弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件各訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告らは、連帯して、千葉県に対し、金二億九四五八万円及びこれに対する被告
神鋼電機は平成八年三月二四日から、被告日新電機は同月二五日から、その余の被
告らは同月二六日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 千葉県は、被告日本下水道事業団(以下「被告事業団」という。)に下水道施
設各種の建設工事を委託しているところ、被告三菱電機は、被告事業団から随意契
約の方式により江戸川第二終末処理場電気設備工事その一六ないし一九を受注し
た。本件は、千葉県の住民である原告らが、被告三菱電機の右工事受注は、被告事
業団を除くその余の被告ら(以下「被告会社ら」という。)の談合(受注調整)
と、これに対する被告事業団の加功の結果であり、千葉県は、談合がなければ形成
されたであろう請負代金額と実際の請負代金額との差額に相当する損害を被ってお
り、被告らに対し、その共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているが、千
葉県知事は右損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして、地方自治法二四二
条の二第一項四号に基づき、怠る事実に係る相手方である被告らに対し、千葉県に
代位して損害賠償請求をした事案である。
二 前提となる事実
 当事者間に争いがないか、証拠により認められる事実は次のとおりである。
1 当事者
(一) 原告らはいずれも千葉県の住民である(弁論の全趣旨)。
(二) 被告事業団は、日本下水道事業団法(昭和四七年法律第四一号)に基づい
て設立された、「地方公共団体等の要請に基づき下水道の根幹的施設の建設及び維
持管理を行う」こと等を目的とする法人であり、被告会社らは、いずれも電気設備
工事の請負等の事業を営む株式会社である(原告らと被告三菱電機との間では甲一
一、弁論の全趣旨により認められ、その余の被告らとの間では争いがない。)。
2 被告事業団による建設工事の受託とその処理について(甲四、五、一一、戊
六)
 被告事業団の業務については、日本下水道事業団法及び日本下水道事業団業務方
法書、同会計規定等により定められているが、これによれば、被告事業団が地方公
共団体から下水道施設の建設等を受託しようとするときは、委託地方公共団体との
間で委託協定を結び、目的、委託業務の内容・範囲、業務の開始及び完了時期、費
用の額及び受領方法等について定めるが、この委託協定は、数年次にわたる建設工
事の全体について受託する趣旨を明らかにし、予定概算事業費、完成予定年度、委
託の範囲その他工事施行に係る基本的事項を定める基本協定と、これに基づいて、
各年度の予算の範囲内において、当該年度に発注する施設の内容、費用の額、支払
方法等の実施の細目について定める年度実施協定に分かれること、施設の建設に必
要な工事費や工事の監督、検査等に要する人件費等、そして一般管理等の費用につ
いては委託地方公共団体に負担させること(その支払方法については委託協定で定
められる。)、受託した工事の請負業者への発注は被告事業団が行い、その方法は
競争入札を原則とし、被告事業団の運営上特に必要がある場合等には指名競争入札
又は随意契約の方式によることができるが、随意契約の方式による場合には、なる
べく二以上の業者から見積書を徴すること、施設の建設が完成すると、被告事業団
は請負工事等検査要領に基づき完成検査を行い、合格後、完成調書を作成して委託
地方公共団体に提出し、その完成認定を受けて施設を引渡すとともに、費用につい
ては完了精算等報告を行うこと、年度実施協定による工期が二年度以上にわたると
きは、中間年度の終了時に、年度内の遂行実績について年度終了報告を行うことと
されている。
3 千葉県と被告事業団の契約の方式及び費用の支払(甲四ないし八、九の1ない
し3、一〇の1、2、戊一、二の各1、2、三、六、八)
(一) 下水道施設建設工事の委託に当たって、千葉県は、被告事業団に対し、工
事施設名を明記した下水道施設の建設工事委託の要請書を提出して、被告事業団と
委託協定締結のための協議をし、法令に従い予算措置を講じ、被告事業団と委託協
定を締結する。
 この委託協定には、前記のとおり基本協定と年度実施協定という二段階がある
が、いずれも被告事業団と建設工事請負業者との間の工事請負契約に先行して締結
される。
(二) 基本協定は、千葉県が、法令に従い予算措置を講じたうえ、被告事業団が
施行する下水道施設の建設工事の施行に要する費用(概算)の支払義務を負担する
旨規定し、これを受けた年度実施協定では、右費用が確定的に定められるととも
に、賃金又は物価の変動等により右金額では建設工事の完成が困難である場合に
は、協議のうえこれを変更する旨規定している。
 このように、年度実施協定には、千葉県が被告事業団に負担すべき費用の額(確
定額)が定められるが、右費用は、(1)工事の施行に直接必要な工事請負費・原
材料費その他の工事費、(2)工事の監督・検査その他工事の施行のため必要とす
る人件費・旅費・庁費、及び(3)建設業務の処理上必要とする一般管理費等から
構成され(日本下水道事業団業務方法書)、(1)が請負業者に対して支払われる
のに対し、(2)及び(3)は被告事業団の実質的収入となるもので管理諸費と呼
ばれる。
 基本協定及び年度実施協定は、被告事業団の発注する建設工事等の請負契約に先
立って締結されるものであるから、年度実施協定で合意される費用の額は、個々の
工事請負契約の全額を前提として決定されるものではなく、もっぱら千葉県の予算
(国庫補助対象額等)を前提に決定される。そして、右費用の支払方法について
は、年度実施協定上、千葉県と被告事業団との協議により資金計画を定め、右資金
計画に基づき被告事業団の請求により所要金額を被告事業団に前金払することにな
っている。さらに、年度実施協定では、被告事業団は、建設工事の完成後、建設工
事の施行に要する費用について客観的に金額の異動を生ずる場合には、被告事業団
の精算事務処理要領に基づき費用の精算を行い、納入済額と精算額との差額を千葉
県に還付することになっている。
(三) 被告事業団は、年度実施協定に明記された下水道施設の建設工事の施行に
当たっては、これを土木工事、建築工事、機械設備工事、電気設備工事等の各部分
工事に分けて各請負業者に発注して請負契約を締結する。工事が完了し、施設が完
成すると、被告事業団は、千葉県に完成調書を提出し、その完成認定を受けて、当
該下水道施設を千葉県に引き渡す。そして、被告事業団は、各請負業者に対し、各
工事請負契約に基づく請負代金を支払うことになる。
4 本件委託協定の締結と委託料の支払(甲六ないし八、九の1ないし3、一〇の
1、2、調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)
 千葉県と被告事業団との間では、平成二年七月二五日、予定概算事業費を一〇九
億円とする江戸川左岸流域下水道根幹的施設の建設工事委託に関する基本協定が、
平成四年七月三〇日には、予定概算事業費を一三八億円とする江戸川左岸流域下水
道江戸川第二終末処理場の建設工事委託に関する基本協定(以下これらを合わせて
「本件基本協定」という。)がそれぞれ締結された。
 そして、本件基本協定に基づき、平成四年六月三〇日、平成四年度における江戸
川左岸流域下水道江戸川第二終末処理場の建設工事委託に関する年度実施協定(以
下「平成四年度実施協定その1」という。)が締結されて、建設工事の内容・範囲
を土木(最初沈殿池)、機械(汚泥貯留設備)、電気(汚泥貯留運転操作設備)と
し、建設工事の施行に要する費用が五億〇九八一万四〇〇〇円と定められ、続い
て、同年九月一日には、平成四年度における江戸川左岸流域下水道江戸川第二終末
処理場の建設工事委託に関する年度実施協定(以下、後述する変更協定を合わせて
「平成四年度実施協定その2」という。)が締結されて、建設工事の内容・範囲を
土木建築(最初沈殿池、エアレーシヨンタンク、最終沈殿池、覆蓋)、機械(送風
