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判決言渡平成20年11月26日
平成20年(行ケ)第10164号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年11月19日
判決
原告ハイピリオンカタリシスインターナ
ショナルインコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士浅村皓
同浅村肇
同岩井秀生
同長沼暉夫
同高松武生
被告特許庁長官
指定代理人大工原大二
同板橋一隆
同木村孔一
同中田とし子
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003−8847号事件について平成19年12月17日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が発明の名称を「触媒担体,担持された触媒,その製造方法及
びその使用方法」(後に「担体,担持型触媒,その製法及び使用方法」と補正
された)とする後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを
不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことか
ら,その取消しを求めた事案である。
2争点は,本願発明1(平成14年11月27日付け補正後の請求項1)が下
記引用発明1・2及び周知技術との関係で進歩性を有するか(特許法29条
2項),である。

・特表昭63−503555号公報(発明の名称「新規の炭素フィブリル,
その製造方法及び該炭素フィブリルを含む組成物」,出願人ハイピリオ
ン・カタリシス・インターナショナル・インコーポレイテッド[原告],公
表日昭和63年12月22日。甲1。以下「引用文献1」という。)に
記載された発明(以下「引用発明1」という。)
・特開昭50−79494号公報(発明の名称「繊維状触媒」,出願人三
菱レイヨン株式会社,公開日昭和50年6月27日。甲2。以下「引用
文献2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,1992年[平成4年]5月22日の優先権(米国)を主張し
て,1993年(平成5年)5月12日,名称を「触媒担体,担持された触
媒,その製造方法及びその使用方法」とする発明について国際特許出願(国
際出願番号はPCT/US93/04448。請求項の数35。以下「本
願」という。)をし,平成6年11月21日付けで日本国特許庁に対し翻訳
文を提出し(甲4。日本における出願番号は特願平6−500569号。国
内公表公報は特表平7−508455号),その後,平成11年7月13日
付けで発明の名称及び請求の範囲等を(請求項の数10。発明の名称は「担
体,担持型触媒,その製法及び使用方法」となった。甲5),平成14年1
1月27日付けで請求の範囲等を(請求項の数9。以下「本件補正」とい
う。甲7),それぞれ補正したが,拒絶査定(甲9)を受けたので,平成1
5年5月19日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003−8847号事件として審理した上,平
成19年12月17日「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出
訴期間90日附加)をし,その謄本は平成20年1月8日原告に送達され
た。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項は,上記のとおり1ないし9から成るが,その請求項
1(本願発明1)は,次のとおりである。
「1.流動相触媒化学反応を行うための担持型触媒において,
(a)炭素原繊維集合体から成る担体であって,該原繊維集合体が,直径2
0Å未満のミクロ細孔を実質的に含まず,黒鉛の規則的配列炭素原子の,本
質的に連続的で概して平行な多数層の外側領域を有する複数の炭素原繊維か
ら成る原繊維集合体である上記担体,及び
(b)前記集合体に担持された触媒,
から成る,上記担持触媒。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願
発明1は,前記引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて容易に発明す
ることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができな
い,というものである。
イなお,審決が認定した引用発明1の内容及び本願発明1と引用発明1と
の一致点,相違点は,次のとおりである。
<引用発明1の内容>
「3.5∼70nmの範囲の実質的に一定の直径をもち,規則配列した
炭素原子の本質的に連続的な多重層からなる外側領域をもつ炭素フィブリ
ルを互いに絡ませたフィブリルマットであり,このマットに電気化学的触
媒を付着させたフィブリルマット」
<一致点>
いずれも「担持型触媒において,(a)炭素原繊維が絡み合った部材か
ら成る担体であって,該炭素原繊維が絡み合った部材が,黒鉛の規則的配
列炭素原子の,本質的に連続的で概して平行な多数層の外側領域を有する
複数の炭素原繊維から成る炭素原繊維が絡み合った部材である上記担体,
及び(b)前記炭素原繊維が絡み合った部材に担持された触媒,から成
る,上記担持触媒。」である点
<相違点1>
本願発明1では「炭素原繊維が絡み合った部材」が「原繊維集合体」で
あるのに対して,引用発明1では「フィブリルマット」である点
<相違点2>
本願発明1では「炭素原繊維が絡み合った部材」が「直径20Å未満の
ミクロ細孔を実質的に含」んでいないのに対して,引用発明1ではその点
について何等明示されていない点
<相違点3>
本願発明1では担持型触媒が「流動相触媒化学反応を行うための担持型
触媒」であるのに対して,引用発明1では「電気化学的触媒」である点
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものと
して取り消されるべきである。
ア取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)
(ア)審決は,「しかしながら,本願明細書の記載をみても,本願発明1
の『原繊維集合体』が,『鳥の巣状(『BN』),コーマ糸状(『CY
』),及び開放式ネット状(『ON』)』のマクロ的形態を有する『で
きたままの原繊維集合体』のみを示しているとはいえず,本願発明1の
『原繊維集合体』は,該『できたままの原繊維集合体』以外の原繊維集
合体も包含する概念といえる。一方,引用発明1の『フィブリルマット
』は,炭素フィブリルを互いに絡ませた集合体といえるから,本願発明
1の『原繊維集合体』に包含されるものである。してみると,相違点1
は,実質的な相違点とはいえない。」(5頁下1行∼6頁8行)と判断
している。
しかし,この判断は,以下に述べるとおり誤りである。
a本願発明1の原繊維集合体は,次のようなものである。
(a)原繊維の配向
本願明細書は,原繊維集合体中に含まれる多数の原繊維(「原繊
維」は,「fibril」の和訳であって,以下,「フィブリル」
ということもあるが,その場合,それは「原繊維」と同じものを意
味する。)の独特の配向に関してよく開示している。種々の形態の
集合体は,本願明細書に記載されているように,コーマ糸状,開放
式ネット状及び鳥の巣状と称される。これらの種々の形態の集合体
に共通する特徴は,該集合体製造のための特別の触媒的製法の結果
として,多かれ少なかれ共通するフィブリルの配向を有する点であ
る。
鳥の巣状集合体は,鳥の巣に似ており,個々の炭素原繊維が互い
にランダムに絡み合って,炭素原繊維の絡み合ったボールを形成し
ていることを特徴とする。コーマ糸状集合体は,コーマ糸に似てお
り,互いに実質的に同一の相対配向を有する,真っ直ぐな炭素原繊
維の束ないしわずかに曲がっているか又はねじれている炭素原繊維
の束からなる。開放式ネット状集合体は,開放式ネットに似てお
り,互いにゆるく絡められた真っ直ぐな原繊維ないし,わずかに曲
がっているか又はねじれている炭素原繊維からなる。開放式ネット
状集合体は,個々の原繊維が実質的に同等の相対配向度を有するコ
ーム糸状集合体で見られるよりも大きいが,鳥の巣状集合体よりも
小さい,原繊維の絡み合い度を有する。コーム糸状集合体及び開放
式ネット状集合体は,鳥の巣状集合体よりも容易に分散する。
(b)各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一性
各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さは均一であ
る。この独特の性質は,引用文献3(国際公開91/05089号
公報(発明の名称バッテリー,出願人ハイピリオン・カタリシス
・インターナショナル・インコーポレイテッド[原告],公開日
1991年[平成3年]4月18日,甲3)に記載された周知技術
の18頁23行∼19頁6行(対応日本特許の公表公報である特表
平5−502481号[甲13]8頁右下欄13行∼9頁左上欄2
行),22頁20行∼30行(実施例3,甲13の10頁左上欄6
行∼16行)及び23頁12行∼25行(実施例5,甲13の10
頁右上欄3行∼15行)にみられるような周知技術により確立され
ている。上記引用文献3に係る特許出願は,1989年(平成元
年)9月28日に出願された米国特許出願番号第413837号に
対応する国際出願であるところ,本願明細書(甲5の5頁18行∼
23行,甲7の1頁下3行∼2頁1行)には,「炭素原繊維集合体
の形成に関する更なる詳細は,…A等の1989年9月28日に出
願された米国特許出願番号第413837号明細書(…「原繊維骨
材及びその製造方法」)の開示に見つけることができ,これら全て
は本発明と同じ出願人に譲渡されており,その開示内容は本文中に
参照によって組み入れられている。」として,本願発明1の原繊維
集合体が引用文献3に記載された方法によって形成されたものであ
ることが示されている。
(c)高い内部空隙体積及び低い体積密度
原繊維集合体のもう一つの独特の特性は,それらが有する,高い
内部空隙体積,その結果としての,低い体積密度である。本願明細
