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令和2年(受)第763号不当利得返還請求事件
令和3年3月2日第三小法廷判決
主文
原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)宇都宮市(以下「市」という。)は,平成17年度に,事業系生ごみの再
資源化システムを構築し,再資源化の確実な普及・定着を図ることを目的に,株式
会社エコシティ宇都宮(以下「エコシティ」という。)を事業実施主体として,高
速堆肥化施設の整備,設置等を内容とするバイオマス利活用地区計画を策定した。
(2)農林水産大臣から権限の委任を受けた関東農政局長は,平成18年1月1
8日までに,被上告人に対し,平成17年度バイオマスの環づくり交付金のうちの
バイオマス利活用整備交付金として,合計2億6113万8000円の交付決定
(以下「本件交付決定」という。)をした。本件交付決定には,補助金等に係る予
算の執行の適正化に関する法律(以下「法」という。)7条3項により,交付事業
者である被上告人は,「間接交付事業者に対し事業により取得し,又は効用の増加
した財産の処分についての承認をしようとするときは,あらかじめ関東農政局長の
承認を受けなければならない」との条件(以下「本件交付決定条件」という。)が
附されていた。
同日までに,栃木県知事(以下「県知事」という。)は間接交付事業者である市
に対して平成17年度バイオマスの環づくり事業費補助金として,市長は間接交付
事業者であるエコシティに対して宇都宮市バイオマス利活用補助金として,それぞ
れ本件交付決定と同額の交付決定をした。
被上告人は上告人から本件交付決定による補助金が交付された都度,市に対して
補助金を交付し,市はその都度,エコシティに対して補助金を交付した。
(3)エコシティは,上記の補助金を主要な財源として堆肥化施設を整備し,設
置した(以下,この堆肥化施設を「本件施設」という。)。平成18年6月8日,
関東農政局長は被上告人に対し,県知事は市に対し,市長はエコシティに対し,そ
れぞれ申請を受けて本件施設を担保に供することを承認した。エコシティは,同年
8月10日,本件施設に根抵当権を設定した。
(4)エコシティは,平成20年10月,本件施設における操業を停止した。本
件施設について,平成21年12月25日,担保不動産競売の申立てがされ,同2
2年1月20日,同開始決定がされた。本件施設について,平成23年5月13日
までに,エコシティは市長に対し,市は県知事に対し,被上告人は関東農政局長に
対し,それぞれ財産処分に係る承認の申請をした。同日にされた被上告人による申
請(以下「本件申請」という。)に係る申請書には,冒頭に本件申請が法22条に
基づくものである旨の記載があり,本件施設の処分区分として「目的外使用(補助
事業を中止する場合)」との記載がある。
関東農政局長は,同月17日,本件施設の処分価格に係る国庫補助金相当額の納
付を条件として,本件申請を承認した(以下,この承認を「本件承認」といい,こ
れに附された上記条件を「本件附款」という。)。県知事は,同月18日,上記の
市による申請を承認し,市長は,上記のエコシティによる申請を承認した。
本件施設は,同年9月29日,担保不動産競売手続により売却された。
(5)被上告人は,平成24年1月27日付けで,関東農政局長から上記の国庫
補助金相当額として1億9659万0956円を納付するよう求められ,同年2月
15日,上告人に対し,同金額の納付(以下「本件返納」という。)をした。
2本件は,被上告人が,本件承認は法令上の根拠を欠き,本件附款も法的効力
が認められないから,上告人は本件返納により法律上の原因なく1億9659万0
956円を利得したとして,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,同額の
支払を求める事案である。
3原審は,前記事実関係等の下において,本件承認は,法7条3項による本件
交付決定条件ではなく,法22条を根拠としてされたものというべきところ,同条
は国から補助金等の交付を受けた補助事業者等(法2条3項)による財産の処分に
ついて規律するものであって,間接補助事業者等(同条6項)に該当するエコシテ
ィによる財産の処分が問題となる本件には適用されず,根拠法条を誤ったものであ
るとした上,要旨次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
いわゆる違法行為の転換の理論により,本件承認が法7条3項による本件交付決
定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできな
い。また,本件交付決定条件において,担保権設定者の意思が介在しない担保権の
実行は承認の対象とならないと解されるところ,本件承認は本件施設の担保権の実
行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって,これ
に附された本件附款も無効であるから,いずれにしても本件返納は法律上の原因な
くされたものといえる。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)関東農政局長が被上告人に対して当初の本件施設への担保権設定について
