弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らが被告に対して、それぞれ雇傭契約に基づく職員としての権利を有すること
を確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一、当事者双方の申立て
(原告ら)
主文同旨の判決
(被告)
原告らの請求はいづれもこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。
第二、原告らの主張
(請求原因)
一、原告らはいずれも旧電気通信省の職員であつたところ、原告Aを除くその余の
原告らは昭和二五年一一月一〇日、原告Aは同二六年四月三〇日、それぞれ任命権
者である電気通信大臣から、原告らが共産主義者またはその同調者であることを理
由として、免職処分に付せられた。
二、しかし、本件各免職は、右処分理由からも明らかなように原告らの信条による
差別を意図し、思想および良心の自由を侵害するものであるから、憲法一四条一
項、一九条、労働基準法三条に違反し、無効というべく、これが瑕疵が重大かつ明
白であることは以上から明らかであるから、原告らの職員としての身分に変動はな
い。
三、日本電信電話公社法の施行に伴い、右施行の際電気通信省の職員であつた者
は、同法施行法二条により被告の職員となつたから、原告らもこれに伴い被告の職
員たる身分を取得したところ、被告は原告らの雇用契約に基づく職員としての権利
を争つているので、これが確認を求める。
(被告の主張に対する反論)
一、連合国最高司令官の指示について
1 原告らがいずれも共産主義者であつたことは認めるが、連合国最高司令官の昭
和二五年五月三日付声明は、日本国政府国民に対して具体的措置をなんら指示して
おらず、六月六日以降の一連の書簡も、日本共産党中央委員、アカハタ編集責任者
の公職追放またはアカハタ及び後継紙ならびに同類紙の発行停止を内容とする指示
にすぎないから、これらの声明、書簡をもつて、被告の主張するように、同司令官
が官庁、公共企業体は勿論民間重要産業からもいわゆる赤色分子の追放を指示した
根拠とするには乏しく、結局、被告主張の指示はなかつたというべきである。
2 仮りに被告主張どおりの指示があつたとしても、信条の自由は基本的人権に属
し、すべての国民が享有する憲法以前の基本権ともいうべきものであるから、右基
本権に関する限り、占領権力も憲法にかかわりなく侵害することは許されず(占領
中は事実上侵害の排除ができないにすぎない。)また、ポツダム宣言一〇項は「…
…日本国政府は、日本国民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に対する一切の
障害を除去すべし。言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は、確立せ
らるべし。」と規定しているところ、連合国最高司令官の権限も同宣言による制約
を免れないから、そうだとすると、前記指示が同宣言に違反していることは明らか
であり、以上いずれの理由によるにしろ、右指示は無効というべきである。
二、権利失効の原則について
 「権利失効の原則」をわが国における実定法の解釈上認めるかどうかいまだ学
説、判例上定説はなく、同原則といつても所詮は信義則適用の一局面であるとこ
ろ、本件は免職処分の違憲無効を理由とするものであり、原告らは本件処分により
赤の烙印を押され、社会的迫害にさらされながら生活のため苦闘し、漸く本訴を提
起する余裕を見い出すことができたのに反し、被告は十数万人の労働者を雇傭する
独占企業であるから、原告らに職場を与えるのに困難はなく、以上の諸事情からす
ると、本訴請求が信義則に反するとはいえない。
第三、被告の主張
(答弁)
 請求原因中、第一項は認める。第二項は争う。第三項は原告らが被告に対し雇傭
契約上の権利を有する旨の主張を争い、その余は認める。
(主張)
 原告らの主張は次に述べるいずれの理由によるにしろ、失当として排斥を免れな
い。
