弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人大島正恒の控訴趣意は別紙のとおりであつてこれに対し次のとおり判断す
る。
 論旨第一点について
 <要旨>訴因とは法律的に構成せちれた特定の犯罪事実をいうわけであるから、訴
因の同一性は結局その法律的構成と社会現象としての行為の同一性とに帰す
るわけである。而して一般に社会現象を特定するのに日時、場所及び方法を以て綜
合的に説明した場合、その説明中の或る事項について変更を加えたとしても、これ
を以てすべて直ちにその対象そのものが変更されたものと解すべきものでないこと
は言うまでもないことであつて、これを対象そのものの変更と見るか或いは同一対
象に対する単なる説明上の補正に過ぎないものと見るかは一に社会通念によつて決
められねばならないわけである。従つて訴因についての変更の有無も亦この規準に
よつてのみこれを判断すべきものであることは明白である。
 記録によるに、本件起訴状の第一事実は「被告人は昭和二二年四月一八日東京都
台東区a町合資会社Aに於てBに対し並厚透明A印一、七粍以上二粍以下の板硝子
三〇箱をその指定卸売業者統制額一箱当五〇六円三〇銭より超過せる代金一八万円
にて販売した」というのであるが、被告人はこれに対し原審冐頭において「右販売
の相手方がBとあるのはAの誤である」と述べ次で証人Bも亦、原審において右取
引は同人個人としてなしたわけではなく合資会社A資材部長として同Aのためなし
たものであると述べたため、その後検察官はこれに応じ原審に促されて右相手方を
被告人の自認どおりに訂正し原審はこれについて被告人及び弁護人に別に異議がな
いことを確めた上原判決においては右相手方を右Aと認定したものであることが認
められる。
 よつて、右の訴因と判決認定事実との間の差違について検討するのに、その日
時、場所及び取引物件価格、事実上の当事者はすべて同一であつて、その変更せら
れたのは単に右事実上の当事者であるBが個人としてこれに当つたか又は右合資会
社の資材部長としてこれに当つたかの点だけに過ぎないことが分明である。従つて
これを社会通念に照らすときはその示されている行為は当初から一個のものであつ
て実質的に何の変更もあつたわけではなく、たゞその具体性を説明する事項に関す
る補正が行われたにとどまるものと解することができる。それ故に、本件について
は所論のように訴因の変更は認められないわけであり、又もとより所論のように原
審が審判の請求を受けない事件について判決をしたわけのものでもないわけであ
る。しかも、右の補正は前述のとおりの経緯によつてなされたものであるから、こ
れによつて被告人の防禦権の行使は少しも妨げられたわけではなく、従つて原審の
訴訟手続にはこの点についての違法も亦全く認めることができない。論旨は理由が
ない。
 同第二点について
 本件起訴の第一事実は前記のとおりであつて、これに対し原判決が右硝子のA印
とあるのをA印であるか無印であるかの別は不明と記した上これに高価であるA印
の統制額を適用していることは所論のとおりである。しかし、右原判決の記載は正
確を期して却つて幾分不明瞭に陥つた嫌がなくはないが、その意味をよく考えれば
原審はとりもなおさず疑わしきを被告人の利益に解する原則に従いA印と無印との
二種以外にない本件板硝子中被告人に有利なA印を販売したものとして事実を認め
これにその統制額を適用したものであることが分かる。従つて原判決は結局この点
において何も起訴状の記載を変更したものではない。又仮りに所論のように何かの
変更がなされたとしてもそれは畢竟前述の訴因の具体的説明の補正の範囲を出ない
ものであるから訴因そのものの変更ではなく又記録によつてもこれによつて防禦権
の行使を妨げたような事由は少しも発見することができないものであるから、論旨
は結局理由がない。
 同第三点について
 原審において鑑定人Cが所論採用のとおりの供述をしていることは記録上明らか
である。しかし同人の右供述を爾余の部分と共に仔細に検討すれば、同人の意見は
結局正当な業界の伝統を重んずる趣旨を多分に含むものであつて、これがため別の
観点から反対の認定をなすことを妨げるものではないことを理解することができ
る。原審は同人の供述を被告人の本件硝子の仕入及び販売の態様、その数量、建
値、及び当該価格指定告示の建値方式其の他の関係各項にあらわれた同告示に所謂
卸売業者の性格等と併せて考量し一般社会通念に照らして被告人の行為を卸売業者
の行為と認めたわけであつて、右認定は少しも不当ではない。従つて原審には所論
のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
 同第四点について
 本件告示は昭和二五年物価庁告示五六号によつて廃止せられたものであるが、か
ゝる場合が刑訴法三八三条二号に当らないことについては嚢に最高裁判所が昭和二
三年九八〇〇号事件において示しているとおりである。従つて論旨前段は理由がな
い。なお論旨後段については次に判断する。
 同第五点について
 前論旨後段及び本論旨に挙げられた諸点を十分に考量した上記録にもとずいて本
件犯行その他諸般の事情を検討して見るのに、原審の量刑上の措置は所論にもかゝ
わらずこれを過重のものとは認めることができない。論旨は理田がない。
 よつて刑訴法三九六条に則り主文のとおりに判決する。
 (裁判長判事 佐伯顕二 判事 久礼田益喜 判事 仁科恒彦)

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