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判決言渡平成20年11月26日
平成20年(行ケ)第10186号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年10月29日
判決
原告オデマルスピゲット(マーケティング)
エスアー
訴訟代理人弁理士村田幹雄
同広川浩司
被告特許庁長官
指定代理人樋田敏惠
同岩井芳紀
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−19038号事件について平成20年1月10日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,意匠に係る物品を「腕時計側」とする後記意匠登録出願を
したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特
許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案であ
る。
2争点は,別紙第1記載の本願意匠が,内国雑誌「ラピタ」2004年(平成
16年)7月1日発行7号79頁所載の腕時計における「腕時計側」の別紙第
2記載の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HA16010913号,以下
「引用意匠」という。)と類似するか(意匠法3条1項3号),である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,2006年(平成18年)3月21日の優先権(スイス)を主張
して,平成18年9月15日,意匠に係る物品を「腕時計側」とする別紙第
1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(意願2
006−24735号。甲1)をしたが,拒絶査定(甲3)を受けたので,
平成19年7月6日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007−19038号事件として審理した上,
平成20年1月10日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(出訴
期間として90日附加)を行い,その謄本は平成20年1月28日原告に送
達された。
(2)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願
意匠は引用意匠と類似するから意匠法3条1項3号により意匠登録を受け
ることができない,というものである。
イなお,審決が認定した,本願意匠と引用意匠との共通点,差異点は,次
のとおりである。
(ア)共通点
両意匠は,上下端部にベルト連結部を設けた側本体の中央部に,時計
本体部を収納する円形状の収納部を設け,その収納部を覆うためのガラ
スを押さえる略円形リング状部を,収納部の円形状縁部に重ねて設け,
その略円形リング状部は,内周縁部の全体を円形に,外周縁部の全体を
八角形とし,上面部に8個の固定ネジを設け,側本体右側部に,竜頭と
竜頭を挟んだ上下に調整ボタン部を設けた,基本的態様が共通し,
①ベルト連結部は,正面視先端部を窄めた略台形状で,上面部は略円
形リング状部の外周縁部が接する位置に水平状稜線部を設け,内側を
垂直面に,先端部を先下がりの斜面とし,上下先端部に2箇所ずつ取
付用の凹状切り欠き部を設け,
②ガラス押さえ略円形リング状部は,厚いものであって,外周縁部を
面取り形成し,各固定ネジは,中に1本の溝のある6角形のネジと
し,リング状部上面に埋め込むように略面一状に取り付けられ,
③竜頭と調整ボタン部は,取付ベース部を備え,略六角柱状の竜頭を
中心に,全体で左右対称状の山形状に形成した,具体的態様が共通す
る。
(イ)差異点
両意匠は,具体的態様において,
①ガラス押さえ略円形リング状部の,外周縁部の厚み部下側につい
て,本願意匠は,側本体に対する相互の対面部を山型の嵌合状に接合
形成したのに対し,引用意匠はこのような接合をしているのかは不明
であり,
②竜頭と押しボタン部について,本願意匠は,竜頭と取付ベース部を
隙間無く隣接させ,調整ボタンを右側面視長方形状で正面視長辺が弧
状の曲線的な略三角形状とし,取付けベース部に埋設状に配し,竜頭
と両側の調整ボタンと取付ベース部全体を,丸い山形状(半月状)と
し,竜頭と調整ボタンを該山形状から突出させていないのに対し,引
用意匠は,竜頭と両側の押しボタンの間に僅かに隙間を設け,調整ボ
タンを円柱状とし,頭を取付けベース部から突出させて配し,竜頭と
両側の取付ベース部全体を,富士山型の山形状とした点が,相違す
