と程度をわかりやすく
説明し,顧客の十分な理解を得なければならない。
しかし,被告従業員らは,原告に対し,商品先物取引の危険性の存
在とその程度について,全く,もしくはほとんど説明することなく,
商品先物取引の有利性を強調した話法によって,原告を勧誘した。
②不適格者に対する勧誘
,,,
被告従業員らは原告には商品先物取引を行うだけの能力がなく
また商品先物取引のごとき極めて投機的な取引に耐え得るだけの十分
な資力もないことを知りながら,強引に,しかも執拗に取引を勧誘し
た。
③一任売買
被告従業員らは,商品先物取引を継続・拡大していく積極的な意思
も能力もない原告に対し,委託証拠金名目で金員を交付させ,原告か
らの指示に基づかず,被告従業員らの思うとおりに原告名義で取引を
行った。
④過度な売買取引・過当取引及び無意味な反復売買・ころがし
被告従業員らは,原告から取引を任されていることを利用して,わ
,,()
ずか1年5か月の間に建ち111回落ち155回合計266回
もの多数回の売買取引を繰り返し,金101枚,銀30枚,ゴム33
0枚,パラジウム379枚,白金1366枚(合計2206枚)もの
大量の売買取引を行うなど,原告名義で過当な取引を継続させ,短日
時の間における頻繁な手数料稼ぎと思われる建て落ちを行った。
⑤断定的判断の提供
被告従業員らは,原告に対する勧誘に際し「取引金額を大きくす

れば利益も大きくなる「絶好のチャンスが到来したので,これま


での損を挽回することができる」などと,取引により利益が生じる

ことが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供した。
⑥両建の勧誘
被告従業員らは,原告の無知に乗じ,有害無益な両建をさせて,原
告の損害を拡大させた。
⑦仕切拒否等
被告従業員らは,原告からの建玉の処分の指示に何度も従わず,原
告からの取引終了と精算金の返還要求を不当に遅延する行為を繰り返
した。
(イ)被告は,前記(ア)の一連の違法な行為を会社ぐるみで行ったのであ
るから,原告に対し,民法709条の不法行為責任を負う。
もしくは,被告が,被告従業員らの使用者であり,被告従業員らは,
被告の事業である商品先物取引の勧誘行為・売買取引について,原告
,,,
に対し前記(ア)の一連の違法な行為を行ったのであるから被告は
原告に対し,民法715条の不法行為責任を負う。
イ被告の主張
否認する。
(2)原告の損害
原告の主張
被告の不法行為により,原告は,次のとおり,合計3074万0052円
の損害を被った。
①取引による実損害2795万0052円
②弁護士費用279万円
第3当裁判所の判断
1争点(1)(被告の責任の有無)について
(1)前記第2,1の争いのない事実,証拠(甲1,2,4ないし7,19な
いし21,29,30,乙1ないし27,29ないし66,68〔枝番含
む,証人B,同C,同D,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下


の事実が認められる。
ア原告は,昭和4年1月18日生まれで,旧制中学校卒業後,昭和22年
10月から昭和39年3月まで,税務署に勤務し,主に賦課関係の事務を
,,,
担当し昭和39年4月から昭和59年まで雨衣類の製造卸会社で経理
総務関係の業務に,その後,美容原材料のディーラー会社で経理,総務関
係の業務に従事し,平成6年に定年退職した者である。また,昭和47年
から平成11年7月まで,鮮魚の卸会社の非常勤取締役として,経理の仕
事をしていた。
,,,,,
そして原告は定年退職後厚生年金を受給しており本件取引当時
,。
上記非常勤取締役としての報酬と併せて月額約20万円の収入があった
原告は,10年以上の間,証券会社を通じて株式の現物取引をし,平成
9年10月ころには,600万円以上相当の多様な業種の株式を所有して
いた。原告は,株式取引において,証券会社からの情報と自らが得た資料
によって,判断し,取引を行っていた。
原告は,本件取引以前には,商品先物取引の経験は皆無であった。
なお,原告は,平成10年4月から平成11年4月までの間,訴外協栄
物産株式会社(以下「協栄物産」という)との間で,商品先物取引を行

