弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を判示第1の罪について懲役6月に,判示第2以下の罪(判示
第2,第3,第4の1ないし3,第5の1,2,第6の1ないし3,
第7,第8,第9の1,2,第10の1ないし3の罪をいう。以下同
じ)について懲役7年に処する。。
未決勾留日数中300日を判示第2以下の罪の刑に算入する。
本件公訴事実中道路交通法違反の点については,被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1(平成20年10月21日起訴・公訴事実第1)
Aと共謀の上,平成18年8月25日ころ,大分県別府市内aガレージにお
いて,同所に駐車中の軽四乗用自動車からB所有のナンバープレート2枚を窃
取した
第2(平成21年2月17日起訴)
Aと共謀の上,平成20年4月14日午後5時40分ころから午後6時10
,,分ころまでの間愛媛県四国中央市内所在のb店2階ベビー用品売場において
同店店長C管理のベビーカー6台(販売価格合計25万8800円)を窃取し

第3(平成20年10月21日起訴・公訴事実第2)
Aと共謀の上,平成20年4月14日ころ,香川県観音寺市内c団地西側駐
車場において,同所に駐車中の軽四貨物自動車からD管理のナンバープレート
2枚を窃取した
第4(平成20年12月8日起訴)
Aと共謀の上,
1平成20年4月17日午前11時ころ,愛媛県東温市内所在のd店2階ベビ
ー用品売場において,同店店長E管理のベビーカー2台(販売価格合計7万3
600円)を窃取した
2同日午後0時9分ころ,前記d店1階服飾・紳士洋品売場において,前記E
(),管理のスポーツバッグ1個ほか3点販売価格合計2万1630円を窃取し
そのころ,前記d店屋上駐車場において,被告人を追跡してきた警備員F(当
時58歳)による逮捕を免れるため,被告人が,Fの左袖を左手でつかみなが
ら右手に持ったスプレーを同女の顔面に噴射する暴行を加えて同女をその場に
転倒させ,その際,同女に約5日間の安静加療が必要な右膝部打撲の傷害を負
わせた
3前記2記載の日時ころ,前記d店屋上駐車場において,被告人が,被告人の
着衣を両手でつかんでいる警備員G(当時49歳)の頭部に同スプレーを噴射
した上,その手を振りほどいて引き離すなどの暴行を加えて同女をその場に転
倒させ,その際,同女に約7日間の安静加療が必要な右小指擦過傷,左肘関節
部打撲血腫の傷害を負わせた
第5(平成20年6月23日起訴)
1平成20年4月27日午後6時ころ,香川県善通寺市内e店において,同店
店長H管理のベビーカー2台(販売価格合計6万7600円)を窃取した
2Iと共謀の上,同日午後7時45分ころ,同県観音寺市内fにおいて,同店
店長J管理のベビーカー3台(販売価格合計13万9400円)を窃取した
第6(平成20年9月18日起訴)
K及びAと共謀の上,
1平成20年5月5日,岡山県倉敷市内所在のg店において,同店店長L管理
のベビーカー等2点(販売価格合計4万9600円)を窃取した
2同日,同市内所在のhにおいて,同店i店長M管理のベビーカー等6点(販
売価格合計28万7150円)を窃取した
3同日,岡山市所在のj店において,同店店長Nほか2名管理のベビーカー等
124点(販売価格合計62万0954円)を窃取した
第7(平成20年7月9日起訴)
窃盗罪の被疑者として,徳島簡易裁判所裁判官が発付した勾留状により平成
20年6月4日から徳島県甲市内徳島県警察甲警察署に勾留されていたもので
,,あるが同月17日午後8時45分ころから同日午後9時17分ころまでの間
看守者のすきをうかがい同署2階留置施設内の無施錠の居室から出室し,看守
台の上に置かれていた同留置施設の鍵を用いてその出入口扉を解錠して同留置
