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平成29年9月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10210号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年8月22日
判決
原告エルジーエレクトロニクス
インコーポレイティド
同訴訟代理人弁護士萩尾保繁
山口健司
石神恒太郎
関口尚久
伊藤隆大
同弁理士南山知広
河合章
竹本実
被告特許庁長官
同指定代理人松川直樹
森林克郎
山村浩
真鍋伸行
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2015-489号事件について平成28年4月27日にした審決
を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴原告は,平成25年4月12日(優先権主張:平成24年6月22日,韓国),
発明の名称を「太陽電池モジュール及びそれに適用されるリボン結合体」とする特
許出願(特願2013-83899号。以下「本願」という。甲1)をしたが,平成
26年9月4日付けで拒絶査定(甲5)を受けた。
⑵そこで,原告は,平成27年1月9日,これに対する不服の審判を請求した
(甲6)。
⑶特許庁は,上記審判請求を不服2015-489号事件として審理を行った。
原告は,平成28年3月14日,特許請求の範囲を補正した(甲10)。
⑷特許庁は,平成28年4月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月17日,
その謄本が原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。
(5)原告は,平成28年9月14日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲請求項1の記載は,平成28年3月14日付け手続補正書(甲1
0)により補正された次のとおりのものである。以下,請求項1に記載された発明
を「本願発明」といい,その明細書(甲1)を「本願明細書」という。なお,文中の
「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】第1太陽電池及び第2太陽電池を含む複数の太陽電池であって,前記
第1太陽電池及び前記第2太陽電池のそれぞれは,半導体基板と,前記半導体基板
の後面に形成される第1導電型領域及び第2導電型領域と,前記半導体基板の後面
に位置し,前記第1導電型領域に電気的に連結される第1電極と,前記半導体基板
の後面において前記第1電極と離隔して位置し,前記第2導電型領域に電気的に連
結される第2電極と,を含む,前記第1太陽電池及び第2太陽電池を含む複数の太
陽電池と,/前記第1太陽電池の前記第1電極及び前記第2電極の一つと前記第2
太陽電池の前記第1電極及び前記第2電極の他の一つを前記半導体基板の後面で電
気的に連結するリボンと,/前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶
縁部と,を含み,/前記リボンが,前記第1太陽電池及び前記第2太陽電池の間の
前記リボンの少なくとも一部で,前記絶縁部又は前記複数の太陽電池と隣接した前
記リボンの一面に傾斜面を有し,入光面に形成される複数の凹凸を含み,/前記絶
縁部は,前記第1太陽電池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくと
も一部に位置する少なくとも一つの凹凸を覆うように位置され,/前記絶縁部が透
過性を有する,太陽電池モジュール。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願
発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下
記イの引用例2に記載された事項(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開2009-266848号公報(甲11)
イ引用例2:特表2010-517315号公報(甲12)
⑵本件審決が認定した引用発明1,本願発明と引用発明1との一致点及び相違
点並びに引用発明2は,次のとおりである。
ア引用発明1
複数の太陽電池10と,緩衝材14と,接続部材50とを備える太陽電池ストリ
ング102であって,/前記複数の太陽電池10が有する,半導体材料によって構
成された光電変換部30は,裏面側に形成されたn型領域36とp型領域38とを
含み,n側電極32は,前記n型領域36上に形成され,p側電極34は,前記p型
領域38上に形成され,/前記接続部材50は,第1部分51と,第2部分52と,
第3部分53とを有し,/前記第1部分51は,一の太陽電池10が有する光電変
換部30の裏面と接合される第1表面51Sを有し,前記第1表面51Sは,導電
性を有する第1導電領域51aと,絶縁性を有する第1絶縁領域51bとを含み,
前記第1導電領域51aは,前記一の太陽電池10が有するn側電極32に沿って
形成されて前記n側電極32に電気的に接続され,/前記第2部分52は,他の太
陽電池10が有する光電変換部30の裏面と接合される第2表面52Sを有し,前
記第2表面52Sは,導電性を有する第2導電領域52aと,絶縁性を有する第2
絶縁領域52bとを含み,前記第2導電領域52aは,前記他の太陽電池10が有
するp側電極34に沿って形成されて前記p側電極34に電気的に接続され,/
前記第3部分53は,前記第1部分51と前記第2部分52とを電気的に接続する
導電体であり,/前記緩衝材14は,前記複数の太陽電池10と前記接続部材50
との間に位置し,EVA,EEA,PVBなどの樹脂材料によって形成される,/
太陽電池ストリング102。
イ本願発明と引用発明1との一致点
第1太陽電池及び第2太陽電池を含む複数の太陽電池であって,前記第1太陽電
