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○ 主文
一 被告が昭和四三年五月一一日付けで原告らに対してした東京都豊島区<地名略
>の土地について同区<地名略>、同区<地名略>及び<地名略>の各土地を換地
とする旨の換地処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
主文同旨
二 被告
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 (一)東京都市計画第一〇地区復興土地区画整理事業(以下「本件事業」とい
う。)の第二工区内にある東京都豊島区<地名略>宅地二三九・八二坪(以下「本
件分筆前従前地」という。)について、原告A及び原告Bは昭和三二年一二月、原
告Cは同三七年一二月それぞれ共有持分権(持分は、原告Aが二三九八分の二〇
九、原告Bが二三九八分の六五、原告Cが二三九八分の二五である。)を取得し、
その旨の登記を経由した。
(二) 被告は、昭和三四年一〇月二二日付けで、本件分筆前従前地について仮換
地指定処分(以下「本件仮換地指定処分」という。)をした。
(三) 本件分筆前従前地について二分の一の共有持分を有していたDは、昭和三
八年に至り、原告三名を含むその余の共有者を相手方として、共有物分割請求の訴
えを提起し、同四二年三月二五日、本件分筆前従前地をほぼ東西に走る直線で二等
分し、その南側部分をDの所有とし、北側部分を原告三名、E、F、G及び株式会
社ダイアナ靴店の七名(以下「原告ら共有者」という。)の共有とする旨の判決
(以下「本件分割判決」という。)が言渡された。
そして、本件分筆前従前地について本件分割判決に従つて昭和四二年九月三〇日分
筆登記及び同年一一月二〇日持分移転登記がなされ、北側の東京都豊島区<地名略
>宅地三九六・三九平方メートルが原告ら共有者の共有地とされ、南側の<地名略
>宅地三九六・四二平方メートルがDの所有地とされた。
(四) 更に、昭和四三年二月一五日、右の東京都豊島区<地名略>宅地三九六・
三九平方メートルを<地名略>宅地三六七・五九平方メートル(以下「本件分筆後
従前地(一)」という。)及び<地名略>宅地二八・七六平方メートル(以下「本
件分筆後従前地(四)」という。)に、<地名略>宅地三九六・四二平方メートル
を<地名略>宅地二六六・一〇平方メートル(以下「本件分筆後従前地(二)」と
いう。)及び<地名略>宅地一三〇・三〇平方メートル(以下「本件分筆後従前地
(三)」という。)にそれぞれ分筆する分筆登記がなされた。
(五) 本件事業の施行者である被告は、昭和四三年五月一一日付けで、原告ら共
有者に対して本件分筆後従前地(一)について東京都豊島区<地名略>宅地一七
〇・二八平方メートル(以下「本件換地(甲)の(一)」という。)、同区<地名
略>宅地一三四・一四平方メートル(以下「本件換地(乙)の(一)」という。)
及び<地名略>宅地六二・八四平方メートル(以下「本件換地(丙)の(一)」と
いう。)の三筆合計三六七・二六平方メートルの宅地(以下「本件換地(一)」と
いう。)を換地とする旨の換地処分をし、Dに対して本件分筆後従前地(二)につ
いて同区<地名略>宅地一二三・二三平方メートル(以下「本件換地(甲)の
(二)」という。)、同区<地名略>宅地九七・一二平方メートル(以下「本件換
地(乙)の(二)」という。)及び<地名略>宅地四六・三一平方メートル(以下
「本件換地(丙)の(二)」という。)の三筆合計二六六・六六平方メートルの宅
地を換地とする旨の換地処分をした(以下右各換地処分を併せて「本件換地処分」
という。)。なお、原告ら共有者の本件分筆後従前地(四)及びDの本件分筆後従
前地(三)については、換地を交付せず金銭で清算する処分(以下「特別処分」と
いう。)がなされた。
2 本件換地処分は、以下に述べる理由により違法である。
(一) 仮換地指定処分がされた後に従前の宅地(以下「従前地」という。)につ
いて共有物分割がされた場合において、土地区画整理事業の施行者は、分割当事者
から仮換地指定の変更の申立てがされたときは、これに応じて仮換地指定変更処分
をしなければならないものであり、その際分割当事者間で分割後の従前地に対する
仮換地の部分を定めた合意が成立していても、施行者は必ずしもこれに拘束される
ものではなく、したがつて、右合意が成立していない場合においても、施行者は仮
換地指定変更処分をしなければならないものである。
そして、本件において、原告ら共有者は、昭和四二年八月一九日付けで、東京都北
部区画整理事務所長あてに、従前地の共有物分割に伴う仮換地指定の変更につい
て、分割当事者間で合意ができないので特別の配慮をされたい旨の書面を提出して
いるところ、これは前記合意が成立しない場合における仮換地指定の変更の申立て
であることが明らかであるから、被告は、仮換地指定変更処分をすべきであつたの
に、これをしないでいきなり本件換地処分をした。
したがつて、本件換地処分は、仮換地指定処分がされた後に従前地について共有物
分割がされた場合に施行者である被告がとるべき手続に違反してされたものであ
り、違法である。
(二) 本件分筆後従前地(一)と本伴換地(一)とは全く照応していないから、
本件換地処分は、土地区画整理法(以下「法」という。)八九条一項に違反し、違
法である。
(1) 本件分筆後従前地(一)は、国電池袋駅西口前の繁華な場所に位置する商
業地であるところ、本件換地(甲)の(一)は、右従前地とほぼ同一位置にある
が、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、右従前地から離れたいわゆる
場末にあり、トルコ風呂、旅館等に囲まれた環境劣悪な土地であり、商業地として
は不適格であり、右従前地と比べてその価値に非常な差異がある。ちなみに、昭和
四五年度固定資産台帳の評価によれば、一平方メートル当たり、本件換地(甲)の
(一)が約七〇万円であるのに対し、同(乙)の(一)は五万七〇〇〇円、同
(丙)の(一)は四万六〇〇〇円にすぎない。そのうえ、本件換地(丙)の(一)
は、間口も狭く、鍵形をした土地であり、地積もわずかで、何の用途にも利用でき
ない。
以上のとおり、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、本件分筆後従前地
(一)と照応していない。
(2) 本件換地処分は、利用状況の照応に対する配慮を欠いている。
すなわち、原告ら共有者又はその前主は、昭和二三年ころから、一団となつて本件
