弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人中務嗣治郎、同岩城本臣、同森真二、同村野譲二、同加藤幸江、同安
保智勇、同浅井隆彦、同中光弘、同中務正裕、同中務尚子、同宮塚久の上告理由に
ついて
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 Dは、第一審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)
及び本件土地上にある同3の建物(以下「旧建物」という。)を所有していたが、
平成元年一一月二五日、旧建物を取り壊し、同二年五月一〇日、本件土地上に同2
の建物(以下「新建物」という。)を建築した。
 2 Dは、上告人及び被上告人らに対し、本件土地、旧建物及び新建物に次の内
容の抵当権を設定し、右各設定日にその旨の登記がされた。
 (一) 本件土地
  (1) 平成元年八月三一日 上告人のDに対する保証委託契約に基づく求償
債権を被担保債権とする抵当権(順位一番)
  (2) 同年九月二〇日 被上告人株式会社B1銀行(以下「被上告銀行」と
いう。)のDに対する銀行取引により生ずる債権等を被担保債権とする根抵当権(
順位二番)
  (3) 同年一一月一七日 被上告人株式会社B2ファイナンス(以下「被上
告会社」という。)のDに対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債権とす
る抵当権(順位三番)
 (二) 旧建物
 同年八月三一日 上告人のDに対する保証委託契約に基づく求償債権を被担保債
権とする(一)(1)との共同抵当権(順位一番)
 (三) 新建物
  (1) 同二年一〇月三日 被上告会社のDに対する保証委託契約に基づく求
償債権を被担保債権とする(一)(3)との共同抵当権(順位一番)
  (2) 同日 被上告銀行のDに対する銀行取引により生ずる債権等を被担保
債権とする(一)(2)との共同根抵当権(順位二番)
  (3) 同三年一二月二六日 上告人のDに対する保証委託契約に基づく求償
債権を被担保債権とする(一)(1)との共同抵当権(順位三番)
 3 被上告人らは、平成三年二月八日、本件土地についての2(一)(2)の根
抵当権と2(一)(3)の根抵当権の順位を変更する旨の合意をし、その登記がさ
れた。
 4 本件土地及び新建物について、上告人の申立てにより不動産競売手続が開始
され、執行裁判所は、これを一括して売却し、新建物のために旧建物を基準とした
内容の法定地上権が成立することを前提に、本件土地の価額は更地価額から右法定
地上権価額を控除した価額、新建物の価額は新建物自体の価額に右法定地上権価額
を加算した価額であるとして算出した額に基づき配当表を作成した。
 二 本件は、上告人が、新建物のために法定地上権は成立しないとして、本件配
当表のうち配当額の変更を求める配当異議の訴えであるところ、原審は、次のとお
り判断して、上告人の請求を棄却した。
  旧建物が取り壊され、新建物が再築された時点において、新建物について旧建
物を基準とした内容の法定地上権がそのまま存続付着し、本件土地は右法定地上権
を引き続き負担していると解するのが相当である。したがって、新建物のために法
定地上権が成立することを前提に作成された本件配当表に誤りはない。
 三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおり
である。
 所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右
土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一
であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地
の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建
物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である(最高裁平成七年(オ)
第二六一号同九年二月一四日第三小法廷判決・民集五一巻二号三七五頁、平成五年
(オ)第二一七二号同九年六月五日第一小法廷判決・民集五一巻五号二一一六頁参
照)。これを本件について見ると、上告人は、本件土地及び旧建物に順位一番の共
同抵当権の設定を受けることによって本件土地及び旧建物の価値全体を把握してい
たが、新建物に設定を受けた上告人の抵当権は、被上告人らの根抵当権に劣後する
順位三番であって、新建物のために法定地上権が成立するとすれば、本件土地全体
の価値を把握していた上告人の権利を害することになるから、右の特段の事情があ
る場合には当たらず、新建物のために法定地上権は成立しないというべきである。
そうすると、新建物に設定された抵当権によって把握される担保価値は、法定地上
権のない新建物自体の価値にすぎず、本件土地全体の担保価値は、本件土地に設定
された抵当権によって把握されているのであるから、本件配当において、新建物に
ついて順位一、二番の根抵当権を有する被上告人らは、新建物自体の価値について
上告人に優先して配当を受けることができるにすぎない。したがって、これと異な
る原審の判断には民法三八八条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の
結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れ
ない。そして、本件については更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審
に差し戻すのが相当である。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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