弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役6年6月及び罰金70万円に処する。
未決勾留日数中260日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
押収してある覚せい剤結晶粉末(合成樹脂袋入り)13袋(平成13年押
第90号の1ないし11,13及び14)及び覚せい剤結晶粉末(紙片に包
まれたもの)1包(同押号の12)を没収する。
被告人から金5万7000円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成13年3月27日ころ,兵
庫県姫路市a区b番地のc所在の同女方において,同女に対し,フエニルメチ
ルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶粉末約0.06グラムを水に
溶かしてその身体に注射してやり,もって,覚せい剤を使用し,
第2営利の目的で,同年7月2日午後零時7分ころ,岡山市d町e番f号先路上
において,みだりに,フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい
剤結晶粉末合計約14.666グラム(合成樹脂袋入り13袋及び紙片に包ま
,)れたもの1包平成13年押第90号の1ないし14はいずれもその鑑定残量
を所持し,
第3法定の除外事由がないのに,同月1日ころ,同市g町h丁目i番j号所在の
Bコーポ502号室において,フエニルメチルアミノプロパンの塩類を含有す
る覚せい剤結晶粉末約0.08グラムを水に溶かして自己の身体に注射し,も
って,覚せい剤を使用し,
第4営利の目的で,みだりに,
1同年5月16日ころ,同市k町l番m号所在のC403号室において,Dに
,.対しフエニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶粉末約0
8グラムを代金1万5000円で譲り渡し,
2同月23日,前記第4の1記載の場所において,Eに対し,フエニルメチル
アミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶粉末約0.251グラムを代金
2000円で譲り渡し,
3同年6月7日,同市n町o番p号先路上において,Fに対し,フエニルメチ
ルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶粉末約1グラムを代金1万5
000円で譲り渡し,
4同月28日,同市q町r番s号所在のG内301号室において,前記Dに対
し,前記第4の2と同様の覚せい剤結晶粉末約1.6グラムを代金2万600
0円(うち1000円は後払いの約束)で譲り渡し
たものである。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,①判示第2の覚せい剤所持は営利目的ではなく,自己使用目的であっ
た,②判示第4の2のEへの覚せい剤の有償譲渡について,覚せい剤及び金銭の授
受があったことは認めるが,当該覚せい剤と金銭の対価関係はなく,金銭は貸金の
利息として受け取った,③判示第4の3のFへの覚せい剤の有償譲渡について,代
金は受け取っていない,④判示第4の4のDへの覚せい剤の有償譲渡について,覚
せい剤の量目は不明であり,代金は受け取っていない,⑤判示第4の1ないし4の
各譲渡について,営利目的はなかった旨主張し,被告人も公判廷でこれに沿う供述
をするので,以下検討する。
第1判示第2の覚せい剤所持の営利目的の有無について
1関係各証拠によれば,①被告人の薬物所持量は約14.666グラムと多量
であること,②前記薬物は合成樹脂袋入り13袋及び紙片に包まれたもの1包
に小分けされていたが,その内訳は,0.9グラム前後のものが10袋,0.
