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平成26年3月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第36583号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年1月23日
判決
東京都葛飾区<以下略>
原告株式会社セベル・ピコ
同訴訟代理人弁護士堀裕一
桃尾俊明
福田隆行
同訴訟代理人弁理士丸山真幸
同訴訟復代理人弁理士伊丹勝
同補佐人弁理士佐藤雄哉
甲府市<以下略>
被告株式会社明星宝飾
同訴訟代理人弁護士土橋順
同訴訟代理人弁理士土橋博司
千葉県船橋市<以下略>
旧商号ムーンライトジャパン株式会社
被告補助参加人LAXMI株式会社
東京都千代田区<以下略>
被告補助参加人有限会社ジュノー
同訴訟代理人弁護士寒河江孝允
主文
1被告は,原告に対し,4657万8831円及びこ
れに対する平成23年12月17日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,第1項に限り,仮に執行することがで
きる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「装身具用連結金具」とする特許権についての独占
的通常実施権を有する原告が,被告が販売する別紙物件目録記載の製品(以
下「被告製品」という。)が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,そ
の販売が原告の独占的通常実施権の侵害に当たると主張して,被告に対し,
独占的通常実施権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた事案で
ある。
1争いのない事実等(各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認定することができる事実を含む。)
(1)当事者等
原告は,装身具等の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
被告は,貴金属製品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
被告補助参加人LAXMI株式会社は,装身具類の輸出入及び販売等を
目的とする株式会社であり,補助参加人有限会社ジュノーは,真珠・宝
石・貴金属・装身具の卸等を目的とする特例有限会社である。
(2)原告の独占的通常実施権(甲1,4~6)
ア株式会社ジュエルパーツ・ピコ(昭和55年1月31日の商号変更前
の商号は株式会社セベル・ピコ。以下「出願人」ということがある。)
は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を
「本件特許」,平成19年9月3日付け手続補正書による補正後の特許
出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。本件
明細書の図面の一部は別紙「明細書図面」のとおりであり,本件明細書
の図面はその番号に応じて「図1」などという。)を有しているとこ
ろ,平成12年2月1日,原告のために独占的通常実施権を許諾した。
特許番号特許第4046170号
発明の名称装身具用連結金具
出願日平成11年5月11日(特願平11-13068
2)
登録日平成19年11月30日
イ平成19年9月3日付け手続補正書による補正後の本件特許に係る特
許請求の範囲の請求項9の記載は,次のとおりである(以下,当該発明
を「本件発明」という。また,以下において「特許請求の範囲」という
場合には,上記補正後のものをいう。)。
「【請求項9】先端に先細状の頭部を形成し,該頭部の後方には係合
溝部を設け,後端には装身具との接続環部を備えた棒体からなるオス
金具と,箱型の下面全体が開口され,一端面には前記オス金具の挿入
口及び該挿入口の内側における内部底面には前記オス金具の外径にほ
ぼ一致する二枚の立て板を突設して案内部を形成し,逆端には装身具
との接続環部が形成された蓋体の内側に,一端面に前記オス金具の係
止凹部を形成した係止レバーを,閉方向に付勢する略コの字状のコイ
ルばねの両側部を支軸に巻装して配設すると共に,該係止レバーが前
記蓋体内で枢動可能に取付けられたメス金具とから構成されることを
特徴とする装身具用連結金具。」
ウ本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成
要件を「構成要件A」などという。)。
A先端に先細状の頭部を形成し,該頭部の後方には係合溝部を設け,
後端には装身具との接続環部を備えた棒体からなるオス金具と,
B-1箱型の下面全体が開口され,一端面には前記オス金具の挿入口
及び該挿入口の内側における内部底面には前記オス金具の外径にほぼ
一致する二枚の立て板を突設して案内部を形成し,逆端には装身具と
の接続環部が形成された蓋体の内側に,
B-2一端面に前記オス金具の係止凹部を形成した係止レバーを,閉
方向に付勢する略コの字状のコイルばねの両側部を支軸に巻装して配
設すると共に,該係止レバーが前記蓋体内で枢動可能に取付けられた
メス金具と
Cから構成されることを特徴とする装身具用連結金具
(3)被告の行為
被告は,平成21年2月23日から平成22年12月3日までに被告製
品を10万0034個販売した。
(4)被告製品の構成等(検甲2)
被告製品の構成は,別紙「被告製品の構成」及び「被告製品の構成図」
記載のとおりであり,構成要件Aを充足する。
(5)原告と被告の間の別件訴訟(甲33)
原告は,本件訴訟の係属中に,被告製品は原告が独占的通常実施権を有
する特許権(特許第3952250号。甲26。以下「別件特許権」とい
う。)に係る特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下