っていた。
イ原告は,自己所有の宅地の売却により,平成10年3月ころ,その代金
約3000万円を取得できる予定であったことから,その資金運用を考え
ていたところ,商品先物取引に興味を持ち,比較的有利な取引であると考
え,被告に対して,資料送付の請求をした。
ウ平成9年10月24日,Aは,原告の資料請求を受け,原告に電話をし
,,,,
て商品先物取引の案内をしたところ原告が興味を示したので原告に
「お取引の流れ」と題する商品先物取引により利益が生じる仕組みを具体
例を挙げて説明し,末尾には小さい文字で「尚,上記の値段が逆に動いて
決済した場合差金及び手数料・税金分が損金となります。また,このお取
引は必ずしも元本が保証されているものではありません。相場の変動によ
り損金を生じることもあります。十分にご研究下さい」と記載した書面

(甲4)を含め,商品先物取引に関する資料を送付した。
そして,同月28日,Aは,原告に対し,電話で,商品先物取引の説明
をした。
エ同年11月13日,Aは,原告に電話をして,原告宅の訪問を約束し,
同日午後6時ころ,Bとともに,原告宅を訪問した。
そして,Bは,原告に対し,1時間弱ほど「商品先物取引委託のガイ

ド(乙5)及び「受託契約準則(乙4)などの冊子を示して,商品先
」」
物取引の危険性について,先物取引は利益が保証されているものではない
こと,相場の変動に応じ,当初の委託証拠金では足りなくなる場合がある
こと,商品取引所の市場管理措置により値幅制限や建玉制限があり,指示
に基づく取引の執行ができなくなることがあることを説明し,委託証拠金
・追証拠金の制度,委託手数料,商品先物取引の利益計算,金相場の変動
要因,両建及び難平等の意味等を説明した。
,,()

同月14日原告は自己の責任で取引を行う等の内容の約諾書乙1
()

受託契約準則5条1項の規定による氏名・住所を記載した通知書乙2
及び上記説明を箇条書きにした内容の「先物取引の確認事項」と題する書
面(乙3)に署名をし,自己の判断により取引を開始する内容の「申し出
書」と題する書面(乙29)を手書きで作成して,原告宅に訪問したA及
びBに対し,委託証拠金として30万円を預託した。
そして,同月17日,原告は,被告に対し,金1枚の買建注文をした。
オ同月18日,原告は,被告に対し,被告の「新規契約者の皆様へのアン
ケート」用紙(乙8の1)の,①上記「商品先物取引委託のガイド」及び
「受託契約準則」は今から読むということ,②商品先物取引の仕組みは大
体分かったこと(なお,回答欄には,他に「はい「わからない」があ
,」
る,③売買報告書を確認し,自分の注文と相違があるときは,被告に


申し出ることは分かっていること,④値動きを新聞・ラジオや担当者との
電話連絡で察知していること,⑤値幅制限が商品別にあることは分かって
いること,⑥相場の変動により損益が発生し,元本の保証がないことは分
かっていること,⑦値動きを見て損益の計算が大体できること,⑧委託証
拠金に,本証拠金のほか,追証拠金,定時増証拠金及び臨時増証拠金があ
ることは分かっていること,⑨追証拠金が必要となった場合には,入金も
しくは決済が必要であることは分かっていること,⑩原告は,売買の注文
は担当者と相談して出していることの各該当項目に丸印を記入して,送付
した。
同月25日,これを受けた被告は,原告に対し「商品先物取引委託の

