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平成22年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第26473号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月22日
判決
東京都品川区〈以下略〉
原告ブリヂストンスポーツ株式会社
訴訟代理人弁護士木崎孝
同村田真一
同小佐野愛
補佐人弁理士吉見京子
同石井良夫
アメリカ合衆国カリフォルニア州〈以下略〉
被告アクシネット・ジャパン・インク
訴訟代理人弁護士大野聖二
同市橋智峰
同佐藤公亮
補佐人弁理士田中玲子
同伊藤奈月
主文
1被告は,原告に対し,17億8620万4028円及び内金2億
6044万3145円に対する平成15年7月1日から,内金3億
0180万6544円に対する平成16年1月1日から,内金2億
9411万0530円に対する同年7月1日から,内金2億685
9万9261円に対する平成17年1月1日から,内金2億824
7万0890円に対する同年7月1日から,内金2億8437万4
033円に対する平成18年1月1日から,内金2400万円に対
する同月5日から,内金1017万9128円に対する同年3月1
日から,内金6022万0497円に対する平成21年2月24日
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を
被告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,56億7786万2000円及び内金6億6080
万円に対する平成15年7月1日から,内金8億9630万円に対する平成
16年1月1日から,内金8億5030万円に対する同年7月1日から,内
金7億6720万円に対する平成17年1月1日から,内金9億6570万
円に対する同年7月1日から,内金10億6590万円に対する平成18年
1月1日から,内金2400万円に対する同月5日(訴状送達の日の翌日)
から,内金1億7609万6000円に対する同年2月1日から,内金1億
7156万6000円に対する同年3月1日から,内金1億円に対する平成
21年2月24日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から各支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「ソリッドゴルフボール」とする特許番号第266
9051号の特許(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特
許権」という。)の特許権者であった原告が,被告が別紙物件目録記載のゴ
ルフボール(以下「被告各製品」と総称し,個々の製品は,同物件目録の番
号欄の番号に応じて「被告製品①」,「被告製品②」などという。)を輸
入,販売した行為が,本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,
不法行為による損害賠償又は不当利得の返還として56億7786万200
0円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)特許庁における手続の経緯等
ア株式会社ブリヂストンは,平成元年5月11日,本件特許の特許出
願(特願平1−118460号。以下「本件出願」という。)をし,そ
の後,本件出願に係る特許を受ける権利は,同社から原告に移転され,
その旨の届出(出願人名義変更届)がされた。
特許庁は,平成8年11月27日付けで拒絶理由通知(以下「本件拒
絶理由通知」という。)をし,その後,原告は,平成9年3月10日付
けで,本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の補正(以下「本件補
正」という。)をするとともに,同日付け意見書(以下「本件意見書」
という。)を提出した。
原告は,平成9年7月4日,本件特許権の設定登録(請求項の数1)
を受けた。
イ被告は,本件訴訟係属中の平成18年9月5日,本件特許について特
許無効審判請求(無効2006−80172号事件)をした。原告は,
その審判手続において,同年11月21日付けで,特許請求の範囲の減
縮及び明瞭でない記載の釈明を目的として,本件明細書について訂正請
求をした(以下「第1次訂正」という。)。
特許庁は,平成19年6月8日,無効2006−80172号事件に
ついて,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その後同審決は確定した。
ウ原告は,平成20年3月21日,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でな
い記載の釈明を目的として,本件明細書について訂正審判請求(訂正2
008−390031号事件)をした(以下「第2次訂正」とい
う。)。
特許庁は,同年4月30日,訂正2008−390031号事件につ
いて,第2次訂正を認める旨の審決をし,同審決はそのころ確定した。
エ本件特許権は,平成21年5月11日,存続期間満了により消滅し
た。
(2)特許請求の範囲
ア本件特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次の
とおりである(同請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】ワンピースゴルフボール又はカバー材で直接もしくは
中間層を介して被覆した多層構造ゴルフボールの芯球を,基材ゴム
と,不飽和カルボン酸の金属塩と,チオフェノール類,チオカルボン
酸類及びそれらの金属塩から選ばれる有機硫黄化合物とを含有するゴ
ム組成物で形成したことを特徴とするソリッドゴルフボール。」
イ第1次訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ
る(同請求項1に係る発明を「第1次訂正発明」という。)。
「【請求項1】カバー材で直接もしくは中間層を介して被覆した多層
構造ゴルフボールの芯球を,基材ゴムと,不飽和カルボン酸の金属塩
と,チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選
ばれる有機硫黄化合物とを含有するゴム組成物で形成したことを特徴
とするソリッドゴルフボール。」
ウ第2次訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ
る(同請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)。
「【請求項1】カバー材で直接もしくは中間層を介して被覆した多層
構造ゴルフボールの芯球を,基材ゴムと,不飽和カルボン酸の金属塩
と,ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩とを含有するゴム組
成物で形成したことを特徴とするソリッドゴルフボール。」
(3)本件訂正発明の構成要件の分説
「Aカバー材で直接もしくは中間層を介して被覆した多層構造ゴルフボ
ールの芯球を,
B基材ゴムと,
C不飽和カルボン酸の金属塩と,
Dペンタクロロチオフェノール又はその金属塩と
Eを含有するゴム組成物で形成したことを特徴とするソリッドゴルフ
ボール。」
(4)被告の行為等
ア被告は,平成14年3月から被告製品⑪を,平成15年2月ころから
被告製品⑥ないし⑩を,平成17年2月ころから被告製品①ないし⑤を
それぞれ輸入,販売していた。
イ被告各製品は,本件訂正発明の構成要件AないしC,Eをいずれも充
足する(甲3,4,18,乙7の1ないし11)。
3争点
本件の争点は,被告各製品が本件訂正発明の構成要件Dを充足し,本件訂
正発明の技術的範囲に属するか否か(争点1),本件特許に無効理由があ
り,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限される
かどうか(争点2),被告が賠償又は返還すべき原告の損害額又は被告の利
得額(争点3)である。
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(技術的範囲の属否)について
(1)原告の主張
ア構成要件Dの充足性
被告各製品が本件訂正発明の構成要件AないしC及びEを充足するこ
とは,前記第2の2(4)イのとおりである。
そして,被告各製品は,その芯球にペンタクロロチオフェノール(以
下「PCTP」という場合がある。)を含有するから(乙7の1ないし
11),構成要件Dを充足する。
以上のとおり,被告各製品は,本件訂正発明の構成要件AないしEを
すべて充足するから,本件訂正発明の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告各製品の輸入,販売は,本件特許権の侵
害に当たる。
イ被告の主張に対する反論
被告は,後記のとおり,本件出願の審査過程において原告が本件補正
に伴って提出した本件意見書の記載から,本件訂正発明の構成要件D
の「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」は,加硫に関与せ
ず,加硫促進効果がないように添加された場合に限定し,あるいは,少
なくともラジカル捕獲剤として添加された添加剤又は分子量調節剤とし
て添加された添加剤を含まないと限定解釈すべきである旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)原告は,本件出願の請求項に係る発明は引用例(特開昭59−2
28868号公報(乙3))に基づいて容易想到であるとの本件拒絶
理由通知に対し,本件補正をした上で,本件意見書(乙6)におい
て,引用例には,本件補正後の本件発明(前記第2の2(2)ア)におけ
るチオフェノール類,チオカルボン酸類という特定の有機硫黄化合物
又はそれらの金属塩を使用することが開示も示唆もされていないの
で,引用例の記載から本件発明の構成自体が容易に想到することはで
きないと主張したものである。
(イ)また,本件意見書における「もともと,引用例のジペンタメチレ
ンチウラムテトラスルフイドは,加硫促進剤として作用するもので,
それ自身ゴムの加硫に関与する。ところが,本願に係るチオフェノー
ル類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩はこのような加硫に関与
するものではなく,加硫促進効果はないもので,ジペンタメチレンチ
ウラムテトラスルフイドとはその作用も相違し,従って引用例のジペ
ンタメチレンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール
類,チオカルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果
は予測し難い。」との記載は,ジペンタメチレンチウラムテトラスル
フイド(以下「DPTT」という場合がある。)は,もともと加硫促
進剤として用いられるのが一般的であり,ペンタクロロチオフェノー
ル(PCTP)を代表とするチオフェノール類,チオカルボン酸類
は,もともとはペプタイザー(しゃく解剤,素練り促進剤)として用
いられるのが一般的であるという(甲19),当業者における両者に
対する一般的な認識の違いを指摘して,ジペンタメチレンチウラムテ
トラスルフイドから本件発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類
を想到することは困難であることを強調したものである。本件意見書
の上記記載は,このような両者のもともと認識されていた一般的な作
用の相違点を指摘することによって,ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフイドから本件発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類と
いう構成を想到することは困難であると述べたにすぎず,本件発明に
おいて,チオフェノール類,チオカルボン酸類が加硫促進効果を有す
るか否かについてまで言及するものではなく,チオフェノール類,チ
オカルボン酸類から加硫促進効果がある場合を除くことを述べたもの
ではない。
(ウ)以上のとおり,本件意見書の記載を根拠に,本件発明の「チオフ
ェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩」,ひいては本件
訂正発明の構成要件Dの「ペンタクロロチオフェノール又はその金属
塩」を限定解釈すべきであるとする被告の主張は,本件意見書におけ
る原告の主張を歪曲するものであって,失当である。
(2)被告の主張
ア本件特許の出願経過
(ア)本件出願の願書に最初に添付した明細書(乙5。以下「本件出願
当初明細書」という。)記載の請求項1(以下「旧請求項1」とい
う。)には,本件訂正発明の構成要件Dに相当する要件として「有機
硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物」との記載があった。
また,本件出願当初明細書の発明の詳細な説明には,「有機硫黄化
