弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告は,被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権に
ついて競売を申し立てることができる。
2被告は,原告に対し,42万円及びこれに対する平成23年6月15日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
主文1項と同旨
2予備的請求
被告による別紙物件目録記載の建物専有部分の使用を本判決確定の日から5
年間禁止する。
3主文2,3項と同旨
第2事案の概要
本件は,別紙物件目録の「(一棟の建物の表示)」欄記載の建物(以下「本件
マンション」という。)の管理組合法人である原告が,本件マンションの区分所
有者である被告がその専有部分を,自己を組長とする暴力団の組事務所として使
用するという建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為を
したものであるところ,このような行為による区分所有者の共同生活上の障害は
著しいとして,①主位的に,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」
という。)59条に基づき,被告の区分所有権及び敷地利用権(以下「区分所有
権等」という。)の競売を請求し,②予備的に,区分所有法58条に基づき,本
判決確定の日から5年間被告による専有部分の使用の禁止を請求し,併せて,③
f管理組合法人規約(以下「本件規約」という。)に基づき弁護士費用42万円
及び遅延損害金の支払を求めている事案である。
1前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,主に括弧内掲記の証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認められる。
(1)当事者
ア原告
原告は,本件マンションの区分所有者(区分所有者数103名)全員で
構成するマンション管理組合法人である(本件規約6条1項。甲1,2,
6,弁論の全趣旨)。
イ被告
被告は,別紙物件目録記載のとおりの区分所有権等を有する本件マンシ
ョンの区分所有者である(甲1)。被告は,いわゆる暴力団である七代目
合田一家A組(以下「A組」という。)の組長であるところ,A組は,暴
力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴力団対策法」と
いう。)3条に基づく指定暴力団七代目合田一家の傘下組織である(甲8
の1及び2,弁論の全趣旨)。
(2)福岡県暴力団排除条例
ア制定経緯
福岡県は,暴力団が県民の生活や社会経済活動に介入し,暴力及びこれ
を背景とした資金獲得活動によって県民等に多大な脅威を与えている同県
の現状に鑑み,同県からの暴力団の排除(以下「暴力団の排除」という。)
に関し,基本理念を定め,並びに県及び県民等の役割を明らかにするとと
もに,暴力団の排除に関する基本的施策,青少年の健全な育成を図るため
の措置,暴力団員等に対する利益の供与の禁止等を定めることにより,暴
力団の排除を推進し,もって県民の安全で平穏な生活を確保し,及び同県
における社会経済活動の健全な発展に寄与することを目的として,「福岡
県暴力団排除条例」(以下「暴力団排除条例」という。)を制定し,同条
例は平成22年4月1日から施行された(甲4)。
イ基本理念(3条)
暴力団の排除は,県民等が,暴力団が社会に悪影響を与える存在である
ことを認識した上で,暴力団の利用,暴力団への協力及び暴力団との交際
をしないことを基本として,県,市町村及び県民等が相互に連携し,及び
協力して推進されなければならない。
ウ暴力団事務所の開設及び運営の禁止及び罰則
暴力団排除条例には,青少年の健全な育成を図るための措置として,以
下の規定がある。
(ア)暴力団事務所の開設及び運営の禁止(13条)
a暴力団事務所は,次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区
域内においては,これを開設し,又は運営してはならない(1項)。
(a)学校教育法(昭和22年法律第26号)1条に規定する学校(大
学を除く。)又は同法124条に規定する専修学校(高等課程を置
くものに限る。)(1号)
(b)2号~4号省略
(c)社会教育法(昭和24年法律第207号)20条に規定する公民
館(5号)
(d)6~9号省略
b暴力団排除条例13条1項の規定は,この条例の施行の際現に運営
されている暴力団事務所及びこの条例の施行後に開設された暴力団事
務所であってその開設後に同項各号に掲げるいずれかの施設が設置さ
れたことにより同項に規定する区域内において運営されることとなっ