ガイド」及び「受託契約準則」を読むように注意の文書(乙8の3)を送
付した。
カ平成10年1月23日,原告は,被告に対し,委託証拠金として30万
円を預託した。
キ同年3月16日,原告は,被告に対し,被告のアンケート用紙(乙9の
1)の,①注文は,電話で行っていること,②担当者のアドバイスを参考
に注文していること,③社員の接客は普通であること,④担当者とは毎日
連絡を取っていること,⑤売買報告書及び売買計算書は必ず確認している
こと,⑥残高照合書は確認していることの各該当項目に丸印を記入して,
送付した。
ク同月30日,原告は,所有の土地を代金5872万円で売却した。
ケ同月31日,Aは,原告に電話をし,原告の取引状況を説明し,翌日に
利益金の支払いと委託証拠金の預かりを約束した。
同年4月1日,Aは,原告宅を訪問し,同年3月30日までの金とパラ
ジウムの取引による利益金として,48万5130円をリボン付封筒に入
れて,原告に渡し,原告は,Aに対し,委託証拠金として,440万円を
預託した。
コ同月13日,原告は,協栄物産と商品先物取引を行う旨契約をし,同月
14日,協栄物産に対し,委託証拠金として,60万円を預託した。
サ同月19日,Cは,原告が今後取引を拡大する場合,情報の伝達を速や
かにする必要があるため,新規委託者の勧誘も担当しているAよりも自分
,,,
の方が適任であると判断してAから担当を替わることにしAとともに
原告宅を訪問し,その旨伝え,原告の当時の取引状況を説明した。
シ同月20日,原告は,被告に対し,委託証拠金として500万円を,同
月21日,委託証拠金として500万円を預託した。
ス同月23日,被告岡山支店の支店長である原は,原告の預託した委託証
拠金が1000万円を超えたため,原告宅を訪問し,委託者別値洗情報照
会という書面をもとに,原告の建玉の状態,値洗状態,委託証拠金の状態
及び返還可能額などを説明し,その当時,利益が180万円ほど出ている
と話した。
同日,原告は,協栄物産に対し,委託証拠金として,現金262万円及
び578万900円相当の株式を渡した。
セ同月27日,原告は,原告宅を訪問したCに対し,委託証拠金として,
400万円を預託した。
原告は,この日の日記に「午後から貴金属の商品価格に対応するため

証拠金五百万調達のため,トマト,中銀,郵便局と廻り,四百万,それに
利益金の中から百万を廻し,やっと調達できる。郵便局,トマトともに預
金残が赤になっているので早い機会に解消するようにしたい」と記入し

ている。
なお,原告は,同日,被告に対して,白金及びパラジウムについて両建
になる注文をした。ただし,パラジウムの取引は,途転でもあるため,後
記ニのとおり,両建ではなく,途転と評価される。
,,,
ソ同年5月1日にCは銘柄取引の委託証拠金の引き上げがあったため
追証拠金を預託しなければならなくなったので,原告に電話をし,その旨
話したところ,原告は,Cに対し,株式でもよいかどうか聞いた。
同月6日,Cは,原告に電話をして,市況が悪く,委託証拠金に不足が
生じるので,建玉していたパラジウムの処分を勧め,原告は,Cに対し,
パラジウム22枚の売却処分を依頼した。
原告は,この日の日記に「国際トレーディングのC氏より資金不足の

対策のため,パラジューム22枚を損を覚悟で売る。つゝ一杯の売買枚数
に限界を感ずる」と記入している。

同月8日,原告は,被告に対し,委託証拠金として,現金180万円及
び株式を預託した。
同月11日,原告は,日記に「商品市況も冴えず。C君との取組みに

不安を感ずる。馬が会いそうにない」と記入している。

同月18日,原告は,Cからの電話に対し,取引の量を減少させるよう
指示した。また,原告は,この日の日記に「臨時積増の件でC氏よりt

elあり。対策を・る。取引の量を少なくする以外には解決の見通し無
し」と記入している。

同月19日,Cは,原告宅を訪問した。また,原告は,この日の日記に
「午後六時前C氏来宅。今後の対策を打ち合せる」と記入している。

同月23日,Cは,原告宅を訪問した。また,原告は,この日の日記に
「C氏が株券の預り証を持参する。こんかぎりの苦情を言う」と記入し

ている。
同月24日,原告は,この日の日記に「商品相場の裏目のダメージが忘
れようとしても忘れられずC氏のやり方に腹が立つ」と記入している。

同月26日,原告は,この日の日記に「パラジューム昨日は調子よく売
却意向なるも,Cは,まだ早いとのこと。売って,下り出したら売建をす
べきと意向を出したが,結果は値下がりし益は無し」と記入している。

同年6月2日,原告は,この日の日記に「プラチナの売場面が来たよう
だが,C君がいないと誰も連絡がない。翌日の日経を見てわかるようなこ
とで,不親切な企業である」と記入している。

同月4日,原告は,Aに電話をした。原告は,この日の日記に「国際ト
レーディングのA君にtelし,文句を云う。対応がまずいというか,他
,。。

人事のような感触で何とも腹立たしく思うプラチナ50枚処理する
と記入している。
同月5日,原告は,この日の日記に「Aが予想するプラチナ価格は当た
らず,いかにいいかげんか判る」と記入している。