一、本件免職は連合国最高司令官の指示に基づく処分である。
1 連合国最高司令官ダグラス・マツカーサー元帥から内閣総理大臣吉田茂あての
昭和二五年七月一八日付書簡が、同司令官から発せられた同年五月三日付声明およ
び同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付各吉田総理あての書簡の趣旨等から
して公共的報道機関ばかりでなくその他の重要産業からも共産主義者またはその支
持者を排除すべきことを要請した指示であり、かつ、右指示が当時わが国の国家機
関および国民に対して法規としての効力を有し、わが国の法令は、憲法を含めて右
指示に抵触する限りにおいて、その適用が排除されると解すべきことは、最高裁判
所の判例とするところである(昭和二七年四月二日大法廷決定民集六巻四号三八七
頁、同三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁参照)。そして、前記
指示が、右判例で問題とされた民間産業を対象とするにとどまらず、国家機関等か
らの共産主義者又はその同調者の排除をも要請する趣旨であることは、国家機関が
国民全体のために民主主義秩序を維持することにより国民全体の福祉を維持、増進
することを責務とし、国家企業が、国民全体のために国民生活に欠くことのできな
い物またはサービスをあまねく低廉に提供することを責務としていること、およ
び、当時の国家機関等の分野における共産主義的破壊活動の傾向が民間産業の場合
と同様、否、それ以上に顕著であつたことからして、明らかである。
2 政府は、連合国最高司令官の前記指示を実施するため、同二五年九月五日の閣
議において、別紙(一)記載のとおり共産主義者およびその同調者を排除する方針
を決定し、次いで、同月一二日の閣議において、別紙(二)記載の事項についての
了解がなされ、これに基づき各機関をして各個の処分を行なわせた。(本件免職処
分も後記のようにその一例である。)
3 ところで、前記閣議決定、閣議了解は、右排除の対象として、「共産主義者又
はその同調者で、官庁、公団、公共企業体等の機密を漏洩し、業務の正常な運営を
阻害する等その秩序をみだり、又はみだる虞があると認められるもの」と表示して
いる。
 かような表現をとつた趣旨は、右排除の具体的実施に当つて、特定の者が共産主
義者またはその同調者であるかどうかを認定することは極めて微妙であり、万一こ
れが認定を誤つた場合、当該個人の権利を不当に侵害することとなるため、その認
定に誤りなきよう特に慎重に行なわせるとともに、その認定のための一応の標準を
明らかにすることにあり、「日本共産党の党員およびその同調者」であることが明
白である者について、「官庁、公団、公共企業体等の機密を漏洩し……」の後段表
示の事情が認められない者のあることを予想して、これを排除の対象から除外する
趣旨の下に定めたものではない。けだし、連合国最高司令官の前記声明、書簡は、
主として破壊主義的傾向を特に非難されている日本共産党の党員およびその同調者
を排除する措置のとらるべきことを求めており、これによる指示を日本政府におい
て忠実に実行しようとして定めたのが右閣議決定、閣議了解であるから、これが同
司令官の指示する趣旨に沿つて理解せられるべきは当然であり、また、日本共産党
の性格上、その党員または同調者は、当時破壊的性格をもつていた同党の方針に絶
対服従するものであるから、前記の「業務の正当な運営を阻害する等その秩序をみ
だる」行動をとつており、仮りにそのような具体的行動がとられたことが明らかと
されないとしても、少くとも前記の「みだる虞あると認められるもの」に当ること
はいうまでもないからである。
4 原告らが共産主義者として日本共産党の同調者であることは、同人らも自らこ
れを認めているところから明らかであり、そうだとすると、同人らの具体的行動の
如何をせんさくするまでもなく、同人らは前記指示による排除の対象者として、国
家公務員法七八条三号の「その他その官職に必要な適格性を欠く場合」に該当する
から、同条項により免職処分がなされた。
二、権利失効の原則の適用