たものについては,適用しない。ただし,ある暴力団のものとして運
営されていたこれらの暴力団事務所が,他の暴力団のものとして開設
され,又は運営された場合は,この限りでない。(2項)
(イ)罰則(25条)
a次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は50万円
以下の罰金に処する(1項)。
(a)暴力団排除条例13条の規定に違反して暴力団事務所を開設し,
又は運営した者(1号)
(b)2号及び3号省略
b2項省略
(3)本件規約
原告の成立の日である平成19年5月7日に発効(本件規約附則1条)し
た本件規約には,専有部分等の用途に関する以下の規定がある(甲2,乙2)。
ア専有部分等の用途(12条)
(ア)区分所有者及び占有者はその専有部分を専ら住戸として使用するもの
とし,他の用途に供してはならない(1項)。
(イ)区分所有者は,自ら暴力団(「暴力団員による不当な行為の防止等に
関する法律」2条2号(3号の誤記と思われる。)に定める指定暴力団
及び4号に定める指定暴力団連合をいう。以下同じとする。)の構成員
になり,又はその専有部分を暴力団事務所に使用してはならない(2項)。
(ウ)区分所有者は,その専有部分に暴力団の構成員若しくは親交者を居住
させ,又は反復して出入りさせてはならない(3項)。
(エ)専有部分に暴力団の構成員若しくは親交者が居住し,又は反復して出
入りするときは,他の区分所有者は,総会の決議に基づき,当該専有部
分の区分所有者又は占有者に対し,その専有部分の全面使用禁止若しく
は区分所有権の競売請求又は占有者に対する引渡し請求を行うことがで
きる(4項)。
(オ)5項省略
(カ)12条4項の法的手続に要する費用(弁護士費用を含む)は,当該専
有部分の区分所有者又は占有者が負担しなければならない(6項)。
イ理事長(39条)
(ア)1項省略
(イ)理事長は,区分所有法49条4項に定める管理組合法人を代表する理
事として,その旨登記するものとする(2項)。
(ウ)3項~5項省略
ウ理事長の勧告及び指示等(68条)
(ア)1項及び2項省略
(イ)区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しく
はその同居人(以下「区分所有者等」という。)がこの規約若しくは使
用細則等に違反したときは,理事長は理事会の議決を経て,管理組合法
人を代表して次の措置を講ずることができる(3項)。
a行為の差止め,排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し,
訴訟その他法的措置を追行すること(1号)。
b2号省略
(ウ)3項の訴えを提起する場合,理事長は,請求の相手方に対し,違約金
としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる(4
項)。
(エ)5項及び6項省略
(4)本件に至る経緯等
ア被告は,平成22年2月25日,別紙物件目録記載のとおりの区分所有
権等を取得し(甲1),同年3月頃,被告が区分所有権等を有する本件マ
ンションのg号室(以下「本件専有部分」という。)の各種ライフライン
契約を締結した上,同年5月頃,本件専有部分をA組の新組事務所とする
旨の移転通知を他の暴力団組織宛に発し,後記(5)ア記載の仮処分命令の
執行に至るまで,本件専有部分をA組の組事務所として使用していた(甲
8の1及び2,弁論の全趣旨)。
イA組の構成員は,平成23年1月12日,脅迫罪の容疑で逮捕され,翌
日,本件専有部分は家宅捜索を受けた(甲8の1及び2,弁論の全趣旨)。
ウ原告は,平成23年3月10日,第27期理事会を開催して本件規約1
2条,区分所有法58条,同法59条に基づき,被告に対し,本件専有部
分について仮処分命令の申立て,使用禁止の請求及び競売の請求をする訴
えを提起する方針を決定し(甲11の1及び2,弁論の全趣旨),同年4
月13日付けで,被告に対する本件専有部分の使用禁止及び競売を請求す
る訴えを提起することなどを議案として記載した集会(通常総会)の招集
通知を発した上(甲22,弁論の全趣旨),同月24日,第27回通常総
会を開催し,これらの訴え等を提起することを区分所有者及び議決権の各
4分の3以上の多数で議決した(甲6)。
エ原告は,上記ウの総会開催日に先立つ平成23年4月15日,被告に対
し,「催告書」と題する書面を送付し,弁明する機会を与えた(甲7の1
及び2)が,被告は,弁明せずに同総会を欠席した(甲6,弁論の全趣旨)。
(5)本件訴えの提起等
ア原告は,平成23年4月26日,福岡地方裁判所に対し,本件専有部分
について被告を債務者とする仮処分命令の申立てをし,同裁判所は,同年
5月9日,本件専有部分をA組の事務所等として使用することを禁ずる仮