池及び前記第2太陽電池のそれぞれは,半導体基板と,前記半導体基板の後面に形
成される第1導電型領域及び第2導電型領域と,前記半導体基板の後面に位置し,
前記第1導電型領域に電気的に連結される第1電極と,前記半導体基板の後面にお
いて前記第1電極と離隔して位置し,前記第2導電型領域に電気的に連結される第
2電極と,を含む,前記第1太陽電池及び第2太陽電池を含む複数の太陽電池と,
/前記第1太陽電池の前記第1電極及び前記第2電極の一つと前記第2太陽電池の
前記第1電極及び前記第2電極の他の一つを前記半導体基板の後面で電気的に連結
するリボンと,/前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部と,を
含み,/前記絶縁部が透過性を有する,太陽電池モジュールである点
ウ本願発明と引用発明1との相違点
(ア)相違点1
「リボン」が,本願発明においては,「前記第1太陽電池及び前記第2太陽電池の
間の前記リボンの少なくとも一部で,前記絶縁部又は前記複数の太陽電池と隣接し
た前記リボンの一面に傾斜面を有し,入光面に形成される複数の凹凸を含」むのに
対して,引用発明1の「接続部材50」は,そのような構成ではない点
(イ)相違点2
「絶縁部」が,本願発明においては,「前記第1太陽電池及び前記第2太陽電池の
間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置する少なくとも一つの凹凸を覆うよう
に位置され」るのに対して,引用発明1の「緩衝材14」はそのように位置されるも
のでない点
エ引用発明2
太陽電池によってカバーされなかった領域から太陽電池に向かって入射光を向け
直す(リダイレクトする)ために,相互コネクタ3の本体をエンボス加工して反射
構造4bのためのVグルーブを提供すること
4取消事由
本願発明の容易想到性の判断の誤り
(1)一致点の認定の誤り及び相違点の看過
(2)相違点2に係る容易想到性の判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
本件審決は,引用発明1の緩衝材14が本願発明の絶縁部に相当するものと判断
し,「前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部と,を含み,」との
構成を本願発明と引用発明1との一致点として認定した。しかし,以下のとおり,
引用発明1には本願発明の絶縁部は含まれないことから,上記認定は誤りである。
そして,本件審決には,本願発明と引用発明1との間には,本願発明が上記構成を
備えるのに対し,引用発明1は備えていないという相違点(以下「相違点3」とい
う。)を看過した誤りがある。
⑴本願発明の絶縁部の意義について
本願発明の特許請求の範囲請求項1における「前記複数の太陽電池と前記リボン
との間に位置する絶縁部」という発明特定事項は,絶縁部が,太陽電池とリボンと
の間にあるのみならず,太陽電池と太陽電池との間にあること,すなわち,太陽電
池と太陽電池の間にあるリボンの少なくとも一部に形成される複数の凹凸のうち,
少なくとも1つの凹凸を覆うように位置するものであることを意味する。
従来,複数の太陽電池をリボンで連結する際,不要な短絡を防止するために絶縁
フィルムを利用しており,その絶縁フィルムには,審美的な特性を向上させるため
に不透明な材質のものを用いていたことから,絶縁フィルムの部分に入射する光を
利用することができず,光の使用量が低下する問題があった。本願発明は,この問
題を解決して光の使用量を増加させるために特許請求の範囲請求項1記載の構成を
採用したものであり,絶縁フィルムを透過した光がリボンの凹凸で反射され,太陽
電池の前面基板で全反射されるようにして,絶縁フィルム側に入射される光を太陽
電池に使用できるという効果を奏するものである(【0003】~【0005】【00
08】【0058】【0059】【0066】【0068】【0103】)。
本願発明は,太陽電池モジュールのうち,太陽電池のない領域(複数の太陽電池
における太陽電池と太陽電池の間の領域,また,リボン(接続部材)が配置される領
域)に入射した光を太陽電池に利用しようとするものである。
本願明細書中,「不透明な絶縁フィルムが位置した部分」,「絶縁フィルム側」,「絶
縁部側」及び「リボン142が形成された部分」に関する記載(【0004】【000
8】【0066】【0068】【0103】)は,いずれも絶縁部が太陽電池のない領域
に位置することを前提とし,同領域における光の利用に関する記載であることは明
らかである。そうすると,絶縁部が「前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位
置する」とは,単に,絶縁部が太陽電池とリボンの間にあるということではなく,太
陽電池と太陽電池の間にもあることをいうものである。この絶縁部の意義は,「この
ような絶縁部144は,少なくとも半導体基板10とリボン112との間で,第1
太陽電池151の第1電極42と第2太陽電池152の第2電極44との間に位置
する空間を埋めながら位置する。」との記載(【0058】)に端的に表現されており,
絶縁部に関するその他の記載(【0056】【0060】~【0062】【0067】
【0070】~【0074】【0080】【0084】【0085】【0100】)も,
絶縁部が太陽電池とリボンの間にあるだけではなく太陽電池と太陽電池の間(太陽
電池のない領域)にあるとの理解を前提とするか(【0067】【0100】),この理
解と矛盾しないものである。
⑵引用発明1の緩衝材14について
引用発明1の緩衝材14は,接続部材50の第3部分53と太陽電池10との間
に配設されるものであり(【0069】),太陽電池と太陽電池の間に配設されるもの
ではない(【図9】【図16】)。緩衝材14は,接続部材50の第3部分53が太陽電
池10に接触してこれを破損させることを抑制し,また,接続部材50の第3部分
53と太陽電池10との間で短絡の発生を抑制することができるという技術的意義
を有する(【0069】)。
そして,引用発明1は,光電変換部の裏面のうちn側集電部とp側集電部とが形