「別件発明」という。)の技術的範囲に属するとして,被告に対する損害
賠償請求訴訟(東京地方裁判所平成24年(ワ)第36255号。以下
「別件訴訟」という。)を提起し,原告と被告は,平成25年5月21
日,訴訟上の和解(以下「別件和解」という。)をした。
別件和解の和解条項には,①被告が原告に解決金600万円を支払う
こと,②原告及び被告は,本件特許の独占的通常実施権侵害に基づく損
害賠償債務の存在及びその額が判決,請求認諾又は裁判上の和解により確
定した場合には,上記解決金を上記損害賠償債務に,元本,遅延損害金の
順に充当すること,③別件訴訟に関する清算条項が含まれている。
2争点
(1)被告製品が構成要件B及びCを充足するか(争点1)
(2)本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)
(3)被告が賠償すべき損害額(争点3)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(被告商品が構成要件B及びCを充足するか)について
(原告の主張)
ア構成要件Bの文言侵害
(ア)構成要件B-1「挿入口」
被告製品の蓋体25の凹部30は底体27の係止凹部26と共にオ
ス金具10の進入口となる開口を形成し,蓋体25の内部に形成され
た誘導口21は蓋体25の凹部30と一体連続となっている。このよ
うに,被告製品の蓋体25の凹部30及び誘導口21にかけての構成
(挿入部)は,一体としてオス金具10をメス金具20内に挿入させ
るための穴状の挿入部として機能しているから,蓋体の一端面の「挿
入口」に当たる。
(イ)構成要件B-1「二枚の立て板」
特許請求の範囲の記載は,「二枚の立て板」の間に穴部が形成され
るか否かについては何ら規定していないから,「二枚の立て板」の間
に誘導口を設ける構成を排除していない。
被告製品の二枚の立て板22は蓋体25の内部底面に突設され,蓋
体25の凹部30及び誘導口21と共に案内部を形成しているから,
被告製品の二枚の立て板22は,「二枚の立て板」に当たる。
(ウ)構成要件B-2「係止レバー」
特許請求の範囲の記載によれば,「係止レバー」は,一端面に前記
オス金具の係止凹部を形成し,閉方向に付勢する略コの字状のコイル
ばねの両側部を支軸に巻装して配設し,前記蓋体内で枢動可能に取付
けられたものとしか規定されておらず,棒状のものに限定されないと
ころ,被告製品の底体27は上記の構成を有するから,「係止レバ
ー」に当たる。
(エ)被告製品は,構成要件B-1及びB-2のその余の文言も充足す
るから,被告製品は構成要件Bを充足する。
イ均等侵害
構成要件B-1の「挿入口」を蓋体の内部に形成された穴である誘導
口の構成又は蓋体の凹部と底体の係止凹部により形成された開口部の構
成に置換し,構成要件B-2「係止レバー」を底体に置換することは,
以下のとおり,本件発明と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属
する。
(ア)構成要件B-1「挿入口」
オス金具がメス金具に進入する際の機構を蓋体の一端面に形成され
た周囲が閉じられた穴の形状にすることは,従来の連結具が備える構
成であり(本件明細書の段落【0002】~【0005】,図1及び
2),「挿入口」が蓋体の一端面に設けられた穴であることは,本件
発明の本質的部分ではないから,均等の第1要件を充足する。
蓋体の一端面に形成された穴の形状の構成を,蓋体の内部に形成さ
れた穴である誘導口の構成又は凹部と係止凹部により形成された開口
部の構成に置換することは可能かつ容易であり,均等の第2要件及び
第3要件を充足する。
被告製品は,蓋体の内部に誘導口が形成されたもので本件明細書の
第二実施例に相当するものではないから,第二実施例の存在を理由と
して,被告製品が本件発明の技術的範囲から意識的に除外され均等の
第5要件を欠くとの被告の主張は失当である。
(イ)構成要件B-2「係止レバー」
本件発明の課題及び実施例に関する本件明細書の記載(段落【00
06】,【0023】)によれば,本件発明の「係止レバー」は,オ
ス金具のスムーズな進入を許容した後,オス金具の係合溝部と係合す
ることにより,オス金具とメス金具とを連結させるという機能を有す
ればよく,その形状が棒状であるか否かは本件発明の本質的部分では
ないから,均等の第1要件を充足する。
底体の構成は「係止レバー」と同一の機能及び作用効果を奏する
し,本件明細書の第一~第六実施例及び第八実施例には,底体を「係
止レバー」と同様の機能及び作用効果を有する構成として用いたメス
金具が開示されているから,「係止レバー」を底体に置換することは
可能かつ容易であって,均等の第2要件及び第3要件を充足する。
ウ以上のとおり,被告製品は構成要件Bを充足するから,これを前提と
する構成要件Cも充足し,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア文言侵害について
(ア)構成要件B-1「挿入口」
「挿入口」は蓋体の「一端面」に形成されるところ,被告製品の誘
導口21は蓋体の一端面に形成されたものではないから,構成要件B
-1の「挿入口」に当たらない。「挿入口」とは棒状のオス金具がメ
ス金具に円滑に挿入できるような案内部の導入部分であり,オス金具
の形状に対応した円形の構造をしていることを要するのであって,被
告製品の蓋体25の凹部30を「挿入口」ということはできない。
(イ)構成要件B-1「二枚の立て板」
本件発明の「二枚の立て板」は「案内部」を形成するのに対し,被
告製品のオス金具10は蓋体25の凹部30と底体27の係止凹部2
6が形成する開口部と誘導口21により案内され,被告製品の二枚の
立て板22はオス金具を案内する機能を有しないから,構成要件B-
1の「二枚の立て板」に当たらない。
(ウ)構成要件B-2「係止レバー」
「係止レバー」は本件特許の請求項1~8及び10には用いられて
いない本件発明の特徴的部分であり「底体」と区別されているとこ