処分命令(甲18,弁論の全趣旨。以下「本件仮処分命令」という。)を
した。
イ原告は,平成23年5月25日,当裁判所に対し,本件訴えを提起した
(顕著な事実)。
2争点及びこれに対する当事者の主張
(1)区分所有法6条1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害
が著しいといえるか(争点1)
(原告の主張)
ア本件マンションの敷地から暴力団排除条例13条1項1号該当施設であ
る小学校の敷地までの直線距離は197メートルであり,本件専有部分の
中心部から同項5号該当施設である公民館の建物までの直線距離は198
メートルである。本件マンションには,約20名の青少年が現に居住して
いる。
したがって,被告が本件専有部分において暴力団事務所を開設すること
は,暴力団排除条例(同種の暴力団排除条例は平成23年10月1日,4
7都道府県で施行されるに至った。)に定める犯罪を構成し,本件マンシ
ョンの他の区分所有者らの平穏な共同生活に対する著しい侵害である。
イ暴力団の構成員である被告が本件専有部分を区分所有すること自体が本
件規約12条2項に違反する。被告は,隠密裏に本件専有部分内を暴力団
事務所用に改造し,今日まで本件専有部分の区分所有を継続している。そ
して,被告は,暴力団であるA組の組長の立場を辞する考えを全く有して
いない。
ウ平成23年4月,福岡県では,暴力団排除条例が施行されて1年が経過
し,この間,福岡県警察は暴力団の資金源の封じ込めに力を入れてきた。
しかし,住民の生命を脅かす拳銃や爆発物等を使用した襲撃事件は後を絶
たない状況にある。また,近時,福岡県や佐賀県では,指定暴力団の道仁
会と九州誠道会をめぐる抗争が続いており,平成23年4月8日,暴力団
対策法15条に基づき,道仁会及び九州誠道会の拠点12事務所の使用を
制限する命令が出された。上記抗争事件の一つとして,平成23年4月2
4日夜には,本件マンションの約200メートル西方にある他のマンショ
ン敷地内で暴力団組員に対する殺人事件が発生した。
エA組の構成員は,平成23年1月12日,脅迫罪容疑で逮捕され,また,
本件専有部分においては,同年2月中旬以降,同年4月下旬の本件仮処分
命令の申立てに至るまで,多くの暴力団員風の人物の出入りが認められて
いる。
オ以上からすれば,本件において,被告が本件専有部分を暴力団事務所と
して使用すること自体によって,本件マンションの住民らに,その生命・
身体に危害が及ぶことがあるかもしれないとの耐え難い不安を持ちつつ生
活することを余儀なくさせ,本件マンションの住民らが平穏に生活するこ
とを害する状態が生じており,また,本件マンションの新入居希望者がな
く,区分所有権の資産価値が著しく減じるはずであるから,区分所有法6
条1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい状態
が生じているというべきである。
(被告の主張)
原告の請求は,区分所有法6条1項に規定されている本件マンションの使
用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為といわれても仕方がないとい
える具体的な事実の摘示もない一方的なものであり,明らかに不当である。
(2)区分所有権等の競売請求以外の方法によっては区分所有者の共同生活上の
障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持
を図ることが困難であるといえるか(争点2)
(原告の主張)
本件専有部分の相当期間の使用禁止が実現したとしても,被告が暴力団で
あるA組の組長であり,本件専有部分の区分所有者が被告である限りは,本
件専有部分が再び暴力団事務所として使用される可能性は高いと予想され,
このままでは区分所有者の平穏な共同生活の維持を図ることは困難である。
被告は,本件仮処分命令後,本件専有部分を取得価格の680万円を大き
く超える価格で他へ売却するとして,本件専有部分の区分所有を続けている。
しかし,本件専有部分は,本件規約に違反して暴力団事務所として改造され
ており,今後居住用建物への再改造が必要になることから,現状のまま高価
で他に売却することはできず,本件専有部分について競売の許可を得て,競
売手続によって本件専有部分の区分所有者を変えるほかない。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(3)区分所有法57条1項に規定する請求によっては区分所有者の共同生活上
の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維
持を図ることが困難であるといえるか(争点3)
(原告の主張)
本件において,仮に,区分所有権等の競売請求以外の方法によっては区分
