弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主     文
      本件控訴を棄却する。
      当審における未決勾留日数中140日を原判決の刑に算入する。
          理     由
 本件控訴の趣意は,弁護人江藤洋一作成の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正申立書
記載のとおりであるから,これらを引用する。
 所論は,要するに,被告人を懲役2年の刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当で
あり,刑の執行を猶予することを求める,というのである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討すると,本件
は,外務省アジア太平洋経済協力大阪会議開催準備事務局次長として,同会議に使用
される会議場の選定等の後方支援業務及び予算執行上の事務等,同事務局の業務全
般を統括し決定する実質的権限を有していた被告人が,① 株式会社ホテルニューオ
ータニ(平成12年の商号変更により株式会社ニューオータニ。以下「ニューオータニ」と
いう。)営業部国際営業課係長であったAと共謀の上,平成7年10月に上記会議の一環
としてホテルニューオータニ東京で開催されたアジア太平洋経済協力東京高級実務者
会合等に要した室料等を水増し請求して外務省から金員を詐取しようと企て,平成8年
2月下旬ころ,前記Aが,外務省大臣官房会計課調達室等の職員を介して,同省におけ
る予算支出負担行為及び支出の実質的最終決裁権者である同室長の代理決裁権限を
有する職員に対し,真実は被告人から指示された割合に基づいて,実際に要した室料
等に水増しした額を上乗せした金額であるのに,これを秘し,あたかも前記会合等に実
際に要した室料等であるかのように装って1億0964万0546円の支払を請求し,同職
員をしてこの請求金額が同会合等に要した実際の室料等であると誤信させて決裁させ,
同年3月7日,前記ニューオータニの普通預金口座に同額を振込入金させ,② ホテル
ニューオータニ大阪のAPEC接遇準備事務局担当支配人であったBと共謀の上,平成
7年11月にホテルニューオータニ大阪で開催されたアジア太平洋経済協力第7回閣僚
会議等に要した室料等を水増し請求して外務省から金員を詐取しようと企て,平成8年
3月中旬ころ,上記Bが,前同様装い,上記のとおり代理決裁権限を有する上記職員に
対し,実際に要した室料等に水増しした額を上乗せした額である3億1251万8215円
の支払を請求し,同職員を誤信させて決裁させ,同月26日,ニューオータニの普通預
金口座に同額を振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させたという詐欺の事案
であるが,原判決が「量刑の理由」で適切に判示するとおり,本件の犯情は悪質である
といわねばならない。
 外務省の多くの部署では,当該部署に対する営業を担当するニューオータニの従業員
に,国際会議等の経費を水増しして請求させ,実費との差額をその部署ごとにプール
し,「預り金」と称してニューオータニに管理させ,正規の予算では支出できない経費の
支払に充てたり,同省職員の歓送迎会や残業の際などの食事代等の費用に充てたりす
る取扱いが恒常的になされていたところ,被告人は,昭和53年に同省経済局総務参事
官室庶務主任に異動した際,前任者からニューオータニでの「預り金」の引継ぎを受け,
その翌年ころには,ホテル側の担当者に個人的にも使わせて欲しい旨申し出た上で「預
り金」を個人的なホテルでの宿泊や飲食等の費用にも費消するようになる中(なお,ホテ
ル側の担当者は,被告人が外務省内で国際会議の会議場選定等に大きな影響力を持
っていることを知っていたことから,被告人に便宜を図ってもらうにためには,「預り金」
の個人的流用もやむを得ないものと考え,「預り金」からの支払に応じてきた。),平成7
年10月と11月に東京及び大阪で開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)関連の
会議における後方支援業務等の実質的責任者となったことから,規模の大きな国際会
議であるから多額の水増し請求が可能であることに目をつけ,個人的に流用していた分
が相当の額になっていたこともあって,この機会に「預り金」を増やしておこうと考え,本
件各犯行に及んだものである。
 上記のような本件各犯行に至る経緯及び動機を見ると,本件は,私利私欲を伴った誠
に自己中心的な犯行であり,酌量の余地はない。その上,被告人は,38年余りにわた
り国家公務員としての職務を遂行しており,本件の際には,APEC関連の会議における
後方支援業務等の実質的責任者としての重大な職責を担うとともに,国民から負託され
た予算の厳格な執行をゆだねられ,高い倫理性や廉潔性を持って職務を誠実に遂行す
べきであったにもかかわらず,自らの地位や権限を悪用し,多額の国費を詐取したもの
であって,被告人の行為は強い非難に値する。
 また,本件各犯行の態様を見ると,被告人は共犯者らに対し水増し請求をする項目や
その割合などを指示し,これに基づいて共犯者らが,ニューオータニの担当者らに経費
算定の基礎となる資料を作り直させ,この水増しされた内容の資料をもとに計算した見
積書や請求書などを作成した上で,外務省に対し,外見上も経費の水増しが行われて
いることが分からないような書類を提出するなどしているのであって,その態様は,計画
的かつ巧妙で悪質である。
 そして,本件詐取金額の中にはAPEC関連会議等の経費として正規に支払われた部
分が多くを占めているとはいえ,詐取金額が合計4億2000万円余りと巨額であるとこ
ろ,被告人が個人的に費消しようともくろんだ水増し額も合計4000万円ほどと極めて多
額に及んでいるのであって,本件が社会に与えた衝撃は大きく,外務省だけではなく公
務員に対する国民の信頼を失墜させたことにもかんがみると,本件の結果は極めて重
大である。
 これに加えて,被告人は,本件各犯行を積極的に主導し,多額の金員を詐取している
が,本件各犯行の後,「預り金」の中から1700万円余りを,交際相手や友人らと一緒に
ニューオータニ系列のホテルやゴルフ場などを利用した際の費用に充てており,本件以
前から長期間にわたり「預り金」を私的に流用していたことがうかがわれることにも照ら
すと,被告人の倫理観や規範意識の欠如も甚だしく,被告人の刑責は重いといわざるを
得ない。
 そうすると,被告人は,本件各犯行を一貫して認め,反省・悔悟の情を示していること,
本件詐取金額の多くの部分が正規の費用として支出されていた上,被告人は,外務省
の内部調査等により平成7年度から平成13年度までの間に「預り金」から個人的に費
消したと認定された2550万余りとこれに対する延滞金についての納入告知を受け,こ
れに応じることとして原判決までに2600万円を超える額を同省に返納した上,原判決
後にも還付された保釈保証金500万円の中から延滞金を含め合計466万円余りを納
付して返納を完了していること,被告人は,本件により懲戒免職処分を受けたほか,原
判決後再保釈請求をせずに身柄拘束をされ,これが半年近くになろうとするなど,一定
の社会的制裁を受けていること,外務省職員の有志や叔母から被告人の減刑を嘆願す
る書面が提出されていること,被告人には前科前歴がなく,本件各犯行に及んで,「預り
金」を私的に流用してきたことを除けば,外務省職員としてまじめに稼働し,それなりの
勤務実績を上げてきたこと,その他共犯者の量刑など所論指摘の事情を考慮しても,本
件については実刑を免れない事案というべきであって,刑期の点を含め,原判決の前記
量刑は相当であり,これが重過ぎて不当であるとはいえない。
 よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾
留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。
  平成14年10月30日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官   高  橋  省  吾
             裁判官   小  原  春  夫
             裁判官   山  田  耕  司

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