1 およそ、法律行為の無効を主張することは、単に事実を主張することではな
く、その法律行為が効力のないことを前提とする権利または法律関係を主張して、
その実現を求めるものであるから、一の権利行使にほかならないというべきとこ
ろ、右無効を主張できる者が長期間これを主張せず、そのため相手方がもはや無効
の主張がされないと信頼したことが正当であり、したがつて、その後に無効を主張
することが信義則に反すると認められる場合は、いわゆる「権利失効の原則」の適
用により、右無効の主張は許されないと解するのが相当である。
2 本件の場合、原告らの本訴請求は、免職処分から一〇年近く経過して提起され
ているところ、右処分が行政処分、しかも事業経営の組織に関する行政処分である
こと、国家公務員の俸給請求権が五年で時効により消滅すること(会計法三〇
条)、不当労働行為について労働委員会に救済命令を求めうる期間は行為の日から
一年であること(労働組合法二七条二項)等からすると、原告らに無効主張の許さ
れる期間は、処分時から一年いくら長くても五年をこえることはないというべきで
ある。そして、本件処分時と現在では、社会経済事情労働事情も一変し、事業は新
らしい組織と規模のうえに運営されており、そこには原告らを復帰させる余地は残
つていない。こうした事情のもとにおいて、原告らが突如として免職処分の無効を
主張することは、権利の行使が余りにも恣意的であり、法律関係安定の理念または
信義則に反するといわざるをえず、右無効の主張は「権利失効の原則」の見地から
許されないと解する。
第四、 証拠関係(省略)
       理   由
一、請求原因第一項の事実および原告らが被告主張の本件免職処分のなされた当時
いづれも共産主義者であつたことは、当事者間に争いがない。
二、まず、被告は、本件各免職は連合国最高司令官の指示に基づく処分である旨主
張しているから、右指示の内容および効力について検討する。
1 連合国最高司令官ダグラス・マツカーサー元帥から内閣総理大臣吉田茂あての
昭和二五年七月一八日付書簡が、同司令官から発せられた同年五月三日付声明およ
び同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付各吉田総理あての書簡の趣旨等から
して、公共的報道機関ばかりでなく、その他の民間重要産業からも共産主義者また
はその支持者を排除すべきことを要請した指示でかり、かつ、右指示が当時わが国
の国家機関および国民に対して法規としての効力を有し、わが国の法令は右の指示
に抵触する限りにおいてその適用が排除されると解すべき旨、最高裁判所はその判
例において明らかにしている。(昭和二七年四月二日大法廷決定民集六巻四号三八
七頁、同三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁、同三七年二月一五
日第一小法廷判決民集一六巻二号二九四頁参照)
 右判例の解釈として、排除の対象者について「共産主義者またはその支持者」
(前掲四月二日、四月一八日決定の各判例要旨中の「共産党員またはその支持者」
の表現は正確でない。)としてこれにつきなんらの限定を付していない以上、いや
しくもこれが要件に該当する者である限り、その具体的活動またはそのおそれの如
何を問わない趣旨と理解されなくはないが、四月一八日決定および二月一五日判決
の事案においては、いづれも被排除者の具体的活動について主張立証がなされてい
ること(四月二日決定の事案については、この点明らかでない。)、この種判例に
あつては四月二日決定がいわゆるリーデイング・ケースというべきところ、これよ
り後の同三〇年一一月二二日第三小法廷判決が、「連合軍占領下における紡績会社
の共産党員である従業員の解雇が、その従業員の企業の生産を阻害すべき具体的言
動を根拠とするものであつて、解雇当時の事情の下でこれを単なる抽象的危虞に基
く解雇として非難することができないものと認められる場合には、かかる解雇をも
つて共産党員であることもしくは単に共産主義を信奉すること自体を理由とするも