施設から脱出した上,同署1階階段下通路の北側腰高窓から同署の正面側駐車
場に降り,更に同駐車場北西側出入口から同署敷地外に走り出て逃走した
第8(平成20年8月12日起訴・公訴事実第1)
平成20年6月17日午後9時35分ころ,徳島県甲市内O方西側車庫にお
いて,同人所有の自転車1台(時価約5000円相当)を窃取した
第9(平成20年7月30日起訴)
1窃盗事件の犯人として前記徳島県警察甲警察署に勾留中の平成20年6月1
7日に同署から逃走したものであるが,その逮捕及び処罰を免れる目的で,同
日午後9時58分ころ,同市内において,兵庫県内にいたK及び同人と行動を
共にしていたAに対し,電話で「甲署から逃げてきたんや「とにかく迎え。」,
。」,に来てほしいなどとその情を打ち明けて逃走への便宜を図るように依頼し
Kらにその旨決意させて犯人隠避を教唆し,よって,同人らをして,同月18
日午前1時ころ,同市内k団地市営住宅付近路上において,A運転の自動車に
被告人を乗車させてその場を立ち去らせた上,そのころから同日午後7時42
分ころまでの間,同自動車を提供させるなどして香川県丸亀市内株式会社l駐
車場まで逃走させた
2K及びAと共謀の上,同日午前7時ころ,徳島県美馬郡内m有限会社敷地内
,()においてP管理の普通貨物自動車内から車載用工具一式時価約1万円相当
を,軽四乗用自動車からナンバープレート2枚を窃取した
第10(平成20年8月12日起訴・公訴事実第2,第4,第5)
1Aと共謀の上,平成20年6月18日午後4時ころ,香川県綾歌郡内n店に
おいて,同店店長Q管理の半袖Tシャツ1枚(販売価格1900円)を窃取し

2同日午後7時50分ころ,同県丸亀市内R方敷地内において,同人所有の軽
四乗用自動車1台(時価約30万円相当)を窃取した
3同日午後9時ころ,同県仲多度郡内所在のo店において,同店店長S管理の
ランニングシャツ等3点(販売価格合計1480円)を窃取した
ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
判示第4の2,3につき,強盗致傷,傷害を認定した理由を,以下,補足して説
明する。
第1公訴事実及び争点
本件の公訴事実の要旨は「被告人は,Aと共謀の上,d店1階売場でスポ,
ーツバッグ等を窃取し,同店屋上駐車場において,被告人を追跡してきた警備
員F及び同Gによる逮捕を免れるため,()被告人が,Fの左袖を左手でつ1
かみながら右手に持ったスプレーを同人の顔面に噴射する暴行を加えて同女を
その場に転倒させ,その際,同女に約5日間の安静加療が必要な右膝部打撲の
傷害を負わせ,()被告人が,被告人の着衣を両手でつかんでいるGの頭部2
にそのスプレーを噴射した上,その胸部を手で突くなどの暴行を加えて同女を
,,,その場に転倒させその際同女に約7日間の安静加療が必要な右小指擦過傷
左肘関節部打撲血腫の傷害を負わせた」というものである。
弁護人は,被告人に窃盗罪が成立することについては争わないが,被告人は
①Fに対しては暴行を加えていないし,Gに対してはその頭部にスプレーを噴
射したが,その胸部は突いていない,②F及びGに傷害を負わせておらず,被
告人の行為と各傷害との間の因果関係もない,③公訴事実記載の暴行を前提と
しても,当該暴行は逮捕を断念させる程度(反抗を抑圧するに足りる程度)の
ものとはいえない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
そこで,以下検討する。
第2前提となる事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
1平成20年4月17日,被告人は,A及びTと共に自動車で徳島県から愛媛
県方面へ向かっていた。その車内で,後部座席にいたTが,運転していたAに