ろ,「レバー」とは「梃子」や「槓杆」の意味であり,その語義によ
れば,「係止レバー」は棒状の構造であることを要する。底体は,容
器その他くぼみのある物体の最下部をなし,当該物体の底面に対応し
た構造体であるから,「係止レバー」と「底体」を兼ねる構造体は通
常は存在しない。
被告製品の底体27は棒状ではないから,被告製品の底体27は構
成要件B-2の「係止レバー」に当たらない。
イ均等侵害について
(ア)構成要件B-1「挿入口」
本件発明の課題と課題解決原理に関する本件明細書の記載(段落
【0006】,【0015】)によれば,オス金具がメス金具に進入
し両者が連結される機構が本件発明特有の課題解決手段を基礎付ける
本質的部分であり,「挿入口」はオス金具がメス金具に進入する際の
機構として課題解決手段そのものであって,本質的部分である。
第二実施例と図6及び7の蓋体に「挿入口」が存在しないことから
すれば,出願人は本件発明から蓋体に「挿入口」が存在しない構造を
意識的に除外したものというべきである。
(イ)構成要件B-2「係止レバー」
本件発明においては,「底体」ではなく「係止レバー」が選択され
ており,課題解決原理においても「係止レバー」が明確に採用されて
いるから(本件明細書の段落【0015】),「係止レバー」は本質
的部分である。
第一~第六実施例及び第八実施例と本件発明とを比較すると,「底
体」以外の構成が異なっており,「係止レバー」と「底体」を置換す
ることが可能かつ容易であるとはいえない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8及び10記載の発明にお
いて「底体」が採用されているのに対し,本件発明は特殊な構造の
「係止レバー」を採用している。本件発明の蓋体の構成が「係止レバ
ー」に対応する特殊な構造であることに照らしても,出願人は「底
体」の構成を意識的に除外したものである。
ウ以上のとおり,被告製品は,構成要件B-1及びB-2を充足せず,
したがって,構成要件Cも充足しない。
(2)争点2(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか)につ
いて
(被告の主張)
ア旧特許法36条4項(実施可能要件)について
本件発明の実施例は第七実施例であり,第七実施例と図13及び14
には,係止レバーにコイル部分が一つしかないコイルばねを収納する構
成が記載されている。「略コの字状のコイルばね」はコイル部分が一つ
しかないコイルばねより大きく,「係止レバー」には「レバー」の範疇
を超える程度に横幅を広げることはできないという制約があるから,
「略コの字状のコイルばね」を「係止レバー」内に収めることは物理的
に不可能又は技術上困難であり,そのような技術的課題を解決する方法
は発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって,本件発明は,その発明の属する技術の分野における通常
の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に
記載したものとはいえず,本件特許には平成14年法律第24号による
改正前の特許法36条4項違反の無効理由がある。
イ特許法36条6項1号(サポート要件)について
本件発明の「係止レバー」は「底体」と異なる構造であり,「略コの
字状のコイルばね」は,「コイルばね」や「ばね部材」とは区別されて
おり,いずれも本件発明において特徴的な部分である。
前記アのとおり,略コの字状のコイルばねを係止レバー内に収めるこ
とは不可能又は困難であり,そのような技術的課題を解決する方法は発
明の詳細な説明に記載されていない。
本件明細書には,本件特許発明の効果について,「構造が簡単でその
組み立ても容易であり」と記載されているところ,略コの字状のコイル
ばねを使用する場合には,「構造が簡単でその組み立ても容易であ」る
という本件発明の効果を得ることはできず,発明の詳細な説明に記載さ
れた範囲を超えているから,本件特許には特許法36条6項1号違反の
無効理由がある。
ウ特許法36条6項2号(明確性要件)について
本件発明の「係止レバー」は「底体」と異なる構造であり,「略コの
字状のコイルばね」は,「コイルばね」や「ばね部材」と区別されてお
り,いずれも本件発明において特徴的な部分である。
前記アのとおり,略コの字状のコイルばねを係止レバー内に収めるこ
とは不可能又は困難であるところ,そのような技術的課題を解決する方
法は発明の詳細な説明に記載されておらず,発明の詳細な説明の記載に
より,本件発明の特許請求の範囲の記載が不明確なものとなっている。
よって,本件特許には特許法36条6項2号違反の無効理由がある。
(原告の主張)
ア旧特許法36条4項(実施可能要件)について
被告の主張は,「係止レバー」が「略コの字状のコイルばね」を使用
できない程に幅が狭いものであることを前提とするものであり,その前
提に誤りがある。本件明細書には,「係止レバー」のサイズについて何
ら規定がなく,「係止レバー」が「略コの字状のコイルばね」を使用で
きないほどに幅が狭い構成であると解釈する理由はない。本件明細書に
接した当業者は,「係止レバー」の内部空間に合わせて「略コの字状の
コイルばね」のサイズを設定するか,「略コの字状のコイルばね」のサ
イズに合わせて「係止レバー」のサイズを設定して,容易に本件発明を
実施することができる。
イ特許法36条6項1号(サポート要件)及び2号(明確性要件)につ
いて
被告の主張は,「係止レバー」には「略コの字状のコイルばね」を使
用することが不可能又は技術上困難であることを前提にしているとこ
ろ,前記アのとおり,前提に誤りがある。
(3)争点3(被告が賠償すべき損害額)について
(原告の主張)
ア特許法102条1項に基づく損害
(ア)原告は,本件発明の実施品である装身具用連結金具製品(CMD
-200タイプ)(以下「原告製品」という。)を販売するところ,
同製品の1個当たりの利益の額は423.3円である。
