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主文
1第一審被告の控訴に基づき,原判決中,第一審被告の敗訴部
分を取り消す。
2上記部分に係る第一審原告Aの請求を棄却する。
3第一審原告B及び第一審原告Aの本件控訴をいずれも棄却す5
る。
4訴訟費用は,第1,2審を通じ,第一審原告B及び第一審原
告Aの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨10
1第一審被告の控訴の趣旨
主文1,2項同旨
2第一審原告B及び第一審原告A(以下,併せて「第一審原告ら」という。)
の控訴の趣旨
(1)原判決中,第一審原告らの敗訴部分を取り消す。15
(2)第一審被告は,第一審原告Bに対し,5500万円及びこれに対する
平成29年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
(3)第一審被告は,第一審原告Aに対し,2090万円及びこれに対する
平成29年2月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払20
え。
(4)第一審被告は,別紙1記載の謝罪広告を同記載の条件で,別紙2記載
の新聞の各朝刊社会面及びCに掲載せよ。
第2事案の概要(略語は,新たに定義しない限り,原判決の例による。以下,
本判決において同じ。)25
1本件は,第一審原告らが,第一審被告に対し,第一審被告が平成29年7
月27日発行の週刊誌「C」に掲載した記事等によって,第一審原告らの名
誉が毀損されたと主張して,民法709条に基づき,第一審原告Bについて
5500万円,第一審原告Aについて2200万円の各損害の賠償及びそれ
ぞれ平成29年9月22日(不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日)
から支払済みまで民法(平成29年法律第44号により改正前のもの)所定5
の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉回復措置として民法72
3条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案である。
2原審は,第一審原告Aに対しては名誉毀損が成立するが,第一審原告Bに
対しては成立しないと判断し,第一審原告Aの請求を110万円及びこれに
対する遅延損害金の支払を認める限度で認容し,その余の請求を棄却し,第10
一審原告Bの請求を全て棄却した。これに対し,第一審被告及び第一審原告
らがそれぞれ控訴した。
3争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり付
加訂正し,後記4のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判
決の「事実及び理由」中,「第2事案の概要」1ないし3(原判決2頁115
6行目から11頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁21行目の「目的とする」の次に「認定」を,同頁22行
目の「法人である。」の次に「第一審原告Bは,平成17年5月30日
付けで,国税庁長官から,有効期間を平成17年6月1日から平成19
年5月31日までとして認定特定非営利活動法人として認定され,平成20
29年4月27日当時も認定特定非営利活動法人であった。」を,同頁
23行目の「甲1」の次に「,甲16」を,それぞれ加える。
(2)原判決3頁9行目の「35ページに,」の次に「本判決別紙3のとお
り,」を加える。
(3)原判決5頁7行目に改行の上,次のとおり加える。25
「(4)特定非営利活動促進法(以下「促進法」という。)等の規定
促進法28条及び54条は,本判決別紙4のとおり,同法施行規則3
2条は,本判決別紙5のとおり,それぞれ定めている。」
(4)原判決5頁10行目の「認められた場合に,」の次に「その前提事実
について」を加える。
(5)原判決5頁12行目を「(3)損害の発生及びその額並びに謝罪広告の5
必要性」と改める。
(6)原判決6頁18行目から19行目を次のとおり改める。
「第一審原告Aによる第一審原告Bからの取得は,「A」に対してで
はなく,「D」に対する業務委託契約の支払という名目で行われている
とともに,法律上の記載義務に反してその取引が報告書に記載されてい10
ないため,第一審原告Bの内部関係者にも,報告書を見た市民にも,第
一審原告Aが第一審原告Bから理事長報酬以外に金員を取得しているこ
とが明らかでない。そして,本件記事等は,第一審原告Aが,Dを経由