同月9日,原告は,この日の日記に「昨日売った白金一日早く裏目と出
る。毎回云われて応じたことが当たったことなし」と記入している。

同年7月23日,原告は,被告に対し,委託証拠金として,178万円
を預託した。
同年8月4日,原告は,この日の日記に「先週金曜日にプラチナ50枚
買ったが思惑はずれで今日は損切りして売る。今日もCにだまされた」

と記入している。
同月12日,原告は,被告に対し,委託証拠金として,133万円を渡
した。また,原告は,この日の日記に「トマト,中銀・・と廻り預金引

出す。国際トレーディングの追証1330千円,正午にAが受取に来る。
方針として,国際との取引は縮少させる」と記入している。

タ9月3日,原告は,被告に対し,200万円の返還を求める残高照会の
回答書(郵便はがき。乙13)を送付した。
同月11日,原告は,原告宅を訪問したCに対し,相場の状況次第では
新たに建玉を行う考えであるとして,上記200万円の返還を撤回する旨
の確認書と題する書面(乙14)を作成し,上記200万円の返還の申出
を撤回した。また,原告は,この日の日記に「国際のC氏来宅。返還金額
を来月までのばしてほしいとのこと「相場は多少軟調気味」と記入し

」。
ている。
チ10月3日,原告は,被告に対し,400万円の返還を求める旨記載し
た残高照会の回答書(郵便はがき。乙16)を送付した。
ところが,同月8日,原告は,原告宅を訪問したCに対し,相場の状況
次第では,新たに建玉を行う考えであるとして,上記400万円の返還を
撤回する旨の取下書と題する書面(乙17)を作成し,上記400万円返
還の申出を撤回した。また,原告は,この日の日記に「午後3時にC氏来
宅。株式請求書,取下書を渡す。同時刻にE氏来宅。現金百六拾万渡す。
相場の方は円が急騰して貴金属金品目ストップ安となる」と記入してい

る。
ツ同月26日,Dは,原告宅を訪問して,委託者別値洗情報照会という書
面をもとに,原告の取引状況等を説明した。
同年12月4日,C及びDは,原告に電話をし,Dは,原告の当時の取
引状況を説明し追証拠金を請求したまた原告はこの日の日記に商
,。,,「
品相場が思わしくなく追証に追い込まれる。手じまいをするか,追加出金
するかの選択。手じまいすれば損が確定。最後の手段として,aのFに無
理を言い,資金五百万円借りることにする。食欲なく,眠ることもままな
らぬ。このままの状態が続けば体がもたない」と記入している。

同月14日,原告は,この日の日記に「相場低迷で心配していた国際ト
レから追証の必要性が迫ったとのことで,資金調達に頭を痛める,Gに無
理を云い百万円は借りられる見込がつき,後は自分で都合をつける。これ
で追証の心配は無くなったが,今後の見通しは暗い」と記入している。

同月17日,原告は,この日の日記に「午後三時過ぎにGに行き,金百
万円を借りる。この年になって借金せざるを得なくなったことを情なく死
にたい程だ。何としても今のピンチから脱しなければならない」と記入

している。
同月18日,原告は,被告に対し,追証拠金として,202万円を預託
した。
なお,原告は,この年の日記に,補遺として「国際トレにしろ協栄物

産にしろ進められるがままに取引したことが結果が悪く,だまされたよう
な想いだが,だまされた本人がなおつまらなく暗い年末を過ごすことが残
念この上ない。一日も早く解放されたい気持ちだ」と記入している。

テ平成11年1月20日Cが,原告に電話し,金100枚の売玉を建て
るよう伝えた。原告は,Cに対し,大丈夫かと確認し,金を45枚の売玉
を注文した。
ト同年3月11日,原告は,この日の日記に「国際トレーディングに返還
金の・・・依頼していたが,十五日になるとのこと。あれ程いっていても
なかなか返還しようとしない」と記入している。