書には,この点が,「炭素原繊維骨材担体は,様々な方法において
直面される填塞(プラッギング)の問題を改善する高い内部空隙体
積を有する。その上,主に大きな孔により,しばしば拡散において
直面される問題又は反応を制限する物質移動を取り除く。より触媒
が担体上に装填され得るので,多孔度が高いと触媒寿命を大幅に増
加するのを確実にする。」(甲4の8頁1行∼5行),「換言すれ
ば,原繊維集合体の多孔度は,それらが共担体又は共沈した触媒物
質を保持するのを可能にし,更に反応物,生成物及び熱の流れが近
づくのが可能な充分な多孔度を有する。炭素原繊維集合体のかなり
低い嵩密度(0.08∼0.15g/cc)及び0.5ミクロンよ
り小さい耐触媒摩滅性のために,得られる共担持された又は混合酸
化物の触媒は流動床又は対触媒摩滅性を必要とする他の触媒方法に
最適である。」(甲5の9頁1行∼7行)と記載されている。
高い内部空隙体積は,担持型触媒としての原繊維集合体の性能を
著しく高める。それは,該集合体がより高い触媒装填を可能にし,
なおかつ,反応体の触媒サイトへのアクセスを許容するような空隙
を残すからである。触媒ライフもより長くなり,かつ,詰まること
もなくなる。摩滅耐性も,流動相操作及びその後の触媒回収操作に
おいて,重要な利点である。
(d)流動相触媒反応によく適応する不連続粒子
できたままの原繊維集合体は,不連続粒子であって,担持型触媒
としての使用において,多くの利点を有する。それらは,強力で摩
滅に耐える。本願明細書には,この点が,「本発明の炭素原繊維骨
材担体は改良された物理強度を有し,触媒摩滅に対抗する。通常の
役務において,それらはわずか約2ミクロンの大きさにまで触媒摩
滅する。厳しい触媒摩滅が起きる場合,触媒摩滅した粒子は典型的
に約0.5ミクロン以上である。更に,触媒摩滅した原繊維骨材は
自己凝集しやすいので,約0.5ミクロンの粒子に減少させる場合
でさえも,他の0.5ミクロンの大きさの粒子と比較して分離可能
性を残したまま,自己凝集して,より大きい大きさの凝集物を形成
する。」(甲4の8頁6行∼12行)と記載されている。
このように,該粒子は,各々の集合体の内部のフィブリルの独自
のマクロ的形態に加えて,それらの全般的なサイズのおかげで,天
性の担持型触媒である。
b他方,引用文献1は,個々のフィブリル及びそれらの凝集物を記載
するものの,原繊維集合体を記載していないことは,全く明白なこと
である。引用文献1は,ただ単に,フィブリルマットが作られると述
べているに過ぎない。引用文献1は,マットを作る方法について一切
述べていない。引用文献1は,マットの物理的特性について一切述べ
ていない。引用文献1は,最も一般的な言い方以外には,どのように
してマットが担持型触媒として使用されるのかについて,一切述べて
いない。
引用文献1に記載されているフィブリルマットのマクロ的形態は,
原繊維集合体のマクロ的形態とは,次のとおり全く異なる。
(a)フィブリルの配向
引用文献1には,マットを作るための技術が一切開示されていな
いから,フィブリルは,フィブリル形成後にフィルタ等の上で気相
又は液相から収集又は回収されることを前提としなくてはならな
い。かくして,当業者は必然的に,次のように結論付けなくてはな
らない。つまり,フィブリルは,三次元的にランダムに生成され,
本願明細書に記載されたような,コーマ糸状(「CY」),開放式
ネット状(「ON」),及び鳥の巣状(「BN」)の集合体の場合
とは異なり,それら自体では互いに配向しない。マットの形成は,
(引用文献1には記載されていないが,)事後製造工程であり,こ
の点で,本願発明1の独自の形態を得る集合体の場合とは対照的で
ある。
(b)フィブリルマットにおけるフィブリルの直径及び長さの不均一
性本願出願時には,引用文献1に記載された方法で製造したフィ
ブリルは,直径が3.5∼70nmの範囲内でランダムであり,か
つ,長さが直径の約5∼100倍の範囲内でランダムであると考え
られていた。すなわち,できたままの個々のフィブリル混合物は,
直径3.5及び長さ17.5∼350nmのフィブリル,直径70
nm及び長さ350∼7000nmのフィブリル,並びにそれらの
中間の全てのフィブリルを含み得るとされていた。当業者は,この
ような広範囲のフィブリルのランダム蒸着の結果,大小様々な大き
さのフィブリルのぎっしり詰まった組合せ体になることを理解する
であろう。蒸着ランダムフィブリル層は,直径及び長さが均一で多
少とも空間配向を持つ原繊維集合体内の多数のフィブリルとは,著
しく種類を異にする。これは,フィブリル自体,共通の形態すなわ
ち規則配列炭素の平行層を持つという事実にもかかわらずいえるこ
とである。
(c)低い内部空隙体積及び高い体積密度
当業者は,製造後の流動媒体から配向無しにランダム蒸着した,
ランダムな直径及び長さを持ったフィブリルが,低い内部空隙体積
と微小細孔とを有する密で詰まった容体積を形成することを,予期
するであろう。流動相反応用担持型触媒としてこのような組成物を
使用すると,該組成物は,詰まるか又は担持型触媒内の反応体の拡
散・物質移動の問題を生じさせるであろう。さらに,該マットを担
持型触媒として使用すると,該マット担持型触媒は,触媒装填能力
が小さくて,触媒ライフが短いであろう。
(d)流動相反応用担持型触媒として使用するのに適した不連続粒子
でないこと
引用文献1には,マットをどのようにして作るのか,そして,そ
れを担持型触媒としてどのように使用するのかについて記載してい
ないので,当業者は,おそらく,フィルタ上にフィブリルを収集
し,該フィブリルをフィルタから取り出し,次いで,カット,チョ
ップ又はグラインドして流動相反応用粒子を作る必要がある。引用
文献1には,このような粒子が,本願発明1の重要な特性である耐
触媒摩滅性を持つことを示すような記載は一切ない。
c以上により,本願発明1の「原繊維集合体」は,合成反応の(でき
たままの)製造物たる独特の組成物であって,個々のフィブリルから
合成後の収集工程で作られる「フィブリルの凝集物」とは大幅に異な
る。フィブリルの配向,フィブリルの均一性,内部空隙体積及び体積
密度は,臨界的であり,とりわけ,これらの組成物が担持型触媒とし
て使用される限りにおいては,臨界的である。
したがって,本願発明1の「原繊維集合体」は,個々のフィブリル
の凝集物を除外するものである。
(イ)審決は,「さらに,仮に,請求人が平成19年5月8日付けの回答
書で主張するように,本願発明1の『炭素原繊維集合体』が,『できた
ままの炭素原繊維集合体』のみを意味するとして,上記相違点1につい
て検討する。」(6頁9行∼11行)とした上,引用文献3に言及し,
「上記引用発明1の『炭素原繊維が絡み合った部材』として,『フィブ
リルマット』を『できたままの炭素原繊維集合体』に変更することは,
当業者が適宜なし得るものといえる。したがって,本願発明1の『炭素
原繊維集合体』を『できたままの炭素原繊維集合体』のみを意味してい
ると解釈しても,当業者の格別の創意を要したものといえない。」(6
頁17行∼23行)と判断している。
しかし,引用文献1に記載された「フィブリルマット」は,飽くまで
も「フィブリルマット」に過ぎないものであって,それ以上のものでは
ないので,「フィブリルマット」を引用文献3に記載された「原繊維集
合体」に置き換えることを当業者が容易になし得たという審決の判断
は,何らの証拠に基づくものではなく,後知恵として厳に慎むべき判断
である。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
イ取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)
(ア)審決は,「…引用発明1のフィブリルマットも,20Å未満のミク
ロ孔が実質的に存在しないものといえる。」(7頁4行∼5行)と判断
している。
しかし,本願発明1の原繊維集合体には,各々の集合体の原繊維の直
径及び長さの均一性の故に,20Å未満のミクロ孔が存在しないが,引
用文献1に記載されたフィブリルの凝集物は,多数のそのようなミクロ
孔を有する。
(イ)また,審決は,炭素フィブリルを最密充填した場合に生ずる隙間を
計算した上,「…100∼450Åの直径の炭素フィブリルが絡み合っ
たフィブリルマットは,23∼104Å未満の大きさの隙間は存在しな
いといえる。したがって,引用発明1のフィブリルマットの炭素フィブ
リルの直径を選択して,直径20Å未満のミクロ細孔を実質的に含まな
いようにすることに,当業者の格別の創意を要したものとはいえな
い。」(7頁15行∼19行)と判断している。
しかし,審決に記載された充填計算は,各々のフィブリルが同一の直
径を有するフィブリルの凝集物のみに適用される。前記ア(ア)bで述べ
たとおり,引用発明1は,直系3.5∼70nmの不連続フィブリルの
混合物がぎっしり詰まったものであるから,審決に記載された充填計算
を適用することはできない。
(ウ)したがって,審決の上記判断はいずれも誤りである。
ウ取消事由3(相違点3に関する判断の誤り)
審決は,「…引用発明1のフィブリルマットを,機械的な強度を必要と
する流動方式の触媒担体として用いることは,当業者であれば容易に想到
するものである。」(7頁26行∼27行)と判断している。
しかし,炭素繊維自体が優れた機械的強度を有するからといって,引用
文献1の記載から,フィブリルマットが流動相反応用にそれを適用するの
に十分な機械的強度を有することは,数量的に証明されていない。フィル
タ紙等の上に載置された個々のフィブリルの凝集物は,本願発明1のでき
たままの原繊維集合体よりも,著しく摩擦に弱く変形し易いに違いない。
また,審決は,引用文献2の記載事項(甲2の1頁右下欄7行∼14
行)を根拠として「流動方式の反応」に言及している(審決7頁20行∼
23行)が,引用文献2における「流動方式の反応」は「流動床方式の反
応」を意味している。しかるに,本願発明1は,流動相反応(気体又は液
体)用の担持型触媒であって,流動床等の反応用のものではない。この点
は,請求項1に,流動相触媒化学反応を行うための担持型触媒である旨明
確に記載されているところである。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
エ取消事由4(本願発明1の作用効果に関する判断の誤り)
審決は,「…本願発明1の作用効果も,引用文献1及び引用文献2の記