させる方法により,第一審原告Bから理事長報酬以外に約7000万円
を自らの口座に送金させてひそかに自分のものにしたことを指摘するも15
のである。」
(7)原判決7頁4行目の「認められた場合に,」の次に「その前提事実に
ついて」を加える。
(8)原判決10頁1行目の「認識しえた」を「認識し得た」と改める。
(9)原判決10頁8行目を「(3)争点(3)(損害の発生及びその額並びに20
謝罪広告の必要性)について」と改める。
(10)原判決10頁10行目に改行の上,次のとおり加える。
「本件目次及び本件見出しには,「元E次官が顧問B理事長に7千
万円“横領”疑惑」と記載され,第一審原告Bそのものが対象とされて
いる。また,本件記事等は,2003年以降,具体的には約15年とい25
う長期間にわたって,第一審原告Bは,第一審原告Aのダミー会社であ
る「D」に業務委託料として総額7000万円を支払い,同金額を第一
審原告Aは横領していたというのであって,これは第一審原告Aの個人
的非行と捉えられる内容ではなく,第一審原告Bのガバナンスの信用性
に直接関わるものである。」
(11)原判決10頁末行目に改行の上,次のとおり,それぞれ加える。5
「ウ謝罪広告
慰謝料請求の本質はあくまで金銭の支払請求であり,それによる
名誉の回復というのも,その間接的,付随的な事実上の効果にすぎ
ず,これにより完全に名誉が回復されるというものでは決してない。
したがって,本件において,第一審被告に謝罪広告を命じること10
は,第一審原告Aに名誉を実効的に回復させるために必要不可欠で
ある。」
4当審における当事者の主張
(1)第一審被告
仮に本件記事等が意見ないし論評ではなく,事実の摘示をしていると15
認められるとしても,その事実については,従前,意見ないし論評の前
提事実に関して主張していたとおり,真実性又は相当性が認められる。
(2)第一審原告ら
本件記事等は,意見ないし論評ではなく,事実の摘示をしているので
あり,その事実については,従前,意見ないし論評の前提事実に関して20
も主張していたとおり,真実性及び相当性が認められない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,第一審原告Bの請求は,原審同様棄却すべきであると判断す
るが,第一審原告Aの請求は,原審と異なり,全て棄却すべきものと判断す
る。その理由は,次のとおりである。25
2本件記事等の掲載に至る経緯等は次のとおり付加訂正するほかは,原判決
の「事実及び理由」の「第3争点に対する判断」1(原判決11頁8行目
から14頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決12頁5行目の「平成18年8月1日」を「平成17年4月1
日」と改める。
(2)原判決12頁7行目に改行の上,次のとおり加える。5
「(3)ア本件掲載誌発行時にC編集部の契約記者であったF(以下「F
記者」という。)は,平成29年6月頃,第一審原告Bの内部関
係者と面談して,アルバイトに対する労働基準法違反とかお金の
流れが不透明であるとか問題点の指摘を受けるとともに内部資料
(出納帳,スタッフ給与書類,源泉徴収票等)を入手して,第一10
審原告Bに関心を持ち,同年7月13日頃,本件記事等の取材に
着手した。
F記者は,第一審原告Bの平成26年度の事業報告書(乙1の
1),平成27年度の事業報告書(乙2の1),平成26年度及
び平成27年度の各54条書類(乙4,5の各1)を取得した。15
前記各54条書類には,それぞれ「調査研究・編集費」として4
66万6656円,「調査研究・編集費業務委託料」として54
5万2623円が支出されていることが記載されていたものの,
支出先は黒塗りされていた。また,前記各54条書類には,「役
員,社員,職員若しくは寄附者又はこれらの者の親族等との取引」20
には,いずれも「なし」と記載されていた。
一方,F記者が別途入手した平成26年度の54条書類(乙8)
には墨塗がなく,「調査研究・編集費」としての466万665
6円の支出先は,「D」「東京都足立区ab-c-d-e」と記
載されていた。そして,Dについては,登記が確認できず,その25
所在地は第一審原告Aの前の住所で,Dは第一審原告Aと同一と
判断した。
また,F記者が取材の過程で入手した第一審原告Bの平成27
年4月から平成29年3月までの出納帳(乙14,15の各1な
いし12)によれば,第一審原告Bは,Dに対し,平成27年4
月から同年8月までは毎月38万8888円,同年9月から平成5
29年3月までは毎月50万1169円を,それぞれ支払ってい
ることが判明した。」
(3)原判決12頁8行目の「(3)」から9行目の「という。)」までを「イ
