弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人錦織幸蔵の上告理由について。
 被上告人BがDからの本件手形の割引、原判示旧債務の支払、残額の受領方をE
に委任し、EがDとその趣旨で交渉したが割引は実現せず、同被上告人はEに対す
る委任を解除し手形の返還を要求するにいたつた顛末に関する原判決の事実認定は、
挙示の証拠に照らし肯認することができる。また、Eは本件手形を判示旧債務支払
の担保のためDに交付し、後になつて手形金額と旧債務の差額について融資方を要
求したものであるとの上告人の主張に対する原判決の判断も原判示の事情に照らせ
ば首肯するに足り、この点に関する証拠の取捨、判断も首肯することができる。
 所論甲五号証、特にその日付によつても本件手形交付の趣旨が所論主張のような
ものであると認めなければならないものとは解せられない(同号証の債権額が二五
万円である点はむしろ判示認定に副うものということができる)、所論第一、二審
における証人D、同Eの証言中判示認定に反する部分はその措信しなかつたもので
あり、その他の所論掲記の証拠についても原判決は「他に右認定を覆えすに足る証
拠は存しない」として判示しているのであり、この証拠判断に所論のような違法は
ない。なお、所論は、本件手形による追貸が取引の通念に反すると主張するが、D
に対する被上告人Bの旧債務は同被上告人が詐術を弄した結果のものであることは
原判決の認定していない事実である上、旧債務があるからといつて、まず本件手形
の割引を受け、その代金中から旧債務を弁済するとの同被上告人の言分が取引の通
念に反するとは認められない。また、担保提供に関するいきさつがあつたからとい
つてそれが本件手形をまず旧債務の担保としたものと解さなければならないもので
もない。この点につき原判決は「当時右旧債務の決済につき何らかの方法を講じな
ければならない程の切迫した事情にあつたことを認めるに足る証拠はない」旨首肯
するに足る判断を示しており、また本件手形はもともと融通手形として振出交付を
受け、銀行から割引を得ようとして捗らないためDとの交渉となつた旨肯認しうる
認定を判示しているのである。要するに、原判決には所論の違法はなく、所論はひ
つきよう原判決が適法にした事実の認定、証拠の取捨判断を非難するに帰し、すべ
て採用することができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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