成された領域から光生成キャリアを収集することは困難であるという従来技術の課
題に対し,裏面上に形成されたn側電極及びp側電極によって効率的に光生成キャ
リアを収集できる太陽電池モジュールを提供することを課題とするものであり(【0
007】【0008】),引用例1において,太陽電池のない領域である絶縁部側に入
射される光を利用する技術思想は開示されていない。
⑶一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
前記⑴及び⑵のとおり,本願発明の絶縁部が太陽電池のない領域への光を有効に
利用する技術的意義を有するものであるのに対し,引用発明1の緩衝材14は,接
続部材の第3部分53が太陽電池に接触して太陽電池を破損させることを防止する
技術的意義を有するものであり,上記絶縁部と緩衝材14とは,基本的性質におい
て異なる。
したがって,引用発明1の緩衝材14は,本願発明の絶縁部に相当するものでは
なく,引用発明1において上記絶縁部に相当するものはない。
⑷相違点3の容易想到性について
ア動機付けについて
(ア)引用例1について
前記⑵のとおり,引用発明1の緩衝材14は,接続部材50の第3部分53が太
陽電池10に接触してこれを破損させることを抑制する技術的意義を有するところ,
太陽電池のない領域においては太陽電池と接続部材との接触が生じ得ないのである
から,上記技術的意義は,太陽電池のない領域である太陽電池と太陽電池の間に緩
衝材14を配置するようにその形状又は配置態様を変更する示唆にはならない。ま
た,緩衝材14は,接続部材50の第3部分53と太陽電池10との間で短絡の発
生を抑制することができるという技術的意義も有するが,引用発明1は,緩衝材1
4によって上記短絡の発生の抑制という効果を既に奏しているのであるから,さら
なる抑制のために緩衝材14の形状又は配置態様を変更する理由はない。
加えて,前記⑵のとおり,引用例1において,太陽電池のない領域である絶縁部
側に入射される光を利用する技術思想は開示されていないのであるから,その光を
前面基板に反射させるために緩衝材14の形状又は配置態様を変更する動機付けは
示唆されていない。
(イ)引用例2について
引用例2は,相互コネクタ3の本体の形状をエンボス加工し,反射構造4bのた
めのVグルーブを提供する旨を開示するものであるが,相互コネクタ3は,複数の
太陽電池を電気的に相互接続するものであり(【0028】),本願発明のリボンに対
応する部材である。また,引用例2における反射構造は,導電性の部材であって絶
縁体ではない(【0010】【0017】)。よって,引用例2には,絶縁部材に関する
開示はないものといえるから,引用発明1の緩衝材14について,太陽電池と太陽
電池の間に配置されるようにその形状又は配置態様の変更を示唆するものにはなら
ない。
イ相違点3に係る本願発明の構成について
前記アのとおり引用例2には,絶縁部材に関する開示はないから,引用発明1に
引用発明2を適用しても,相違点3に係る絶縁部を備えた本願発明の構成に想到す
ることはない。
2相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて
相違点2に係る本願発明における絶縁部の構成は,「前記第1太陽電池及び前記第
2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置する少なくとも一つの凹
凸を覆うように位置され」るものであるところ,その趣旨は,①リボンが第1太陽
電池及び第2太陽電池の間にあること,②リボンの入光面に形成される複数の凹凸
は,第1太陽電池及び第2太陽電池の間にあるリボンの少なくとも一部に位置する
こと,③絶縁部は,その複数の凹凸(第1太陽電池及び第2太陽電池の間にあるリ
ボンの少なくとも一部に位置する複数の凹凸)の少なくとも1つの凹凸を覆うよう
に位置することである。
他方,引用発明1の接続部材50は,複数の太陽電池の間にあるものの,複数の
凹凸は存在せず,したがって,緩衝材14が接続部材50の入光面に形成された複
数の凹凸の少なくとも1つの凹凸を覆うこともない。
そうすると,相違点2に係る本願発明の構成に至るためには,接続部材50の入
光面に複数の凹凸を形成し,それを太陽電池と太陽電池との間にある接続部材50
の少なくとも一部に位置するようにし,かつ,緩衝材14が太陽電池と太陽電池と
の間にある上記複数の凹凸の少なくとも1つを覆うように位置することを要する。
しかし,前記1⑷ア(ア)のとおり,引用例1には,緩衝材14の形状又は配置態様
を変更して太陽電池と太陽電池との間に配置する構成を採用する動機付けは示唆さ
れておらず,よって,緩衝材14が太陽電池と太陽電池との間にある上記複数の凹
凸の少なくとも1つを覆うように配置する動機付けも示唆されていない。
また,前記1⑷ア(イ)のとおり,引用例2には,絶縁部材に関する開示はないもの
といえるから,緩衝材14について上記動機付けは示唆されていない。
以上によれば,引用発明1及び2に基づいて相違点2に係る本願発明を想到する
ことは容易ではない。
〔被告の主張〕
1一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
⑴本願発明の絶縁部の意義について
ア本願発明の特許請求の範囲請求項1における「前記複数の太陽電池と前記リ
ボンとの間に位置する絶縁部」という発明特定事項は,絶縁部が,(前記複数の太陽
電池に含まれる)「第1太陽電池」と「前記リボン」との間隔に位置するとともに,
(前記複数の太陽電池に含まれる)「第2太陽電池」と「前記リボン」との間隔に位
置することを特定するにとどまり,絶縁部が,「第1太陽電池」の右端と「第2太陽
電池」の左端との間隔に位置することを必須の構成としてはいないと解すべきであ
る。
このように解することは,文理上自然であり,本願明細書【0058】の「このよ
うなリボン142と太陽電池150との間には,リボン142と太陽電池150間
の電気的短絡を防止するための絶縁部144が位置する。」との記載とも整合する。