252グラムのものが1袋,0.281グラムのものが1包,4.782グラ
ムのものが1袋であったこと,③前記の覚せい剤は,いずれも被告人のズボン
のベルトに通されていた黄色革製小銭入れに入れられていたこと,④被告人が
賃借していた部屋には覚せい剤の小分けにも使用することのできる合成樹脂袋
が小封筒に入れられて11袋置かれていたこと,⑤被告人が本件覚せい剤所持
で逮捕された際,乗車していた自動車から合計60本の未開封の袋入り注射器
(内訳は注射器新品10本在中の茶封筒が2袋,注射器新品2本ずつ在中の茶
封筒が15袋,そして新品の注射器10本)及び一片が斜めに切ってあるスト
ロー片が発見されていること,⑥前刑出所後,被告人には定職がなく,収入と
しては,生活保護給付金,消費者金融業者からの元本額合計100万円あまり
に上る借金,氏名不詳者の運転手を務めた際の報酬,自己が貸し付けた金の弁
済金などがある一方,さしたる遅延もなく消費者金融業者に対する前記借金の
返済を行ったり,本件覚せい剤を氏名不詳者から入手したり,3件の居室及び
建物を賃借したりしていたことが認められる。
2Gの検察官調書謄本(43)の信用性
以上に加え,被告人の覚せい剤入手状況,所持状況,譲渡状況に関し,Gの
検察官調書謄本(43)が作成されているが,同人の第2回公判調書中の供述
(,「」。),,部分以下単に公判供述というはこれと相違する部分があるので
以下,その信用性につき検討する。
(1)Gの検察官調書謄本は,①被告人との会話の中で,被告人がHから小分
けしてある覚せい剤,すなわちシャブのパケを仕入れて,密売しているこ
とが分かったこと,②被告人は,常時,茶色の小さいバッグをズボンのベ
ルトにぶら下げており,そのバッグ内に小分けされたシャブのパケをたく
さん入れていたこと,③前記バッグは,シャブを持ち歩くために前記Hか
ら贈られたものであること,④被告人は,使用していた自動車の中に箱入
りのインシュリン用注射器をいくらか持っていて,客の求めに応じて販売
していたこと,⑤覚せい剤1グラムくらいの入ったシャブのパケを一度に
20個くらいまとめて仕入れ,仕入れ価格は1グラム当たり7000円な
いし8000円であると被告人から聞いていたこと,⑥被告人は,求めに
応じて無料で覚せい剤を与えていたこともあるが,代金を取って売ること
もあり,その価格は1グラム入り1パケ当たり1万5000円ないし2万
円であったこと,⑦平成13年4月20日ころ,岡山市k町のC403号
室において,被告人から,覚せい剤1グラム入りパケ2つを代金2万20
00円で購入したこと,⑧被告人の客として,F,I,J,K,Lらがい
たこと,⑨前記Fについては,平成13年3月ころ,被告人の車に同乗し
て一緒に行動していた際,被告人が,岡山駅前のパチンコ店横の路地で,
代金1万5000円くらいで覚せい剤を売っているのを2回くらい目撃し
ていること,⑩前記Iは,自分が売るために覚せい剤を被告人から仕入れ
ていたこと等を内容としている。
上記Gの検察官調書謄本は,以下の理由から信用できる。すなわち,②
の点については,被告人が本件所持で逮捕された際,ズボンのベルトに通
した黄色革製小銭入れ内に小分けされた覚せい剤のパケを多数入れて所持
していたことと符合し,また,④の点についても,被告人の逮捕の際,被
告人使用車両から大量の未使用注射器が発見されていることと符合する。
さらに,⑥のうち,覚せい剤の代金額の点及び⑨の点についても,後に述
べる信用できるFの検察官調書謄本(44)の内容と符合する。その上,
Gは,覚せい剤の仕入れ先,前記バッグないし小銭入れの入手先,仕入れ
金額,覚せい剤の購入者につき氏名や金額を具体的に供述しており,自ら
,,,。の譲り受け事実についても時期場所量金額を具体的に供述している
これらの点からすると,Gの検察官調書謄本は信用できる。
(2)他方,Gの公判供述について検討すると,Gは,覚せい剤とは極めて親
和性が高く,被告人を含め,多くの覚せい剤に親和している者らと交遊の
あった者で,被告人のいる公判廷で,真実を述べることをはばかったとし
ても不合理ではない。
また,信用できる同人の検察官調書謄本と矛盾する内容を含んでいる。
すなわち,同人の公判供述について見ると,同人は,捜査段階の供述の