そして,原告は被告の譲渡数量販売個数(10万0034個)に対
応する実施の能力を有する。
よって,原告の独占的通常実施権の侵害による損害は,原告製品の
1個当たりの利益額に被告製品の譲渡数量を乗じた4234万439
2円である。
(イ)「販売することができないとする事情」等について
a価格について
原告製品は本件発明の実施品として操作が非常に容易であるとい
う特徴を有し,原告製品の平均販売価格は市場において特別高価な
ものではない。
被告製品は正規の実施料を支払わずに低価格で販売されており,
これを正規の価格と比較することは公平ではない。
b競合品について
原告製品の競合品は,装身具用連結金具一般ではなく,棒タイプ
と称される銀製のクラスプで主として数万円程度の真珠ネックレス
用の連結具として用いられるものであり,このような製品の市場に
おける原告製品のシェアは少なくとも75~80%程度はあった。
c本件特許の寄与度について
(a)別件和解は,別件和解の解決金を本件訴訟における損害賠償
金に充当すること,すなわち,別件発明の寄与度分を本件の損害
賠償債務への充当という形で事後的に控除することを合意したも
のであり,本件訴訟の損害賠償額の認定において別件発明の寄与
度を減額するとすると,別件発明の寄与分について二重に控除す
ることになり,不当である。
(b)別件発明が購入動機の形成に寄与する割合は,本件発明と比
べると,相対的に小さい。
イ弁護士費用423万4439円
ウよって,原告は,被告に対し,独占的通常実施権侵害の不法行為に基
づく損害賠償金4657万8831円及びこれに対する不法行為の後の
日である平成23年12月17日(訴状送達日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
ア実施の能力について
原告製品の1年間の譲渡数量及び販売価格は8万0469個及び69
16万0444円であり,被告製品の1年間の販売個数は6万2414
個である。原告の平成21年,平成22年当時の年間売上額は5億円程
度であったものと推測され,原告の年間売上額に占める原告製品の割合
は約13.83%に相当するから,原告の全売上高に対する被告製品の
譲渡数量の比率は約10.73%である。
原告の工場の稼働率からすれば,原告が約10.73%の増産を実現
するためには追加設備投資が必要であり,被告製品の譲渡数量は,原告
の実施能力を超えている。
イ「販売することができないとする事情」等について
以下のとおりの事情に照らせば,被告製品の譲渡数量について販売す
ることができないとする事情が認められる数量を控除すると,侵害行為
がなければ販売することのできた原告製品は,多くとも被告製品の譲渡
数量の10%程度となる。
(ア)価格
原告製品の販売価格は859.5円,被告製品の販売価格は約46
7.5円であるところ,いずれも主に真珠用ネックレスの連結部分と
して使用されるが,真珠用ネックレスの購買動機に影響するのは真珠
の部分であり,連結具は可能な限り低価格に抑えたいという動機が働
くことは容易に想像できるから,原告製品の販売価格では,被告製品
の譲渡数量の多くとも5割程度しか販売することができない。
(イ)競合品
装身具用連結金具を取り扱う製造・卸売業者は数多く存在し,平成
21年ないし平成22年の原告のシェアは多くとも30%程度である
から,被告製品が販売されなかった場合に競合品ではなく原告製品を
購入する者の割合は上記シェアに応じ被告製品の譲渡数量の30%程
度である。
(ウ)本件発明の寄与度
被告製品は,本件発明のみならず別件発明の実施品でもある。別件
発明は,①装着時における操作の容易性,②組立ての容易性と低
価格性,③修理の容易性という作用効果を有するものであるのに対
し,本件発明は①及び②の作用効果を有するにすぎないから,被告製
品の販売に対する本件発明の寄与度は多くとも5割程度である。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告製品が構成要件B及びCを充足するか)について
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載は次のとおりである(甲5)。
ア【従来の技術】
「【0002】従来から,真珠ネックレス等の連珠装身具に使用する連
結具としては,図1に示されるような,板ばねを使用したものが一般
的である。かかる連結具20は,差込み穴26を形成した中空箱型の
メス金具21と,金属板をV字状に折り曲げて板ばねを形成したオス
金具22とから構成され,使用時においては,押圧片24を指先で押
圧して偏平な形状とされたオス金具22を,メス金具21の差込み穴
26より差し込み指先を放すことで,板ばねの弾発力を利用して双方
を連結するものである。」
「【0003】しかし,前記連結具20は,通常首の後ろに位置した状
態で,オス金具22の板ばねの先端をメス金具21の差込み穴26
に,オス金具22の表裏面を確認して差込まなければならず,必要な
場合には,オス金具22とメス金具21を前面に位置させておいて,
目視しながら双方を連結することもあった。したがって,押圧片24
を指先で押圧するという事前のアクションが必要であることと相俟っ
て,前記連結具20は装着時の操作が難しいという欠点を有してい
た。」
「【0004】一方,前記操作時の困難性を解決した連結具としては,
図2に示されるような,コイルばねを使用した連結具30が開示され
ている。すなわち,真珠ネックレス等の環状装身具本体39の一側端
末が接続される係止具33には丸棒形状の周面に係止溝35が形成さ
れ,環状装身具本体39の他側端末が接続される連結具本体38は,
上記係止具33の挿脱が可能な円筒形の受入部材31と,上記係止具
33の係止溝35に係脱可能な係止部材36を備えかつ連結具本体3
8の外部に係脱ボタン37を設け,この係止部材36を常に係止溝3
5に係止する方向に弾性力で付勢するコイルバネ37aからなること
を特徴とするものである(実開平7-30730号)。」