分筆前従前地を商店経営(原告Aは衣料品店、原告C及び原告Bは飲食店)のため
現実に利用してきた。これに対し、Dは、本件分筆前従前地を単に賃貸し、賃料収
入を得ていただけで、現実に使用したことは一度もなかつた。しかるに、本件換地
処分は、原地換地の土地を機械的に二分して本件換地(甲)の(一)及び(甲)の
(二)とし(甲)の(一)を原告ら共有者に交付し、(甲)の(二)をDに交付し
た。これは、原告ら共有者とDとの従前地の利用状況を等しいものとして両者を平
等に扱つたものであるが、両者の利用状況は右のとおり異なるものであるから、本
件換地処分は利用状況の照応を欠くものとして違法といわざるをえない。そして、
また、本件換地処分は、原告ら共有者とDとの間に不公平な結果をもたらすものと
して、違法といわなければならない。
更に、本件換地処分は、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の
(一)という三筆の飛地を交付するものであり、しかも(乙)の(一)及び(丙)
の(一)は飛換地であるから、原告ら共有者が一団となつて従前地を利用してきた
事実を無視するものとして違法といわなければならない。
ところで、本件分割判決は、本件分筆前従前地の利用状況を十分に勘案し、原告ら
共有者が従来から現実に利用してきた部分を原告ら共有者の土地としており、D
は、本件分割判決の結果、右土地についての共有権を喪失し、何ら利用、使用でき
なくなつたのである。そして、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)は、ほ
とんど原告ら共有者の右土地に包含されているから、現実の利用状況を尊重するた
めには、本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)の双方を原告ら共有者に交付
すべきであつた。なお、本件分割判決による利用状況の変化は、本件事業の開始後
に生じた状況の変化であるが、事業の施行とは無関係なものであるから、照応判断
において当然斟酌すべきである。
更に、本件換地処分は、原告Bの店舗を二分する位置に本件換地(甲)の(一)と
(甲)の(二)の境界線を引き、右店舗の一部並びに原告A及び原告Cの各店舗の
全部が現に存する土地を本件換地(甲)の(二)としてDに対する換地とし、原告
Bの店舗の残りの部分及び原告三名を除くその余の共有者四名の店舗が現に存する
土地を本件換地(甲)の(一)として原告ら共有者に対する換地としたため、原告
三名は、本件換地(甲)の(一)を利用できず、本件換地(乙)の(一)及び
(丙)の(一)を指定されたのと同一の状態になつている。したがつて、本件換地
処分は、原告三名とその余の共有者四名とを不公平に扱うものというべきである。
以上のとおり、本件換地処分は、利用状況の照応を無視し、Dと原告ら共有者との
間の公平及び原告ら共有者相互間の公平を全く考慮に入れずされたものであり、い
わゆる横の関係における照応を考慮していないもので、違法である。
ちなみに、このような不公平な結果を避けるためには、被告が本件仮換地指定処分
と同様に原告ら共有者及びDに対して一括して換地を指定するか、又は、前記のよ
うな従前地の利用状況を考慮し、原告ら共有者の従前地に対し本件換地(甲)の
(一)及び(甲)の(二)を換地として交付し、Dの従前地に対し本件換地(乙)
の(一)、(乙)の(二)、(丙)の(一)及び(丙)の(二)を換地として交付
し、両者間に土地の価格について不均衡が生ずる場合には、法九四条の規定により
金銭清算で調整すればよかつたのである。
(三) 本件事業を担当した区画整理事務所と特定の権利者との間には不明朗な関
係があり、本件換地処分のほかにも甚だ不可解な換地処分がされていることから考
えて、本件換地処分は、不公正なもので違法である。
3 よつて、原告らは、原告らに対する本件換地処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の各事実はいずれも認める。
2 (一)請求原因2の(一)のうち、原告ら共有者が昭和四二年八月一九日付け
で東京都北部区画整理事務所長あてに原告ら主張の書面を提出したこと、被告が仮
換地指定変更処分をしないで本件換地処分をしたことは認めるが、その主張は争
う。
(二) 請求原因2の(二)の(1)のうち、本件分筆後従前地(一)が国電池袋
駅西口前の場所に位置する商業地であること、本件換地(甲)の(一)が右従前地
とほぼ同一位置にあること、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)が右従前
地から離れた場所にあること、本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び
(丙)の(一)の評価額が原告ら主張のとおりであること、本件換地(丙)の
(一)が間口が狭く鍵形をした土地であることは認めるが、本件換地(乙)の
(一)及び(丙)の(一)がいわゆる場末にあり、トルコ風呂に囲まれた環境劣悪
な土地であり、商業地として不適格であることは否認し、その主張は争う。
請求原因2の(二)の(2)のうち、被告が本件換地処分において、原告Bの店舗
を二分する位置に本件換地(甲)の(一)及び(甲)の(二)の境界線を引き、右
店舗の一部並びに原告A及び原告Cの各店舗の全部が現に存する土地をDに対する
換地としたこと、原告Bの店舗の残りの部分及び原告三名を除くその余の共有者四
名の店舗が現に存する土地を原告ら共有者に対する換地としたことは認めるが、原
告Aが衣料品店、原告B及び原告Cが飲食店を営み、原告ら共有者が一団となつて
本件分筆前従前地を利用してきたこと、Dがこれを現実に一度も利用したことがな
かつたことは不知、その主張は争う。
(三) 請求原因2の(三)の事実は否認し、主張は争う。
三 被告の主張
1 被告が本件換地処分をするに至つた経緯は、次のとおりである。
(一) 被告は、本件事業について昭和二一年一〇月一日施行地区の告示をし、同
二三年九月二日設計書を定め、これを告示した。
(二) 被告は、昭和二四年四月四日付けで、本件分筆前従前地のうち私道部分四
八・一二坪について特別処分をし、宅地部分一九一・七〇坪についてはほぼ同一位
置にある土地を換地予定地(以下「本件換地予定地」という。)とする旨の換地予
定地指定処分(以下「本件換地予定地指定処分」という。)をした。
(三) 被告は、その後事業の施行につれて、本件換地予定地と隣接換地予定地と
の間に、両換地予定地からそれぞれ二メートル幅の土地の提供を求めて幅員四メー