合物としては,ペンタクロロチオフェノール,4−t−ブチル−o−チ
オフェノール,4−t−ブチルチオフェノール,2−ベンズアミドチオ
フェノール等のチオフェノール類,チオ安息香酸等のチオカルボン酸
類,ジキシリルジスルフィド,ジ(o―ベンズアミドフェニル)ジスル
フィド,アルキル化フェノールスルフィド等のスルフィド類などが好
適に用いられ,また金属含有有機硫黄化合物としては,上記チオフェ
ノール類,チオカルボン酸類の亜鉛塩などが好ましく使用される。こ
れらは1種を単独で使用しても,2種以上を組み合せて使用してもよ
い。」(6頁7行∼19行)との記載があった。
特許庁は,平成8年11月27日付けで,旧請求項1に係る発明
は,引用例(乙3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたとの本件拒絶理由通知をした。
(イ)原告は,本件拒絶理由通知に対し,平成9年3月10日付けで,
旧請求項1の「有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物」
を「チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選
ばれる有機硫黄化合物」に減縮するとともに,本件出願当初明細書の
発明の詳細な説明から,「ジキシリルジスルフィド,ジ(o―ベンズア
ミドフェニル)ジスルフィド,アルキル化フェノールスルフィド等の
スルフィド類」との記載部分を削除し,乙3に記載されたものと同じ
スルフィド類を権利範囲から除外する等の本件補正(乙4)をした。
その上で,原告は,同日付けの本件意見書(乙6)を提出した。本
件意見書には,「この引用例は,分子量調整剤としてはたらくジペン
タメチレンチウラムテトラスルフイドを,硬さ及び耐久性を維持しな
がら反発性能を向上させるための必須構成成分として配合することを
明らかにしているだけで,本願発明のチオフェノール類,チオカルボ
ン酸類又はそれらの金属塩を使用すること,及びこれら化合物を使用
することによって得られる作用効果に関しては開示も示唆もしておら
ず,本願発明の構成及びその作用効果を想到することは困難である。
もともと,引用例のジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドは,
加硫促進剤として作用するもので,それ自身ゴムの加硫に関与する。
ところが,本願に係るチオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれ
らの金属塩はこのような加硫に関与するものではなく,加硫促進効果
はないもので,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドとはその
作用も相違し,従って引用例のジペンタメチレンチウラムテトラスル
フイドから本願のチオフェノール類,チオカルボン酸類を想到するこ
とは困難であり,本願発明の効果は予測し難い。」(2頁20行∼3
頁3行)との記載があった。
特許庁は,本件意見書記載の原告の主張を採用し,本件補正後の本
件発明について特許査定をした。
イ構成要件Dの非充足
(ア)まず,本件意見書において,「引用例のジペンタメチレンチウラ
ムテトラスルフイドは,加硫促進剤として作用するもので,それ自身
ゴムの加硫に関与する。ところが,本願に係るチオフェノール類,チ
オカルボン酸類及びそれらの金属塩はこのような加硫に関与するもの
ではなく,加硫促進効果はないもので,ジペンタメチレンチウラムテ
トラスルフイドとはその作用も相違し,従って引用例のジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール類,チオカ
ルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果は予測し難
い。」との記載(前記ア(イ))があることから明らかなとおり,本件
発明の「チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩」
は,「加硫に関与するものではなく」,その結果,当然のことなが
ら,加硫促進効果も有しないものである。
そして,特許庁は,本件意見書記載の原告の主張を受け入れて本件
特許を付与したのであるから,原告が本件出願の審査過程において提
出した本件意見書記載の主張と異なる主張をすることは,包袋禁反言
の法理(filewrapperestoppel)に反し,信義則に反し許されないと
いうべきである。
以上のとおり,本件特許の出願経過における本件意見書記載の原告
の主張を参酌すれば,本件発明の「チオフェノール類,チオカルボン
酸類及びそれらの金属塩」,ひいては本件訂正発明の構成要件Dの「
ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」は,加硫に関与せず,
加硫促進効果がないように添加された場合に限定して解釈すべきであ
り,加硫に関与する添加剤は含まないと解釈すべきである。
そして,被告各製品における「ペンタクロロチオフェノール●(省
略)●は,ラジカルを捕獲し,加硫プロセス中にグラフト鎖の分子量
を調整する添加剤(ラジカル捕獲剤,分子量調整剤)であって,加硫
に関与する添加剤であるから,被告各製品は,本件訂正発明の構成要
件Dを充足しないというべきである。
(イ)次に,本件意見書の記載(前記ア(イ))から,原告は,本件出願
の審査過程において,「引用例のジペンタメチレンチウラムテトラス
ルフイド」(乙3のDPTT)は,「分子量調整剤として添加された
ものであり,本願発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類又はこ
れらの金属塩は,これと作用も相違し,従って引用例のジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール類,チオカ
ルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果は予測し難
い」と主張していたことを明瞭に理解できる。
そうである以上,本件発明の「チオフェノール類,チオカルボン酸
類及びそれらの金属塩」は,分子量調整剤として添加された乙3のD
PTTとは作用が相違するものであり,分子量調整剤として添加され
たものは含まないと理解すべきである。
また,乙3において,DPTTが分子量調整剤として機能するの
は,ラジカルを捕獲し,グラフト重合による高分子化が阻止されるこ
とによるものであるが,原告が本件意見書において本件発明の「チオ
フェノール類,チオカルボン酸類又はこれらの金属塩」は乙3のDP
TTとは作用が相違すると述べている以上,本件発明の「チオフェノ
ール類,チオカルボン酸類又はこれらの金属塩」には,ラジカル捕獲
剤として添加された添加剤を含まないと解釈すべきである。
以上のとおり,本件特許の出願経過における本件意見書記載の原告
の主張を参酌すれば,本件発明の「チオフェノール類,チオカルボン
酸類及びそれらの金属塩」,ひいては本件訂正発明の構成要件Dの「
ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」は,少なくともラジカ
ル捕獲剤として添加された添加剤又は分子量調節剤として添加された
添加剤を含まないと解釈すべきであり,原告がこれと異なる主張をす
ることは,包袋禁反言の法理により,信義則に反し許されない。
そして,被告各製品における「ペンタクロロチオフェノール●(省
略)●」は,ラジカル捕獲剤,分子量調整剤として添加されたもので
あるから,被告各製品は,構成要件Dを充足しないというべきであ
る。
(ウ)原告は,本件意見書の記載(前記ア(イ))は,ジペンタメチレン
チウラムテトラスルフイド(DPTT)とペンタクロロチオフェノー
ル(PCTP)を代表とするチオフェノール類,チオカルボン酸類と
の一般的な作用に対する当業者の認識の違いを指摘したにすぎないも
のであり,乙3のDPTTと本件発明の「チオフェノール類,チオカ
ルボン酸類及びそれらの金属塩」の作用効果の相違を主張したもので
はない旨主張する。
しかし,乙3のDPTTと並んで,代表的な加硫促進剤であるジメ
チルジチオカルバミン酸亜鉛は,CSSH基のHが亜鉛に置換され
た「チオカルボン酸」(乙44)の金属塩であって,「チオカルボン
酸類」に含まれることに照らすならば,原告が依りどころとする本件
意見書における「もともと,引用例のジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフイドは,加硫促進剤として作用するもので,それ自身ゴムの
加硫に関与する。ところが,本願に係るチオフェノール類,チオカル
ボン酸類及びそれらの金属塩はこのような加硫に関与するものではな
く,加硫促進効果はないもので,ジペンタメチレンチウラムテトラス
ルフイドとはその作用も相違し,従って引用例のジペンタメチレンチ
ウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール類,チオカルボン
酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果は予測し難い」と
の記載部分の主張は,DPTTとチオフェノール類,チオカルボン酸
類との一般的な作用に対する当業者の認識の違いを指摘したにすぎな
いと解釈することができないのは明白である。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(エ)以上のとおり,被告各製品は,構成要件Dを充足せず,本件訂正
発明の技術的範囲に属さないから,被告による被告各製品の輸入,販
売は,本件特許権の侵害に当たらない。
2争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について
(1)被告の主張
本件訂正発明は,本件出願前に頒布された刊行物である特開昭59−2
28868号公報(乙3),特開昭59−228866号公報(乙25)
又は特開昭59−228867号公報(乙26)に記載された発明(以
下,これらを併せて「乙3等記載発明」という。)と本件出願当時の周知
技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本
件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2
号)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,同法
104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行
使することができない。
ア乙3の記載事項
(ア)乙3には,①「本発明は新規なソリッドゴルフボールに関す
る。」(1頁左欄15行∼16行),②「従来,ソリッドゴルフボー
ルの組成物に添加されるα,β-エチレン系不飽和カルボン酸金属塩モ
ノマーを添加したソリッドゴルフボールは,これらのモノマーが遊離
開始剤によってポリブタジエン主鎖にグラフトされ,共架橋剤として
働き,これによりボールに適度の硬さ(コンプレッション圧縮比)
と耐久性を与えるものと考えられていた。然しながら,この共架橋さ
れた際に生ずるグラフト鎖が長くなると,ポリブタジエンゴムに他の
ポリマーを配合したのと同様の結果,即ちゴルフボールの反発性能の
低下をきたす事となる。本発明者らは前記α,β-エチレン系不飽和カ
ルボン酸の共架橋に際して生じるグラフト鎖の長さを調節する事によ
り,適度の硬さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能を著しく向
上させる事を試みる内,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド
及び/又はその誘導体がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に優れ
た性能を有する事を見出し,本発明を完成した。」(1頁右欄10行
∼2頁左上欄9行),③「本発明で得られるソリッドゴルフボール
は,前述の如く,ワンピースゴルフボール,ツーピースゴルフボール
及び多層構造のゴルフボールであってもよく,いずれに於いても(中
略)著しく優れた反発性能,耐久性およびフライトキヤリー特性を示
す。」(2頁右上欄末行∼左下欄7行),④「本発明の実施に用いら
れるゴム成分としてはポリブダジエンを単独又は天然ゴム,合成ポリ
イソプレンゴム等を(中略)混合して用いる。」(2頁右上欄9行∼
12行),⑤「上記のα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸の金
属塩は2価の金属塩,例えば亜鉛塩,カルシウム塩,マグネシウム
塩,ジルコニウム塩等であるが,特に亜鉛塩が好ましい。」(2頁左
上欄19行∼右上欄3行),⑥「本発明はジペンタメチレンチウラム
テトラスルフイド及び/又はその誘導体を含有するゴム組成物から形
成したゴルフボールを提供する。」(2頁左上欄10行∼13行)と
の記載がある。
(イ)上記(ア)によれば,乙3には,ゴルフボールの「反発性能,耐久
性およびフライトキヤリー特性」を優れたものとするため,ラジカル