うち,多くの点で,覚えていない又は分からないと供述するが,その変遷
の理由について,捜査段階では,参考調書であるから憶測でかまわないと
告げられたためとする。しかし,前記のとおり,客観的証拠と相当程度符
合する供述をしていることからすると,憶測に基づく供述であるとは認め
られない。また,前記のバッグないし小銭入れの色につき,いささかの齟
齬が生じているが,これについてそのまま調書が作成されていることから
すると,捜査官の誘導・示唆があったと考えることもできない。以上から
すると,公判廷において供述を変遷させた合理的理由が認められない。
また,同人の公判供述は,捜査段階における,被告人が代金をもらって
売ることもあった旨の供述について,売るというか,被告人が使用する分
,,を分けてくれるという趣旨であり密売しているということではないとか
同人の被告人からの購入代金額1パケ当たり1万1000円は元値額であ
るからとする一方で,なぜ,1パケ当たり1万1000円となったのか,
覚えていないとする矛盾も認められる。
以上から,Gの公判供述は,同人の検察官調書謄本(43)と矛盾する
限度で信用できない。
(3)そこで,前記信用できるGの検察官調書謄本によれば,①被告人は,常
時,袋に小分けした覚せい剤を所持しており,客の注文に応じて販売して
いたこと,②被告人は,使用している自動車内に,販売用の注射器を用意
しており,客の求めに応じて販売していたこと,③被告人は約1グラムの
袋入り覚せい剤を20袋くらいずつ仕入れており,その仕入れ値は約1グ
ラム当たり7000円ないし8000円であったこと,④被告人の通常の
売値は約1グラム当たり1万5000円ないし2万円であったこと,⑤G
は,被告人から約1グラム入りの覚せい剤2袋を代金2万2000円で購
入したことがあることが認められる。
3Fの検察官調書謄本(44)の信用性
また被告人からの覚せい剤の入手状況等についてFの検察官調書謄本4,,(
4)が作成されているが,第2回公判調書中の同人の供述部分(証人尋問調書
。,「」。),を含む以下単に公判供述というはこれと矛盾する部分があるので
以下,その信用性につき検討する。
(1)Fの検察官調書謄本は①平成13年1月ころ被告人からF方へど,,,「
ねんしょんで,いきょんかな。いりゃあ,あるで」と覚せい剤を使用し。
ているか,必要なら覚せい剤を売ってやる旨電話がかかってきた,②同年
2月ころ,Fが被告人に注文して,F方付近に駐車した被告人の自動車内
で,Fの射ち量で10発分くらいの合成樹脂袋入り覚せい剤を代金1万5
,,000円で購入し2発分くらいの紙包みの覚せい剤をおまけでもらった
,,,,,③その後34回被告人から覚せい剤を購入した④そのうち1回は
Fから被告人に電話で注文し,被告人から指示された岡山駅前にあるパチ
ンコ店「M」の外の路上で,被告人から覚せい剤を購入した,⑤最後に被
告人から覚せい剤を購入したのは,同年6月7日ころ,岡山市o町の路上
,,,,,である⑥このほか小松原の家の近くで12回覚せい剤を購入した
⑦被告人から覚せい剤を無料でもらったことは一度もなく,いつも0.8
グラムくらい入っているシャブのパケ1個を代金1万5000円で購入し
,,ていたがいつも2発分くらいのシャブが入っている紙包みを1個くれた
⑧同年6月7日ころ,被告人から最後に覚せい剤を購入した状況は,Nに
誘われ,覚せい剤を一緒に購入することになり,Nが1万円,Fが500
0円を出すことにして,当初,被告人に電話をしたが,出なかったので,
Hに電話し,それからしばらく経った午後10時ころ,被告人から連絡を
もらい(そのことはFの携帯電話の着信履歴に残っていた,覚せい剤を。)
注文したところ,取引場所を指示され,そこで1万5000円を支払い,
覚せい剤0.8グラムくらいのパケ1つと,2発分くらいの紙包みをおま
けとして受け取った,⑨前記⑧の売買の際,被告人から注射器の購入を依
頼され,O薬局にインシュリン用注射器を代金1万円あまりで100本注
文し,自分が逮捕される前日である同月13日,被告人に電話をかけて,
P病院前まで来てもらい,これを引き渡し,立て替えた注射器代金として
被告人から1万1000円をもらったが,覚せい剤はもらっていないこと
等を内容とする。
