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裁判例


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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、別紙第二目録(一)の標章(以下「被告標章(一)」という。)を
附した被服を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示し、又は輸入して
はならない。
2 被告らは、各自その所有する前項の被服を廃棄せよ。
3 被告らは、別紙第二目録(二)又は(三)の標章(以下、それぞれ「被告標章
(二)」、「被告標章(三)」という。)及び「LACOSTE」の文字の標章
(以下「LACOSTE標章」という。)が附された織ネームが縫い付けられた被
服を譲渡し、又は引き渡してはならない。
4 被告らは、別紙第二目録(四)の標章(以下「被告標章(四)」という。)及
びLACOSTE標章が附された下げ札(タグ)をつるした被服を譲渡し、又は引
き渡してはならない。
5 被告らは、各自その所有する前項の下げ札を廃棄せよ。
6 被告らは、1項の被服の広告に、被告標章(一)及びLACOSTE標章又は
「ラコステ」の文字の標章(以下「ラコステ標章」という。)を附してはならな
い。
7 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
 主文同旨
第二 請求の原因
一 商標権及び専用使用権に基づく請求
1 原告ラ・シユミーズ・ラコスト(以下「原告ラコステ」という。)は、次の商
標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を
有している。
出願日 昭和四四年七月三一日
公告日 昭和四六年三月二九日
登録日 昭和五〇年九月八日
登録番号 第一一五一八〇〇号
指定商品 第一七類スポーツシヤツ、その他本類に属する商品
登録商標の構成 別紙第一目録(一)のとおり
 原告三共生興株式会社(以下「原告三共生興」という。)は、本件商標権につい
て、その範囲を次のとおりとする専用使用権(以下「本件専用使用権」という。)
を有している。
地域 日本全域
期間 昭和五三年一二月八日から五年間
内容 指定商品全部
登録日 昭和五四年六月一八日
2 本件登録商標は、動物のワニの形態を図案化した図形(以下「本件商標図形」
という。)と、そのワニの形状にそい、その胴体部に図案化した「lacost
e」との欧文字(以下「本件商標文字」という。)を表示したものであつて、右ワ
ニの図形と「ラコステ」と読まれる欧文字の結合した商標である。
3 被告新進貿易株式会社(以下「被告新進貿易」という。)は、被告標章(一)
をいわゆるワンポイントマークとして附したポロシヤツ、ソツクス、セーター、ジ
ヤンパー及び帽子(以下「被告商品」という。)を米国から輸入した上、販売して
おり、被告商品のうちポロシヤツ、セーター及びジヤンパーについては、その襟部
分に被告標章(二)又は(三)及びLACOSTE標章が附された織ネームが縫い
付けられ、また、これらの商品には、被告標章(四)及びLACOSTE標章を附
した下げ札(タグ)が付けられた状態で販売している。
 被告有限会社ミウラ(以下「被告ミウラ」という。)は、被告商品を被告新進貿
易から購入した上で販売しており、被告らはその宣伝広告に被告標章(一)、LA
COSTE標章又はラコステ標章を附している。
4 被告商品は、本件商標権の指定商品に属し、被告標章(一)ないし(四)、L
ACOSTE標章及びラコステ標章は、いずれも、次のとおり、本件登録商標に類
似する。
(一)被告標章(一)ないし(四)と本件登録商標との対比
(1) 外観
本件商標図形は、次の特徴を有する。
イ 右向きの全体として横に長い形状をしていること。
ロ 短い四肢であること。
ハ 太くて長い尾をもちその先端が右向きであること。
ニ 口は長く突き出し、目の下あたりまで裂けていること。
ホ 口腔の上下に鋭い歯をもつていること。
 これに対し、被告標章(一)ないし(四)は、いずれも、本件商標図形の右各特
徴をすべて具備した形状からなつており、本件登録商標と外観において類似してい
る。
(2) 観念、称呼
 本件登録商標からは、「ワニ」の観念が生じ、「ワニ」と「ラコステ」の称呼が
生じる。被告標章(一)ないし(四)も、
「ワニ」の観念及び「ワニ」の称呼が生じるから、被告標章(一)ないし(四)
は、観念及び称呼において本件登録商標と同一である。
(二) LACOSTE標章及びラコステ標章と本件登録商標との対比
 LACOSTE標章及びラコステ標章並びに本件登録商標における本件商標文字
からは、いずれも「ラコステ」の称呼を生じ、また、LACOSTE標章と本件商
標文字は字体は異なるものの綴りにおいては同一であつて、外観において類似して
いるから、右各標章は本件登録商標に類似している。
5 したがつて、被告らの3記載の行為は原告ラコステの本件商標権及び原告三共
生興の本件専用使用権を侵害するものであるから、原告らは、その差止め等を求め
る権利を有する。
二 不正競争防止法第一条第一項第一号の規定による請求
1 原告三共生興は、スポーツシヤツ、帽子、ソツクス等の被服にいわゆるワンポ
イントマークとして別紙第一目録(二)の表示(以下「原告表示」という。)を附
したもの(以下「原告商品」という。)を販売している。
 原告表示は、本件登録商標を刺繍により表わしたもので、ワニの図形の外周を白
色糸でふちどり、ワニ本体を濃緑色とし、文字を黒色、口の下部を赤色にした特色
のある配色の表示であり、シヤツの胸等に縫い付けられたものである。
2 原告表示は、次のような経過を経て、我が国において、原告三共生興の販売す
る原告商品を示す表示として広く認識されている。
(一) 昭和八年に、原告ラコステの現社長【A】の父【B】によつてポロシヤツ
等を製造する会社として設立された原告ラコステは、ポロシヤツ等のシヤツのマー
クとして「ワニ」を付け、世界各国の市場に販売を開始したところ、世界各国の大
衆にアピールし、「ワニマーク」のラコステとして著名になり、世界的流行となつ
たワンポイントウエアの元祖ともいうべき存在となつた。
 原告ラコステが、右のワニマークを日本においても商標登録したものが本件登録
商標である(なお、外国においては、主として、被告標章(一)と同一のものが商
標登録されている。)。
(二) 原告三共生興は、
このワニマークの附された原告ラコステ製造のシヤツを昭和三八年にフランスから
輸入して販売を開始したところ、原告三共生興の宣伝活動と原告ラコステの厳格な
品質管理により、昭和四三年から昭和四八年にかけて、ゴルフの大衆化とともに、
ワンポイントマークのブームが訪れ、その分野の先駆者たる地位にあつたワニマー
クのラコステの名は不動のものとなり、原告表示が原告商品を示すものとして全国
的に著名となつた。
(三) この間、原告三共生興は、昭和四六年四月、原告ラコステとの間に技術導
入契約を締結して、ラコステ製品の日本における独占製造権、日本、韓国、台湾、
香港及びシンガポールにおける独占販売権を取得し、これに伴い、本件専用使用権
の設定を受け、爾来、原告ラコステの厳格な指示による高品質のシヤツ等の被服を
原告三共生興が製造した上、原告ラコステがその品質を保証するものとして、従前
と同一の原告表示を附して販売している。
(四) 原告三共生興は、その後も一層の宣伝活動に努めたところ、昭和五二年に
至つて、スポーツに対する関心が高まり、更にスポーツウエアを常時着用するよう
になり、特に若者の間でテニスブームが惹起したこともあつて、ラコステワニのス