捕獲剤としてDPTTを添加するという技術的思想が開示されてい
る。
すなわち,乙3には,DPTTを添加剤として添加することによっ
て,α,β-エチレン系不飽和カルボン酸の共架橋に際して生じるグラ
フト鎖の長さを調節することにより分子量調整剤として機能すること
が記載されており,これは正に,DPTTが,遊離開始剤によって発
生した高分子鎖のラジカルを適度に捕獲し,グラフト鎖の長さを調整
するというラジカル捕獲剤として機能することを説明するものである
から,乙3には,ラジカル捕獲剤としてDPTTを添加することによ
りゴルフボールの「反発性能,耐久性およびフライトキヤリー特性」
を優れたものとする技術的思想が開示されている。
イ乙25及び乙26の記載事項
乙3,25,26の各公報記載の出願は,同一の出願人によるもので
あって,乙25及び乙26には,乙25にあっては「2−(4−モルフ
オリニルジチオ)ベンゾチアゾール及び/又はその誘導体」が,乙26
にあっては「4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン及び/又はその
誘導体」がグラフト鎖の分子量調整剤として添加される点で乙3と違い
があるものの,乙3と同様の技術的思想(前記ア(イ))が開示されてい
る。
ウ本件訂正発明と乙3等記載発明との対比
(ア)前記アによれば,乙3には,本件訂正発明の構成要件A(前記ア(
ア)③),B(前記(ア)④),C(前記(ア)⑤)及びE(前記(ア)①)
の構成を有するゴルフボールが開示されており,本件訂正発明と乙3
記載発明とは,構成要件AないしC及びEの構成を有する点で一致
し,以下の点で相違する。
(相違点)
本件訂正発明では,「ペンタクロロチオフェノール又はその金属
塩」(構成要件D)を添加するのに対し,乙3記載発明では,これを
添加せず,「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び/又は
その誘導体」を添加している点。
(イ)前記イによれば,本件訂正発明と乙25記載発明とは,構成要件
AないしC及びEの構成を有する点で一致するが,本件訂正発明で
は,「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」(構成要件D)
を添加するのに対し,乙3記載発明では,これを添加せず,「2−(
4−モルフオリニルジチオ)ベンゾチアゾール及び/又はその誘導
体」を添加している点で相違する。
また,本件訂正発明と乙26記載発明とは,構成要件AないしC及
びEの構成を有する点で一致するが,本件訂正発明では,「ペンタク
ロロチオフェノール又はその金属塩」(構成要件D)を添加するのに
対し,乙3記載発明では,これを添加せず,「4,4’−ジチオ−ビ
ス−ジモルフオリン及び/又はその誘導体」を添加している点で相違
する。
エ周知技術
ペンタクロロチオフェノール(PCTP)がラジカル捕獲剤であるこ
と及びPCTPを含むチオール類が分子量調節剤であることは,以下の
とおり,本件出願当時,周知であった。
(ア)本件出願当時,PCTPがラジカル捕獲剤であることは周知であ
った。
このことは,例えば,①乙17(「MASTICATIONOFRUBBER」198
1年11月発行)に,「酸素の存在にかかわらず,チオフェノール類
又は芳香族ジスルフィド類は,鎖フラグメントのフリーラジカルを安
定化させるためのラジカル受容体として使用することができる」(原
文310頁20∼22行の訳文),②乙18(「EffectofRubberCo
mpoundingIngredientsonthePeptizationEfficiencyofActivate
dPentachlorothiophenol」,1976年11月)に,「PCTPは,
酸素のない低温素練りにおいて,ラジカルアクセプターとして機能す
る」(原文676頁右欄11行∼13行の訳文),③乙19(「Impro
vedeconomicsintheproductionofNRgoodsthroughtheuseof
peptizers」1991年8月発行)に,「現在,産業上重要なペプタイ
ザーは,PCTP及びその派生物,ジベンゾアミドジフェニルジスル
フィド及び金属混合物である」(原文15頁左欄11行∼13行の訳
文),④乙20(「アクチベーター,リターダー,ペプタイザー」1
977年発行)に,「4.ペプタイザー4.1現状と問題点
ペプタイザーには芳香族メルカプタン類,ジスルフィド類並びにそれ
らの亜鉛塩などがある。・・・芳香族メルカプタン類は,PCTP以
外は液体で特異臭があり使用上問題があるが,ジスルフィドや亜鉛塩
はこの点が改良されている。これらのうち現在主として使用されてい
るのはPCTP,BADS及びこれらの亜鉛塩を主成分とするものと
思われる。」(687頁)との記載があることから明らかである。そ
して,ペプタイザーは,「素練りで切れた分子鎖ラジカルと反応して
再結合を抑制し,可塑化を促進するもの」(乙10)であり,素練り
によって生じたラジカルを捕獲するラジカル捕獲剤としての機能を有
するものである。
また,⑤乙40に,「本研究において,我々は天然ゴムのネットワ
ーク構造と技術的特性及び充填剤を添加した加硫に関する,(a)ペプ
タイザー,ペンタクロロチオフェノール(PCTP),(b)老化防止
剤,N-IsopropylN’-phenyl-p-phenylenediamine(IPPD)および(c)
加硫遅延剤,N-nitrosodlphe-nylamine(NDPA)の効果を研究した。我
々は,従来システムにおける加硫システムおよびより効率化された加
硫システムの双方を使用した。」(訳文1頁20行∼末行),⑥乙4
1に,「加硫促進剤としてラジカルが供与されることによって,この
ような反応を導いたのである。これらのラジカル供与物質としては,
硫黄ベースの加硫促進剤,過酸化物およびペンタクロロチオフェノー
ルが含まれている」(訳文1頁下から4行∼末行),⑦乙42に,「
この加硫プロセスは遅く,高温が使用されても,加硫の促進には,加
硫促進剤を必要とする。この目的のための最良の促進剤はペンタクロ
ロチオフェノール(ここでは単にチオフェノールPCTPと称す)で,
高温でラジカルを形成する」(訳文1頁11行∼14行)との記載が
あり,これらの記載によれば,PCTPは,加硫(架橋)反応に使用
され,加硫反応においてラジカルを供与すること,この供与されたラ
ジカルがラジカル捕獲機能を果たすことを理解できることからも明ら
かである。
このようにゴムの合成,形成過程におけるラジカル捕獲剤の作用機
序は,高分子鎖の末端のラジカルと反応することによって,高分子鎖
を安定させて高分子鎖同士の再結合を抑制し,もって高分子の分子量
を低下させるものであることも,本件出願の当時,周知であった。
(イ)PCTPを含むチオール類が分子量調節剤であることは,本件出
願当時,周知であった。
すなわち,①乙54(「アリンジャー有機化学(下)」1976年
9月1日発行)に,チオール類は,R−SHで表わされる有機化合物
であり(868頁),「チオールからRS・の形成は容易であり,チ
オールとアルケンの遊離基付加は円滑でかつ有用な反応である。チオ
ールは非常に有効な連鎖移動剤であり,このような反応では高分子化
はほとんど,あるいは全然起こらない」(870頁)との記載がある
こと,②乙50に,「連鎖移動剤」とは,「重合度を調節する目的で
重合系に加える連鎖移動を起こしやすい物質。・・・したがって重合
体の分子量を調節するのに有効である」(2549頁)との記載があ
ること,③乙58に,「重合調節剤」は,「重合調整剤ともいい,重
合体の分子量を調整する目的で重合系に添加する物質。たとえば,連
鎖重合反応の場合,反応速度をあまり変化させずに,重合体の分子量
を任意の大きさに調節し,または重合体の枝分かれや橋かけを防止す
るために加える。代表的なものには,チオール類,ジスルフィド類,
ハロゲン化合物などがある。」(1084頁),④乙59に,「連鎖
移動剤・・・(別)重合調整剤,分子量調整」(238頁),「(
別)は俗名・俗称を含めた別名・同義語」との記載があることから明
らかなとおり,チオール類が分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤
であることは,本件出願当時,周知であった。これは,チオール類の
メルカプト基(SH基)の作用に基づくものである。
そして,PCTPのようなクロロチオフェノール類(クロロ基を有
するチオフェノール類)は,チオール類の一種(乙54の2,乙55
ないし57)であり,同様に分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤
であることも周知であった(例えば,乙60ないし67)。
オ相違点に係る構成の容易想到性
(ア)乙3には,ジスルフィド類であるDPTTがラジカル捕獲剤とし
て添加され,これがグラフト重合を抑制し,分子量を調整する分子量
調整剤として機能することにより,ゴルフボールの飛行性能の改善等
の効果が得られるとする技術的思想が開示されている。また,乙25
及び乙26には,ジスルフィド類である「2−(4−モルフォリニル
ジチオ)ベンゾチアゾール」及び「4,4’−ジチオ−ビス−ジモル
フオリン」がそれぞれ添加されることにより,同様にゴルフボールの
飛行性能の改善等の効果が得られるとする技術的思想が開示されてい
る。
したがって,乙3,25又は26に接した当業者であれば,DPT
T,「2−(4−モルフォリニルジチオ)ベンゾチアゾール」又は「
4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン」(以下,これらを併せ
て「DPTT等」という。)に替えて,他の種類の分子量調整剤を添
加すれば,同様にゴルフボールの飛行性能が改善されることを予期す
ることは極めて容易であり,クロロチオフェノール類(クロル基を有
するチオフェノール類)を含むチオール類が分子量調整剤(連鎖移動
剤,重合調整剤)として作用することは本件出願当時周知であった以
上,DPTT等に替えて,クロロチオフェノール類の一種であるPC
TPを分子量調整剤として添加すれば,ゴルフボールの飛行性能が改
善されることを予期することは極めて容易であったというべきである
から,DPTT等をPCTPに置換する動機付けが存在する。
また,PCTPはペプタイザーの代表格であるが,分子量調整剤で
もある。例えば,乙40には,「混合物Aおよび混合物Bの実験結果
の比較は,Mooneyの粘着性は,予測されたように,ペプタイザーの添
加により低くなることを示している。・・・化学分析の結果(表V)は,
ペプタイザーにより,架橋の密度が減少し,ポリスルフィドの架橋の
犠牲の下,ジスルフィドの架橋の濃度がある程度増加した。」(訳
文(抄訳)2頁3行∼11行)との記載があり,この記載は,PCT
Pの加硫における作用機序として「架橋密度の減少」,すなわち,乙
3,25,26のグラフト鎖の分子量調整機能と同様の知見を示すも
のである。
この「架橋密度の減少」が「グラフト鎖の分子量の調整」と実質的
に同じであることは,本件特許の先願発明の明細書(乙27)に,「
ラジカル捕獲剤を添加して過酸化物系架橋開始剤により発生するラジ
カルを適度に捕獲し,過酸化物架橋密度を調節する」との記載がある
とおり,「架橋密度の調整(減少)」は,ラジカル捕獲剤としての効
果であることから明らかである。
一方,DPTTは,加硫促進剤であるとともに分子量調整剤である
から,DPTTとPCTPは分子量調整剤である点において共通し,
分子量調整剤としての機能に着眼すれば,DPTTに替えてPCTP
を使用する動機付けは十分である。
さらに,DPTT等のジスルフィド類とPCTPを含むチオール類
は,代表的な分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤として,広く互
換的に用いられている(乙36,61,63,64)。
したがって,当業者であれば,乙3,25又は26記載のゴルフボ
ールにおいて,DPTT等に替えて,PCTPを使用することによっ
て本件訂正発明を容易に想到することができたものである。
(イ)aこれに対し原告は,後記のとおり,連鎖移動剤と呼ばれる化合
物は多数あり,しかも,それらが実際に反応過程において,いかな
る機能を有するかは,ポリマーラジカルとの組合せ,反応温度,添
加量等の各種条件に依存するものであって,ある化合物が実際に連
鎖移動剤として有効に働くかどうかは試してみないと分からない旨
主張する。
しかし,少なくとも,乙60(英国特許出願公開公報第4976
38号)が公開された1938年(昭和13年)以降,ジエンの重
合により合成ゴムを製造する際に,クロロチオフェノール類(クロ
ル基を有するチオフェノール類)を含むチオール類が分子量調整
剤,連鎖移動剤,重合調整剤として作用することは周知であったも
のであり,「連鎖移動剤」として多数の化合物が存在するとして
も,クロロチオフェノールの一種であるPCTPを選択することは
極めて容易であったというべきである。
また,原告が問題とする「反応温度,添加量等の各種条件」は,
PCTPを分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤として使用する