さらに,本願明細書【0058】には,「このような絶縁部144は,少なくとも半
導体基板10とリボン142との間で,第1太陽電池151の第1電極42と第2
太陽電池152の第2電極44との間に位置する空間を埋めながら位置する。」とも
記載されているところ,上記発明特定事項には,「半導体基板10とリボン142と
の間」に対応する記載はあるが,「第1太陽電池151の第1電極42と第2太陽電
池152の第2電極44との間」に対応する記載はない。よって,絶縁部が,「第1
太陽電池151の第1電極42と第2太陽電池152の第2電極44との間」のう
ち「半導体基板10とリボン142との間」に属しない部分に位置することは,必
須とされていないということができる。
イ本願発明の特許請求の範囲請求項1における「前記リボンが,前記第1太陽
電池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの少なくとも一部で,前記絶縁部又は
前記複数の太陽電池と隣接した前記リボンの一面に傾斜面を有し,入光面に形成さ
れる複数の凹凸を含み,/前記絶縁部は,前記第1太陽電池及び前記第2太陽電池
の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置する少なくとも一つの凹凸を覆うよ
うに位置され,」という発明特定事項について,「前記第1太陽電池及び前記第2太
陽電池の間の」は,これらの太陽電池を電気的に結びつけているという「前記リボ
ン」全体が有する機能を特定しているものと解するのが自然であり,第1太陽電池
の右端と第2太陽電池の左端の間隔といった位置の特定を含意するものではない。
したがって,「凹凸」の位置は,「前記リボン」全体におけるいずれかの位置で,光
が入射する位置であることは要するものの,第1太陽電池の右端と第2太陽電池の
左端の間隔に限定されるものではない。よって,「少なくとも一つの凹凸を覆う」絶
縁部が,上記間隔に位置しないことも排除されていない。このように解することは,
本願明細書の【0058】,【0064】,【図6】,【図17】及び【図18】とも整合
する。
ウ本願発明は,第1電極及び第2電極がいずれも太陽電池の裏面にあるバック
コンタクト方式の太陽電池において,リボンの「入光面に形成される複数の凹凸」
を含み,絶縁部が,その「少なくとも一つの凹凸」を覆うように位置され,かつ,
「透過性を有する」ので不透明なものとは異なり,「少なくとも一つの凹凸」に入射
光が到達し得るとともに,その入射光の反射光が太陽電池の効率向上に寄与し得る
という技術的意義を有するものである。同技術的意義に関しても,絶縁部が第1太
陽電池の右端と第2太陽電池の左端の間隔に位置することは,上記太陽電池の効率
向上に必須ではない。
⑵一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
本願発明の絶縁部は,その文言のとおり絶縁性を有する部位と解せば足りる。そ
して,引用発明1の緩衝材14は,「第3部分53と太陽電池10との間での短絡の
発生を抑制できる」(【0069】)ものであるから,これが絶縁性を有することは明
らかである。
よって,引用発明1の緩衝材14は,本願発明の絶縁部に相当するものであるか
ら,本件審決による一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
2相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて
原告は,相違点2に係る本願発明における絶縁部の構成につき,「前記第1太陽電
池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置する少なく
とも一つの凹凸を覆うように位置され」るという発明特定事項につき,第1太陽電
池の右端と第2太陽電池の左端との間隔に位置することが特定されているとの解釈
に基づき,本件審決による相違点2に係る容易想到性の判断に誤りがある旨主張し
ており,前記1⑴のとおり,上記解釈自体に誤りがある。
本件審決は,引用発明1の接続部材50に,引用発明2を適用することが容易に
想到でき,その適用に際し,引用発明1の緩衝材14の部分にも,光が入射するV
グループを形成することは格別なことではないとして,相違点1及び2をまとめて
容易に想到できると判断したものであり,同判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2に記載のとおりであると
ころ,本願明細書(甲1)には,おおむね,次のような記載がある(下記記載中に引
用する図面については,別紙1参照)。
ア技術分野
本発明は,太陽電池モジュールに関する。(【0001】)
イ背景技術
太陽電池は,複数個がリボンにより直列または並列に連結され,複数の太陽電池
を保護するためのパッケージング(略)工程によってモジュールの形態で製造され
る。リボンにより複数の太陽電池を連結する時に,不必要な短絡を防止するために
絶縁フィルムを使用することになり,従来は,審美的な特性を向上するために,絶
縁フィルムを不透明な材質で形成していた。そうすると,不透明な絶縁フィルムが
位置した部分に入射する光を利用できないため,光の使用量が低下し,これによっ
て太陽電池の効率が低下する。(【0003】【0004】)
ウ発明が解決しようとする課題
本願発明の目的は,光の使用量を増加させて,太陽電池の効率を向上できる太陽
電池モジュールを提供することである。(【0005】)
エ課題を解決するための手段
本実施例に係る太陽電池モジュールは,第1太陽電池及び第2太陽電池を含む複
数の太陽電池と,前記第1太陽電池と前記第2太陽電池を電気的に連結するリボン
と,前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部と,を含み,前記絶
縁部が透過性を有する。(【0006】)
オ発明の効果
本実施例に係る太陽電池モジュールでは,リボンの太陽電池側の一面に凹凸が形
成され,リボンと太陽電池との間に位置する絶縁フィルムが透過性を有する。絶縁
