弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴趣意は、弁護人勅使河原安夫および同高橋万五郎名義の各控訴趣意書記
載のとおりであるから、これを引用する。
 控訴趣意に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
 勅使河原弁護人の控訴趣意第三点および高橋弁護人の控訴趣意第一点について、
 論旨は、被告人は大正一一年に当時日本人であつた朝鮮人を父として出生したも
ので、国籍法上日本人であり、その後日本人たる国籍を喪失した事実がないから、
被告人に対しては外国人登録法の適用がない、というに帰する。
 明治四三年の韓国併合条約により朝鮮(韓国)は日本の領土となり、同時に朝鮮
人(韓国人)はすべて日本人となつた。しかしながら、朝鮮は統治上別箇の法域と
され(共通法参照)、旧国籍法は内地のほか台湾、樺太のみに施行されて朝鮮には
ついに施行されなかつた(明治三二年勅令第二八九号国籍法を台湾に施行するの
件、大正一三年勅令第八八号国籍法を樺太に施行するの件参照)。而して旧国籍法
の解釈としては、同法によつて得喪される日本の国籍は、固有の日本人である内地
人、台湾人、樺太土人たる身分であり、朝鮮人たる身分の得喪したがつてその結果
としての日本の国籍の得喪は、慣習と条理によつて決せらるべきものとされてい
た。終戦後の昭和二五年七月一日新国籍法が施行され、同時に旧国籍法は廃止され
たが、叙上のような日本法制の建前から考え、終戦後新に発生した政治上の事態に
即応する観点に立てば、新国籍法によつて得喪される日本の国籍は、固有の日本人
たる身分であつて、朝鮮人、台湾人、樺太土人たる身分の得喪は、同法の律すると
ころではないと解すべきである。以上の見解にしたがえば、被告人の検察官に対す
る供述調書により明らかであるとおり被告人は大正一一年三月四日朝鮮人Aを父と
して出生したものであるから、当時の慣習および条理により朝鮮人たる身分を取得
し、したがつてその結果として日本の国籍を取得したが、所論のように旧国籍法に
よつて日本の国籍を取得したものではなく、また、新国籍法によつてあらためて日
本の国籍を取得したものでもないのである。
 ところで、昭和一八年一一月二七日のカイロ宣言は、朝鮮民族の要請に応えてそ
の独立回復の条項を規定し、昭和二〇年七月二六日のポツダム宣言は、これを再確
認した。日本は、同年八月一〇日のポツダム宣言受諾の申入ならびに同年九月二日
の降伏文書によつて右条項の履行を約し、ついで、昭和二七年四月二八日発効の平
和条約第二条(a)において正式に朝鮮の独立を承認し、朝鮮およびその附属諸島
に対する一切の主権を放棄した。国家の領土の一部がその領有国の支配を離れて独
立した場合に、それに伴つて一部の住民につき国籍の変更を生ずる。その独立によ
つて、独立した領域に居住するその領域出身者の国籍に変更を生ずるのが普通であ
るが、旧領有国内に居住する独立した領域出身者の国籍が当然に変更されるという
ことはない。この点については、国際法上確立した原則はないのであつて、いかな
る範囲の住民について国籍の変更を生ずるかは、当事国間の条約によつて決定され
るのが通常である。ところが、論旨もいうとおり、日本と朝鮮(大韓民国もしくは
北鮮人民共和国)との間に国籍の問題に関する条約は、今日に至るもまだ成立して
いないのである。しかしながら、日本が平和条約の前記条項において朝鮮の独立を
承認したのは、かつての独立の民族国家朝鮮が日韓合併により喪失したその独立を
回復する事実を承認したことに外ならないから、日本は、右独立の承認によつて、
朝鮮人については現に朝鮮に居住する者であると日本に在住する者であるとにかか
わりなく、日韓合併当時韓国籍を有していた者および右合併がなかつたならば当然
韓国籍を取得したであろうと認められる者のすべ<要旨>てが日本の国籍を離脱する
ことを承認したものと解すべきである。したがつて、平和条約発効後において
は、朝鮮人の国籍に関する関係国間の条約の締結をまつまでもなく、すべて
の朝鮮人は、少くとも日本の国内法の関係では日本の国籍を喪失し、外国人たる身
分を取得したものといわなければならない。されば、原判決が被告人を外国人登録
法にいわゆる外国人と認め、その判示する同法違反の行為に対してその摘示の法条
を適用処断したのは正当であつて、所論のように事実を誤認したものまたは法令の
解釈適用を誤つたものということはできない。
 論旨は理由がない。
 勅使河原弁護人の控訴趣意第二点について、
 憲法三九条の何人も実行の時に適法であつた行為については刑事上の責任を問わ
れないとの規定は、実行の時の法によつて処罰の対象とされなかつた行為につい
て、その行為の行われた後にこれを罪とする法律を制定することおよびかような法
律によつて刑罰を科することを禁止する趣旨であつて、通例事後立法の禁止または
刑罰法不遡及と呼ばれる原則を定めたものである。したがつて、日本が朝鮮の独立
を承認したことにより朝鮮人が日本の国籍を喪失したがゆえに、これを外国人とし
て取り扱うことは、憲法の右規定と全くかかわりのないことである。また、昭和三
一年法律第九六号による改正前の外国人登録法一一条二項および右改正後の同法一
一条一項は日本に在留する外国人に対し外国人登録証明書の切換交付の申請手続を
定め、右改正前後の同法一八条一項二号は、右切換交付の申請に関し虚偽の申請を
した者等に対する刑罰の制裁を規定したものである。而して、右罰則は、同法の施
行日(平和条約発効の日)以後に行われた右違法行為に適用さるべき筋合のもの
で、その施行日前の朝鮮人が日本人であつた当時におけるなんらかの適法行為を処
罰の対象とする趣旨を含むものではないから、憲法の定める前掲原則と抵触するも
のでないことはいうまでもない。論旨は独自の見解に基く主張で、採るに足らな
い。
 勅使河原弁護人の控訴趣意第一点および高橋弁護人の控訴趣意第二点について、
 被告人の経歴、境遇、犯行の動機等において憫諒すべき点のあることは、所論の
とおりである。されば原判決もまたそれらの点を斟酌して被告人を偽造公文書行使
罪の法定刑中最低の懲役一年の刑に処し、二年間その執行を猶予する旨の言渡をし
たものと思料されるのであつて、その他記録に現われた諸般の情状を検討しても、
更に刑を軽滅すべき事由を発見することができない。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 門田実 裁判官 斎藤勝雄 裁判官 有路不二男)

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