対し,スプレーを手渡し,万引きの際に警備員に捕まりそうになったら噴射し
て逃げるように,その際は目を狙うようになどと言った。被告人は,助手席で
この会話を聞いていた。
2被告人及びAは,万引きをするため,d店3階の屋上駐車場に車を停め,同
店店内へ入り,2階ベビー用品売場からベビーカー2台を窃取し,一旦車に運
び込んだ。その後,被告人らは,再び店内に戻り,1階服飾・紳士洋品売場か
らスポーツバッグ等を窃取した。
,(,)。3F及びGはd店等で長年警備員をしていたFは約20年Gは約13年
Fは,事件当日同店で勤務中,被告人らの万引き行為を現認し,非番であった
Gを電話で呼び出し,合流後,二人で被告人の後をつけた。
4被告人らは,スポーツバッグ等を窃取後,別々に屋上駐車場に赴き,先に自
,,動車に到着したAが運転席側後部スライドドアを開けて窃取した商品を積み
被告人が自動車に戻ってきたところ,F及びGが被告人の後ろから二人に近づ
,,,,き被告人らに対し話を聞かせてほしいなどと声を掛けFは被告人の方へ
GはAの方に近づき,GはAの体を手で持った。
5被告人は,一旦自動車の運転席に乗り込んだ後,車内からスプレーを手に持
って自動車を降りた。
6Aは,Gが手を放したすきに自動車に乗り込み,発進させてその場から立ち
去った。その後,被告人も走って店内に戻り,1階まで降りて逃げ,店外でA
らと合流して逃走した。
7F及びGは,すぐに警察に通報し,その日のうちに,病院に行き,U医師の
診察を受けた。
第3Fに対する暴行について
1Fの傷害
U医師は,公判廷において,Fについては,右膝部に圧痛と軽度の腫れがあ
り,約5日間の安静加療が必要な右膝部打撲と診断した,その状態からして診
察の一,二時間程度前に受傷したものと思う旨証言する。その診断内容に不自
然,不合理な点は見当たらない。関係証拠によると,Fには,本件以前から加
齢が原因と思料される膝関節痛があったが,U医師によれば,打撲の位置は膝
の関節よりも下方であり,関節の痛みと打撲は無関係であるとのことであり,
右膝部打撲との診断内容に疑問を差し挟むものではない。そうすると,上記受
診の際には,Fは判示の傷害を負っていたことが認められる。Fは,本件以前
には上記傷害を負っていなかった旨述べているところ,その供述は受傷時期が
新しいとのU医師の診断にも沿うものであり,同傷害は,本件が起きたd店屋
上駐車場での出来事に起因するものと推認される。
2Fに対する被告人の暴行の有無及び傷害結果との結びつき
Fは,公判廷において「運転席横で,被告人に対し,車両のナンバーを控,
えたと告げたら,被告人は,スプレーを手に同車を降りるなり,自分の着衣の
左袖をつかみながら,20センチメートルくらいの至近距離から,眼鏡をかけ
ている辺りを目掛けてスプレーを二,三回左右に振るようにして2秒間くらい
吹き付けてきた。目つぶしのためのスプレーだと思い,右側に体をひねってよ
けようとしたが,そのはずみで地面に右膝や右大腿部を打つ形で転倒した」。
と供述している。
上記供述は,具体的でその内容に不自然,不合理な点は含まれておらず,G
の目撃状況とも概ね符合している。
また,犯行直後に捜査機関へ提出されたFの眼鏡の表面には白色系の微粉末
が左目用レンズ外側付近を中心に付着しており,科学捜査研究所研究員の鑑定
によると,その付着物の主な成分は,化粧品基材や医薬用助剤として用いられ
る脂肪酸エステルの一種であるイソプロピルミリステートと推定される。同成
分が家庭用防臭スプレーや化粧品用スプレーにも用いられているものであるこ
とからすると,同鑑定結果はスプレーを眼鏡付近に吹き付けられたとのFの供
述と整合するものである。
弁護人は,眼鏡に付着していた成分はスプレー以外の化粧品類などにも使用
されており,同付着が必ずしもスプレー噴射の裏付けにはならないことや,仮