機設備)、電気(水処理運転操作設備、送風機運転操作整備、電算設備)とし、建
設工事の施行に要する費用の額が五二億一七一七万八〇〇〇円と定められた。その
後、平成四年度実施協定その2について、同年一〇月一五日、同年一二月一六日の
二回にわたり、建設工事の内容・範囲及び建設工事の施行に要する費用を変更する
協定が締結され(同年一二月一六日の変更協定で、電気工事につき新たに汚泥処理
運転操作設備が加えられた。)、最終的に建設工事の施行に要する費用は六九億八
一三六万七〇〇〇円となった。
 また、平成五年四月三〇日には、平成五年度における江戸川左岸流域下水道江戸
川第二終末処理場の建設工事委託に関する年度実施協定(以下、後述する変更協定
を合わせて「平成五年度実施協定」といい、平成四年度実施協定その1及びその2
と合わせて「本件年度実施協定」という。また、本件基本協定と本件年度実施協定
を合わせて「本件委託協定」という。)が締結され、建設工事の内容・範囲を土木
建築(覆蓋)及び機械(水処理施設)とし、建設工事の施行に要する費用の額が一
七億四六四六万円と定められたが、同年一〇月一四日、右の建設工事の内容・範囲
及び建設工事の施行に要する費用を変更する協定が締結され、電気工事(水処理運
転操作設備)等が加わるとともに、最終的に建設工事の施行に要する費用は六八億
一八六三万三〇〇〇円とされた。
 そして、千葉県は、被告事業団の請求に基づき、以上の各建設工事の施行に要す
る費用(以下「委託料」という。)を、いずれも前金払の方法により被告事業団に
支払った。
5 本件電気設備工事に関する請負契約の締結(甲一三ないし一七の各1、2)
 その後、被告事業団は、随意契約の方法により、平成四年一一月九日に江戸川第
二終末処理場電気設備工事その一六(以下「本件工事①」という。)を請負代金額
二二一四万五〇〇〇円で、同年一二月一五日に同工事その一七(以下「本件工事
②」という。)を請負代金額一一億〇九三一万円で、平成五年二月九日に同工事そ
の一八(以下「本件工事③」という。)を請負代金額八〇八五万五〇〇〇円で、同
年一二月二日に同工事その一九(以下「本件工事④」といい、これらを併せて「本
件各工事」という。)を請負代金額一億二六六九万円で、いずれも被告三菱電機に
発注して各工事請負契約を締結し(以下本件工事①ないし④に係る契約を「本件契
約①」ないし「本件契約④」といい、これらを併せて「本件各契約」という。な
お、本件契約③は、平成六年二月二二日に、請負代金額が八一九三万六五〇〇円に
変更された。)その都度、工事請負業者及び契約内容について千葉県に報告した。
6 本件各工事の完成引渡し及び精算報告書の提出(甲一八、二〇、二二、二四及
び二六ないし二九の各1、2、一九、二一、二三、二五)
 被告事業団から千葉県に対し、本件工事①について平成五年二月一日に、本件工
事②及び③について平成六年三月二五日に、本件工事④について平成六年一二月八
日に完成引渡しがなされ、完成調書及び引継書が作成交付された。
 また、被告事業団は、千葉県に対し、平成五年四月一五日、本件工事①ないし③
に係る年度終了精算報告書を提出し、平成六年三月三一日、右工事に係る年度完了
精算報告書を提出するとともに、本件工事④に係る年度終了精算報告書を提出し、
平成七年三月三一日、本件工事④に係る年度完了精算報告書を提出した。
7 公正取引委員会による課徴金納付命令等(甲二の1、2、三、三〇、三五、三
六)
 公正取引委員会は、被告事業団からの電気設備工事の受注に関して、被告会社ら
による独占禁止法三条違反行為(不当な取引制限)が行われたとして、平成六年九
月に立入検査を行い、平成七年三月、被告会社らを告発するとともに、同年六月、
被告会社らの談合担当者及び被告事業団元工務部次長を告発し、同年七月一二日、
被告事業団が平成四年度及び同五年度に発注した新規工事を対象に、被告会社らに
対し課徴金納付命令を発した。
 また、東京高等検察庁は、平成七年六月一五日、被告事業団が平成五年度中に発
注した新規工事につき、被告会社らとその各談合担当者及び被告事業団元工務部次
長を独占禁止法違反で起訴し、東京高等裁判所は、平成八年五月三一日、右被告人
ら全員に対して有罪判決を言渡した。
 ただし、本件各工事については、公正取引委員会の課徴金納付命令の対象とはな
らず、東京高等検察庁による起訴もされていない。
8 原告らの監査請求(甲一、六六の1ないし8)
 原告らは、平成七年一一月二七日、千葉県監査委員に対し、被告会社らによる談
合という共同不法行為によって千葉県が損害を被っているのに、県知事は損害賠償
請求権の行使を怠っているとして、監査請求を行った(以下「本件監査請求」とい
う。)が、右監査委員は、平成八年一月二四日、本件監査請求を棄却した。
三 原告らの主張する被告らの責任
1 被告会社らの談合ルールと被告事業団の加功
(一) 被告事業団は、電気設備工事を受注する資格のある業者として、以前から
被告会社らと訴外松下電器産業、同横河電機、同東洋電機製造、同日昇製作所の四
社を加えた一三社を指名対象業者に選定してきたが、被告会社ら以外の四社はアウ
トサイダーと呼ばれ、被告事業団発注の電気設備工事の殆どすべては、被告会社ら
が受注してきた。
 そして、被告会社らは、被告事業団設立以降平成元年度までは、被告事業団が発
注する個別の電気設備工事毎に受注調整(談合)を行っていたが、平成二年度から
は、次の合意の下に、同一年度内に被告事業団が発注を予定しているすべての電気
設備工事について、受注予定業者を一括して決定する方式の談合を行うようにな
り、この方式による談合は公正取引委員会による立入検査が行われるまで続けられ
た。
(1) 被告会社らは、その組織する「九社会」の毎年三月の会合において、新規
工事についての受注調整と継続工事について被告事業団が従前の受注業者と随意契
約を結ぶ(一機場一社の原則)のを他社は干渉しないこと、そして被告会社らの受
注比率と右比率計算の前提となる工事の範囲(新規工事の全部と継続工事の一部)
についての合意を主たる内容とする「談合ルール」を相互に確認する。
(2) 被告会社らは、毎年六月の会合(ドラフト会議)で、九社会の談合ルール
で決定されている各社の受注割合(シェア)に基づいて、当該年度の各電気設備工
事の新規工事受注予定業者を決定する。
(3) 被告会社らは、その後各工事の発注までの間に右各会合における決定事項
を遵守するための各種の措置(受注予定業者から相指名者に対する入札価格の指示
等)をとる。
(二) 被告事業団工務部次長は、被告事業団が当該年度において発注予定の電気
設備工事全部のリストを、各工事の予定金額とともに被告会社らが構成する「九社
会」の幹事に教示して、九社会における一括談合の成立を促進したばかりでなく、
各工事について談合で決まった受注予定業者を指名業者に選定するとともに、正式
な予定価格が決定するとその金額を受注予定業者に教示して、受注予定業者が予定
価格一杯の価格で落札することを可能にした。
2 本件談合及び被告事業団の加功
 本件各工事は、江戸川第二終末処理場電気設備工事その一の継続工事であり、被
告会社らは、毎年三月の談合で同工事その一を受注した被告三菱電機がその後の継
続工事を受注するよう包括的合意をし(以下「本件談合」という。)、被告三菱電
機は、本件談合により本件各工事を受注した。
 被告事業団は、本件各契約の締結に先立って、千葉県と本件委託協定を締結し、
下水道施設の基本計画を定めたうえ、千葉県の事業予算規模も考慮して、当該年度
に施行可能な工事範囲及び予算額等を協定するのであるから、右委託協定の段階で
は、工事請負業者は決定されていない。しかしながら、右のとおり、被告会社ら及
び被告事業団との間では、九社会の談合ルールによって本件各工事の受注予定業者
を決定し、請負代金を千葉県が設定する予定最高価格にすることが決定されていた
のであって、千葉県と被告事業団との本件委託協定及び本件各契約等は、法令等に
よって要求される手続を形式的に履行するに過ぎないものであった。
 本件各契約のように随意契約による場合でも、被告事業団がはじめから契約相手
を任意の一社に絞ることは許されず、複数の業者から見積りをとる(見積り合わ
せ)ことが要請されるが、毎年三月に確認される談合ルールにおいては、受注予定