トルの区画街路を設置する必要性を認め、昭和三四年一〇月二二日付けで、本件換
地予定地指定処分を取り消し、新たに街廓番号八七の三符号八五四(甲)地積約八
八坪(以下「本件仮換地(甲)」という。)、街廓番号一一三符号八五四(乙)地
積約六九坪(以下「本件仮換地(乙)」という。)及び街廓番号一一三符号八五四
(丙)地積約三三坪(以下「本件仮換地(丙)」という。)の三土地(以下「本件
仮換地」という。)を仮換地とする旨の本件仮換地指定処分をしたが、本件仮換地
(甲)は、本件換地予定地のうち右区画街路に組み込まれる部分を除いた土地であ
り、本件仮換地(乙)及び(丙)は、右区画街路に組み込まれる部分の地積に相応
するものであつた。
(四) その後、本件分筆前従前地について、本件分割判決が言渡された。本件分
筆前従前地の中には東西に走る私道が存したが、本件分割判決は、右の私道の中を
東西に走る線で本件分筆前従前地を南北に二分し、南側部分をDの所有地とし、北
側部分を原告ら共有者の共有地とするものである。そして、昭和四二年九月三〇日
本件分割判決に従い本件分筆前従前地を南北に二分する分筆登記がなされ、更に、
昭和四三年二月一五日それぞれの土地につき宅地部分と私道部分とを区分するため
の分筆登記がなされ、本件分筆前従前地は本件分筆後従前地(一)ないし(四)に
分筆されたが、このうち(一)は原告ら共有者共有の宅地部分、(四)は原告ら共
有者共有の私道部分、(二)はD所有の宅地部分、(四)はD所有の私道部分であ
る。
(五) 被告は、昭和四三年五月一一日付けで、本件分筆後従前地(一)及び
(二)について本件換地処分をするとともに、本件分筆後従前地(三)及び(四)
については法九五条六項の規定により特別処分をした。そして、本件換地(甲)の
(一)及び(甲)の(二)は本件仮換地(甲)を、本件換地(乙)の(一)及び
(乙)の(二)は本件仮換地(乙)を、本件換地(丙)の(一)及び(丙)の
(二)は本件仮換地(丙)をそれぞれ二分したものである。
2 本件換地処分は、以下に述べるとおり適法である。
(一) 請求原因2の(一)に対して
東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程二六条は、「法百三条第四項の公告前
において、仮換地または換地の一部に該当する従前の土地について、所有権の移転
または地上権若しくは賃借権の設定の登記をした者は、前権利者と連署(従前の土
地全部について分割して二人以上の者が権利を取得したときは、取得した者の全員
の連署で足りる。)し、従前の土地に対する仮換地または換地の部分を定めて届け
出なければならない。」と規定しているから、被告としては、従前地について共有
物分割がされた場合、分割当事者全員による右届出をまつて仮換地指定変更処分を
すべきであるところ、本件において原告ら共有者が提出した原告ら主張の書面は右
届出に該当せず、結局右届出がなかつたのであるから、仮換地指定変更処分をする
必要はなかつたものである。
また、仮換地指定(変更)処分は、工事のため必要がある場合又は換地処分を行う
ため必要がある場合に行うものであり(法九八条一項)、仮換地指定(変更)処分
を行わなければ換地処分を行えないものではないところ、原告ら主張の書面が提出
された時点では既に本件施行地区全体の工事が完了し、換地処分を行う内部的手続
もほぼ完了して、間もなく換地処分を行うことが予定されていたのであるから、こ
のような事情のもとでは、本件換地処分と同一内容となる仮換地指定変更処分を省
略して、直ちに本件換地処分を行つたことに違法はない。
(二) 請求原因2の(二)に対して
(1) 本件換地処分における照応は、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)
とについて判断すべきではなく、本件分筆前従前地と本件仮換地とについて判断す
べきである。
すなわち、照応判断をする場合、従前地の状況については当該土地区画整理事業開
始当時を基準時とすべきところ、本件事業開始当時(昭和二一年一〇月一日施行地
区告示当時)の従前地は未だ分割、分筆されていなかつた本件分筆前従前地であ
る。
そして、分割、分筆される前の本件分筆前従前地に対応するものは、本件仮換地で
ある。すなわち、本件仮換地指定処分は、換地設計にのつとつて将来指定されるべ
き換地の位置、範囲を仮に指定して、従前地の権利者をして実質上換地処分がされ
たのと同様の効果を得させるためにされる、いわゆる本換地予定的仮換地指定処分
である。したがつて、本件仮換地は、将来換地処分がされるとそのまま換地となる
べきもので、実質的には換地と同一であるから、本件換地処分における照応は、本
件分筆前従前地と本件仮換地とについて判断すれば足りるものである。
もつとも、本件換地処分は、本件仮換地指定処分を変更する内容になつているが、
それは、本件換地処分の直前に本件分筆前従前地が分割、分筆されたため、本件仮
換地をそのまま換地として指定することができなくなつたことに伴い、本件仮換地
のそれぞれについて本件分筆後従前地(一)及び(二)に対応する部分を特定して
換地としたものにすぎず、本件換地(一)及び(二)は、実質的には本件仮換地と
同一とみることができる。
(2) 本換地予定的仮換地指定処分がされた後に共有物である従前地について分
割、分筆がされた場合の換地処分は、共有物分割が従前地の共有者間における権利
関係の内部的変更にすぎないこと、既に仮換地上に換地と同じ効果を得て現に使用
収益している多数の権利者への影響を避けるべきであることなどから、当該従前地
の仮換地として指定された土地の範囲内で右分割、分筆に対応して行うことになら
ざるをえない。殊に、本件のように施行地区全体について仮換地が指定され、事業
が進行し、間もなく換地処分が行われようとしている段階において、その中の一筆
の従前地が共有物分割され、分筆されたからといつて、そのために施行地区全体の
換地手続をやり直すことは到底不可能なことであるから、施行地区全体との関係で
個々の土地の照応を要請する法八九条一項を本件に適用することは無理である。
したがつて、本件分筆前従前地と本件仮換地との間の照応以外に本件換地処分の適
否について残る問題は、本件仮換地の範囲内で本体分筆前従前地に引かれた分割線
に相似し、かつ、分割当事者間の公平を配慮して、いかに合理的な分割線を引くか
という、いわば従前地と換地との権利関係の整合の問題であり、このことは照応判
断とは次元を異にするものである。
(3) (ア)本件分筆前従前地と本件仮換地とは、次に述べるとおり照応してい
