弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一、原告らの請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告ら)
一 被告が原告Aに対して、昭和四五年七月九日付でなした昭和四四年分所得税の
総所得金額を五七三万〇、四七二円とする更正処分のうち総所得金額七一万三、五
六二円を超える部分及び同日付でなした過少申告加算税八万五、四〇〇円の賦課決
定処分をいずれも取消す。
二 被告が原告B、同C及び同Dに対して、いずれも同日付でなした昭和四四年分
所得税の総所得金額を三六六万九、〇九六円とする更正処分のうち総所得金額四二
万四、四八九円を超える部分、及びいずれも同日付でなした過少申告加算税四万
四、三〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
(被 告)
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
(原告らの請求原因)
原告Aは被告に対し、昭和四四年分所得税について七一万三、五六二円を総所得金
額として確定申告したところ、被告はこれに対し昭和四五年七月九日付で総所得金
額を五七三万〇、四七二円とする更正処分及び過少申告加算税八万五、四〇〇円の
賦課決定処分をなした。
また、原告B、同C及び同Dは被告に対し、昭和四四年分所得税についてそれぞれ
四二万四、四八九円を総所得金額として確定申告したところ、被告はこれに対し同
日付でそれぞれ総所得金額を三六六万九、〇九六円とする更正処分及び過少申告加
算税四万四、三〇〇円の賦課決定処分をなした。
そこで、原告らは、右各処分を不服として昭和四五年九月二日被告に対して異議申
立てをしたが、被告は同年一一月三〇日右異議申立てをいずれも棄却したので、原
告らはさらに同年一二月二八日国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、
昭和四六年一一月四日付で右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決がなされ、同月
一八日裁決書謄本の送達を受けた。
しかしながら、被告の原告らに対する右各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処
分はいずれも違法であるから、その取消しを求める。
(請求原因に対する被告の認否)
すべて認める。
(被告の抗弁)
一 原告らは、神戸市<以下略>宅地一五一・二三平方メートルの借地権及び同地
上の木造瓦葺三階建三一〇・一三平方メートルの建物を各共有(その持分は原告A
において三分の一、原告B、同C及び同Dにおいてそれぞれ九分の二宛)していた
が、都市再開発法附則三条の規定により廃止される前の公共施設の整備に関連する
市街地の改造に関する法律(以下、市街地改造法という。)によつて、右所在地区
に市街地改造事業が施行され、昭和四三年八月五日右事業の施行者である神戸市に
それぞれ右借地権及び建物の各共有持分を譲渡した。
そして、原告らは、右譲渡により神戸市から払渡しを受けるべき対償の三、一八三
万六、七一一円と原告らの支出にかかる一、六一九万七、二八九円の合計額四、八
〇三万四、〇〇〇円をもつて市街地改造法の規定する別紙目録記載A及びBの建築
施設の部分の給付を受ける権利(以下、建築施設譲受権という。)を神戸市から取
得した(原告らの醵出金額の割合及び右建築施設譲受権の共有持分は、いずれも右
借地権及び建物の持分に同じ。)。その後、原告らは、昭和四四年一一月に右Bの
建築施設譲受権をEに、三、〇〇〇万円で譲渡した(原告ら各自の所得金額はそれ
ぞれ右共有持分に比例した金額である。)。
二 原告らの右建築施設譲受権の譲渡による昭和四四年分譲渡所得は次表のように
なる。
(一) 原告A分
<略>
(二) 原告B、同C及び同Dの各人分
<略>
右の譲渡所得金額を加えると、原告らの昭和四四年分の総所得金額、所得税額は次
表のようになり、被告は、これに基き本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定
処分を行なつたもので、これらの処分には何ら違法の点はない。
(一) 原告A分
<略>
(二) 原告B、同C及び同Dの各人分
<略>
(抗弁に対する原告らの認否)
一 第一項は認める。
二 第二項のうち、原告らの本件譲渡資産の収入金額及び必要経費、雑所得金額、