載事項から当業者が予測できる範囲のものであるといえる。」(7頁下6
行∼下7行)と判断しているが,この審決の結論には,到底承服できな
い。
引用文献2には炭素原繊維集合体について記載されていないので,本願
発明1の原繊維集合体を示唆していないし,引用発明1のフィブリルマッ
トが流動相反応用にそれを適用するのに十分な機械的強度を有することは
数量的に証明されていない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア原告は,「原繊維の配向」,「各々の原繊維集合体内のフィブリルの直
径及び長さの均一性」,「内部空隙体積及び体積密度」及び「原繊維集合
体は流動相反応用担持型触媒として使用するのに適した不連続粒子として
形成される」の各点を挙げて,本願発明1の原繊維集合体は,独自のマク
ロ的形態を有するのに対し,引用文献1に記載されたフィブリルマット
は,原繊維集合体と比べて全く異なったマクロ的形態を有する点で異なる
と主張し,また「原繊維集合体」は個々のフィブリルの凝集物を除外する
ものであると主張する。
しかし,本願の請求項1には,「原繊維集合体」について,原告が主張
する点は発明特定事項として記載がない。そして「原繊維集合体」という
用語自体は,一般に技術用語として原繊維の空間配向・直径・長さ及び
「原繊維集合体」が粒子・マット等の特定形状を有することを指すもので
はない。したがって,請求項1の記載からは「原繊維集合体」は繊維の集
合体のみを意味するものとして解釈する他はなく,原告の主張する「原繊
維の配向」,「各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一
性」,「内部空隙体積及び体積密度」及び「原繊維集合体は流動相反応用
担持型触媒として使用するのに適した不連続粒子として形成される」の各
点でマクロ的形態が本願発明1と引用発明1とでは異なるとの主張は失当
である。
以下,原告が主張した各点について反論する。
(ア)原繊維の配向
「原繊維の配向」とは原繊維集合体を構成する複数の原繊維の長軸の
向きが集合体内で有する秩序を意味するものと解される。
本願明細書の記載によれば,本願発明1の「原繊維集合体」の一つで
ある「鳥の巣状」は「個々の炭素原繊維が互いにランダムに絡み合っ
て,炭素原繊維の絡み合ったボールを形成していることを特徴とする」
ものであり(甲5の3頁16行∼18行),「コーマ糸状」は「互いに
実質的に同一の相対配向を有する,真っ直ぐな炭素原繊維の束ないしわ
ずかに曲がっているか又はねじれている炭素原繊維の束からなる。換言
すると,個々の曲がり又はねじれにも係わらず,各々の炭素原繊維の縦
軸は,束中の周囲の原繊維の方向と概して同一方向に伸びている。」
(甲5の3頁18行∼22行)ものであり,「開放式ネット状」は「開
放式ネットに似ており,互いにゆるく絡められた真っ直ぐな原繊維ない
し,わずかに曲がっているか又はねじれている炭素原繊維からなる。開
放式ネット状集合体は,個々の原繊維が実質的に同等の相対配向度を有
するコーム糸状集合体でみられるよりも大きいが,鳥の巣状集合体より
も小さい,原繊維の絡み合い度を有する。」(甲5の3頁23行∼27
行)ものである。これらの記載により,本願発明1の「原繊維の配向」
は「原繊維」の長軸が「ランダム」な方向を指している「鳥の巣状」の
ものから「炭素原繊維の縦軸は,束中の周囲の方向と概して同一方向に
伸びている」「コーマ糸状」,「コーマ糸状」と「鳥の巣状」との中間
の配向を有する「開放式ネット」状の配向を含むことから,原告の主張
する本願発明1の「原繊維の配向」は「原繊維」の長軸が全くランダム
な方向を指すものから概して同一方向を指すものまでの一連の状態を指
すものといえる。
そして,原繊維の絡み合いは原繊維同士が交差すること,すなわち個
々の原繊維の長軸が交差することによって生じるものと解される。
また,引用発明1のフィブリルマットは「フィブリルを互いに絡ませ
てマットを構成」(甲1の12頁左下欄9行)するものであり,フィブ
リルが絡み合うとはお互いのフィブリルの長軸が交差し絡み合うことで
ある。してみると,引用文献1のフィブリルを互いに絡ませて構成され
るマットはお互いのフィブリルの長軸が交差を有する程度にフィブリル
の長軸がランダムな方向を指すものといえる。
そして,本願発明1の「原繊維の配向」は原繊維の長軸が全くランダ
ムな方向を有し,お互いの原繊維の長軸が交差しているものから,原繊
維同士が概して同一方向を指し長軸が交差するものまでの一連の状態を
指し,原繊維の長軸が全くランダムな方向を指すものを含むものである
から,引用発明1のフィブリルの長軸が交差を有する程度にランダムな
方向を有する配向は本願発明1の「原繊維の配向」に包含されるもので
ある。
また,原告は引用発明1は「事後製造工程」であり,本願発明1の
「原繊維集合体」は特別の触媒的製法の結果得られるので原繊維の配向
の点で引用発明1と本願発明1とは異なると主張する。しかし,「原繊
維の配向」は製造された原繊維集合体における原繊維の配向を指すもの
であり,上記のとおり引用発明1のフィブリルの配向は,本願発明1の
「原繊維集合体」の配向に包含されるものである。そして,本願の請求
項1に記載の「原繊維集合体」は製造方法による発明特定事項を有して
おらず,「原繊維集合体」は繊維の集合体と解することができる。した
がって,引用発明1は「事後製造工程」であり,本願発明1は特別な触
媒的製法の結果得られる点で引用発明1と本願発明1が原繊維の配向の
点で異なるとの原告の主張は失当である。
(イ)各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一性
引用文献1(甲1)には「約3.5∼約70nmの範囲の実質的に一
定の直径をもち,直径の約5倍より大きく約100倍より小さい長さを
もち,…ことを特徴とする本質的に円柱状の不連続炭素フィブリル」
(特許請求の範囲請求項1),「本発明は,実質的に均一な複数のばら
ばらの本質的に円柱状の炭素フィブリルの製造方法にも係わる。これら
複数のフィブリルは,各フィブリルの直径がその他の各フィブリルの直
径とほぼ同じであるという意味で実質的に均一である」(11頁右下欄
17行∼12頁左上欄1行)と記載されており,これらの記載から,引
用発明1の「フィブリル」は約3.5∼約70nmの範囲の実質的に一
定の直径をもち,直径の約5倍より大きく約100倍より小さい均一な
長さをもつものといえる。そして,本願発明1の原繊維は,「本発明の
好ましい態様において,黒鉛炭素の諸層は,実質的に平行な関係にあ
り,原繊維(fibril)の大多数は,約3.5∼75nmの外径と,少な
くとも約5の,好ましくは少なくとも100の,場合によっては100
0の[長さ]対[直径]比を有する。」(甲5の3頁7行∼10行)と
いうものである。してみると,引用発明1と本願発明1とはフィブリル
の直径,長さの点で重複し,引用発明1のフィブリルは実質的に一定の
直径,均一な長さを有していることから,引用発明1と本願発明1と
は,直径及び長さの均一性の点で相違するものではない。
また,原告は,引用発明1は「大小様々な大きさのフィブリルのぎっ
しり詰まった組み合わせ体になることを理解するであろう。」と主張す
る。当該主張は引用発明1の「フィブリルマット」は直径及び長さの不
均一なフィブリルから構成されるため,フィブリルのぎっしり詰まった
組み合わせ体となり,本願発明1の「原繊維集合体」と異なるとの主張
と解される。一方,上記のとおり,引用発明1を構成するフィブリルの
直径及び長さは,本願発明1の原繊維の直径及び長さと重複し,不均一
なフィブリルではないことから,引用発明1は「大小様々な大きさのフ
ィブリルのぎっしり詰まった組み合わせ体」を構成しないため,当該原
告の主張は失当である。
(ウ)内部空隙体積及び体積密度
原告の主張は,引用発明1の「フィブリルマット」は,お互いのフィ
ブリルの長軸がランダムに配向し,直径及び長さの不均一なフィブリル
から構成されるため,低い内部空隙体積と微小細孔とを有する密度の大
きいフィブリルマットが形成され,該フィブリルマットを流動相反応用
担持型触媒とすると,反応体の拡散・物質移動の問題を生じるであろう
し,引用発明1の触媒は,触媒装填能力が小さく,触媒活性が持続する
時間である触媒ライフが短いというものと解される。しかし,引用発明
1のフィブリルマットは上記(イ)で述べたとおり,本願発明1の「原繊
維」と重複する直径,長さを有するフィブリルにより構成され,本願発
明1の「原繊維の配向」は上記(ア)で論じたとおりランダムな配向を包
含するものである。してみれば,引用発明1の「フィブリルマット」
は,繊維集合体を形成する「フィブリル」の直径,長さ及び「フィブリ
ル」の配向の点で本願発明1の「原繊維集合体」と相違するものではな
い。したがって,引用発明1は低い内部空隙体積と微小細孔とを有する
密で詰まった容体積を形成するものでないから,原告の上記主張は失当
である。
また,原告は「摩滅耐性も,流動相操作及びその後の触媒回収操作に
おいて,重要な利点である」と主張し,当該主張は本願発明1を流動相
担持触媒として用いた後回収できること,すなわち本願発明1が流動相
担持触媒として一定期間反応に用い得るとの主張と解される。しかし,
引用発明1は,触媒を付着させた触媒支持体として用い得るものである
ことから当然一定期間の反応に耐え得るものであり,引用発明1も触媒
としての使用に耐える摩滅耐性を有するものといえる。したがって,原
告の主張は失当である。
(エ)原繊維集合体は流動相反応用担持型触媒として使用するのに適した
不連続粒子として形成されること
原告は,「原繊維集合体は流動相反応用担持型触媒として使用するの
に適した不連続粒子として形成される」点が異なると主張する。
しかし,引用文献1(甲1)には,「また,複数の炭素フィブリル
を,フィブリルマットを構成すべく製造することもできる。炭素フィブ
リルを連続的に製造する方法の一実施例として,フィブリルを支持プレ
ート又はフィルタ上に集め又は回収することによりマットを形成するこ
とができる。」(12頁左下欄1行∼5行)と記載されていることか
ら,引用文献1にはマットを製造する方法が記載されているといえる。
さらに,本願発明1は原繊維集合体の形状の発明特定事項もないことか
らマット状の形状を包含するものといえる。そして,上記(ア)∼(ウ)で
