弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成一一年(ワ)第一二七九九号 特許権侵害行為差止等請求事件
(口頭弁論終結日 平成一二年六月六日)
判     決
 原     告    サニー株式会社
右代表者代表取締役  【A】
 右訴訟代理人弁護士  手 塚 裕 之
 同三 村 まり子
 同田 中 久 也
 同町 田 行 人
右補佐人弁理士   【B】
   被     告    株式会社ソリック
 右代表者代表取締役  【C】
   右訴訟代理人弁護士  田 倉   整
 同田 中 成 志
右補佐人弁理士  【D】
    主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
  事実及び理由
第一 請求
 一 被告は、別紙原告物件目録記載の自動ドアを製造し、使用し、譲渡し、貸し
渡し、譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
 二 被告は、前項の自動ドア及び半製品を廃棄せよ。
 二 被告は、原告に対し、金一億五七五〇万円及びこれに対する平成一一年六月
一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲記載の
発明を「本件発明」という。また、本件特許権に係る明細書(甲二)を、「本件明
細書」という。)を有している。
登録番号  第一九〇一九五一号
発明の名称 自動ドア制御装置
出願日   昭和五五年六月一〇日
出願公告日 昭和六三年一二月二二日
登録日   平成七年二月八日  
特許請求の範囲
  「ドアを開閉駆動するモータと、該モータの回転に基づいて、ドアの
移動量又は回転角度を検出する検出手段と、電源が投入されたとき又は電源が投入
された後ドア始動信号が発生したとき、上記検出手段によって検出された、最初に
ドアが開又は閉のいずれか一方に動作して移動した距離又は回転角度を記憶する記
憶手段と、上記検出手段によって検出された、その後のドアの開閉動作時における
移動距離又は回転角度を、上記記憶手段に記憶されている最初にドアが開又は閉の
いずれか一方に動作して移動した距離又は回転角度と比較することによって、上記
モータを制御する制御手段とを設けたことを特徴とする数値制御方式の自動ドア制
御装置。」
2 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される(弁論の全趣旨)。
   (一) ドアを開閉駆動するモータ
   (二) 該モータの回転に基づいて、ドアの移動量又は回転角度を検出する検
出手段
(三)電源が投入されたとき又は電源が投入された後ドア始動信号が発生し
たとき、前記検出手段によって検出された、最初にドアが開又は閉のいずれか一方
に動作して移動した距離又は回転角度を記憶する記憶手段
(四) 前記検出手段によって検出された、その後のドアの開閉動作時におけ
る移動距離又は回転角度を、前記記憶手段に記憶されている最初にドアが開又は閉
のいずれか一方に動作して移動した距離又は回転角度と比較することによって、上
記モータを制御する制御手段
   (五) を設けたことを特徴とする数値制御方式の自動ドア制御装置
  3 被告は、ソリック自動ドア「SHー22シリーズ」という商品名の別紙物
件目録記載の自動ドアの駆動装置(以下「被告物件」という。)を製造販売してい
る。
 二 本件は、本件特許権を有している原告が、被告に対し、被告物件は本件発明
の技術的範囲に属するから、被告による被告物件の製造及び販売は右特許権の侵害
であると主張して、右製造販売等の差止め、被告物件の完成品及び半製品の廃棄、
右侵害による損害の賠償を求める事案である。
第三 争点及びこれに関する当事者の主張
 一 争点
1 被告物件の動作の特定
2 被告物件は、構成要件(三)及び(四)を充足するか
3 損害の発生及び額
 二 争点に関する当事者の主張
  1 争点1について
  (原告の主張)
被告物件の動作は、別紙原告動作説明書記載のとおりである。
   (被告の主張)