ポーツシヤツ、帽子、ソツクスの売行きが増大し、この傾向は今日に及んでいる。
3 原告表示が右のように著名になると同時に、ワニマークのラコステシヤツとし
て原告ラコステの略称でありその創立者の名前でもある「ラコステ」の名称も、原
告三共生興の販売する原告商品の表示として、我が国において広く認識されるに至
つている。
4 被告らの前記一3の記載の行為は、次に述べるとおり、原告商品の表示として
著名な原告表示又は「ラコステ」の名称と類似の表示を使用して、被告商品と原告
商品との混同を生じさせるものであり、これにより、原告三共生興は、営業上多大
の損害を受けている。
(一) 被告標章(一)のスポーツシヤツ、帽子、ソツクス等におけるワンポイン
トマークとしての使用状況、位置関係、縫い付け状況等は、すべて原告商品のそれ
と同一であり、被告標章(一)は、ワンポイントマークとしては、別紙第二目録
(一〇)のとおり、原告表示と同一の配色により刺繍されている。
 あえて相違点を求めれば、被告標章(一)においては文字の表示がなく、その代
わりにワニの胴体部分中央左から右にかけてノコギリ状の線が入つており、これが
黒色糸で刺繍されていることである。しかし、濃緑色地にほどこされた黒色糸によ
る線と文字とでは、至近距離ならばいざしらず、遠目にはほとんど識別できない。
 なお、被告標章(一)の刺繍には、ワニの本体の色が青色のものも存するようで
あるが、形状はもちろん、その配置、大きさが共通する以上、右に述べたところと
同一性の範囲を出ない。
(二) 被告らは、原告の商品表示として著名な「ラコステ」の名称を使用し、被
告商品を「ラコステ商品」と称して販売している。
5 したがつて、原告三共生興は、不正競争防止法第一条第一項第一号の規定によ
り被告らの被告標章(一)の使用の差止め等を求める権利を有する。
三 よつて、原告ラコステは、本件商標権に基づき請求の趣旨記載の判決を求め、
原告三共生興は、主位的に本件専用実施権に基づき請求の趣旨記載の、予備的に不
正競争防止法第一条第一項第一号の規定により、請求の趣旨1項、2項及び7項記
載の判決を求める。
第三 請求の原因に対する被告らの認否及び反論
一 請求の原因一に対する認否及び反論
1 同1の事実は認める。
 同2の事実中、本件商標文字が「ラコステ」の欧文字であることは否認し、その
余は認める。
 同3の事実中、被告らが被告商品の宣伝広告に被告標章(一)、LACOSTE
標章又はラコステ標章を附していることは否認し、その余は認める。
 同4及び5はいずれも争う。
2 被告標章(一)ないし(四)は、いずれも、次のとおり、本件登録商標に類似
していない。
(一) 本件登録商標の出願日である昭和四四年七月三一日当時、現行の商標法施
行令別表第一七類に対応する旧商品区分第三六類又は第三七類には、次の各構成の
登録商標が存在していた。
(1) 登録番号第四〇四二一九号(別紙第三目録(一))
 ワニを意味する英単語「ALLIGATOR」の全文字を活字体の大文字で表わ
したもの。
(2) 登録番号第四一二二九八号(同目録(二))
 斜右方に向つて大きく口を開いたワニの図形とそのワニの口中に向つて頭を左に
して羽ばたいている小鳥の図形を組合わせ、その左上方に「鰐鳥」と筆記体で書い
た文字との結合からなるもの。
(3) 登録番号第四二五〇九四号(同目録(三))
「CROCODILEーHILL」と英語の活字体大文字で全部表わしたもの。
(4) 登録番号第四四〇九四九号(同目録(四))
 地球儀の北半球部分の図の上に乗つている左を向いたワニの図形の下に「地球
鰐」と肉太に書いた文字との結合からなるもの。
(5) 登録番号第四四二九四六号(同目録(五))
 貝の図形の中に左を向いたワニの図形を描き入れ、その上に「WANIーKA
I」と、下に「鰐貝印」と書いた文字との結合からなるもの。
(6) 登録番号第四五六〇八九号(同目録(六))
 一般に星を表現するのに用いられている図形の中に、右下を頭にして右斜上方に
向つて尾をはねたワニの図形を描き入れ、その上に「ホシワニ」と、下に「STA
RCROCODILE」と書いた文字との結合からなるもの。
(7) 登録番号第四六九〇二一号(同目録(七))
 地球の図形を背景に左下を頭に右上を尾にしたワニを描いたものの上に「CRO
CODILEGLOBE」と、下に「KUREHA」と書いた文字の結合とからな
るもの。
(8) 登録番号第五〇七二〇三号(同目録(八))
 王冠を背に載せ頭を左にして口を開き、右上に尾をはね上げたワニの図形の上
に、「王冠鰐」、下に「KINGCROCODILE」と書いた文字の結合からな
るもの。
(9) 登録番号第五一六九八六号(同目録(九))
 頭を右にして口を開いたワニが頭に王冠を載せている図形とその下に「王冠ワ
ニ」と書いた文字との結合からなるもの。
(10) 登録番号第五三〇二九〇号(同目録(一〇))
 頭を左下にし右斜上方に向つて尾をはねたワニの図形と三日月の図形を組合わ
せ、
その下に「月鰐」と筆記体で書いた文字との結合からなるもの。
(11) 登録番号五七一六一二号(同目録(二))
 頭を左に尾を右上にはね上げた図形と、その左に左から右斜上方に「Croco
dile」と筆記体で書いた文字との結合からなるもの。
(二) 右の各登録商標のうち(1)及び(3)を除くすべてにおいてワニの図形
が用いられており、また、右のすべてにおいてワニ又はワニを意味する文字が含ま
れている。したがつて、本件登録商標の出願時には、既に、ワニを観念させる文字
及びワニの一般的な図形自体には、当該商標を他の商標から区別する力、すなわち
識別力ないし特別顕著性がなかつたものというべきである。
 本件登録商標においても、本件商標図形はごく一般的なワニの輪郭図たるを出な
いものであるから、それ自体は何ら特別顕著性を有さない。
 したがつて、本件登録商標の特別顕著性は、ワニの輪郭図と本件商標文字とが結
合して一体となつた全体構成に存する。
(三) 以上のとおりであるから、本件登録商標からは、本件商標図形と本件商標
文字が結合して一体となつた全体としてのみ外観が生ずるものであり、また全体と
してのみ総称、観念を生じるものである。
 したがつて、本件商標文字のような欧文字の全く含まれていない被告標章(一)
ないし(四)が本件登録商標の外観に類似していないことは明らかであるし、本件
登録商標から単なるワニの称呼、観念が生ずるのではない以上、被告標章(一)な
いし(四)が本件登録商標と称呼、観念において類似しないことも明らかである。
(四) 仮に、本件登録商標のうち本件商標図形にも顕著性があるとしても、次の
とおり、致告標章(一)ないし(四)はその外観において本件登録商標と類似して
いない。
(1) 本件商標図形と被告標章(一)とは、次のイ、ロ、ハの各点において類似
しているが、ニ、ホ、ヘの各点において相違している。
イ ワニの輪郭を線で描いたものであること。
ロ 頭を右に向け口を開き尾を上に上げていること。
ハ 口の開け具合及び尾を上げた角度がほぼ等しいこと。
ニ 本件商標図形は、図形の切り込みが浅く丸みを帯びており、全体におだやかな
印象を与えるのに対し、被告標章(一)は、図形が深く切れ込みかつそれがすべて
鋭角であることから、全体に鋭い獰猛な印象を与えること。
ホ 本件商標図形の尾、脚、上顎、下顎はそれぞれ細くしなやかに描かれているの
に対し、被告標章(一)のそれらはそれぞれ太く頑丈に描かれている。
ヘ 被告標章(一)の胴の部分には、背と腹の境を表わしかつ獰猛さを強調するた
めと思われる鋭い折れ線が、また顎のかみ合い部分には同様の目的のためと思われ
る切れ込み線が、それぞれ描かれているのに対し、本件商標図形には、これがない
こと。
(2) 右の共通点についてみるに、イの点は物を図案化して描くために常用され
る手段で、この点は識別要素たり得ない。