フィルムを透過した光がリボンの凹凸で反射され,太陽電池の前面基板で全反射さ
れるようにして,絶縁フィルム側に入射される光を太陽電池に使用できるようにな
る。このように,反射効果を向上させて,太陽電池の効率を向上することができる。
(【0008】)
カ発明を実施するための形態
一例として,本実施例では,互いに異なる導電型の第1及び第2導電型領域(図
2の参照符号22,24)が半導体基板(図2の参照符号10)の後面に位置した形
態のシリコン太陽電池を,太陽電池150として使用することができる。(中略)こ
のような太陽電池150は,複数個がリボン142により電気的に直列,並列また
は直並列に連結されて,太陽電池ストリング140をなす。(【0017】)
図2を参照すると,本実施例において太陽電池150のそれぞれは,半導体基板
10と,半導体基板10の一面(以下,「後面」という)において互いに離隔する第
1及び第2導電型領域22,24と,第1及び第2導電型領域22,24にそれぞ
れ電気的に連結される第1及び第2電極42,44と,を含む。(【0026】)
本実施例では,半導体基板10の後面側に,互いに異なる導電型ドーパントを有
するp型の第1導電型領域22及びn型の第2導電型領域24が形成される。この
ような第1導電型領域22と第2導電型領域24は,シャント(短絡)を防止でき
るように,互いの間にアイソレーション領域36を置いて互いに離隔することがで
きる。(【0030】)
パッシベーション膜32上には,第1導電型領域22に連結される第1電極42
および第2導電型領域24に連結される第2電極44を形成することができる。よ
り具体的には,第1電極42は,パッシベーション膜32を貫通する第1貫通孔3
2aによって第1導電型領域22に連結され,第2電極44は,パッシベーション
膜32を貫通する第2貫通孔34aによって前記第2導電型領域24に連結するこ
とができる。(【0039】)
図4に示したように,第1太陽電池151の第1電極42(特に,第1電極42
の幹部42a)と第2太陽電池152の第2電極44(特に,第2電極44の幹部
44a)は互いに隣接して位置し,第1太陽電池151の第1電極42と第2太陽
電池152の第2電極44とがリボン142により電気的に連結される。(【005
3】)
リボン142と太陽電池150との間には,リボン142と太陽電池150間の
電気的短絡を防止するための絶縁部144が位置する。このような絶縁部144は,
少なくとも半導体基板10とリボン142との間で,第1太陽電池151の第1電
極42と第2太陽電池152の第2電極44との間に位置する空間を埋めながら位
置する。(【0058】)
本実施例において絶縁部144は,透過性を有し,光が通過してリボン142へ
向かうことができるようにする。このようにリボン142へ向かった光は,リボン
142で反射された後に前面基板110側から再反射されて光電変換に使用される
ことができる。(【0059】)
絶縁部144は,透明で且つ優れた絶縁特性を有する多様な物質を含むことがで
きる。一例として,絶縁部144は,ポリエチレンテレフタレート(PET)または
エチレン酢酸ビニル(EVA),シリコン樹脂のような樹脂物質であるか,またはシ
リコン酸化物,シリコン窒化物のようなセラミック物質を含むことができる。(【0
061】)
図5を参照すると,本実施例では,リボン142において太陽電池150に隣接
した面に凹凸(P)が形成される。このような凹凸(P)は,一例として,太陽電池
150の平面と20~45度の角度(A)を持つ傾斜面を有するようになる。これ
は,凹凸(P)の傾斜面から反射された光が,前面基板110と外部空気との境界面
で全反射され得る角度に限定されたものである。(中略)このように,傾斜面を有す
る場合であれば,リボン142の凹凸(P)は多様な形状を有することができる。(
【0063】)
図5の(a)乃至(c)では,連結部142bと接続部142a両方に凹凸(P)
が形成されることを例示したが,本発明がこれに限定されるものではない。したが
って,図5の(d)乃至(f)のように,第1太陽電池151と第2太陽電池152
との間に位置する連結部142aにのみ凹凸(P)が形成されてもよいことは勿論
である。(【0065】)
このように,絶縁部144が透光性を有するようにし,リボン142に前面基板
110と一定角度を有する凹凸(P)を形成すると,図6に示したように,リボン1
42が形成された部分に入射した光(図6の実線矢印)が,透過性を有する絶縁部
144を通過してリボン142の凹凸(P)に到達する。リボン142の凹凸(P)
に到達した光は,凹凸(P)に形成された傾斜面によって反射して前面基板110
へ向かうようになる(図6の点線矢印)。前面基板110と外部空気の屈折率の差に
よって,臨界角以上である場合,前面基板110と外部空気との間の境界面で光の
全反射(略)が起こり,全反射した光(図6の一点鎖線矢印)が太陽電池150に向
かうようになって太陽電池150内で使用できるようになる。(【0066】)
本実施例によれば,絶縁部144が透光性を有するようにし,リボン142に,
前面基板110と一定角度(A)を有する凹凸(P)を形成して,リボン142部分
に入射する光を反射によって太陽電池150で利用できるようにする。また,絶縁
部144においてリボン142が形成されていない部分では,第2封止材132及
び後面シート200側に光を通過させることができる。そうすると,第2封止材1
32または後面シート200の界面で光が反射して太陽電池150に向かうように
することができる。(【0067】)
本実施例では,リボン142において太陽電池150と隣接した部分に凹凸(P)
を形成するので,絶縁部144と接触する面での面積を広げることができ,リボン
142と絶縁部144との接着特性を向上することができる。(【0070】)
(2)本願発明の特徴
前記(1)によれば,本願発明の特徴は,以下のとおりであると認められる。
ア本願発明は,太陽電池モジュールに関するものである(【0001】)。
イ太陽電池は,複数個をリボンにより直列または並列に連結したモジュールの