「【0005】しかし,前記連結具30においては,弾性力低下を防ぐ
ために,一定以上の大きさからなるコイルバネ37aを使用しなけれ
ばならず,それを円筒形の受入部材31内に収納し,更に,受入部材
31を連結具本体38内に収納しなければならない。したがって,連
結具30自体の組み立てが容易でなく,複数の部品から構成されてい
るため,コスト的にも高額なものとなるという問題点を有してい
た。」
イ【発明が解決しようとする課題】
「【0006】本発明は,装着時における操作性が非常に容易な装身具
用連結金具を提供することを目的とする。又,構造が簡単でその組み
立ても容易であり,ひいてはコスト的にも低価格となる装身具用連結
金具を提供することを目的とする。」
ウ【課題を解決しようとする手段】
「【0015】請求項9に記載された発明は,先端に先細状の頭部を形
成し,該頭部の後方には係合溝部を設け,後端には装身具との接続環
部を備えた棒体からなるオス金具と,箱型の下面全体が開口され,一
端面には前記オス金具の挿入口及び該挿入口の内側における内部底面
には前記オス金具の外径にほぼ一致する二枚の立て板を突設して案内
部を形成し,逆端には装身具との接続環部が形成された蓋体の内側
に,一端面に前記オス金具の係止凹部を形成した係止レバーを,閉方
向に付勢する略コの字状のコイルばねの両側部を支軸に巻装して配設
すると共に,該係止レバーが前記蓋体内で枢動可能に取付けられたメ
ス金具とから構成される装身具用連結金具であることを特徴とす
る。」
エ【発明の実施の形態】
「【0017】以下,図面に基づき本発明を詳細に説明する。図3は,
本発明に係る装身具用連結金具の第一実施例を示す斜視図,図4は,
そのメス金具の分解斜視図,図5は,その連結状態を示す断面図であ
る。本実施例にかかる装身具用連結金具40は,棒体からなるオス金
具42と中空箱型からなるメス金具50とから構成され,中空箱型の
蓋体51と底体60は開閉可能であり,オス金具42をメス金具50
に挿脱することができるものである。又,オス金具42とメス金具5
0は,それぞれ真珠ネックレスやネックレスチェーン等の装身具の両
端に接続され,それらを連結して,身につけるために環状とするもの
である。」
「【0023】本実施例における装身具用連結金具40を使用するに
は,オス金具42の先端をメス金具50の挿入口57より挿入する
と,頭部45が先細状に形成されていることより,底体60を係止凹
部61から押し下げつつスムーズに進入できる。そして,更にオス金
具42をメス金具50に差し込んで行くと,オス金具42は案内部5
4にガイドされ,係合溝部47が係止凹部61に達した時点で,コイ
ルばね67の付勢力により底体60が押し上げられ,底体60の係止
凹部61がオス金具42の係合溝部47とかん合して,オス金具42
とメス金具50は連結される。」
「【0024】オス金具42は,メス金具50内で案内部54に支持さ
れると共に,かつ,前記軸支部分と底体60間に形成される中空部分
に収容されるため,メス金具50内に深く挿入することができ,双方
は安定して連結される。」
「【0025】一方,オス金具42をメス金具50から外す場合は,底
体60の押圧部62を指先で押圧すると,押圧部62にはすべり止め
が施されており,又,底体60の両側壁部後方がスロープを形成して
いるため容易に押し下げることができる。そして,係止凹部61と係
合溝部47のかん合が解除されて,オス金具42を引き抜くことがで
きる。」
「【0049】図13は,本発明に係る装身具用連結金具の第七実施例
を示す斜視図でり,図14は,その分解斜視図である。本実施例にお
ける装身具用連結金具220は,前記までの実施例略同様の蓋体23
1に係止レバー240を枢動可能に取付けて形成されるメス金具23
0と,前記第一実施例乃至前記第五実施例同様の形状からなるオス金
具222により構成される。」
「【0050】本実施例における蓋体231には,円形箱型の下面全体
を開口し,一端面には挿入口237が形成され,該挿入口237の内
側における内部底面には,オス金具222本体の外径にほぼ一致する
間隔により二枚の立て板を突設し,更に通孔235を設けて形成され
る軸支部234が備えられている。」
「【0051】又,係止レバー240は,板状体の一端面が上方約90
度に折り曲げられ,オス金具222の係合溝部227に係合する内径
により略半円状に切り欠かれた係止凹部241が形成され,略中央の
側壁には山形部244と該山形部244には通孔243が形成され,
表面には押圧部242が形成されたものである。係止レバー240
は,閉方向に付勢するコイルばね247を巻装して,軸支部234と
山形部244の通孔235,243に支軸247を挿通されること
で,蓋体231に枢動可能に取付けられる。」
「【0052】本実施例における装身具用連結金具220を使用する方
法は,前記までの実施例と略同様であるが,本実施例においては,メ
ス金具230が中空箱型を構成しないため,メス金具230の形状に
制約がなくなる。したがって,例えばハート形状等の装飾的な形状を
メス金具230に採用することができ,美的効果が優れた装身具用連
結金具220を提供できる。」
オ【発明の効果】
「【0055】本発明に係る装身具用連結金具によれば,オス金具をメ
ス金具に挿入するだけでネックレス等の環状装身具の連結ができ,
又,メス金具の一端を押圧するだけで開放ができるため,操作性が非
常に容易となる。又,構造が簡単なためコスト的にも低価格な装身具
用連結具を提供できる。」
(2)構成要件B-1
ア原告は,被告製品の蓋体25の凹部30から誘導口21にかけての構
成(挿入部)が構成要件B-1の「挿入口」に,被告製品の二枚の立て
板22が構成要件B-1の「二枚の立て板」に当たり,被告製品は構成
要件B-1を充足すると主張する。
(ア)「挿入口」について
a本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,オス金具の「挿入
口」をメス金具の蓋体の「一端面に」形成することが必須である