 ロの点は、ワニの頭及び尾を、左右のいずれに向けようとも格別の意味はなく、
事実、前記(一)の(4)、(5)、(7)、(8)、(10)及び(11)のワ
ニの図形は左を向いているのに対し、(2)、(6)及び(9)のワニの図形は右
を向いている。したがつて、この点も識別要素たり得ない。
 次にハの点は、ワニを口を開けた状態で表現するのはむしろ常態というべきであ
つて、事実、前記(一)の各登録商標についてみても、口を閉じているのは(7)
及び(10)のみで、他は口を開けている。しかも、本件商標図形の口の開け方
は、前記(一)の(2)のように格別大きく口を開けているというのではなく、ご
くあたりまえの角度で開けているにすぎない。尾の角度についても同様である。し
たがつて、この点も識別要素たり得ない。
(3) 一方、前記相違点について考えるに、これらの相違点のために本件商標図
形のワニが柔和なユーモラスな印象を与えるのに対し、被告標章(一)は獰猛頑丈
かつ悪役的な印象を与える点で、両者は全く異なつた図形となつている。
(4) 以上の点を総合すれば、本件商標図形と被告標章(一)とは非類似であ
り、まして、本件登録商標は本件商標図形と本件商標文字の一体不離の結合商標で
あるのに対し、被告標章(一)はワニ図形のみからなるものであるから、両者が類
似しないこと明らかである。
(5) 被告標章(二)ないし(四)のワニ図形と本件商標図形との差異は、被告
標章(一)について述べたものよりはるかに大きく、したがつて被告標章(二)な
いし(四)も本件登録商標と類似していない。
3 LACOSTE標章、ラコステ標章は、次のとおり、本件登録商標に類似して
いない。
(一) 本件登録商標は文字と図形の結合した商標であるから、特別の事由のない
限り、文字の部分を図形から切り離して称呼が生じるものではないし、そもそも、
本件商標文字の第一字目は、IなのかCなのかも判然とせず、少なくともLとは認
め難い。したがつて、本件登録商標からは、「ラコステ」という称呼は生じない。
(二) 被告商品の織ネームにおけるLACOSTE標章の使用態様は、別紙第二
目録(五)又は(六)のとおりであつて、これらから生じる称呼は、「アイゾツト
ラコステ」又は「シユミーズラコステ」であり、また被告商品の下げ札(タグ)に
おけるLACOSTE標章の使用態様は、同目録(七)又は(八)のとおりであ
り、被告商品のポロシヤツは同目録(九)のとおりの標章が附されたビニール袋に
詰められて販売されているのであつて、これらから生じる称呼は、「ラコステアイ
ゾツド」又は「アイゾツドラコステ」である。
(三) したがつて、本件登録商標の称呼とLACOSTE標章又はラコステ標章
の称呼とが同一又は類似であるとはいえない。
二 請求の原因二に対する認否及び反論
1 同1の事実中、原告表示が本件登録商標を刺繍したもので、ワニの図形の外周
を白色系でふちどり、ワニ本体を濃緑色とし、文字を黒色、口の下部を赤色にした
ものであることは認め、その余は不知。
 同2冒頭の事実は否認し、同2(一)の事実中、外国においては原告ラコステ
は、主として、被告標章(一)と同一のものを商標登録していることは認める。
 原告表示は、原告ラコステの商品表示として周知とはいえても、原告三共生興の
販売する原告商品の商品表示として周知とはいえない。
 同3の事実は不知。
 同4中、被告らが請求の原因一3の行為をしていること(但し、被告商品の宣伝
広告に被告標章(一)、LACOSTE標章又はラコステ標章を附していることを
除く。)は認めるが、その余は否認する。
2 次に述べるとおり、被告標章(一)は原告表示と類似しておらず、被告商品と
原告商品が混同されるおそれは全くない。
(一) 被告標章(一)と原告表示との対比
 右一2のとおり、被告標章(一)は本件登録商標に類似しておらず、したがつ
て、原告表示にも類似していない。
 また、被告商品に附された被告標章(一)には、ワニの本体が濃緑色のもののほ
かに、青、赤、黄及び茶の各色のものがあり、ワニの本体が濃緑色に限られている
原告表示とは、その点においても類似していない。
(二) 誤認混同のおそれ
(1) 商品表示の相違
 被告商品のポロシヤツ等の襟部分の織ネームの表示は別紙第二目録(五)又は
(六)のとおりであり、下げ札の表示は同目録(七)又は(八)のとおりである。
更に、被告商品のポロシヤツは、同目録(九)の標章の附されたビニール袋に詰め
られて販売されている。
 これに対し、原告商品のポロシヤツ等の襟部分の織ネームの表示は別紙第一目録
(三)のとおりであり、下げ札の表示は同目録(四)のとおりである。また、賑売
の際には、同目録(五)の標章の附されたビニール袋に詰められている。このよう
な表示の相違により、被告商品は米国のアイゾツド・リミテツド(以下「アイゾツ
ド社」という。)製の商品であり、原告商品は日本製で原告三共生興が発売してい
るものであることが明瞭で、両者が混同されることはない。
(2) 原産地表示の相違
 仮に商品表示が類似しているとしても、被告商品には、「MADE IN U.
S.A.」の表示があり、一方、原告商品には、別紙第一目録(四)のように、下
げ札に「※比の製品はフランスラコステ社の技術を導入して日本で製作したもので
す。」という表示があるから、原産地を異にしていることが明瞭で、両者が混同さ
れることはない。
(3) 形態等の相違
 被告商品と原告商品とには、例えば、ポロシヤツにおいて対比すると、次のよう
な相違点がある。
イ 前者は素材が綿一〇〇パーセントで、吸汗性、着ごこちが良いのに対し、後者
はポリエステルとの混紡である。
ロ 前者は二つボタンであるのに対し、後者は三つボタンである。
ハ 前者は袖口が絞りのあるいわゆる「ちようちん袖」であるのに対し、後者は切
つたままの袖口になつている。
ニ 前者はポケツトがないのに対し、後者はポケツト付きである。
ホ 前者は、裾が両脇とも割れて切り込みがあり、しかも前面より背面が長く、運
動しても裾が出ないように配慮してあるのに対し、後者はこのような裾の割れはな
い。
ヘ 前者のサイズ表示は、「HOMME」、「1/2PATRON」、「PATR
ON」というフランス語でなされているが、後者のそれは算用数字でなされてい
る。
ト 前者は一着六八〇〇円であるのに対し、後者は五三〇〇円である。
 このような両者の相違のほか、購買層も、前者がフアツシヨンに敏感な者である
のに対し、後者はデパート、量販小売店、スポーツ用品店からの購入者が多いこと
等に差異があり、したがつて両者が混同されることはない。
(三) 被告商品の周知性
 次に述べるとおり、被告商品であるアイゾツド社製品は、原告商品とは別に、我
が国で広く知られるに至つており、両者が混同されることはない。
(1) 昭和四〇年代半ばころ、いわゆるワンポイントブームとして、種々のワン
ポイントマークを附したポロシヤツが我が国に登場した。しかし、そのブームも下
火となり、我が国における原告三共生興の取り扱う原告ラコステからの輸入商品の
売り上げも低迷し、昭和五一年ころ、原告三共生興は右輸入商品の大量の在庫をか
かえるような状況であつた。
(2) この間、海外への旅行や海外の情報の流入は著しく増加し、一般消費者、
特に服装や流行に関心の深い若者層は、世界的に著名な原告ラコステの真正商品の
標章は、原告表示ではなく、被告標章(一)のとおりであることを知るようになつ
た。
(3) 原告三共生興が我が国で原告ラコステからの輸入商品を取扱うようになる
一〇年以上も前から、米国において原告ラコステのライセンシー(右詳細は並行輸
入の抗弁の項参照)として同社商品を輸入、製造していたアイゾツド社は、我が国
内とは比較にならない規模で宣伝、拡販活動を展開し、昭和五一、二年ころから米
国内にアイゾツドブームを巻き起こした。
 その様子は、米国への旅行者や雑誌等を通して我が国に伝えられ、そのデザイ