にスプレー使用により付着したとしても,本件の際に付着したとは限らないと
主張するが,証拠写真から認められる微粉末の付着状況をみても,スプレーの
噴射で付着したとみるのが自然であり,かつ,Fがこれを放置したまま警備業
務に就いていたとは考えにくく,本件現場において付着したと考えるのが自然
である。
また,Fの述べる転倒状況は,U医師の診察により認められるFの受傷状況
,。によく合致しておりその述べるような経緯で傷害を負ったものと認められる
これに対し,被告人は,AをGから引き離そうとしてGに対しスプレーを振
りかけたが,Fに対しては何ら攻撃はしていないなどと供述する。しかしなが
ら,スプレーを手に持って自動車から降りた際に被告人の近くにいたのはGで
はなくFであり,その時点ではFは被告人らに対する逮捕意思を失ってはいな
,,,かったのであってFが被告人から何らの攻撃も受けていないのに被告人が
Fに遮られることなくGに近づき,その後の被告人とGとのもみ合いの際にも
Fによる加勢がなかったというのはいかにも不自然である。そして,被告人の
述べるような経緯では,Fがなぜ上記傷害を負ったのかについて,その原因が
合理的に説明できない加えてAは検察官に対し被告人と合流後にお。,,,,「
ばちゃん二人にスプレーを吹き付けた」旨話したと述べているところ,同供。
述の信用性は高く(Aは,公判廷において,おばちゃん二人だとは聞いていな
い旨供述するが,全体的に被告人をかばおうとする態度がみてとれ,その信用
性は低い,被告人の供述は,Aの上記供述と矛盾している。。)
以上からすると,上記F供述の信用性は高く,この点に関する被告人供述は
信用できず,被告人のFに対する攻撃は,Fの上記供述どおりであり,これに
よって,Fが転倒して前記傷害を負ったものと認められる。
3Fに対する暴行の程度(逮捕を断念させる程度といえるか)
以上を前提に,Fに対する暴行の程度について検討する。
上記認定のとおり,被告人は,自動車から降りるなり,近くにいたFの着衣
の左袖を持ち,眼鏡付近を目掛けてスプレーを二,三回左右に振るようにして
2秒間くらい噴射している。被告人が犯行に用いたスプレーはいわゆる催涙ス
,,プレーの類ではないものの目に入れば相当の痛みや刺激を感じるものであり
,,何よりも相手の立場からすると左袖をつかまれて容易に逃げられない状態で
至近距離から何の成分が入っているか分からないものを噴射されているのであ
って,驚愕と恐怖は非常に大きかったと容易に想像される。結局,Fはスプレ
ーをよけようとして転倒して右膝部打撲の傷害を負い,その後起き上がったも
のの,被告人とGとのもみ合いに加勢することはなかったのであり,その時点
では既に逮捕意思を喪失していたものと認められる。以上の事情に照らすと,
被告人のFに対するスプレー噴射行為は,一般人の立場からみても,逮捕を断
念させる程度の暴行であったと認められる。
したがって,判示のとおり,Fに対する強盗致傷罪が成立する。
第4Gに対する暴行について
1Gの傷害
U医師は,公判廷において,Gについては,左肘外側部に打撲と腫れが,右
小指に擦過創があり,約7日間の安静加療が必要な左肘関節部打撲血腫,右小
指擦過傷と診断した,その状態からして診察の一,二時間程度前に受傷したも
のと思う旨証言する。その診断内容に不自然・不合理な点は見当たらず,捜査
官が撮影した写真に写る当該部位の様子とも合致する。そうすると,上記受診
の際には,Gは判示の傷害を負っていたことが認められる。Gは,本件以前に
は上記傷害を負っていなかった旨述べているところ,その供述は受傷時期が新
しいとのU医師の診断にも沿うものであり,同傷害は,本件が起きたd店屋上
駐車場での出来事に起因するものと推認される。
2Gに対する被告人の暴行態様及び傷害結果との結びつき
Gは,当公判廷において「Fの次は自分に来ると思い,Aの腰の辺りに当,