業者に不利な見積りをするなどの干渉を避けることが被告会社らの間で確認されて
いたもので、これを受けて、被告事業団も、本来、適正価格をもって受注業者と請
負契約を締結し、千葉県に適正価格を超える費用負担をさせない法的義務を負って
いるにもかかわらず、これに違背して、被告会社らと結託し、被告会社らの談合で
決定された受注予定業者との間で契約を締結するとともに、予定価格を教示して、
請負代金額を予定価格の限度額に誘導したものである。こうして、被告会社らの談
合担当者及び被告事業団工務部次長は、共同して本件各契約締結にかかわる自由競
争を排除し、契約価格を予定価格に誘導する不法行為を行ったものであるから、被
告らは民法七一五条に基づき、その使用者として千葉県の被った損害を賠償する責
任を負う。
3 千葉県の損害
 右共同不法行為に基づき、被告事業団は、千葉県に、不当に過大な請負代金を前
提として委託料を前金払させたもので、右委託料が支払われた時点で千葉県に損害
が発生し、その後、本件各工事の完成後、被告事業団が千葉県に完了精算報告書を
提出したときに千葉県の損害が確定したのであって、仮に、被告らによる共同不法
行為が存在せず、本件各契約が公正な競争に基づいて行われていたならば、本件各
工事の契約価格は少なくとも二〇パーセントは低下したはずであり、委託者である
千葉県が被告事業団に支払うべき委託料もその分低下したはずである。したがっ
て、千葉県は、被告事業団に対して支払った委託料総額の二〇パーセントの損害を
被った。この損害額は少なくとも二億六七八〇万円に達する。
 また、千葉県は、本件訴訟により被告らから右損害額の填補を受けた場合には、
原告ら訴訟代理人たる弁護士に対し報酬を支払う義務を負担している(地方自治法
二四二条の二第七項)ところ、右報酬額は右損害額の一〇パーセントが相当であ
る。
 よって、千葉県は、被告らに対して金二億九四五八万円の損害賠償請求権を有し
ている。
四 争点(本案前の抗弁に関する当事者の主張)
1 監査請求期間の徒過
(一) 被告らの主張
 本件訴えは、地方自治法二四二条二項に規定する監査請求期間内に適法な監査請
求をすることなく提起されたものであるから、不適法である。
 すなわち、地方自治法二四二条の二第一項は、住民訴訟の提起に当たって適法な
監査請求を前置すべき旨定めているところ、同法二四二条二項は、監査請求はその
対象となるべき行為(当該行為)のあった日又は終わった日から一年を経過したと
きはすることができないとしている。そして、財産の管理を怠る事実の監査請求に
ついては、右期間制限の適用はないとされるものの、当該監査請求が、当該地方公
共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当
該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をも
って財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求について
は、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を
基準として一年間の期間制限に服すべきものと解される(最高裁昭和六二年二月二
〇日第二小法廷判決・民集四一巻一号一二二頁(以下「昭和六二年最判」とい
う。))。けだし、かかる場合に、特定の財務会計上の行為の違法を主張してその
是正を求める監査請求をすればすでに監査請求期間を徒過しているとされるのに、
右財務会計上の行為の違法を原因として発生する損害賠償請求権等の不行使をもっ
て怠る事実と構成すれば、監査請求期間の制限を受けないとするのでは、法が住民
監査請求について一年間の監査請求期間を設けて法律関係の早期安定を図ろうとし
ている趣旨を没却することとなるからである。
 本件における原告らの請求は、千葉県が被告事業団に委託した平成四年度及び同
五年度の下水道電気設備工事につき、被告会社らの談合担当者と被告事業団工務部
次長とが、本件談合により、右工事の請負契約締結に係る自由競争を排除し、本件
各工事の契約価格を予定価格の限度まで誘導するという共同不法行為の結果、本件
委託協定において決定される委託料が高額になり、その支払によって千葉県が損害
を被ったとして、千葉県に代位して被告らに損害賠償請求権を行使するというもの
である。しかしながら、本件においては、本件談合がなされただけでは、未だ千葉
県には何らの損害も発生しておらず、千葉県と被告事業団との間の高額な委託料を
内容とする本件委託協定の締結及びこれに基づく高額な委託料の支払という財務会
計上の行為がなされてはじめて千葉県に損害が生じて損害賠償請求権が発生するの
であるから、結局、原告らは、千葉県の損害賠償請求権の不行使の前提として、違
法な本件談合に基づく違法な本件委託協定の締結、そしてこれに基づく委託料の支
払という、地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為の違
法を問題としていることに帰着する。そうすると、本件では、原告らが本件委託協
定及びこれに基づく委託料の支払の違法を主張するか否かにかかわらず、違法な財
務会計上の行為である本件委託協定の締結及びこれに基づく委託料の支払により千
葉県が被告らに対して有する損害賠償請求権の行使を違法に怠っていると構成しう
るものであるから、同法二四二条一項所定の財務会計上の行為を違法、無効である
とし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不
行使をもって財産の管理を怠る事実とするものといえるのである。そして、ここで
いう当該行為の違法、無効については、地方財政の適正を確保するという住民訴訟
制度の趣旨に鑑み、また財務会計上の行為が無効である場合は勿論、無効とまでい
えず違法にとどまる場合であっても、地方公共団体にはそれに基づく損害及び損害
賠償請求権が発生することからしても、当該行為が違法かつ無効でなくても、違法
であれば足りるものと解される(被告日新電機、同日立製作所及び同三菱電機は、
本件委託協定の締結は、単に違法であるばかりでなく公序良俗等に反し無効でもあ
ると主張する。)。したがって、本件は、同法二四二条二項により一年間の監査請
求期間の制限を受けるものというべきである。
 そして、本件では、千葉県の財務会計上の行為として、本件基本協定及び年度実
施協定の締結(契約の締結)と、これに基づく委託料の支払(公金の支出)が存在
するところ、特定の財務会計上の行為について監査請求期間を徒過した場合には、
これを前提とする後行の財務会計上の行為について別個に監査請求を行いその違法
をとりあげることは、後行の財務会計上の行為自体に独自の違法事由が存すること
を理由とする場合以外には許されないというべきである。けだし、後行の財務会計
上の行為独自の違法事由が存しない場合にまで、当該行為に対する監査請求を許す
とすれば、監査請求期間を徒過したためもはやその違法を論ずる余地がなくなった
先行の財務会計上の行為について実質的にその効力を争うことを認めることに繋が
り、監査請求期間を制限した法の趣旨(財務会計上の行為に係る法律関係の安定性
の確保)が没却されることになるからである。そして、本件委託協定に基づく委託
料の支払は本件委託協定による債務負担行為の結果に過ぎず、その違法性は、もっ
ぱらその原因となる本件委託協定の違法性に依拠していることから、監査請求期間
の起算日は、本件委託協定の締結日と解される。
 本件各工事は、平成四年度及び同五年度の下水道施設の電気設備工事に係るもの
であり、本件委託協定は、本件基本協定が平成二年七月二五日及び平成四年七月三
〇日に締結され、本件工事①ないし③に係る平成四年度実施協定が平成四年六月三
〇日及び同年九月一日に締結され、本件工事④に係る平成五年度実施協定が平成五
年四月三〇日に締結されている。したがって、本件委託協定の締結から原告らが本
件監査請求を行った平成七年一一月二七日までの間に一年が経過したことは明らか
である。
 また、被告事業団と被告三菱電機との間の本件各契約は平成五年一二月二日まで
にすべて締結されており、千葉県による被告事業団に対する本件委託料の前金払も