承認するに際し,その後に担保権が実行され,エコシティが補助金の交付の目的に
沿ってこれを使用することができなくなり,目的外使用の状態に至ることについて
まで承認していたとはうかがわれないから,本件交付決定条件により,上記目的外
使用についても改めてその承認を得ることが必要であったというべきである。そし
て,本件承認は,処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」とする本
件申請に対してされたものであって,本件施設の目的外使用を対象としてされたも
のと解される。したがって,本件承認は,法7条3項による本件交付決定条件を根
拠としてされたものとすることができるのであれば,法的根拠を欠くものというこ
とはできない。
(2)法は,補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その
他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目
的とする(1条)。法22条は,補助事業者等が補助事業等により取得した財産に
ついて,各省各庁の長の承認を受けないで,補助金等の交付の目的に反して使用
し,譲渡し,交換し,貸し付け,又は担保に供してはならない旨を定め,もって財
産の処分を制限しているところ,これは,補助事業等により取得された財産が処分
され,補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態と
なっては,当該目的が達成し得なくなるために設けられたものと解され,当該承認
は,これを得ることなく上記の事態に至ることを防止することを目的とするもので
ある。そして,法7条3項による本件交付決定条件も,間接補助事業等により取得
された財産が補助金の交付の目的に反して処分されることを制限するためのものと
解され,交付事業者である被上告人が当該財産の処分に係る承認をするに際して関
東農政局長がする承認は,これを得ることなく当該目的が達成し得なくなる事態に
至ることを防止することを目的とするものである。このように,法22条に基づく
承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は,その目的を共通にする
ものということができる。
また,法22条に基づく各省各庁の長の承認を得た上での補助事業者等による財
産の処分であれば,法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されること
はないのと同様に,法7条3項による本件交付決定条件に基づく関東農政局長の承
認を得た上での間接交付事業者による財産の処分についても,これにより本件交付
決定が取り消されることはない。そして,法22条に基づく承認に際しては,補助
事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金額を納付する旨の条件を附
すことができると解されるのと同様に,法7条3項による本件交付決定条件に基づ
く承認に際しても,仮に当該承認を得ていなければ本件交付決定の全部が取り消さ
れ得ることなどからすると,被上告人において交付された補助金の範囲内の金額を
納付する旨の条件を附すことができると解される。そうすると,法22条に基づい
てされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとす
ることは,被上告人にとって不利益になるものでもない。
さらに,被上告人及び関東農政局長において,仮に法22条に基づいて本件承認
をすることができないという認識であった場合に,これと目的を共通にする法7条
3項による本件交付決定条件に基づく承認の申請及び承認をしなかったであろうこ
とをうかがわせる事情は見当たらない。
(3)以上に検討したところによれば,本件承認は,法7条3項による本件交付
決定条件に基づいてされたものとして適法であるということができる。
そして,上記のとおり,法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認に際し
ては,被上告人において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附
すことができると解されることからすると,本件承認に際し,交付された2億61
13万8000円の範囲内である国庫補助金相当額の納付を条件とする旨の本件附
款を附すことができるのであり,その他これを附すことができないことを根拠付け
る事情はうかがわれないから,本件附款も無効であるとはいえない。
そうすると,本件返納は,本件附款に基づく納付義務の履行としてされたもので
あるから,法律上の原因を欠くものということはできない。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求は理由がないから,
第1審判決を取り消し,同請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克
也の補足意見がある。
裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,上告受理の申立ての理由中,当審が排
除しなかった2点,すなわち,本件承認の対象と違法行為の転換について補足して
意見を述べることとしたい。
第1点については,本件申請に係る申請書の処分区分に「目的外使用(補助事業
を中止する場合)」と記載されていること,本件承認を得ずに間接補助金等により
取得した財産が処分されたとしても,その民事上の効力には影響がなく,本件交付
決定条件等に違反したものとして法17条の規定に基づき交付決定が取り消され得
ることに鑑みると,本件承認は,結局のところ,間接補助事業等により取得した財
産を補助金等の交付の目的に従って管理する義務を免除することを意図するものと
考えられる。したがって,本件承認は,担保権の実行により,間接補助事業者等が
補助金等・間接補助金等により取得した財産を補助金等の交付の目的に従って使用
することができなくなることを対象としてされたものと解される。
もっとも,担保権設定の承認の際に担保権の実行の際の目的外使用を含めて承認
していると解することができれば,改めて担保権の実行の際に承認を得る意味はな
いことになる。そして,担保権設定の際に,担保権実行時における補助金相当額の
返納を条件として承認することは可能であり,そのような運用をしている行政機関
も存在するようである。しかし,担保権が設定されたからといって,それを実行し
なければならない事態になるとは限らないので,担保権設定の承認が上記のような
条件を附さずに行われた本件のような場合,担保権設定の承認が当然に担保権の実
行の際の目的外使用に対する承認も含意しているとまではいえないと思われる。
第2点については,法律による行政の原理を空洞化させないために,違法行為の
転換が認められる場合は厳格に限定する必要がある。法廷意見が述べるように,本
件においては,①転換前の行政行為(法22条に基づく承認)と転換後の行政行為
(法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認)は,その目的を共通にするこ
と,②転換後の行政行為の法効果が転換前の行政行為の法効果より,関係人に不利
益に働くことになっていないこと,③転換前の行政行為の瑕疵を知った場合に,そ
の代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合ではないこ
と(そもそも,栃木県補助金等交付規則6条3項においては,同規則における補助
金等の交付の決定をするに当たり,「知事は,適正化法に規定する間接補助金等に
該当する場合において,同法第7条の規定に基づき各省各庁の長が当該間接補助金
等に関して条件を附したときは,これと同一の条件を附するものとする。」と定め
られており,被上告人としては,本件交付決定条件が法7条3項の規定によるもの
であることを認識できてしかるべきであったといえ,本件承認が本件交付決定条件
を根拠としてされるべきものであったと認識できたと考えられる。)といった事情
を勘案して,違法行為の転換が認められている。違法行為の転換を認めた当審の判
例(最高裁昭和25年(オ)第236号同29年7月19日大法廷判決・民集8巻
7号1387頁)も,上記①~③の要件を全て満たす場合であったといえる。他
方,違法行為の転換を認めなかった当審の判例(最高裁昭和25年(オ)第383
号同28年12月28日第一小法廷判決・民集7巻13号1696頁,最高裁昭和
25年(オ)第212号同29年1月14日第一小法廷判決・民集8巻1号1頁,
最高裁昭和39年(行ツ)第33号同42年4月21日第二小法廷判決・裁判集民
事87号237頁)は,上記①~③の要件のいずれかを満たさない事案であったと
いえる。このように,法廷意見は,従前の当審の判例と整合するものであり,違法
行為の転換が認められる場合を拡大するものでは全くない。
なお,上記①~③の要件は違法行為の転換が認められるための必要条件である
が,それが必要十分条件であるわけでは必ずしもないと思われる。例えば,いわゆ
る行政審判手続において審理されなかった事実を訴訟手続において援用して違法行
為を転換することは,行政審判手続を採用した趣旨に反し,かかる場合に訴訟手続
において違法行為の転換を認めることの可否は慎重に検討すべきではないかと思わ
れる。また,処分の相手方のみならず,第三者にも効果が及ぶいわゆる二重効果的
行政処分の場合,違法行為の転換を認めることにより,第三者の権利利益を侵害す
ることにならないかを検討する必要があるであろう。このように,あらゆる場合
に,上記①~③の要件を満たせば,必ず違法行為の転換が認められるとはいえない
が,本件においては,違法行為の転換を否定すべき特段の事情の存在は認められ
ず,その点について論ずる必要はない。法廷意見も,また,過去に違法行為の転換
を認めた当審判例も,そのような特段の事情が存在しない事案であったため,あえ
て上記①~③以外の要件について言及しなかったものと考えられる。
(裁判長裁判官林道晴裁判官戸倉三郎裁判官林景一裁判官
宮崎裕子裁判官宇賀克也)

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