ナなお,上記一連の取引において,被告従業員らは,原告に対し,ほぼ毎
日電話をしていた。このうち,原告と被告従業員らとの電話は,1日に数
回あることもあり,1回目の電話で原告に状況確認をし,後の電話で受注
したりすることが多かった。また,原告も,平成11年2月ころから,数
回,被告に電話をして,取引の注文をしていた。
ニ本件取引において,特定売買等の回数は,以下のとおりである。
なお,いわゆるチェックシステムとは,特定売買の有無と割合を検討す
るものであるが,特定売買の割合とは,全取引に占める特定売買の割合で
あり,全取引の計算は仕切玉の回数で数え,そして,特定売買の計算は,
1つの建玉が重なる場合は,1回と数えるが,その場合の順位は,直し,
途転,日計り,両建,不抜けの順に計算する。
│建玉回数│落玉回数│直し│途転│日計り│両建│不抜け│
│金│7│7│0│0│0│0│1│
│銀│5│8│0│0│0│0│0│
│ゴム│16│18│0│4│0│4│0│
│パラジウム│39│54│1│8│0│16│2│
│白金│44│68│5│1│1│17│0│
│計│111│155│6│13│1│37│3│
(2)以上認定した事実をもとに検討する。
ア説明義務違反
Aは,原告の勧誘に当たり,事前に資料を送付して,電話で説明した上
で,Bとともに原告宅を訪問し,商品先物取引について説明をし,翌日に
契約を締結しているまた被告はアンケートを実施して原告が商
。,,,,