際の単なる設計事項にすぎない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
bまた,原告は,後記のとおり,実験報告書(甲31)記載の実験
結果から,本件訂正発明は,乙3等記載発明と比較して,飛び性能
の点で顕著な作用効果を奏するものであり,本件訂正発明は乙3,
25又は26に基づいて容易に想到することができたものではない
旨主張する。
しかし,甲31記載の実験は,加硫条件が「163℃35分」
というもので,本件明細書の実施例,比較例における「155℃
20分」という加硫条件とは全く異なる条件であるから,本件明細
書の実施例に準じた実験であるとはいえない。
かえって,被告が実施したゴルフボールの芯の初速の比較実験の
結果を記載した2008年3月18日付け実験報告書(乙47)に
よれば,本件訂正発明の添加剤であるペンタクロロチオフェノー
ル(PCTP)又はPCTP亜鉛塩(ZnPCTP)が乙3,2
5,26の添加剤であるDPTT等に比較して,顕著な作用効果を
奏しているなどという事実は存在しない。
すなわち,乙47のテスト番号1は,本件明細書記載の条件と同
一の条件で形成された芯との比較実験であり,その実験の結果,本
件訂正発明の添加剤であるPCTP,PCTP亜鉛塩により形成さ
れた芯は,乙26の添加剤である4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフ
オリンで形成された芯との初速度において,差異は生じなかった。
乙47のテスト番号2は,過酸化物として添加されているジクミ
ルパーオキサイドの配合量を,本件明細書上,特に好ましいとされ
る重量範囲の上限である2.5重量部(甲2の2欄36行∼37
行)に増量した以外は,テスト番号1と同一の条件で形成された芯
との比較実験であり,その実験の結果,本件訂正発明のZnPCP
Tにより形成された芯は,DPTT(乙3)及び2−(4−モルフオ
リニルジチオ)−ベンゾチアゾール(乙25)により形成された芯
よりも,初速度がそれぞれ0.09m/s,0.23m/s遅いこ
とが示された。
また,PCTP亜鉛塩に限定しても,乙43の第1表に示されて
いるとおり,比較例1(PCTP亜鉛塩を添加してないゴルフボー
ル)と実施例2(PCTP亜鉛塩を添加しているゴルフボール)と
では,比較例1の方が初速度が高い。飛距離をみても,DPTTを
添加したゴルフボールは214メートル(乙3の実施例3),2−(
4−モルフオリニルジチオ)−ベンゾチアゾールを添加したゴルフ
ボールは213メートル(乙25の実施例3),4,4’−ジチオ−
ビス−ジモルフオリンを添加したゴルフボールは215メートル(
乙26の実施例3)であるのに対して,PCTP亜鉛塩を配合した
ゴルフボールの飛距離は,206メートル,203メートル(乙4
3の実施例1,2)であり,優れた飛行性能を示すものとはいえな
い。
以上によれば,本件訂正発明は乙3等記載発明と比較して飛び性
能の点で顕著な作用効果を奏するとの原告の主張は,理由がない。
カ小括
以上のとおり,本件訂正発明は,進歩性の欠如の無効理由があり,本
件特許は特許無効審判により無効とされるべきものである。
(2)原告の主張
ア乙3,25,26の記載事項に関する主張に対し
乙3,25,26には,DPTT等が「グラフト鎖の分子量調整剤」
として作用している旨記載されているにすぎず,グラフト鎖の分子量が
本当に調整されているのか明らかではないし,仮にグラフト鎖の分子量
が調整されているとしても,そのメカニズムは何ら実証・確認されてい
ない。
また,乙3,25,26には,DPTT等が連鎖移動剤として機能す
ることや,連鎖移動機能によってグラフト鎖の分子量調整がされること
についての開示も,示唆もない。
さらに,乙3,25,26は,DPTT等の特定の化合物を構成要素
とし,グラフト鎖の分子量調整剤として機能していると記載されている
にすぎず,ラジカル捕獲剤一般を添加することによって,分子量が調整
され,ゴルフボールの飛行性能等が改善されることを開示するものでは
ない。
イ周知技術の主張に対し
(ア)原告は,本件出願当時,PCTPがラジカル捕獲剤であることは
周知であった旨主張する。
たしかに,PCTPがペプタイザーとしてのラジカル捕獲機能に優
れており,その意味では,ラジカル捕獲剤の一種であるということは
できる。
しかし,PCTPのペプタイザーとしてのラジカル捕獲の作用機序
と被告主張の乙3におけるDPTTのラジカル捕獲の作用機序とは,
その工程も技術的思想も異なるものである。
ゴルフボールを含むゴム製品は,一般的に,①生ゴムを素練りす
る(素練り),②素練りした生ゴムにカーボン等の充てん剤や硫黄等
の加硫剤を配合する(混練り),③混合したゴム(配合ゴム)を希望
の形に成形する(成形),④成型物を加熱して加硫して製品をつく
る(加硫)という工程を経て形成され(甲21,22),ペプタイザ
ーは①の素練りの工程で添加される素練り促進剤である。乙17,1
8には,天然ゴムのしゃく解(素練り)の段階において,PCTP等
の特定の薬剤を添加することにより,一旦切断された原料ゴムの高分
子鎖(主鎖)の切断開裂部位のラジカルと反応させ(ラジカルを捕捉
し),ゴム高分子鎖(主鎖)を安定させてゴム高分子鎖(主鎖)同士
の再結合を抑制し,ゴム高分子鎖(主鎖)の分子量を低下させ,もっ
て原料ゴムの弾性を減らし,一定の可塑性を与えることができるとい
うペプタイザーの作用機構が開示されている。
他方で,乙3は,ポリブタジエン(合成ゴム)にDPTTを添加す
ることによって,DPTTが,α,β−エチレン系不飽和カルボン酸
の共架橋に際して生じる「グラフト鎖」の長さを調整することによ
り,グラフト鎖の分子量調整剤として機能すること,すなわち,架
橋(③の加硫)の段階において,共架橋に際して生じるグラフト鎖(
幹となる主鎖ではなく枝となる側鎖)の長さを調整することを指摘す
るものであり(もっとも,前記アのとおり,このような作用機序自
体,確認されたものではない。),被告の主張する乙3のDPTTの
ラジカル捕獲の作用機序と乙17,18記載のPCTP等のペプタイ
ザーのラジカル捕獲の作用機序は異なるものである。
(イ)被告は,PCTPのようなクロロチオフェノール類はチオール類
の一種であり,PCTPを含むチオール類が分子量調節剤(連鎖移動
剤)であることは,本件出願当時,周知であった旨主張する。
しかし,チオールの構造式の「RSH」の「R」が,一般的にアル
キル基又は置換アルキル基を指し,PCTPは,ベンゼン環に直接S
H基が結合しており,ベンゼン環はアルキル基でも置換アルキル基で
もなく,「RSH」という構造式で表されるものではないこと(甲4
7,48)からすれば,PCTPがチオール類の一種であることを当
然の前提とする被告の主張は失当である。
また,仮に被告が主張するようにPCTPがチオール類の一種であ
るとしても,本件出願当時,PCTPは,ゴムの高分子主鎖を低分子
化させるために用いられるしゃっかい剤(ペプタイザー)として周知
であったものの,PCTPが連鎖移動剤たり得るとの知見はなかった
ものである。
ウ相違点に係る構成の容易想到性の主張に対し
(ア)PCTPへの置換を想到することが容易でないこと
a「ラジカル捕獲剤」とは,ラジカルを捕獲するという化学反応を
生ぜしめ得る化合物の総称であり,「ラジカル捕獲剤」と呼ばれる
化合物は,その用途ないし効果により,代表的には酸化(老化)防
止剤,重合禁止剤,光安定剤などに分類され,各分類毎に極めて多
数の化合物が含まれる(甲27ないし29)。どのようなラジカル
捕獲剤であっても,ゴルフボールの飛び性能に寄与するとの知見は
ない。
また,「連鎖移動剤」と呼ばれる化合物の中にも,多数の化合物
が含まれ,分子量を適当な大きさに調整するものから,オリゴマー
ないしテロマー(重合度が数個程度までの重合体)をつくるための
もの,重合禁止のためのものまで機能は多岐にわたる(甲49)。
しかも,ある物質が連鎖移動剤として有効に働くかどうかは,そ
の連鎖移動定数(連鎖重合における連鎖移動反応と生長反応の速度
定数比で連鎖移動反応の起こりやすさを表わす)により決まり,こ
の連鎖移動定数自体も,連鎖移動剤とポリマーラジカルとの組合
せ,反応温度,添加量等により相対的に決まるものである(甲4
9)。このように連鎖移動剤と呼ばれる化合物は多数あり,しか
も,それらが実際に反応過程において,いかなる機能を有するか
は,ポリマーラジカルとの組合せ,反応温度,添加量等の各種条件
に依存するものであって,ある化合物が実際に連鎖移動剤として有
効に働くかどうかは試してみないと分からないものである。
したがって,仮に乙3,25,26のDPTT等が連鎖移動剤と
して機能してグラフト鎖の分子量調整機能を果たしているとして
も,乙3,25又は26に接した当業者において,DPTT等とい
う特定のスルフィド化合物に替えて,連鎖移動剤として作用し得る
数ある化合物の中からチオール類を選択して置換しようとする動機
付けを見出すことはできるものではないし,ましてや,連鎖移動剤
たり得るとの知見もないPCTPというチオフェノール類に属する
特定の化合物に置換する動機付けは全くない。
なお,被告は,乙40には,PCTPの加硫における作用機序と
して「架橋密度の減少」,すなわち,乙3,25,26のグラフト
鎖の分子量調整機能と同様の知見が示されている旨主張する。
しかし,乙40記載の「架橋密度の減少」とは,単位体積中に存
在する架橋点(架橋によりゴム分子鎖(主鎖)間に橋架けが生じ,
ゴム分子鎖(主鎖)同士が化学的に結合された部分)の数が減少す
ること(乙11)をいい,グラフト鎖,すなわち,ゴム分子鎖(主
鎖)そのものではなく,ゴム分子鎖(主鎖)に形成された枝が伸び
て生長する,その枝の長さ(分子量)を調整する「グラフト鎖の分
子量調整」(乙23,甲35)とは,全く異なる事象である。
このほか,被告主張の乙号各証のいずれにおいても,PCTPが
架橋の際にグラフト鎖の分子量を調整する作用を有するかどうかに
ついての記載も示唆もない。
b乙3には,「この共架橋された際に生ずるグラフト鎖が長くなる
と,ポリブタジエンゴムに他のポリマーを配合したのと同様の結
果,即ちゴルフボールの反発性能の低下をきたす事となる。本発明
者らは前記α,β-エチレン系不飽和カルボン酸の共架橋に際して生
じるグラフト鎖の長さを調節する事により,適度の硬さと耐久性を
付与しながら,同時に反発性能を著しく向上させる事を試みる内,
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び/又はその誘導体
がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に優れた性能を有する事を
見出し,本発明を完成した。」(1頁右欄17行∼2頁左上欄9
行)との記載がある。この記載によれば,乙3記載のゴルフボール
は,グラフト鎖の重合体が過度に高分子化することは避けつつも,
相当程度の高分子化は志向するものであることを理解できる。これ
に対し乙54には,「チオールは非常に有効な連鎖移動剤であり,
このような反応では高分子化はほとんど,あるいは全然起こらな
い。」との記載があり,この記載によれば,チオール類を用いた場
合,高分子化が「ほとんど,あるいは全然起こらない。」と理解で
きる。
そうすると,連鎖移動剤として作用し得る数ある化合物の中か
ら,このようなチオール類を高分子・高反発を主眼とするゴルフボ
ールの製造において添加しようとする当業者はいない。ましてや,
PCTPは,ゴムの高分子主鎖を低分子化させるために用いられる
ペプタイザーの代表格であるから,このような分子量及び反発性能
を低下させるおそれの高いPCTPをあえて選択し,ゴルフボール
に添加しようとすることなど,当業者が容易に想到し得ることでは
ない。また,DPTT等は,代表的な加硫促進剤であって,原料ゴ
ムの加硫に際して,加硫剤と作用して加硫速度を増大させ,加硫時
間の短縮,加硫温度の低下,加硫剤の減量,加硫物の物性の向上を
目的として添加する配合剤(乙8)として認識されていたものであ
り(甲19),このような代表的な加硫促進剤であるDPTT等
を,素練り工程で使用されるペプタイザー(素練り促進剤)の代表
格であるPCTPをもって置換しようとする当業者はいない。
したがって,DPTT等に替えてPCTPを添加することは容易
に想到されることではなく,乙3等記載発明及び周知技術に基づい
て本件訂正発明を容易に想到することができたものとはいえない。
(イ)本件訂正発明の顕著な作用効果
a本件訂正発明のPCTP亜鉛塩を添加したゴルフボールは,乙
3,25,26のDPTT等を添加したゴルフボールよりも,その
コアの初速度が飛躍的に向上することは,原告が行った比較実験の
結果(甲24,31)から明らかであり,本件訂正発明は,飛び性
能の点で顕著な作用効果を奏するものである。
すなわち,実験報告書(甲31)によれば,本件訂正発明に係る
PCTP亜鉛塩を添加したゴルフボールコアの初速度は,乙3の「
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド」(DPTT)を添加
したものと比べると1.37m/sec,乙25の「2−(4−モルフォ
リニルジチオ)ベンゾチアゾール」を添加したものと比べると0.