述べたように,引用発明1の「フィブリルマット」は,「原繊維の配
向」,「各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一
性」,「内部空隙体積及び体積密度」の点で,本願発明1の「原繊維集
合体」に包含されるものであり,原告の主張は失当である。
また,原告は本願発明1の「できたままの原繊維集合体は,不連続粒
子であって,担持型触媒としての使用において,多くの利点を有する。
それらは,強力で摩滅に耐える。」と主張し,当該主張は,原繊維集合
体を担持触媒として使用した際には強力で摩滅に耐えること,すなわち
担持触媒の使用に耐え得る点で引用発明1と本願発明1とは相違すると
の主張と解される。しかし,上記(ウ)で述べたように,引用発明1も触
媒としての使用に耐えるものであるから原告の主張は失当である。
(オ)原告は,「原繊維集合体」は個々のフィブリルの凝集物を除外する
ものであると主張する。
上記(ア)∼(エ)のとおり,「原繊維の配向」,「各々の原繊維集合体
内のフィブリルの直径及び長さの均一性」,「内部空隙体積及び体積密
度」,「マット形状」の点で引用発明1の「フィブリルの凝集物」は本
願発明1の「原繊維集合体」に包含されるものである。さらに「原繊維
集合体」が「できたままの原繊維集合体」のみを表すものでもないこと
から,「原繊維集合体」は,個々のフィブリルの凝集物を除外するもの
であるとの原告の主張は失当である。
イ原告は,審決の「『フィブリルマット』を『できたままの炭素原繊維集
合体』に変更することは,当業者が適宜なし得る」との判断は何らの証拠
に基づくものではなく誤りであると主張する。
引用文献3(甲3)には,審決で引用された箇所に加えて,「6.The
fibrilaggregateofclaim1whereinsubstantiallyallofthe
individualfibrilsinsaidaggregatehavealengthtodiameterratio
ofatleast5.」(25頁のクレーム6,訳文は,「6.原繊維集合体に
おける個々のフィブリルの実質的に全てが少なくとも5の長さ対直径比を
有する請求項1に記載の原繊維集合体。」[乙1])と記載され,これら
の記載はいずれも引用文献3は「fibrilaggregate」の発明を含むことを
示すものであるから,引用文献3は「fibrilaggregate」すなわち「原繊
維集合体」の発明を含むものである。またこれらの記載から引用文献3に
は「直径3.5∼75nm,少なくとも5の長さ対直径比の炭素原繊維を
含む原繊維集合体」の発明が記載されているといえ,当該発明の原繊維集
合体は,審決で摘示した(3c)(3頁下9行∼4頁18行)より「コー
マ糸状のできたままの炭素原繊維集合体」といえ,当該発明の「少なくと
も5の長さ対直径比」は,直径の5倍以上の長さを意味するものである。
そして,上記ア(イ)で述べたとおり,引用発明1のフィブリルマットを
構成するフィブリルは約3.5∼約70nmの範囲の実質的に一定の直径
を持ち,直径の約5倍より大きく約100倍より小さい均一な長さを持つ
ものであるから,引用文献3の炭素原繊維集合体を構成する炭素原繊維と
直径,長さの点で重複するものである。
してみれば,引用発明1のフィブリルマットに代えて,炭素繊維の直
径,長さの点で重複する引用文献3に開示された炭素原繊維集合体を用い
ることに格別な困難性は見い出せない。
したがって,引用文献1に記載された「フィブリルマット」を,「原繊
維集合体」に置き換えることを当業者が容易になし得るという判断は何ら
の証拠に基づくものではないとの原告の主張は失当である。
(2)取消事由2に対し
引用発明1のフィブリルマットを構成するフィブリルは,前記(1)ア(イ)
で述べたとおり本願発明1の「原繊維」とは,直径及び長さの均一性の点で
相違するものではない。したがって,審決に記載された充填計算は引用発明
1のフィブリルの場合に適用できるものである。また,引用発明1のフィブ
リル凝集物は様々な太さを有する凝集物ではない。
(3)取消事由3に対し
ア原告の「炭素繊維自体が優れた機械的強度を有するからといって,引用
文献1の記載から,フィブリルマットが流動相反応用にそれを適用するの
に十分な機械的強度を有することは,数量的に証明されていない。フィル
タ紙等の上に載置された個々のフィブリルの凝集物は,本願発明1のでき
たままの原繊維集合体よりも,著しく摩擦に弱く変形し易いに違いな
い。」との主張は,引用発明1のフィブリルマットは摩擦に弱く変形し易
いため流動相反応用触媒に用いることができないとの主張と解される。し
かし,前記(1)ア(ウ)で述べたように,引用発明1の「フィブリルマッ
ト」は一定期間触媒反応に用い得るものであるから,原告の主張は失当で
ある。
イ原告は,本願発明1の「流動相触媒化学反応」は「流動床方式の反応」
とは根本的に異なるものである,と主張する。
原告の主張する「流動相触媒反応」は,本願明細書には,「…不均一触
媒反応において,反応は両相の界面,即ち反応物及び生成物の流動相と担
持型触媒の固相との間の界面で起こる。」(甲5の1頁12行∼14行)
と記載されていることから,「流動相触媒反応」は,不均一系反応であっ
て流動体である反応物と固体である担持型触媒との界面で反応が起こるも
のといえる。さらに,本願明細書には,「流動相触媒反応」について,
「…装填された触媒をスラリー相又は固定床反応装置に置き,エチレン,
酸素及び塩化水素等の気相の反応物を適当な分圧及び温度下でその床を通
す。アセトアルデヒド及び水等の生成物を蒸発又は濾過によって除去す
る。」(甲4の17頁2行∼5行)と記載されているから,当該記載より
「流動相触媒反応」は,反応物を固体触媒と接触させ,生成物を製造する
反応を指すといえる。したがって,流動相触媒反応は,不均一系触媒反応
であって流動体である反応物を固体触媒と接触させ生成物を製造する反応
を含むものといえる。そして,本願明細書に「流動床において本発明の担
持された触媒を用いて不均一系の触媒化学反応を行う方法は,適当な反応
条件下で流動相の担持された触媒と反応物を接触させることからなる」旨
(甲4の14頁21行∼23行)記載されていることから,「流動床」は
固体触媒と流動体である反応物とを接触させ不均一系触媒反応を行う方式
の一つであるといえる。してみれば,本願発明1の「流動相触媒化学反
応」は「流動床方式」の反応を含むものであるから,「本願発明1の『流
動相触媒化学反応』は『流動床方式の反応』とは根本的に異なるものであ
る」との原告の主張は失当である。
(4)取消事由4に対し
炭素繊維が機械的強度に優れ触媒担体に用いられることは審決に示したよ
うに引用文献2に記載され,また,引用発明1のフィブリルマットが流動方
式の触媒担体に使用できることは前記(3)で述べたとおりである。したがっ
て,本願発明1の効果は引用文献1及び引用文献2の記載事項から当業者が
予測できる範囲のものである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明1の意義
(1)本願明細書(甲4の当初明細書を甲5と甲7で補正したもの)には,次
の記載がある。
ア発明の背景
・「本発明は,担体(catalystsupports),担持型触媒(supported
catalysts,担持された触媒),その製法及び不均一触媒反応における
その使用方法に関する。
不均一触媒反応は,石油工業,石油化学工業及び化学工業における化
学プロセスにおいて広く使用されている。この様な反応は,流動相の反
応物及び生成物と,固相の触媒とで一般に行われる。不均一触媒反応に
おいて,反応は両相の界面,即ち反応物及び生成物の流動相と担持型触
媒の固相との間の界面で起こる。この故に,不均一な担持型触媒の表面
特性は,その触媒を効果的に使用する際に重要な因子である。特に,担
持される活性触媒の表面積,並びに反応物の化学吸着及び生成物の脱離
に対するその表面積の受容性(acceptability,近づきやすさ)は重要
である。これらの諸因子は触媒の活性,即ち反応物から生成物への転化
速度に影響する。触媒及び担体の化学的純度は,触媒の選択性,即ち触
媒が1つの生成物を幾つかの生成物の中から生成する度合い,及び触媒
の寿命に重要な影響を与える。
一般に触媒活性は触媒の表面積に比例し,それ故に高い比表面積が望
ましい。しかし,その表面積は熱の流れに対する受容性だけでなく,反
応物及び生成物への受容性を持たねばならない。触媒表面付近の反応物
の化学吸着は,もしあれば触媒及び触媒担体の内部構造を通してその反
応物の拡散が先ず行われる。生成物へ至る反応物の触媒反応が生じる
と,次いで,生成物は触媒及び担体から離れて拡散する。熱もまた,担
体の中へ又は担体から流れることが出来なければならない。」(甲5の
1頁7行∼下3行)
・「活性触媒化合物はしばしば担体の内部構造に担持されるので,担体
物質の内部構造の,反応物,生成物及び熱の流れへの近づきやすさは,
重要である。多孔度及び孔の大きさの分布は,近づきやすさの尺度にな
る。担体として使用されている活性炭素及び木炭は,約1000m/2
gの表面積及び1ミリリットル/g未満の多孔度を有する。しかしなが
ら,この表面積及び多孔度の多くは,50%もの多量,しばしばもっと
多くが,ミクロ細孔即ち孔径が2nm又はそれより小さい孔に関連す
る。これらの孔は,拡散の制限があるために近づきにくい。それらは,
容易に填塞(プラッギング)され,それによって不活性にされる。この
ようにして,孔が主にメソ細孔(2nmより大)又はマクロ細孔(50
nmより大)である,高い多孔性物質が最も望ましい。
また,担持された触媒は使用中に割れ又は触媒摩滅しないことが重要
である。なぜなら,これら断片が反応流中に移動して,次いで反応混合
物から分離しなければならないからである。触媒摩滅した触媒を取り替
えるのに必要なコスト,それを反応混合物から分離するのに必要なコス
ト,及び,生成物を汚染する危険度は,全て製法に負っている。他の製
法,例えば固体の担持された触媒がプロセス流から濾過され,反応域へ
再利用される場合において,細かいものがフィルターを塞ぎ,そのプロ
セスを破壊するだろう。
少なくとも触媒が,反応物や生成物の化学的な汚染への寄与を最小限
にすることもまた重要である。担体の場合,担体は担持する触媒と化学