が,「挿入口」の構造について格別の限定はされていない。被告製
品のメス金具20の蓋体25の一端面には凹部30が設けられてい
ることから,「挿入口」に蓋体の側面を切り欠いた凹部の構成が含
まれるかが問題となる。
そこで検討すると,「口」は「外から内に通ずる所,物や人の出
入りする所」等を意味し(広辞苑〔第6版〕801頁参照),その
語義からは全周が閉じられた構成に限定されるとは解されない。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,①従来技術に
は,通常首の後ろに位置した状態で,オス金具の板ばねの先端をメ
ス金具の差込み穴に,オス金具の表裏面を確認して差し込まなけれ
ばならず,また,オス金具の押圧片を指先で押圧するという事前の
アクションが必要であって装着時の操作が難しいという問題点,あ
るいは,装着時の操作を容易にしたとしても,連結具自体の組み立
てが容易でなく,複数の部品から構成されているため,コスト的に
も高額なものとなるという問題点があったこと(段落【0002】
~【0005】),②このような課題を解決するため,本件発明
においては,先端に先細状の頭部を形成した棒体からなるオス金具
と,一端面にオス金具の挿入口及び該挿入口の内側における内部底
面に前記オス金具の外径にほぼ一致する二枚の立て板を突設して案
内部を形成した蓋体の内側に係止レバーが取付けられたメス金具と
から構成されること(段落【0015】),③「挿入口」を用い
た実施例に係る装身具用連結金具の使用方法として,オス金具の先
端をメス金具の挿入口に挿入する際,頭部が先細状に形成されてい
ることによりスムーズに進入でき,さらに,オス金具をメス金具に
差し込んで行くと,オス金具は案内部にガイドされ,オス金具の係
合溝部がメス金具の係止凹部に達した時点で,コイルばねの付勢力
により係止凹部がオス金具の係合溝部とかん合してオス金具とメス
金具が連結されること(段落【0052】,【0023】。なお,
本件明細書に記載の実施例のうち,本件発明に最も近いのは第七実
施例(段落【0049】~【0052】,図13及び14である
が,その使用方法については段落【0052】において他の実施例
とほぼ同様であるとされている。)が記載されている。
以上によれば,「挿入口」は全周が閉じられた穴状のものに限定
されるものではなく,棒体からなるオス金具を,メス金具の蓋体の
外から内部に設けられた案内部に向けて挿入するために蓋体の一端
面に形成された構成であれば足り,このような構成を有するもので
あれば凹部も含むものと解される。
bこれを被告製品についてみると,原告の主張する挿入部のうち蓋
体25の凹部30は,棒体からなるオス金具10をメス金具20の
蓋体25の外から内部に設けられた案内部である二枚の立て板22
(二枚の立て板が案内部を形成していることは後記(イ)のとおり)
に向けて挿入するため蓋体25の一端面に形成された構成であると
いえる。したがって,被告製品の蓋体25の凹部30は構成要件B
-1の「挿入口」に当たる。
(イ)「二枚の立て板」について
a本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,「二枚の立て板」
は,文言上,挿入口の内側の内部底面にオス金具の外径にほぼ一致
して突設されてオス金具の案内部を形成することが必須であるとこ
ろ,前記(ア)aのとおりの本件明細書の発明の詳細な説明の記載に
照らせば,「二枚の立て板」は,挿入口の内側の内部底面にオス金
具の外径にほぼ一致して突設され,メス金具に挿入されたオス金具
の係合溝部がメス金具の係止凹部に達するようにガイドする機能を
有することを要すると解される。
bこれを被告製品についてみると,被告製品の二枚の立て板22
は,蓋体25の凹部30の内側の内部底面にオス金具10の外径に
ほぼ一致して突設され,オス金具10の係合溝部12がメス金具2
0の係止凹部26に達するようにガイドする機能を有しており,案
内部を形成しているといえるから,被告製品の二枚の立て板22は
構成要件B-1の「二枚の立て板」に当たると認めることができ
る。
イこれに対し,被告は,①「挿入口」はオス金具の形状に対応した円
形の構造であることを要し,被告製品の蓋体25の凹部30はこれに当
たらないこと,②被告製品は蓋体25の凹部30と底体27の係止凹
部26が形成する開口部と誘導口21により案内され,被告製品の二枚
の立て板22は案内部としての役割を持たないことを主張する。
しかしながら,①について,本件明細書(甲5)には,オス金具本体
の形状は多角形状による角棒であっても差し支えない(段落【006
4】)との記載があり,円弧と直線により全周が閉じられた形状で形成
された「挿入口」(図11の番号181)が図示されていることからす
れば,「挿入口」が円形の構造であることを要するとの被告の主張は採
用できない。
なお,本件特許の特許請求の範囲には,蓋体に「係止凹部」(請求項
2),「第一係止凹部」(請求項3)又は「挿入凹部」(請求項10)
を形成する構成が記載されているが,本件発明(請求項9)の「挿入
口」には全周が閉じたものと一部を切り欠いた凹部が含まれると解され
るから,これらの他の請求項の凹部に関する記載は「挿入口」に凹部の
構成が含まれないことの根拠となるものではない。また,本件明細書の
発明の詳細な説明の実施例には「挿入口」として蓋体に形成された略円
形の穴(図13及び14の番号237等)が図示されているが,これら
は実施例にすぎず,「挿入口」に凹部が含まれるとの解釈を妨げるもの
ではない。
②について,被告製品の二枚の立て板22と蓋体25の凹部30の間
に底体27の係止凹部26や誘導口21があるとしても,その構造上,
オス金具10を係止凹部26及び誘導口21より更に奥まで押し込んだ
場合に,被告製品の二枚の立て板22がオス金具10をガイドする機能
を有していることは明らかである。したがって,誘導口21の有無は構
成要件B-1の「二枚の立て板」の充足性には何ら影響しないと考えら