る。
本件分筆前従前地は国電池袋駅西口前の商業地であるところ、本件仮換地はいずれ
も商業地域にあり、本件仮換地(甲)は、同駅西口前の繁華街に位置し、幅員四メ
ートルの区画街路の設置により宅地としての利用の増進は著しい。本件仮換地
(乙)及び(丙)は、同(甲)から直線距離で約四四〇メートル、徒歩で五、六分
の場所に位置し、場末ではなく、また、付近には旅館、商店等が建ち並んでいる
が、トルコ風呂は存在しない。そして、本件仮換地(乙)は、北側で幅員一八メー
トルの道路に接し、建物建築ではその利用価値は大きい。また、本件仮換地(丙)
は、鍵形の土地ではあるが、東側で幅員六メートルの公道に四・七二メートル接し
ており、一宅地としての利用は充分可能である。したがつて、本件仮換地(乙)及
び(丙)も同(甲)と同様に本件分筆前従前地とほぼ同様の利用状況及び環境条件
にある。次に減歩についてみると、本件施行地区内の平均減歩率は約二七パーセン
ト、池袋駅西口付近の減歩率は三五ないし三六パーセン卜であるのに対し、本件仮
換地については減歩がない。しかも、同駅西口前に仮換地の主要部分(本件仮換地
(甲))が指定されている。
以上のとおり、照応判断の諸要素を総合的に検討すれば、本件分筆前従前地と本件
仮換地とは大体同一条件にあり、照応に欠けるところはない。
(イ) 仮に、本件仮換地(乙)及び(丙)が本件分筆前従前地と照応していない
としても、右仮換地は、次に述べるとおり原告らの了解を得たうえで指定されたも
のであるから、原告らのこの点についての違法の主張は失当である。
本件分筆前従前地と隣接従前地(八五三番一)との境界上に通行路があつたため、
本件換地予定地と右隣接従前地に対する換地予定地との境界上にも私道を設置する
こととしたが、これについて原告らを含む当時の右各換地予定地上の建物所有者、
居住者及び右各従前地の所有者らから防火、防災上道路を確保するため右私道部分
を公道(区画街路)として設置してほしい旨の要望が出されたので、被告としても
その必要性を認め、両換地予定地からそれぞれ二メートル幅の土地の提供を求めて
右区画街路を設置することとしたが、これにより本件換地予定地の地積が右区画街
路に組み込まれる部分だけ減少し、減歩率が約三六パーセントから約五三パーセン
トとなり、付近の平均減歩率をはるかに上回ることとなつた。しかし、当時既に本
件施行地区全体について仮換地の指定はもとより仮換地上への建物等の移転も大半
が完了していたため、他の権利者に影響を及ぼすような仮換地指定の変更はできな
いので、東京都が本件事業開始以前から所有していた土地に対する仮換地で原告ら
を含む関係権利者が了解した本件仮換地(乙)及び(丙)を右区画街路に組み込ま
れる部分に相応する仮換地として指定したものである。
(4) 本件換地処分は、本件仮換地の範囲内で最も合理的な分割線を引いてされ
たものであるから、適法である。
すなわち、本件分筆前従前地は、本件分割判決により土地のほぼ中央を東西に走る
線で南北に二分する形で分割された。本件仮換地のそれぞれについて、本件分割判
決における本件分筆前従前地の分割線に相似する線、すなわち、前面道路に直角
に、かつ、ほぼ二分の一の割合に分割する線を引き、しかも、それによつて三個の
仮換地が六個の土地に細分されても、どの土地も公道に接し、かつ、一宅地として
利用可能な土地になるようにするとすれば、本件各換地処分以外に分割当事者間の
公平を図りつつ、最も合理的な換地を指定する方法は存しない。
(5) (ア)本件において従前地と換地との照応を判断しなければならないとし
ても、本件換地(丙)の(一)の公道との接地部分が二メートル余りであるほか
は、位置、利用状況、環境及び減歩等について前記(3)の(ア)記載のとおりで
あるから、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とは照応している。
(イ) 仮に、本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)とが照応していないとし
ても、本件においては、原告ら関係権利者の要望によつて区画街路を設置すること
とし、その了解を得たうえで本件仮換地指定処分がされたこと、本件換地処分は本
件仮換地の範囲内で行わなければならないという制約が存したこと、換地処分がさ
れる直前に本件分筆前従前地が共有物分割され、分筆されたのにかかわらず、分割
当事者から従前地に対する仮換地の部分を定めた届出がなかつたことなど既述の事
情のもとでは、本件換地処分以外に合理的な換地を指定する方法が存しないから、
同処分は違法でない。
(6) 請求原因2の(二)の(2)に対する反論
(ア) 照応判断の一要素である利用状況とは、当該土地区画整理事業開始当時に
おける従前地の利用状況であるところ、原告ら共有者が現実に共有し、利用してき
たのは、本件換地予定地ないし本件仮換地(甲)であつて、本件分筆前従前地では
ない。原告ら共有者は、本件分筆前従前地を利用したことはないから、本件換地処
分で考慮すべき利用状況は具体的に存在しない。原告らの主張する利用状況は本件
換地予定地ないし本件仮換地のそれであつて、これを本件換地処分で考慮すること
はできない。また、土地の利用状況とは客観的な土地の利用状況をいうものであ
り、誰が利用しているかによつて左右されるものではないから、仮に原告ら共有者
が本件分筆前従前地を現在と同様の状況で利用しており、換地処分をするに当たり
これを考慮すべきであるとしても、Dは右従前地の共有者の一人として原告ら共有
者と同様の利用状況にある土地を所有していたのであるから、土地の利用状況につ
いて原告ら共有者とDとを区別する理由はない。
そして、本件分割判決は、当事者の意思に従い、原告ら共有者とDの持分の割合に
応じて、本件分筆前従前地を図面上二分したにとどまるものであり、右従前地の利
用状況を勘案してされたものではない。
なお、照応判断において例外として土地区画整理事業の施行以外の事情による従前
地の利用状況の変化が考慮されるべきであるとしても、それは、事業開始時から本
換地予定的仮換地指定処分時までに発生した事情で、その時点で現存する従前地自
体の利用状況の変化をいうものであるところ、本件においては、右にいう従前地の
利用状況の変化は起こつておらず、原告らのこの点に関する主張は、本件仮換地の
利用状況の変化をいうにすぎず、失当である。
(イ) 本件換地処分は、原告ら共有者全員に対してされたものであつて、原告ら
とその余の共有者とを区別しておらず、原告らに対して本件換地(乙)の(一)及
