弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人日下基の上告理由第一点、第三点、第四点、第五点について。
 約束手形が代理人によりその権限を超越して振り出された場合に、民法一一〇条
によりこれを有効とするには、手形受取人において右代理人に振出の権限があるも
のと信ずべき正当の理由を有するときに限るのであって、かかる事由のないときは、
たとい、その後の手形所持人において右代理人に振出の権限があるものと信ずべき
正当の理由を有していたとしても、同条を適用して右所持人に対し振出人をして手
形上の責任を負担せしめ得ないものと解すべきである(大正一三年(オ)第六〇一
号同一四年三月一二日大審院判決・民集四巻一二〇頁、昭和三二年(オ)第六二〇
号同三六年一二月一二日第三小法廷判決・民集一五巻一一号二七五六頁)。そして、
原判決によれば、訴外Dが訴外合資会社E商会にあててなした本件約束手形の振出
行為はいわゆる無権限(権限超越)署名代理行為なるところ、Dが右行為をなすに
至つた動機経緯は原判示の如きものであって、手形受取人たる同訴外会社にはDの
振出権限を信ずべき正当の理由があるとは認められないというのであり、原審の右
認定はその挙示の証拠に照らし是認するに難くないから、仮に被裏書人たる上告人
会社において本件約束手形振出行為についての権限の存在を信じ、かつ、これを信
じたことにつき正当の理由を有していたとしても、被上告人は上告人会社に対し本
件約束手形上の責任を負担しないものとなすべきである。所論の点に関する原判示
も、結局は、右と同趣旨に帰するものであるから、正当であって、原判決には何ら
所論の如き違法はない。論旨は、すべて理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、本件約束手形は訴外合資会社E商会がその使用人としての訴外D(論旨
にFとあるのは、誤記と認める。)に命じて振り出させたものであるから、その振
出人は右訴外会社であるとの事実を前提として議論をするが、原審がさような事実
を認定したものでないことは、原判文に徴して明らかである。論旨は、原判示を正
解せざるものであって、結局は、右の如き原審認定外の事実を前提として原判決に
所論の違法がある如くいうものであるから、すべて採用することができない。
 よって、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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