F記者」と改める。
(4)原判決12頁21行目以下の「被告A」を,全て「第一審原告A」と10
改める。
(5)原判決13頁12行目及び同頁18行目の「平成26年度から」をい
ずれも「少なくとも平成26年度から」と改め,同頁17行目の「13
の1」及び同頁20行目の「3の2」の次に,それぞれ「,第一審原告
A」を加える。15
(6)原判決14頁9行目の「問い合わせ」を「問合せを」と改める。
3争点(1)(本件記事等の掲載は,第一審原告らに対する名誉毀損に当たるか)
及び当審における当事者の主張について
(1)第一審原告らは,第一審原告ら主張摘示事実のとおり,本件記事等は,
「第一審原告A(第一審原告Bの理事長)がDなるダミー会社を用いて,20
業務委託料を名目として,同業務の事実がないにもかかわらず,第一審
原告Bから総額7000万円を自己の個人名義の口座に振り込ませて,
同金員を着服し,黒塗りのハイヤーを使用するなどして,上記着服した
金員を費消している」との事実を摘示して第一審原告らの名誉を侵害し
たと主張している。25
これに対し,第一審被告は,本件記事等は,「第一審原告Aが,Dを
経由させる方法により,第一審原告Bから理事長報酬以外に約7000
万円を自らの口座に送金させて,ひそかに自分のものにした」ことを指
摘するものであり,本件記事等にいう「横領」との表現は,法的な見解
の表明であり,「横領の疑惑がある」との表現も法的な見解の表明であ
って,事実を摘示したものではなく,意見ないし論評(本件論評)を表5
明したものであると主張し,仮にそうでないとしても,本件各記事の摘
示する事実については,真実性又は相当性が認められると主張している。
(2)名誉毀損の判断基準等について
そこで,本訴においては,事実摘示による名誉毀損の場合と,意見な
いし論評による名誉毀損が問題になり,その違法性の判断基準について10
検討を加える必要がある。
そこで,まず名誉毀損を理由とする損害賠償請求について検討するに,
事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する
事実に係り,かつ,その目的がもっぱら公益を図るものである場合に,
摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があっ15
たときには,その行為には違法性がなく,仮にその事実が真実であるこ
との証明がなくても,行為者においてその事実を真実と信ずるについて
相当の理由があれば,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立し
ないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和37年(オ)第81
5号昭和41年6月23日第1小法廷判決・民集20巻5号1118頁20
参照)。もっとも,書籍の執筆,出版を含む表現行為一般について公益
を図ることが唯一の動機であることが必要であるとすることは,実際上
困難であるから,ここにいう「その目的がもっぱら公益を図るものであ
る場合」というのは,書籍の執筆,出版について,他の目的を有するこ
とを完全に排除することを意味するのではなく,その主要な動機が公益25
を図る目的であれば足りると解するのが相当である。
また,ある書籍中の記述が他人の社会的評価を低下させるものである
かどうかは,当該記述についての一般の読者の普通の注意と読み方とを
基準として判断すべきである(最高裁判所昭和29年(オ)第634号
昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
ところで,公然と事実を摘示した場合に限定する刑法230条1項の5
名誉毀損罪と異なり,民事上の名誉毀損は,人の品性,徳行,名声,信
用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を違法に低下させ
ることによって成立するものであり,侵害の手段は格別限定されないか
ら,意見ないし論評によっても,民事上の名誉毀損は,成立し得る。
そして,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀10
損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その
目的がもっぱら公益を図ることにあった場合に,その意見ないし論評の
前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があっ
たときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱した