ン、特に機能性や、ワニのマークが、原告商品と異なり、服地の色に合わせて、
青、赤、黄等各種あることから、購買者間に輸入の要求が高まつた。
(4) そこで、被告ミウラは、昭和五二年春、被告新進貿易が輸入したアイゾツ
ド社の製品を販売した(右詳細は並行輸入の抗弁の項参照)ところ、若者購買層を
中心に爆発的な人気を呼び、青山や原宿等のいわゆるフアツシヨンタウンの若者達
のフアツシヨンとして登場し始めた。
 被告ミウラは、その後も被告新進貿易の輸入したアイゾツド社製品を販売し続
け、売行きも好調であつたところ、昭和五三年八月一日発行のフアツシヨン雑誌
「メンズクラブ」二〇八号において、米国でのアイゾツドラコステブームの紹介と
ともに、被告ミウラの店舗と被告商品の紹介をした記事が二頁見開きで掲載され、
我が国においても、アイゾツドラコステのブームが惹き起こされた。
 その後、昭和五四年八月一日発行の「メンズクラブ」二二一号において、再び同
様の紹介記事が掲載され、我が国におけるアイゾツドラコステのブームは爆発的な
ものとなるに至つた。
 被告新進貿易の被告商品の輸入、同ミウラの販売により、前記のとおり、アイゾ
ツドラコステのブームが惹き起こされた結果、皮肉にも、原告商品の売行きも、そ
れまで低迷していたにもかかわらず、再び伸びを示し始めたのであるから、原告三
共生興は、右被告らの行為により莫大な利益を得たとはいいえても、利益を害され
るおそれがあるとはいいえない。
第四 抗弁ー真正商品の並行輸入
一 被告らの被告商品の輸入、販売行為は、原告ラコステに由来する真正商品の並
行輸入であるから、実質的違法性を欠き、原告らは、本件商標権又は本件専用使用
権に基づいて、被告らの右行為の差止め等を求めることはできない。
1 原告ラコステは、昭和八年ごろ、フランスにおいて、
被告標章(一)と同一の商標及び「LACOSTE」の文字商標の商標登録を受
け、以来、世界五〇カ国余においてこの商標を登録している。
2 被告商品は、次のとおり、右各商標の米国における商標権者であり原告ラコス
テの子会社に当たるラコステ・アリゲーター社のライセンシーであるアイゾツド社
の真正商品である。
(一) 一九五〇年代初頭から、原告ラコステは、米国において、左胸にワニのワ
ンポイントマークを付けたスポーツシヤツの販売を企図し、一九五一年一〇月一
日、ニユーヨーク州法人であるデイビツド・クリスタル・インコーポレーテイツド
(以下「クリスタル社」という。)との間で、ライセンス契約を締結した。その内
容は、原告ラコステが、クリスタル社に対し、原告ラコステ製のテニス用、ゴルフ
用のシヤツの独占販売権並びに「LACOSTE」、「CHEMISE LACO
STE」の商標及び被告標章(一)を代表とするワニの商標についての独占的使用
権を与えるものであつた。なお、この契約は、その後一九五八年八月に修正され、
存続期間は一九八五年まで延長されている。
(二) 原告ラコステは、前記文字商標及びワニの商標を米国において登録出願し
たが、その当時既に米国においては、デラウエア州法人であるザ・アリゲーター・
カンパニー・インコーポレイテイツド(以下「アリゲーター社」という。)がワニ
の図形の登録商標を有していたため、原告ラコステの右出願のうちワニの商標につ
いては、一九五三年四月一〇日、米国特許庁により登録を拒絶された。
(三) 更に、一九五六年一二月一〇日、クリスタル社は、アリゲーター社から、
ニユーヨーク州南部地方裁判所に商標権侵害訴訟を提起され、一九五八年九月一六
日、両社間に和解が成立し、同年八月一五日付の同意書をもつて原告ラコステも右
和解を承認した。右和解は、クリスタル社側でのアリゲーター社の商標権の承認を
前提とし、付属文書としてアリゲーター社とクリスタル社とのライセンス契約が添
付されたものである。
 ここにおいて、クリスタル社は、原告ラコステのライセンシーとしての地位とと
もに、アリゲーター社からもライセンスを得て、ワニの商標について登録商標との
抵触問題を解決した。
(四) クリスタル社は、その男性服部門を従前からアイゾツド・デイビジヨンの
名称で活動させてきたが、一九五九年一二月一日、右部門をニユーヨーク州法人で
あるアイゾツド社として独立させ、従前からの同部門の取扱商品等の資産及び関連
する商標その他のライセンシーとしての地位一切を自己の一〇〇パーセント子会社
であるアイゾツド社に譲渡した。その結果、アイゾツド社は、原告ラコステに対す
る一九八五年までのライセンシーとしての地位及びアリゲーター社のライセンシー
としての地位を合わせて取得した。
(五) 前記和解は、原告ラコステとアリゲーター社との間の直接の契約ではなか
つたため、一九七〇年三月四日、原告ラコステがトイレツト製品についての商標の
使用権を第三者に与えたことに関連して、デラウエア州裁判所において、アリゲー
ター社が原告ラコステに対して訴訟を提起した。
(六) 右訴訟は、原告ラコステの敗訴という結果に終わつたが、これを契機とし
て、両者間で商標関係の調整が行なわれ、その結果、スイスにラコステ・アリゲー
ター・エス・エイ(以下「ラコステ・アリゲーター社」という。)が設立され、一
九七七年七月二五日、米国における「LACOSTE」等の文字商標の商標権は原
告ラコステから、ワニの図形の商標権はアリゲーター社から、いずれもラコステ・
アリゲーター社に譲渡された。
(七) ラコステ・アリゲーター社は、米国における右商標権の保護、管理を行う
ため、原告ラコステの全額出資の子会社がその株式の四七パーセント、米国ゼネラ
ル・ミルズ社の全額出資の子会社がその株式の四七パーセント、六名の取締役がそ
の株式の各一パーセントを保有する原告ラコステの孫会社というべき会社であり、
原告ラコステの代表者である【C】が代表取締役会長を務めている。同社は、従業
員のいないいわゆるペーパーカンパニーであり、具体的に独自の活動もしておら
ず、その本社所在地も独立の事務所ではない。したがつて、同社は、単に法的主体
を原告ラコステと異にしているというに過ぎず、並行輸入との関係においては、原
告ラコステと同一視することができる。
 なお、現在では、アイゾツド社はジエネラル・ミルズ社の子会社であり、クリス
タル社及びアリゲーター社も、いずれもジエネラル・ミルズ社の傘下に吸収されて
いる。
(八) 以上のとおり、アイゾツド社は、米国において、原告ラコステと同一視で
きるラコステ・アリゲーター社から正当に、世界的に著名な被告標章(一)ないし
(四)及びLACOSTE標章の使用を認められており、被告新進貿易は、アイゾ
ツド社が米国内において適法に製造した被告商品を適法に買い付け、これを輸入し
ているものである。
 なお、ラコステ・アリゲーター社とアイゾツド社との間に、アイゾツド社の製造
するラコステ製品を米国及びカリブ海諸国以外へ輸出することを禁止する約束が存
したとしても、それは当事者間を拘束するに過ぎず、並行輸入の正当性とは何の関
係もない。
3 原告ラコステは、我が国における本件商標権の権利者であり、原告三共生興
は、その専用使用権者であつて、原告ラコステと同視し得る関係にある。
4 したがつて、被告商品に附されている右第三、一、1、記載の各商標と本件登
録商標とが原告主張のとおり仮に類似しているとすれば、被告新進貿易が被告商品
を輸入販売し、被告ミウラがこれを販売する行為は、真正商品の並行輸入及びその
事後行為として実質的違法性を欠き、原告らが本件商標権又は本件専用使用権に基
づき、被告らの右行為を差止めることは許されない。特に、被告商品に附された標
章こそ世界五〇カ国以上で商標登録されている世界的著名商標であり、ラコステと
いう著名なコンツエルンの商標であつて、本件登録商標は、我が国において既に別
紙第三目録の各登録商標が存在していたため、やむなく被告標章(一)に代えて登