る。
(3)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおり,本願意匠と引用意匠の類否判断
に誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。
ア審決は,本願意匠と引用意匠について,「…共通点は意匠全体の各部位
にわたり,意匠全体の骨格をなすと共に共通する基調を形成しているもの
で,…両意匠間に類似性をもたらしている。」(2頁下10行∼下5
行),「…差異点はいずれも細部にわたる態様であり,類否判断に及ぼす
影響は微弱で,共通点を凌ぐものとはなり得ていない。」(2頁下4行∼
下3行),「…両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,差
異点はいずれも微弱なものにとどまり,それらが相まって奏する効果を勘
案しても,共通点は…圧倒的で,類否判断を支配しているから,両意匠は
全体として美感が共通し,類似するものである。」(3頁14行∼17
行)と判断している。
イ腕時計側に係る意匠は,時計本体部を収納する収納部と,収納部を覆う
ためのガラスを押さえるリング状部の部分が,時計としての主要な機能を
有する部分であるし,全体に占める割合も比較的大きいので,これらの形
態が意匠全体の美感に与える影響が大きいことは確かである。
しかし,腕時計側の意匠においては,収納部及びリング状部の形態のみ
ならず,その側方に配置される竜頭等の操作部分によっても,全体の印象
が大きく左右される。腕時計の着用者が机に座った状態の姿勢では,手の
甲及び腕時計の正面は,着用者の顔の側を向いておらず,着用者の視界に
入るのは親指側であって腕時計の側方である。時間を確認する際などにお
いては,他の面よりも正面部分がより重要ではあるが,このように腕時計
が常に正面視されるものではないことからすれば,側方部分も看者の注意
を充分にひく部分であるといえる。
ウ本願意匠は,引用意匠を含む,先行意匠群の腕時計側の意匠(甲5「本
願意匠と先行意匠群の対比表」(2)∼(4),別紙第3)と比べた場合,いず
れも上下端部にベルト連結部を設けた側本体の中央部に,時計本体部を収
納する円形状の収納部を設け,その収納部を覆うためのガラスを押さえる
略円形リング状部を,収納部の円形状縁部に重ねて設け,その略円形リン
グ状部は,内周縁部の全体を円形に,外周縁部の全体を八角形とし,上面
部に8個の固定ネジを設け,側本体右側部に,竜頭を設けた,基本的態様
において共通している。この基本的態様は,原告が販売する腕時計のシリ
ーズにおいて,周知の構成であって,原告のブランドである「オーデマ・
ピゲ」の腕時計であることを表すものとして商標的機能(識別力)を有し
ている。しかし,本願意匠は,先行意匠群の腕時計側の意匠(甲5「本願
意匠と先行意匠群の対比表」(2)∼(4))と比べて,竜頭,調整ボタン部,
及び取付ベース部の全体に占める割合が格段に大きく,かつ凹凸を有した
立体的な形状に形成されているから,これらの中にあって本願意匠は,需
要者の注意がより操作部分に向くこととなり,当該部分は看者の注意をひ
く意匠の要部を構成する。
エ以上を前提にすれば,次のとおり,本願意匠と引用意匠は類似しない。
(ア)審決は,「ガラス押さえ略円形リング状部の差異について,本願意
匠の外周縁部厚み下側の接合態様は,腕時計は主として正面視される物
品であるから,看者の注意を惹かず,類否判断を左右するに至らないも
のである。」(2頁下2行∼3頁1行)としているが,本願意匠に係る
腕時計側が用いられる腕時計は,非常に高額であり,このような高額な
腕時計においては細部に渡るまでデザインが施されているのが一般的で
あるから,需要者は正面視のみならず,あらゆる角度から観察するので
あり,ガラス押さえ略円形リング状部の接合態様についても,看者の注
意を充分にひきつけ,意匠全体の美感に影響を与える部分であるといえ
る。
(イ)審決は,「竜頭と押しボタン部の差異について,竜頭も各ボタンも
小さく,また,この部位は意匠全体の中では従たる部位であって,看者
の注意を強く惹きつけるものではないうえ,本願意匠のように竜頭と両
側の調整ボタンと取付ベース部全体を丸い山形状とし,竜頭と調整ボタ
ンを該山形状から突出させていない,いわゆる一体感があるようにした
態様のものは既に見られ,本願意匠独自の特徴とも言えないので,看者
の注意をひかず,類否判断を左右するものではない。」(3頁2行∼8
行)としている。
しかし,上記ウで述べたように竜頭と調整ボタン部及び取付ベース部
が全体に占める割合は,先行意匠群に比べて格段に大きく,当該部分が
全体の美感に与える影響は大きい。