ものでない限り,その行為は違法性を欠くものというべきである(最高15
裁判所昭和55年(オ)第1188号昭和62年4月24日第2小法廷
判決・民集41巻3号490頁参照)。そして,仮にその意見ないし論
評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも,行為
者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その
故意又は過失が否定され,不法行為は成立しないものと解するのが相当20
である(最高裁判所平成6年(オ)第978号平成9年9月9日第3小
法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。
(3)本件記事の性格の確定の必要性,本件記事等が事実を摘示したもので
あることは,次のとおり付加訂正するほかは,原判決「第3争点に対
する判断」2(1)アないしウ(14頁22行目から17頁13行目)のと25
おりであるので,引用する。
ア原判決14頁22行目の「問題とされている表現が」を「以上(2)
のとおり,問題とされている表現が」と改める。
イ原判決14頁24,25行目の「必要となるが,」の次に「前記(2)
のとおり,」を加え,15頁1行目の「(最高裁」から同頁2行目の
「参照)」までを削る。5
ウ原判決16頁1行目の「原告Aが,」から4行目の「存在する」ま
でを次のとおり改める。
「第一審原告Bの理事長である第一審原告Aが,第一審原告Bの事業
報告書に役員及びその近親者との取引については明示しなければなら
ないにもかかわらず,不正にDなるダミー会社を経由させる方法によ10
り,第一審原告Bから正当な報酬以外に7000万円を自らの口座に
送金させて不正な取得をしたことを強くうかがわせる事実が存在する」
エ原判決16頁24行目の「不正な方法により」から同頁25行目の
「のであって,」までを「不正な手段によりひそかに領得する行為自
体を表現する場合にも使用され,そのように理解されるのであって,」15
と改める。
オ原判決16頁26行目,17頁1行目の「横取りした」を「ひそか
に領得した」と改める。
カ原判決17頁6行目の「会社成り」を「会社なり」と改める。
キ原判決17頁8行目の「横取り」を「ひそかに領得」と改める。20
(4)本件記事等による事実摘示が第一審原告Aの名誉を毀損することは,
原判決17頁16行目の2つの「横取り」をいずれも「ひそかに領得し
た」と改めるほか,原判決「第3争点に対する判断」2(2)(17頁1
4行目から17頁19行目)のとおりであるので,これを引用する。
(5)本件記事等による事実摘示が第一審原告Bの名誉を毀損するか否かに25
ついて検討するに,本判決で付加訂正の上で引用する原判決第3・2(1)
イで判示したとおり,本件記事等は,第一審原告Bの理事長である第一
審原告Aが,第一審原告Bの事業報告書に役員及びその近親者との取引
については明示しなければならないにもかかわらず,不正にDなるダミ
ー会社を経由させる方法により,第一審原告Bから正当な報酬以外に7
000万円を自らの口座に送金させて不正な取得をしたことを強くうか5
がわせる事実が存在するとの事実を摘示するものであるところ,それは,
社会的に適正な運営がなされることが求められる認定特定非営利活動法
人である第一審原告Bにおいて,不適切な運営がなされているとの印象
を与えるものである。
したがって,本件記事等は,第一審原告Bに対する関係においても,10
その社会的評価を低下させる名誉毀損に当たると認められる。
(6)そこで,次に本件記事等が事実を摘示し,第一審原告らの名誉を毀損
したことを前提に,前記(2)に記載した違法性阻却事由について検討を加
える。
まず,本件記事等が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的15
がもっぱら公益を図るものであるかについて検討するに,第一審原告B
は多額の寄付金や補助金により運営されているのであるから(認定事実
(5)),これについて不適切,不公正な金銭の流れが生じていないかどう
かは,公衆の正当な関心が寄せられる事項であり,本件記事等で報じた
内容は,公共の利害に関する事実であると認められる。そして,第一審20
被告は,報道機関として公衆の正当な関心に応えることになると判断し
て本件記事等を掲載したもので,本件記事等の掲載は公益を図る目的に
基づくものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。
よって,事実の公共性及び第一審被告の公益目的も認められる。