び(丙)の(一)のみを換地として指定したものではなく、三筆の本件換地(一)
をどのように利用するかは、原告ら共有者間の協議によるべきものであつて、本件
換地処分とは無関係である。
(ウ) 本件分筆前従前地は、本件換地処分がされる前に既に分割、分筆されて権
利者を異にする二筆の土地になつていたから、右各土地について換地を一括して指
定することはできない。
また、原告ら共有者の従前地とDの従前地とは、共有物分割前は一筆で駅前に位置
する同一条件の土地であつたから、前者に対し駅前の二筆の土地を換地として交付
し、後者に対しその余の四筆の土地を換地として交付することは、照応判断の一要
素である位置の関係で両者を不当に差別することになり、照応の原則の趣旨とする
公平に反するものである。また、法九四条の金銭清算の規定は、照応の原則に適合
した換地が定められた場合において、なお不均衡が生ずると認められるときに初め
て適用されるものであり、照応を無視して金銭清算で処理することは法の趣旨に反
する。
四 被告の主張に対する認否
1 (一)被告の主張1の(一)及び(二)の事実はいずれも不知。
(二) 同1の(三)のうち、被告が昭和三四年一〇月二二日付けで本件換地予定
地指定処分を取り消し、新たに本件仮換地指定処分をしたことは認めるが、その余
の事実は不知。
(三) 同1の(四)のうち、本件分割判決及び分筆登記がなされ、本件分筆前従
前地が本件分筆後従前地(一)ないし(四)に分筆され、そのうち(一)及び
(四)が原告ら共有者のもの、(二)及び(三)がDのものであることは認める
が、その余の事実は不知。
(四) 同1の(五)の事実は認める。
2 被告の主張2はいずれも争う。
五 原告らの反論
1 本件仮換地指定処分と本件換地処分とでは、処分の対象となつた従前地も、指
定された土地(仮換地、換地)も、処分の相手方である権利者も異なるものであ
り、本件仮換地指定処分は到底本換地予定的仮換地指定処分とはいえず、本件仮換
地と本件換地(一)及び(二)とは、形式的にも実質的にも同一性が認められな
い。
したがつて、被告の照応に関する主張は前提を欠くもので失当であり、本件分筆前
従前地が共有物分割され、分筆された以上、
本件分筆後従前地(一)と本件換地(一)との照応があらためて問題とされなけれ
ばならない。
2 仮に、本件換地処分の適否について、本件仮換地の範囲内でいかに合理的な分
割線を引くかということが問題となるとしても、請求原因2の(二)に述べたとこ
ろと同様の理由により、本件換地処分により引かれた分割線には合理性が認められ
ない。
3 本件換地処分の照応違反、合理性の欠如という違法性のよつてくるゆえんは、
被告において、従前地の利用状況を十分に勘案してされた本件分割判決の内容を考
慮に入れず、本件仮換地(甲)、及び(丙)をそれぞれ機械的に二分したことにあ
る。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 1請求原因1の各事実及び被告の主張1の(五)の事実は、当事者間に争いが
ない。
2 そして、成立に争いのない甲第四号証、第一〇号証の一、二、第一一、第一二
号証の各一ないし三、第一三号証、第一五号証の一ないし一一、乙第一ないし第七
号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一、同号証の二、三の各一、二、同号証
の四、第一〇、第一一号証、第一二号証の一ないし三、原本の存在及び成立に争い
のない甲第三、第七、第九号証、原告C本人尋問(第一回)の結果により原本の存
在及び成立が認められる甲第八号証、原告B本人尋問の結果により成立が認められ
る甲第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇、第二一号証、第二二号証の一
ないし一〇の各一、二、証人Hの証言により成立が認められる甲第二五ないし第二
九号証、第三〇ないし第三三号証の各一、二、第三四ないし第三六号証、右証言及
び各本人尋問の結果、証人I、同Jの各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、本
件換地処分に至る経緯について、被告の主張1の(一)ないし(三)の各事実及び
次の事実が認められる。
(一) 昭和二四年四月四日付けの本件換地予定地指定処分は、本件分筆前従前地
(別紙第一図の破線で囲まれた土地)の所有者K及び借地人Lに対し本件換地予定
地(別紙第一図の太実線で囲まれた土地)を指定したものである。Lは、同二二年
一一月一八日、Kとの間で本件分筆前従前地を買い受ける旨の売買契約を締結し、
その引渡しを受けたが、代金が未済であつたため、同月二五日、被告に対し借地権
の申告をした。ところが、Mは、罹災都市借地借家臨時処理法による借地権の取得
を理由に、同二三年一月二二日、Kに対し、本件分筆前従前地の占有移転禁止仮処
分を執行した。そこで、Lは、同年、急きよ、本件分筆前従前地のほぼ本件換地予
定地に相当する部分に店舗用の建物を建て、貸店舗として数名の者に賃貸した。原
告ら共有者(ただし、株式会社ダイアナ靴店については、その前主のN)は、同三
七年までに右建物をLから直接買い受けるか、あるいはLから買い受けた者から買
い受けたものであり、いずれも右建物を店舗として使用し、かつ、本件換地予定地
指定処分及び本件仮換地指定処分の前後を通じて本件換地予定地に相当する部分の
土地全体を右建物の敷地及び私道として使用していた。一方、Kは、Lが右占有移
転禁止仮処分を理由に売買代金を完済しなかつたため、同二四年五月、Lとの本件
分筆前従前地の売買契約を解除し、同二七年三月一七日、これをO及びDに売却
し、翌一八日所有権移転登記を行つた。また、Mは、同月二〇日O及びDから改め
て本件分筆前従前地の借地権の設定を受け、同二八年七月一七日その旨の登記を経
由し、借地権に基づき、当時の前記建物の所有者及び賃借人に対し本件分筆前従前
地の明渡しを訴えた。その訴訟で、O及びDはMの補助参加人となつた。
(二) 右訴訟を契機として、前記建物の所有者又は賃借人であつたE及びFは、
昭和三二年一〇月二八日、Oから本件分筆前従前地に対する同人の持分(二分の
一)全部を譲り受け、Eは持分二三九八分の八三四、Fは持分二三九八分の三六五
の共有者となつた。その後、同年一二月一二日に、Eから原告Aに持分二三九八分
の一〇〇が、Fから原告Aに持分二三九八分の一〇九、原告Bに持分二三九八分の
六五及びPに持分二三九八分の五五がそれぞれ譲渡され、同三五年一二月一七日
に、FからGに持分二三九八分の六八が譲渡され、同三七年一二月二一日に、Pか