89m/sec,乙26の「4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン」
を添加したものと比べると1.15m/sec,それぞれ上昇しており,
本件訂正発明のPCTP亜鉛塩を添加したゴルフボールコアの初速
度がDPTT等を添加したゴルフボールコアの初速度に比して飛躍
的に向上していることは明らかである。飛距離に影響する要素とし
ては,初速度のほかに,打出角やスピン量などもあるので,初速度
がどれだけアップすれば飛距離はどれだけアップすると一概にはい
えないが,初速度が1.00m/sec上がれば飛距離は約5∼6ヤー
ド(≒4.57∼5.49m)伸びるとしたホームページの記載(甲
42)や,コア初速度が1.00m/sec上がれば,ボール飛距離は約
10m(≒10.94ヤード)アップするという結果が示された公
報の記載(甲25の表2)がある。これらからすると,本件訂正発
明のゴルフボールコアの初速度1.37m/secの上昇(乙3のゴルフ
ボールとの対比)は,飛距離に換算すると約10mに及ぶ差となり,
初速度0.89m/secの上昇(乙25のゴルフボールとの対比)や初
速度1.15m/secの上昇(乙26のゴルフボールとの対比)も,飛
距離に換算すると約5∼10mに及ぶ差となるものと考えられる。
したがって,本件訂正発明は,飛び性能の点で顕著な作用効果を
奏するものであるから,乙3,25,26に基づいて容易に想到す
ることができたものとはいえない。
bこれに対し被告は,被告が実施したゴルフボールの芯の初速の比
較実験の結果を記載した実験報告書(乙47)によれば,本件訂正
発明の添加剤であるペンタクロロチオフェノール(PCTP)又は
同亜鉛塩(ZnPCTP)が乙3,25,26の添加剤に比較し
て,顕著な作用効果を奏しているなどという事実は存在しない旨主
張する。
しかし,被告が行った実験(乙47)では,過酸化物を2.5重
量部に増量した場合(テスト番号2),2-(4−モルフォリニジチ
オ)ベンゾチアゾールを添加した芯球(3),PCTPを添加した
芯球(5),2-(4−モルフォリニルジチオ)ベンゾチアゾール,
4−4‘−ジチオ−ビスモルフォリン,PCTP亜鉛塩及びPCT
Pを添加していない芯球(6)をいずれも製造することができずに
失敗に終わっているなど,実験結果としての信用性が疑われるもの
であり,このような実験結果からすれば,過酸化物を1.5重量部
添加した場合の実験結果(テスト番号1)の信用性も疑わしい。
cまた,被告は,乙43の第1表に示されているとおり,比較例
1(PCTP亜鉛塩を添加してないゴルフボール)と実施例2(P
CTP亜鉛塩を添加しているゴルフボール)とでは,比較例1の方
が初速度が高く,また,乙3,25,26と乙43の各実施例の飛
距離を比較して,PCTP亜鉛塩を配合したゴルフボールの飛距
離(乙43の実施例1,2)は,乙3,25,26のゴルフボール
の飛距離(いずれも実施例3)と比べて,優れた飛行性能を示すも
のではない旨主張する。
しかし,PCTP亜鉛塩の添加の有無のみが異なる条件で対比す
べきであるのに,被告が対比している乙43の比較例1と実施例2
のコア成分は,PCTP亜鉛塩の添加の有無だけが異なるものでは
ないから,PCTP亜鉛塩添加の有無以外の条件の違いを度外視し
て,単純に初速度を比較することに意味はない。
また,乙3,25,26と乙43の各実施例では,コア成分の配
合割合,コアの直径,カバーの厚み等のボールの各条件が異なるこ
とに加え,飛距離を大きく左右する,打撃試験器の設定条件(ヘッ
ドスピード,スピン量,打出角等),クラブ種(同じドライバーで
あっても種類が異なれば性能も異なる),試験環境(風の有無,ラ
ンの距離も考慮する場合には地面の状態等)等のボール以外の条件
も異なるので,これらを考慮せずに,上記各実施例の飛距離を単純
に比較して飛び性能の優劣を論じることに意味はなく,被告の主張
は失当である。
エ小括
以上のとおり,本件訂正発明には進歩性の欠如の無効理由があり,原
告が本件特許権を行使することができないとの被告の主張は,その前提
を欠くものであって,理由がない。
3争点3(原告の損害額等)
(1)原告の主張
ア特許法102条1項の損害額(逸失利益)
(ア)被告各製品の譲渡数量
平成15年1月から平成18年2月までの間における被告各製品の
譲渡数量(単位・ダース)は,別表1の「被告各製品の譲渡数量」欄
記載の各数量を下らない。
(イ)単位数量当たりの利益額
a特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売すること
ができた物」とは,その文言から,特許発明の実施品である必要は
なく,市場において侵害品と競合する製品であれば足りるというべ
きである。
原告が製造販売しているゴルフボールのうち,価格,品質等の観
点から被告各製品と市場において競合する製品は,別表1の「対応
する原告製品」欄記載の各製品(以下「原告各製品」という。)で
あり,いずれも本件特許の実施品である。また,仮に被告が主張す
るように原告各製品の一部にPCTPを含有しないものがあるとし
ても,それらも市場において被告各製品と競合する製品であるか
ら,「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たるこ
とに変わりはない。
そして,原告各製品の単位数量(1ダース)当たりの利益額は,
別表1の「原告製品の単位数量(1ダース)当たりの利益額」欄記
載の各金額を下らない。
b被告は,後記のとおり,特許法102条1項本文の「侵害行為が
ければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」は特
許発明の寄与率を考慮して算定すべきであることを前提に,本件訂
正発明の寄与率に関する主張を展開しているが,本件訂正発明はゴ
ルフボールそのものに関する発明であって寄与率を議論する余地は
ないから,被告の主張は,その前提において失当である。
(ウ)原告の実施能力
原告は,前記(ア)の被告各製品の販売数量の全部について原告各製
品を製造販売する能力(供給能力)を有していた。
(エ)逸失利益の不発生の主張に対し
被告は,後記のとおり,種々の事情を挙げて,本件においては,原
告主張の逸失利益を生じる余地はなく,特許法102条1項の適用の
前提を欠いている旨主張するが,被告の主張する事情は,原告の逸失
利益の有無とは関係のないものであって失当である。
(オ)小括
したがって,原告が被告による前記(ア)の被告各製品の譲渡により
受けた損害額は,特許法102条1項の規定により,別表1の「被告
各製品の譲渡数量」欄記載の各数量に「原告製品の単位数量(1ダー
ス)当たりの利益額」欄記載の各金額を乗じた「原告の損害」欄記載
の各金額(合計55億5386万2000円)を下らない。
イ「販売することができないとする事情」を考慮した場合の損害額
被告は,後記のとおり,被告各製品の譲渡数量の一部について原告
が「販売することができないとする事情」(特許法102条1項ただし
書)がある旨主張する。
しかし,被告の主張する事情は,いずれも原告が「販売することがで
きないとする事情」に該当しない。
仮に被告の主張する事情のうち,市場における競合品・代替品の存在
が「販売することができないとする事情」に該当するとした場合には,
原告の損害額は,次のとおりとなる。
(ア)特許法102条1項の損害額(逸失利益)
a各社のゴルフボール全体でみた市場占有率を考慮した場合の損害

被告各製品の譲渡数量のうち,被告を除く市場における競合会社
の市場占有率に相当する販売数量が「販売することができないとす
る事情」に相当する数量に該当すると仮定し,下記の計算式によ
り,各社のゴルフボール全体でみた市場占有率を考慮した場合にお
ける原告の損害額が算出される。
【計算式】「原告製品の単位数量当たりの利益額(円)」×「被告
を除く市場における原告の市場占有率に相当する数量」(被告各製
品の譲渡数量×被告を除く市場における原告製品の市場占有率)
そして,各社のゴルフボール全体でみた市場占有率(甲53,5
4)を考慮した場合における原告の損害額は,別表2のとおり,合
計25億6940万0640円となる。
b価格帯別の市場占有率を考慮した場合
価格帯別(1ダース当たりの価格がプレミア6000円以上,高
価格帯4000円以上6000円未満,中価格帯2000円以上4
000円未満,低価格帯2000円未満)の被告を除く市場におけ
る原告の市場占有率を,ある価格帯の原告各製品の販売数量の合計
をゴルフボールメーカー全体の当該価格帯に属する製品の販売数量
の合計で除することによって算出する。
そして,価格帯別の市場占有率(甲53,54)を考慮した場合
における原告の損害額は,別表3のとおり,合計28億2206万
9738円となる。
(イ)特許法102条3項の損害額(実施料相当額の損害額)
前記(ア)a又はbの「販売することができないとする事情」に相当
する数量に応じた譲渡数量部分についても,被告が無許諾で実施して
いたことに変わりはないから,当該部分について,特許法102条3
項に基づいて,実施料相当額の損害賠償を請求できると解すべきであ
る。この実施料相当額の損害額は,下記の計算式により算出される。
【計算式】「被告のゴルフボールの総売上高」×「被告各製品の構成
比」×「被告を除く市場における競合品の市場占有率」×「実施料
率」
そして,ゴルフボールはゴム製品に属し,近年におけるゴム製品の
実施料率は5%を下らないこと(甲55),●(省略)●などを勘案
すれば,本件訂正発明の実施に対し受けるべき実施料の実施料率は5
%が相当である。
そうすると,①各社のゴルフボール全体でみた市場占有率を考慮し
た場合の実施料相当額の損害額は,別表4のとおり,合計2億190
3万5406円であり,②価格帯別の市場占有率を考慮した場合の実
施料相当額の損害額は,別表5のとおり,合計2億0126万828
9円となる。
(ウ)まとめ
以上によれば,市場における競合品・代替品の存在が「販売するこ
とができないとする事情」に該当するとした場合の原告の損害額は,
①各社のゴルフボール全体で見た市場占有率を考慮した場合には合計
27億8843万6046円(前記(ア)aの25億6940万064
0円及び前記(イ)①の2億1903万5406円の合計額),②価格
帯別の市場占有率を考慮した場合には合計30億2333万8027
円(前記(ア)bの28億2206万9738円及び前記(イ)②の2億
0126万8289円の合計額)となる。
ウ被告が返還すべき利得額
(ア)平成14年3月から同年12月までの分
被告は,平成14年3月から同年12月までの間,本来支払うべき
本件訂正発明の実施についての実施料を支払わずに被告製品⑪を販売
したのであるから,その実施料相当額を法律上の原因なく利得し,こ
れにより原告は,同額の損失を被ったものである。
被告製品⑪の平成14年3月から同年12月までの間の売上高は,
4億8000万円を下らない。
そして,本件訂正発明の実施に対し受けるべき実施料は5%が相当
であるから(前記イ(イ)),被告製品⑪の販売に対する実施料は,被
告の上記売上高の5%に相当する2400万円を下らない。
したがって,原告は,被告に対し,上記2400万円の不当利得返
還請求権を有するものである。
(イ)平成18年1月及び2月分(予備的主張)
被告は,後記のとおり,原告の平成18年1月1日から同年2月1
9日までの間の被告各製品の譲渡数量に係る本件特許権侵害の不法行
為による損害賠償請求権については消滅時効が成立する旨主張する。
原告は,被告の主張を争うものであるが,仮に被告主張のとおり消
滅時効が成立しているとしても,被告は,上記期間において本来支払
うべき本件訂正発明の実施についての実施料を支払わずに被告各製品
を販売したのであるから,その実施料相当額につき,法律上の原因な
く利得し,これにより原告は,同額の損失を被ったものである。
そして,被告の不当利得額は,被告製品①ないし⑤についての別表
4の「被告製品の売上高」欄記載の「平成18年1月」の各売上高及
び同欄記載の「平成18年2月」の各売上高の19/29の合計額に
実施料率5%を乗じた額(合計2127万9561円)となる。
したがって,原告は,被告に対し,上記2127万9561円の不
当利得返還請求権を有するものである。
エ弁護士費用
本件特許権侵害と因果関係のある弁護士費用は,本件訴訟の訴額,本
件訴訟の審理が長期間に及んでいること等を勘案すると1億円を下らな
い。
オ小括
以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為によ
る損害賠償及び不当利得の返還として総額56億7786万2000円
及び内金6億6080万円(別表1の平成15年上期の「原告の損害」
欄記載の損害額の合計額)に対する平成15年7月1日から,内金8億
9630万円(別表1の「平成15年下期」の「原告の損害」欄記載の
損害額の合計額)に対する平成16年1月1日から,内金8億5030
万円(別表1の「平成16年上期」の「原告の損害」欄記載の損害額の
合計額)に対する同年7月1日から,内金7億6720万円(別表1
の「平成16年下期」の「原告の損害」欄記載の損害額の合計額)に対
する平成17年1月1日から,内金9億6570万円(別表1の「平成
17年上期」の「原告の損害」欄記載の損害額の合計額)に対する同年
7月1日から,内金10億6590万円(別表1の「平成17年下期」
の「原告の損害」欄記載の損害額の合計額)に対する平成18年1月1
日から,内金2400万円(前記ウ(ア)の平成14年3月から同年12
月までの分の利得額)に対する平成18年1月5日(訴状送達の日の翌
日)から,内金1億7609万6000円(別表1の「平成18年1
月」の「原告の損害」欄記載の損害額の合計額)に対する同年2月1日
から,内金1億7156万6000円(別表1の「平成18年1月」
の「原告の損害」欄記載の損害額の合計額)に対する同年3月1日か
ら,内金1億円(前記エの弁護士費用)に対する平成21年2月24
日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定
の年5分の遅延損害金の支払を求めることができる。
(2)被告の主張
ア特許法102条1項の損害額(逸失利益)の主張に対し
(ア)別表1の「被告各製品の譲渡数量」についての認否
a原告主張の別表1の「被告各製品の譲渡数量」欄記載の数量につ
いては,別表6の各欄記載の数量の限度で認め,その余は否認す
る。
なお,別表6の各欄中の「○」は,当該欄に対応する別表1の「
被告各製品の譲渡数量」欄記載の数量全部を認めることを意味す
る。
b別表1の「被告各製品の譲渡数量」には,無償譲渡分が含まれて
いる。被告による無償譲渡は,サンプリングと呼ばれる販売店など
への販売促進目的の譲渡と,リーダーシップと呼ばれるプロ選手な