上記Fの検察官調書謄本は以下の理由により信用できる。すなわち,④
の点が,前記Gの検察官調書謄本(43)と符合するほか,⑦のうち,覚
せい剤の各取引量が0.8グラムくらいであり,ほかにおまけとして2発
分くらいの紙包みを受け取っていたとの点及び⑨のうち,注射器の引渡し
があったとの点は,被告人が所持していた覚せい剤のうち10袋の内容量
が0.9グラム前後であり,1包みは覚せい剤0.281グラム入りの紙
包みであったこと及び被告人が本件所持により逮捕された際,その使用車
両内に注射器を多数保管していたこととそれぞれ符合する。加えて,各取
引の状況についても,取引時期,取引場所を相当程度具体的に述べており
(②,④,ことに最後の取引については,注文経過,購入代金の捻出者,)
日時を具体的に供述している。さらに,この最後の取引は,特別な出来事
として特に記憶が鮮明であると認められる,Fが逮捕される前日の注射器
取引と関連づけられており,携帯電話の通話記録に基づき供述されている
ことと考え併せると,なおさら信用すべきものといえる。これらの点から
すると,Fの検察官調書謄本は信用できる。
(2)他方,Fの公判供述を検討すると,Fは,覚せい剤との親和性が高く,
覚せい剤に親和している者らとの交遊もあり,被告人と前刑受刑中に知り
合った者で,被告人のいる公判廷で真実を述べることをはばかったとして
も不合理ではない。また,その内容は,信用できる同人の検察官調書謄本
と矛盾する内容を含んでいる。
すなわち,矛盾の主たる部分は,①最初の覚せい剤取引の際の代金授受
の有無の点,②岡山駅前のパチンコ店付近路上での覚せい剤取引の際の代
金授受の点である。
まず,①の点についてであるが,いわゆる刑務所仲間程度の付き合いで
あったFのために,わざわざ被告人が自動車に乗ってF方近くまで覚せい
剤を届けた上,その代金が無料であったことの合理的説明はなく,不自然
であるばかりでなく「おまけ」と称する覚せい剤2発分くらいの紙包み,
について,いったんは「1,2発分のものを別にもらったかも知れません
が・・・」と供述したのに,検察官から「10発分くらいが入ったパケ。,
一つの代金を支払って,2発分くらいの包みをおまけでもらったと供述し
たのではありませんか」と問い直されると「いいえ,違います」と返。,。
答していることは,無料であるのに「おまけ」があることの矛盾に気がつ
き,供述を変遷させていることを推認させる。
次に,②の点についてであるが,やはり,Fが電話で注文すると,岡山
駅前のパチンコ店付近路上まで出向いてきて,無料で覚せい剤を被告人が
譲渡するような人的関係がうかがわれず,その合理的説明がないので,不
自然である。また,無料であったと供述しているにもかかわらず「おま,
け」について「その時にもらったかも知れませんが,はっきりとは覚え,
ていません」としている点も不自然である。。
なお,Fは①及び②の供述を変遷させたことについて,警察で,無料で
あった旨の供述を信用してもらえなかったため,そのまま検察官にも有償
であった旨供述し,その旨の調書が作成されたと供述するが,前述のとお
り,無料であったとの供述自体,不自然で信用できないのだから,結局,
公判廷で,その供述を変遷させた理由も信用できない。
以上から,Fの公判供述は,同人の検察官調書謄本(44)と矛盾する
限度で信用できない。
(3)そこで,被告人が,Fに対し,平成13年2月ころから平成13年6月
7日ころまでの間,少なくとも3回,覚せい剤約0.8グラム入りのもの
1袋及び約0.2グラムの紙包み1つを代金1万5000円で販売したこ
とが認められる。
4以上により認められる各事実を総合すると,被告人は,約1グラム当たり7
000円ないし8000円で仕入れた覚せい剤を,ズボンのベルトに通した黄
,,色革製小銭入れに入れて持ち歩きFには約1グラム当たり1万5000円で
Gには約1グラム当たり1万1000円で販売した事実が認められ,これらの
事実及びその他の各証拠を総合すると,被告人の本件所持は,営利の目的であ
ったと認められる。
これに反する被告人の供述は信用できない。
第2判示第4の2の覚せい剤と金銭の対価関係の有無について
1関係各証拠によれば,①被告人が,平成13年5月23日,Eに対し,パケ