品先物取引委託のガイド「委託契約準則」をまだ読んでいないことを知

ると,即時にこれらを読むように書面を送付して注意を促している。さら
に,被告従業員らは,何度となく,原告宅を訪問し,原告のその当時の取
引状況等を説明し,また,ほぼ毎日のように原告に電話をして,取引状況
の説明も行っていた。
他方,原告は,税務署に勤務した経験がある上,長年,経理業務を担当
し,被告との取引を開始した平成9年11月14日当時も,会社の非常勤
取締役として経理の業務をしていた。また,原告は,10年以上株式の取
引を主体的に行っており,被告との商品先物取引を最大60万円の委託証
拠金で,約5か月間行った上で,協栄物産とも商品先物取引の委託契約を
締結している。さらに,原告は,商品先物取引の特徴である追証拠金や値
幅制限・建玉制限,委託手数料等について理解をし,商品の値動きを見て
損益の計算ができたことが認められる。しかも,本件取引は,原告が,そ
れまで行っていた株式取引よりも,より利益を得られる資金運用であると
判断して,被告に対し,資料を請求したことがきっかけで始まったもので
ある。
以上からすれば,Aが送付した「お取引の流れ」と題する書面には,利
益の生じる仕組みが具体例を挙げて説明され,危険性については小さな文
字で記載されているにすぎず,商品先物取引の利益面が強調されているこ
と等の事情を考慮しても,原告が被告と委託契約を締結し,商品先物取引
を開始する上で,被告従業員らの説明が不十分であったとは認められない
し,それに対する原告の理解に不足があると認めることもできない。
なお,Aは,平成10年4月1日に,原告に対し,リボン付封筒で,利
益金を手渡しているが,この利益金は,原告の取引によって実際に得られ
たものであること,前日に電話で原告と利益金の支払について話をしてい
ることからすれば,Aが原告との取引拡大を目的としたものとはいえ,未
だ社会通念上許される範囲の営業活動であると認められ,原告の商品先物
取引についての理解に対し,重大な誤信を生じさせるものとはいえない。
よって,被告従業員らに説明義務違反は認められない。
イ不適格者に対する勧誘
原告は,税務署に勤務した経験がある上,長年,経理業務を担当し,被
告との取引を開始した平成9年11月14日当時も,会社の非常勤取締役
として経理の業務をしていた。また,原告は,10年以上株式の取引を主
,,
体的に行っており被告との商品先物取引を最大60万円の委託証拠金で
約5か月間行った上で,協栄物産とも商品先物取引の委託契約を締結して
いる。さらに,原告は,商品先物取引の特徴である追証拠金や値幅制限・
建玉制限,委託手数料等について理解をし,商品の値動きを見て損益の計
算ができたことが認められる。しかも,本件取引は,原告が,それまで行
,,
っていた株式取引よりもより利益を得られる資金運用であると判断して
被告に対し,資料を請求したことがきっかけで始まったものであり,原告
が,被告と委託契約を締結したのは,Bから商品先物取引の説明を受けた
当日ではなく,翌日である。また,原告は,平成10年3月30日,所有
の土地の売買により,5000万円以上の収入を得ている。
以上からすれば,原告が本件取引以前に商品先物取引の経験がないとは
いえ,原告に先物取引を行うだけの能力及び資力がないとはいえず,被告
従業員らが原告に上記のような能力及び資力がないことを知りながら執拗
かつ強引に取引の勧誘を行ったと認めることはできない。
よって,被告従業員らに不適格者に対する不当な勧誘は認められない。
ウ一任売買
原告は,本件取引において,値動きを新聞やラジオ,担当者との電話連
絡で把握し,担当者のアドバイスにより,注文していた。また,原告は,
株式取引においては,証券会社からの情報に併せて,自らが得た資料によ
って判断し,行っていた。さらに,原告は,被告から送付された売買報告
書,売買計算書及び残高照合書を確認していた。そして,本件取引におい
て,被告従業員らは,原告に対し,電話で,取引状況について相談をした
上で,別の電話で注文を受けていたし,原告も,被告に電話をして,取引
の注文をしていたこともある。しかも,原告の日記によれば,平成10年
5月ころから,被告従業員らに対する不満が記載されており,被告従業員
らに批判的であったことが認められるから,原告が,全く被告従業員らの
いいなりになっていたと認めることはできない。
以上からすれば,被告従業員らが,原告の指示に基づかず,被告従業員
らの思うとおりに原告名義で取引を行ったとは認められない。
よって,被告従業員らが一任売買を行ったとは認められない。
エ過度な売買取引・過当取引及び無意味な反復売買・ころがし
,(,,,,)
本件取引全体について特定売買直し途転日計り両建不抜け
の比率は,約38.7パーセント,月平均仕切数である月間回転率は,約
9.1回,委託手数料の合計額は,損金の約55.9パーセントに達して
いる。
この点,農林水産省や通産省では委託者保護のために通達を出し,商品
取引員に対し,顧客ごとに特定売買の比率を20パーセント以下,月間回
転率3回以内,損金に対する委託手数料の比率を10パーセント以下とす
るよう指導していたことが認められる。
もとより,上記通達は,商品取引員の受託業務の適性化を直接の目的と
するものであり,商品取引員やその営業担当者と顧客間の個々の受託業務
を規制するものではない。
しかし,その趣旨が顧客の利益を犠牲にした手数料稼ぎを防止し,それ
によって,受託業務の適正化を図ることにあること,上記各種の特定売買
は,一般に顧客に手数料の負担を生じさせるばかりでその利益につながら
ない取引の類型に属すること,委託手数料の損金比率も取引途中において
は必ずしも合理的な取引の指標とはならないものの,顧客に取引全体から
生じた損失の要因を観察,評価する上では,有効な指標になることからす
れば,一定期間の取引を全体的に観察し,特定売買比率,月間回転率及び
委託手数料の損金比率が,いずれも通達の示す数値基準を超えて,異常に
高いときは,特段の事情がない限り,商品取引員が,顧客の利益を犠牲に
して,全体として手数料稼ぎを目的として取引を行ったと推認することが
できるといえる。
そこで検討するに,本件取引における特定売買比率,月間回転率及び委