大半がそのころまでにはなされていることからすれば、仮にこれらを基準に考えて
みたとしても本件監査請求は一年を経過した後になされたものである。
 よって、本件監査請求は、同法二四二条二項に規定する監査請求期間を徒過して
いるから、本件訴えは不適法である。
(二) 原告らの主張
(1) 本件請求は財務会計上の行為の違法、無効に基づくものではなく、昭和六
二年最判が妥当する事案ではない。
 被告らは、右最判を引用して、本件は、地方公共団体の財務会計上の行為が違
法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の
管理を怠る事実とするものであるから、右怠る事実に係る請求権の発生事実たる当
該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法二四二条二
項の規定が適用されると主張する。
 しかしながら、本件は、被告会社らの談合担当者と被告事業団工務部次長とが、
本件各工事の請負契約締結に係わる自由競争を排除し、契約価格を予定価格の限度
まで誘導するという共同不法行為を行ったことによって千葉県が被った損害につ
き、千葉県知事が被告らに対する損害賠償請求を怠っていることから、原告らが千
葉県に代位して、怠る事実の相手方である被告らに対し、民法七一五条に基づいて
損害賠償請求権を行使するというものである。原告らの請求は、被告らの談合とい
う共同不法行為によって発生した実体法上の損害賠償請求権の行使を怠るという事
実に係る請求であり、特定の財務会計上の行為の違法を前提とするものではなく、
また、財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請
求権の不行使をもって怠る事実と構成するものでもない。談合によってつり上げら
れた価格に相当する損害の賠償を不法行為として請求する場合には、談合の結果形
成された価格が予定価格の範囲内に止まって、地方財政法等の規定に抵触する程度
に至らなくても、談合がなければ落札価格は現実のそれよりも低下しえたことが立
証されれば、その限度で損害賠償請求権が成立するのである。委託料が不当ないし
違法に高いことを理由とする監査請求と、談合によって委託料がつり上げられたこ
とを理由とする監査請求とは、請求の相手方の範囲を異にするばかりでなく、要件
事実そのものが重要な部分において全く別物であり、表裏一体の関係とは到底いえ
ず、したがって、後者の監査請求の申立期間が前者と一緒に進行することはありえ
ない。さらに、被告会社らは、地方公共団体による財務会計上の行為の相手方では
ないから、本件委託協定の締結という財務会計上の行為の違法性を監査請求するこ
とでは、被告会社らに対する損害賠償請求は達成できず、そのためには共同不法行
為に基づく損害賠償請求権という財産の管理を怠る行為の相手方とするほかないも
のである。そして、昭和六二年最判が地方自治法二四二条二項の監査請求期間制限
の規定の適用があるとしたのは、地方公共団体の財務会計職員の行為の法的安定性
を確保する趣旨にあると解されるところ、原告らは、千葉県の財務会計上の行為の
違法、無効を主張するのではなく、被告らに損害賠償を請求するにすぎないのであ
るから、何ら行政行為の法的安定性を害するものではない。
 したがって、本件は、昭和六二年最判と事案を異にし、怠る事実に係る請求につ
いては、地方自治法二四二条二項の期間制限の規定の適用はないというべきであ
る。
(2) 本件委託協定及び本件各契約は違法、無効ではない。
 本件委託協定は、本件基本協定、本件年度実施協定ともに、本件各契約の締結に
先立って、本件各契約の成立を前提とせずに締結されているのであるから、本件委
託協定の違法性を問題とする余地はない。すなわち、本件委託協定の締結及びこれ
に基づく委託料の支払以前に談合ルールの確認が行われるが、それは一般的、抽象
的なルールの確認にとどまり、個別具体的な電気設備工事についての談合は、委託
協定の締結又は委託料の支払後に行われるのである。そして、談合の結果締結され
た請負契約自体さえ当然には違法、無効とされるものではないのであるから、被告
会社らの間で談合ルールの確認があったのみで、具体的な工事についての談合が行
われる以前の段階における千葉県と被告事業団との本件委託協定の締結又はこれに
基づく委託料の支払という財務会計上の行為が、直ちに違法、無効となるものでは
ない。
 また、地方自治法二四二条一項にいう違法な財務会計上の行為における違法と
は、地方公共団体とその相手方との間の契約が不法行為として違法性を有するこ
と、すなわち外部関係における違法とは別異のもので、地方公共団体の長若しくは
職員の地方公共団体に対する職務義務違反、すなわち内部関係における違法をいう
のであって、右職務義務違反がなければ、違法な財務会計上の行為には当たらない
というべきであり、本件のように千葉県の長若しくは職員が欺罔されたような場合
は、これによって千葉県に損害が発生しても、違法な財務会計上の行為は存在して
いない。したがって、この場合は直ちに住民の監査請求権は発生しないが、千葉県
の長や職員がその損害の発生を知って、なお適正な管理をなさず、その損害を放置
した場合に、怠る事実として住民の監査請求権が生じるのである。
 このように、違法な財務会計上の行為が存在しない以上、地方自治法二四二条二
項の監査請求期間の制限を受けることはない。
(三) 被告らの反論
(1) 地方自治法二四二条及び二四二条の二の住民監査請求制度及び住民訴訟制
度は、個々の財務会計職員の責任を追及するものではなく、地方公共団体の財政の
適正を確保し、ひいては住民全体の利益を擁護するための制度であるから、同法二
四二条一項の違法な財務会計上の行為にいう違法とは、当該財務会計上の行為を行
った職員の責任の有無とは関係なく、当該財務会計上の行為が憲法、法律、条例等
の明文規定や信義則、公序良俗、条理等に反する等、当該財務会計上の行為自体に
よって客観的に判断されるべきであり、当該財務会計上の行為を行う地方公共団体
の職員の故意・過失や知・不知といった主観的要素により左右されるものではな
い。住民監査請求に財務会計職員の帰責性を要すると解したのでは、客観的に正当
性を欠く行為であっても、職員の帰責性がないとの一事をもって、これを放置しな
ければならないという不都合を生じる。また、当該職員に帰責性がなくても住民訴
訟の提起が可能であることは、差止請求、不当利得返還請求が住民訴訟の類型にあ
げられていることからも明らかである。原告らの主張は、違法性の問題と義務違反
の問題とを混同したものである。
 同様に、監査請求期間の規定の適用は、原告らが明示に当該財務会計上の行為の
違法を主張すると否とにかかわらない。けだし、住民監査請求制度及び住民訴訟制
度の趣旨に鑑みれば、監査委員は、監査請求人が主張する事実関係により生ずるあ
らゆる請求権について、監査請求の範囲、対象としなければならないと解されるう
え、当該財務会計上の行為の違法を明示することを要するとすれば、当該財務会計
上の行為を違法として監査請求をなしうるのに、違法を明示しないで財産管理を怠
る事実として構成することにより、容易に監査請求期間制限を免れ得ることにな
り、監査請求期間の規定を設けた法の趣旨が没却されることになるからである。
 本件では、千葉県の財務会計職員は、地方自治法(二三二条の四)、地方財政法
(四条一項)等の法規に鑑み、適正価格を超える委託料の支払債務を負担する委託
協定を締結してはならない法的義務(財務会計法規上の義務)を負うところ、本件
委託協定は、これに反して締結されたものとなるのであり、当該職員の本件談合に
対する認識、有責性の有無に関係なく、客観的にみて本件委託協定は地方財政の適
正を害するものとして違法であって、原告らが財務会計上の行為の違法を明示に主
張すると否とにかかわらず、千葉県の財務会計上の行為が違法であり、これに基づ
いて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実と構成しう
るものであるから、地方自治法二四二条二項の監査請求期間制限の規定の適用があ
るというべきである。
 なお、原告らは、談合による価格形成が行われても予定価格の範囲内にある限り