形態で製造され,リボンにより複数の太陽電池を連結するときに,不必要な短絡を
防止するために絶縁フィルムを使用するが,その際,審美的な特性を向上するため
に,短絡防止用の絶縁フィルムは,不透明な材質で形成されていたため,不透明な
絶縁フィルムが位置した部分に入射する光を利用できないこととなり,光の使用量
が低下し,太陽電池の効率が低下するという課題があった(【0003】【0004】)。
ウ本願発明は,上記課題の解決のため,従来よりも光の使用量を増加させて,
効率を向上できる太陽電池モジュールを提供することを目的とするものである(【0
005】)。
エ本願発明に係る太陽電池モジュールは,複数の太陽電池と,複数の太陽電池
の間の電極を半導体基板の後面で電気的に連結するリボンと,複数の太陽電池とリ
ボンとの間に位置する絶縁部とを含み,リボンの一面に傾斜面を有し,入光面に形
成される複数の凹凸を設けるとともに(【0063】),太陽電池と前記リボンとの間
に位置する絶縁部が,リボンの凹凸を覆うように位置され(【0058】),かつ,透
過性を有するという特徴を備えたものである(【0006】【0008】)。
オ上記の構成によれば,光は,透過性を有する絶縁部を透過し,リボンに設け
られた凹凸で反射され,太陽電池の前面基板で全反射されるようにして,絶縁部側
に入射される光を太陽電池に使用できるようになり,太陽電池の効率を向上させる
効果を奏する(【0008】)。
2引用発明1について
(1)引用例1(甲11)の特許請求の範囲請求項1には,以下のとおり記載され
ている。
配列方向に沿って配列された第1太陽電池と第2太陽電池とを電気的に接続する
接続部材を備え,/前記第1太陽電池と前記第2太陽電池それぞれは,/光が入射
する受光面と前記受光面の反対側に設けられる裏面とを有する光電変換部と,/前
記光電変換部の前記裏面上において,前記配列方向に沿って形成されるn側電極と,
/前記光電変換部の前記裏面上において,前記配列方向に沿って形成されるp側電
極と/を有しており,/前記接続部材は,/前記第1太陽電池が有する前記光電変
換部の前記裏面と対向する第1表面を有する第1部分と,/前記第2太陽電池が有
する前記光電変換部の前記裏面と対向する第2表面を有する第2部分と,/を有し,
/前記第1表面は,前記第1太陽電池が有する前記n側電極に沿って形成される第
1導電領域を含み,/前記第2表面は,前記第2太陽電池が有する前記p側電極に
沿って形成される第2導電領域を含んでおり,/前記第1導電領域は,前記n側電
極に電気的に接続され,/前記第2導電領域は,前記p側電極に電気的に接続され,
/前記第1導電領域と前記第2導電領域とは電気的に接続される/ことを特徴とす
る太陽電池モジュール。
(2)引用例1の発明の詳細な説明には,おおむね,以下とおりの記載がある(甲
11。下記記載中に引用する図については,別紙2参照)。
ア技術分野
本発明は,光電変換部の裏面上に形成されたn側電極とp側電極とを有する太陽
電池を備える太陽電池モジュールに関する。(【0001】)
イ背景技術
従来,光電変換部の裏面側に複数のn型領域と複数のp型領域とが配列方向に沿
って形成された,いわゆる裏面接合型の太陽電池において,各n型領域上には,光
電変換部によって生成された電子を収集するn側電極が,各p型領域上には,光電
変換部によって生成された正孔を収集するp側電極が,それぞれ形成され,第1太
陽電池の各n側電極と,第1太陽電池に隣接する第2太陽電池の各p側電極とは,
配線材によって電気的に接続される。具体的には,第1太陽電池の各n側電極の一
端部は,光電変換部の裏面上に形成されるn側集電部に接続される。第2太陽電池
の各p側電極の一端部は,光電変換部の裏面上に形成されるp側集電部に接続され
る。配線材は,n側集電部とp側集電部とに接続される。(【0004】【0005】)
ウ発明が解決しようとする課題
本発明は,裏面上に形成されたn側電極及びp側電極によって効率的に光生成キ
ャリアを収集できる太陽電池モジュールを提供することを目的とする。(【0008】)
エ課題を解決するための手段
本発明の太陽電池モジュールによれば,第1太陽電池が有するn側電極と第2太
陽電池が有するp側電極とは,第1導電領域と第2導電領域とによって電気的に接
続される。従って,配列方向に沿って第1太陽電池の略全長に渡ってn側電極を形
成できる。同様に,配列方向に沿って第2太陽電池の略全長に渡ってp側電極を形
成できる。その結果,第1太陽電池及び第2太陽電池から光生成キャリアを効率的
に収集できる。(【0010】)
オ第2実施形態とその作用効果
第2実施形態では,太陽電池ストリング102は,複数の太陽電池10と緩衝材
14と,接続部材50を備え,複数の太陽電池10それぞれは,接続部材によって
接続される。(【0051】【0053】【0054】,図10)
接続部材50は,第1部分51と,第2部分52と,第3部分53とを有し,銅薄
板などの導電性材料を基材として構成されている。第3部分53は,第1部分51
と第2部分52とを電気的に接続する導電体であり,一の太陽電池10と太陽電池
10との間に露出する。(【0055】【0058】,図12)
第1導電領域51aは,一の太陽電池10が有するn側電極32に沿って形成さ
れ,n側電極32に電気的に接続される。第2導電領域52aは,他の太陽電池1
0が有するp側電極34に沿って形成され,p側電極34に電気的に接続される。
第1導電領域51aと第2導電領域52aとは,電気的に接続され,従って,一の
太陽電池10の略全長に渡ってn側電極32を形成でき,他の太陽電池10の略全
長に渡ってp側電極34を形成できる。その結果,一の太陽電池10及び他の太陽
電池10から光生成キャリアを効率的に収集できる。(【0065】【0066】,図
13~15)
また,第3部分53と一の太陽電池10との間,及び第3部分53と他の太陽電
池10との間には,緩衝材14が配設される。従って,導電性を有する第3部分5
3が,太陽電池10に接触することによって太陽電池10が破損することを抑制で