録出願されたものであるから、商標が完全に同一でなくとも、並行輸入といつてよ
い。
二 真正商品の並行輸入の場合実質的違法性を欠くとの右法理は、不正競争防止法
が機能する場面においても同様に働くことは疑いがない。
 そもそも不正競争防止法は、商道徳に違反する形態の取引を防止することをその
目的とする。したがつて、公正な取引についてまでその防止の機能が働くものでは
なく、公正な取引については、取引自由の原則が支配している。
 そして、並行輸入に該当する場合を検討すれば、その場合にはその輸入品(真正
商品)が国内の商標権者の販売する商品と出所源を同一とするがゆえに、たとえ現
実の出所地を異にしても商標の有する商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能
を害さず、よつて違法性を阻却するのであり、したがつて、その様な場合には真正
商品と国内の商標権者の販売する商品との競争はもはや、同一ブランド内での自由
競争であることが予想されているのである。この様な取引行為は、まさしく自由競
争が支配する公正な取引であり、違法性が阻却されるものといわざるを得ない。
 これを本件についてみると、被告の輸入行為が並行輸入に該当することは既述の
とおりであり、よつて、ラコステという傘の下における同一ブランド間の自由競争
の場面であつて、不公正な取引に該当しないことは極めて明白である。
 よつて、原告三共生興は不正競争防止法第一条第一項第一号の規定により被告ら
の被告商品の輸入、販売行為の差止め等を求めることはできない。
第五 抗弁に対する認否
一 抗弁一1の事実中、原告ラコステがフランスほか多数の国で、被告標章(一)
と同一の商標の商標登録を受けていることは認める。
二 同2(一)の事実中、なお書部分は否認し、その余は認める。
 昭和二六年に締結された原告ラコステとクリスタル社とのライセンス契約は、昭
和五二年三月一五日をもつて終了した。
 同2(二)及び(三)の事実はいずれも認める。
 同2(四)の事実中、アイゾツド社が昭和六〇年まで原告ラコステのライセンシ
ーとしての地位にあることは否認し、その余は認める。
 アイゾツド社の原告ラコステに対するライセンシーとしての地位は、昭和五二年
三月一五日をもつて終了した。
 同2(五)及び(六)の事実はいずれも認める。
 同2(七)の事実中、ラコステ・アリゲーター社の株式構成については認める
が、その余は否認する。
 ラコステ・アリゲーター社は、原告ラコステの子会社が、ゼネラル・ミルズ社と
均衡を保つて運営しているのであつて、原告ラコステの支配が及ぶ余地はない。
 同2(八)の事実は否認する。
 アイゾツド社製のラコステ製品は、ラコステ・アリゲーター社との関係で日本へ
は輸出できないことになつており、また、米国においてアイゾツド社製品の偽物が
犯濫している現状からも、被告商品がアイゾツド社の真正品であることは極めて疑
わしい。
三 同一3は争う。
 仮に被告商品がアイゾツド社製品であるとしても、
(一) アイゾツド社の使用商標と本件登録商標とは同一ではない。このことは被
告らも認めている。
(二) アイゾツド社と原告らとには何の関係もない。
(三) アイゾツド社の製品と原告商品とが品質、デザイン等において相違するこ
とは被告らの自認するところである。
との事実が存する以上、被告商品は真正商品とはいえないし、その輸入行為も並行
輸入行為とはいえない。
四 抗弁二は争う。
第六 証拠(省略)
       理   由
一 請求の原因一について
1 原告ラコステが、出願日昭和四四年七月三一日、公告日昭和四六年三月二九
日、登録日昭和五〇年九月八日、登録番号第一一五一八〇〇号、指定商品第一七類
スポーツシヤツ、その他本類に属する商品、登録商標の構成別紙第一目録(一)の
とおりとする本件商標権を有していること、原告三共生興が、本件商標権につい
て、地域日本全域、期間昭和五三年一二月八日から五年間、内容指定商品全部、登
録日昭和五四年六月一八日とする本件専用使用権を有していること、被告新進貿易
は、被告標章(一)をいわゆるワンポイントマークとして附した被告商品ポロシヤ
ツ、ソツクス、セーター、ジヤンパー及び帽子を米国から輸入した上、販売してお
り、被告商品のうちポロシヤツ、セーター及びジヤンパーには、その襟部分に被告
標章(二)又は(三)及びLACOSTE標章が附された織ネームが縫い付けら
れ、また、これらの商品には、被告標章(四)及びLACOSTE標章を附した下
げ札(タグ)が付けられた状態で販売していること、被告ミウラは、被告商品を被
告新進貿易から購入した上で販売していることは、いずれも当事者間に争いがな
く、被告商品が本件商標権の指定商品に属することは、右当事者間に争いのない事
実から明らかである。
 請求の原因一3中、被告らがその宣伝広告にLACOSTE標章又はラコステ標
章を附している事実は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。
2(一) 本件登録商標が動物のワニの形態を図案化した本件商標図形と、そのワ
ニの形状にそい、その胴体部に図案化した本件商標文字を表示したものであつて、
図形と文字の結合した商標であることは当事者間に争いがなく、本件登録商標の構
成を示すこと当事者間に争いのない別紙第一目録(一)に照らせば、本件商標文字
は欧文字の「lacoste」と認められる。
(二) 本件商標図形について、原告らは、その特徴として、右向きの全体として
横に長い形状をしていること、短い四肢であること、太くて長い尾をもちその先端
が右向きであること、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けていること、口腔の
上下に鋭い歯をもつていることを主張するが、これらはいずれもワニそのものの特
徴かあるいはワニを図案化する際に多く用いられる手法によるものであつて、ワニ
の図案としてはその形態をある程度簡略化していることのほかは、格別特異な格好
をしているとは認められない。そして、いずれも成立に争いのない乙第一七ないし
第二二号証、第二五ないし第二七号証によると、本件商標登録出願時既に、本件登
録商標の指定商品とその指定商品を同じくする登録商標中には、ワニの図形を商標
中に用いる別紙第三目録(二)(登録第四一二二九八号)、同目録(四)ないし
(六)(登録第四四〇九四九号、同第四四二九四六号、同第四五六〇八九号)、同
目録(九)ないし(二)(登録第五一六九八六号、同第五三〇二九〇号、同第五七
一六一二号)の各商標が存し、そのうち同目録(二)、(六)、(九)の各商標に
おいては本件商標図形と同様にワニが右を向いており、右(二)と(九)の商標に
おけるワニは口を大きく開いて目のあたりまで裂けて、口腔の上下には鋭い歯があ
ること、また、右(六)の商標におけるワニは尾の先端が右向きであること等にお
いて本件商標図形と類似しているし、同じく(二)の商標においては、ワニが左向
きであることのほかは極めて本件商標図形と類似していること、更に無制限にワニ
の観念を生ずる別紙第三目録(一)の登録第四〇四二一九号商標も存在していたこ
とが認められ、このことに照らすと、右各登録商標に遅れて出願、登録された本件
登録商標は、単純なワニという称呼、観念が生ずるものとしてでは到底他の登録商
標と区別され得ず、右各登録商標の存在により登録され得なかつたものと認められ
る。したがつて、本件登録商標の商標としての商品識別及び出所混同防止の機能を
果すための特別顕著性は、右ワニの図形部分に「lacoste」との欧文字を付
加した構成に有り、右構成としての外観、称呼、観念が生ずるというべきである。
このことは、原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証により認められるとこ