どへの提供によるものである(乙71)。これらの目的による無償
譲渡は,原告も当然に行っており,原告の逸失利益を生じさせない
のは明らかであるから,逸失利益の算定対象に含めるべきではな
い。
(イ)単位数量当たりの利益額について
a原告各製品が本件訂正発明の実施品でないこと
特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ販売すること
ができた物」とは,侵害された特許権に係る特許発明の実施品であ
ることを要すると解すべきである。
本件において,別表1の「対応する原告製品」欄記載の原告各製
品が本件訂正発明の実施品であることの立証はされておらず,少な
くとも,別表1記載の「TOURSTAGEX-01」については,「PCTP
及びそれらの金属塩」を含有していない(乙75)。
したがって,原告主張の「単位数量当たりの利益額」は失当であ
る。
b寄与率を考慮すべきであること
特許法102条1項本文の「単位数量当たりの利益の額」は,特
許発明の寄与率を考慮して算定すべきである。
本件訂正発明が原告各製品の利益にどの程度寄与しているかは,
本件訂正発明が存在しない場合を仮定した場合にどのような差違が
生じるかにより判断される。
(a)2003年(平成15年)から2007年(平成19年)ま
での5年間の被告のシェアの推移をみると,●(省略)●であ
り(乙69),被告がPCTPの使用を中止した2007年が最
も高いシェアとなっている。
ゴルフボールは,ブランド志向性が強く,被告の2007年の
シェアに端的に示されているとおり,被告のユーザーにおいて
は,特にこのような傾向が著しい。本件訂正発明の使用の有無
は,被告のゴルフボールの販売に全く影響を与えていない。
このように本件訂正発明の実施品に対する需要は明らかに存在
しない。また,市場において本件訂正発明の実施品と同等以上の
効果を有する代替可能な製品が存在している。
(b)ゴルフボールは,「最先端の科学技術がぎっしり詰まった特
許の塊」(乙82)であって,実際,平成15年1月から平成1
8年2月までに,有効に存在していた原告の特許権だけで233
件(乙83)ある。このように,多数の多岐の構成にわたる特許
権でカバーされるゴルフボールにおいては,「単位数量当たりの
利益の額」を算定するにあたっては,寄与率を当然に考慮すべき
である。
そして,寄与率の考慮に当たっては,特許発明を実施した製品
であることが,需要者の購入意欲を喚起し,購入を動機付ける特
徴的な技術かどうかを検討すべきである。
本件訂正発明は,ゴルフボールのコアを製造するにあたって基
材ゴムに添加する添加剤に関する発明であり,製品の極く一部に
関する発明にしかすぎず,しかも,原告により宣伝,広告されて
いるような特徴的な技術ではない。平成18年以降の本件訂正発
明の実施品ではないボールとそれ以前のボールとでは,飛び性能
において差異はなく(乙36),本件訂正発明の効果が,ユーザ
ーの購買の動機付けとなっているとはいえない。
(c)前記(a)及び(b)によれば,本件訂正発明は,原告各製品の
利益に一切貢献していないものといえる。
なお,製造コストに占める「PCTP及びその金属塩」の価額
割合は,●(省略)●であるが(乙85),本件訂正発明は,製
造コストに占める価額割合にすら貢献してない。
そして,原告主張の「単位数量当たりの利益額」は,本件特許
権の寄与率を考慮しないものであるから,失当である。
(ウ)逸失利益の不発生
①本件特許の特許請求の範囲は第1次訂正及び第2次訂正を経て減
縮されており,本件訂正発明の権利範囲が極めて限定的であること,
②本件訂正発明の奏する効果は,公知例と同等以下の効果しか奏しな
いこと,③本件訂正発明は設計変更が極めて容易であること,④被告
の2006年(平成18年)以降のゴルフボールは,被告各製品と同
等以上のものであること,⑤2007年(平成19年)の被告のシェ
アに示されているとおり,被告各製品の販売の有無は原告の逸失利益
に全く影響を与えていないと考えられること,⑥原告各製品の中に
は,少なくとも「PCTP及びそれらの金属塩」を含有しない製品が
含まれていること,以上の事情に照らすならば,本件においては,原
告主張の逸失利益の生じる余地はなく,特許法102条1項の適用の
前提を欠いている。
(エ)平成18年1月1日から同年2月19日までの分に係る損害賠償
請求権の消滅時効
原告主張の平成18年1月及び2月分の被告製品①ないし⑤の譲渡
数量に係る本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求は,平成2
1年2月20日付け訴えの変更申立書で追加されたものであるが,同
日の時点において,平成18年1月1日から同年2月19日までの間
の被告各製品の譲渡数量に関しては,原告が「損害及び加害者を知っ
た時から」既に3年が経過しているから,上記譲渡数量に係る原告の
損害賠償請求権は消滅時効が完成している。
被告は,本訴において,上記消滅時効を援用する。
イ「販売することができないとする事情」を考慮した場合の損害額の主
張に対し
(ア)特許法102条1項の損害額(逸失利益)
知財高裁平成18年9月25日判決(平成17年(ネ)第1004
7号)(「椅子式マッサージ機事件」)が判示するように,特許法1
02条1項ただし書の「販売することができないとする事情」として
は,「特許権者等が販売することができた物に固有な事情に限られ
ず,市場における当該製品の競合品・代替品の存在,侵害者自身の営
業努力,ブランド及び販売力,需要者の購買の動機付けとなるような
侵害品の他の特徴(デザイン,機能等),侵害品の価格などの事情を
も考慮することができる。」と解すべきである。
したがって,①需要者の購買の動機付け,②市場におけるマーケッ
トシェア,③被告の営業努力,ブランド力及び販売力を考慮して,「
販売することができないとする事情」を判断すべきである。
a需要者の購買の動機付け
原告各製品及び被告各製品の販売において,本件訂正発明の対象
である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされておらず,本件
訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製品の購買の動機
付けとなることはあり得ない
b市場におけるマーケットシェア
原告は,別表1の「対応する原告製品」欄記載の5種類の原告各
製品(製品)が特許法102条1項本文の「侵害の行為がなければ
販売することができた物」であるとして,その「単位数量当たりの
利益の額」を基に損害額の主張をしている以上,同項ただし書の「
販売することができないとする事情」としての市場におけるマーケ
ットシェアを考慮する際には,上記5種類の製品のマーケットシェ
アに限定すべきであり,当該シェアを超える部分は,他の製品が代
替して販売されたものと評価すべきである。
原告は,特許法102条1項本文の適用においては,上記5種類
の特定のブランドの製品を使用して高い利益額を主張しておきなが
ら,同項ただし書の適用においては,すべての原告製品のマーケッ
トシェアを使用して主張しており,このような主張が許される余地
はない。
「2007年版ゴルフ産業白書」(甲51)記載の平成15年(
2003年)ないし平成17年(2005年)のラウンドボール全
出荷量を基に,鑑定人A1作成の「計算鑑定書」で確認された原告
各製品の販売数量に基づいて,市場シェアを計算すると,別紙原告
各製品のシェア記載のとおりとなる。
c被告の営業努力,ブランド及び販売力
高性能,高品質に裏打ちされた世界No.1と評される高いブラ
ンド力が被告のゴルフボールの販売を支えているのであり(乙7
9,80),このような事情を「販売することができないとする事
情」として考慮すべきである。
(イ)特許法102条3項の損害額(実施料相当額の損害額)
a原告主張の別表4及び別表5の「被告各製品の売上高」欄記載の
金額については,別表7の各欄記載の数量の限度で認め,その余は
否認する。
なお,別表7の各欄中の「○」は,当該欄に対応する別表4及び
別表5の「被告各製品の売上高」の金額全部を認めることを意味す
る。
b原告は,「販売することができないとする事情」に相当する数量
に応じた譲渡数量部分についても,被告が無許諾で実施していたこ
とに変わりはないから,当該部分について,特許法102条3項に
基づいて,実施料相当額の損害賠償を請求できる旨主張する。
しかし,前掲知財高裁判決が「特許法102条1項は,特許侵害
に当たる実施行為がなかったことを前提に逸失利益を算定するのに
対し,特許法102条3項は当該特許発明の実施に対し受けるべき
実施料相当額を損害とするものであるから,それぞれが前提を異に
する別個の損害算定方法というべきであり,また,特許権者によっ
て販売できないとされた分についてまで,実施料相当額を請求し得
ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として本来請
求しうる逸失利益の範囲を超えて,損害の填補を受けることを容認
することになるが,このように特許権者の逸失利益を超えた損害の
填補を認めるべき合理的な理由は見出し難い。」と判示するとお
り,原告の主張は理由がない。
ウ被告が返還すべき利得額の主張に対し
(ア)原告の主張する被告製品⑪の平成14年の売上高が●(省略)●
(イ)原告の主張する本件訂正発明の実施に対し受けるべき実施料率が
5%であることについては否認する。
すなわち,実施料率の決定に当たっては,特許発明の内容,他の構
成の代替可能性,特許発明の寄与度,侵害者の努力を考慮すべきであ
る。そして,①本件訂正発明の権利範囲が極めて限定的であり,本件
訂正発明の奏する効果は,公知例と同等以下の効果しか奏せず,製品
のごく一部に関する発明であり,原告自身も明確に認めているとお
り,ユーザーには全く宣伝されておらず,購買の動機付けとなる特徴
的技術ではないこと,②被告製品の2006年(平成18年)以降の
ゴルフボールに端的に示されているとおり,本件訂正発明は設計変更
が極めて容易であり,市場には代替可能な製品が販売されており,原
告自身,本件訂正発明の実施品ではない製品を販売していること,③
ゴルフボールは,多数の特許が集積された製品であり,原告だけの特
許を採ってみても,原告が侵害を主張している時期に有効な特許権
は,原告が保有しているものだけで,233件もあり,本件特許権
は,製品のごく一部に関するものであり,購買の動機付けとなるもの
ではないこと,④2007年(平成19年)の被告のシェアに明確に
示されているとおり,被告製品が販売できたのは,本件特許発明の貢
献によるものではなく,被告自身の世界No.1のゴルフボールメーカー
であるという高いブランド力,営業努力によるものであることを考慮
すれば,本件訂正発明の実施料率は,低く評価すべきである。
この点について原告が主張する実施料率5%は,ゴム製品一般の数
字であり(甲55),ゴルフボールに直ちに妥当するものではないこ
と,●(省略)●ことなどからすれば,本件訂正発明の実施料率は
0.5%を基準に考えるべきである。
エ弁護士費用の主張に対し
原告が主張する本件訴訟の訴額は,原告による過大な被告製品の売上
額の主張に基づくものであり,何ら基準となるものではなく,また,本
件訴訟が長期に及んだのは,原告が,本件訴訟の提訴後,2度にわたり
訂正請求を行ったことによるものであり,被告の行為に基づく相当因果
関係の範囲内の損害とはいえないから,原告の弁護士費用の主張は失当
である。
第4当裁判所の判断
1争点1(技術的範囲の属否)について
(1)まず,被告各製品が本件訂正発明の構成要件AないしC,Eを充足する
ことは,前記第2の2(4)イのとおりである。
次に,証拠(乙7の1ないし11)によれば,被告各製品は,いずれ
も,その芯球に「ペンタクロロチオフェノール●(省略)●」を含有する
ことが認められる。そして,「ペンタクロロチオフェノール●(省略)
●」は,「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」に該当するか
ら,被告各製品は,本件訂正発明の構成要件Dを充足するものと認められ
る。
(2)これに対し被告は,①本件特許の出願経過における本件意見書記載の原
告の主張を参酌すれば,本件発明(本件特許権の設定登録時の請求項1に
係る発明)の「チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属
塩」,ひいてはチオフェノール類に属する本件訂正発明の構成要件Dの「
ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」は,加硫に関与する添加剤
は含まず,また,少なくともラジカル捕獲剤として添加された添加剤又は
分子量調節剤として添加された添加剤を含まないと限定解釈すべきであ
る,②被告各製品における「ペンタクロロチオフェノール●(省略)●」
は,ラジカルを捕獲し,加硫プロセス中にグラフト鎖の分子量を調整する
添加剤(ラジカル捕獲剤,分子量調整剤)であって,加硫に関与する添加
剤であるから,被告各製品は,本件訂正発明の構成要件Dを充足しない旨
主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア本件明細書の記載事項
(ア)本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)は,「カバー材で直
接もしくは中間層を介して被覆した多層構造ゴルフボールの芯球を,
基材ゴムと,不飽和カルボン酸の金属塩と,ペンタクロロチオフェノ
ール又はその金属塩とを含有するゴム組成物で形成したことを特徴と
するソリッドゴルフボール。」というものであり,特許請求の範囲の
記載上は,「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」を特定の
作用ないし機能を持つものに限定する文言はみられない。
(イ)a第2次訂正後の本件明細書(甲45の全文訂正明細書)の発明
の詳細な説明には,以下のような記載がある。
(a)「産業上の利用分野」
「本発明は,飛び性能に優れたソリッドゴルフボールに関す
る。」(1頁12行∼13行)
(b)「従来の技術及び発明が解決しようとする課題」
「ソリッドゴルフボールには,完全一体成形のワンピースゴルフ
ボールと芯球をカバーで被覆したツーピースゴルフボールと,更
には芯球とカバー層との間に1層又は2層以上の中間層を有する
多層構造ゴルフボールとがある。これらのソリッドゴルフボール
は,ゴム組成物を加硫成型して得られる弾性部分をその一部(多
層構造ボールの芯球)又は全部(ワンピースゴルフボール)に有
している。従来,このような弾性部分を形成するためのゴム組成
物中には,ポリブタジエンゴム等の基材ゴムと共にボールの反溌
係数及び耐衝撃性を向上させるために,α,β−エチレン系不飽