き,第3部分53と太陽電池10との間での短絡の発生を抑制できる。(【0069】,
図16)
(3)小括
以上によれば,引用例1(甲11)には,本件審決が認定したとおりの引用発明1
(第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。
3取消事由について
(1)一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
ア本願発明の「前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部」に
ついて
原告は,本願発明は,太陽電池モジュールのうち,太陽電池のない領域に入射し
た光を太陽電池に利用しようとするものであるから,絶縁部が「前記複数の太陽電
池と前記リボンとの間に位置する」とは,単に絶縁部が太陽電池とリボンの間にあ
るということではなく,太陽電池と太陽電池の間にもあることを意味し,そのこと
は,本願明細書の【0058】の記載に端的に表現されていると主張する。
しかしながら,特許請求の範囲請求項1において,「絶縁部」については,「太陽電
池と太陽電池との間」に位置するとの特定はされていない。
他方,本願明細書の【0058】には,「絶縁部144は,少なくとも半導体基板
10とリボン142との間で,第1太陽電池151の第1電極42と第2太陽電池
152の第2電極44との間に位置する空間を埋めながら位置する」との記載があ
り,図4~6には,絶縁部が太陽電池と太陽電池の間に存在する実施例の開示があ
る。しかし,【0058】には,リボン142と太陽電池150との間に,リボン1
42と太陽電池150間の電気的短絡を防止するための絶縁部144が位置すると
の記載があるものの,太陽電池と太陽電池との間の電気的短絡を防止するために絶
縁部を設けるとの記載はない。
そうすると,本願発明における「太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部」
は,絶縁部が太陽電池と太陽電池との間に位置することを要することを意味すると
はいえず,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
イ引用発明1との対比
引用例1には,接続部材50の「第3部分53と一の太陽電池10との間,及び
第3部分53と他の太陽電池10との間には,緩衝材14が配設される。従って,
導電性を有する第3部分53が,太陽電池10に接触することによって太陽電池1
0が破損することを抑制できる。また,第3部分53と太陽電池10との間での短
絡の発生を抑制できる」との記載があり(甲11【0069】),緩衝材14は,絶縁
部として機能するものであるところ,引用発明1においては,「緩衝材14は,前記
複数の太陽電池10と前記接続部材50との間に位置」するのであるから,「前記複
数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する絶縁部」を備えており,本願発明と一
致する構成を有しているということができる。
ウ小括
以上によれば,本件審決が,「前記複数の太陽電池と前記リボンとの間に位置する
絶縁部」を一致点として認定したことに誤りはなく,相違点を看過したものではな
いから,原告の主張は採用できない。
(2)相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点2は,前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,「絶縁部」が,本願発明では「前
記第1太陽電池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位
置する少なくとも一つの凹凸を覆うように位置され」るのに対して,引用発明1の
緩衝材14は,そのように位置されるものではないというものであることをいい,
本願発明と引用発明1との間にこのような相違点が存在することは,当事者間に争
いがない。
イ引用発明2について
引用例2の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおりの記載があり(甲1
2。下記記載中に引用する図については,別紙3参照),これによれば,引用例2(甲
12)には,本件審決が認定したとおりの引用発明2(第2の3(2)エ)が記載され
ていることが認められる。
(ア)技術分野
本発明は,一般に太陽電池モジュールに関わる。
従来のフラットパネル太陽電池モジュールにおいて,太陽電池モジュールのコス
トを削減するため,モジュール内での活物質(すなわち太陽電池)の濃度を減らす
一方で,太陽電池モジュール上へ入射する光とほぼ同じ量を依然獲得することが望
ましいとの課題があり,活物質によってカバーされない領域上への入射光は,隣接
する活物質の方に再び向け直す(リダイレクトする)構造を有する太陽電池モジュ
ールが解決策として示されていた。(【0001】【0003】【0004】)
(イ)発明が解決しようとする課題
本発明の目的は,太陽電池,相互コネクタ,太陽電池によってカバーされなかっ
た領域から太陽電池に向かって入射光を向け直す(リダイレクトする)ための反射
部材を有する太陽電池モジュールの態様を単純化することである。(【0006】)
(ウ)課題を解決するための手段
本発明の一実施態様によれば,太陽電池モジュールは,実質的に透明な前カバー
を持った受光構造と,前記前カバーの後ろに置かれた複数の活物質と,少なくとも
1つの電気的伝導層を備えて隣接する2つの前記活物質を最低限相互接続する複数
の相互コネクタと,を有し,前記相互コネクタは,前記前カバーの前面への入射光
を方向付け,さらに前記活物質上に内部反射させるための,前記前カバーの方に面
する反射構造を持つ。(【0007】)
相互コネクタは,Vグルーブ形態であり,相互コネクタの厚さより小さいVグル
ーブをエンボス加工され,反射構造を提供するために反射性コーティングされる。
(【0010】【0011】)
(エ)発明を実施するための形態
2つの隣接する太陽電池2aおよび2bが相互コネクタ3によって相互接続され,