ろの、原告三共生興が大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第二三三三号商標権侵害禁
止等請求事件において、登録第五七一六一二号商標(別紙第三目録(二))の商標
権に基づき、リー・セン・ミン・コンパニー・リミテイツドから差止等請求を受け
た際に、本件登録商標と同一の標章に関して「lacosteの文字がむしろ主体
をなし、これからラコステのワニの観念は生じても、単なるワニの観念は生じな
い。」旨主張していることからも裏づけられるところである。原告らは、本件登録
商標からワニの観念、称呼が生ずると主張するが採用できない。
(三) 右を前提に本件登録商標を全体として観察した場合、さして特徴のないワ
ニの図形の胴体部分に「lacoste」の図案化された欧文字が記入されること
によつて、右文字が浮彫りにされる如き印象を与えることが認められ、このことに
よれば、本件登録商標において本件商標文字は、商品識別及び出所混同防止の機能
を果す上で大きな役割を有しているものと認められる。
 そして、「lacoste」との欧文字は、現時の我が国の外国語に対する理解
度からみれば、ラコステ又はラコストと発音されるべきことが通常の知識を有する
国民に容易に理解されると認められるから、本件登録商標からは、「lacost
eの文字入りワニ」あるいは「ラコステワニ」、「ラコストワニ」との観念、称呼
のほかに、「ラコステ」、「ラコスト」との称呼をも生ずるというべきである。
3 そこで、本件登録商標と被告標章(一)ないし(四)及びLACOSTE標章
を対比する。
(一) 被告標章(一)ないし(四)は、いずれも動物のワニの形態を図案化した
もので、右向きの全体として横に長い形状をし、短い四肢で、太くて長い尾をも
ち、その先端は右向きであり、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けているこ
と、口腔の上下には鋭い歯を持つている点で、本件商標図形と類似する点はある
が、被告標章(一)ないし(四)には、「いずれも「lacoste」なる文字の
部分がなく、「lacoste」の文字入りワニ」、「ラコステワニ」、「ラコス
トワニ」との観念、称呼あるいは「ラコステ」、「ラコスト」の称呼が生ずるとは
認められず、本件登録商標と被告標章(一)ないし(四)は、全体として観察した
場合、外観においても相違すると認められるから、両者は類似しているものという
ことはできない。
(二) 一方、LACOSTE標章については、「LACOSTE」との欧文字が
本件登録商標において商品識別及び出所混同防止機能を果すうえで大きな役割を有
している「lacoste」との欧文字の大文字であり、「ラコステ」、「ラコス
ト」と呼ばれることは容易に理解されると認められるから、外観において類似し、
称呼において同一であり、全体として本件登録商標と類似するものと認められる。
 被告らは、LACOSTE標章は別紙第二目録(五)ないし(九)のとおり使用
しており、そこから生じる呼称は「アイゾツドラコステ」、「ラコステアイゾツ
ド」、「シユミーズラコステ」である旨主張する。しかしながら、LACOSTE
標章の使用状況が被告ら主張のとおりであつたとしても、同目録(五)、(七)な
いし(九)は、「IZOD」と「LACOSTE」を別欄にして記載し、あるいは
その字体も字の大きさも異つているのであるから、それぞれが別個の文字と把握さ
れると認められ、同目録(六)については「LACOSTE」の文字の前に一字を
明けて同じ字体で、同じ大きさで「CHEMISE」と記載されているが、「CH
EMISE」なる文字は、一般の国民にはその意味、内容がなお理解し難いものと
認められるので、やはり「CHEMISE LACOSTE」の文字からは「LA
COSTE」の部分が「CHEMISE」の部分とは別のものとして把握されるも
のというべきであり、したがつて、右被告らの主張は理由がない。
4 以上の事実によると、原告らの被告らに対する本件商標権及び本件専用使用権
に基づく請求のうち、被告標章(一)ないし(四)に関する部分は、これらの標章
が本件登録商標に類似するとは認められない点で、また、ラコステ標章に関する部
分は、被告らがこれを被告商品の広告に使用している事実が認められない点で、い
ずれも失当であるから、棄却を免れないが、LACOSTE標章に関する部分は、
請求の原因一3中、被告らが被告商品の広告に右標章を使用している事実が認めら
れない点で失当であるが、その余の請求原因事実は認められることとなる。
二 請求の原因二について
1 証人【D】の証言及び同人の証言により成立が認められる甲第一〇号証並びに
原告三共生興が販売しているスポーツシヤツであることにつき争いのない検甲第二
号証によると、原告三共生興は、スポーツシヤツ、帽子、ソツクス等の被服に、い
わゆるワンポイントマークとして別紙第一目録(二)の原告表示を附した原告商品
を販売していることが認められ、また、原告表示が本件登録商標を刺繍により表わ
したもので、ワニの図形の外周を白色糸でふちどり、ワニ本体を濃緑色とし、文字
を黒色、口の下部を赤色としたものであることは当事者間に争いがない。
2 右1掲記の各証拠及び証人【D】の証言によりいずれも成立が認められる甲第
三号証、第四及び、第五号証の各一・二、第六ないし第八号証によると、以下の事
実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 一九三三年に、かつてのテニスチヤンピオン、【B】によつて設立された
原告ラコステは、同人がテニスの試合で着用していたスポーツシヤツ等に同人の愛
称となつていたワニをワンポイントマークとして附して、世界各国の市場に販売を
開始し、以来このワニのワンポイントマークを附したシヤツはワニマークのラコス
テシヤツとして愛称され、世界七〇カ国余に販売されるに至つている。そして世界
各国において被告標章(一)と同一のものを主とするワニマークについて商標登録
をし(この事実は当事者間に争いがない。)、右ワニマークを基本にして日本にお
いて商標登録したものが本件登録商標である。以上のような事情から、原告ラコス
テの略称であり、その創立者の名称である「ラコステ」の名称とともに、LACO
STE標章及びラコステのワニマークは原告ラコステの製品を示すものとして今や
世界的に著名なものとなつている。
(二) 原告三共生興は、このワニマークのラコステシヤツを昭和三八年に、原告
ラコステから三〇〇〇枚ほど輸入して以来、原告三共生興において、テレビ、雑誌
等を通じて「ラコステ」の名称で大々的に宣伝したこともあつて、ゴルフの大衆化
とともに訪れたワンポイントブームの潮流にも乗り、昭和四七年には三二万枚、同
四八年には四〇万枚と大量に輸入して販売するようになつた。
(三) 原告三共生興は、昭和四六年からはパンタロン、スカート、帽子等につ
き、昭和四九年からはシヤツについて原告ラコステとライセンス契約を締結して、
その技術を導入し、その厳格な品質管理の下に、日本、韓国、台湾においてラコス
テ製品を独占的にライセンス生産することとなり、昭和五二年後半からのテニスブ
ームに起因する再度のワンポイントブーム時には、昭和五三年に三〇万枚、同五四
年に六一万枚、同五五年に九六万枚、同五六年には一四二万枚ほどのラコステシヤ
ツをライセンス生産して販売し、その上原告ラコステから輸入したシヤツも昭和五
三年、五四年には三〇〇〇枚、同五五年には八万枚ほど原告三共生興において販売
し、その間、テレビ、雑誌等を通じて全国的に原告三共生興が原告ラコステと提携
してそのライセンスの下に販売するラコステシヤツとして宣伝をした。
(四) 原告三共生興は、わずかの例外を除いては、原告ラコステからの輸入商品