所有者の共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所
有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとはいえないとしても,区分
所有法57条1項に基づいて単に本件専有部分を暴力団事務所として使用す
るための出入りの停止を求めるだけでは区分所有者の平穏な共同生活の維持
を図ることが困難な状況にあるから,区分所有法58条に基づく被告による
本件専有部分の使用の禁止が認められるべきであり,使用禁止の期間は5年
間が相当というべきである。
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記前提事実,証拠(括弧内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
(1)本件マンションの周辺環境等
本件マンションは,約100世帯前後が生活する居住専用マンションであ
る(本件規約12条1項。甲1,2,6)ところ,その敷地周辺約200メ
ートルの範囲内には,小学校,公民館,商業施設,住宅などが存在しており,
本件マンションの住民には,相当数の青少年が含まれている(甲3,19の
1及び2,23,乙1,弁論の全趣旨)。
(2)福岡県等における暴力団の関係する刑事事件等
福岡県や佐賀県では,指定暴力団道仁会と指定暴力団九州誠道会(以下「誠
道会」という。)との間で抗争が続き,暴力団事務所や暴力団構成員を狙っ
た発砲事件や爆発物事件が多発しているところ,その中には,一般市民が巻
き込まれた殺人事件等もあり,平成23年4月24日夜には,本件マンショ
ンの近隣のマンション敷地内において,同マンションに居住する誠道会系の
暴力団組員に対する殺人事件が発生した(甲12~15,弁論の全趣旨)。
(3)A組の構成,本件専有部分の使用状況等
ア被告を組長とするA組は,暴力団対策法3条に基づく指定暴力団七代目
合田一家の傘下組織であるところ,七代目合田一家は,平成22年末現在,
山口県下関市に主たる事務所を設置し,約160名の構成員を有している。
福岡県警察は,A組の構成員による抗争事件については把握していないが,
同構成員は,平成21年9月19日,傷害事件で,同23年1月12日,
脅迫事件で検挙されており,本件専有部分は,上記脅迫事件を被疑事実と
する捜索等の対象となった。(甲8の1及び2,弁論の全趣旨)
イ被告は,平成22年5月頃から,本件専有部分を正式に暴力団事務所と
して使用し始め,その頃前後から,A組の構成員又はその周辺者を本件専
有部分に出入りさせるようになった(甲9の1及び2,弁論の全趣旨)。
ウ被告は,本件仮処分命令が執行されてから,本件口頭弁論終結の日であ
る平成23年12月15日に至るまでは,本件仮処分命令に従い,本件専
有部分を暴力団事務所として使用していなかった(弁論の全趣旨)。
(4)本件マンションの住民らの状況等
原告は,平成23年10月25日から同年11月11日までの間,本件マ
ンションの多数の住民らを対象として,被告が本件専有部分を暴力団事務所
として使用していたことに関するアンケートを実施したところ,そのアンケ
ート回答書には,本件マンションの通路やエレベーター等の共用部分におい
て,被告の関係者と出くわして恐怖を感じた経験,自分や家族等が被告の関
係者と出くわすのではないか,何かトラブルに巻き込まれるのではないか,
暴力団の抗争に巻き込まれ生命等に危害が及ぶのではないかと日常的に不安
を感じている上,本件マンション内で安心して子供を遊ばせることができな
いなど日常生活に具体的な支障が生じている状況,区分所有権等の資産価値
が低下するのではないかという懸念等が記載されている(甲23,弁論の全
趣旨)。
2争点に対する判断
(1)争点1(区分所有法6条1項に規定する行為による区分所有者の共同生活
上の障害が著しいといえるか)について
ア区分所有法6条1項に規定する行為のうち,「その他建物の管理又は使
用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」(以下「共同利益背反行
為」という。)とは,「建物の保存」に侵害を及ぼさないような場合でも,
区分所有者の生活上の利益を含む建物の管理・使用全般にわたる共同の利
益に反する行為をいうところ,本件において,被告の共同利益背反行為に
よる区分所有者の共同生活上の障害が著しいといえるかについて,以下検
討する。
イ前記認定事実(1)及び弁論の全趣旨によれば,本件マンションは,住宅
地の一角に所在する居住専用マンションであり,青少年を含む約100世
帯前後の住民が日常生活を送っているところ,前記認定事実(3)ア,イ及
び弁論の全趣旨によれば,被告は,隣県に本拠地を有する相当規模の指定