被告物件の動作は、別紙被告動作説明書記載のとおりである。
  2 争点2について
   (一) 被告物件において、電源投入後最初にドアが開から閉に移動する間に
測定され、RAM32に記憶されたドアのストローク値(初期計測値)が、EEPR
OM5に予め格納されたドアの駆動制御の基準とすべきストローク値のデータ(基
準データ)より二〇ミリメートル以上小さい場合又は二〇ミリメートル以上一〇〇
ミリメートル未満の範囲で大きい場合で、リセットボタンを押さない場合
   (原告の主張)
     構成要件(三)の「最初に」とは、いわゆる初期学習としてドア板を制御
する目的でドア板の移動距離又は回転角度(以下「移動距離等」という。)の計測
を行う場合を指し、「ドアが開又は閉のいずれか一方に動作した」とは、ドアが全
開から全閉又は全閉から全開に動作した場合を意味する。
   被告物件は、電源投入後、ドアが全開位置まで移動し、ストロークの原
点を定める動作がなされるが、ドア板を制御する目的で初期学習として移動距離等
の計測を行うのは、その後の全開位置から全閉位置までの移動であり、右移動の間
に、ブラシレスモータ1の回転に基づいてドアの移動量を検出する検出部2によっ
て、移動量が検出され、RAM32に記憶されるから、構成要件(三)を充足する。
     また、右の場合、リセットボタンを押さずにドアを始動すると、右のR
AM32に記憶された計測値とドアの開閉動作における移動距離を比較することによ
って、ブラシレスモータ1の制御を通じてドアのブレーキ装置が調整されるから、
構成要件(四)を充足する。
   (被告の主張)
右の場合、リセットボタンを押さないと、ドアの移動距離は、EEPR
OM5に予め格納された基準データによって制御され、「最初にドアが全開から全
閉まで動作して移動した距離」を記憶したデータによってドアの移動位置が制御さ
れることはない。したがって、構成要件(四)を充足しない。
   (二) 初期計測値が基準データより二〇ミリメートル以上小さい場合又は二
〇ミリメートル以上一〇〇ミリメートル未満の範囲で大きい場合で、リセットボタ
ンを押した場合
    (原告の主張)
     本件特許請求の範囲の「電源が投入されたとき又は電源が投入された後
ドア始動信号が発生したとき」との文言や、移動距離を変更する場合などいかなる
時点においてもドアの移動距離等の計測が自動的にできることが本件発明の作用効
果の一つとして予定されていることからすると、構成要件(三)の「ドア始動信号」
とは、電源投入時以外にその後何らかのきっかけでドアの開閉動作が開始する場合
を広く含むと解すべきである。
     また、本件明細書の発明の詳細な説明に、「ドア始動信号(例えばマッ
ト信号)」と記載されていることからすると、右構成要件の「ドア始動信号」と
は、マットの上に人が立つことによって発生する「マット信号」に限られるもので
はない。
したがって、右の場合のリセットボタン操作も、右構成要件の「電源が
投入された後ドア始動信号が発生したとき」に当たる。
そうすると、被告物件は、右リセットボタンを押すことによりドア始動
信号が発生し、ドアが全開から全閉に移動する間に、ブラシレスモータ1の回転に
基づいてドアの移動量を検出する検出部2によって、移動量が検出され、RAM
32及びEEPROM5に記憶されるから、構成要件(三)を充足する。
  また、その後のドアの開閉においては、右の記憶した距離とドアの移動
距離とを比較することによって、ブラシレスモータの駆動制御がなされ、ドアの開
閉動作が行われるから、構成要件(四)を充足する。
    (被告の主張)
     ドアの移動距離が誤設定された場合のドアのオーバーランによる危険の
防止という本件発明の効果は、ドアを動作させる最初のストロークで安全を確保し
なければ、これを得ることができないこと、任意の時点でドアの移動距離を計測す
るのでは、本件特許の拒絶査定に挙げられたティーチングを行うのと同じであるこ
と、原告は、本件特許の拒絶査定に対し、本件発明は、自動ドアの電源を入れて最
初にドアを動作させる時点において、自動ドアのメモリをリセットし、最初にドア
