弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊東長一郎の上告理由第一点について。
 所論は、要するに原審が証拠として引用した上告人より訴外Cに交付した登記手
続のための委任状(甲四号証)の作成日附が昭和二五年五月七日であるのに、同じ
く債権譲渡の通知書(乙一号証)の日附は、昭和二五年五月一〇日であることを指
摘し、原審の事実認定は書証に副わないから違法であると主張するに帰する。しか
し右債権譲渡通知書の末尾にある郵便局の差出日附の証明には昭和二五年七月六日
とあり、また右委任状の委任事項中には、昭和二五年七月一七日金十万円にて譲渡
云々の文字が記載されているから、これらの事実を無視し、前記委任状の日附のみ
を摘示して事を論ずるのは全く当らず、論旨はすべて採用に値しない。
 同第二点について。
 所論は、中間登記省略の問題に関連して本件登記の無効を主張する。しかしかか
る事実は原審で主張なく従つて判断を受けなかつた事項であるから、適法な上告理
由と認められない。(なお上告人の本訴抹消登記請求は、本件建物の所有権に基く
ものであるところ、原判決は証拠によつて、上告人はCに対する代物弁済により右
建物の所有権を失つた事実を認定し上告人の請求を排斥したのであつて、この判断
は正当であり、この関係は所論登記の効力の如何によつて影響を受けるものではな
い)。
 同第三点について。
 所論は、原審の適法にした事実認定を非難するにすぎないのみならず、その理由
とする上告人と訴外D産業株式会社との間に本件建物を目的とする売渡担保契約が
成立したかどうかは、本件の争点に関係がなく、また原判決に影響を及ぼすもので
もない。所論は判断のかぎりでない。
 同第四点について。
 記録によれば、原審は、昭和二九年六月二四日午后一時の判決言渡期日に期日を
開き、上告代理人下山四郎出廷の下に延期を決定し、六月二九日を新期日として指
定してこれを告知したことが認められる(記録二五〇丁)。所論は記録上根拠のな
い独断であつてとるを得ない。
 同第五点について。
 所論も原審で主張も判断もなかつた事項である。そしてわが民法上物権の設定及
び移転は当事者の意思表示のみに因りてその効力を生ずるという原則は、代物弁済
のための不動産所有権の移転の場合を例外とすべきなんらの根拠もない。
 同第六点について。
 所論も、原審の適法な事実認定の非難にすぎないか又は原審の認定しない事実に
立つ主張であつて採用のかぎりでない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己

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