に入った覚せい剤約0.251グラムを譲渡したこと,②前記①の譲渡の際,
Eは,被告人に対し,2000円を渡したこと,③被告人は,Eに対し,7万
,,,,5000円を貸し付けていたこと④前記①の譲渡の際Eは被告人に対し
前記③の借金の返済金として1万5000円を渡したこと,⑤被告人は,Eに
対し,2回,無料で覚せい剤を与えたほか,代金5000円で3,4発分くら
いの覚せい剤を譲渡したことが認められる。
2Eの証言の信用性について
Eは,公判廷で,前記②の2000円について「返済分の金を払って,残,
りの所持金は2000円しかなかったのですが,これで覚せい剤を譲ってくれ
と私から頼んだら,被告人がパケに入った覚せい剤を1袋渡してくれたので
す」と供述するが,被告人はこれと矛盾する供述をするので,その信用性に。
つき検討する。
上記Eの公判供述は,代金額と譲り受け量の釣り合いがとれていないとはい
えないこと,借金の返済金1万5000円のほかに2000円を支払った経緯
の説明として合理的かつ自然であること,被告人がEに対して覚せい剤を譲り
渡した理由として合理的かつ自然な説明であることからすると,信用できる。
これと矛盾する被告人の供述は信用できない。
第3判示第4の3の代金授受の有無について
1前記第1の3のとおり,Fの検察官調書(140。ただし既に検討した44
の原本)が信用できることからすれば,平成13年6月7日に,被告人とFの
間に覚せい剤売却代金1万5000円の授受があった事実が認められる。
2なお,弁護人は,Fとの覚せい剤取引について,1万5000円の代金を受
け取ったことはあるが,平成13年6月7日ころのことではなく,別の日の取
引のときのことであると主張し,被告人も,代金1万5000円で覚せい剤を
譲渡したのは同日の1週間くらい前のことであり,同日は注射器1箱の謝礼と
して覚せい剤を渡した旨,これに沿う供述をする。
しかし,関係各証拠により信用できるPの供述中に,平成13年6月7日の
覚せい剤取引の際,Fが注射器を持参したことはうかがわれないこと,前記の
とおり信用できるFの検察官調書によれば,同日,覚せい剤取引の後,注射器
をFが注文してやる話となったのであるが,これは自己が逮捕される前日であ
る同月13日にQ病院前において注射器を引き渡したことと関連づけられてお
り,また,注射器の引渡しと立て替えていた代金の授受の日がF逮捕の前日で
あったこと,場所についても具体的に供述していることからすると,以上の供
述と矛盾する被告人の供述は信用できない。
第4判示第4の4の覚せい剤取引量及び代金授受の有無について
1代金授受の有無について
この点に関し,Dの検察官調書(96)が作成されているが,公判廷ではこ
れと矛盾する供述をしているので,その信用性につき検討する。
(1)Dの検察官調書の信用性について
Dは,同検察官調書において,①平成13年6月25日に10万円ちょっ
との給料をもらい,覚せい剤を購入したい気持ちになり,同月28日午後7
時過ぎころ,被告人に電話をかけて「これから行ってもええじゃろうか」,。
と聞いたところ,了解が得られ,教えられた岡山市q町所在のGというマン
,,,ションの301号室に行った②その際土産にブランデーを持っていった
③被告人の部屋に到着したのは午後8時ころである,④土産のブランデーを
渡した後「シャブを2パケ売ってくれ」と頼むと,被告人は黄色のポシ,。
ェットの中から,2つのビニールパケを取り出し,渡してくれた,⑤どちら
のパケも0.8グラムくらいの覚せい剤が入っていた,⑥代金は2万600
0円だったが,持ち合わせが2万5000円しかなかったので,1000円
分はつけにしてもらった,⑦ブランデーの礼として覚せい剤をもらったこと
はない,⑧覚せい剤購入後,被告人と最近の覚せい剤の質がよくないと話し
たところ,被告人は,黄色のポーチから覚せい剤が0.8グラムくらい入っ
たシャブのパケを10袋くらい取り出し,最近売られている「新ネタ」と,
以前売られていた「前のやつ」を見せられた等供述している。
Dの検察官調書は,内容が合理的かつ自然であり,また,①における購入
場所の点や,③の点,④における黄色のポシェットないしポーチから覚せい
剤を取りだした点,⑧における購入後の覚せい剤の質に関する談義の内容に