的方法の両方に汚染する可能性源であるため,これは更に重要である。
更には,触媒の中には,望まれない競争反応を促進,即ちその選択性に
影響,又は触媒の効力をなくさせる,即ちその「作用を損なわせる」汚
染に特に敏感であるものもある。木炭及び石油残渣から作られる商業的
なグラファイト又は炭素は,生物学系に一般的な金属と同様,少量の硫
黄又は窒素を通常含有し,その理由において望ましくないだろう。」
(甲4の1頁24行∼2頁18行)。
・「活性炭(activatedcharcoals,活性木炭)及び他の炭素含有物質は
担体として使用されてきたが,これまで,種々の有機化学反応を行うた
めの,多孔度及び孔径の分布,耐触媒摩滅性及び純度の全ての必要な品
質を有するものは無かった。」(甲5の2頁1行∼4行)
イ発明の目的
「従って本発明の第1の目的は,石油工業,石油化学工業及び化学工業
における化学的方法で使用するための不均一触媒反応用の改善された担体
及び担持型触媒を提供することにある。
本発明の更なる目的は,高い多孔度,純度及び耐触媒摩滅性を有する,
実質的に純粋な改善された炭素担体を提供することにある。
担持された触媒の活性及び選択性を改良することが,本発明の他の目的
である。
本発明の更なる目的は,担持型触媒を調製するための改善された方法を
提供することにある。
本発明の関連する更なる目的は,担持型触媒の製法及び使用方法の経済
性及び信頼性を改善することにある。」(甲5の2頁6行∼16行)
ウ発明の概要
・「本発明は,流動相の触媒の化学反応を行う担持型触媒,担持型触媒
を使用して流動相における触媒の化学反応を行う方法,及び担持型触媒
の製法に関する。
本発明の担持型触媒は,炭素原繊維集合体(carbonfibril
aggregate,炭素原繊維骨材)から成る担体及びその上に担持された触
媒作用上有効な量の触媒からなる。その原繊維集合体は,多数の炭素原
繊維であって,各各炭素原繊維が,本質的に連続的で概して平行な,黒
鉛の規則的配列炭素の複数層から成る上記炭素原繊維を含む。好ましい
態様において,これら黒鉛層は原繊維の中心軸に実質的に平行な関係で
配置され,原繊維の大多数は約3.5∼75nmの外径と少なくとも5
の[長さ]対[直径]比とを有する。」(甲5の2頁18行∼下2行)
・「本発明の原繊維骨材に担持された触媒は,独特な性質を有する。そ
れらは並外れてマクロ孔であり,それらは純粋であり,それらは触媒摩
滅に耐性があり,その結果長い耐用年数に渡って流動相反応媒体から分
離され得る。炭素原繊維骨材が比類なく高いマクロ多孔度を有するの
で,即ちそれらのマクロ的形態学の結果,反応物及び生成物の拡散や熱
の流れを担持された触媒に入れたり抜いたりするのが大いに可能とな
る。この独特の多孔度により,静的状態よりもむしろ動的状態で主にマ
クロ孔からなる一般に高い内空隙体積を生じさせる,無作為な交絡又は
原繊維が絡み合う結果となる。持続する流動相からの分離性及び微粉状
の触媒のより低い損失もまた,方法遂行及び経済を改良する。担体とし
ての原繊維骨材の他の利点としては,高純度,改良された触媒装填能力
及び酸及び塩基に対する化学的耐性が挙げられる。」(甲4の3頁15
行∼25行)
エ本発明の詳細な説明
(ア)「本発明の担体として使用される炭素原繊維集合体(炭素原繊維骨
材)は,本質的に連続的で概して平行な,黒鉛の規則的配列炭素原子の
多数層から成る外側領域であることを特徴とする複数の炭素原繊維から
形成されている。原繊維の中心軸に対するこれらの層の配向度は,実質
的に平行(即ち,傾斜度0゜)から実質的に垂直(即ち,傾斜度90
°)まで変化してもよい。
本発明の好ましい態様において,黒鉛炭素の諸層は,実質的に平行な
関係にあり,原繊維(fibril)の大多数は,約3.5∼約75nmの外
径と,少なくとも約5の,好ましくは少なくとも100の,場合によっ
ては1000の[長さ]対[直径]比とを有する。」(甲5の3頁2行
∼10行)
(イ)「この様な炭素原繊維は,B等の1986年6月6日に出願された
米国特許出願番号第871676号明細書(米国特許第5569635
号及び5165909号明細書に該当,「新規な炭素原繊維,その製造
方法及びそれを含有する組成物」),B等の1986年6月6日に出願
された米国特許出願番号第871675号明細書(米国特許第5171
560号明細書に該当,「新規な炭素原繊維,その製造方法及びカプセ
ルに入れられた触媒」),C等の1988年1月28日に出願された米
国特許出願番号第149573号明細書(米国特許第6403696
号,5611964号,5877110号及び6464908号明細書
に該当,「炭素原繊維」),D等の1988年12月16日に出願され
た米国特許出願番号第285817号明細書(米国特許第550020
0号,6375917号及び6423288号明細書に該当,「原繊
維」),E等の1989年5月15日に出願された米国特許出願番号第
351967号明細書(米国特許第5965470号明細書に該当,
「炭素微小繊維の表面処理」)に記載されており,これら全ては本出願
と同じ出願人に譲渡されており,その開示内容は本文中に参照によって
組み入れられている。他の炭素原繊維としては,F等に与えられた米国
特許第4855091号明細書に記載されている通りのフィッシュボー
ン形態学(「FB」)を有するものが挙げられる。」(甲4の4頁10
行∼22行,甲7の1頁12行∼下5行)
(ウ)「本発明の炭素原繊維集合体(炭素原繊維骨材)は,電子顕微鏡を
走査することによって決定される種々のマクロ的形態を有し,鳥の巣状
(「BN」),コーマ糸状(「CY」),及び開放式ネット状(「O
N」)が挙げられる。鳥の巣状集合体は,鳥の巣に似ており,個々の炭
素原繊維が互いにランダムに絡み合って,炭素原繊維の絡み合ったボー
ルを形成していることを特徴とする。コーマ糸状集合体は,コーマ糸に
似ており,互いに実質的に同一の相対配向を有する,真っ直ぐな炭素原
繊維の束ないしわずかに曲がっているか又はねじれている炭素原繊維の
束からなる。換言すると,個々の曲がり又はねじれにも係わらず,各々
の炭素原繊維の縦軸は,束中の周囲の原繊維の方向と概して同一方向に
伸びている。開放式ネット状集合体は,開放式ネットに似ており,互い
にゆるく絡められた真っ直ぐな原繊維ないし,わずかに曲がっているか
又はねじれている炭素原繊維からなる。開放式ネット状集合体は,個々
の原繊維が実質的に同等の相対配向度を有するコーム糸状集合体で見ら
れるよりも大きいが,鳥の巣状集合体よりも小さい,原繊維の絡み合い
度を有する。コーム糸状集合体及び開放式ネット状集合体は,鳥の巣状
集合体よりも容易に分散する。
鳥の巣状(BN)形態中の原繊維のランダムな絡み合い又はコーマ糸
状(CY)形態中の部分的に(緩く)絡み合った原繊維により,独特の
多孔度及び孔構造となる。個々の原繊維は,直径3.5∼75nmの範
囲であるので,絡み合い又は緩く絡み合ったストランドによって形成さ
れた孔が匹敵する寸法である。加えて,ストランドが,相対的に弱い断
続的に間を置いて配置されたファンデルワールス力によって以外で,化
学的又は物理的に付けられていないので,互いに絡み合ったストランド
又はストランドの一部が,ランダムに又は要求されしだい動くことがで
きる。この様に,孔は静的状態よりもむしろ「動的」な状態にある。こ
れにより,従来のミクロ孔(20Åより小)が存在せず,多孔度全てを
メソ又はマクロ孔として流動媒体に利用できる担体となる。これは,触
媒反応を行う上で大きな利点である。」(甲5の3頁13行∼4頁11
行)
(エ)「炭素原繊維骨材は,上述した原繊維構造及びマクロ的骨材形態学
を有するものを製造するのに充分な温度やその他の条件で反応容器中
で,炭素を含有するガスを金属触媒と接触することにより調製される。
反応温度は400∼850℃,より好ましくは600∼750℃であ
る。原繊維骨材は,反応器を反応温度にし,担待された金属触媒粒子を
添加し,次いで連続的に炭素を含有するガスと担持された触媒を接触さ
せることにより,連続的に製造されるのが好ましい。好適なフィードガ
スの例としては,例えばエチレン,プロピレン,プロパン及びメタン等
の脂肪族炭化水素;一酸化炭素;例えばベンゼン,ナフタレン及びトル
エン等の芳香族炭化水素;及び含酸素炭化水素が挙げられる。加えて,
水素を供給物に含有させても良い。好ましい触媒としては,鉄,及び,
好ましくは周期表(CAS版)の第ⅥB族(例えば,モリブデン,タン
グステン又はクロム),第ⅦA族(例えばマンガン),又は,ランタノ
イド系(例えばセリウム)から選ばれる少なくとも一つの元素が挙げら
れる。」(甲4の5頁20行∼6頁3行)
(オ)「原繊維集合体(原繊維骨材)のマクロ的形態,即ちコーム糸状,
開放式ネット状又は鳥の巣状かは,原繊維集合体を製造する際に使用さ
れる担体の選択によって制御される。球状の担体は,炭素原繊維をあら
ゆる方向に成長させて,鳥の巣状集合体を形成する。コーム糸状及び開
放式ネット状の集合体は,一つ以上の容易に裂ける平面の表面を有す
る,例えば,一つ以上の容易に裂ける平らな表面を有し,少なくとも1
m/gの表面積を有する担体金属上に付着した(deposited,沈着し2
た)鉄又は鉄含有金属の触媒粒子である担体を使用して製造される。
原繊維集合体を製造するのに好ましい担体物質としては,管状,柱
状,又は板状結晶の集合体の形状の,球状のフュームドアルミナ及び活
性アルミナ又はマグネシアが挙げられる。この様な物質は,例えばデグ
ーサ(Degussa)から球状のフュームドアルミナを,ストレムケミカル
ズ(StremChemicals)から活性アルミナを,アルファイノーガニック
(A1faInorganics)からマグネシアを,商業的に入手可能である。球状
のフュームドアルミナ粒子は,主に鳥の巣状の集合体を造る一方,活性
アルミナ担体はコーム糸状集合体を主に造り,マグネシア担体は開放式
ネット状集合を主に造る。
コーム糸状及び開放式ネット状の原繊維集合体を形成する際,容易に
裂ける平面からなる担体上への触媒の付着(沈着)は,炭素原繊維が成
長する際に互いに助け合うのを可能にし,「近隣(neighbor)」効果を
奏するものと思われる。それら平面上に付着した触媒粒子は原繊維の成
長を始めるので,個々の原繊維はそれらの「近隣」に影響される。この
ことは,活性アルミナ担体の場合,コーム糸状集合体を形成する。この