所得控除金額がそれぞれ被告主張のとおりであり、被告主張の根拠により各課税額
を計算すると、被告主張のとおりとなることは、認める。
(原告らの再抗弁)
一 原告らは、昭和四四年分所得税申告当時、昭和四五年七月三一日原告らの居住
の用に供する土地、建物を四、五〇〇万円で取得をし、かつ、取得の日から一年以
内に居住の用に供する見込であつた(原告らの共有持分は右借地権及び建物の持分
に同じ。)。
二 そこで、原告らは、昭和四四年分譲渡所得に1ついて、租税特別措置法附則
(昭和四四年法律第一五号)第八条第一項の規定により、同項第一号の規定を選択
した。すなわち、原告らは居住用財産の買換えの特例規定(右昭和四四年法律第一
五号による改正前の租税特別措置法(以下、旧法という)第三五条第二項による同
条第一項の準用規定)の適用を受けるため、被告に取得価額の見積額の承認申請書
を提出するとともに、昭和四四年分所得税確定申告書に旧法第三五条第三項に規定
するこれらの規定の適用を受けようとする旨の記載をしたうえ、右の特例規定の適
用の結果次のとおり譲渡資産の譲渡がなかつたものとして譲渡所得は零となるの
で、他の所得についてのみ確定申告をしたものである。
(一) 原告A分
<略>
(二) 原告B、同C及び同Dの各人分
<略>
三 ところが、被告は、右建築施設譲受権の譲渡は、旧法第三五条に規定する「土
地若しくは土地の上に存する権利又は家屋」の譲渡に該当しないとして、原告らの
右承認申請を認めず、前記更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をなしたもの
である。
四 しかし、被告のなした右処分は旧法第三五条の解釈を誤つたものであつて、そ
の詳細は次のとおりである。
(一) 原告らがEに譲渡した右建築施設譲受権は旧法第三五条に規定する家屋に
該当する。
すなわち、市街地改造法第四〇条、第四一条によると、建築施設の部分の譲受け予
定者等は工事完了公告の翌日において、建築施設の部分を取得すると定められては
いるが、右取得の対価は既に旧権利の施行者への譲渡に際して施行者である神戸市
に支払われているのであるから、建築施設の部分の給付を受ける権利とはいつて
も、実質的には請負代金全額を先払した注文者と同様の地位にあることは明らかで
ある。そうだとすれば、建築中の建物が請負代金支払の場合にあつては、進行の程
度に応じ注文者に帰属するのが当然とされるように、施設建築物についても建設の
当初より実質的には原告の予定個所に対する所有権があるといつても妨げなく、同
法第四一条の規定は所有権保存登記をなし得る時期を画一的に定めた規定と理解す
べきである。
しかも、右譲渡当時右施設建築物は殆ど完成し、当初は昭和四四年一一月中に完成
公告がなされる予定であつたが、施行者側の事情によりこれが遅延したのであるか
ら、譲受けるべき建築施設の部分の実質的所有権は原告に帰属していたと解すべき
であり、従つて、右建築施設譲受権は旧法第三五条に規定する家屋に該当するもの
というべきである。
また、課税実務上の扱いも、旧法第三五条に規定する特例の主眼は再購入資産が居
住用のものであることにあるので、この点については厳格に解されているが、譲渡
した不動産については極めて柔軟に運用されているのが実情である。
(二) 原告らは、原告ら共有の前記借地権及び建物の対償三、一八三万六、七一
一円の譲渡所得について、昭和四三年分の所得税確定申告に際し、旧法第三三条の
二に規定するいわゆる一、二〇〇万円の特別控除の特例を選択した。被告は、旧法
第三五条に規定する買換えの特例が認められるのは右譲渡所得について旧法第三二
条第一項の特例を選択した場合のみであるように主張するが、旧法第三二条第五項
は同法第三五条の買換えの規定と直接のつながりはなく、たまたま第三二条第五項
で譲渡時期が決定され、その結果買換えの特例を受けることが可能となつたにすぎ
ず、それ以外の場合を排除する意味ではない。
(再抗弁に対する被告の認否)
一 第二、第三項は認める。
二 第四項のうち(一)の当該施設建築物が昭和四四年一一月に殆ど完成したこと
は知らない。また、当該施設建築物が昭和四四年一一月に完成予定であつたことは
認める。(二)の原告らが原告ら共有の前記借地権及び建物の対償の譲渡所得につ
いて、昭和四三年分の所得税確定申告に際し、旧法第三三条の二に規定する特例を
選択したことは認める。
三 原告らがEに譲渡した右建築施設譲受権は建築施設の部分そのものではないの
であるから、旧法第三五条第一項に規定する「土地等又は家屋」に該当せず、「居