(7)ア次に本件記事等により摘示された事実がその重要な部分において真実25
であるか,仮にそうでないとしても,第一審被告において,その事実
を真実であると信じるについて相当な理由があるかについて判断する。
本件記事等が摘示している事実の重要な部分は,①第一審原告Bが
Dに業務委託料として月額約50万円を支払っていること,②Dは第
一審原告Aのダミーであること,③平成15年から始まったDとの業
務委託に基づいて第一審原告Bから支払われた金額は,推計で約705
00万円に上ること,④特定非営利活動法人においては,代表者が自
分の会社と取引をする場合は,事業報告書等にこれについて記載する
義務があるにもかかわらず,第一審原告Bの事業報告書等には,同項
目に該当する取引先としてDの記載がなく,促進法違反の疑いがある
こと,⑤以上によれば,第一審原告Bにおいては金銭の流れが不透明10
で,第一審原告Aには,理事長報酬以外に不当に報酬を得ている可能
性があり,「“横領”疑惑」がある,ということといえる。そこで,
以下,これらの各事実(以下,それぞれ「本件記事等摘示事実①」な
どという。)について検討する。
イ第一審原告Bは,Dこと第一審原告Aに対し,平成17年4月1日15
から平成29年3月31日までにおいて,業務委託報酬として合計5
923万9899円の業務委託報酬を支払ったものであり(原判決第
3・1(2),以下,原判決第3・1が認定する事実を「認定事実」とい
う。),その1か月の平均額は,約41万1388円となる(甲10)。
また,第一審原告Bの担当者Gは,平成27年3月までの月額の業務20
委託料を問うF記者に対し,基本的には月額44万円で推移している
などと回答したこと(認定事実(3))も認められる。
そうすると,平成17年4月1日から平成29年3月31日までの
業務委託料の1か月の平均額は約41万1388円と50万円を下回
り,不正確な面はあるものの,第一審原告Bの担当者の認識は月額425
4万円で推移しているものであり,また本件記事等ときには
月額50万1169円が支出されているのであるから,これが重大な
誤りであるとまではいい難い。
以上によれば,第一審原告BはDに平均して業務委託料として月額
40万円を超え,50万円未満の多額の金員を支払っていると認めら
れ,本件記事等摘示事実①は,その摘示された重要な部分において真5
実であると認められるというべきであり,仮にそうでないとしても,
出納帳の検討,Gに対する取材結果等からみても,第一審被告が本件
記事等摘示事実①が真実であると信ずるには相当な理由があったとい
うべきである。
ウDは,第一審原告Aが個人で受注する仕事の収入を管理するために10
設立した個人事務所の屋号であり(認定事実(1)),第一審原告Bとの
取引のみにその名称が使用され,第一審原告A個人名義の口座と第一
審原告Aの自宅を使用して活動し,従業員はいないというのである(乙
8,13,第一審原告A14,15,17,19頁)。また,前記の
とおり,Dは,第一審原告Aの屋号であって会社ではないが,本件記15
事は,Dについて「ダミー会社」と表現する部分があるものの,他方
で,これに会社登記がないことも明記しており(原判決第2・1(2)イ
(エ),以下,原判決第2・1記載の事実を「前提事実」という。),要
するに,全体として,専らDが第一審原告Aとは別個の経済主体であ
るかのように扱われているとの事実を述べていることが容易に理解で20
きる。Dは,第一審原告Aの屋号にすぎないが,第一審原告Bは,こ
れを対外的に明らかにせず,第一審原告Aとは別個の経済主体である
かのような表記をしていたものである(認定事実(4))。そうすると,
これを「第一審原告Aのダミー」と表現した本件記事等摘示事実②は,
真実であると認めるのが相当である。25
よって,本件記事等摘示事実②は,真実性が認められる。
エ本件記事等摘示事実③の枢要部は,第一審原告BがDとの業務委託
契約に基づき推計で約7000万円の支払をしたことにあるところ,
第一審原告Bは,Dこと第一審原告Aに対し,平成17年4月1日か
ら平成29年3月31日までにおいて,業務委託報酬として合計59
23万9899円の業務委託報酬を支払っていた上(認定事実(2)),5
認定特定非営利活動法人としての認定を受ける前である平成16年8
月1日から平成17年3月31日までにも,合計316万円を支払っ
たことが認められ(甲10),以上の合計は,6239万9899円
となる。そして,前記合計額と「7000万円」とは差があり,それ
は不正確な表現と評価できないではないが,そもそも本件記事等では,10
「推計で約」7000万円と表現されているものであり,また,実際
の支払額も6000万円を超え,7000万円未満であるから,本件