コーム糸状集合体において,個々の原繊維は同じ相対配向度を有する。
マグネシア担体は,容易に裂ける平面を有するが,開放式ネット状原繊
維集合体を形成する。この開放式ネット状原繊維集合体において,マグ
ネシア担体は,原繊維の成長の間,活性アルミナ担体よりも一層容易に
バラバラに壊れる(breakapart)ので,炭素原繊維は軽く絡み合ってお
り,コーム糸状集合体よりも一層不規則的に配列しているものの,鳥の
巣状集合体の絡み合った原繊維ポールよりも一層規則的に配列している
原繊維集合体となる。金属触媒粒子を生じさせるために使用する酸化物
前駆体もまた,集合体形成担体をバラバラに壊す傾向に影響する。酸化
物及び担体がそれらの界面で混合酸化物を形成し易ければし易いほど,
担体は一層バラバラに壊れ易い。
炭素原繊維集合体の形成に関する更なる詳細は,C等の1988年1
月28日に出願された米国特許出願番号第149573号明細書(米国
特許第6403696号,5611964号,5877110号及び6
464908号明細書に該当,「炭素原繊維」),及び,A等の198
9年9月28日に出願された米国特許出願番号第413837号明細書
(係属中,「原繊維骨材及びその製造方法」)の開示に見つけることが
でき,これら全ては本発明と同じ出願人に譲渡されており,それに言及
することによってその開示内容を本明細書に組み入れる。」(甲5の4
頁14行∼5頁下7行,甲7の2頁3行∼9行)
(カ)「本発明で使用される改良された原繊維骨材は,A及びGによっ
て,「改良された方法及び炭素原繊維の製造用触媒」の名称で同じ日に
出願された米国特許出願番号第887,307号明細書(米国特許第6
143689号及び6294144号明細書に該当)に開示された方法
によって製造され得り,その開示内容は本文中に参照によって組み入れ
られている。
担体として,炭素原繊維骨材は,多孔度,表面積,分離性,純度,触
媒装填能力並びに酸及び塩基に対する化学的耐性に優れた化学的及び物
理的な性質を与える。炭素原繊維骨材は,骨材担体の8ml/gもの多
孔度,高触媒装填能力,約0.5ミクロンの大きさ以下の触媒摩滅に対
する耐性の結果として,流動相からの優れた分離性,約250∼約30
0m/g,1000m/gも可能である表面積を有し,高い組成的な22
純度,即ち汚染が無い。
約2∼約8ml/g,典型的には約5∼約8ml/gの多孔度によ
り,骨材の内表面に担持された活性触媒化合物に近づくのが増えるのを
確実にし,担持された触媒の効果的な活性を相当量増加させる。多孔度
は,重量を測定した原繊維試料から,0.1mmHg未満の圧力で全て
のガスを廃棄し:このような測定に適する液体(蒸留水等)を飽和点ま
で,真空で吸収させ;原繊維粒子に付いている全ての液体を,ウオータ
ーアスピレータ(水吸収器)を使用してNo.50ワットマン
(Whatman)の濾紙を通して濾過することによって,濾過ケーキに泥割
れが形成するまで除去して;溶液が飽和した原繊維濾過ケーキの重量を
測定し;知っている原繊維の重量,吸収された液体及び液体の密度か
ら,液体が占めている体積を計算することによって典型的に測定され
る。
炭素原繊維骨材担体は,様々な方法において直面される填塞(プラッ
ギング)の問題を改善する高い内部空隙体積を有する。その上,主に大
きな孔により,しばしば拡散において直面される問題又は反応を制限す
る物質移動を取り除く。より触媒が担体上に装填され得るので,多孔度
が高いと触媒寿命を大幅に増加するのを確実にする。
本発明の炭素原繊維骨材担体は改良された物理強度を有し,触媒摩滅
に対抗する。通常の役務において,それらはわずか約2ミクロンの大き
さにまで触媒摩滅する。厳しい触媒摩滅が起きる場合,触媒摩滅した粒
子は典型的に約0.5ミクロン以上である。更に,触媒摩滅した原繊維
骨材は自己凝集しやすいので,約0.5ミクロンの粒子に減少させる場
合でさえも,他の0.5ミクロンの大きさの粒子と比較して分離可能性
を残したまま,自己凝集して,より大きい大きさの凝集物を形成する。
高度に黒鉛化した(グラファイト的な)炭素原繊維集合体は,他の合
成グラファイトよりも高い表面積,典型的には,合成グラファイトがl
0m/gであるのに対して,原繊雑骨材は250∼300m/gであ22
る。250∼300m/gよりも高い表面積が望まれる場合,原繊維2
骨材は,表面を酸化して,1000m/g以上の表面積を有する表面2
とする。活性炭素に対して,表面が酸化された炭素原繊維骨材の利点
は,炭素原繊維の個々のストランドの表面のみ変質され,骨材の構造的
な一貫性は損なわれていないままになっており,それによって構造的な
一貫性を減少させずに表面積を増加させることである。
汚染が引き起こす副反応が最小限にできるので,原繊維骨材の化学的
な純度は,担待された触媒の選択性に良い影響を与える。炭素原繊維骨
材は,原繊維骨材が形成される過程から残っている,ほんの少量のカプ
セルに入れられた(encapsulated)触媒金属化合物を有する本質的に純
粋な炭素である。カプセルに入れられた原繊維形成金属化合物は,触媒
毒としてや選択性影響汚染物として作用しない。」(甲4の7頁10行
∼8頁26行,甲5の5頁下6行∼6頁3行,甲7の2頁11行∼12
行)
(キ)「原繊維集合体(原繊維骨材)によって提供される性質の組み合わ
せは独特である。既知の担体に,この様な高い多孔度,高い表面積及び
高い耐触媒摩滅性を兼ね備えているものはない。原繊維集合体によって
提供される性質の組み合わせは,炭素担体の使用の適用を受けるいかな
る触媒系においても有利である。炭素原繊維集合体を構成する複合炭素
原繊維は,触媒粒子が原繊維集合体中の複合原繊維に付着し得る多数の
接合点を備えている。これは,担持型触媒を一層しっかりと掴む担体を
提供する。更に,炭素原繊維集合体は,原繊維の単位重量当り高い触媒
装填を可能にし,これは触媒の供給予備力(reservecapacity,予備能
力)を大きくする。触媒装填は,担持型原繊維形成触媒の全重量を基準
にして,概して0.01重量%より大きく,好ましくは0.1重量%よ
り大きい。担持型触媒の全重量を基準にして活性触媒が50重量%より
も大きい触媒装填は,原繊維集合体の多孔度及び本明細書中で議論され
た他の因子の結果として,容易に本発明の考慮の域である,即ち,本発
明の原繊維集合体の担体の重量を基準にして100重量%を超える装填
は本発明の考慮の域である。
高い純度の為に,炭素原繊維集合体は高純度の黒鉛(グラファイト)
の性質を有し,それ故に,酸及び塩基による攻撃(attack,腐食)に対
する高い耐性を示す。触媒を再生する−つの方針が酸又は塩基による再
生であるので,この特性は有利である。強酸又は強塩基を使用する再生
方法が使用し得る。高純度であると,かなりの腐食性環境下で使用する
のも可能になる。」(甲5の6頁6行∼下5行)
オ担持型触媒の製法
「担持型触媒は,触媒作用上有効な量の触媒を原繊維集合体上に担持す
ることによって製造される。用語「原繊維集合体上に」は,制限されない
が,集合体の上,中及びその中の構成原繊維の上を包含する。前述の諸用
語は同じ意味に使用され得る。
不均一系の担持型触媒を調製する3種の基本方法は,吸着,初期湿潤含
浸及び沈殿である。担持型触媒は,触媒を集合体担体上に組み込むか,又
は,その場で(insitu,もとの位置で)それを形成することによって調製
され,触媒は集合体中に置かれる前に活性であるか又はその場で活性にさ
れ得る。望ましい活性触媒は,白金族(ルテニウム,オスミウム,ロジウ
ム,イリジウム,パラジウム,白金,及びそれらの混合物)であり,好ま
しくはパラジウム,白金,及びその混合物である。
パラジウム,ロジウム,白金等の触媒遷移金属と,ホスフィン等の配位
子とから成る配位錯体等の触媒は,原繊維集合体を触媒又は触媒の前駆体
からなる溶液に,適当な時間,所望の装填のためにスラリーにすることに
よって吸着され得る。
初期湿潤による含浸において,触媒又は触媒の前駆体からなる溶液は乾
燥した原繊維集合体によって,飽和点まで吸着させられる。内部の空隙体
積は非常に大きい(水で8cc/g以下)ので,原繊維集合体1g当り,
2∼3g過剰の活性触媒の装填は得られる(例えば,BN原繊維集合体1
g当り,2.9gのZn(OAc))。複合含浸により,更に高い装填2
となる。
代わりに,触媒又は触媒の前駆体は,集合体の表面上に直接沈殿され得
る。この方法は,酸化物及び混合酸化物触媒で上手くいく。例えば,金属
酸化物を先ず初めに原繊維集合体上に沈着させ,次いで活性触媒を第二段
階で沈着させる。この沈着は,金属酸化物又は触媒の前駆体を初期湿潤に
よって装填され,引き続き塩基等の沈殿剤の添加によってなされ得る。又
は,混合酸化物触媒を1段階で類似して沈着させ得る。
集合体を担持した触媒金属酸化物及び水和酸化物を,溶液のpHを調製
することによって等,水溶性の金属塩からなる水溶液からそれらを沈殿さ
せることによって調製し得る。対応する硫化物をこれら酸化物及び水和酸
化物から製造し得る。A及びGによって,「改良された方法及び炭素原繊
維の製造用触媒」の名称で同日出願された米国特許出願番号第887,3
07号明細書(その開示内容は,言及することによって本明細書に組み入
れる)は,原繊維及び原繊維集合体を製造するための原繊維集合体を担持
型触媒のこのような沈殿を文脈において開示する。
原繊維集合体は,原繊維集合体構造の中で触媒を製造するために,適当
な溶剤系の金属陽イオン又は金属錯体等の触媒前駆体で濡らされて,乾燥
させられ,次いで適当な溶剤系中の適当な陰イオン又は適当な溶剤中の酸
または塩基等の活性化剤で濡らされ得る。代わりとして,順序が入れ代わ
っても良い。
担持型触媒を製造する更に他の方法は,溶液中の陽イオン又は触媒遷移
金属の金属化物等の触媒前駆体を原繊維集合体上に吸着させ,次いでその
前駆体を例えば金属又は金属酸化物等の触媒に還元又は酸化することによ
る。
触媒はまた,原繊維集合体上に,触媒は原繊維集合体に相容しないが,
触媒と原繊維集合体の両方に相容する物質等の他の物質で共沈させられ得
る。この技術は,原繊維集合体によって担体用の候補触媒の範囲を公開し
ている。例えば,酸化鉄(Fe0)触媒をアルミナ(Al0)又はモ2323
リブデナ(molybdedna)(MoO)で共沈させて,原繊維集合体上に担3
持された共沈した混合酸化物触媒を形成する。尚,それは意図する反応の
前に還元されていても良い.