地方財政法等の規定に抵触することはないというが、談合により不当な価格が形成
される以上、それに基づく債務負担や支出行為が適法であるはずはなく、また仮に
適法であるならばそもそも損害賠償請求権が発生することもないことになる。
(2) また、地方自治法二四二条の二第一項四号の当該財務会計上の行為に係る
相手方に対する請求につき被告適格を認められる相手方は、地方公共団体が有する
請求権の相手方であれば、当該違法、無効な財務会計上の行為の直接の相手方には
限られない(最高裁昭和五〇年五月二七日第三小法廷判決・判例時報七八〇号三六
頁)のであるから、本件にあっても原告らは財務会計上の行為の違法等を理由に監
査請求をすることによって、被告会社らに対する損害賠償請求権の行使を求めるこ
とも可能であった。
2 正当理由の具備
(一) 原告らの主張
 仮に本件で地方自治法二四二条二項の適用があるとしても、原告らが期間内に監
査請求できなかったことについては正当な理由がある。
 被告会社らが被告事業団発注に係る下水道施設の電気設備工事の入札談合を行
い、独占禁止法に違反するとして起訴されたのが平成七年六月一五日であるが、本
件各工事については起訴されておらず、また、同年七月一二日、公正取引委員会か
ら被告会社らに対し課徴金納付命令がなされ、これに関する新聞報道が翌日なされ
たが、本件各工事を含め千葉県が委託した下水道施設の電気設備工事において談合
があった等の報道はされず、被告会社らの談合による工事は全国に広まっていて、
数も多く、一般市民は調べる方法がなかったため、注意深い市民でも本件各工事に
ついて談合があったことを知り得なかった。
 そして原告らは、同年八月九日、千葉県知事に対し、千葉県が被告事業団に委託
している下水道施設工事に関する文書の公開を請求し、同年九月八日にその公開を
受け、その結果、千葉県が被告事業団に対しいくつかの下水道施設工事の委託をし
ている事実が判明した。
 しかしながら、右文書は量としても膨大であり、内容的にも専門的なためその分
析に時間を要し、また、右文書の公開によっても、本件各工事に係る財務会計状況
(委託料、請負代金の支払時期、額等)は判明せず、原告らは千葉県立中央図書館
等における閲覧や官公署、新聞社等への問い合わせを行う等、住民が採り得る可能
な限りの手段を講じ、相当の注意力をもって調査したが、客観的にみて本件談合を
知ることはできなかった。
 そして、被告会社らとその談合担当者及び被告事業団の元工務部次長に対する独
占禁止法違反刑事事件の第一回公判期日である同年一一月一〇日に至って、被告会
社らが起訴事実を認めたことから、原告らは初めて本件共同不法行為の存在を知
り、監査請求をすることが可能となり、その一七日後の同年一一月二七日に本件監
査請求を行ったのである。
 したがって、原告らは被告らの共同不法行為を知ってから相当な期間内に本件監
査請求を行ったものである。
(二) 被告らの主張
(1) 地方自治法二四二条二項但書は、監査請求期間を徒過しても正当な理由が
ある場合には例外的に監査請求を適法としているが、その趣旨は、違法又は不当な
行為が地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされたため、監査請求期間内に監査
請求を行うことができないまま一年を経過し、その後に違法又は不当な行為が明ら
かになった場合等に監査請求の機会を全く与えないことは相当でないため、例外的
に監査請求を行う余地を認めたものである。したがって、右にいう正当な理由と
は、監査請求をすることについて客観的障害がある場合、すなわち、当該行為が秘
密裡に行われた場合や天災、地変等による交通杜絶により請求期間を徒過したよう
な場合に限られ、その有無は、住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的
に見て違法な財務会計上の行為を知ることができたかどうか、また違法な財務会計
上の行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかど
うかによって判断すべきである(最高裁昭和六三年四月二二日第二小法廷判決・判
例時報一二八〇号六三頁)。
 本件では、すでに平成六年九月二日以降、被告事業団が発注した各地方公共団体
の下水道施設の電気設備工事について、被告事業団の指導の下にシェアを割り振っ
ての談合が行われていたとの報道が多数なされ、また、平成七年六月一五日には、
被告会社らが独占禁止法違反で起訴され、同年七月一三日には、公正取引委員会か
ら被告会社らに独占禁止法違反に基づく課徴金納付命令が発せられたとの報道がさ
れたのであるから、原告らとしては平成六年九月ころ、遅くとも右課徴金納付命令
についての報道がなされた平成七年七月一三日ころには、本件談合という不法行為
及び本件各工事に係る本件委託協定とこれに基づく委託料の支払が違法であるとの
合理的疑いを持ち監査請求ができたはずである。
(2) 原告らは、平成七年八月九日に公文書公開請求をし、同年九月八日に公開
を受けたとするが、右談合の報道がすでに平成六年九月二日以降行われていたこと
からすれば、原告らは千葉県議会議事録の閲覧等により平成七年八月九日より相当
以前に公文書公開請求を行い得たはずである。
 また、地方自治法二四二条一項は、住民監査請求の添付書類に「証する書面」を
挙げているが、これは事実に基づかない憶測や主観だけで監査請求する弊害を防止
する趣旨であるから、監査請求事実の存在を一応推認させるに足りる書面であれば
よく、監査請求人は、請求後も随時証拠の提出や意見陳述の機会が与えられている
から、監査請求前にすべての証拠を収集する必要もない。さらに、監査請求に当た
っては、監査請求の対象を他の事項から区別しうる程度に個別的、具体的に特定す
れば足りるのであって、原告らは、平成七年八月九日の千葉県に対する公文書公開
請求に当たって、本件各工事名を特定していたのであり、本件各工事の請負代金の
支払額や支払時期等まで特定せずとも、十分に監査請求可能な程度に監査請求の対
象を特定していたのである。そして、原告らが公開を受けた文書の内容及び数量等
に照らしても、その検討にさほどの時間を要するものではない。したがって、前記
談合の報道がされた平成六年九月から一年以上、課徴金納付命令の報道がされてか
ら四か月以上経過し、原告らが文書の公開を受けた時点からでも約三か月を経過し
た平成七年一一月二七日になって行われた原告らの監査請求は、相当な期間内にな
されたものとはいえず、監査請求期間の徒過について正当理由は認められない。
3 違法な怠る事実の不存在
(一) 被告らの主張
 地方自治法二四二条の二第一項四号の損害賠償代位請求の提起には、地方公共団
体が右損害賠償請求権を行使しないことが違法であることが必要である。
 地方公共団体は、損害賠償請求権を取得している可能性がある場合であっても、
右損害賠償請求権の行使を法的に義務づけられているものではなく、請求認容の蓋
然性その他の諸事情を総合考慮して、これを行使するか否かを決する裁量権を有す
るのであって、右損害賠償請求権の不行使が右裁量の範囲を超え違法となる場合に
はじめて、代位請求が認められるというべきである。
 本件各工事については、随意契約の方式により行われ、談合の前提とされている
競争入札自体が行われていないため、公正取引委員会は告発や課徴金納付命令を行
っておらず、また、本件各工事の請負価格は適正妥当で、委託料も客観的な基準に
基づいて千葉県と被告事業団との合意により適正に決定されたものであった。千葉
県が、被告らの談合の存否、談合と本件各工事の関連性の有無、損害発生の有無、
額等の困難な判断事項を含む本件の事案について、損害賠償請求権を行使しなかっ
たことは適切な裁量権の行使であって裁量権の濫用逸脱は認められない。したがっ
て、本件において、千葉県が損害賠償請求権を行使しなかったことに違法性はない
から、本件訴えは不適法である。
(二) 原告らの主張
 地方自治法二四二条一項、二四二条の二の規定からすれば、住民が地方公共団体
に代位して損害賠償請求を行うための手続上の要件としては、住民監査請求が前置
されていること、住民監査請求後同法二四二条の二第二項の期間内に訴訟が提起さ