が移動した距離を測定してその値を自動ドアの動作の基準とするものであると主張
して本件特許の登録を得たこと、構成要件(三)の文言が、「ドア駆動信号」ではな
く「ドア始動信号」であることからすると、右構成要件の「ドアの始動信号」と
は、電源投入後最初に人がドアの所に来たときにドアを開かせる命令がモータに対
して出される信号をいうと解すべきであり、また、右構成要件の「最初に」とは、
「電源投入後最初に」との意味に解すべきである。
    右の原告が主張するリセットボタンを押すことによって発生するドア始
動信号は、右の意味における「ドアの始動信号」ではないから、構成要件(三)を充
足しない。
また、右の場合は、ドアが「最初に」移動した距離をその後のドアの移
動距離の基準とするものではないので、構成要件(四)を充足しない。
 (三) 初期計測値が基準データより一〇〇ミリメートル以上大きい場合
   (原告の主張)
     この場合、初期計測値を計測した後、リセットボタンその他何らかの追
加操作を要することなく、内部的にドア始動信号が発生するが、構成要件(三)の
「ドア始動信号」とは、右(二)(原告の主張)のとおり、電源投入時以外にその後
何らかのきっかけでドアの開閉動作が開始する場合を広く含むから、右の内部的に
発生するドア始動信号も右「ドア始動信号」に当たる。
    したがって、被告物件は、右の「ドア始動信号」の発生により、ドアが
全開から全閉に移動する間に、ブラシレスモータ1の回転に基づいてドアの移動量
を検出する検出部2によって、移動量が検出され、RAM32及びEEPROM5に
記憶されるから、構成要件(三)を充足する。
    また、その後のドアの開閉においては、右の記憶した距離とドアの移動
距離とを比較することによって、ブラシレスモータの駆動制御がなされ、ドアの開
閉動作が行われるから、構成要件(四)を充足する。
    (被告の主張)
     構成要件(三)の「ドア始動信号」とは、右(二)(被告の主張)のとおり
解すべきところ、右の原告が主張する内部的に発生するドア始動信号は、右(二)
(被告の主張)で述べたような意味での「ドア始動信号」ではないから、構成要件
(三)を充足しない。
 また、右の場合は、ドアが「最初に」移動した距離をその後のドアの移
動距離の基準とするものではないので、構成要件(四)を充足しない。
   (四) 初期計測値と基準データとの差が二〇ミリメートル未満の場合
    (原告の主張)
    (1) この場合、EEPROM5に予め格納された基準データを用いるが、
これは、初期計測値が、基準データと同一又は判定マージンの範囲内である場合、
初期計測値を改めてEEPROM5内の基準データと入れ替える必要がないことか
ら、当該基準データをいわば代用し、検出されたストローク値を改めて記憶する行
為に代えているからにすぎない。したがって、初期計測値を記憶させる場合と同じ
であるから、構成要件(三)を充足する。
  また、その後のドアの開閉においては、右の初期計測値の代用である
基準データとドアの移動距離とを比較することによって、ブラシレスモータの駆動
制御がなされ、ドアの開閉動作が行われるから、構成要件(四)を充足する。
(2) 仮に、被告が被告物件を出荷する際、リセットボタン等によりドアを
移動させ、その移動距離を測定することで基準データを設定しているとすると、右
設定行為は、それ自体構成要件(三)を充足する。
(被告の主張)
 (1) EEPROM5に予め格納された基準データを初期計測値に代用する
という原告の右主張は、本件特許請求の範囲の文言に反するのみならず、従来技術
と本件発明との本質的な相違を無視したものであり、また、出願経過における原告
の主張にも反するものである。
(2) 本件発明は、何らの固定データを有することなく、電源を入れる都
度、新たにドア移動距離を計測するものであり、電源を切っても保有される固有デ
ータの設定のために、一度だけティーチング動作としてドアの移動距離を測定して
基準データとすることは、本件発明とは異なるから、出荷時に基準データを設定す