記事等摘示事実③の重要な部分に誤りがあるとまではいえない。
また,本件記事等摘示事実③においては,第一審原告BとDとの間
の業務委託関係は平成15年から始まったとしているところ,第一審15
原告BとDは平成16年8月1日に業務委託契約を締結しており(認
定事実(2)),それ以前に両者間に業務委託関係があったことを認める
に足りる証拠はない。しかし,本件記事等摘示事実③の部分は前記の
とおりである上,その経過年数に比較すると1年程度の前記時点のず
れは,本件記事等摘示事実③の重要な誤りとはいえない。20
以上によれば,本件記事等摘示事実③は,その重要な部分において
真実であると認められる。
オ(ア)促進法54条2項3号は,認定特定非営利活動法人は,都道府県
又は指定都市の条例で定めるところにより,前事業年度の収益の明
細その他の資金に関する事項,資産の譲渡等に関する事項,寄附金25
に関する事項その他の内閣府令で定める事項を記載した書類(54
条書類)をその事務所に備え置かなければならないと定め(別紙4),
同法施行規則32条3号ロは,促進法54条2項3号に規定する内
閣府令で定める事項の一つとして,「役員等との取引」を定めてい
る(別紙5)。そして,Hにおける54条書類の書式には,「3取
引の内容に関する事項」欄の「(3)役員,社員,職員若しくは寄附5
者又はこれらの者の親族等との取引」として,その取引の内容を記
載する欄が設けられている(甲11,12,13の1)。
また,促進法28条1項は,特定非営利活動法人は,都道府県又
は指定都市の条例で定めるところにより,前事業年度の事業報告書
等を作成し,これらをその事務所に備え置かなければならないと定10
めている(別紙4)。そして,Hにおける促進法28条関係の事業
報告書の書式には,各年度の「計算書類の注記」の「7役員及び
その近親者との取引の内容」として,その取引の内容を記載する欄
が設けられている(乙1の1,2の1,3の1)。
以上によれば,本件記事等摘示事実④のうち,特定非営利活動法15
人においては,代表者が自分の会社と取引をする場合は,事業報告
書等にこれについて記載する義務があるとの摘示は,真実性が認め
られる。
(イ)第一審原告Bは,平成28年度まで,54条書類の前記(ア)の「(3)
役員,社員,職員若しくは寄附者又はこれらの者の親族等との取20
引」欄には,いずれも「なし」と記載した(認定事実(4))。これは,
促進法54条2項3号,同法施行規則32条3号ロに反するもので
ある。
また,第一審原告Bは,平成28年度まで,促進法28条関係の
事業報告書における計算書類の注記において,前記(ア)の「7役員25
及びその近親者との取引の内容」欄に,「なし」と記載した(認定
事実(4))。これは,Hにおける事業報告書の書式が前記(ア)のとお
りのものであることに照らせば,促進法28条1項に反するもので
あることが推認される。
以上によれば,本件記事等摘示事実④のうち,第一審原告Bの事
業報告書等に促進法違反の疑いがあるとの摘示は,真実であると認5
められる。
(ウ)第一審原告Bは,54条書類の「3取引の内容に関する事項」
欄の「(2)費用の生ずる取引の上位5者」欄には,Dを記載していた
(認定事実(4))。しかし,先に判示したとおり,Dは第一審原告A
の屋号にすぎず,法人格も取得していないのであるから,制度の趣10
旨としては第一審原告Aと書くべきであり,そうでなくとも,Dこ
と第一審原告Aと書くべきである。本件記事は,これを全体として
読むならば,以上のような記載がなされていないことを指摘するも
のであると容易に理解できるところ,54条書類及び事業報告書の
記載は前記(イ)のとおりなのであるから,前記のとおり54条書類に15
Dについて記載した部分があることに触れていないことは,本件記
事等摘示事実④の摘示において重要な部分とはいえない。
(エ)以上に対し,第一審原告Aは,原審における本人尋問において,
要旨,「Hから,Dとの取引を役員との取引として記載しなくてい
いという指示を受けていた。しかし,平成29年に本件記事等が掲20
載されるという問題があってから,改めてHに問い合わせたところ,
今後は記載するように指導があった。」と供述し,その作成に係る
陳述書にもその趣旨の記載をする(甲23の13頁,第一審原告A
11,24,34,35頁)。
しかし,54条書類の記載内容は,促進法54条2項3号,同法25
施行規則32条3号ロで定められているのであり,もとよりHの方
針に左右されるものではなく,第一審原告Aの前記供述により前記(ウ)
の認定は左右されない。
また,第一審原告Aの前記供述の内容は,何らこれを裏付ける証
拠がなく,Hから指示を受けた時期,経緯,双方の担当者などの重
