弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴は之を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 一、 控訴代理人は「原判決は之を取消す。被控訴人は控訴人に対し名古屋市a
区b町c丁目d番宅地四十五坪と同市同区e町f丁目g番宅地百二十四坪四合二勺
の内十五坪三合二勺の名古屋市復興特別都市計画中五工区第三十四ブロツク九の三
地積四十七坪二合五勺地上に同市a区h町f丁目i番地上木造二階建宅一棟一階十
坪二階六坪として届出ある建物現状有姿の全部を収去して該宅地を明渡せ。訴訟費
用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並仮執行の宣言を求め、被控
訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 二、 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用書証の認否は左記に訂正又
は補充する他原判決事実摘示の通りであるからここに之を引用する。即ち、
 (1) 控訴代理人は
 (イ) 原判決三枚目表四行目から五行目にかけて「同第三号証の一」とあるを
「同第二号証」と、同四行目から五行目にかけて「同号証の二(同上)、同第三号
証の一(仮換地指定証明書)とあるを「同第三号証の一(宅地四五坪の証明書)、
同号証の二(宅地三八坪の証明書)」と各訂正する。 (ロ) 亡Aの共同相続人
たる亡B及亡Cはいずれも普通の知覚精神能力を欠きBは妻も子もなく財産管理能
力さへも有していなかつた。又亡Cも身体が弱く独身でBと同じ家で生活し両人共
独立の生活能力を有しなかつたから亡Aからの遺産についても管理は勿論認識能力
も有しなかつた。従つて、亡Bも亡Cも共に亡Bが単独相続したものと誤解する道
理がない。単に親戚のD並その祖父と実父が亡Aの遺産は亡Bが単独相続したもの
と勝手に誤解して頼まれもしない事務管理をなしていたものに過ぎない。仮に誤解
したとしてもそれが亡C等の相続権を侵害したことにならない。けだし、共有者の
一方が共有土地を顧みないために他の一方が之を使用若くは賃貸したとしても特別
の事情がない限り管理行為があるに過ぎず、他の共有者を排除して之を所有する意
思があると認められないからである。
 (ハ) 亡Bの全遺産を相続したとの誤解と親戚の管理と亡Aの死亡後二十年の
経過という事実によつて亡C及その系列のものの相続分たる権利を亡Bが取得すべ
き何等の成法上の根拠はない。民法第八百八十四条(旧第九百九十三条、第九百六
十六条)は単に相続回復請求権行使の条件を定めたもので権利の実体に関係のない
規定であるから之を根拠として亡Bが権利を取得したとなすことができない。
 (ニ) 仮に右主張がいずれも理由がないとしても、本件の場合原判決に控訴人
の主張として記載されてある如く亡B側において二回、亡C側において五回相続が
行われている。そして、相続回復請求権は一身専属のもので相続を侵害させた相続
人が之を行使せずに死亡(隠居も同様に解する。)したときはその相続回復請求権
は当然に消滅しその相続人は之を承継しない。従つて、爾後の相続人は又自己の相
続権が侵害されたことを理由として相続回復請求権を有するに過ぎないものであ
る。それ故本件の場合亡C以下の系列に属する五回の相続人は夫々自己の侵害され
た相続権の回復を請求し得べきものである。(大正七年四月九日大審院判決民録二
四輯六五三頁参照)されば、民法八百八十四条の二十年の消滅時効の起算点は亡C
についてのみ亡Aの死亡によつて相続が開始したと認めねばならないから大正九年
七月三日亡A死亡の時であり、他の爾後の相続人については夫々の相続開始のとき
と考うべきである。そうすると、夫々の相続人については二十年の期間を経過して
いないこと明であるから本件相続回復請求権は消滅しないこと明であると述べ
 (2) 被控訴代理人は
 (イ) 本件建物は明治時代に買受け所有するに至つたものである。
 (ロ) 控訴人の本訴請求の実質は民法第八百八十四条所定の相続回復請求の訴
であるところ、被控訴人はその先先代B以来本件物件を全然Aの全遺産を単独相続
したものとしてその全部を占有管理し使用収益を継続して今日に至つているもの
で、同条所定の相続回復請求権の消滅時効を援用する。
 (ハ) 控訴人主張の(1)記載の事実中Aが大正九年七月三日死亡したので亡
B及亡Cがその遺産相続をなしたことは之を認めるがその余の事実は之を争う。即
ち、亡B及その管理人たるD及その祖父と実父は共同相続人たるCを除外してAの
全遺産をB単独の占有管理下におき昭和十九年六月二十九日右Bが死亡するまで二
十数年の長きに亘り事実上本件不動産を含む全遺産を単独で右Bが使用収益してい
たものである。従つて、右Bの行為によりC及その相続人等の相続財産に対する権
利は侵害されていたものというべきであると述べ
 (3) 控訴代理人は右被控訴人主張事実中(イ)の点を除きその余は之を争う
と述べた。
 (4) 立証として、控訴代理人は甲第五号証の一乃至二十七を提出し、被控訴
代理人は甲号各証の成立は之を認むと述べた。
         理    由
 本件土地が元Aの所有であつたこと、Aが大正九年七月三日死亡したのでC及B
がその遺産相続をなしたことは当事者間に争がない。従つて、C及Bは夫々本件土
地の二分の一づつの持分権を取得したものというべきである。そして、成立に争の
ない甲第五号証の一乃至二十七によればCは大正十一年九月十二日死亡したのでE