る行為は、構成要件(三)を充足しない。
(五) 右(一)ないし(四)の全ての場合に構成要件を充足しなければ、被告物
件は、本件発明の技術的範囲に属しないか
 (原告の主張)
右(一)ないし(四)の一つでも本件発明の構成要件を満たせば、被告物件
は本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
 右主張を争う。
  3 争点3について
 (原告の主張)
  被告は、平成七年二月ころから三年間、被告物件を一年間に少なくとも三
〇〇〇台以上、一台につき約三五万円から四〇万円程度で販売している。
  また、本件発明の実施に対し、通常受けるべき金銭の額(実施料)に相当
する額は、被告物件の販売価格の五パーセントを下らない。
  したがって、原告の被った損害額は、右売上合計額である三一億五〇〇〇
万円(年間三〇〇〇台×三年×三五万円)に五パーセントを乗じた一億五七五〇万
円を下らない。
(被告の認否)
 損害の発生及び額については争う。
第四 当裁判所の判断
 一 争点1について
 証拠(甲一一ないし一三、一五、一六、乙一一)と弁論の全趣旨によると、
被告物件の動作は、別紙動作説明書記載のとおりであると認められる。
 二 争点2について
1 証拠(甲二)によると、本件明細書の発明の詳細な説明に、従来技術とし
て、予め設定した数値によって自動ドアのドアの移動距離等を制御するものが挙げ
られ、右技術の問題点として、新設、移動距離変更に伴う数値設定の煩雑さや誤設
定による危険が指摘されていること、右明細書に、「本発明においては、移動距離
又は回転角度について数値設定することなく、自動ドア制御装置の電源がオンされ
たとき、或いは上記電源がオンされてドア始動信号(例えばマット信号)が出たと
き、ドアを開又は閉のいずれか一方に動作せしめ、その最初のドアの移動距離など
を記憶させ、いわば自己記憶により常に移動距離などを制御するようにして、この
問題を解決した。」(2列四ないし一二行)、「本発明においては、電源投入後に
おける最初のドアの徐行移動距離などをメモリ・カウンタのような記憶手段に記憶
させ、その後のドアの開閉動作における移動距離などをこの記憶された数値によっ
て制御するようにしたから、自動ドアを新設する場合や移動距離などを変更する場
合に、いちいち正確な数値設定をする煩雑さがなく、しかも、誤設定される心配が
ないから誤設定された場合のドアのオーバーランによる危険を防止できる。」(4
列二三ないし三二行)との記載があること、以上の事実が認められる。
また、証拠(乙五)によると、原告は、本件特許出願の際、平成四年一〇
月二七日付け審判請求理由補充書において、本件発明の特徴として、次の二点を主
張したことが認められる。
(一) 記憶手段は、電源が投入され又は電源投入後ドア始動信号が発生す
ることにより最初にドアが開方向又は閉方向に移動する時、電源投入又はドア始動
信号によってリセットされ、検出手段からの検出信号により当該ドアの移動距離又
は回転角度を計数して保持する点
(二) 制御手段は、上記電源投入又はドア始動信号に応じてモータを始動
させる信号を発生し、最初にドアが開方向又は閉方向に低速移動(徐行)して所定
の停止位置まで到達した時、ドアの移動が制御されることにより、上記モータの回
転出力及び上記記憶手段への入力を停止させる信号を発生し、更に、その後のドア
の開閉動作時に上記検出手段によって検出された移動距離又は回転角度が、上記記
憶手段に保持されている最初の移動距離又は回転角度と一致した時、上記モータの
回転出力を停止させる信号を発生する点
以上の事実によると、本件発明は、予め設定された数値によって自動ドア
のドアの移動距離等を制御していた従来技術の問題点を解決するため、自動ドアの
電源投入後、ドアが開から閉又は閉から開へ移動する距離等を記憶し、右記憶され
た測定値によって常にドアの移動距離等を制御するようにしたものであると認めら
れる。したがって、本件発明においては、ドアの移動距離等は、右記憶された測定
値のみによって制御されるというべきである。
そして、右記憶された測定値のみによってドアの移動距離等を制御する本