れたことが充足されれば足り、損害賠償請求権の不行使が裁量の範囲を超えあるい
は濫用として違法であるか否かは無関係である。そして、客観的に損害賠償請求権
が存在する場合には、地方公共団体の長にはこれを行使するか否かの裁量権はな
く、これを行使しないことは違法である。
4 監査請求の同一性
(一) 被告らの主張
 原告らの本件監査請求の対象とする共同不法行為の行為者は、被告会社らと被告
事業団であるのに対し、本件訴えの対象とする共同不法行為の行為者は、被告会社
らの談合担当者と被告事業団の工務部次長である。したがって、本件監査請求の対
象とした財務会計上の怠る事実と本件訴えの対象とする財務会計上の怠る事実との
間には同一性がないので、本件訴えは適法な監査請求を経ていないというべきであ
る。
(二) 原告らの反論
 住民監査請求における請求の特定の程度は、対象事項が他の事項から区別して特
定認識しうる程度であれば足りる。本件では、被告らに対し直接不法行為責任を追
及するか使用者責任を追及するかは法律構成の問題に過ぎないのであるから、監査
請求の特定はできており、適法な監査請求を経ている。
第三 争点に対する当裁判所の判断
一 監査請求期間の徒過について
1(一) 一般に、財産管理を怠る事実にかかる住民監査請求については、地方自
治法二四二条二項の監査請求期間の規定の適用はないとされるが、違法、不当に財
産の管理を怠る事実があるとして同条一項の規定による住民監査請求がなされた場
合であっても、右監査請求が、当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務
会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生
する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであ
るときは、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該財務会計上の行為のあった
日又は終わった日を基準として、同条二項の規定を適用すべきである(昭和六二年
最判)。
 これは、当該財務会計上の行為自体の違法又は不当を理由とする監査請求が、す
でに当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したことにより不適法とさ
れるにもかかわらず、右財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生
する実体法上の請求権の不行使をもって違法、不当に財産管理を怠る事実として監
査請求をすれば、監査請求期間の制限を受けないとしたのでは、地方自治法二四二
条二項が財務会計上の行為に係る法律関係の安定を図って監査請求に期間制限を設
けた趣旨が没却されることを理由とするものであるが、そうであるならば、右請求
権の不行使を怠る事実とする監査請求において、具体的に財務会計上の行為の違
法、無効を主張していなくとも、客観的に当該請求権が財務会計上の行為の違法、
無効に基づいて発生するものである限りは、同様に解すべきものということができ
る。
(二) ところで、本件において原告らは、被告会社らの本件談合及びこれに対す
る被告事業団の加功が共同不法行為に当たり、これがなければ本件各工事の請負代
金はもっと低額であったはずであり、千葉県が被告事業団に支払うべき委託料もそ
れに応じて低下したはずであるとして、千葉県は委託料のうち右過大部分の損害を
被ったと主張するのであるが、その主張によっても、本件談合自体は千葉県とは何
ら関係なく被告会社らの間で行われたものであり、またこれに被告事業団が加功し
たからといって、それらの行為から直ちに千葉県に損害が発生し、千葉県が共同不
法行為による損害賠償請求権を取得するわけではない。本件談合に基づく受注調整
により、被告三菱電機が受注予定業者となり、被告事業団からは予定価格の教示を
受けるなどして、不当な工事価格の形成のもとに本件各工事を受注することが予定
され、これを前提として被告事業団が千葉県との間に本件委託協定を締結して、千
葉県に委託料の支払義務が生じ、これにより千葉県は、本件談合に基づく受注調整
等がなかった場合に負担したであろう金額を超えた不当に過大な委託料の債務を負
担して、千葉県に損害が発生することとなるのである。そして、この被告事業団と
千葉県との間の本件委託協定の締結、さらにはこれに基づく委託料の支払は千葉県
の財務会計上の行為にほかならない。
 また、本件基本協定及び年度実施協定は、ともに本件各契約に先立って締結され
ているものではあるが、証拠(甲四八の1ないし5、四九の1ないし7、五〇の1
ないし7、五一の1ないし9、五二の1ないし4、五三の1ないし3、五四ないし
六四、六七、弁論の全趣旨)によれば、平成二年度以降、被告会社らで構成する九
社会においては、毎年、被告事業団が当該年度において発注する電気設備工事に関
し、新規機場に係る工事の受注調整や継続工事(随意契約を含む)についての一機
場一社の原則の確認(既設設備の工事を行った業者が、当該施設に係る継続工事を
受注するというもの)等を内容とする談合を行い、これに被告事業団が、その発注
する電気設備工事のリスト及び予定受注価格等を教示するなどして加功していたこ
と、被告三菱電機は江戸川第二終末処理場電気設備工事その一を被告事業団から受
注しており、その後の継続工事についても引き続き受注していて、本件各工事(江
戸川第二終末処理場電気設備工事その一六ないし一九)についてもまた、被告三菱
電機が継続工事として受注することが右談合では当然に予定されていたものである
ことがそれぞれ認められるのであり、これに前述したところを合わせて考えれば、
本件各契約はいうに及ばず、本件基本協定及び年度実施協定もまた、被告会社らの
談合とこれに対する被告事業団の加功による影響を受けてなされたものといえるの
である。さらに前述したとおり、本件基本協定において建設工事の予定概算事業費
が合意され、本件年度実施協定において、各年度における千葉県の費用負担額が確
定的に定まるものであるところ、被告事業団としては、被告会社らの談合とこれに
対する被告事業団の加功を前提としてこれらの費用額の決定を含む本件委託協定を
千葉県との間で締結していたものであり、したがって本件に係る下水道施設建設工
事の完成後、建設工事の施行に要する費用について精算を行う際、本件談合によっ
て水増しされたと考えられる部分の委託料を差額として千葉県に還付することなど
は全く予定しておらず、被告事業団は、千葉県に損害を与えることを認識しなが
ら、本件談合により不当に形成される工事価格を前提に本件委託協定を締結してい
たものということができる。この点からも、千葉県と被告事業団との間の本件委託
協定が本件談合の影響の下に締結されたことは明らかである。
 そして、独占禁止法に違反する談合が違法であることはいうまでもなく、原告ら
の主張によれば、これによって千葉県は不当に高額の委託料を負担したというので
あるから(この債務負担が本件委託協定によってなされていること、具体的な負担
額は本件年度実施協定において確定的に定まることは前述した。)、地方自治法
が、地方公共団体の事務処理は最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければ
ならないとし(二条一三項)、地方財政法が、地方公共団体の経費はその目的を達
成するために必要かつ最小の限度を超えてこれを支出してはならないとしているこ
と(四条)に照らしても、本件基本協定及び年度実施協定は客観的に違法なものと
認められる。なお、原告らは、談合により形成される価格は予定価格の範囲内に止
まっているのであるから違法ではないとも主張するが、談合の結果不当に高額な委
託料を負担したという関係のある以上は、前記地方財政法等の規定に照らして右委
託料の負担は違法と解すべきである。
 そうすると、本件における原告らの請求は、千葉県が被告会社らの本件談合及び
これに対する被告事業団の加功という共同不法行為によって千葉県に生じた損害の
賠償を求めると主張するものの、その実質は、千葉県と被告事業団との間の本件委
託協定の締結という財務会計上の行為が違法であることに基づき発生する実体法上
