弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 職権をもつて調査するに、本訴において、被上告人らは、訴外亡Dから、その所
有の本件建物について、各持分二分の一の割合による遺贈を受けたところ、同人の
死亡によりその効力を生じたものと主張して、Dの相続人である上告人に対し、右
遺贈を原因とする共有持分二分の一ずつの所有権移転登記手続を求めるものである
が、記録によれば、上告人は、原審第一一回口頭弁論期日に、その提出にかかる昭
和四一年一一月一五日付準備書面に基づいて、右遺言に際して訴外Eが遺言執行者
に指定されたが、その後、昭和四〇年一月一三日に名古屋家庭裁判所において、同
人は遺言執行者の地位を解任され、弁護士Fが遺言執行者に選任された旨を主張し
ていることが明らかであり、また、成立に争のない甲第一号証(公正証書)および
原審における証人Eの証言に徴すると、前記遺言に際して、Eが遺言執行者に指定
されたが、同人はその後解任されて、原審における口頭弁論の終結時においては、
さらに遺言執行者に選任された者が存在する事実を窺わせるに足りるのである。
 ところで、遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合にお
いては、遺言執行者が相続財産の、または遺言が特定財産に関するときはその特定
財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、相続人は
相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすること
はできないこととなるのであるから(民法一〇一二条ないし一〇一四条)、本訴の
ように、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権
移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎら
れるのであつて、相続人はその適格を有しないものと解するのが相当である(大審
院昭和一四年(オ)第一〇九三号、同一五年二月一三日判決、大審院判決全集七輯
一六号四頁参照)。
 してみると、本件の遺言について、遺言執行者が存在するものであるならば、原
審としては、本訴は被告の適格を欠く者に対する訴としてこれを却下すべきもので
あつたものといわなければならず、前記のように、遺言執行者の存在することを窺
うに足りる証拠が存在するのに拘らず、これを顧慮しないで本案の判断をした原判
決には、職権によつて調査すべき当事者適格に関する事項に関し審理を尽さなかつ
た違法があるから、論旨について判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れな
い。そして、本件については、右遺言執行者の存否についてさらに審理を尽し、こ
れを確定させるのを相当とするから、原審に差し戻すべきものとする。
 よつて、民訴法第四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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