件発明においては、電源投入後最初に移動距離を測定するのでなければ、ドアの移
動距離等の制御ができないこと、本件明細書の発明の詳細な説明の「上記電源がオ
ンされてドア始動信号(例えばマット信号)が出たとき、」との文言からすると、
構成要件(三)の「電源が投入された後ドア始動信号が発生したとき」とは、電源投
入後最初にドアを開から閉又は閉から開へ移動させるためのドア始動信号が発生し
たときと解するのが相当であり、また、右構成要件及び構成要件(四)の「最初に」
とは、「電源投入後最初に」との意味と解するのが相当である。
2 被告物件においては、電源投入後ドアが最初に全開位置から全閉位置に移
動する間にカウントされたパルス数がドアのストローク値としてRAM32に記憶さ
れる(別紙動作説明書1)。
    そうすると、右ストローク値は、構成要件(三)及び(四)の「最初にドアが
開又は閉のいずれか一方に動作して移動した距離」に当たると認められる。
3 右1で述べたとおり、本件発明は、自動ドアの電源投入後、ドアが最初に
開から閉又は閉から開へ移動する距離等を記憶し、記憶された測定値によってドア
の移動距離等を制御するというものであるから、構成要件(四)において制御される
のは、ドアの移動距離等(移動距離又は回転角度)であると認められる。
 しかるところ、被告物件においては、以下のとおり、右2のストローク値
とドアの移動距離とを比較することによって、ドアの移動距離を制御していないか
ら、構成要件(四)を充足しない。
   (一) 初期計測値が基準データより二〇ミリメートル以上小さい場合又は二
〇ミリメートル以上一〇〇ミリメートル未満の範囲で大きい場合で、リセットボタ
ンを押さない場合
   この場合、EEPROM5に予め設置された基準データとドアの移動距
離とを比較することによって、ドアの移動距離が制御される(別紙動作説明書2
(イ)(ⅰ)、(ロ))から、右2のストローク値とドアの移動距離とを比較することに
よって、ドアの移動距離を制御していない。したがって、構成要件(四)を充足しな
い。
   原告は、この場合、初期計測値がブレーキ位置を調整するモータの駆動
の制御に用いられるから、構成要件(四)を満たすと主張するが、右認定のとおり、
右構成要件の「制御」とは、ブレーキ位置の調整ではなく、ドアの移動距離等の制
御であると認められるから、初期計測値がブレーキ位置を調整するモータの駆動の
制御に用いられるとしても、構成要件(四)を充足することはない。
   (二) 初期計測値が基準データより二〇ミリメートル以上小さい場合又は二
〇ミリメートル以上一〇〇ミリメートル未満の範囲で大きい場合で、リセットボタ
ンを押した場合
   この場合、初期計測値を測定した後、リセットボタンを押すことで、ド
アが再度全開位置から全閉位置へ移動し、その間に計測された数値とドアの移動距
離とを比較することによって、ドアの移動距離の制御が行われる(別紙動作説明書
2(イ)(ⅱ)、(ロ)、3)。
 したがって、この場合、右2のストローク値とドアの移動距離とを比較
することによって、ドアの移動距離の制御が行われるのではなく、その後に計測さ
れた数値とドアの移動距離とを比較することによって、ドアの移動距離の制御が行
われるのであるから、構成要件(四)を充足しない。
   (三) 初期計測値が基準データより一〇〇ミリメートル以上大きい場合
     この場合、初期計測値を測定した後、自動的に、ドアが再度全開位置か
ら全閉位置へ移動し、その間に計測された数値とドアの移動距離とを比較すること
によって、ドアの移動距離の制御が行われる(別紙動作説明書2(ハ)、3)。
したがって、この場合、右2のストローク値とドアの移動距離とを比較
することによって、ドアの移動距離の制御が行われるのではなく、その後に計測さ
れた数値とドアの移動距離とを比較することによって、ドアの移動距離の制御が行
われるのであるから、構成要件(四)を充足しない。
   (四) 初期計測値と基準データとの差が二〇ミリメートル未満の場合
   この場合、EEPROM5に予め設置された基準データとドアの移動距