のということはできない」旨判示(民集九巻一二号、一、七九三頁参照)している
ところからすると、前記のように判例を理解することに疑問の余地がなくはない。
2 そこで、マ司令官の指示の内容、すなわち、前掲声明、書簡の趣旨とするとこ
ろを検討する要があるところ、これが内容は次のとおりである。(四月二日決定で
は、七月一八日付書簡の文言の全趣旨のほか「本件にあらわれた他の資料」をあげ
ているが、これが具体的内容は必らずしも明らかでない。)
(イ) 五月三日付声明
 日本における共産主義これが政党である日本共産党が最近国際共産主義勢力の手
先となり、破壊的活動を行なう反社会的勢力として国家の福祉を危うくするおそれ
があることを指摘し、日本国民に対して警告を与えるとともに自らこれに対処する
ことを要望している。
(ロ) 六月六日付書簡
 「この集団は真理を歪曲し、大衆の暴力行為を煽動しこの平穏な国を無秩序と闘
争の場所に変え」、「そして虚偽で、煽動的な言説やその他の破壊的手段を用い、
その結果として起る公衆の混乱を利用してついには暴力をもつて日本の立憲政治を
転覆するのに都合のよい状態を作り出すような社会不安をひき起そうと企ててい
る」等の理由をあげて、日本共産党中央委員会幹部の公職追放を指令している。
(ハ) 六月七日付書簡
 「この新聞は相当の期間に亘つて共産党内部の最も過激な無法分子の代弁者の役
割を引受けて来た。そしてこのような代弁者として法令に基く権威に対する反抗を
挑発し、経済復興の進捗を破壊し、社会不安と大衆の暴力行為を引起そうと企てて
無責任な感情に訴える放縦で虚偽で煽動的で挑発的な言説をもつてその記事面や社
説欄を冒涜して来た。」ことを理由として、共産党の機関紙赤旗編集幹部の公職追
放を指令している。
(ニ) 六月二六日付書簡
 六月七日付書簡による指令により赤旗が「新しい指導者によつて同紙が比較的穏
健な方向に方針を改め、真実を尊重し、無法状態や暴力をせん動的にそそのかすこ
とをさけるようになることを希望した。」しかし、「同紙が日本の政党の合法的な
機関紙ではなく日本国民の間に特に今回は日本にいる多数の朝鮮人の間に人心をか
く乱して公共の安寧と福祉とを侵害することを目的とした悪意のある虚偽のせん動
的な宣伝を広めたために用いられる国外の破壊勢力の道具であるという事実を証明
している。」ことを理由として、アカハタの発行を三〇日間停止するよう指令して
いる。
(ホ) 七月一八日付書簡
 「虚偽、煽動的、破壊的な共産主義者の宣伝の播布を阻止する目的をもつた私の
六月二六日付貴下宛書簡以来日本共産党が公然と連繋している国際勢力は民主主議
社会における平和の維持と法の支配の尊厳に対して更に陰険な脅威を与えるに至り
暴力によつて自由を抑圧する彼等の目的について至る所の自由な人民に対し警告を
与えている。かかる情勢下においては日本においてこれを信奉する少数者がかかる
目的のために宣伝を播布するため公的報道機関を自由且つ無制限に使用することは
新聞の自由の概念の悪用であり、これを許すことは公的責任に忠実な自由な日本の
報道機関の大部分のものを危険に陥れ、且つ一般国民の福祉を危くするものである
ことが明らかとなつた。」「現実の諸事件は共産主義が公共の報道機関を利用して
破壊的暴力的綱領を宣伝し、無責任、不法の少数分子を煽動して法に背き秩序を乱
し公共の福祉を損わしめる危険が明白なことを警告している。それ故日本において
共産主義が言論の自由を濫用して斯る無秩序への煽動を続ける限り、彼らに公的報
道の自由を使用させることは公共の利益のため拒否されねばならない。」として、
「せん動的な共産主義者の宣伝の播布に当つて来たアカハタ及びその後継紙並に同
類紙の発行」を無期限に停止するよう指令している。
3 以上一連の声明、書簡によつてマ司令官の指摘するところは、日本共産党およ
びこれと同調して活動する共産主義者またはその同調者の目的、性格および現実の
活動の一般的な指摘であり、これらの目的、性格および活動は、党員を中核とする
共産主義者またはその同調者により形成されるところ、マ司令官が党員についてす
らこれがすべて右指摘にかかる破壊主義的傾向の持主として排除せらるべきことを