ここで,本願意匠は,竜頭と取付ベース部を隙間なく隣接させ,調整
ボタン部を右側面視長方形状で正面視長辺が弧状の曲線的な略三角形状
とし,取付ベース部に埋設状に配し,竜頭と両側の調整ボタンと取付ベ
ース部全体を,丸い山形状(三日月状)とし,竜頭と調整ボタン部を山
形状から突出しないようにした形態を有していることにより,操作部分
が全体的に側本体に対し一体的に見える印象を有しているのに対し,引
用意匠は竜頭と取付ベース部の間に隙間があり,また調整ボタン部は取
付ベース部と一体的な形状とはされていないので,本願意匠のように側
本体に対し一体的に見える印象は有していない。
また,側本体の全体的なシルエットを比較すると,本願意匠では竜頭
部が形成された右側部は全体的に凸状の略三日月形を表しているのに対
し,引用意匠は対応する右側部が2つの凹状線からなる山形状を表して
おり,一見して明らかな形態差を有している。
(ウ)これまで述べてきたように,本願意匠の竜頭,調整ボタン部及び取
付ベース部は,先行意匠群に比べて全体に占める割合が大きく,看者の
注意を強くひきつけるものであり,また一体的で全体として三日月状を
なす形状を有していることにより,側本体との一体感が強い印象を生じ
させている。引用意匠にはこのような印象を生じさせる要素は全く存在
せず,両者は美感における明確な差異を有しているから,類似するもの
ではない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
(1)腕時計着用者がテーブル等に座った状態の姿勢で操作部分が視界に入る
としても,使用目的を始め,操作時の使用方法を勘案すれば,通常この種物
品は,正面部から視認されるものと捉えるべきである。なぜならば,操作部
の操作に当たっては,時計文字盤等を確認しながら,正面部方向から操作す
るからである。そして,この種物品を正面視すれば,視界に飛び込んでくる
のは,まず,圧倒的な面積を占める時計本体部を収納する収納部と収納部を
覆うためのガラスを押さえるリング状部である。したがって,操作部につい
ては,視線を意図的に移して初めて,その具体的態様が認識されるものとい
える。その場合,側本体部分が極めてありふれていて,何の特徴もなく,何
らの印象も残さないものであれば,看者は直ぐに操作部にも着目しようが,
本件は,そのようなケースには該当しない。看者は,第一義的にはまず,周
知の著名なデザインである本願意匠の側本体部分に強くひき付けられるもの
であり,操作部部分に関心を持つとすれば,その後のことである。
(2)原告の主張は,甲5(「本願意匠と先行意匠群の対比表」)(2)∼(4)の
腕時計側の意匠のみを先行意匠群としている点で偏ったものであり,前提に
おいて誤りがある。例えば,原告が販売している腕時計に限っても,200
4年(平成16年)に発表したとされるモデル(ロイヤルオークオフショ
アファン・パブロ・モントーヤモデルチタンとピンクゴールドの両タイ
プあり)が先行意匠群から抜け落ちているが,この腕時計のガード部は,本
願意匠のように大きいものである(株式会社アールケイエンタープライズ
がインターネットに掲載した「RodeoDrive」の頁[乙1の1]の腕時計,シ
ュッピン株式会社がインターネットに掲載した「GMT時計専門店」の頁[
乙1の2]の腕時計)。また,操作部の形態についても,全体を丸い山形状
とした態様(「JCK」2001年[平成13年]6月号ChiltonCompany
207頁[乙2]の腕時計)や,三日月状とした態様(「2002IMPORTED
WATCH&CLOCKGENERALCATALOGUE輸入時計総合カタログ」社団法人日本時計
輸入協会2001年[平成13年]11月30日,33頁[乙3]の腕時
計,「DIME」2005年[平成17年]5月5日号綴じ込み別冊「20
05新作腕時計最速図鑑」小学館24頁[乙4]の腕時計)は,本願の出願
前から普通に見られるものであり,さらに,竜頭と調整ボタン部を山形状か
ら突出しないようにした態様(上記乙3,4の腕時計)も,凹凸を有した立
体的な形状に形成されたもの(上記乙4の腕時計)も,本願の出願前から普
通に見られるものである。ゆえに,本願意匠の操作部は,先行意匠に比し,
格別に看者の注意をひくとの原告の主張は根拠が無く,妥当性を欠くもので
ある。
(3)原告は,本願意匠の基本的態様は,原告のブランドの腕時計であること
を表すものとして商標的機能(識別力)を有し,需要者はそれを認識しつ
つ,各部の特徴的な態様に注意を向ける旨主張するが,意匠の創作を奨励す
る意匠制度の趣旨に照らせば失当である。仮に,本願意匠と引用意匠の基本
的態様が,原告ブランドとしての自他識別機能を有するとしても,審決認定