離とを比較することによって、ドアの移動距離が制御される(別紙動作説明書2
(ニ))。
   原告は、この場合、基準データは、初期計測値の代用として用いられて
いるにすぎないと主張するが、右1で述べたとおり、本件発明は、予め設定された
データを用いる従来技術を改良したものであって、自動ドアの電源投入後、ドアが
最初に開から閉又は閉から開へ移動する距離等を記憶し、記憶された測定値のみに
よってドアの移動距離等を制御するというものであるから、予め設定された基準デ
ータをドアの移動距離の制御に用いている場合が構成要件(四)に含まれないことは
明らかである。
 また、原告は、被告が被告物件を出荷する際、リセットボタン等により
ドアを移動させ、その移動距離を測定することで基準データを設定しているとする
と、右設定行為自体が構成要件(三)を充足すると主張するが、被告が被告物件を出
荷する際、右のような方法で基準データを設定していると認めるに足りる証拠はな
いし、また、仮に右のような方法で設定がされているとしても、右1で述べたとこ
ろからすると、本件発明は、電源が投入されるごとに、ドアの移動距離等を記憶
し、右記憶に従ってドアの移動距離等を制御するものであるから、右のような方法
で予め基準値を設定することが、構成要件(三)を充足することはないし、それに従
ってドアの移動距離を制御することが、構成要件(四)を充足することはない。
(五) また、右1で述べたとおり、本件発明は、自動ドアの電源投入後、ド
アが最初に開から閉又は閉から開へ移動する距離等を記憶し、記憶された測定値の
みによってドアの移動距離等を制御するというものであるから、右(一)ないし(四)
の全ての場合について、右記憶された測定値によってドアの移動距離等を制御しな
ければならないと解される。したがって、仮に、右(一)ないし(四)の一部につい
て、右記憶された測定値によってドアの移動距離等が制御されている場合があると
しても、全ての場合において右記憶された測定値によってドアの移動距離等が制御
されていない以上、構成要件(四)を充足することはない。
三 よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却するこ 
ととし、主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第四七部
       裁判長裁判官  森     義  之
裁判官  岡  口  基  一
          裁判官  男  澤  聡  子 
別紙
 動 作 説 明 書
 1 電源投入時の動作(以下「初期計測動作」という。)
   電源を投入した時のドアの位置により、開閉パターンが次のように異なる。
  (一) ドアが全閉の場合(図①)
    電源を投入すると、ドアは開方向に低速で移動し、全開位置(開放端)で
停止する。その後、全開位置をストロークの原点として、ドアは閉方向に高速で移
動する。途中、ドアは全閉位置(閉鎖端)より前の位置(制動位置)P1で低速移
動に変わり、全閉位置で停止する。こうしてドアが最初に原点(全開位置)から定
位置(全閉位置)まで移動する間にカウントされたパルス数が、ドアのストローク
としてRAM32(1)に記憶される。
  (二) ドアが半開の場合(図②)
    電源を投入すると、ドアは、半開位置P2から開方向に低速で移動し、全
開位置(開放端)で停止する。その後、ドアは閉方向に高速で移動し、初めの半閉
位置P2より前の位置(制動位置)P3で低速移動に変わり、全閉位置(閉鎖端)
で停止する。こうしてドアが最初に原点(全開位置)から定位置(全閉位置)まで
移動する間にカウントされたパルス数が、ドアのストロークとしてRAM32(1)に記
憶される。
  (三) ドアが全開の場合(図③)
    電源を投入すると、ドアは一旦、開方向に駆動され、全開位置でモータが
拘束されて停止する。次に、閉方向に少し移動した後反転し、開方向に移動して全
開位置(開放端)で停止する。そして、閉方向に低速で移動し、全閉位置(閉鎖
端)で停止する。こうしてドアが最初に原点(全開位置)から定位置(全閉位置)