住用財産の買換えの場合の課税の特例」の規定の適用はない。もつとも、建築施設
譲受権であつても、旧法第三二条第五項前段に該当するときは、例外的に右特例の
規定の適用はあるが、本件において原告らは前記借地権及び建物の神戸市による買
収に伴う旧法の特例について、同法第三三条の二に規定する「特定公共事業の用地
の買収等の場合の課税の特例」を選択し、同法第三二条第一項に規定する「換地処
分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例」の規定の適用を受けていないので、
同条第五項前段の規定の適用はない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因事実、抗弁第一項の事実及び再抗弁第二、第三項の事実は、当事者間
に争いがない。
二 そこで、原告らの譲渡した建築施設譲受権が旧法第三五条の規定する譲渡資産
に該当するか否かにつき判断するに、同条は取得資産及び譲渡資産として、いずれ
も「土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋」をあげているが、同条が住宅建
設を促進する見地から取得価額の引継ぎの方法による譲渡所得の繰延べを認める趣
旨でもうけられ、右「土地の上に存する権利」とは土地そのものを利用することを
目的とする権利をいうものであり、また、右規定が右のような政策目的を達成する
ための税制上の特別の優遇措置であるから、税負担の公平の見地からその要件は限
定的に解すべきものといわなければならない。
ところで、右建築施設譲受権は、市街地改造法によつて認められた建築施設(施設
建築物及び施設建築敷地)の部分の給付を受ける権利であつて、その譲渡又はそれ
を目的とする質権の設定は、民法第四六七条の規定に従い、施行者に通知しなけれ
ば施行者その他の第三者に対抗することができず、建築施設の部分の譲受け予定者
は、施行者によつて建築施設整備事業に関する工事が完了しその旨公告された日の
翌日において、管理処分計画において定めた建築施設の部分を取得するものとされ
ている。従つて、建築施設譲受権は、具体的な使用収益権限を伴わない建築施設の
部分の給付を受ける債権にすぎないものというべきであるから、同条の規定する譲
渡資産には該当しないものといわざるを得ない。
原告らは、本件においては、建築施設部分の対価は既に施行者である神戸市に支払
われ、当初は昭和四四年一一月中に完成公告がされる予定であり、譲渡当時施設建
築物は殆ど完成していたにもかかわらず、施行者側の事情により完成公告が遅延し
たのであるから、同条を適用すべきであると主張するが、建築施設は工事完了の公
告の日までは施行者に帰属し、建築施設の部分の譲受け予定者は右建築施設譲受権
を有するにすぎないのであるから、仮りに右の諸事実が認められるとしても、同条
に該当するものとはいえない。
また、原告らが、原告ら共有の借地権及び建物の対償三、一八三万六、七一一円の
譲渡所得について、昭和四三年分の所得税確定申告に際し、旧法第三三条の二に規
定するいわゆる一、二〇〇万円の特別控除の特例を選択したことは当事者間に争い
がないのであるから、原告らが右建築施設譲受権の譲渡について同法第三二条第五
項の適用を受ける余地はなく、従つて、いずれにしても原告らが右権利の譲渡につ
いて、同法第三五条の定める特例の適用を受けることはないものといわざるを得な
い。
よつて、その余の要件について判断するまでもなく、原告の再抗弁は理由がない。
三 原告らの本件譲渡資産の収入金額及び必要経費、雑所得金額、所得控除金額が
それぞれ抗弁第二項のとおりであり、右により各課税額を計算すると同項のとおり
となることは、当事者間に争いがない。
以上によれば、被告のなした本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に
は、違法はなく、適法というべきである。
四 よつて、原告らの被告に対する本訴請求をいずれも失当として棄却することと
し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 下郡山信夫 河合治夫 牧 弘二)
(別紙)
目録
A 神戸市<以下略>
建築施設の部分の給付を受ける権利
価格 金三、三九八万五、〇〇〇円
B 右同所 一五〇番号
建築施設の部分の給付を受ける権利
価額 金一、四〇四万九、〇〇〇円

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