暴力団である七代目合田一家の傘下組織であり,現に暴力団として活動し
ているA組の組長であって,本件専有部分を,本件規約に反し暴力団事務
所として使用し,A組の構成員又はその周辺者を本件専有部分に出入りさ
せていた上,本件専有部分は,A組の構成員が嫌疑をかけられた刑事事件
に関して捜索等の対象となっている。また,前記認定事実(1)によれば,
被告が本件専有部分を暴力団事務所として使用することは,暴力団排除条
例に規定する犯罪行為に該当するとはいえないとしても,これに準ずる行
為であるといえる。
さらに,前記認定事実(2)によれば,福岡県及び同県近郊においては,暴
力団同士の抗争事件と見られる暴力団事務所や暴力団構成員を狙った発砲
事件や爆発物事件が多発し,その中には暴力団とは無関係の一般市民が巻
き込まれた事件もある上,本件マンションの近隣のマンション敷地内にお
いても,現実に暴力団構成員に対する殺人事件が発生しているのであって,
前記前提事実(2),証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば,福岡県にお
いては,暴力団が県民の生活や社会経済活動に介入し,暴力及びこれを背
景とした資金獲得活動によって県民等に多大な脅威を与えているとの認識
の下,暴力団排除条例が制定され,一定の要件の下,暴力団事務所の設置
に対して罰則が定められるなどの施策が定められ,暴力団排除のための諸
活動が実施されつつある状況にあると認められることも併せ考慮すると,
本件において,被告が本件専有部分を暴力団事務所として使用することに
よって,本件マンション内又はその敷地内で暴力団同士の抗争事件が発生
するなどの事態が生じ,本件マンションの住民らの生命・身体に危害が及
ぶ現実的な可能性があるものというべきである。
そして,前記認定事実(4)によれば,被告が本件専有部分を暴力団事務所
として使用することによって,本件マンションの多数の住民らは,生命・
身体・財産に対する侵害の危険に対する不安・恐怖を感じながら日常生活
を送ることを強いられている状況にあったことが認められ,上記本件マン
ションの住民らの不安・恐怖は,単に抽象的で心理的な不安感にとどまる
ものとは到底いえず,本件マンションの住民らを萎縮させ,日常生活に具
体的な支障を生じさせるに足りるものと認めるのが相当である。
ウしたがって,上記のような事情の認められる本件においては,被告,A
組の構成員及び七代目合田一家の関係者(以下「被告ら」という。)と本
件マンションの住民らとの間の具体的な紛争や,被告らが関与した,他の
暴力団等との抗争事件等が既に発生しているといった事情を認めるに足り
る証拠はないことを考慮しても,被告が本件専有部分を暴力団事務所とし
て使用することは,区分所有者の生活上の利益を含む建物の管理・使用全
般にわたる共同の利益に反する行為であり,これによる区分所有者の共同
生活上の障害が著しい程度に至っているものと認められる。
(2)争点2(区分所有権等の競売請求以外の方法によっては区分所有者の共同
生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生
活の維持を図ることが困難であるといえるか)について
ア原告は,本件においては,被告の共同利益背反行為による区分所有者の
共同生活上の障害(以下,単に「共同生活上の障害」という。)が著しく,
区分所有権等の競売請求以外の方法によってはその障害を除去して共用部
分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難で
あるから,区分所有法59条に基づく被告の区分所有権等の競売請求が認
められるべきであると主張するので,以下検討する。
イ区分所有法57条1項に規定する請求について
前記認定判断のとおり,本件においては,共同生活上の障害が著しく,
このような共同生活上の障害が生じている理由は,被告が本件専有部分を
暴力団事務所として使用していることにあるところ,区分所有法57条1
項に基づき,被告が本件専有部分を暴力団事務所として使用することを停
止等するために必要な措置を執るのみで,被告による使用自体は許した場
合,被告は,A組組長であり,本件専有部分にA組の構成員又はその周辺
者を自宅への訪問者と称して出入りさせることが可能となること,本件専
有部分には暴力団事務所として使用するための各種備品が置かれているこ
と(甲17)などに照らすと,被告が同条に基づく措置を潜脱して,本件
専有部分を事実上暴力団事務所として使用する可能性があるといえる。
したがって,本件においては,区分所有法57条1項に規定する請求に
よっては共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分