。,,てていた手を離したそしてスプレーが顔にかからないように顔を下に向け
被告人を逃がさないように,被告人のおなかのベルトの辺りを前寄りに体重を
かけながら両手で持った。このとき,左手は携帯電話を持ったままでつかむ状
態だった。被告人から頭頂部右側あたりにスプレーを吹き付けられたが,髪の
毛をつかまれたという認識はない。一生懸命被告人のおなかのベルトの辺りを
持っていたが,持ちきれなくなり,どういう風に転んだのかよく覚えていない
が,左半身を下にして仰向けに近い形で転倒した。転倒した際に車止めに左肘
が当たり,持っていた携帯電話が飛んだ」と述べている。。
また,Fは「起き上がってGの方を見たところ,Gは下を向いた状態で前,
寄りに体重をかけながら,被告人の腰の辺りを両手で持っていた。被告人はそ
のGの髪の毛を両手でつかんでいたように見えた。自分には,被告人がGを突
き飛ばしたように見えた。Gは仰向けに転倒し,被告人は走って逃走した」。
と述べている。
以上の両名の供述は,少なくともGが頭を下げるような形で被告人ともみ合
いになり,その後,Gが仰向けに転倒したという点では合致している。また,
Gが述べる受傷経緯は,前記認定の傷害の部位や程度のほか,Gの携帯電話に
傷が付いていることと整合するものである。そうすると,Gが被告人ともみ合
いになり,その際に被告人から何らかの暴行(有形力の行使)を受けたことで
仰向けに転倒し,判示の傷害を負ったものと認められる。
次に,被告人がGに対し,スプレーを噴射した以外にどのような暴行を加え
。,たかについて検討するGが被告人とのもみ合いの中で仰向けに転倒したこと
,,もみ合いになった際にGが前のめりに体重をかけていたことなどからすれば
検察官が主張するように,被告人がGを突き飛ばすなどして仰向けに倒したと
も考え得る。他方,被告人がGの胸付近を突き飛ばしたり押し倒したりするよ
うな強度の暴行を加えたとすれば,当然相手方であるGの記憶にも残るはずで
あるのに,頭部を打ち付けたわけでもないGがその暴行を全く記憶していない
というのも不自然な感を否めない。また,Fも,被告人がGを突き飛ばしたよ
うに見えたと供述するが,その内容は具体性を欠くあいまいなものである。F
の供述は,上記のとおり,被告人がGの髪の毛をつかんでいるように見えたと
,。,いうものであるがこの点はGの供述とは一致していない前記認定のとおり
当時,Fはスプレーを噴射され,眼鏡には白色系微粉末が広範囲に付着してお
り,必ずしも視野が良好ではなかったと推察され,また,突然スプレーを噴射
されて転倒したこともあり,動揺していた可能性も高いことから,正確にその
後の状況を記憶していたかについて疑問も残る。現に,Fは事件直後に被告人
のGに対する暴行について,後方に引きずり倒した旨述べていて,公判供述と
の食い違いもみられる。そうすると,Gへの暴行に関するFの公判供述をその
まま信用することはできない。
,,,以上からすると検察官が主張するようなGの胸部を手で突き飛ばしたり
押し倒したりするような明確かつ強度の暴行があったとまでは断定できない。
他方で,被告人がGともみ合っていた間に,Aが車両を運転して現場から逃
走しており,被告人としては,自分も一刻も早く現場から逃げなければならな
いと考えていたことは容易に想像され(現に,その後走って逃げている,。)
被告人を逃がすまいとしてその体をつかんでいたGの手を振りほどいて引き離
そうとしたと認めるのが相当である(なお,Gの手を振り払う暴行を加えたこ
と自体は被告人も認めている。そして,被告人がGの手を振りほどいたこ。)
とで,Gがバランスを崩して仰向けに転倒することは,十分考えられる。
そうすると,被告人がGの手を振りほどいて引き離すなどしたことで,Gが
転倒するに至ったものと認められる。
