弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由について。
 原判決(その訂正、引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠によれ
ば、原判決の確定した事実を肯認することができるところ、右事実によると、陶磁
器等の売買を業とする有限会社D(以下単にDという。)は、代表取締役社長E、
F外男女各一名ぐらい計四名ぐらいで小規模の事業を営むものであり、Fは主に倉
庫で商品の出納整理保管等の作業に従事し、ことに商品の納入を受ける際などには、
本件の手形やこれに添付した商品受取書の作成に使用した社印、会社代表者の記名
ゴム印、同代表取締役の印を随時使用して押印することを許され、その他社長の命
を受けて取引先に注文を出したり、社長作成の手形を他に交付したりする仕事に携
つたこともあること、本件各手形(受取人・裏書人GことH)は、常にFが同所で
勤務中に、製陶業を営み、その製品をDに納入取引をするというので出入をしてい
たHの依頼にもとづき、前記の社印、会社代表者記名ゴム印、代表取締役印を押捺
して作成したものであること、そして本件各手形を商業手形とみせかけるため、同
時に作成して手形に添付した商品受取書は、Fの日常作成する商品納入の際の受取
書と性質を同じくするものであること、被上告会社は本件各手形を各振出日あるい
はその二、三日後位までの間に、Hからの依頼によつてこれを割り引いて被上告会
社の主張のような金額をHに交付したものであるというのであり、したがつて、F
は会社の手形振出に関与する職務をもつものではないけれども、Dのような従業員
数の少ない小規模の営業に有勝なように、日常従事する主たる職務のほか、社長よ
り命ぜられると手形の交付や商品の注文などまたはその他のどんな仕事にも携わる
地位にあり、手形の作成交付自体に全く無縁の職務に従事するものということはで
きなく、本件各手形はDの取引先たるべきHのため会社より金融の便宜を与えよう
として、これを自分の主たる職務である商品納入につき、その代金の支払手形に仮
装して作成したものであるから、Fの本件各手形の作成行為は、行為の外観上も、
内面の密接な関連性からみても、Dの事業の執行についてされたものと解すること
ができるとした原判決の判断は、本件各手形をHから割り引いた被上告会社の関係
については、当審も正当としてこれを肯認することができる。
 原判決には、所論のような違法はなく、所論は、失当として排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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