ら原告Cに持分二三九八分の二五及びNに持分二三九八分の三〇が譲渡され、同三
九年四月二四日にNから株式会社ダイアナ靴店に持分二三九八分の三〇が譲渡さ
れ、この時点で本件分筆前従前地はD及び原告ら共有者の共有となつた。その持分
は次のとおりである。
(三) しかしながら、前記訴えで昭和三五年二月Mの勝訴が確定したため、前記
建物の所有者及び賃借人(持分権者兼建物所有者の原告A、原告B、E、F、P、
G、建物所有者のN、建物賃借人の三名)は、Mからの強制執行を免れるために、
Mとの間で同三七年八月三一日付けで、前記建物の所有者及び賃借人はMに対し六
四〇〇万円を支払うこと、MはDを除く本件分筆前従前地の共有者の共有権上の賃
借権を放棄し、土地明渡しの強制執行をしないこと、また、本件分筆前従前地が将
来分割され、Dの単独所有の土地ができることがあつても、MはDから設定を受け
ている借地権に基づき当該土地につき前記建物の所有者及び賃借人に対し土地明渡
しの強制執行はしないこととの和解契約を締結し、同三八年七月までに右金員のほ
とんどを支払い、同三九年五月までに残りを支払つた。
(四) 本件換地予定地指定処分は、将来換地処分がされる場合に換地となるべき
土地を換地予定地として指定したものであるところ、被告が昭和三四年一〇月二二
日付けで本件換地予定地指定処分を取り消して、新たに本件仮換地指定処分をした
(このことは当事者間に争いがない。)理由は、次のとおりである。すなわち、本
件換地予定地と隣接換地予定地との境界上には私道が設置されることになつていた
が、関係権利者から右私道部分を区画街路としてほしい旨の要望が出されたので、
被告としてもその必要性を認め、両換地予定地から幅約二メートルの土地の提供を
求め区画街路を設置することにしたためである。しかし、本件換地予定地から右区
画街路に組み込まれる部分(別紙第一図の(3)の部分)を除外した残りの部分の
みを仮換地としたのでは減歩率が五割を超え、池袋駅前付近の減歩率として予定さ
れていた数値(三五ないし三六パーセント)をはるかに上回ることとなるため、被
告は、区画街路に組み込まれる部分に相応する仮換地を追加して指定することにし
たが、当時既に本件事業が進行しており、他の権利者に影響を及ぼすような仮換地
指定の変更をすることは不可能であつたため、右区画街路に組み込まれる部分に相
応する土地として東京都が所有する土地に対して指定されていた更地の換地予定地
を充てることにした。かくして、被告は、本件仮換地指定処分により、本件分筆前
従前地の仮換地として、本件換地予定地から区画街路に組み込まれる部分を除いた
残りを本件仮換地(甲)として、東京都の換地予定地を本件仮換地(乙)及び
(丙)として指定した。なお、被告は、Mの借地権についても、右の仮換地を指定
(権利指定)した。
そして、本件仮換地指定処分に伴い、昭和三八年八月ころ、前記(一)記載のほぼ
本件換地予定地に相当する部分の土地上に存した建物を本件仮換地(甲)一杯に移
築する工事が被告により行われた。この時点における建物所有者は、原告ら共有者
のうち株式会社ダイアナ靴店を除く者とNであり、各建物の移築状況は、別紙第二
図のとおりである。その後、同三九年四月二四日、Nの建物が株式会社ダイアナ靴
店に譲渡され、かくして、原告ら共有者による別紙第二図のような本件仮換地
(甲)の占有が本件換地処分まで続いていた。そして、原告ら共有者は、右建物を
店舗として使用し、生活の手段としていた。
(五) Dは、昭和三八年に至り、共有物分割請求訴訟を提起し、主位的に本件仮
換地(甲)の分割、予備的に本件分筆前従前地の分割を請求したところ、同四二年
三月二五日言渡しの本件分割判決は、主位的請求については仮換地指定処分が従前
地の共有持分権を仮換地に移行させるものではないから理由がないとして棄却し、
予備的請求を認容し、本件分筆前従前地を東西に走る線(別紙第一図の点線)でほ
ぼ二等分し、北側を原告ら共有者の共有とし、南側をDの所有としたものである
が、本件分筆前従前地及びこれに対して指定された本件仮換地の利用状況等を考慮
したものではなく、本件分筆前従前地の地積のみを考慮して、これを二等分したも
のであつた。
(六) 原告ら共有者は、前記共有物分割請求訴訟が提起された後、本件分割判決
の言渡しの前後を通じて、被告に、本件分筆前従前地に関する従前の紛争の経緯及
び換地の指定又は仮換地指定の変更についての原告ら共有者の希望、意見等につい
て説明、陳情してきたところ、被告は、本件分割判決が言渡された後に原告ら共有
者に東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程二六条に規定する届出をするよう
に指導したが、Dの同意、連署が得られないということであつたので、更に右届出
をすることができない旨の理由書を提出するように指導したところ、原告ら共有者
から昭和四二年八月一九日付けで東京都北部区画整理事務所長あてに従前地の共有
物分割に伴う仮換地指定の変更について分割当事者間で合意ができないので特別の
配慮をされたい旨の書面が提出された(右書面が提出されたことは、当事者間に争
いがない。)。
(七) 昭和四二年九月三〇日、本件分割判決に伴う本件分筆前従前地の分筆登記
がなされたが、被告は、特別処分の対象となる私道部分を特定するため、同四三年
二月一五日、職権による分筆登記を行つた。その結果、本件分筆前従前地は、原告
ら共有者の本件分筆後従前地(一)及び(四)、Dの本件分筆後従前地(二)及び
(三)の四筆に分筆されることになつた。そして、被告は、同年五月一一日付け
で、本件分筆後従前地(一)につき本件換地(甲)の(一)、(乙)の(一)及び
(丙)の(一)、本件分筆後従前地(二)につき本件換地(甲)の(二)、(乙)
の(二)及び(丙)の(二)をそれぞれ交付し、本件分筆後従前地(三)及び
(四)については特別処分をする旨の本件換地処分を行つた(以上の本件換地の形
状は別紙第三図及び第四図のとおりである。)。本件換地(甲)、(乙)及び
(丙)の各(一)及び(二)は、本件仮換地(甲)、(乙)及び(丙)をそれぞれ
二分したもので、本件換地(甲)の(一)と(甲)の(二)との境界線は、別紙第
二図のとおり、原告Bの建物を二分する形になつている(以上の事実のうち、分筆
登記及び本件換地処分のなされたこと及びその内容については当事者間に争いがな
い。)。以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 そこで、本件換地処分の適否について判断するに、原告らは、被告が仮換地指