の請求権の行使を怠る事実に係るものであるから、地方自治法二四二条二項の監査
請求期間制限の規定が適用されるというべきである。
(三) なお、昭和六二年最判は、当該財務会計上の行為が違法、無効であること
に基づいて発生する実体法上の請求権の不行使というが、地方財政の適正を図るた
めの是正等の措置を講じる権限を地方公共団体の住民の権能として付与するという
住民訴訟制度の趣旨や、財務会計上の行為が違法に止まる場合であっても各種の実
体法上の請求権が発生する場合のあることからすれば、これは当該財務会計上の行
為の違法若しくは無効をいうものと解するのが相当である。
 したがって、本件委託協定が右に述べたとおり違法と評価される以上、これが無
効とまではいえないとしても前項の判断を妨げるものではない。
2(一) 以上に対し、原告らは、地方自治法二四二条一項の違法な財務会計上の
行為にいう違法とは、財務会計職員の地方公共団体に対する職務義務違反を内容と
する内部関係の違法をいうものであり、本件のように千葉県の財務会計職員が被告
事業団に欺罔されて本件委託協定を締結しているような場合には、右職務義務違反
はなく、従って本件委託協定は違法とはいえず、また、本件においては、原告ら
は、千葉県の財務会計上の行為の違法を問題として主張してはいないから、本件と
昭和六二年最判とは事案を異にすると主張する。
 しかしながら、原告らの本件請求は、前記のとおり財務会計上の行為に係るもの
と目すべきものであり、そして、住民監査請求制度及び住民訴訟制度が、個々の財
務会計職員の責任を追及するものではなく、地方公共団体の財政の適正を確保し、
ひいては住民全体の利益を擁護するための制度であることからすれば、地方自治法
二四二条一項にいう財務会計上の行為の違法は財務会計上の行為自体によって客観
的に判断すべきであって、当該財務会計上の行為を行う地方公共団体の職員の故
意・過失といった主観的責任要素の有無により左右されるものではないと解すべき
である。同様に、監査請求の期間制限の規定の適用は、原告らが明示に当該財務会
計上の行為の違法を主張すると否とにかかわらないと解される。なぜなら、右住民
監査請求制度の趣旨に鑑みれば、監査請求にあっては、監査委員は、監査請求人に
よって特定された財務会計上の行為又は怠る事実を対象に、明示された措置内容に
拘束されることなく、必要と考えられる措置を講ずべきことを勧告することを要す
るのであって、その意味で当該監査請求が特定の財務会計上の行為の違法を明示的
に主張していなくても、客観的に特定の財務会計上の違法を前提とするものと認め
られる以上、これを監査請求の範囲、対象としなければならないと解されるうえ、
当該財務会計上の行為の違法を明示することを要するとすれば、当該財務会計上の
行為を違法として監査請求をなしうるのに、違法を明示しないで財産管理を怠る事
実として構成することにより、容易に監査請求期間制限を免れ得ることになり、監
査請求期間の規定を設けた法の趣旨を潜脱することになるからである。したがっ
て、この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
(二) さらに、原告らは、被告会社らは、千葉県による本件委託協定の締結とい
う財務会計上の行為の相手方ではないから、本件委託協定の締結という財務会計上
の行為の違法を監査請求することでは被告会社らに対する損害賠償請求を達成でき
ず、被告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求権という財産の管理を怠る行為の
相手方とするほかないとも主張するが、地方自治法二四二条の二第一項四号の当該
行為若しくは怠る事実に係る相手方とは、当該財務会計上の行為の直接の相手方で
あるとそれ以外の第三者であるとを問わず、当該財務会計上の行為に関し、地方公
共団体との間で法律関係の存否が問題となっている者、あるいは地方公共団体が有
する実体法上の請求権(損害賠償請求権、不当利得返還請求権等)についてこれを
履行する義務がある者など、地方公共団体に対して当該財務会計上の行為に係る義
務を負う者を広く指すものと解されるのであって、本件では、違法な財務会計上の
行為である本件委託協定の直接の相手方である被告事業団のみならず、被告会社ら
もまた相手方となりうるものであり、この点の原告らの主張も理由がない。
3 そこで、監査請求期間の起算点について検討するに、本件では、千葉県の財務
会計上の行為として、本件基本協定及び年度実施協定の締結(契約の締結)と、こ
れに基づく委託料の支払(公金の支出)が存在するところ、財務会計上の行為の法
的安定性の確保という法の趣旨に鑑みれば、特定の財務会計上の行為について監査
請求期間を徒過した場合には、これを前提とする後行の財務会計上の行為について
別個に監査請求を行いその違法をとりあげることは、後行の財務会計上の行為自体
に独自の違法事由が存することを理由とする場合以外には許されないというべきで
ある。そして、本件委託協定に基づく委託料の支払の違法性は、その原因となる本
件委託協定の違法性と同一であり、原告らも右委託料の支払の独自の違法事由につ
いて何ら主張していない。なお、原告らは、右委託料の支払は前金払となってお
り、千葉県から被告事業団に委託料の支払がなされた時点で損害が発生するもの
の、未だその損害は確定してはおらず、下水道施設建設工事完成後に被告事業団に
よる精算がなされないことにより千葉県の損害が確定する旨主張するが、原告らは
支出行為独自の違法性を主張せず、かつ、支出負担行為としての本件委託協定の無
効を主張しない以上、前述のとおり、被告事業団が精算を行う際、本件談合によっ
て水増しされたと考えられる部分の委託料を差額として千葉県に還付することなど
は全く予定していないことからして、本件における千葉県の損害は、千葉県が被告
会社らの談合及びこれに対する被告事業団の加功の影響の下、被告事業団との間で
締結した不当に過大な委託料の債務負担を内容とする本件委託協定によって生じた
ものということができるのである。
 したがって、本件においては、住民は、本件委託協定が締結された時点からその
違法を主張して監査請求をなしえたものであり、監査請求期間の起算点は、委託料
の支払の日ではなく、本件委託協定の締結の日であると解されるところ、本件委託
協定のうち、本件基本協定において定められる千葉県の費用負担額は予定概算事業
費にすぎず、その後、本件基本協定に基づく千葉県と被告事業団の間の本件年度実
施協定の締結により、当該年度における千葉県の費用負担額が確定的に定まり、右
確定債務負担額を千葉県が被告事業団に前金払する義務を負うことになることから
すれば、本件各工事に対応する年度実施協定の締結日をもって監査請求期間の起算
点というべきである。
 そして、本件では、本件工事①に係る平成四年度実施協定その1が平成四年六月
三〇日に、本件工事②及び③に係る平成四年度実施協定その2が同年九月一日に、
本件工事④に係る平成五年度実施協定の一部を変更する協定が平成五年一〇月一四
日に(同年四月三〇日に締結された平成五年度実施協定では電気工事は工事の内
容・範囲に含まれていない。)それぞれ締結され、平成四年度実施協定その2につ
いては、平成四年一〇月一五日、同年一二月一六日の二回にわたりその一部を変更
する協定が締結され、同年一二月一六日の二回目の変更協定において電気工事の内
容・範囲に汚泥処理運転操作設備が新たに加えられていることは前述したとおりで
あり、本件監査請求がなされた平成七年一一月二七日には、すでに、平成四年度実
施協定その1が締結された平成四年六月三〇日、同その2の変更協定が締結された
同年一二月一六日、平成五年度実施協定の変更協定が締結された平成五年一〇月一
四日のいずれからも、地方自治法二四二条二項に規定する一年の監査請求期間を経
過していたこととなる。
二 正当な理由の有無について
1 地方自治法二四二条二項が、住民において当該行為があったことを知っていた
か否かを問わず、一年という短期間で監査請求ができなくなると定めた趣旨は、早
期に財務会計上の行為に係る行政上の法律関係の安定を図ろうとしたものと解され
る。そして、それにもかかわらず、同項但書が、右期間を過ぎても正当な理由があ
