弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人徳弘壽男の上告理由について
 一 本件は、被上告組合が、本件訴訟の提起当時は理事であった上告人に対し、
その任務を怠って被上告組合に損害を生じさせたとして、その賠償を求めるもので
あるところ、所論にかんがみ、本件訴訟における被上告組合の訴訟行為の適法性に
ついて検討する。
 1 本件訴訟は、平成四年二月二八日に、被上告組合の監事であるDが被上告組
合を代表して提起したものであるが、当時施行されていた農業協同組合法三三条(
以下「旧法三三条」という。)は、「組合が理事と契約するときは、監事が、組合
を代表する。組合と理事との訴訟についても、また同様とする。」と規定していた。
同条後段の趣旨とするところは、組合と理事との間の訴訟について、他の理事に組
合を代表させたのでは、組合の利益よりも同僚である訴訟の相手方の理事の利益を
優先させ、いわゆるなれ合い訴訟により組合の利益を害するおそれがあるため、こ
れを防止することにあったものと解される(最高裁平成元年(オ)第一〇〇六号同
五年三月三〇日第三小法廷判決・民集四七巻四号三四三九頁参照)。右の趣旨に照
らすと、監事は、旧法三三条により、単に組合と理事との間の訴訟において訴訟行
為を行う権限を有するだけではなく、組合の利益の実現のため、組合を代表して理
事に対する訴訟を提起するか否かにつき決定する権限も有していたものと解すべき
である。
 記録によれば、被上告組合の規約一九条一〇号は、被上告組合が訴訟を提起する
に当たっては理事会の決議を要する旨定めているところ、仮に右が監事において被
上告組合を代表して理事に対する訴訟を提起する場合にも適用されるものとすると、
前記の法の解釈に抵触し、右規約の規定は右の限りで無効といわざるを得なくなる
が、このような結果を招くことは、規約の制定に当たり意図されていたものとは考
え難い。してみると、被上告組合が理事に対して訴訟を提起する場合は、右規約の
規定の適用の対象から除外されていたものと解するのが相当であり、被上告組合の
監事であるDが、当時理事であった上告人に対して本件訴訟を提起するに当たり、
事前に理事会の決議を得ていなかったとしても、右は、Dの右訴訟行為の適法性を
左右するものではないものといわなければならない。
 2 また、職権により調査するに、平成四年一〇月一五日から施行された同年法
律第五六号等による改正後の農業協同組合法は、組合と理事との間の訴訟について
商法二七五条ノ四前段を準用し、右訴訟においては監事が組合を代表すべきものと
しているが、その趣旨とするところも、旧法三三条後段について既に述べたところ
と同一と解される。そして、商法二七五条ノ四前段は、会社と取締役との間の訴訟
に関し「其ノ訴ニ付テハ」監査役が会社を代表すべきものとしていること、また、
いわゆるなれ合い訴訟を防止するとの前記の法の趣旨が容易に潜脱されるのを防ぐ
べきことを考慮すると、同規定が準用される組合と理事との間の訴訟において、訴
訟の係属中に相手方である理事がその地位を失ったとしても、監事は、その後の訴
訟行為について、なお組合を代表する権限を有するものと解するのが相当である。
 記録によれば、上告人は、本訴が第一審に係属中の平成四年三月一六日、被上告
組合の理事を退任し、原審では、当初、代表理事であるEが被上告組合を代表して
いたが、口頭弁論の終結に先立って、被上告組合の監事であるFが、同組合を代表
して南正弁護士に対して本件の訴訟行為を委任し、同弁護士は本案について弁論を
行っていることが明らかである。既に述べたところによれば、Fは、右委任当時、
被上告組合を適法に代表する権限を有していたものであり、南弁護士はその委任に
基づき本案についての弁論を行っているのであるから、原審での審理の当初に安岡
を被上告組合の代表者として行われた訴訟行為は、南弁護士の右訴訟行為によって
追認されたものというべきである。
 二 そうすると、本件訴訟における被上告組合の訴訟行為には、違法とすべき点
は認められないものというべきであり、原判決は、右と同旨をいうものとして、是
認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    元   原   利   文
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    金   谷   利   廣

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