更に,原繊維集合体は,触媒活性を与えられる前に,酸及び/又は塩基
で前処理されていても良い。
炭素原繊維集合体を使用して,炭素に通常担持される触媒以外の触媒を
担持させることができる。アルミナ,マグネシア,シリカ,シリカ−アル
ミナ,シリカ−マグネシア,ゼオライト等の共担体(cosupport)は,原
繊維集合体中に沈着される(deposited,付着)か又は形成され,そし
て,共担体でのみ容易に使用することができ,原繊維集合体の多孔度のた
めに一層効果のある触媒担体を提供する。同様の証拠により,触媒及び相
容性のある物質は,原繊維集合体に付着できる他の方法ではなく,原繊維
集合体上に触媒と共に共沈され得る。換言すれば,原繊維集合体の多孔度
は,それらが共担体又は共沈した触媒物質を保持するのを可能にし,更に
反応物,生成物及び熱の流れが近づくのが可能な充分な多孔度を有する。
炭素原繊維集合体のかなり低い嵩密度(0.08∼0.15g/cc)及
び0.5ミクロンより小さい耐触媒摩滅性のために,得られる共担持され
た又は混合酸化物の触媒は流動床又は耐触媒摩滅性を必要とする他の触媒
方法に最適である。
加えて,集合体中の個々原繊維の表面は,表面積を増加させるために又
は化学的性質を変性させるために変性させられて,更に広範囲の触媒物質
の担体へ適用させる。極端な多孔度であるために,それらの表面に対して
多層の物質を適用するのも可能である。」(甲5の6頁下3行∼9頁11
行)
カ担持された触媒の使用方法
・「流動床において本発明の担持された触媒を用いて不均一系の触媒化
学反応を行う方法は,適当な反応条件下で流動相の担持された触媒と反
応物を接触させることからなる。反応は,例えば流動床法等の,プラグ
流れ法又は非勾配法等の,バッチ方又は連続法である。本発明の担持さ
れた触媒は,液相スラリー反応装置,灌液充填塔式反応装置,又は,流
動床反応装置を使用する場合等の,反応環境が担待された触媒に機械的
応力を与えやすい,触媒方法において特に有用である。触媒摩滅耐性及
び担待された触媒の高い装填能力は特にこれらの環境において有益であ
る。
バッチ方法において,反応物を反応溶器中で,好ましくは攪拌下で,
担待された触媒の存在下反応させ,次いで再利用のために,担持された
触媒を反応物/生成物の混合物から適当な手段,例えば濾過機又は遠心
機等によって分離する。
図1は,バッチ式水素添加方法1を系統的に説明する。担持された触
媒を,水素や反応物が添加されるバッチ式反応容器10中に置く。容器
を密閉し,水素添加反応を攪拌下で行う。反応が完了すると,容器の内
容物をライン14を通して担持された触媒を分離する濾過機20に送
り,返送ライン22を通して反応容器10まで戻し,容器の内容物の残
りをライン24を通して次の段階のプロセスに送る。
プラグ流れ方法において,反応物を触媒床を通すと生成物の濃度が増
加するような,担持された触媒の固定床に反応物を通す。この流れに乗
ったどんな担持された触媒でも,適当な手段によって,反応物/生成物
流から分離されて,床へ再生利用され得る。
移動床又は流動床方法において,担持された触媒を,そのプロセスに
おける反応物の流れで流動化又は乗せる。担持された触媒を同時に反応
物/生成物で流す。反応段階の終わりに,載せられた担持された触媒
は,未反応反応物/生成物流から,例えば濾過機,遠心機,又はサイク
ロン分離機等によって分離され,反応段階の最初に再生利用される。
流動床方法において,担持された触媒の床は流動化されているが,反
応物が床を通って動く時に固定域の境界に残り,反応して,生成物を形
成する。この場合において,反応物/生成物流れに乗ったどんな担持さ
れた触媒でも,適当な手段によって,分離され,流動床へ戻される。
連続方法の更なる形態において,担持された触媒は反応物の流れに対
して反対の流れ方向に動く。例えば,反応物はガスとして垂直な反応容
器の底に導入され,生成物として上から除去され得る。担持された触媒
は,容器の上から導入され,上向きのガスの流れを通り抜けて,下向き
に荒々しく滝のように流れ落ちて,底から容器の上へ再利用のために回
収される。容器を出ていくガスの流れに乗った担持された触媒であれば
分離され,再利用のために反応容器へ容器の上から再利用され得る。
本発明の原繊維骨材担体はまた,時々担持された液相触媒と呼ばれる
技術である,他の点では均一系触媒であるものの担体としても使用され
得る。担体としてのそれらを使用することにより,均一系触媒方法を不
均一系触媒技術を使用して運転できるようになる。担持された液相触媒
において,反応物及び触媒は,原繊維骨材の構造の中に担待される液相
中に分子状に分散される。」(甲4の14頁下9行∼16頁4行)
・「原繊維集合体(原繊維骨材)の多孔度によって証明される通り,原
繊維集合体の内部体積は大きいので,それらは丁度スポンジのような液
相触媒で装填され,触媒として(しかし,固体粒子の形態の触媒とし
て)使用することができる。触媒装填済み原繊維集合体の各々は,その
集合体の内部が,触媒を含有する連続液相又は溶解した触媒の多数の液
滴で装填されている一種のマイクロ反応器(microreactor,ミクロ反応
機)と見ることが出来る。その結果として,各々集合体は,物質取扱
(materialhandling)目的のための固体粒子として,及び反応目的のた
めの均一液体触媒としての両者として挙動する。炭素原繊維集合体の有
用性は,この点で化学的安定性によって助けられる。均一触媒を装填し
た原繊維集合体を使用する利点は,触媒を生成物の流れから分離するの
が容易であること,プロセスを実行することが容易であること,装置の
サイジング,濃縮された液相中での腐食を避けるのが容易であることに
ある。
原繊維集合体は,置換,付加,β−脱離,転移,酸化及び還元の触媒
作用における担体としての使用の適用がある。更に詳細には,それら
は,ヒドロホルミル化反応,カルボニル化反応及びワッカー法に有用で
ある。
カルボニル化反応において,触媒を装填した原繊維集合体は,メシチ
レン又はプソイドクメン等の高い沸点の溶剤に,塩化ロジウム及びトリ
フェニルホスフィン等のカルボニル化触媒からなる溶液を,鳥の巣状の
集合体等の乾燥した原繊維集合体に吸収させることによって調製され
る。
カルボニル化反応は,適当な温度及び圧力条件下で触媒と気相の原料
を接触させることによって行われる。原料混合物は,例えば一酸化炭
素,酢酸メチル,ヨウ化メチル及び溶剤からなる。原料は,吸収され,
触媒溶液中に分子状に分散され,液相で反応する。反応は,前述した通
りのスラリー相反応又は固定床反応で行われる。」(甲5の9頁下1行
∼10頁下6行)
・「無水酢酸及び/又は酢酸並びに副産物等の反応生成物を,原繊維骨
材粒子から蒸発又は濾過によって除去する。
ワッカー法においては,触媒を装填した原繊維骨材は,水等の溶剤中
の塩化パラジウム,塩化銅,塩化カリウム又は塩化リチウム等の触媒
を,乾燥した原繊維骨材に吸着させることによって調製される。次い
で,装填された触媒をスラリー相又は固定床反応装置に置き,エチレ
ン,酸素及び塩化水素等の気相の反応物を適当な分圧及び温度下でその
床を通す。アセトアルデヒド及び水等の生成物を蒸発又は濾過によって
除去する。」(甲4の16頁下3行∼17頁5行)
(2)前記第3,1(2)の請求項1には,本願発明1の炭素原繊維集合体につい
て,①直径20Å未満のミクロ細孔を実質的に含まないこと,②黒鉛の規則
的配列炭素原子の,本質的に連続的で概して平行な多数層の外側領域を有す
る複数の炭素原繊維から成ることとの特定しかない。
原告は,本願発明1の炭素原繊維集合体について,「原繊維の配向」,
「各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一性」,「内部空
隙体積及び体積密度」及び「原繊維集合体は流動相反応用担持型触媒として
使用するのに適した不連続粒子として形成される」の各点を挙げて,これら
が本願発明1の特徴であると主張するが,次に述べるとおり,上記の①,②
を超えて,本願発明1の炭素原繊維集合体が特定されていると認めることは
できない。
アすなわち,「炭素原繊維集合体(carbonfibrilaggregate)」につい
て,当然に原告が主張するような意味に特定される技術常識が存する根拠
は認められない。
イまた,原告が主張する各点について述べると,以下のとおりである。
(ア)原繊維の配向につき
上記(1)エ(ウ)のとおり,本願明細書には,「本発明の炭素原繊維集
合体(炭素原繊維骨材)は,電子顕微鏡を走査することによって決定さ
れる種々のマクロ的形態を有し,鳥の巣状(「BN」),コーマ糸状
(「CY」),及び開放式ネット状(「ON」)が挙げられる。」との
記載があるが,本願の「特許請求の範囲」請求項1の記載に照らすと,
鳥の巣状,コーマ糸状,開放式ネット状というような形態は,本願発明
1の炭素原繊維集合体のマクロ的形態の例示であるというほかない。
したがって,本願発明1の炭素原繊維集合体のマクロ的形態が上記の
各形態に限られるものと特定されていると認めることはできない。
(イ)各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径及び長さの均一性につき
上記(1)エ(ア)のとおり,本願明細書には,「本発明の好ましい態様
において,黒鉛炭素の諸相は,実質的に平行な関係にあり,原繊維
(fibril)の大多数は,約3.5∼75nmの外径と,少なくとも約5
の,好ましくは少なくとも100の場合によっては1000の[長さ]
対[直径]比を有する。」との記載がある。
また,弁論の全趣旨によると,引用文献3に係る国際特許出願(PC
T/US90/5498,甲13参照)は,1989年9月28日に出
願された米国特許出願番号第413837号出願に対応する国際特許出
願であると認められるが,その米国特許出願番号第413837号出願
は,上記(1)エ(オ)のとおり,本願明細書に引用されている。そして,
引用文献3(甲3)の18頁23行∼19頁6行には,「各原繊維集合
体内の炭素フィブリルは,好ましくは約3.5∼75nmの直径,少な
くとも5の長さ対直径比,及び長手方向のフィブリル軸に実質的に平行
で,連続的熱分解炭素外側被覆を実質的に持たない黒鉛層を有する。そ
れらは次の文献に記載されている。Bの米国特許第4,663,210
号,Bその他…各原繊維集合体内の個々のフィブリルの直径及び長さ対
直径比は本質的に均一である。」(訳文は原告準備書面(第1回)4頁
8行∼13行による)と記載されており,引用文献3の22頁20行∼
30行(実施例3)には「約15nmの直径を持った小さな櫛けずった
ヤーン状の凝集物」(訳文は,対応日本特許の明細書である甲13の1
0頁左上欄15行∼16行)についての記載が,引用文献3の23頁1
2行∼25行(実施例5)には「個々のフィブリルが真っすぐで,10
nmより小さい直径を有し,10nmより小さい直径を有する中空開口
線状フィブリルである櫛けずったヤーン状の凝集物の混合物」(訳文
は,甲13の10頁右上欄12行∼15行)についての記載がある。
しかし,本願の「特許請求の範囲」請求項1は,各々の原繊維集合体
内のフィブリルの直径及び長さについて規定しておらず,本願発明1の
炭素原繊維集合体について,各々の原繊維集合体内のフィブリルの直径
及び長さが均一であると特定されていると認めることはできない。
(ウ)高い内部空隙体積及び低い体積密度につき
上記(1)エ(カ)のとおり,本願明細書には,「炭素原繊維骨材担体
は,様々な方法において直面される填塞(プラッギング)の問題を改善