れる。
よって,被告の主張は採用できない。
ウ以上によれば,被告製品は,「挿入口」及び「二枚の立て板」の構成
を有し,構成要件B-1のその余の構成も備えているから,構成要件B
-1を充足する。
(3)構成要件B-2
ア原告は,被告製品の底体27は構成要件B-2の「係止レバー」に当
たり,被告製品は構成要件B-2を充足すると主張する。
(ア)本件特許の特許請求の範囲の記載によれば,「係止レバー」は,
一端面にオス金具の係止凹部を形成し,閉方向に付勢する略コの字状
のコイルばねの両側部を支軸に巻装して配設され,蓋体内で枢動可能
に取り付けられることを要するが,「係止レバー」の形状に格別の限
定はないことから,「係止レバー」に「底体」の構成が含まれ得る
か,あるいは棒状の構成に限られるかが問題となる。
そこで検討すると,「係止」は係わり合って止まることを意味し,
「レバー」は,「梃子」(重いものを手でこじ上げるのに用いる棒。
また,そのしかけ)あるいは「槓杆」(一定点を通る軸を中心に自由
に回転し得る棒。ある点に力を加えて,他の点における力と釣合をと
る装置。また,ある点の動きを他の点の動きに拡大又は縮小する装
置)(乙5)を意味し,その語義からは,基本的には棒状の部材であ
ることが多いとはいえるものの,梃子や槓杆としての作用を果たすも
のであれば,棒状の構成に限られることはないと解される。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,①課題とその解決
方法として,従来技術には装着時の操作が困難であるとの問題点があ
ったので,本件発明においては,係合溝部を設けた棒体からなるオス
金具と,端面に前記オス金具の係止凹部を形成した係止レバーを,閉
方向に付勢する略コの字状のコイルばねの両側部を支軸に巻装して配
設するとともに,係止レバーが蓋体内で枢動可能に取り付けられたメ
ス金具から構成した旨の記載,②「係止レバー」を用いた実施例に
係る装身具用連結金具の使用方法について,前記(2)ア(ア)a③のとお
りオス金具とメス金具はコイルばねの付勢力により連結されていると
ころ,オス金具をメス金具から外す場合は,係止レバーの係止凹部の
対向側を指先で押圧して押し下げることにより,係止凹部と係合溝部
のかん合が解除されてオス金具を引き抜くことができる旨の記載(段
落【0052】,【0025】参照),③第七実施例においては,
メス金具が中空箱型を構成しないため,メス金具の形状に制約がなく
なり,例えばハート形状等の装飾的な形状をメス金具に採用すること
ができ,美的効果が優れた装身具用連結金具を提供できる旨の記載
(段落【0052】)がある。
以上によれば,「係止レバー」は,一端面にオス金具の係止凹部を
形成し,閉方向に付勢する略コの字状のコイルばねの両側部を支軸に
巻装して配設され,コの字型のコイルばねの付勢力により係止凹部が
押し上げられて係合溝部とかん合し,係止凹部に対向する端部を押し
下げることで係止凹部と係合溝部のかん合が解除されるよう,蓋体に
枢動可能に取り付けられる構成であることを要するが,その形状は,
棒状に限られず,蓋体の形状に対応した底体のように構成したもので
あってもよいと解される。なお,上記③の記載は,当該実施例におい
ては中空箱型を構成しないことにより優れた効果を奏する旨をいうに
とどまり,メス金具の形状を中空箱型にする構成を本件発明の技術的
範囲から排除する意味であるとみることはできない。
(イ)これを被告製品についてみると,被告製品の底体27は,一端面
にオス金具10の係止凹部26を形成し,閉方向に付勢する略コの字
状のコイルばね28の両側部を支軸29に巻装して配設され,コの字
型のコイルばね28の付勢力により係止凹部26が押し上げられてオ
ス金具10の係合溝部12とかん合し,係止凹部26に対向する端部
を押し下げることで係止凹部26と係合溝部12のかん合が解除され
るよう,蓋体25に枢動可能に取り付けられる構成を有するものとい
えるから,構成要件B-2の「係止レバー」に当たると認められる。
イこれに対し,被告は,本件発明の「係止レバー」は本件特許の他の請
求項の「底体」と区別され,棒状の構造体であることを要するのであ
り,「係止レバー」と「底体」を兼ねる構造体は存在しないとして,被
告製品の底体は「係止レバー」に当たらないと主張する。
しかしながら,本件特許の他の請求項の「底体」の記載は,「係止レ
バー」に「底体」の構成を有する構造体が含まれることを排除するもの
ではないし,前記ア説示のとおり,「係止レバー」は棒状の構成も底体
の構成も含むと解されるから,被告の主張は採用できない。
(4)以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件B-1及びB-2を充
足し,前記争いのない事実等(4)のとおり構成要件Aを充足するから,構成
要件Cも充足する。したがって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属す
るということができる。
2争点2(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものか)につい

(1)旧特許法36条4項(実施可能要件)について
被告は,コイル部分が一つしかないコイルばねよりも大きい「略コの字
状のコイルばね」を係止レバー内に収めることが不可能又は技術上困難で
あることを前提に実施可能要件違反を主張するが,当業者であれば係止レ
バーと略コの字状のコイルばねの大きさを調節して,係止レバーの内部に
略コの字状のコイルばねを収めることが十分に可能なのは各部材の構造上
明らかである。
したがって,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項
違反の無効理由があるとは認められない。
(2)特許法36条6項1号(サポート要件)及び2号(明確性要件)につい

被告は,略コの字状のコイルばねを係止レバー内に収めることが不可能
