弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
 原判決中、上告人の請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を名古屋高等
裁判所に差し戻す。
 上告人のその余の上告を棄却する。
 前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊藤誠基、同石坂俊雄、同村田正人、同福井正明の上告理由第一点な
いし第三点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
 同第四点について
 一 原審の確定したところによれば、(一)亡Dは、第一審判決添付物件目録記
載の各不動産を所有していた、(二)Dは、平成二年一〇月二七日に死亡し、同人
の妻E並びに上告人及び被上告人を含む四人の子がこれを相続したが、Dの遺産に
ついての分割協議は未了である、(三)同物件目録記載(一)の土地(以下「本件
土地」という。)は、Dの死後畑として利用されていたが、被上告人が、本件土地
上に家屋を建築する目的で、平成五年四月ころから同年七月ころまでの間、本件土
地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行った結果、その地平面が北側
公道の路面より二五センチメートル低い状態にあったものが右路面より高い状態と
なり、非農地化した、というのである。
 二 上告人の本件請求は、本件土地の共有持分権に基づく妨害排除として、本件
土地につき、北側に隣接する公道の路面より二五センチメートル低い地平面となる
よう本件土地上の土砂を撤去する方法により、原状回復する工事をすることを求め
るものであるところ、原審は、被上告人は、本件土地につき相続による共有持分(
八分の一)を有しており、共有者として本件土地を使用する権原があるから、上告
人が被上告人に対して共有持分権に基づく妨害排除請求権を行使し得るいわれはな
いとして、上告人の本件請求を棄却すべきものと判断した。
 三 しかしながら、原審の右判断は、直ちにはこれを是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあるい
はこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者
は、各自の共有持分権に基づいて、右行為の全部の禁止を求めることができるだけ
でなく、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除
き、右行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めること
もできると解するのが相当である。けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づい
て、共有物全部につきその持分に応じた使用収益をすることができるのであって(
民法二四九条)、自己の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有
者によると第三者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求を
することができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為
を相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為は、
共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権を侵害する
ものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されない(
民法二五一条)からである。もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及
びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比
等に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の
状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来にお
ける分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共有持
分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その請求が許さ
れない場合もあることはいうまでもない。
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件土地は、遺産分割前の
遺産共有の状態にあり、畑として利用されていたが、被上告人は、本件土地に土砂
を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地化したというので
あるから、被上告人の右行為は、共有物たる本件土地に変更を加えるものであって、
他の共有者の同意を得ない限り、これをすることができないというべきところ、本
件において、被上告人が右工事を行うにつき他の共有者の同意を得たことの主張立
証はない。そうすると、上告人は、本件土地の共有持分権に基づき、被上告人に対
し、右工事の差止めを求めることができるほか、右工事の終了後であっても、本件
土地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、上告人の
本件請求が権利濫用に当たるなどの特段の事情がない限り、原則として、本件土地
に搬入された土砂の撤去を求めることができるというべきである。
 四 そうすると、被上告人が本件土地につき共有持分権に基づく使用権原を有し
ているとの一事をもって、上告人からの共有持分権に基づく本件請求を棄却すべき
ものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判
決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はその趣旨をいうものとして理
由があり、原判決中、上告人の本件請求を棄却した部分は破棄を免れず、本件にお
いては、前記説示に照らして本件請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要があ
るため、右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。
 以上のとおりであるから、原判決中、上告人の本件請求を棄却すべきものとした
部分を破棄して、右部分につき本件を原審に差し戻すこととするが、上告人のその
余の上告は理由がないから、これを棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    元   原   利   文
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    金   谷   利   廣

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