前面,すなわち相互コネクタ3の受光面は,反射構造4によって実質的に完全にコ
ーティングされる。(【0028】)
相互コネクタ3は,裏面上の両方の太陽電池の上に接続部材5を接続することに
よって,太陽電池2aおよび2bを相互接続するように適用されうる。(【0033】,
図4a)
相互コネクタ3の本体をエンボス加工することは,反射構造4bのためのVグル
ーブを提供する。これによって,グルーブの振幅は,相互コネクタ3の前面だけが
構造化されている一方で,裏面は無垢のままであるように,相互コネクタ3の厚さ
より小さくなければならない。(【0037】,図5b)
ウ動機付けについて
(ア)原告は,引用発明1は,緩衝材14が,太陽電池10と太陽電池10の間に
ある接続部材50の入光面の少なくとも一部に形成される複数の凹凸のうち,少な
くとも1つの凹凸を覆うように位置するとの構成を備えておらず,緩衝材14の形
状ないし配置態様を変更して,太陽電池10と太陽電池10の間に配置させる構成
を採用する動機付けがないと主張する。
そこで,引用発明1に引用発明2を適用し,相違点2に係る本願発明の構成を想
到することができるか否かを検討する。
(イ)まず,引用発明1,引用発明2のいずれも,太陽電池モジュールに係る発明
であるから,同一の技術分野に属するものということができる。
また,太陽電池モジュールにおいては,リボン等の太陽電池を接続する接続部材
に入射した光を有効に利用するという課題は周知であるところ(甲12,乙2,3),
前記イのとおり,引用発明2には,活物質(太陽電池)によってカバーされなかった
領域から太陽電池に向かって入射光を向け直す(リダイレクトする)ため,相互コ
ネクタ3の本体をエンボス加工して反射構造4bのためのVグルーブを提供するこ
とが記載されている。
太陽電池と太陽電池の間に入射する光を反射させて太陽電池に入光し,光を有効
利用するとの目的に鑑みると,Vグルーブは当然に太陽電池と太陽電池の間に設け
られるものであるから,引用発明2を引用発明1の太陽電池10と太陽電池10の
間に位置する接続部材50に適用する動機が存在する。
他方,引用発明1における緩衝材14は,導電性を有する第3部分53が,太陽
電池10に接触することによって太陽電池10が破損することを抑制し,第3部分
53と太陽電池10との間での短絡の発生を抑制するために設けられるものである
から(甲11【0069】),少なくとも太陽電池と接続部材との間に位置すること
を要するものである。もっとも,緩衝材14は,太陽電池10と接続部材50との
間以外の位置に設けてはならないものではなく,部材間の位置合わせを容易にし,
絶縁を確実にする等の観点から,緩衝材14を,太陽電池10と接続部材50との
間だけではなく,太陽電池10と太陽電池10の間の接続部材50にも延出するよ
うな位置に設けることも可能であり,当業者が適宜採用する設計事項であると解さ
れる。
そうすると,引用発明1において,接続部材50に入射される光を反射させて太
陽電池の前面基板に向かわせ,前面基板で再反射させて太陽電池の表面から入光さ
せるために,接続部材50に対するエンボス加工によるVグルーブを形成すること
と,緩衝材14を太陽電池10と太陽電池10の間の接続部材50にも延出するよ
うな位置に設けることとを組み合わせると,緩衝材14が,太陽電池10と太陽電
池10の間の接続部材50に形成されたVグルーブを覆うように位置する部分が生
じると解される。
そして,本願発明の特許請求の範囲請求項1では,「絶縁部」は,「前記第1太陽電
池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置する少なく
とも一つの凹凸を覆うように位置される」と特定されるところ,「前記第1太陽電池
及び前記第2太陽電池の間の前記リボン」とは,リボンが複数の太陽電池と太陽電
池の間に位置することを意味すると解するのが文理上も自然である上,太陽電池と
太陽電池の間に入射する光を反射させて太陽電池に入光し,光を有効利用するとの
本件発明の目的に照らしても,太陽電池と太陽電池の間に位置するリボンに入射す
る光の有効利用が図られてしかるべきであるから,リボンは,太陽電池と太陽電池
の間に位置するものであると解される。その上で,請求項1には,かかるリボンの
「少なくとも一部で,前記絶縁部又は前記複数の太陽電池と隣接した前記リボンの
一面に傾斜面を有し,入光面に形成される複数の凹凸を含」み,「絶縁部」が,「前記
第1太陽電池及び前記第2太陽電池の間の前記リボンの前記少なくとも一部に位置
する少なくとも一つの凹凸を覆うように位置される」ことが特定されているのであ
るから,「絶縁部」は,太陽電池と太陽電池の間に位置するリボンの少なくとも一部
に形成された複数の凹凸の少なくとも1つの凹凸を覆うように位置されるものと解
される。
したがって,本願発明は,引用発明1において,太陽電池10と太陽電池10の
間に位置する接続部材50に対しエンボス加工によるVグルーブを形成することと,
緩衝材14を太陽電池10と太陽電池10の間の接続部材50に延出する位置に設
けることを組み合わせることにより,緩衝材14が,太陽電池10と太陽電池10
の間の接続部材50に形成されたVグルーブを覆うように位置されるのと同じ構成
を備えているから,引用発明1において,引用発明2の記載に基づき,相違点2に
係る本願発明の構成を備えるものとすることは,当業者が容易に想到できたものと
認められる。
(3)小括
以上によれば,引用発明1に引用発明2に記載された事項を適用し,本願発明の
構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであり,原告主張の取消事由は
理由がない。
4結論
よって,原告主張の取消事由は理由がないから,原告の請求を棄却することとし,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官古河謙一
裁判官関根澄子

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