又は困難であることを前提にサポート要件違反及び明確性要件違反の主張
をするが,上記(1)説示のとおりその主張は前提を欠く。
したがって,特許法36条6項1号及び2号違反の無効理由があるとは
認められない。
3争点3(被告が賠償すべき損害額)について
(1)原告は,本件特許権の独占的通常実施権に基づいて,平成21年2月2
3日以前から,本件発明の実施品である原告製品を製造販売している(甲
7,検甲1,弁論の全趣旨)。
前記1及び2のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属し,被告
は原告の独占的通常実施権を侵害しているところ,被告製品は原告製品と
ほぼ同一の構成を有しており(検甲1,2),被告にはこの点について少
なくとも過失があるものと認められるから,独占的通常実施権の侵害によ
り原告が被った損害について賠償すべきものとなる。
(2)特許法102条1項による損害額
原告製品1個当たりの利益の額は423.3円であること,被告は,平
成21年2月23日から平成22年12月3日までに被告製品を10万0
034個販売したことは当事者間に争いがない。また,証拠(甲30,乙
7の1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成16年から19年までは
年間20万個を超える原告製品を,平成20年から22年までも年間10
万個を超える原告製品を販売しており,原告の保有する生産設備やこれま
での販売実績からすれば,原告が被告の譲渡数量について実施する能力を
有していたことが認められる。
よって,原告の損害額は4234万4392円となる(なお,被告は本
件に特許法102条1項の類推適用があることを争っていない。)。
(3)減額すべき事由
ア被告は,原告製品と被告製品の価格差が大きいこと,装身具用連結金
具の市場における原告のシェアが30%程度であり,複数の競合品が販
売されていることから,被告製品の譲渡数量の一部につき「販売するこ
とができないとする事情」(特許法102条1項ただし書)があると主
張する。
そこで検討すると,前記争いのない事実等,証拠(甲31,32,乙
8~13。枝番号のある証拠はすべての枝番号を含む。)及び弁論の全
趣旨を総合すると,①原告製品の販売価格は1個859.5円である
のに対し,被告製品は約467.5円であること,②装身具用連結金
具製品を販売する業者は原告と被告のほかにも複数存在することが認め
られる。
しかしながら,①価格差のあることが上記ただし書の事情に当たり
得るものであるとしても,本件においては,弁論の全趣旨によれば,装
身具用連結金具がネックレス等の環状装身具の部品の一つとして使用さ
れるものであり,最終製品である環状装身具の価格が連結金具の価格を
大きく上回るものであることに照らすと,原告製品と被告製品に上記の
程度の価格差があることから原告製品につき「販売することができない
とする事情」があると認めることはできない。
また,②他社の装身具用連結金具製品が,本件発明と構成を異にす
るものであり,かつ,操作性が容易であり,構造が簡単でコスト的にも
優れているという本件発明と同様の効果を奏するものとして,原告製品
の競合品となり得る特徴を有するものであるかは明らかではない。
したがって,被告の上記主張はいずれも採用できない。
イ次に,被告は,被告製品は別件発明に係る特許の実施品でもあるの
で,被告製品の販売における本件発明の寄与度は多くとも5割であると
主張する。
そこで検討すると,前記争いのない事実等(5)のとおり,原告と被告
は,別件特許権の独占的通常実施権の侵害に係る別件訴訟において,被
告が原告に解決金600万円を支払う,本件特許の独占的通常実施権侵
害に基づく損害賠償債務の存在及び額が判決等により確定した場合に
は,この解決金を上記損害賠償債務に充当する旨の別件和解が成立し,
別件特許権については原告と被告の間に他に債権債務はないことが確認
されている。このような別件和解の経緯及びその内容に照らせば,被告
製品の販売数量についての別件発明の寄与については,原告と被告の間
では別件和解により解決済みであると解すべきであって,本件発明に係
る独占的通常実施権侵害の損害額から別件発明の寄与度に相当する部分
を減額するのは相当でない。
ウ以上のとおり,特許法102条1項本文による損害額から減額すべき
事由は認められない。
(4)弁護士費用
以上によれば,独占的通常実施権の侵害による原告の損害額は4234
万4392円であると認められ,本件の事案の内容,訴訟の経緯その他一
切の事情を考慮すれば,被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用
として被告に負担させるべき額は423万4439円をもって相当と認め
る。
4結論
以上のとおりであるから,原告の請求は理由があるからこれを認容するこ
ととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官清野正彦
裁判官髙橋彩
(別紙)
物件目録
装身具用連結金具
製品番号:DSVG1816
(別紙)
被告製品の構成
A’先端に先細状の頭部を形成し,該頭部の後方には係合溝部を設け,後端に
は装身具との接続環部を備えた棒体からなるオス金具と,
B’1箱型の下面全体が開口され,一端面には前記オス金具の形状に対応する凹
部を形成し,該凹部の内側における内部底面には前記オス金具の外径にほぼ
一致する二枚の立て板を突設し,該オス金具を誘導する誘導口とともに案内
部を形成し,逆端には装身具との接続環部が形成された蓋体の内側に,
2一端面に前記オス金具の係止凹部を形成した底体を,閉方向に付勢する略
コの字状のコイルばねの両側部を支軸に巻装して配設すると共に,
3該底体が前記蓋体内で枢動可能に取付けられたメス金具と
C’から構成されることを特徴とする装身具用連結金具。

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