がその選定家督相続人として、Eは大正十三年十二月二十六日隠居によりFが指定
家督相続人として、Fは昭和五年七月二十四日隠居したのでGが指定相続人とし
て、Gが昭和十一年十一月十八日隠居したのでHがそれぞれその家督を相続したこ
とHは昭和二十年一月十六日死亡したが家督相続人が選定されなかつたので民法附
則(昭和二二年法律第二二二号)第二五条第二項本文により遺産相続が開始し、二
女I、三女Jが昭和九年九月十三日既に死亡していたのでその子Kが代襲相続人と
して、長男L、三男Mが昭和十四年六月二十九日既に死亡していたのでその長男N
が代襲相続人として、四女O、五女控訴人が夫々遺産相続をなしたこと、一方Bは
昭和十九年六月二十九日死亡したので選定家督相続人Pがその家督を相続しその後
Pは昭和二十年三月三十日頃戦死したので被控訴人がその指定相続人としてその家
督を相続したことが認められる。結局、被控訴人は本件土地につき二分の一の持分
権を、控訴人及前記Hの相続人は二分の一の六分の一即ち十二分の一づつの持分権
を有していることとなる。そして、被控訴人が本件家屋を所有していることは当事
者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証弁論の全趣旨によればBはAの死亡に
より遺産相続があつたことは全然考えたこともなく本件土地を含めてAの全遺産を
家督相続により取得したものと誤解し本件土地を管理使用して来たこと、Bは変体
質者であつたのでその意を受けてDの父及祖父がその補助者として本件土地を管理
使用して来たこと、その後相続人となつたPも被控訴人も本件土地を相続によりそ
の全部の所有権を取得したと信じて本件土地を管理使用して来たこと、被控訴人が
本件土地上に本件家屋を所有するにつき控訴人は勿論その他の前記土地共有者の諒
解を得ていないことが認められ他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 控訴人はBは変体質者で普通の精神能力を欠き単独相続したと誤解する道理がな
いと主張する。そして、Bが変体質者であつたことは前記認定の通りであるが、同
人が控訴人主張の如く意思能力をも欠き単独相続したと誤解する能力がなかつたこ
とは之を認めるに足る証拠はない。
 控訴人は更にBが右の如く誤解したとしても単に他の共有者の管理行為をなして
いたに過ぎないものと主張するが、前記認定の如くB及その相続人はいずれもその
所有権ありと信じ他の共有者たる控訴人等の共有権を認めていなかつたものといわ
ねばならないから右Bは単に控訴人等のためにその共有持分権を管理していたもの
と解することができない。従つて、控訴人の右主張もその理由がない。
 被控訴人は本件は相続回復の訴と認むべきであるが本件相続回復請求権は既に時
効により消滅したと主張する。そして、控訴人の本訴請求は原判決も認める如く控
訴人が本件土地の二分の一の持分権を遺産相続により取得したと主張し、之を根拠
として本件土地につき二分の一の相続分しか有しない被控訴人が控訴人等他の二分
の一の相続分を有する者の承認を得ることなく本件家屋を所有し本件土地を占有し
ているので之が排除を求めるというのであるからその性質は名称の如何に拘らず相
続回復請求の訴であること明である。そうすると、本訴の相続回復請求権の行使に
ついても民法第八百八十四条(本件は旧法時代の案件であるから旧法第九百六十六
条、第九百九十三条を適用すべきであるが現行法第八百八十四条によるも旧法と規
定は全く同様である。)の時効の制限に服すべきこと被控訴人主張の通りである。
そして、本件不動産についてA死亡により相続の開始したこと前記認定により明で
ある大正九年七月三日以降本訴提起の日たる記録上明白なる昭和三十三年一月二十
二日まで優に二十年の期間経過していること明であるから本件相続回復請求権は時
効により消滅したものと認むべきである。
 <要旨>控訴人は本件の如く数次にわたつて相続開始があつたときは夫々の相続人
について夫々別個に二十年の時効期間の起算点を定むべきであると主張す
る。然しながら、相続回復請求権の時効を認めたのは相続に関する紛争をあまり長
期に持越さないという趣旨に出づるものであるから時効の起算点も当初に相続の開
始ありたるときと解すべきである。(控訴人は大審院判例をあげてその主張の根拠
となしているが、右判例は本件の場合の時効の起算点を判示した判例と解せられな
いのみならず、時効の起算点に関する判例としてはむしろ昭和二十三年十一月六日
最高裁判所判決民集二巻三九七頁が参照さるべきである。)
 尚、控訴人は被控訴人が本件土地について権利を取得すべき成法上の根拠はない
というが、被控訴人が本件土地全部の所有権を取得したかどうかは別として相続回
復請求権が時効消滅した以上本訴請求が理由のないこととなることは当然である。
 そうすると、被控訴人の取得時効の主張について判断するまでもなく控訴人の本
訴請求は失当として棄却すべきである。
 以上の理由により控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、之と同趣旨の原判
決は正当であるから本件控訴を棄却し、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、
第九十五条を適用し主文の如く判決する。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 奥村義雄)

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