和カルボン酸の金属塩等の不飽和結合を有するモノマーを共架橋
剤として配合することが知られている。この共架橋剤は過酸化物
等の共架橋開始剤の作用によって例えばポリブタジエンゴム主鎖
にグラフト又は架橋し,ポリブタジエンと該モノマーとによる三
次元架橋重合体を形成し,ワンピースゴルフボール又は多層構造
ゴルフボールの芯球に適度な硬さと耐久性を付与するものであ
り,このような共架橋剤を配合したゴム組成物で形成したワンピ
ースゴルフボール又は芯球をカバーで被覆した多層構造ソリッド
ゴルフボールは良好な飛び性能及び耐久性を示すことが知られて
いる。」(1頁15行∼2頁3行),「ゴルフプレーヤーのゴル
フボールの飛び性能に対する要求は非常に強く,従って飛び性能
の更なる向上が望まれている。」(2頁4行∼6行),「本発明
は,上記事情に鑑みなされたもので,更に飛び性能の向上したソ
リッドゴルフボールを提供することを目的とする。」(2頁7行
∼9行)
(c)「課題を解決するための手段及び作用」
「本発明者は,上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結
果,ポリブタジエンゴム等の基材ゴムに共架橋剤として不飽和カ
ルボン酸の金属塩を配合したゴム組成物に対し,ペンタクロロチ
オフェノール又はその金属塩を添加することにより,これを加硫
して得られるゴム弾性体の反溌弾性が向上すること,またこのゴ
ム組成物を用いて多層構造ソリッドゴルフボールの芯球を形成す
ることにより,ボール打撃時の初速度が向上し,優れた飛び性能
を示すソリッドゴルフボールが得られることを見い出し,本発明
を完成したものである。」(2頁11行∼19行),「基材ゴム
としては,通常のワンピースゴルフボール又は多層構造ソリッド
ゴルフボールの芯球材料として使用されるものを用いることがで
き,特に制限されないが,シス構造を少なくとも40%以上有す
る1,4−ポリブタジエンゴムが高反溌弾性,押出加工性,加硫物の
高強度化等の点から特に好ましく使用される。この場合,このよ
うな1,4−ポリブタジエンゴムに天然ゴム,ポリイソプレンゴム,
スチレンブタジエンゴムなどを所望により適宜配合することがで
きる。」(2頁30行∼3頁6行),「不飽和カルボン酸の金属
塩は共架橋剤として配合されるもので,その具体例としては,ア
クリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,フマル酸等の炭素原子数
3∼8の不飽和脂肪酸の亜鉛塩やマグネシウム塩などが例示され
るが,特にアクリル酸又はメタクリル酸の亜鉛塩が好適に使用さ
れる。」(3頁10行∼14行),「本発明ソリッドゴルフボー
ルの製造に用いられるゴム組成物は上記基材ゴム,共架橋剤に加
えてペンタクロロチオフェノール又はその金属塩を配合したもの
である。」(3頁21行∼23行),「本発明のソリッドゴルフ
ボールは,上記ゴム組成物を加熱等により加硫し,成型して,多
層構造ソリードゴルフボールの芯球を製造するものである」(4
頁7行∼9行)
(d)「発明の効果」
「本発明のソリッドゴルフボールは,上述した構成としたことに
より,飛び性能の更なる向上を達成することができる。」(4頁
17行∼18行),「第1表に示す配合成分を混合して6種のゴ
ム組成物を調製した。これを金型を用い,155℃で20分間加
硫して直径38.0mmのツーピースゴルフボール用ソリッドコア
を製造した。次に,これらをUSGA方式に従い,フライホイール式
の打撃試験機を用い,ヘッドスピード38m/secで打撃したときの
初速度を測定した。」(4頁26行∼31行),「第1表に示し
た結果より,ゴム組成物中にペンタクロロチオフェノールの金属
塩であるペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩を配合することに
より,コア性能(打撃初速度)が向上することが確認され
た。」(5頁1行∼4行),「第2表に示す配合成分を混合して
2種類のゴム組成物を調製し,これを金型を用い,155℃で2
0分間加硫して直径38mmのツーピースゴルフボール用のソリッ
ドコアを2種類製造した。次いで,これらのコアにアイオノマー
樹脂を被覆形成して直径42.7mmのツーピースゴルフボールを
製造した。これらのゴルフボールをUSGA方式に従い,フライホイ
ール式の打撃試験機を用い,ヘッドスピード38m/secで打撃した
ときの初速度を測定した。」(5頁6行∼13行),「第2表の
結果より,本発明のゴルフボールはボール初速度が高く,飛び性
能が向上したものであることが確認された。」(6頁1行∼2
行)
b前記aによれば,第2次訂正後の本件明細書には,本件訂正発明
は,多層構造ソリッドゴルフボールの芯球を,ポリブタジエンゴム
等の基材ゴムに共架橋剤として不飽和カルボン酸の金属塩を配合し
たゴム組成物に,ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩を添
加して形成する構成とすることにより,ボール打撃時の初速度が向
上し,優れた飛び性能を示す作用効果を奏するものであることが開
示されているものと認められる。
また,第2次訂正後の本件明細書には,「ペンタクロロチオフェ
ノール又はその金属塩」に関し,「・・・ポリブタジエンゴム等の
基材ゴムに共架橋剤として不飽和カルボン酸の金属塩を配合したゴ
ム組成物に対し,ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩を添
加することにより,これを加硫して得られるゴム弾性体の反溌弾性
が向上すること,またこのゴム組成物を用いて多層構造ソリッドゴ
ルフボールの芯球を形成することにより,ボール打撃時の初速度が
向上し,優れた飛び性能を示すソリッドゴルフボールが得られるこ
とを見い出し,本発明を完成したものである。」(前記a(c
)),「本発明のソリッドゴルフボールは,上記ゴム組成物を加熱等
により加硫し,成型して,多層構造ソリードゴルフボールの芯球を
製造するものである」(前記a(c)),「第1表に示した結果よ
り,ゴム組成物中にペンタクロロチオフェノールの金属塩であるペ
ンタクロロチオフェノールの亜鉛塩を配合することにより,コア性
能(打撃初速度)が向上することが確認された。」(前記a(d))
との記載があり,これらの記載によれば,本件訂正発明の「ペンタ
クロロチオフェノール又はその金属塩」は,加硫に関与するもので
あり,これをゴム組成物中に配合することにより,コア性能(打撃
初速度)が向上する効果を得られたことが開示されているものと認
められる。
しかし,他方で,第2次訂正後の本件明細書には,このような効
果が得られたことについての化学的メカニズムや「ペンタクロロチ
オフェノール又はその金属塩」がどのような働きをしたのかについ
ての記載はない。
したがって,第2次訂正後の本件明細書において,本件訂正発明
の「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」が,加硫に関与
するものや,ラジカル捕獲剤又は分子量調節剤として添加されたも
のを含まないことが開示されているものとはいえない。
イ本件特許の出願経過
前記争いのない事実等(前記第2の2)と証拠(甲23,45,4
6,乙2ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ
る。
(ア)本件出願当初明細書(乙5)には,①旧請求項1として,「ワン
ピースゴルフボール又はカバー材で直接もしくは中間層を介して被覆
した多層構造ゴルフボールの芯球を,基材ゴムと,不飽和カルボン酸
の金属塩と,有機硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物とを
含有するゴム組成物で形成したことを特徴とするソリッドゴルフボー
ル。」,②「有機硫黄化合物としては,ペンタクロロチオフェノー
ル,4−t−ブチル−o−チオフェノール,4−t−ブチルチオフェノー
ル,2−ベンズアミドチオフェノール等のチオフェノール類,チオ安
息香酸等のチオカルボン酸類,ジキシリルジスルフィド,ジ(o―ベン
ズアミドフェニル)ジスルフィド,アルキル化フェノールスルフィド
等のスルフィド類などが好適に用いられ,また金属含有有機硫黄化合
物としては,上記チオフェノール類,チオカルボン酸類の亜鉛塩など
が好ましく使用される。これらは1種を単独で使用しても,2種以上
を組み合せて使用してもよい。」(6頁7行∼19行)との記載があ
った。
特許庁は,平成8年11月27日付けで,「引用例」(特開昭59
−228868号公報)(乙3)には,「基材ゴム,不飽和カルボン
酸の金属塩および有機硫黄化合物を含有するソリッドゴルフボール」
が記載されていること,旧請求項1に係る発明は,「引用例」に記載
された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことを
理由とする本件拒絶理由通知(乙2)をした。
(イ)原告は,本件拒絶理由通知に対し,平成9年3月10日付けで,
①本件出願当初明細書記載の特許請求の範囲(旧請求項1)の「有機
硫黄化合物及び/又は金属含有有機硫黄化合物」を「チオフェノール
類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選ばれる有機硫黄化合
物」と訂正する,②本件出願当初明細書の発明の詳細な説明につい
て,上記①と同様の訂正のほか,「ジキシリルジスルフィド,ジ(o―
ベンズアミドフェニル)ジスルフィド,アルキル化フェノールスルフ
ィド等のスルフィド類」との記載部分を削除するなどの本件補正(乙
4)をするとともに,同日付けの本件意見書(乙6)を提出した。
本件意見書には,「引用例の発明は,「ジペンタメチレンチウラム
テトラスルフイド及び/又はその誘導体を含有するゴム組成物から形
成されるソリッドゴルフボール。」である。しかしながら,この引用
例は,分子量調整剤としてはたらくジペンタメチレンチウラムテトラ
スルフイドを,硬さ及び耐久性を維持しながら反発性能を向上させる
ための必須構成成分として配合することを明らかにしているだけで,
本願発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属塩
を使用すること,及びこれら化合物を使用することによって得られる
作用効果に関しては開示も示唆もしておらず,本願発明の構成及びそ
の作用効果を想到することは困難である。もともと,引用例のジペン
タメチレンチウラムテトラスルフイドは,加硫促進剤として作用する
もので,それ自身ゴムの加硫に関与する。ところが,本願に係るチオ
フェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩はこのような加
硫に関与するものではなく,加硫促進効果はないもので,ジペンタメ
チレンチウラムテトラスルフイドとはその作用も相違し,従って引用
例のジペンタメチレンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェ
ノール類,チオカルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明
の効果は予測し難い。」(2頁16行∼3頁3行)との記載があっ
た。
(ウ)特許庁は,本件補正後の本件出願について特許査定をし,原告
は,平成9年7月4日,本件特許権の設定登録を受けた。
本件特許権の設定登録時の請求項1の記載は,「ワンピースゴルフ
ボール又はカバー材で直接もしくは中間層を介して被覆した多層構造
ゴルフボールの芯球を,基材ゴムと,不飽和カルボン酸の金属塩と,
チオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩から選ばれ
る有機硫黄化合物とを含有するゴム組成物で形成したことを特徴とす
るソリッドゴルフボール。」であったが,その後,第1次訂正により
上記請求項1の「ワンピースゴルフボール又はカバー材で直接もしく
は中間層を介して被覆した多層構造ゴルフボールの芯球」が「カバー
材で直接もしくは中間層を介して被覆した多層構造ゴルフボールの芯
球」に,更に第2次訂正により「チオフェノール類,チオカルボン酸
類及びそれらの金属塩から選ばれる有機硫黄化合物」が「ペンタクロ
ロチオフェノール又はその金属塩」(本件訂正発明の構成要件D)に
それぞれ訂正された。
ウ被告の主張に対する判断
(ア)被告は,本件意見書において,「引用例のジペンタメチレンチウ
ラムテトラスルフイドは,加硫促進剤として作用するもので,それ自
身ゴムの加硫に関与する。ところが,本願に係るチオフェノール類,
チオカルボン酸類及びそれらの金属塩はこのような加硫に関与するも
のではなく,加硫促進効果はないもので,ジペンタメチレンチウラム
テトラスルフイドとはその作用も相違し,従って引用例のジペンタメ
チレンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール類,チオ
カルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果は予測し
難い。」との記載があることを根拠として挙げて,本件発明(本件特
許権の設定登録時の請求項1に係る発明)の「チオフェノール類,チ
オカルボン酸類及びそれらの金属塩」,ひいてはチオフェノール類に
属する「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」(本件訂正発
明の構成要件D)は,加硫に関与せず,加硫促進効果がないように添
加された場合に限定して解釈すべきである旨主張する。
aそこで検討するに,前記イの認定事実によれば,原告は,本件出
願の旧請求項1が「引用例」(乙3)に記載された発明に基づいて
容易想到である旨の本件拒絶理由通知に係る拒絶理由を回避するた
め,本件補正をし,本件補正後の本件発明が「引用例」に記載され
た発明から容易想到でないことを述べる目的で本件意見書を提出し
たことが認められる。
そして,被告主張の上記記載部分を含めて本件意見書の記載を全
体として読むと,①原告は,乙3には,本件補正後の請求項1記載
の「チオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属塩」の
構成及び本件発明の作用効果に関して開示も示唆もないことを,乙
3に基づいて本件補正後の本件発明を容易に想到することが困難で
ある理由として述べていること,②その理由の補足のために,乙3
には,乙3に記載された発明の必須構成成分である「ジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイド」が分子量調整剤として機能するこ
とが記載されているだけであることを述べるとともに,このような