ついては具体的である。また,覚せい剤の購入量(⑤)と代金額(⑥)も釣
り合っており,代金額については,D方から押収された覚せい剤の袋に記載
された「1.5「1.1」という数字の合計と符合する。」,
これらの点からすると,Dの検察官調書は信用できる。
(2)他方,Dの公判供述について検討すると,Dは,覚せい剤との親和性が
高く,被告人から覚せい剤を譲り受けた当事者として,被告人のいる公判
廷で真実を述べることをはばかったとしても不合理ではない。
そして,Dは,公判廷において検察官調書と異なる供述をし,供述を変
遷させた理由について,捜査段階では気が動転しており,勘違いした,あ
るいは覚せい剤の影響で混乱していたなどと述べ,合理的な説明をせず,
覚せい剤の袋に記載された「1.5「1.1」という数字についても勘」,
で書いた重さであり,書いた理由について「自分がお金を払うてないも,
んだから,大体,このくらいの金を払わにゃおえんじゃろういうことで書
いただけ」と不合理な説明をしたりする一方,公判廷で証言することが刑
務所での自己の立場を悪くすることや,母親へ危害が及ぶ可能性をほのめ
かしたりしている。以上からDの公判供述中,同人の検察官調書(96)
と矛盾する部分については,信用性に乏しい。
なお,被告人は,覚せい剤をブランデーの礼として譲渡した旨供述する
が,前記の信用できるDの検察官調書と矛盾し,かつ不自然であるから信
用できない。
(3)そこで,被告人は,Dに対し,覚せい剤を代金2万6000円(うち1
000円を後払い)で譲渡したことが認められる。
2覚せい剤譲渡量について
この点について,Dは,捜査段階で,約0.8グラムのパケ2つ合計約1.
6グラムを譲り受けた旨供述する(96,91。Dの供述は,覚せい剤の量)
,,目見本も見た経験に基づくものであり同人方から押収された覚せい剤の量も
使用量を勘案すれば矛盾するものではないので,この点に関するDの供述は信
用できる。
第5判示第4の1ないし4の各譲渡の営利目的の有無について
関係各証拠によれば,各判示のような譲渡の外形的事実が認められるほか,
被告人が覚せい剤を黄色のポシェットないしポーチの中に1袋0.8グラムく
らいに小分けした袋を10袋くらい所持していたこと,Fへの譲渡の際は,こ
のポシェットないしポーチから覚せい剤を取り出したこと,被告人がD,E,
Fに対し,特別な人的関係に基づき,無償あるいは今後のことも含めて全体と
して見た場合に利益なしに覚せい剤を譲渡するような事情があったとは認めら
れないこと,前記認定のとおり,判示第4の1ないし4の各譲渡のいずれにつ
いても,D,E,Fから覚せい剤代金として金銭を受領していること,これま
でにも,被告人は,Fに対し,少なくとも3回覚せい剤約1グラムを代金1万
5000円で売っていたこと,被告人は,Fが連絡を取るとすぐに覚せい剤を
用意して販売に応じていたこと,大量の注射器を注文し,入手していたこと等
の事実も認められること,その他の関係各証拠をも含めて判断すると,営利目
的は優に認められる。
よって,弁護人の主張はいずれも採用しない。
(累犯前科)
被告人は,平成7年3月27日岡山地方裁判所で覚せい剤取締法違反罪により懲
役4年6月及び罰金50万円に処せられ,平成11年12月11日その懲役刑の執
,()行を受け終わったものであってこれらの事実は検察事務官作成の前科調書74
によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,
19条に,判示第2及び判示第4の1ないし4の各所為はいずれも同法41条の2
第2項,1項に,判示第3の所為は同法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ
該当するところ,判示第2及び第4の1ないし4の各罪につきいずれも情状により
所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,前記の前科があるので刑法56条1項,57
条により判示第1及び第3の各罪の刑並びに判示第2及び第4の1ないし4の各罪
の懲役刑についてそれぞれ再犯の加重をし(判示第2及び第4の1ないし4の各罪