の各差異点に係る本願意匠の各部の態様が,看者の注意を殊更喚起するもの
ではなく,特徴的な態様でもない以上,原告ブランドに興味を持つ看者(需
要者)が,ブランドの象徴としての両意匠の基本的態様を差し置いて,各部
の違いに基づいて,両意匠を別異のものと判断することは,想定し難いこと
である。
(4)高額な腕時計の需要者が,正面視のみならず,あらゆる角度からデザイ
ンを観察するとしても,それをもって,直ちに,当該需要者が意匠全体の骨
格をなす構成態様及び全体の基調を差し置いて,「ガラス押さえ略円形リン
グ状部」の外周縁部の接合態様の差異を,意匠全体の美感に影響を与える差
異として着目するものであるとすることは短絡的である。また,高額商品の
需要者であるか否かによって,意匠の類否判断の基準を変えることは,意匠
制度の目的に照らして妥当ではない。意匠の類否判断は,各部位に着目する
と共に,全体観察した時の美感に基づいてなされるべきものであるところ,
面積的に非常に小さな部位の差異が,類否判断に大きな影響を及ぼすケース
としては,面積的に大きな部分が,極めてありふれていたり,機能上等の制
約から変更が不可能な場合等が想定されるが,本願意匠と引用意匠の接合態
様の差異は,通常この種物品は正面視されるものである上,特に側面からそ
の部位を注視した場合に,初めて明らかとなる程度の局所的差異であり,全
体的な基調の共通性を凌いで看者の注意を殊更喚起するほどのものではない
ことから,本件はそのようなケースには該当しない。
(5)原告は,本願意匠の操作部につき,竜頭と調整ボタン部を山形状から突
出しないようにした形態であるため,操作部分が全体的に側本体に対し一体
的に見える印象を有していると主張するが,本願意匠の操作部の態様は,上
記乙3,4の腕時計に見られるように,本願の出願前に普通に見られる態様
であり,看者の注意を殊更喚起するものではない。
また,原告は,側本体の全体的なシルエットを比較し,操作部につき,本
願意匠では凸状の略三日月形を表しているのに対し,引用意匠は凹状線から
なる山形状を表しており,一見して明らかな形態差を有していると主張す
る。しかし,全体的なシルエットの中で圧倒的に大きな部分は操作部分では
なく,操作部分を除いた側本体部分であり,看者が一見して看取するのは,
通常,大きな部分であるから,原告の主張には理由がない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,当事者間に争いがない。
2取消事由について
(1)本願意匠は,意匠に係る物品を「腕時計側」とする別紙第1記載の意匠
であり,引用意匠は,別紙第2記載の「腕時計側」の意匠である。
(2)「腕時計側」の意匠は,時計本体部を収納する収納部と収納部を覆うた
めのガラスを押さえるリング状部及びベルト連結部が,最も看者の注意をひ
き,最も意匠全体の美感に与える影響が大きいということができる。
しかし,「腕時計側」の意匠において,上記収納部及びリング状部の側方
に配置される竜頭等の操作部分も,目立つ部分であり,全体の印象を左右す
ることがあるということができるが,上記収納部,リング状部及びベルト連
結部に比べれば,意匠全体の美感に与える影響が大きいということはできな
い。
この点について,原告は,本願意匠は,先行意匠群の腕時計側の意匠(甲
5「本願意匠と先行意匠群の対比表」(2)∼(4),別紙第3)と比べて,竜
頭,調整ボタン部及び取付ベース部の全体に占める割合が格段に大きく,か
つ凹凸を有した立体的な形状に形成されているから,これらの中にあって本
願意匠は,需要者の注意がより操作部分に向くこととなり,当該部分は看者
の注意をひく意匠の要部を構成する,と主張する。しかし,本願意匠の竜
頭,調整ボタン部及び取付ベース部の全体に占める割合が,引用意匠(甲5
(2))に比べて格段に大きいとか,本願意匠のこれらの形状が引用意匠に比
べて特に注意をひく形状であるとまでいうことはできないし,現に後記(3)
のとおり本願意匠と操作部分が似た形状のものも従来から存したから,他の
部分の意匠に比べて本願意匠の操作部分が特に注意をひくと認めることはで
きない。
(3)本願意匠と引用意匠を対比した場合,竜頭と押しボタン部について,本
願意匠は,竜頭と取付ベース部を隙間無く隣接させ,調整ボタンを右側面視
長方形状で正面視長辺が弧状の曲線的な略三角形状とし,取付けベース部に
埋設状に配し,竜頭と両側の調整ボタンと取付ベース部全体を丸い山形状
(半月状)とし,竜頭と調整ボタンを該山形状から突出させていないのに対
し,引用意匠は,竜頭と両側の押しボタンの間に僅かに隙間を設け,調整ボ
タンを円柱状とし,頭を取付けベース部から突出させて配し,竜頭と両側の
取付ベース部全体を富士山型の山形状とした点が,相違するのであるが,竜