まで移動する間にカウントされたパルス数が、ドアのストロークとしてRAM
32(1)に記憶される。
 2 基準データの確認
   EEPROM5には、ドアの移動距離制御の基準とすべきストローク値のデ
ータ(以下「基準データ」という。)を格納する場所があり、電源投入後、その場
所からRAM32(2)に、基準データが読み出される。前記1の初期計測動作において
RAM32(1)に記憶されたストローク値(以下「初期計測値」という。)との比較の
結果によって、(イ)(ⅰ)基準データより初期計測値が二〇ミリメートル以上小さい場
合でリセットボタンを押さない場合、(ii)基準データより初期計測値が二〇ミリメ
ートル以上小さい場合でリセットボタンを押した場合、(ロ)基準データより初期計測
値が二〇ミリメートル以上一〇〇ミリメートル末満の範囲で大きい場合、(ハ)基準デ
ータより初期計測値が一〇〇ミリメートル以上大きい場合、(ニ)基準データと初期計
測値の差が二〇ミリメートル未満の場合の五通りのパターンがある。
(イ)(ⅰ)基準データより初期計測値が二〇ミリメートル以上小さい場合でリセ
ットボタンを押さない場合
例えば、出荷時に設定・記憶されたデータに比べて、実際の間口(スト
ローク値)が小さい場合が考えられる。この場合、モニターランプが点滅する。こ
のとき、ドアの開閉動作を行う信号を送ると、ドアは開閉動作を行う。ドアの移動
距離を制御するための基準データとして、EEPROM5に記憶されている基準デ
ータを、そのまま使用する。
 (ii)基準データより初期計測値が二〇ミリメートル以上小さい場合でリ
セットボタンを押した場合
例えば、出荷時に設定・記憶されたデータに比べて、実際の間口(スト
ローク値)が小さい場合が考えられる。この場合、モニターランプが点滅する。リ
セットスイッチを押すことにより、計測動作(後記3に記載)を行う。
(ロ)基準データより初期計測値が二〇ミリメートル以上一〇〇ミリメートル未
満の範囲で大きい場合
リセットスイッチを押すかどうかで(イ)(ⅰ)及び(ii)と同様の動作がされ
る。
  (ハ) 基準データより初期計測値が一〇〇ミリメートル以上大きい場合
    例えば、出荷時に設定・記憶されたデータに比べて、実際の設置場所の間
口(ストローク値)が大きい場合が考えられる。この場合、自動的に計測動作(後
記3に記載)を行う(リセットスイッチを押さなければ計測動作を行なわない前記
(イ)とこの点で異なる。)。
  (ニ) 基準データと初期計測値の差が約二〇ミリメートル未満の場合
    EEPROM5に記憶されている基準データと、電源投入直後の計測動作
により計測された初期計測値との差が零から約二〇ミリメートルの範囲内の場合、
このようなデータ間の差異を、誤差の範囲内と判断し、改めて計測動作などを行う
ことなく、EEPROM5に記憶されている基準データを、そのままドアの移動距
離制御のための基準データとして使用する。
 3 計測動作
   ドアは、開方向に低速で移動し、全開位置(開放端)で停止する。次に、全
開位置をストロークの原点として、ドアは閉方向に高速で移動し、全閉位置で停止
する。こうしてドアが最初に原点(全開位置)から定位置(全閉位置)まで移動す
る間にカウントされたパルス数が、ドアのストロークとしてRAM32(2)に記憶され
る。
   この計測動作の結果、新たに計測し直されたRAM32(2)に記憶された数値が
EEPROM5に書き込まれ、以後の移動距離制御の基準データとなる。
 4 通常動作
   前記2、3による基準データの確認決定後、通行状況に応じてドアが自動開
閉される。その際、発生するパルスの計数値と基準データとの比較により、ドアの
移動距離が制御される。
(添付図面)
初期計測動作時の自動ドアの動作を示す図
  
  別紙原告動作説明書の添付図面のとおり
別紙原告物件目録
 別紙物件目録及び別紙原告動作説明書のとおり
(別紙)物件目録
  図1 図2 図3 図4 図5 図6
  図7 図8
原告動作説明書
被告動作説明書

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