弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人杉本粂太郎の上告理由第一点について。
 論旨は、同居に関する法律上の見解を述べた上、原審が同居と認定したことを非
難するのであるが、原審が認定したのは同居の事実関係そのものであつて、同居に
ついての法律上の判断を加えているものでないこと判文上明らかである。所論は原
審の事実認定を非難するに帰し適法な上告理由に当らない。なお原審の採用した証
拠によれば、昭和二四年九月一〇日までの上告人の地位を同居と認定したことが経
験則に反するものとも認められない。
 同第二点について。
 原判決は、(1)昭和二四年九月一一日訴外Dと上告人間に本件家屋につき転貸
借がなされた事実、(2)しかし被上告人は右転貸借につき通告をうけ、または該
転貸借を了知していたとの事実はこれを認めるに足る証拠がないこと、(3)D方
における上告人の同居を被上告人の同居を被上告人が承諾したとしても、同居の承
諾と転貸の承諾はその性質及び法律上の効力を異にするから、同居の承諾があつた
というだけではいまだ本件につき転貸の承諾があつたとは認められないこと、(4)
乙第一号証の五乃至三七の上告人宛の賃料領収書は判示の事情によるものであつて、
これによつてもいまだ被上告人が転貸を承諾したとの事実は認め難い旨、各認定判
示しているのである。そして転貸の承諾は、一般には譲渡性を欠く賃借権に、譲渡
性を附与する意思表示であると解すべきであるから、右原審の認定判断が右意思表
示のなされた事実はこれを認め難いとしている以上、所論は結局事実認定の非難に
帰し適法な上告理由に当らない。
 同第三点について。
 同居の承諾は、賃借人が同居人を置いても、賃貸人からこれを理由として信義則
違反に問われる恐れがないとの消極的な効力を有するに過ぎないものであるが、転
貸の承諾は、これにより賃貸人と転借人との間に新たな法律関係を生ずるものであ
つて(民法六一二条、借家法四条等参照)、両者の間には重要な差異がある。した
がつて仮に同居の承諾を与えた訴外Eに転貸についてもなお承諾を与える権限があ
つたとしても、原判決は同人が転貸の承諾を与えた事実は認められないと認定して
いる以上、論旨はまた事実認定の非難に帰し、適法な上告理由に当らない。
 同第四点、第五点について。
 既に被上告人側に転貸を承諾した事実が認められないとする以上、所論上告人主
張の合意解除の無効、信義則違反並びに権利濫用の各抗弁は、何れもその前提を欠
くものというべきであるから、原審がこれらに対し判断を与えなかつたのは当然で
あつて、何ら原判決に所論理由不備の違法はない。論旨は採用できない。
 同第六点について。
 転貸承諾の事実が認められない以上、所論違憲の主張はその前提を欠くものであ
つて採用し難い。
 上告代理人岡田実五郎の上告趣意第一点について。
 原判決はその理由(四項)において、所論の点につき判断を与えていることは明
らかであるから、原判決には所論理由不備の違法はなく論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は杉本代理人の論旨第二点と同旨であるから、同論旨に対する既掲の説明を
引用する。
 同第三点について。
 所論乙第一号証の五乃至三七の賃料領収書が上告人宛となつている事情につき、
原判決は「訴外Eは控訴人(上告人)から右賃料を受領した当時、控訴人が訴外D
方に同居していることを熟知しており、かつ控訴人が同年(昭和二三年)七月分の
賃料を持参した際、領収書の宛名を控訴人名義にして貰いたいというので、訴外E
はその理由を尋ねたが、同人は判然としたことをいわないので、その後訴外Dにそ
のことを話したころ、同訴外人は控訴人が持参したときは控訴人名義にしてもよい
との返事であつたので、同年九月分以降は控訴人が賃料を持参したときは領収書は
右のように控訴人名義としたに過ぎないものであることが認められる」と認定判示
しているのであつて、右訴外Eの方から進んで積極的に上告人宛としたとかいうな
らば格別、然らざるにおいては、右領収書は賃料持参支払人である上告人において、
Dに対する該立替賃料の償還請求乃至その精算の際に役立つものであることは当然
推認できるところであり、且つ原判決の認定によれば、右訴外Eは本件転貸の事実
は知らなかつたものであるというのであるから、所論右乙号証に対する前示原審の
認定判断は所論経験則に反するものとは認められず、その他所論の理由不備の違法
ありとすることはできない。論旨は採用できない。
 同第四点について。
 原判決は、訴外Dは、昭和二四年九月一一日上告人に本件家屋を転貸したが、そ
れ以前においては、上告人はDの同居人にすぎなかつたことを認定したものである
こと原判文上明らかである。そして原判決及び同判決の引用する第一審判決が右該
当部分につき挙示した証拠によれば、右事実はこれを認めえられなくはないのであ
るから、原判決には所論の如き理由齟齬の違法ありとすることはできない。論旨は
採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克

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