被告人は,つかみかかってくるGの手を振り払うなどの暴行を加えたことは
認める一方,Gは転倒していないなどと述べるが,同供述によると,Gがなぜ
上記傷害を負ったのかについて合理的に説明できない。
以上からすると,被告人は,Gに対し,その頭部にスプレーを噴射した上,
その手を振りほどいて引き離すなどの暴行を加え,これにより,Gが転倒して
前記傷害を負ったと認められる。
3Gに対する暴行の程度(逮捕を断念させる程度といえるか)
以上を前提に,Gに対する暴行の程度について検討する。
まず,Gの頭部にスプレーを噴射した点について検討するに,本件で使用さ
れたスプレーは,家庭等で通常用いられる防臭スプレーや化粧品用スプレーの
類のものであると推察され,前記のとおり,目に入ると痛みや刺激があるもの
の,頭部に噴射しても直ちには人体への危険等はなかったものと認められる。
現に,Gは,Fに対するスプレーの噴射を見て,自分も使用している整髪スプ
レーではないかと思い,顔に浴びないように警戒しながら,被告人を捕まえよ
うと向かって行き,もみ合いの状態になったもので,G自身,実際にスプレー
を噴射されても逮捕を断念した形跡はなかったと認められる。
そして,Gが転倒する際に被告人が加えた暴行は,ベルトの辺りをつかんで
いる手を振りほどいて引き離すなどしたものであって,それ自体,それほど強
度の暴行ではない。Gは被告人の逮捕をあきらめた理由については,起き上が
った際には被告人は店内出入口のほうへ向かっており,間に合わないと思った
からだと述べていて,逮捕意思が暴行によって失われたとは述べていない。
そうすると,被告人が当時35歳の男性であるのに対し,Gは当時49歳の
女性で,犯行場所は,当時,人が余りいない屋上駐車場であったこと,実際に
被告人が逮捕されずに現場から逃走できたことなどの検察官が主張する事情を
考慮しても,その暴行は,一般人の立場からみても,いまだ逮捕を断念させる
程度のものであったとは評価できない。
したがって,Gに対する関係では強盗致傷罪は成立せず,傷害罪が成立する
にとどまる。
第5結論
以上より,判示第4の2,3のとおり,Fに対する強盗致傷罪及びGに対す
る傷害罪が成立する。
(確定裁判)
被告人は平成19年3月15日高松地方裁判所で窃盗罪により懲役1年6月4,(
年間執行猶予)に処せられ,その裁判は同月30日確定したものであって,この事
実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1ないし第3,第4の1,第5の2,第6の1ないし3,第9の
2,第10の1の各所為はいずれも刑法60条,235条に,判示第4の2の所為
は刑法60条,240条(負傷させた場合,238条)に,判示第4の3の所為は
刑法60条,204条に,判示第5の1,第8,第10の2,3の各所為はいずれ
も刑法235条に,判示第7の所為は刑法97条に,判示第9の1の所為は刑法6
1条1項,103条にそれぞれ該当するところ,判示第1ないし第3,第4の1,
3,第5の1,2,第6の1ないし3,第8,第9の1,2,第10の1ないし3
の各罪について所定刑中いずれも懲役刑を,判示第4の2の罪について所定刑中有
期懲役刑をそれぞれ選択し,判示第1の罪は前記確定裁判があった窃盗罪と刑法4
5条後段の併合罪であるから,刑法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示第
1の罪について更に処断することとし,判示第2以下の各罪は刑法45条前段の併
合罪であるから,刑法47条本文,10条により最も重い判示第4の2の罪の刑に
法定の加重をし,それぞれの刑期の範囲内で,被告人を判示第1の罪について懲役
6月に,判示第2以下の罪について懲役7年に処し,刑法21条を適用して未決勾
留日数中300日を判示第2以下の罪の刑に算入することとし,訴訟費用について