る場合には監査請求を適法として例外を認めているのは、違法又は不当な財務会計
上の行為が地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされ、そのため監査請求を行う
ことができないまま一年を経過し、その後になってはじめて違法又は不当な財務会
計上の行為の存在が明らかになったような場合にまで監査請求の機会を与えないの
は相当でないことによるものと考えられる。
 そうすると、同項但書にいう「正当な理由」も右趣旨に則って解すべきであり、
当該財務会計上の行為を違法、不当ならしめる事実が秘密裡になされた場合であっ
て、かつ、特段の事情のない限り、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調
査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為
を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによ
って判断すべきものである(前掲最高裁昭和六三年四月二二日第二小法廷判決)。
2(一) 本件では、千葉県の本件委託協定の締結及びこれに基づく委託料の支払
という財務会計上の行為自体は秘密裡に行われたものではないが、これを違法なら
しめる被告会社らによる談合とこれに対する被告事業団の加功は、その性質上、秘
密裡に行われたものということができる。
(二) そして、証拠(甲三六、三七、四〇、四一、四三、四七の1、2、六五の
1、2、六七、乙一ないし五四、戊二の1、2、三、弁論の全趣旨)によれば、本
件基本協定の締結については、平成二年六月二七日と平成四年六月一二日に千葉県
知事から千葉県議会に議案として提出され、平成二年六月及び平成四年七月の各定
例県議会において可決されており、千葉県議会時報にもその旨記載されているこ
と、被告会社らによる談合については、すでに平成六年九月二日以降、被告事業団
が発注した各地方公共団体における下水道施設の電気設備工事に関して広く談合が
行われていたとの報道が多数なされており、このうち新聞では、すでに同年一〇月
ころまでには、被告会社らによる談合の仕組みについて、毎年度初めに被告事業団
が一年分の委託工事の一覧表を被告会社らで構成する九社会の幹事に交付して予算
額を教え、これを受けて被告会社ら間で取り決められた各社のシェアに応じて具体
的に受注する工事の配分が行われ、その際、継続工事については最初に受注した業
者が続けて受注し、それによる受注額が他より少ない業者には新規工事受注の優先
権を与えていた旨極めて詳細に明らかにされるとともに、このような談合が長期か
つ広範に行われていたことが、また平成七年三月七日には、同月六日、公正取引委
員会が、被告事業団による平成五年度の委託工事約二五〇件、金額にして四六〇億
円のうちの、八一件、一四六億円を告発対象として、独占禁止法三条(不当な取引
制限の禁止)違反の疑いで被告会社らを告発したことが、同年四月には、被告会社
らの幹部が東京地方検察庁での事情聴取に対して談合の事実を概ね認める供述を始
めたことが、そして同年六月一六日には、同月一五日に被告会社らの談合担当者と
被告事業団の元工務部次長が、平成五年度の委託工事のうち新規機場に係る四九件
に関して独占禁止法の不当な取引制限違反の罪で起訴されたこと、さらに同年七月
一三日には、同月一二日に公正取引委員会から被告会社らに対し、独占禁止法に基
づく合計一〇億三〇〇〇万円の課徴金納付命令が発せられたことがそれぞれ報道さ
れたこと、原告上村勉は、同年八月九日、千葉県知事に対し、千葉県から被告事業
団への工事委託に関する基本協定、年度実施協定、年度別終了精算報告書及び完了
精算報告書、電気設備工事に関する設計書、引継書、完成調書等の公開を請求し、
その結果、同年九月八日、千葉県から、被告事業団との間の基本協定、年度実施協
定及び江戸川第二終末処理場の電気設備工事その10ないし20に関する工事請負
契約締結報告書等、設計書を除く各文書が公開されたこと、その後、同年九月三〇
日、全国市民オンブズマン連絡会議は、下水道談合事件に関して、同年一一月二七
日に一斉に住民監査請求をする方針を決定したことがそれぞれ認められ、本件監査
請求が同日なされたことは前述したとおりである。
 以上の事実によれば、住民が相当の注意力をもって調査したとすれば、前記各報
道のなされた相当に早い時期において、遅くとも独占禁止法違反による起訴や被告
会社らに対する課徴金納付命令に係る報道のあったころまでには、千葉県と被告事
業団の間における本件年度実施協定を含む本件委託協定の存在を知り、かつ、これ
が被告会社らによる談合やこれに対する被告事業団の加功により違法ではないかと
の合理的な疑いを抱くことができたものというべきである。
 原告らは、本件各工事は公正取引委員会による課徴金納付命令の対象となった工
事には含まれておらず、原告上村勉による公文書公開請求の結果、平成七年九月八
日になって千葉県が被告事業団に下水道施設工事の委託をしていることが判明し、
その後公開された資料の分析や本件各工事に係る財務会計状況の調査などを行った
が、被告らが独占禁止法違反の刑事事件で起訴事実を認めた同年一一月一〇日まで
に本件各工事に係る談合の事実は知り得なかったと主張するのであるが、前記認定
した事実に照らせば、県議会議事録の閲覧や公文書公開請求等による調査はもっと
以前から十分になし得たものと考えられ、また監査請求に際しては、その対象を他
の事項から区別しうる程度に個別、具体的に特定すれば足り、添付すべき事実証明
書も違法又は不当とする行為又は事実の主張について疎明しうる書面であれば良
く、新聞記事で足りるとされる場合もあると解されるうえ、現に原告らによる本件
監査請求においても、監査請求の趣旨には本件各工事名の特定と請負代金の合計額
の記載がなされている程度であり、また事実証明書としても、前記新聞記事のほ
か、工事請負契約締結書及び年度別終了精算報告書(いずれも平成七年九月八日に
千葉県から公開された文書である。)が添付されているにとどまるのであって、本
件監査請求の内容はいずれも平成七年九月八日ころまでに原告らがすでに知ってい
たであろう事実や入手していた資料に基づいてなされていること(甲六六の1ない
し8)からすれば、独占禁止法違反による起訴の報道から五か月以上、課徴金納付
命令の報道から四か月以上を経過してなされた本件監査請求は相当な期間内になさ
れたものということはできない。
(三) また、原告らは、前記刑事事件において被告会社らが談合の事実を認めた
ことによってはじめて不法行為の存在を知り、本件監査請求が可能となったのであ
り、それ以前の段階で、相当な証拠もないまま監査請求を行うことは名誉毀損のそ
しりを受けるおそれもあったと主張するが、住民監査請求は財務会計上の行為の不
当を理由にしても行うことができ、また、すでに前述のような内容の報道がなされ
ていることについて監査請求をなしたからといって名誉毀損が成立するとは思われ
ず、さらに必ずしも監査請求時にすべての証拠を収集して提出する必要はないこと
からしても、監査請求期間徒過についての正当な理由となるものとはいえない。
3 よって、本件では、原告らの本件監査請求が監査請求期間を徒過したことにつ
き、正当な理由があったとは認められない。
 したがって、本件訴えは、いずれも適法な監査請求を経たものとは認められな
い。
三 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本件各訴えは、い
ずれも不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴
訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条を適用して、平成一〇年一二月七日に終結し
た口頭弁論に基づき、主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 西島幸夫
 裁判官岩坪朗彦及び裁判官室橋雅仁は、いずれも転補のため署名捺印することが
できない。
裁判長裁判官 西島幸夫

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