託手数料の損金比率は,いずれも上記通達の示す数値基準を大きく超えて
いる。
しかし,原告は,10年以上株式取引を主体的に行い,平成9年11月
当時,600万円以上相当の多様な業種の株式を所有していたことや,商
品相場の値動きを見て損益の計算ができていたこと,被告が送付した売買
報告書及び計算書を確認していたこと,原告は,被告従業員らから,電話
で取引状況の説明を受けた上で,別の電話で注文をしたことが多かったこ
とからすると,原告は,委託手数料について理解しており,その上で,本
件取引を行っていたことが認められる。
そして,平成10年5月以降,原告は,被告従業員らに対する不満を日
記に記入しており,被告従業員らの言うがままになっていたとは認められ
ないこと,被告従業員らは,何度となく,原告宅に行き,状況説明及び今
後の方針を打ち合わせていること,特定売買のうち,直し,途転及び日計
りは,相場の動きにより意義があること,両建も後記カのように,特段の
有益性はないが,必ずしも有害ではなく,意義もないではないこと,本件
取引においても,上記理由により特定売買が行われたと認められることか
らすれば,上記のとおり,本件取引は,原告の判断によって行われたもの
で,これが,被告従業員らの手数料稼ぎを目的とした行為によるものと推
認することは相当でない。
よって,本件取引において,過度な売買取引・過当取引及び無意味な反
復売買・ころがしによる違法行為があったとは認められない。
オ断定的判断の提供
原告は,10年以上株式の取引を主体的に行っていたもので,被告との
商品先物取引を最大60万円の委託証拠金で,約5か月経た上で,協栄物
産とも商品先物取引の契約を締結しており,全てを被告に任せるのではな
く,他の会社とも取引をすることで,被告との取引を比較検討し,また,
。,,
予想外の損失を回避しようとしていたことが認められるさらに原告は
,,,
商品先物取引は相場の変動に応じ当初の委託証拠金では足りなくなり
追証拠金が必要となることを理解していたことが認められる。しかも,平
成10年5月以降,原告は,被告従業員らに対する不満を日記に記入して
おり,被告従業員らの言うがままになっていたとは認められない。
以上からすれば,仮に被告従業員らが,取引により利益が必ず生じると
いうような発言をしたとしても,原告がそれにより必ず利益を得られると
誤信したと認めることはできず,また,被告従業員らが,社会通念上許容
される範囲を超えて,上記のような発言をしたと認めることはできない。
よって,被告従業員らに断定的判断の提供があったとはいえない。
カ両建の勧誘
両建とは,既存の建玉について仕切る代わりに,この既存玉に対応する
同一商品の反対の玉を新たに建てることをいう。
両建は,通常,既存玉に評価損が生じ,追証拠金等の問題が発生してい
る段階においてなされるところ,以下のとおり,理論上,両建をすること
で,特別な売買利益が得られることはない。
すなわち,両建は,既存玉に予想外の相場変動があり,評価損が生じて
いる場合に,両建をすれば,その商品に相場の変動が生じても,双方の建
玉に同額の損失と利益が生じ,それらが相殺されるため,両建をした時点
。,,
の既存玉の損失が固定されるその後予想できる相場の動きに合わせて
一方の建玉を仕切り,さらに,残りの建玉を仕切ることで,上記の固定さ
れた損失を解消すれば,結果的に利益を出すことになる。しかし,両建を
する場合にも,委託手数料及び委託証拠金が必要となるから,両建をしよ
うとする時点で,仕切清算をして損失を確定し,両建をしていた場合に両
建をはずそうと予測した時点と同じ時点で,新たに建玉をすれば,両建を
した場合と同じ利益を得ることができるため,両建をすることによって,
損切りし新たな建玉をする以上に,売買利益を得られることはないし,か
えって,決断を強いられる時期が早まるという不利益などもある。
他方,既存玉を仕切ることで,その損失が大きい場合,追証拠金が必要
となるから,上記両建に必要な委託証拠金を上回る追証拠金が必要な損失
が生じている場合には,両建をすることで,追証拠金の支払が猶予される
という利益がある。
以上からすれば,両建をすることは,特段の有益性はないが,必ずしも
有害ではなく,意義がないではないと認められ,かつ,本件取引当時,両
,,
建をすることが法的に規制されていたものではないから被告従業員らが
原告に両建を勧誘したこと自体が違法であると認めることはできない。
キ仕切拒否等
前記(1)のとおり,平成10年9月3日,原告は,被告に対し,200
万円の返還を求める残高照会の回答書を送付し,また,同年10月3日,
,。
被告に対し400万円の返還を求める残高照会の回答書を送付している
これらに対し,同年9月11日,Cが,原告宅を訪問し,原告に対し,
返還を来月までのばしてほしいなどと申し向けたことから,原告は,返還
を撤回する旨の書面を作成し,返還の申出を撤回した。また,同年10月
8日,Cは,原告宅を訪問し,原告は,前同様の返還を撤回する旨の書面
を作成し,返還の申出を撤回している。
この点,原告の被告従業員らに対する批判的な態度及び原告の商品先物
取引に対する理解の程度からすると,原告の返還の申出に対して,被告従
業員らが原告の申出に一切応じないなどの対応をしたとは認められず,未
だCが原告に対して返還申出の撤回を要求したことが,社会通念上許され
る範囲を超えた営業行為であったと認めることはできない。
また,その他,被告従業員らに,原告からの建玉の処分の指示に従わな
かったという事実を認めるに足る証拠はない。
よって,被告従業員らに仕切り拒否は認められない。
(3)以上のとおり被告従業員らには,本件取引において,不法行為と構成す
,,,
るだけの違法な行為があったとは認められないから被告は原告に対し
不法行為責任を負わない。
2したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費
用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官小野木等
裁判官政岡克俊
裁判官永野公規
(別紙省略)

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