,。は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする
(一部無罪の理由)
本件公訴事実中道路交通法違反は「被告人は,平成20年6月18日午後7時,
42分ころ,香川県丸亀市内株式会社l駐車場(以下「本件駐車場」という)に。
おいて,軽四乗用自動車を運転中,自車右前部を同所に駐車中の有限会社p所有の
普通貨物自動車の右後部に衝突させ,同車のリヤバンパー等を損壊する交通事故を
起こしたのに,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄り
の警察署の警察官に報告しなかった」というものであり,後記の「交通事故」該当
性を除き,事実関係自体は証拠上明らかに認められる。
ところで,本件公訴事実は,道交法72条1項後段のいわゆる報告義務違反の罪
であり,同条項の「交通事故」は,同法2条1項1号所定の「道路」における車両
等の交通に起因するものに限られることから,本件駐車場が「道路,具体的には」
「一般交通の用に供するその他の場所」に該当する必要がある。
そこで検討するに,本件駐車場の形状は別紙現場見取図(略)のとおり,株式会
社lの敷地内南西側に位置し,北側には市道に通じる通路があり,西側の市道に面
する形で,白線で区画された東西2列,合計12台分の駐車区画があり,同駐車区
画は,主として同社経営者家族や従業員,同社を訪れる顧客や知人等の車両の駐車
場所として利用されている。そして,北側通路の入口には「宅地内につき通り抜不
可」という看板が設置されていて,西側市道との間には門扉等の障害物はないもの
の,駐車車両が西側市道に面する部分に6列分全て駐車すると,西側市道からの出
。,,入りや北側通路からの通り抜けは事実上不可能となる現に本件当時においても
平成21年6月30日ころの捜査時点においても,車両が6列分の枠に駐車してお
り,通り抜けできない状態であった。
そして,上記会社経営者であり,本件駐車場の南側に居宅を構えるVの供述によ
ると,必ずしも近隣住民が通路として同敷地を通過することを拒否しているわけで
はなく,以前には近くにある寺の参拝客も利用しており,現在も人や車両が通行す
ることもあるとのことであるが,平成18年に西側市道の拡張工事が行われ,寺の
駐車場も整備されたことで,以前に比べて本件駐車場を通り抜けに利用する人は相
当に減少していることが同供述からもうかがわれ,少なくとも,本件当時,同所が
不特定多数の人や車両の利用に供されていたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり,本件駐車場は,不特定多数の人ないし車両等が常時自由に通り抜
けができるような客観的状況にはなく,かつ,その利用実態も,主として上記会社
関係者など,特定の狭い範囲の者が車両の駐車場として利用していたと認められ,
道路交通法における規制の対象とし,交通の安全と円滑を図り,通行する自動車の
運転者や歩行者の生命,身体に対する危険を防止する必要性が高い場所とはいえな
い。
したがって,本件駐車場は「一般交通の用に供するその他の場所」には該当せ,
ず,被告人による車両の接触事故は同法72条1項の「交通事故」に該当しない。
よって,被告人の行為は罪とならないから,刑事訴訟法336条により被告人に対
し無罪の言渡しをする。
(量刑の理由)
本件は,①被告人がAらと共謀の上,あるいは単独で,ナンバープレートやベビ
ーカー等の窃取を多数回にわたって繰り返した窃盗(判示第1ないし第3,第4の
1,第5の1,2,第6の1ないし3,②Aと共謀の上,被告人らの窃盗行為を)
発見し,声をかけた警備員2名に暴行し,傷害を負わせた強盗致傷,傷害(判示第
4の2,3,③勾留中に逃走し,K及びAに自己を隠避することを決意させ,そ)