する高い内部空隙体積を有する。その上,主に大きな孔により,しばし
ば拡散において直面される問題又は反応を制限する物質移動を取り除
く。より触媒が担体上に装填され得るので,多孔度が高いと触媒寿命を
大幅に増加するのを確実にする。」と記載され,上記(1)オのとおり,
「換言すれば,原繊維集合体の多孔度は,それらが共担体又は共沈した
触媒物質を保持するのを可能にし,更に反応物,生成物及び熱の流れが
近づくのが可能な充分な多孔度を有する。炭素原繊維集合体のかなり低
い嵩密度(0.08∼0.15g/cc)及び0.5ミクロンより小さ
い耐触媒摩滅性のために,得られる共担持された又は混合酸化物の触媒
は流動床又は対触媒摩滅性を必要とする他の触媒方法に最適である。」
と記載されている。
しかし,本願の「特許請求の範囲」請求項1には,本願発明1の炭素
原繊維集合体の内部空隙体積及び体積密度について,「直径20Å未満
のミクロ細孔を実質的に含まない」との特定しかなく,それを超えて,
内部空隙体積及び体積密度が特定されていると認めることはできない。
(エ)流動相触媒反応によく適応する不連続粒子につき
上記(1)エ(カ)のとおり,本願明細書には,「本発明の炭素原繊維骨
材担体は改良された物理強度を有し,触媒摩滅に対抗する。通常の役務
において,それらはわずか約2ミクロンの大きさにまで触媒摩滅する。
厳しい触媒摩滅が起きる場合,触媒摩滅した粒子は典型的に約0.5ミ
クロン以上である。更に,触媒摩滅した原繊維骨材は自己凝集しやすい
ので,約0.5ミクロンの粒子に減少させる場合でさえも,他の0.5
ミクロンの大きさの粒子と比較して分離可能性を残したまま,自己凝集
して,より大きい大きさの凝集物を形成する。」と記載されている。
しかし,本願の「特許請求の範囲」請求項1には,本願発明1の炭素
原繊維集合体について,上記の本願明細書の記載のような特定はなく,
このような特定が存すると認めることはできない。
3取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)について
(1)引用文献1(特表昭63−503555号公報,甲1)には,次の記載
がある。
ア「約3.5∼約70nmの範囲の実質的に一定の直径をもち,直径の約
5倍より大きく約100倍より小さい長さをもち,規則配列した炭素原子
の本質的に連続的な多重層から成る外側領域と不連続な内側コア領域とを
もち,各層とコアとがフィブリルの円柱軸の周囲に実質的に同心的に配置
されていることを特徴とする本質的に円柱状の不連続炭素フィブリルの集
合。」(請求の範囲第8項)
イ「また,複数の炭素フィブリルを,フィブリルマットを構成すべく製造
することもできる。炭素フィブリルを連続的に製造する方法の一実施例と
して,フィブリルを支持プレート又はフィルタ上に集め又は回収すること
によりマットを形成することができる。…別の実施例として,フィブリル
を互いに絡ませてマットを構成してもよい。」(12頁左下欄1行∼10
行)
ウ「…更に別の用途として,触媒の支持がある。この場合は触媒を本発明
のフィブリル,マット,繊維又はプレートに付着させる。このような触媒
は電気化学的触媒であり得る。」(12頁右下欄15行∼18行)
エ「実施例15…電子顕微鏡写真は直径100∼450Åの多数のフィブ
リルを示した(第4図)。」(15頁左上欄3行∼15行)
オ「本発明は表面積が大きく,ヤング率が高く且つ引張り強さが大きい黒
鉛炭素フィブリルの製造に係わる。」(5頁右下欄8行∼9行)
(2)上記(1)によれば,引用文献1(甲1)には,複数の炭素フィブリルを
互いに絡ませた「フィブリルマット」が記載されている。
そして前記2(2)のとおり,本願発明1の「炭素原繊維集合体」につい
て,原告が主張する「原繊維の配向」,「各々の原繊維集合体内のフィブリ
ルの直径及び長さの均一性」,「内部空隙体積及び体積密度」及び「原繊維
集合体は流動相反応用担持型触媒として使用するのに適した不連続粒子とし
て形成される」の各点は,本願発明1の発明を特定するものということはで
きない。
そうすると,引用文献1(甲1)に記載されている,複数の炭素フィブ
リルを互いに絡ませた「フィブリルマット」も本願発明1の「炭素原繊維集
合体」ということができる。
したがって,相違点1(本願発明1では「炭素原繊維が絡み合った部材」
が「原繊維集合体」であるのに対して,引用発明1では「フィブリルマッ
ト」である点)につき実質的な相違点でないとする審決の判断に誤りがある
ということはできない。
(3)以上のとおり原告主張の取消事由1は理由がない。
4取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について
(1)炭素フィブリルを最密充填した場合における隙間(すなわち,三つの円
筒体で囲まれた空間)の体積を計算すると,0.041DL((3/4)D21/2
L−(π/8)DL=0.041DL)となり,この隙間を円筒形状に置222
き換えて計算すると,隙間の大きさの直径は0.23Dとなる。
そして前記3(1)エのとおり,引用発明1においては,直径100∼45
0Åの炭素フィブリルを選択できるので,最小の隙間の大きさは,23∼1
04Åとなり,20Å未満のミクロ孔は含まれていない。
(2)したがって,引用発明1において,直径20Å未満のミクロ細孔を実質
的に含まないようにすることに,当業者(その発明の属する技術の分野にお
ける通常の知識を有する者)の格別の創意を要したものとはいえない旨の審
決の判断に誤りがあるということはできない。
原告は,審決に記載された充填計算は,各々のフィブリルが同一の直径を
有するフィブリルの凝集物のみに適用されると主張するが,前記3(1)アの
とおり,引用発明1は「約3.5∼約70nmの範囲の実質的に一定の直
径」を持つから,審決に記載された充填計算を適用することができるのであ
って,原告の主張は採用することはできない。
(3)以上のとおり原告主張の取消事由2は理由がない。
5取消事由3(相違点3に関する判断の誤り)について
(1)引用文献2(特開昭50−79494号公報,甲2)には,次の記載
がある。
ア「…炭素繊維に遷移金属を化学結合で担持させてなる繊維状触媒。」
(特許請求の範囲)
イ「本発明は担体として特定の性状および形状を有する細孔組織の殆どな
い炭素繊維を用いるものであるから,木炭,活性炭等の担体での細孔組織
による担体内部への拡散等の問題がなく,極めて大きな活性表面を具備す
る他,炭素繊維特有の優れた熱伝導性および木炭,活性炭にはみられぬ優
れた放熱性に加え耐屈曲性,強力等に於て優れ,充填方式,流動方式を始
め糸状,布状等繊維特有の性質を活用した使用が可能となる等の利点を有
するものである。」(1頁右欄7行∼14行)
(2)上記(1)によれば,引用文献2には,炭素繊維に遷移金属を化学結合で担
持させてなる繊維状触媒は,耐屈曲性,強力等に優れており,流動方式にお
いて使用が可能であることが記載されている。
また,前記3(1)のとおり,引用発明1の「フィブリルマット」は,「炭
素フィブリル」によって構成されているもので,「ヤング率が高く且つ引
張り強さが大きい」ものである。
引用発明1の「炭素フィブリル」も炭素繊維であって,しかも,「ヤン
グ率が高く且つ引張り強さが大きい」ものであるから,当業者は,引用発明
1に引用発明2を適用して,流動方式において使用することを容易に想
到することができたものと認められる。
(3)原告は,本願発明1は,流動相反応(気体又は液体)用の担持型触媒で
あって,流動床等の反応用のものではない,と主張する。
しかし,本願明細書には,前記2(1)アのとおり,「不均一触媒反応は,
石油工業,石油化学工業及び化学工業における化学プロセスにおいて広く使
用されている。この様な反応は,流動相の反応物及び生成物と,固相の触媒
とで一般に行われる。不均一触媒反応において,反応は両相の界面,即ち反
応物及び生成物の流動相と担持型触媒の固相との間の界面で起こる。」,前
記2(1)イのとおり,「従って本発明の第1の目的は,石油工業,石油化学
工業及び化学工業における化学的方法で使用するための不均一触媒反応用の
改善された担体及び担持型触媒を提供することにある。」と記載されている
から,本願発明1における「流動相触媒化学反応」は,「流動相の反応物及
び生成物と固相の触媒とで行われる不均一触媒反応」を指すものと解するこ
とができる。
そして本願明細書には,前記2(1)カのとおり,「移動床又は流動床方法
において,担持された触媒を,そのプロセスにおける反応物の流れで流動化
又は乗せる。担持された触媒を同時に反応物/生成物で流す。反応段階の終
わりに,載せられた担持された触媒は,未反応反応物/生成物流から,例え
ば濾過機,遠心機,又はサイクロン分離機等によって分離され,反応段階の
最初に再生利用される。流動床方法において,担持された触媒の床は流動化
されているが,反応物が床を通って動く時に固定域の境界に残り,反応し
て,生成物を形成する。この場合において,反応物/生成物流れに乗ったど
んな担持された触媒でも,適当な手段によって,分離され,流動床へ戻され
る。」と記載されている。
そうすると,「流動床方式の反応」は,本願発明1にいう「流動相触媒化
学反応」に含まれるものと解される。
(4)上記(2)(3)で述べたところに照らすと,当業者は,引用発明1の「フィ
ブリルマット」を本願発明1の「流動相触媒化学反応」に用いることを容易
に想到することができたものと認められる。その旨の審決の判断に誤りはな
い。
なお,原告は,引用文献1の記載から,フィブリルマットが流動相反応用
にそれを適用するのに十分な機械的強度を有することは,数量的に証明され
ていないと主張する。しかし,上記のとおり,当業者は,引用発明1の「フ
ィブリルマット」を本願発明1の「流動相触媒化学反応」に用いることを容
易に想到することができたというべきであって,そのことは,フィブリルマ
ットが十分な機械的強度を有することが数量的に証明されているかどうかに
関わらないというべきである。
(5)以上のとおり原告主張の取消事由3は理由がない。
6取消事由4(本願発明1の作用効果に関する判断の誤り)について
(1)前記2(1)の本願明細書の記載によると,本願発明1の作用効果は,高い
多孔度,純度及び耐触媒摩滅性を有する,流動相触媒化学反応を行うための
炭素担体を提供することにあると認められるが,本願発明1と引用発明1と
の相違点1∼3は,既に述べたとおり,引用発明1及び2から容易に想到す
ることができたと認められるのであって,その作用効果についても格別のも
のとは認められない。
したがって,審決の「…本願発明1の作用効果も,引用文献1及び引用文
献2の記載事項から当業者が予測できる範囲のものであるといえる。」(7
頁下6行∼下7行)との判断に誤りがあるということはできない。
(2)また原告は,引用文献2には炭素原繊維集合体について記載されていない
ので,本願発明1の原繊維集合体を示唆していないし,引用発明1のフィブ
リルマットが流動相反応用にそれを適用するのに十分な機械的強度を有する
ことは数量的に証明されていないと主張するが,この点については,前記5
で述べたとおりであって,上記(1)の判断を左右するものではない。
(3)以上のとおり原告主張の取消事由4は理由がない。
7結論
以上の次第で原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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