所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
ウ区分所有法58条に規定する請求について
前記認定事実(3)ウによれば,被告は,本件口頭弁論終結の日である平成
23年12月15日に至るまで,本件仮処分命令を遵守して,本件専有部
分を暴力団事務所として使用していなかったものと認められ,本件専有部
分の区分所有権等を暴力団関係者以外の第三者へ譲渡する意思を表明して
いること(顕著な事実)からすると,本件訴訟において,区分所有法58
条に基づく被告による本件専有部分の使用の禁止の判決がなされた場合,
被告が同判決を遵守し,同判決で定められた期間内に本件専有部分の区分
所有権等を第三者へ譲渡するなどして,本件専有部分が暴力団事務所とし
て使用されなくなり,共同生活上の障害が消滅する可能性がないとはいえ
ない。
しかしながら,本件仮処分命令が執行された日から本件口頭弁論終結の
日まで,約7か月が経過しているにもかかわらず,被告が本件専有部分の
区分所有権等を暴力団と無関係の第三者へ譲渡するなどして,本件におけ
る共同生活上の障害を解消するために,何らかの具体的行動をしているこ
とを裏付けるに足りる証拠はないこと,前記前提事実(3)のとおり,本件マ
ンションにおいては本件規約上専有部分を住戸以外の用途で使用すること
が禁じられているところ,前記イで認定した本件専有部分の内部の状況等
からすると,被告が任意に本件専有部分の区分所有権等を譲渡する意思を
有しているかは疑問であり,また,被告がこれを有しているとしても,上
記譲渡には困難が伴うことが予想されることを踏まえると,被告が本件専
有部分の使用の禁止の判決確定後も本件専有部分の区分所有権等を第三者
へ譲渡せず,又は譲渡できず,同判決で定められた期間経過後に再び本件
専有部分を自ら使用する可能性は相当程度高度であるといえる。そして,
前記イで認定判断したとおり,被告が本件専有部分を住戸として使用して
いると称していても,事実上暴力団事務所として使用する可能性があるこ
とも併せ考慮すると,本件においては,区分所有法58条に規定する請求
に基づいて,一定期間に限り,被告による本件専有部分の使用を禁止する
ことによっては,共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その
他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるといわざるを得
ない。
エしたがって,本件においては,区分所有権等の競売請求以外の方法によ
っては共同生活上の障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所
有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
(3)弁護士費用の請求について
原告は,被告に対し,本件仮処分命令の申立て及び本件訴訟等に要する弁
護士費用として42万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成2
3年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めているが,前記前提事実(3)によれば,これは,本件規約12条
6項類推適用に基づく請求であると解されるところ,証拠(甲6)及び弁論
の全趣旨によれば,原告が本件仮処分命令の申立て及び本件訴訟等に要した
弁護士費用は42万円であると認められるから,原告の上記請求は理由があ
る。
第4結論
以上によれば,原告の請求は,いずれも理由があるから認容することとして,
主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官田中哲郎
裁判官増田純平
裁判官國井香里
(別紙)
物件目録
(一棟の建物の表示)
所在福岡市a区bc丁目d番地e
建物の名称f
(専有部分の建物の表示)
家屋番号bc丁目d番eのg
建物の名称g号
種類居宅
構造鉄筋コンクリート造1階建
床面積5階部分68.08平方メートル
(敷地権の目的である土地の表示)
土地の符号1
所在及び地番福岡市a区bc丁目d番e
地目宅地
地積3446.00平方メートル
(敷地権の表示)
土地の符号1
敷地権の種類所有権
敷地権の割合10000分の113
以上

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採用情報


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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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