指向していたかどうかは、「共産党内部の最も過激な無法分子の代弁者」(六月七
日付書簡)、「新しい指導者によつて赤旗が比較的穏健な方向に方針を改め……を
希望した」(六月二六日付書簡)等との表現がとられていることからして、必らず
しも明らかでない。
 ところで、前掲三七年二月一五日判決は、別紙(三)記載のB労働課長の談話
は、マ司令官の本件指示の解釈の表示であり、そのような解釈の表示も、当時にお
いては、わが国の国家機関および国民に対し最終的権威をもつていたものと解すべ
き旨判示しているところ、同談話は、いわゆる赤色分子追放の対象者として、
(イ)アクテイヴ・リーダー、トラブルメーカー並びにその同調者であること、
(ロ)必ずしも党員であることを要件としないが、アグレシヴなものであることを
要する。但し、単に党員であることのみをもつて排除するものではない旨を明らか
にしている。
 したがつて、以上によると、マ司令官の本件指示は、結局、共産主義者またはそ
の支持者のうち、積極的に虚偽、煽動的、破壊的な言動を行なう者およびそのおそ
れのある者の排除さるべきことを意味していると解するのが相当であり、そうだと
すると、前掲判例(同三〇年一一月二二日判決を除く。)が共産主義者またはその
支持者であることそれ自体だけで排除されるべき旨を判示しているとするとこれに
同調することはできない。
三1 政府は、マ司令官の本件指示は、国家公務員等の国家機関その他の公の機関
からの共産主義者またはその同調者(これが無限定であるかどうかについては後述
する。)の排除をも要請する趣旨であると判断し、右指示に基づく国家公務員等に
対するこれが実施方策として、被告主張の閣議決定および閣議了解をなし、これに
基づいて右排除を実施し本件各免職処分もその一貫として行なわれたものであるこ
とは、成立に争いのない乙第六号証の一、二と弁論の全趣旨から明らかである。
 前掲声明、書簡の趣旨と公務員が国民全体の奉仕者であることからすると、本件
指示による排除の対象は、民間重要産業の従業員にとどまらず原告ら国家公務員を
も含むものと解すべきであり、右書簡等の内容それ自体、また、他に、公務員の排
除について民間労働者のそれと異る基準をとるべきことを要請していると認むべき
ものがない以上、すでに述べた本件指示の解釈は、公務員の場合についても同様で
あるといわねばならない。前掲閣議決定が「共産主義者又はその同調者はこれらの
機関から排除するものとする」とすることなく、「共産主義者又はその同調者で、
官庁……の機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、又は
みだる虞があると認められるものは、これらの機関から排除するものとする。」と
定め、B課長の談話の線に沿つた態度をとつていることは以上の理を明らかにする
ものといえよう。
 被告は、いやしくも共産主義者またはその同調者である以上、それ自体を理由と
して排除されるべき旨を本件指示は要請している旨主張するが、そのしからざる所
以はすでに述べたとおりであり、前掲閣議決定、閣議了解が、日本共産党の党員お
よびその同調者であることが明らかな者についてはその具体的活動を要しない趣旨
であるとは、右決定等の定めの文言、体裁からたやすく推認することはできず、他
にこれを明らかにすべき資料もないから、被告の本件指示および閣議決定の解釈に
ついての主張は採用できない。
2 かくして、マ司令官の本件指示に基づく閣議決定に則り国家公務員を免職処分
に付するためには、当該公務員が単に共産主義者またはその同調者であるだけでは
十分でなく各人につき閣議決定の掲げる例示のような「秩序をみだり又はみだる虞
があると認められる」具体的活動の存在が要件とされているというべきところ、本
件に顕出された全証拠を検討してみても、せいぜい成立に争いのない乙第二ないし
第四号証から、原告C、Dが共産党機関紙赤旗を職場で配布した事実が認定できる
にとどまり、しかもこれが配布の期間は必らずしも明らかでないから、右事実をも
つて直ちに同原告らに前記要件に該当する具体的活動があつたと解することはでき