及びライセンス生産の商品ともに、これを日本において独占的に販売してきてお
り、これらの商品にワンポイントマークとして附されているのは、昭和三八年に輸
入した七〇〇〇枚のうち三〇〇枚以外はすべて原告表示もしくはこれと同様にワニ
の胴体部分に「lacoste」の欧文字が記されているものであつた。
 以上の認定した事実によると、昭和三八年以来、原告三共生興が、原告ラコステ
から輸入し又は原告ラコステからのライセンスにより製造した原告表示を附したシ
ヤツ等原告商品を大量かつ継続的に販売し、かつテレビ等を通じて全国的に宣伝し
てきたことにより、遅くとも昭和四〇年代の中葉頃には、原告表示及び「ラコス
テ」の名称は、原告三共生興が原告ラコステと提携してそのライセンスの下に販売
する原告商品を示す表示及び名称として広く認識されるに至つたものと認められ
る。
3 被告新進貿易が被告標章(一)をいわゆるワンポイントマークとして附した被
告商品を米国から輸入した上販売していること、被告ミウラが被告商品を被告新進
貿易から購入した上で販売していることは前示のとおり当事者間に争いがない。そ
こで右被告らの行為が原告表示又はこれと類似した表示を使用して、被告商品と原
告商品の混同を生じさせるものといえるか否かについて検討する。
(一) 原告表示と被告標章(一)が同様にワニを図案化したもので、右向きの全
体として横に長い形状をし、短い四肢、太くて長い尾をもち、その先端は右向きで
あり、口は長く突き出し、目のあたりまで裂けていること、口腔の上下には鋭い歯
をもつていることは前認定のとおりであり、また、右二2掲記の各証拠及び証人
【E】の証言並びに同証言により被告商品であることが認められる検甲第一号証、
第三及び第四号証によると、被告標章(一)のスポーツシヤツ、帽子、ソツクス等
におけるワンポイントマークとしての使用状況、位置関係、縫い付け状況等は、原
告商品における原告表示のそれと同一で、両者の大きさも同じであるし、被告標章
(一)のワンポイントマークのうちワニの本体部分が濃緑色の糸で刺繍されている
ものは、別紙第二目録(一〇)のとおりで、図形の切り込み、尾、脚、上顎、下顎
を描いている線の太さ等についても原告表示と同一であるといつてよい。但し、被
告標章(一)には、ワニの胴体部分に「lacoste」の文字の表示がなく、そ
の代わりにワニの胴体部分にノコギリ状の線が入つており、これが黒色糸で刺繍さ
れていること、及び被告標章(一)は、ワニの本体が濃緑色のもののほかに青色の
もの等も存すること(右は、前掲各証拠により認める。)は、原告表示と異なると
ころではある。しかしながら、原告表示と別紙第二目録(一〇)の表示を比較して
みると明らかなとおり、ワニの胴体部分にある「lacoste」との黒色糸によ
る文字と、単なる黒色糸による模様との差異は、黒色糸が濃緑色の中にあつて目立
たないこともあつて、離隔的に観察した場合には、さほど顕著なものとはいえない
し(この点は、本件登録商標のように「lacoste」の文字が鮮明であるのと
は異なる。)、また、ワニの本体の色彩にしても、その他の部分が前認定のとおり
極めてよく類似している以上、色彩の相違のみが格別の意味を有するとは解せられ
ない。
 そうすると、被告標章(一)はこれを全体としてみた場合、原告表示と別異の表
示とみられる程の差異はなく、両者は類似した商品表示であると認めることができ
る。
(二) 前認定のとおり、原告商品と被告商品とはその内容を同じくし、また、原
告商品における原告表示と、被告商品における被告標章(一)の使用状況等も全く
同一であることから、このような表示を附した商品が一般消費者に対して販売され
ることによつて、被告商品は原告商品と混同されるものと認められる。
(三) 被告らは、(1)原告商品と被告商品の表示の相違、(2)原産地表示の
相違、(3)形態の相違、(4)被告商品の周知性から、両者が混同されることは
ない旨主張する。しかしながら、以下のとおり、右被告らの主張はいずれも理由が
ない。
(1) 被告商品がアイゾツド社製品であることが、仮にその販売態様から明瞭で
あつたとしても、被告らの主張によつても被告商品にはアイゾツド製との表示のみ
がなされているのではなく、「IZOD」、「LACOSTE」の双方の表示がな
されているのであつて、被告商品を、原告商品と同じく、ラコステの商品でその出
所を同じくする商品であると一般消費者が認識するのがむしろ当然というべきであ
る。
(2) 原産地表示の相違についても、原告商品も前認定のとおりフランス製のも
のも、また原告三共生興製すなわち日本製のものもあるのであつて、被告商品に
は、米国製との表示があるとしても、原告三共生興が米国製品を全く扱つていない
と一般消費者が認識していると認めるに足りる証拠もない以上、右原産地表示の相
違のみによつて、両者が混同されることがないとはいい得ない。
(3) 商品の形態については、これが常に一定不変なものであるわけではなく、
時代、流行等につれ変化するのは当然である。したがつて、ある時期の原告商品と
被告商品の、それも一部分を抽出して、その両者の形態、値段等を比較することに
格別の意味があるとはいえない。
(4) 証人【E】の証言によると、被告商品の現在までの販売数量は、三〇〇〇
枚余程度であつて、被告らは自からアイゾツド社製品を宣伝したこともなく、単に
フアツシヨン雑誌「メンズクラブ」で二度ほどアイゾツド社製のラコステシヤツと
被告ミウラの店舗が紹介されたに過ぎないことが認められる。確かに一部のフアツ
シヨンに敏感な購買層には、アイゾツドラコステとしてアイゾツド社製品がもては
やされたことがあつたとしても、それはごく限られた範囲内でのことであつて、一
般消費者がアイゾツド社製品と原告ラコステからの輸入品もしくは原告三共生興製
のラコステ商品を直ちに見分けることができるほどにアイゾツド社製品が広く知ら
れるに至つているとは到底認めることはできない。そうすると、右被告らの主張は
いずれも理由がないというほかはない。
4 以上のとおり、被告らは、原告三共生興の原告表示と類似する被告標章(一)
の商品表示を使用した商品を販売、拡布して、原告商品と混同を生ぜしめたのであ
るから、原告三共生興は、右被告らの行為によつて営業上の利益を害されるおそれ
があるものと認められる。被告らは、被告商品の販売、拡布により、低迷していた
原告商品の販売量も増加したのであるから、原告三共生興の利益が害されることは
ない旨主張するが、仮りに右主張どおりの理由で原告商品の販売量の増加があつた
としてもこのことから直ちに原告が右混同により営業上の利益を一切害されるおそ
れがないとはいえないから、右主張は失当であるし、また、乙第六、第七号証及び
証人【E】の証言によつてはいまだ右事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに
足りる証拠もない。
三 抗弁(真正商品の並行輸入)について
1 原告ラコステがフランスほか多数の国で被告標章(一)と同一の商標の登録を
受けていること及び抗弁一2(一)の事実(但しなお書きの部分を除く。)、同一
2(二)及び(三)の事実、同一2(四)の事実(但し、アイゾツド社が一九八五
年まで原告ラコステのライセンシーとしての地位にあることを除く。)、同一2
(五)及び(六)の事実並びにラコステ・アリゲーター社が原告ラコステの全額出
資の子会社(成立に争いのない甲第一五号証によると、同社はスポルロワジエ・エ
ス・エーである。)がその株式の四七パーセント、米国ゼネラル・ミルズ社の全額
出資の子会社(前掲甲第一五号証によると、同社はシーピージープロダクツであ
る。)がその株式の四七パーセント、六名の取締役がその株式の各一パーセントを
有する会社であることは当事者間に争いがなく、証人【D】の証言によると原告ラ
