弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 人身保護法による釈放の請求を排斥した決定に対しては、憲法違反を理由とする
ときに限り、最高裁判所に抗告の申立をすることができる(当裁判所昭和二三年(
ク)第三〇号同年一〇月二九日第二小法廷決定・民集二巻一一号三九一頁、同昭和
三九年(オ)第一一二九号同年一一月一九日第一小法廷判決・裁判集民事七六号二
一七頁参照)。
 本件抗告人は、その主張によると、アメリカ合衆国国籍を有する外国人であるが、
沖繩から空路羽田空港に到着し本邦に入国しようとしたところ、入国審査官から旅
券に上陸許可の証印を受けられず、口頭審理の結果、特別審理官からも出入国管理
令七条一項二号に規定する上陸のための条件に適合しないとの認定を受けたため、
右認定処分の取消を求める訴訟を提起するとともに、その効力の停止を求め、東京
高等裁判所から右認定処分の効力を取消訴訟の判決確定に至るまで停止する旨の決
定を得たのに、相手方らはなお抗告人に対し上陸ないし仮上陸の許可を与えず、上
陸審査手続のための待機場所とされたDホテルから一歩でも外出すれば不法上陸の
理由で収容する旨通告し、入国を希望する抗告人をして右ホテル内に滞留を余儀な
くさせているというのである。そして、行動を制限された右状態が身体の違法な拘
束であるとして人身保護法に基づき釈放を求めた抗告人の請求を棄却し救済を拒ん
だ原決定をもつて、憲法三四条に違反するものであるというのが、本件抗告の理由
とするところである。
 しかし、国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量によつて決定
しうるものとされており、憲法は外国人の本邦への入国についてなんら規定してい
ないのであつて、右国際慣習法に従うことが憲法の理念に反するものではなく、し
たがつて、出入国管理令が、外国人の入国の公正な管理・規制を目的として、入国
および上陸のための条件ならびにその審査手続を定め、右条件に適合しているもの
として上陸許可の証印を受けないかぎり、原則として外国人の上陸を禁止している
ことの結果として、外国人が自由に本邦に上陸することをえない状態におかれてい
るからといつて、憲法の保障する自由を制限するものということができないことは、
当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴して明らかである(昭和二九年(あ)第三五九四
号同三二年六月一九日大法廷判決・刑集一一巻六号一六六三頁)。
 抗告人は、前記のとおり、Dホテルから外出することができない状態におかれて
いることをもつて、身体の自由を制限されていることになるというが、抗告人が右
ホテルに留まるかぎりいまだ本邦に上陸したものとはみなされないから、同人が右
ホテルから本邦内に向け外出することの自由(国外に退去するためにホテルを離れ
ることを制限されているものでないことは、抗告人も認めるところである。)とは、
ひつきよう、上陸許可の証印を受けないままで本邦に上陸することの自由をいうこ
とに帰する。出入国管理令の適用上、抗告人にかかる自由は認められておらず、そ
のことが憲法に違反するものでないことは、前述したとおりであり、裁判所により
口頭審理認定処分の効力が停止された本件事実関係のもとにおいても、もとより別
異に解すべき理由は存しない。してみれば、抗告人が本邦内に向けホテルから外出
することができない状態におかれていることをもつて所論のように身体の自由の制
限すなわち拘禁にあたるとは解しがたく、これが拘禁にあたることを前提とする憲
法三四条違反の主張は、その前提を欠き、排斥を免れない。
 よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のと
おり決定する。
   昭和四六年一月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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