ない。
 以上からすると、本件免職処分は、本件指示が所期する被排除者の範囲をこえて
なされたものであるから、右指示に基づくものとして有効とはいえず、これが効力
の有無はわが国の法令に照らして判断されるべきである。
 原告らがいづれも共産主義者であることはすでに述べたとおりであるが、このこ
とから直ちに同人らが被告主張の国家公務員法七八条三号に定める「その他その官
職に必要な適格性を欠く場合」に該当するものということはできず単に共産主義者
であることのみを理由とする本件各免職処分は、原告らの信条による差別といわざ
るをえず、憲法一四条一項、労働基準法三条に違反する違法な処分というのほかな
い。そして、その違法は重大であるばかりでなく、閣議決定の掲げる要件を充足し
ておらず、本件処分日に先立つ昭和二五年九月二六日付B課長のなしたマ司令官の
本件指示の解釈の表示も看過しているから、本件処分当時これが瑕疵は明白である
と認められ、以上からして、本件免職処分はいづれも無効というべきである。
四、つぎに被告の「権利失効の原則」の主張について判断する。
 本訴えが、原告Aを除くその余の原告らについては免職処分後約八年八月経過し
た、同Aについては同処分後約八年三月経過した昭和三四年七月二八日に提起され
たことは本件記録上明らかであるところ、本件行政処分の内容が免職であることを
考慮しても、右期間の経過から直ちに、原告らが本訴において右処分の無効を主張
することが信義則に反すると認められるべき特段の事由に該当するとはいえず、し
たがつて、信義則の一適用である、「権利失効の原則」を本件に適用する余地はな
いから、被告の右主張は理由がない。
五、以上により、本件免職処分が無効である以上、原告らは旧電気通信省の職員と
しての身分を失つておらず、日本電信電話公社法の施行に伴い、右施行の際同省の
職員であつた者は同法施行法二条により被告の職員となつたから(この点当事者双
方も争つていない。)、原告らもこれに伴い被告の職員たる身分を取得し、被告に
対して雇傭契約に基づく職員としての権利を有するというべく、被告がこれを争つ
ている以上右権利の存在について確認の利益がある。
 よつて、原告らの本訴請求はすべて理由があるから認容すべく、訴訟費用の負担
について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 浅賀栄 宮崎啓一 豊島利夫)
別紙(一)
 共産主義者等の公職からの排除に関する件(閣議決定)
 民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて、危険分子を国家機関その他
公の機関から排除するために、左記の措置を講ずること。
(一) 共産主義者又はその同調者で、官庁、公団、公共企業体等の機密を漏洩
し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、又はみだる虞があると認め
られるものは、これらの機関から排除するものとする。
(二) 排除の方法は、国家公務員法第七八条第三号(公共企業体の職員について
は、日本国有鉄道法第二九条第三号又は日本専売公社法第二二条第三号)の規定に
よる。
(三) 排除は、一斉に行うことを避け、その必要の特に緊切なものから始めて、
逐次他に及ぼすものとする。
(四) 地方公務員及び教職員(国家公務員法の適用を受けないもの)については
本件措置に準ずる措置が講ぜられるように努める。
 なお、本件措置は、共産主義者又はその同調者に対し制裁の目的をもつてするも
のではなく、もつぱら破壊に対する防衛を目的とするものであるから、反省の余地
ありと認められる者については、その反省の機会を与えつつ実施するよう留意する
こと。
別紙(二)
 共産主義者等の公職からの排除に関する件(閣議了解)
本年五月三日の憲法記念日に際し、連合国最高司令官から発せられた声明には、
「日本共産党が今や公然と国外からの支配に屈服し、かつ人心をまどわし、人心を
弾圧するための虚偽と悪意にみちた煽動的宣伝を広く展開していること、さらに反