の逃走のためにAらと共謀の上,あるいは単独で,ナンバープレート等を窃取した
という単純逃走(判示第7,犯人隠避教唆(判示第9の1,窃盗(判示第8,))
第9の2,第10の1ないし3)の各事案である。
まず①の窃盗の事案についてみると,被告人らは盗品を換金して生活費や借金返
済に充てるためなどの理由で各犯行に及んだもので,その動機は身勝手で酌量すべ
きものはない。その態様は,一方が見張り役,他方が実行役と役割を分担し,互い
の携帯電話を通話中にしてイヤホンで耳に接続し,連絡を取り合って見付からない
ように注意した上で犯行に及ぶなど,計画的で非常に手慣れている。被告人らは,
大型ショッピングセンター等から衣類やベビーカーなどインターネットオークショ
,,ンで売却できる商品を選んで窃盗を繰り返していたものでありその供述によると
起訴分以外にも中四国の各地で多数回同様の行為に及んでおり,職業的,常習的犯
行といえる。また,ナンバープレートについては,自動車で移動する際に見付から
ないようにするため,付け替え用のものとして他人の自動車から窃取したもので,
いずれも身勝手な犯行である。
,,,次に②の強盗致傷傷害の各事案についてみると被告人らの窃盗行為を発見し
逮捕しようとした警備員の顔面にスプレーを噴射するなどして逮捕を免れようとし
た行為は,相手に多大な恐怖を与える悪質なものである。
次に③の単純逃走,犯人隠避教唆,窃盗の各事案についてみると,単純逃走及び
犯人隠避教唆については,勾留されているにもかかわらず,留置施設からの逃走を
企て,施設からの脱出に成功するや,共犯女性らに助けを求め,車で迎えに来させ
たもので,自らの刑責を免れようしたその態度は厳しい非難に値する。そして,窃
盗については,逃走や逃走中の生活等に用いるために,自転車,衣類,ナンバープ
レート,自動車などを手当たり次第に盗んだもので,他人の迷惑を全く顧みない身
勝手な犯行である。なお,弁護人は,留置施設からの逃走は,施設側に重大な管理
違反があり,その結果,被告人の逃走とその後の犯行を惹起したと主張するが,被
告人が逮捕時より何とかして逃げたいとの強固な意思を持ち,同房者に爪切りを促
して看守のすきを作ったり,布団を盛り上げて房内で既に就寝しているように装っ
たり,ティッシュを廊下にまいて看守の注意をそらすなど,極めて綿密かつ慎重に
事を運んで逃走を実現していることからすると,留置施設側の落ち度は被告人の刑
責を軽減する理由にはならない。
,,,そして①ないし③を通じ盗難の被害総額は合計180万円以上に達しており
結果は非常に重大である。
加えて,判示第2以下の各犯行は,いずれも執行猶予中の犯行であり,被告人の
規範意識の鈍麻は著しく,勾留中に逃走を企てたり,公判中にも最も刑罰の重い強
盗致傷について不合理な弁解を弄するなど,刑罰を免れ,あるいはこれを不当に軽
減しようとする態度もみてとれる。
以上からすれば,被告人の刑事責任は相当に重い。
他方で,窃盗の事案について,被告人は共犯者らと共に被害回復に努め,約40
万円の弁償をして,一部の被害者とは示談が成立しているほか,発見,返還された
被害品も相当数あること,強盗致傷,傷害の被害者らが負った傷害は比較的軽く,
被告人から治療費や慰謝料として各10万円を超える額が支払われて示談が成立し
ていること,強盗致傷以外の事件については犯行を素直に自白していること,被告
人の帰りを待つ妻子がいることなど,被告人のために酌むべき事情もある。
そこで,以上の事情を総合考慮の上,主文の刑を科すのが相当と判断した。
(求刑・懲役10月及び懲役10年)
平成21年7月30日
松山地方裁判所刑事部
村越一浩裁判長裁判官
中村光一裁判官
藤原未知裁判官

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