については同法14条の制限内で加重,以上は同法45条前段の併合罪であるか)
ら,懲役刑については,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示
第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,罰金刑については,同法4
8条2項により判示第2及び第4の1ないし4の各罪所定の罰金の多額を合計し,
その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役6年6月及び罰金70万円に処し,同法
21条を適用して未決勾留日数中260日をその懲役刑に算入することとし,その
罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換
算した期間被告人を労役場に留置することとし押収してある覚せい剤結晶粉末合,(
成樹脂袋入り)13袋(平成13年押第90号の1ないし11,13及び14)及
び覚せい剤結晶粉末(紙片に包まれたもの)1包(同押号の12)は,いずれも判
示第2の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41
条の8第1項本文によりこれを没収し,判示第4の1ないし4の各犯行により被告
人が得た現金5万7000円は国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長
する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律1
1条1項1号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消して没収することができない
ので,同法13条1項前段によりその価額を被告人から追徴することとし,訴訟費
用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,覚せい剤の営利目的所持,営利目的譲渡4件,他人使用,自己使用から
成る事案である。
被告人は,一連の行為を通して,自ら覚せい剤に溺れたばかりか,覚せい剤の害
悪を他人に拡散させた。
また,判示第2の営利目的所持については,所持量が約14.666グラムと多
量であり,その所持態様も,分量をある程度一定にした小袋等に小分けした状態で
所持しており,ただちに譲渡可能な状態で所持していたものであるから,犯情は悪
い。
次に,判示第4の各営利目的譲渡については,わずかな期間に4回にわたり,ま
た,注文に即座に応じて譲渡していたこと,うち1回の譲渡については,1グラム
以上譲渡しており少ない量とはいえないことなど,悪質である。
そして,判示第1の他人使用については,他人を覚せい剤に溺れさせ,幻覚を生
じさせるに至らしめたほどであり,1回の使用量も少なくないなど,これも犯情が
よくない。
さらに,判示第3の自己使用については,1回の使用量が多量であり,頻繁に使
,,。用していたことがうかがわれるなど常習性は顕著であり同様に犯情はよくない
この他,被告人は前科5犯を有するものであるが,それらはいずれも覚せい剤前
科を含み,直近前科では平成11年11月に仮出獄するまで,4年以上,覚せい剤
前科により服役したにもかかわらず本件各犯行を敢行したものであること,被告人
は,正業に就かず,覚せい剤売買を反復する生活を送っていたこと,薬物の入手先
を秘匿しており,営利性を否定する等不合理な弁解を行い反省の色が見えないこと
等からすると,被告人の刑責は重い。
他方,被告人は,認めている範囲では反省の言葉を述べていること,被告人方の
家主が被告人の今後の更生への協力を約束していること等被告人に有利に斟酌すべ
き事情も認められる。
以上の点を考慮して,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
平成14年7月17日
岡山地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官榎本巧
裁判官中川綾子
裁判官足立堅太

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