頭と取付ベース部全体を,略六角柱状の竜頭を中心に,全体で左右対称状の
山形状に形成したという点では共通しており,操作部分の全体形状から受け
る印象は似通ったものがあるということができる。
本願意匠と引用意匠では,最も看者の注意をひく時計本体部を収納する収
納部,収納部を覆うためのガラスを押さえるリング状部及びベルト連結部
は,審決が認定したとおり(前記第3,1(2)イ(ア)),①上下端部にベル
ト連結部を設けた側本体の中央部に,時計本体部を収納する円形状の収納部
を設け,その収納部を覆うためのガラスを押さえる略円形リング状部を,収
納部の円形状縁部に重ねて設け,その略円形リング状部は,内周縁部の全体
を円形に,外周縁部の全体を八角形とし,上面部に8個の固定ネジを設けた
基本的態様,②ベルト連結部は,正面視先端部を窄めた略台形状で,上面部
は略円形リング状部の外周縁部が接する位置に水平状稜線部を設け,内側を
垂直面に,先端部を先下がりの斜面とし,上下先端部に2箇所ずつ取付用の
凹状切り欠き部を設けた具体的態様,及び,③ガラス押さえ略円形リング状
部は,厚いものであって,外周縁部を面取り形成し,各固定ネジは,中に1
本の溝のある6角形のネジとし,リング状部上面に埋め込むように略面一状
に取り付けられる具体的態様において共通していて,これらの部分の形態は
正面視においてはほぼ同一というべきものである。
しかも,乙3(「2002IMPORTEDWATCH&CLOCKGENERALCATALOGUE輸入時計
総合カタログ」社団法人日本時計輸入協会2001年[平成13年]11月
30日発行33頁)の腕時計の操作部分は,竜頭と調整ボタン部を山形状か
ら突出しないようにした凸状の略三日月形をしており,全体的に側本体に対
し一体的に見えるのであり,また,乙4(「DIME」2005年[平成1
7年]5月5日号綴じ込み別冊「2005新作腕時計最速図鑑」小学館24
頁)の腕時計の操作部分は,竜頭を山形状から突出しないようにした凸状の
略三日月形をしており,全体的に側本体に対し一体的に見えるから,本願意
匠と同様の形態を有する操作部分は,従来から知られていたものと認められ
る。
そうすると,調整ボタンの形状や配置方法が異なるなど,操作部分に上記
認定のような差異があるとしても,全体として見ると本願意匠と引用意匠は
類似するということができる。
(4)原告は,本願意匠の基本的態様(いずれも上下端部にベルト連結部を設
けた側本体の中央部に,時計本体部を収納する円形状の収納部を設け,その
収納部を覆うためのガラスを押さえる略円形リング状部を,収納部の円形状
縁部に重ねて設け,その略円形リング状部は,内周縁部の全体を円形に,外
周縁部の全体を八角形とし,上面部に8個の固定ネジを設け,側本体右側部
に,竜頭を設けた態様)は,原告が販売する腕時計のシリーズにおいて周知
の構成である,と主張する。しかし,このような基本的態様が最も看者の注
意をひく部分であることは,上記のとおりであって,それが原告が販売する
腕時計のシリーズにおいて周知の構成であるからといって,その部分が共通
することを軽視することはできない。
また,原告は,本願意匠に係る腕時計側が用いられる腕時計は,非常に高
額であり,このような高額な腕時計においては細部に渡るまでデザインが施
されているのが一般的であると主張する。しかし,本願意匠の物品は,「腕
時計側」であるから,「腕時計側」一般について意匠の類否を判断すべきも
のであって,高額な腕時計に限って類否を判断することはできない。
さらに,原告は,本願意匠では,操作部分が全体的に側本体に対し一体的
に見える印象を有しているのに対し,引用意匠は,本願意匠のように側本体
に対し一体的に見える印象は有していないし,また,側本体の全体的なシル
エットを比較すると,本願意匠では竜頭部が形成された右側部は全体的に凸
状の略三日月形を表しているのに対し,引用意匠は対応する右側部が2つの
凹状線からなる山形状を表しており,一見して明らかな形態差を有している
と主張する。しかし,上記(3)のとおり,操作部分の全体形状が山形状であ
る点では,本願意匠と引用意匠は共通しており,操作部分が側本体に対し一
体的に見え,全体的に凸状の略三日月形をした腕時計も従来から存したこと
からすると,原告が主張する側本体との一体性や全体的なシルエットの差異
は,微差にすぎないものというべきである。
したがって,原告の上記主張は,いずれも上記(3)の認定を左右するもの
ではない。
3結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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