弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取消す。
     相手方の換価命令申請を却下する。
         理    由
(抗告の理由)
 一、 申立人は昭和二十五年十二月三日相手方から別紙目録記載の物件を買受た
が申立人は之を申立外Aに昭和二十五年十二月十日転売した。
 二、 相手方は本件物件が腐朽すると言うが之を除くには適当場所に保管換えす
ればよい。
 また価格が低落すると言うが競落者は値を叩いて市価の半額位に競落される危険
がある。
 三、 相手方は寧ろ本件立木を目標(疏第二号参照)にして換価することは望ん
でいなかつた。
 四、 従来この種の事件で換価命令の発せられたことは稀有である。
 それは假処分の本質からである。
(裁判の理由)
 假差押は、金銭的請求権のための強制執行の保全を目的とする制度であるから、
そのねらうところは、仮差押物の交換価値である。そこで仮差押執行中に、仮差押
物の価額が著しく減少し、または、その貯蔵のために不相応な費用を生ずることが
あれば、仮差押の目的は著しく害せられることになる。従つて、できるだけかかる
事態の生じないように、なんらかの手段をそなえることが、制度の趣旨にかなうこ
とである。そこで民事訴訟法第七百五十条第四項の然れども以下の規定がおかれた
わけである。
 ところが、係争物に関する仮処分は、その目的たる物それ自体をねらう権利のた
めの強制執行保全の制度であるから、仮処分のねらうところも、係争物そのものの
現状維持にあつて、その交換価値の維持ではない。であるから、係争物が仮処分執
行中に「著シキ価値ノ減少」または「貯蔵ニ付キ不相応ナル費用ヲ生スル」ことが
あつても、仮処分の目的は害せられない。のみならず、もし、右のような事態の生
ずるおそれがあるからといつて、目的物を換価するならば、かえつて、本案の請求
権の目的物を失わしめる結果となるのであるから、これは、仮処分制度の趣旨に背
反することである。
 <要旨>以上のようなわけであるから、仮差押についての、民事訴訟法第七百五十
条第四項の規定は係争物に関する仮処分には準用がないと解するのが相当で
ある。
 記録によつてみると、原決定は、原裁判所が、同庁昭和二十六年(ヨ)第七号仮
処分命令申請事件について、発した仮処分命令の目的物の一部分に関する換価命令
であつて、前段説示の法理に照し、明かに違法の裁判である。従つて、他の抗告理
由について判断するまでもなく、取消しをまぬかれず、相手方の換価命令申請はゆ
るすべからざるものとして却下すべきものである。よつて、主文のとおり決定す
る。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 山口嘉夫 判事 猪俣幸一)

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