コステはフランスにおいてはLACOSTE標章についても商標登録していること
が認められる。また、前掲甲第一五号証及びいみれも成立に争いのない甲第一四号
証、乙第二及び第三号証によると、ラコステ・アリゲーター社の現在の代表者は、
原告ラコステの代表者と同じく、【C】であること、ラコステ・アリゲーター社の
業務内容は、米国、カナダ、カリブ海諸国において、ワニマークの商標(これが被
告標章(一)と同一であることは成立に争いのない乙第九号証により認められ
る。)及びLACOSTE標章を商標登録して所有し、ライセンスを許諾するこ
と、前記ライセンスに関し使用料を徴収すること、前記商標の下に販売をする商品
の品質を管理することであり、この権限に基づいて、アイゾツド社ほか数社に対し
て、右地域における右各商標につきライセンスを与えていること、右ライセンス商
品についてはその品質の管理を厳格に行なつていることが認められる。
 そして、前掲甲第一四及び第一五号証、検甲第二号証並びに成立に争いのない乙
第八号証の一ないし三及び証人【E】の証言によると、被告商品は、アイゾツド社
がラコステ・アリゲーター社とのライセンス契約上、そのライセンスに基づいて生
産した製品の販売地域を米国及びカリブ海諸国に限定され、これ以外の地域に輸出
すること、輸出商社にこれを販売することを禁じられているので、特殊な経路すな
わちアイゾツド社から名義上はローリング・ヒルズ・カントリークラブへ売却され
たことにし、そこからエス・ワイ・トレーデイング社、更にニシザワ・リミテイツ
ドを経て被告新進貿易によつて我が国へ輸入されて被告ミウラへ納品されたもの
で、アイゾツド社がラコステ・アリゲーター社とのライセンス契約に基づき生産し
た商品であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右1の事実、前記二2(一)ないし(四)及び同二3(一)、(二)の事実に
よれば、原告ラコステは、その略称であり創立者の名称でもある「ラコステ」の名
称とともに著名となつているLACOSTE標章及び被告標章(一)及び本件登録
商標を含むラコステのワニマークを附した商品の出所源として我が国を含め世界的
に認識され、また、このように認識されていることから生ずる業務上の信用維持の
ために、自ら、又はその資本的なつながりを通じて支配を及ぼすことのできるラコ
ステ・アリゲーター社によつて、右各商標の管理をし、米国及びカリブ海諸国をそ
の販売地域と定められたアイゾツド社や日本、韓国及び台湾をその販売地域と定め
られた原告三共生興のようなライセンシーに対し、その製造販売する商品の品質管
理を厳格に行なつていることが認められ、この意味で米国におけるアイゾツド社も
我が国における原告三共生興も、原告ラコステの信用の下でその信用を利用してそ
の製造するラコステ商品を販売している点で同じ立場にあり、原告表示が原告三共
生興の販売する原告商品を示す表示として広く認識されているのも、原告三共生興
が世界的に著名な原告ラコステと提携しそのライセンシーとしての立場にあること
に由来するものというべきである。そして、本件登録商標とLACOSTE標章、
原告表示と被告標章(一)は標章の構成として同一ではないがそれぞれ類似してい
ることは前認定のとおりであり、ともにその出所源として原告ラコステを示す一連
のラコステ標章として同一視すべきものである。原告商品と被告商品との間に被告
主張のような品質、形態の差異があるとしても、被服の品質、形態等については、
これが一定不変というわけではなく、流行、時代等につれて当然に変化するもので
あることのほか、前記のとおり、原告ラコステが、日本におけるライセンシーであ
る原告三共生興と、原告ラコステと資本的なつながりを通じて支配を及ぼすことの
できるラコステ・アリゲーター社の米国におけるライセンシーであるアイゾツド社
に、ラコステ標章として同一視できる商標の下で、品質、形態等の異なる商品を製
造することを許容しているのであるから、右商品の品質、形態の差異は、世界的に
著名な原告ラコステを出所源として表示する商品として、その許容された範囲内で
の差異というべきのであり、このことによつて商標の品質保証機能が損われること
はないというべきである。
 そうすると、本件登録商標あるいは原告表示と同様にその出所源として原告ラコ
ステを表示しているLACOSTE標章あるいは被告標章(一)を附した被告商品
を輸入しても、本件登録商標及び原告表示の出所識別機能、品質保証機能を損うこ
とはなく、
原告ラコステあるいは原告ラコステのライセンシーであり原告ラコステの信用の下
でその信用を利用してラコステ商品を販売している原告三共生興の業務上の信用を
害することも、一般消費者の利益を害することもないと認められる。
3 以上に認定した事実関係によると、被告らによるLACOSTE標章を附した
被告商品の輸入販売行為は、商標法第一条に定める商標法の目的である商標を使用
する者の業務上の信用を害することも、また、需要者の利益の保護を害することも
なく、商標法が右目的達成のために保護している商標の出所識別及び品質保証の各
機能を害することはないと認められるのであるから、右輸入行為及びその事後行為
としての販売行為は、実質的違法性を欠き、これに対し、原告ラコステの本件商標
権及び原告三共生興の本件専用使用権に基づく禁止権を行使できないと解するを相
当とする。
 また、不正競争防止法が商道徳に違反する形態の不正な競争行為等を防止するこ
とをその目的とし、公正な取引について制限を課するものではなく、同法第一条第
一項第一号の規定の趣旨が周知表示に化体されている他人の業務上の信用にただ乗
りする不正競争行為を禁止するものであることからして、原告表示と同一の出所源
を示す被告標章(一)を附した被告商品の輸入販売行為は右の意味での不正競争行
為ということはできず、実質的違法性を欠き、これに対し、原告三共生興は、右規
定による禁止権を行使できないと解するを相当とする。
 なお、前記認定のように、アイゾツド社はラコステ・アリゲーター社とのライセ
ンス契約上、そのライセンスに基づいて生産した製品の販売地域を米国及びカリブ
海諸国に限定され、これ以外の地域へ輸出すること、輸出商社にこれを販売するこ
とを禁じられていること、また、原告三共生興は原告ラコステとのライセンス契約
上、そのライセンスに基づいて生産した製品の販売地域を日本、韓国及び台湾に限
定されていることが認められ、これによれば、原告ラコステは、そのライセンシー
を通じ世界市場を地域的に分割する販売政策をとつていることが推認され、被告商
品が日本に輸入され販売されることは、結果としてこれに反することとはなるが、
右に述べた我が国の商標法及び不正競争防止法の適用上被告の行為が実質的違法性
を欠くかどうかを判断するに当たり考慮すべき事実とはならないというべきであ
る。
四 結論
 以上の次第で、原告らの被告らに対する請求は、いずれも理由がないのでこれを
棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条の各規定を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野利秋 飯村敏明 高林龍)
別紙第三目録(省略)
第一目録(一)(本件登録商標)
<12486-001>
第一目録(二)(原告表示)
<12486-002>
第一目録
<12486-003>
第二目録(被告標章(一)ないし(四))
<12486-004>
第二目録
<12486-005>
第二目録
<12486-006>
第二目録(一〇)(被告ワンポイントマーク)
<12486-007>

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