定変更処分を経ないで本件換地処分をしたのは違法であると主張するので、まず、
手続的観点から本件換地処分の適否を検討する。
1 換地処分は、換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完
了した後においてしなければならない(法一〇三条二項本文)。土地区画整理事業
は、換地処分の方法をその本質的手法として、土地の区画形質の変更及び公共施設
の新設変更を行う事業である。そして、換地処分は換地が従前地に照応することに
より正当化され、土地区画整理事業は照応の原則(法八九条)によりその存在が許
されるものであるが、換地処分は土地区画整理事業における最終的な処分であるか
ら、それまでに位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等の照応が実現されてい
なければならない。すなわち、換地処分までに、土地の区画形質の変更及び公共施
設の新設変更に関する工事を完了し、従前地上にある建築物等は換地となるべき土
地に移転しておいて、換地処分と同時に、従前地と照応した換地を現実に使用し、
換地において従前の利用状況を確保できるようにしておく必要があり、法一〇三条
二項はこの趣旨を規定したものである。そして、換地処分前に照応の実現を図る手
段が、法九八条の仮換地指定であり、仮換地指定を前提とした法八〇条の区画整理
事業の工事及び法七七条の建築物等の移転、除却である。
2 これを本件についてみるに、本件仮換地のうち、(乙)及び(丙)は更地であ
るが、(甲)は別紙第二図のように原告ら共有者がその全体を占有していた。本件
換地処分は、これらの本件仮換地をそれぞれ二分して、その一を原告ら共有者に対
する換地としたものであるが、このうち本件仮換地(甲)については別紙第二図及
び第三図のように原告Bの建物を二分する形で境界線を引き、東側を本件換地
(甲)の(一)として原告ら共有者に交付し、西側を本件換地(甲)の(二)とし
てDに交付している。しかし、本件換地(甲)の(一)には他の共有者の建物が現
存し、原告らとしてはこれを直ちに使用収益することができず、また、原告らの建
物は本件換地(甲)の(二)に取り残されているから、原告らはこれを自己の負担
で移転せざるをえず、移転完了まで、従前の利用状況を確保できない状態に置かれ
たものである。したがつて、本件換地処分は、土地区画整理事業の工事が完了し、
従前地に照応した土地の現実の利用が可能になる前になされたもので、法一〇三条
二項の規定に違反し、違法といわざるをえない。被告として仮換地に変更を加える
のであれば、まず仮換地指定の変更を行い、原告らの建物を新しく換地となるべき
土地に移転し、換地処分と同時に原告らが換地を現実に利用できる状態にすべきで
あつたというべきである。
3 もつとも、被告が本件換地処分で仮換地を変更する内容の換地指定を行つた原
因は、本件分筆前従前地について共有物分割がなされたことにある。したがつて、
本件仮換地(甲)に存する建物につき移転、除却の工事を行わざるをえなくなつた
としても、それは区画整理事業によるものではなく、共有者間の共有物分割による
ものであるから、区画整理事業を離れて原告ら及びDを含む全共有者らがその負担
で独自に行うべきであるといえなくもない。しかし、従前地の共有者間で従前地の
分割を合意し、かつ、仮換地についても分割を合意した場合であればともかく、本
件においては、判決による従前地の分割があり、共有者間で仮換地の分割について
協議が調わない状態にあつたところ、被告がその裁量で一方的に各仮換地を二分割
する形で換地指定を行つたものである。すなわち、いずれの土地を換地として交付
するかは被告の裁量にゆだねられているところ、被告は原告ら共有者の建物が敷地
一杯に建てられている本件仮換地(甲)をも二分割し、その一を原告ら共有者に対
する換地とし、その一をDに対する換地とすることにより、原告ら共有者をして右
建物の移転、除却をせざるをえない状態に置いたものであるから、右建物の移転、
除却は共有物分割に起因すると同時に土地区画整理事業にも起因するもので、区画
整理事業の一環として被告の負担で行うべきものと解するのが相当である。また、
かく解しなければ、照応の実現の保証がないのである。すなわち、換地処分がなさ
れてしまうと、法七七条に規定する建築物等の移転、除却の強制権を発動してでも
照応の実現を図るという途が閉され、換地をいかに利用するかは共有者が民法二五
二条の規定に従い持分の価額の過半数で決することになるため、持分の過半数を有
しない原告らとしては本件換地(甲)の(一)の利用から排除され、従前地に照応
した換地を現実に利用できずに終わる可能性も存するのである。そして、前叙のよ
うな本件仮換地(甲)の使用及び共有物分割の経緯にかんがみれば、被告の負担で
右建物の移転、除却を行うことを求めることが、原告らにとり権利の濫用に当たる
と解することもできない。
4 次に原告ら共有者の建物は仮換地上に存したもので、従前地上に存するもので
はないから、たとえ仮換地指定の変更をしても法七七条の規定による移転、除却を
できないのではないかとの疑問が存しないではない。しかし、仮換地指定の変更に
より旧仮換地上の建築物等の移転、除却が必要となつた場合も、法七七条の規定に
よることができると解すべきであり、仮に法七七条の規定を適用できないとして
も、区画整理事業の一環として施行者の負担で換地処分までに移転、除却すべきこ
とに変わりはないものというべきである。
5 ところで、原告らは、従前地そのものを利用していたのではなく、その仮換地
たる本件仮換地(甲)を利用していたものであるが、仮換地の利用状況を換地上に
実現する必要があるか否かも一つの問題といえる。この点につき、被告は、照応の
一要素である利用状況は区画整理事業開始当時の利用状況であり、仮換地の利用状
況を考慮すべきではないところ、原告らは本件分筆前従前地を利用したことがない
から、本件換地処分で考慮すべき利用状況は具体的に存在しないと主張する。照応
判断の際において、土地区画整理事業の実施によつてもたらされた宅地利用の増進
等の事情を考慮すべきでないという趣旨では、従前地の状況は土地区画整理事業開
始の時を基準とすべきであるということができる。しかし、土地区画整理事業が開
始されたからといつて、従前地の利用状況が凍結されるわけではなく、法七六条で
建築行為等につき一定の制限を受けるだけであり、従前地の権利者(承継人を含
む。)は、従前地はもとより、従前地の使用収益権が移行した換地予定地又は仮換
地において利用関係に変更を加えることが可能であり、換地処分までにそこで適法