要部分について明らかにしない,かなり曖昧なものである上(第一5
審原告A25ないし30頁),従前第一審原告Bがしていた,54
条書類には,資産の譲渡,資産の貸付,役務の提供を記載する必要
があるが,第一審原告Bにおいては,Dに委託した業務は,役務の
提供に当たらないと解釈していたので,なしと記載したとする説明
とも齟齬するものである(乙16の2頁,第一審原告A25,2610
頁)。そして,54条書類の記載内容は,前記のとおり法定されて
いる上,54条書類及び促進法28条関係の事業報告書のいずれに
ついても,Hにおける書式には役員との取引の内容を記載する欄が
設けられているのであるし,かかる取引の存否及び内容を明らかに
することは,特定非営利活動法人の活動の適正を担保する上で重要15
なことといえるから,Hがその記載をあえてしなくてよいと指導し
たというのは,不自然,不合理である。
以上によれば,第一審原告Aの前記供述は信用性が認められず,
採用することができない。
(オ)以上によれば,本件記事等摘示事実④は,その重要な部分におい20
て真実性が認められる。
カ本件記事においては,第一審原告AがDの名義で業務委託報酬を受
領していることについて,第一審原告B自身は了承していることを明
記している(別紙3,前提事実(2)イ(カ))。しかし,第一審原告Bは,
多額の寄付金及び補助金により運営されている特定非営利活動法人な25
のであるから(認定事実(5)),これらを原資としてその代表者理事で
ある第一審原告Aに対してした金銭の支払を,法律上の義務に従って
対外的にも明らかにすることは,前記寄付金及び補助金の各拠出者に
おいて拠出の判断をする上においても,また,前記補助金の拠出の相
当性について社会的に評価する上においても,重要なことであったと
いえる。しかるところ,前記エのとおり,第一審原告Bにおいては,5
第一審原告Aに対する金銭の支払のうち,少額とはいえない部分につ
いて,対外的に明らかにしていなかったものである。
そうすると,本件記事等摘示事実⑤のうち,第一審原告Bの金銭の
流れが不透明であるとの摘示及び第一審原告Aが理事長報酬以外に得
ていた前記業務委託報酬が不当なものである可能性があるとの摘示は,10
真実であると認められる。
ところで,横領という言葉は,辞書等では,「他人または公共のも
のを不法に奪うこと」(甲26),「他人の財産や公共の金品を不正
な手段を用いてひそかに自分のものにすること」(乙21)とされて
いるところ,F記者も,横領の意義について,「不適切な形で,会社15
なり組織なりのお金を得ること」だと証言している。こうした辞書等
の記載も踏まえて一般の読者の普通の注意と読み方に従って読むなら
ば,本件記事等は,前記の事実関係をもって,第一審原告Aが,前記
寄付金及び補助金等を原資とする金員を,その拠出者の認識を免れて,
あるいはこれに対する社会的評価を免れて,取得した可能性があり,20
これを不正な方法によりひそかに取得したという意味での「“横領”
疑惑」があると表現したと理解できるのであり,その摘示にも真実性
が認められるものといえる。
なお,本件記事等のうちの本件広告は,読者には以上のような本件
記事の記載内容がわからない状態で,「元E次官が顧問B理事長に25
7千万円“横領”疑惑」との広告がなされたものである。しかし,本
件広告自体からは,これが第一審原告Bや第一審原告Aの記事である
かどうかも不明であるから,第一審原告らに対する名誉毀損の成否に
ついて検討するに当たっては,本件広告のみを独立して検討する必要
はなく,本件記事等を全体として検討するのが相当である。
以上によれば,本件記事等摘示事実⑤にも真実性が認められる。5
キ以上によれば,本件記事等が摘示している事実の重要な部分につい
て,真実性が認められ,仮にそうでない部分があるとしても,第一審
被告において本件記事等が摘示している事実を信ずるには相当な理由
があったというべきである。
4その他,第一審原告らは縷々主張するが,以上の認定,判断を左右するも10
のはない。
以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,第一審原告らの請求は
いずれも理由がない。
第4結論
よって,第一審被告の控訴に基づき,原判決中,第一審被告敗訴部分を取15
り消して,同部分に係る第一審原告Aの請求を棄却し,第一審原告らの控訴
はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官深見敏正
裁判官内田博久
裁判官澤田久文5

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