日本的であるとともに、日本国民の利益に反するような運動方針を公然と採用して
いる」ことが指摘されるとともに、「従つて現在日本が急速に解決を迫られている
問題は、全世界の他の諸国と同様、この反社会的勢力をどのような方法で国内的に
処理し、個人の自由の合法的行使を阻害せずに国家の福祉を危くするこうした自由
の濫用を阻止するかにある。」ことが示唆されてあり、さらに本年六月六日附の連
合国最高司令官より内閣総理大臣宛の書簡には、日本共産党について、「然るに最
近に至つて新しい、そしてこれに劣らず有害な集団が、日本政界にあらわれたが、
この集団は真理を歪曲し、大衆の暴力行為を煽動して、この平穏な国を無秩序と闘
争の場所に変え、これをもつて、代議制民主主義の途上における日本の著しい進歩
を阻止する手段としようとし、また日本国民の間に急速に成長しつつある民主主義
的傾向を破壊しようとした。彼等は同じ意図をもつて、法令に基く権威に反抗し、
法令に基く手続を軽視し、そして虚偽で煽動的な言説やその他の破壊的手段を用
い、その結果として起る公衆の混乱を利用して、ついには暴力をもつて日本の立憲
政治を転覆するのに都合のよい状態を作り出すような社会不安をひき起そうと企て
ている。」ことが明示されている。
 これらの声明等は、最近における日本の共産主義者が国外における侵略主義的勢
力の支配に屈服し、わが国における民主主義的復興を妨げ、国内に破壊と混乱をも
たらそうとしていることがもはや顕著な事実となつていることを指摘したものであ
るが、公務員が、元来、国民全体の奉仕者として公共の利益の擁護に任ずべきもの
である以上、この種の危険分子が公職に必要な適格性を欠くものであることはいう
までもない。
 よつて、政府は、民主的政府の機構を破壊から防衛する目的をもつて、危険分子
を国家機関その他公の機関から排除するために、共産主義者又はその同調者たる公
務員で公務上の機密を漏洩し、公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだし、又は
みだる虞があると認められるものを、国家公務員法その他当該法規の規定に基き公
職に必要な適格性を欠くものとして、その地位から除去するものとする。
 而して、この措置は、共産主義者又はその同調者に対し、制裁の目的をもつてす
るものではなく、もつぱら破壊に対する防衛を目的とするものであるから、反省の
余地ありと認められる者については、その反省の機会を与えつつ実施するよう留意
するものとする。
別紙(三)
 昭和二五年九月二六日連合国総司令部経済科学局B労働課長の私鉄経営者協会に
対してした談話(民集一六巻二号二九五頁参照)
一 私鉄の赤色分子追放は、労使双方の協力によつて行うこと。実施の責任は使用
者にある。
二 総司令部及び政府は干渉も指示もしない。
三 整理の対象
(イ) アクテイヴ・リーダー、トラブルメーカー並びにその同調者であること。
(ロ) 必ずしも党員であることを要件としないが、アグレシヴなものであること
を要する。但し、単に党員であることのみをもつて排除するものではない。
四 同意協議約款の有無にかかわらず、組合と協議することが望ましい。但し、会
社と協力する組合と協議すればよい。リストは組合にも提示して欲しいが、協力し
ない組合に提示せよとはいわない。斯る場合及び協議不調の場合は、使用者の意思
によつて整理すること。
五 整理の完了は一〇月末日を目途とすること。
六、人員、職名、期日について経協より総司令部宛報告すること。
七 使用者は、この整理に便乗して企業整備合理化に基く整理を行わないこと。便
乗整理があつた場合は、総司令部労働課より差し止めることがある。
八 現在の法律に関する解釈は、日本政府の責任であるが、自分の意見は、日本政
府の意見と一致している。
九 本日は、米国政府の意向に基いて総司令部労働課の自分が招集したのであるか
ら、この措置は、その意を体して労使の双方が実施するものであることを考えても
らいたい。

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