に築かれた利用関係は、従前地の使用収益権に由来するものとして換地に承継され
るべきである。区画整理事業の場合、事業開始から換地処分まで長期間を要するの
が一般であるが、その間の利用関係の変化を無視することはいかにも不合理という
べきであり、例えば、事業の途中で法七六条一項の許可を得て土地の形質の変更や
建物の建築を行つた場合には、これらの事情は照応判断の考慮事由とし、換地に承
継すべきである。本件換地処分当時、原告らは、従前地につき共有持分を有し、そ
の仮換地たる本件仮換地(甲)を建物敷地として利用していたものである。そし
て、建物自体は、本件換地予定地指定処分前の昭和二三年に貸店舗として建てら
れ、本件仮換地指定処分後の昭和三八年に被告により本件仮換地(甲)に移築さ
れ、その間順次譲渡されて原告らの所有となつたものであり、土地区画整理法規に
違反する等の事情もない。すなわち、原告らは、従前地につき共有持分を有し、そ
の仮換地たる本件仮換地(甲)を建物敷地として適法に利用していたのであるか
ら、原告ら又はその前主が本件事業開始当時に本件分筆前従前地に建物を所有して
いたか否かを問うことなく、右の利用関係は換地となるべき土地に移行させてこれ
を保護すべきものといわなければならない。しかるに、本件換地処分は、原告らの
建物をDに対する換地上に残置したもので、右利用状況を原告らに対する換地上で
確保していないのであるから、違法といわざるをえない。
6 したがつて、本件換地処分は、法一〇三条二項の規定に違反し、違法というべ
きである。
三 次に、原告ら共有者間の公平の観点から本件換地処分の適否を検討する。
1 本件換地(甲)の(一)が一七〇・二八平方メートル、同(乙)の(一)が一
三四・一四平方メートル、同(丙)の(一)が六二・八四平方メートルであるこ
と、本件換地(甲)の(一)が国電池袋駅西口前の場所に位置する商業地であるこ
と、昭和四五年度固定資産台帳の評価によれば、一平方メートル当たり、本件換地
(甲)の(一)が約七〇万円、同(乙)の(一)が五万七〇〇〇円、同(丙)の
(一)が四万六〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
そして、前掲乙第九号証の四、成立に争いのない乙第一三号証、Qが昭和五三年四
月四日本件各換地付近の状況を撮影した写真であることに争いのない甲第一号証の
一ないし二〇によると、本件換地(甲)の(一)は池袋駅西口前広場に面した繁華
街に位置し、南側が幅員一二メートル、東側及び北側が幅員四メートルの各道路に
よつて囲まれていること、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の(一)は、同
(甲)の(一)から南方直線距離で約五〇〇メートルの場所に位置し、付近には商
店は極めて少なく、したがつて、商業地としての利用価値は同(甲)の(一)と比
べるとかなり劣ること、本件換地(乙)の(一)は、北側で幅員一八メートルの道
路に接し、間口八メートル、奥行一六・六一メートルの長方形をした土地であるこ
と、本件換地(丙)の(一)は、東側で幅員六メートルの道路に接しているが、別
紙第四図のとおり間口が二・三六メートルにすぎず、奥行が一五・八三メートルと
深く、しかもそこで直角に曲つて更に約一三メートルある鍵形をした不整形な土地
であること(間口が狭く、鍵形をした土地であることは、当事者間に争いがな
い。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右のように、本件換地(甲)の(一)は、商業地として極めて利用価値が高く、し
たがつて、地価も高い土地であるのに対し、本件換地(乙)の(一)及び(丙)の
(一)は、同(甲)の(一)と比べると地価が一〇分の一以下であり、商業地とし
ての利用価値もかなり劣る土地である。しかも、本件換地(丙)の(一)は、土地
の形状の点から考えて宅地としての利用価値のほとんど認められない土地であると
いわざるをえない。
2 したがつて、原告ら共有者が従前同様の商業を営むためには、本件換地(甲)
の(一)、(乙)の(一)及び(丙)の(一)の三筆のうちの(甲)の(一)に頼
らざるをえないことが明らかである。そして、本件換地(甲)の(一)をどのよう
に利用するかは、原告ら共有者が民法二五二条の規定に従い持分の価額の過半数に
より決することになるが、本件換地(甲)の(一)には原告ら以外の共有者の建物
が現存し、かつ、原告らの持分は過半数に達しないから、原告らが本件換地(甲)
の(一)の現実の利用から排除される蓋然性が極めて高い。原告らとしては、本件
換地(甲)の(一)の分割を求めることも可能であるが、その場合も狭小な土地し
か入手できず、商業を営めずに、結局は換金せざるをえなくなる可能性が強い。ま
た、原告らとしては、現実に利用できなくとも、持分に応じ、他の共有者が本件換
地(甲)の(一)を利用することにより得る地代相当額の利得の配分を受けること
ができるが、換地処分を手法とする区画整理事業においては、換金や利得の配分に
より金銭的利益が得られることをもつてよしとすることはできない。本件仮換地
(甲)における従来の利用状況に相応した宅地利用が本件換地(甲)の(一)にお
いても原告ら共有者間で平等に実現されるのでなければ、公平な換地処分とはいい
難いのである。しかるに、本件換地処分により、原告らの建物の存する部分がDに
対する換地とされ、他の共有者の建物の存する部分が原告ら共有者に対する換地と
され、その結果、原告らのみが本件換地(甲)の(一)の現実の利用から排除さ
れ、池袋駅前における店舗経営を断念せざるをえない蓋然性が極めて高い以上、本
件換地処分は、公平の原則に反し、違法といわざるをえない。
四 以上の次第であるから、本件換地処分は、二及び三の理由から違法であり、そ
の余の点につき判断するまでもなく取消しを免れない。よつて、原告らの本訴請求
は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟
法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 泉 徳治 大藤 敏 杉山正己一)

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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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