乙3の記載とは別に,もともと,「ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフイド」は,加硫促進剤として作用するものであるが,本件
発明の「チオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属
塩」は加硫促進剤として添加するものではないので,ジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイドがもともと加硫促進剤であるという
点に着眼したとしても,乙3に記載された「ジペンタメチレンチウ
ラムテトラスルフイド」から本件発明の「チオフェノール類,チオ
カルボン酸類又はそれらの金属塩」の構成を容易に想到することが
できたものではない旨を述べていること,③本件意見書の「本願に
係るチオフェノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩はこ
のような加硫に関与するものではなく」との記載部分中の「加硫に
関与するものではなく」とは,本件発明において「チオフェノール
類,チオカルボン酸類又はそれらの金属塩」が「加硫促進剤として
作用する」ものでない旨を述べていることを自然に理解できる。
加えて,甲19(「ファインケミカル事典」昭和60年6月30
日第1版第2刷発行)には,「加硫促進剤」の項に「おもな加硫促
進剤として,つぎのようなものがある。・・・ジペンタメチレンチ
ウラムテトラスルフィド〔DPTT〕・・・」(270頁∼272
頁)との記載が,甲30(「便覧ゴム・プラスチック配合薬
品」〔改訂版〕昭和56年4月20日第3刷発行)には,「2.加
硫促進剤」の「ジペンタメチレンチウラム・テトラスルフィド・・
・(DPTT)」の項に「〔作用〕天然ゴム,SBR,IR,B
R,EPDM,ニトリルゴム,ブチルゴム,クロロスルホン化ポリ
エチレン,およびラテックスに用いられ,促進力のいちじるしく強
い超促進剤である。」(38頁)との記載があることによれば,本
件意見書が提出された当時,「ジペンタメチレンチウラムテトラス
ルフイド」が加硫促進剤として機能することは周知であったものと
認められ,このことは,本件意見書の記載内容の上記解釈を裏付け
るものといえる。
また,乙3には,特許請求の範囲として「1)ジペンタメチレン
チウラムテトラスルフイド及び/又はその誘導体を含有するゴム組
成物から形成されるソリッドゴルフボール。」(1頁左欄5行∼7
行),「本発明者らは前記α,β−エチレン系不飽和カルボン酸の
共架橋に際して生ずるグラフト鎖の長さを調節する事により,適度
の硬さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能を著しく向上させ
る事を試みる内,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び
/又はその誘導体がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に優れた
性能を有する事を見出し,本発明を完成した。」(2頁左上欄2行
∼9行)との記載があり,これらの記載によれば,乙3において
は「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド」がグラフト鎖の
分子量調整剤として機能していることを理解できるものであり,こ
のことも,本件意見書の記載内容の上記解釈を裏付けるものといえ
る。
このように本件意見書は,乙3に接した当業者が,乙3に記載さ
れた「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド」から本件発明
の「チオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属塩」の
構成を想到することが困難であることを述べたものであって,本件
発明の「チオフェノール類,チオカルボン酸類又はそれらの金属
塩」を特定の作用ないし機能を持つものに限定することを述べたも
のではないと解される。
b前記aの認定事実によれば,原告が,被告主張の本件意見書中の
前記記載部分をもって,本件発明の「チオフェノール類,チオカル
ボン酸類及びそれらの金属塩」,ひいてはチオフェノール類に属す
る「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」(本件訂正発明
の構成要件D)が,加硫に関与せず,加硫促進効果がないように添
加された場合に限定されることを述べたものでないことは明らかで
ある。
したがって,被告の前記主張は,採用することができない。
(イ)次に,被告は,本件意見書において,「引用例のジペンタメチレ
ンチウラムテトラスルフイド」は,「分子量調整剤として添加された
ものであり,本願発明のチオフェノール類,チオカルボン酸類又はこ
れらの金属塩は,これと作用も相違し,従って引用例のジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフイドから本願のチオフェノール類,チオカ
ルボン酸類を想到することは困難であり,本願発明の効果は予測し難
い」との記載があること,DPTTが分子量調整剤として機能するの
は,ラジカルを捕獲し,グラフト重合による高分子化が阻止されるこ
とによることを指摘した上で,原告が本件意見書において本件発明
の「チオフェノール類,チオカルボン酸類又はこれらの金属塩」は乙
3のジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド(DPTT)とは作
用が相違すると述べている以上,本件発明の「チオフェノール類,チ
オカルボン酸類又はこれらの金属塩」,ひいては本件訂正発明の「ペ
ンタクロロチオフェノール又はその金属塩」は,少なくともラジカル
捕獲剤として添加された添加剤又は分子量調節剤として添加された添
加剤を含まないと限定解釈すべきである旨主張する。
しかし,前記(ア)で説示したのと同様の理由により,原告が,被告
主張の本件意見書中の前記記載部分をもって,本件発明の「チオフェ
ノール類,チオカルボン酸類及びそれらの金属塩」,ひいてはチオフ
ェノール類に属する「ペンタクロロチオフェノール又はその金属
塩」(本件訂正発明の構成要件D)は,少なくともラジカル捕獲剤と
して添加された添加剤又は分子量調節剤として添加された添加剤を含
まないことを述べたものでないことは明らかである。
また,前記ア(イ)bで認定のとおり,第2次訂正後の本件明細書に
おいても,本件訂正発明の「ペンタクロロチオフェノール又はその金
属塩」が,加硫に関与するものや,ラジカル捕獲剤又は分子量調節剤
として添加されたものを含まないことが開示されているものとはいえ
ない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3)以上によれば,被告各製品は,本件訂正発明の構成要件AないしEをす
べて充足するから,本件訂正発明の技術的範囲に属するものと認められ
る。
したがって,被告による被告各製品の輸入,販売は,本件特許権の侵害
に当たる。
2争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について
被告は,本件訂正発明は,特開昭59−228868号公報(乙3),特
開昭59−228866号公報(乙25)又は特開昭59−228867号
公報(乙26)に記載された発明(乙3等記載発明)と本件出願当時の周知
技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件
特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)
がある旨主張する。
(1)乙3,25,26の記載事項について
ア乙3の記載事項
(ア)乙3には,以下のような記載がある。
a「特許請求の範囲」として,「1)ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフイド及び/又はその誘導体を含有するゴム組成物から形成
されるソリッドゴルフボール」(1頁左欄5行∼7行),「3)ゴ
ム成分がポリブタジエンゴムを全ゴム成分の90重量%以上含有す
る第1項記載のゴルフボール」(1頁左欄11行∼13行)
b「本発明は新規なソリッドゴルフボールに関する。ソリッドゴルフ
ボールには・・・ソリッドコアをカバーで被覆したツーピースゴル
フボールおよびソリッドコアとカバーとの間に適当な1ないし複数
の中間層を有する多層構造のゴルフボールがある。」(1頁左欄1
5行∼右欄1行),「これらのソリッドゴルフボールとして,その
反発係数を向上させ,かつ耐衝撃性を向上させるために,α,β−
モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩等の不飽和結合を有する
モノマーを共架橋剤として配合したものが知られている。これらの
ソリッドゴルフボールは,それ自体かなり優れた性能を有している
が,より優れた反発係数および耐久性を有するゴルフボールが要請
されている。」(1頁右欄1行∼9行)
c「従来,ソリッドゴルフボールの組成物に添加されるα,β−エチ
レン系不飽和カルボン酸金属塩モノマーを添加したソリッドゴルフ
ボールは,これらのモノマーが遊離開始剤によってポリブタジエン
主鎖にグラフトされ,共架橋剤として働き,これによりボールに適
度の硬さ(コンプレッション圧縮比)と耐久性を与えるものと考
えられていた。然しながら,この共架橋された際に生ずるグラフト
鎖が長くなると,ポリブタジエンゴムに他のポリマーを配合したの
と同様の結果,即ちゴルフボールの反発性能の低下をきたす事とな
る。本発明者らは前記α,β−エチレン系不飽和カルボン酸の共架
橋に際して生ずるグラフト鎖の長さを調節する事により,適度の硬
さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能を著しく向上させる事
を試みる内,ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び/又
はその誘導体がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に優れた性能
を有する事を見出し,本発明を完成した。」(1頁右欄10行∼2
頁左上欄9行)
d「本発明に於て使用するα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸
は・・・アクリル酸又はメタクリル酸等であり,特にアクリル酸が
好ましい。勿論アクリル酸とメタクリル酸とを併用してもよい。上
記のα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩は2価の金
属塩,例えば亜鉛塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ジルコニウ
ム塩等であるが,特に亜鉛塩が好ましい。」(2頁左上欄14行∼
右上欄3行),「本発明の実施に用いられるゴム成分としてはポリ
ブタジエンを単独又は天然ゴム,合成ポリイソプレンゴム等をゴム
成分の約10重量%以下混合して用いる。」(2頁右上欄9行∼1
2行)
e「本発明で得られるソリッドゴルフボールは・・・ツーピースゴル
フボール及び多層構造のゴルフボールであってもよく,いずれに於
てもα,β−エチレン系不飽和カルボン酸金属塩等のモノマーを単
独で使用した場合に比べ,著しく優れた反発性能,耐久性およびフ
ライトキヤリー特性を示す。」(2頁右上欄20行∼左下欄7
行),「実施例1∼3及び比較例1∼4表−1に示す処方で直径
約39m/mのゴルフボール用コアを製造し,その反発係数と耐久性
指数を常法により測定した。さらにこのゴルフボール用コア表面に
厚み約2m/mのカバー(サーリン1601)を被覆し,そのフライ
トキヤリーを測定した。結果を表−1,表−2に示す。」(2頁左
下欄9行∼15行)
(イ)前記(ア)の各記載を総合すれば,乙3には,①ソリッドコアをカ
バーで被覆したツーピースゴルフボール及び多層構造のゴルフボール
であって,ソリッドコアが,ゴム成分としての「ポリブタジエンゴ
ム」と,「α,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸金属塩」と,「
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び/又はその誘導体」
とを含有するゴム組成物から製造されるソリッドゴルフボールが記載
されていること,②乙3の「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフ
イド」(DPTT)は,「ポリブタジエン主鎖」にα,β−エチレン
系不飽和カルボン酸が共架橋する際に生ずるグラフト鎖の長さを調節
する事により,適度の硬さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能
を著しく向上させるための「グラフト鎖の分子量調整剤」(すなわ
ち,ゴム分子主鎖へのグラフト鎖に対する分子量調整剤)として添加
されていること,③乙3のDPTTを添加して得られるソリッドゴル
フボールは,添加していないものと比べて,「著しく優れた反発性
能,耐久性およびフライトキヤリー特性」を示すことが記載されてい
ることが認められる。
イ乙25の記載事項
(ア)乙25には,以下のような記載がある。
a「特許請求の範囲」として,「1)2−(4−モルフオリニルジチ
オ)ベンゾチアゾール及び/又はその誘導体を含有するゴム組成物
から形成されるソリッドゴルフボール」(1頁左欄5行∼7
行),「3)ゴム成分がポリブタジエンゴムを全ゴム成分の90重
量%以上含有する第1項記載のゴルフボール」(1頁左欄12行∼
14行)
b「本発明は新規なソリッドゴルフボールに関する。ソリッドゴルフ
ボールには・・・ソリッドコアをカバーで被覆したツーピースゴル
フボールおよびソリッドコアとカバーとの間に適当な1ないし複数
の中間層を有する多層構造のゴルフボールがある。」(1頁左欄1
6行∼右欄2行),「これらのソリッドゴルフボールとして,その
反発係数を向上させ,かつ耐衝撃性を向上させるために,α,β−
モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩等の不飽和結合を有する
モノマーを共架橋剤として配合したものが知られている。これらの
ソリッドゴルフボールは,それ自体かなり優れた性能を有している
が,より優れた反発係数および耐久性を有するゴルフボールが要請
されている。」(1頁右欄2行∼10行)
c「従来,ソリッドゴルフボールの組成物に添加されるα,β−エチ
レン系不飽和カルボン酸金属塩モノマーを添加したソリッドゴルフ
ボールは,これらのモノマーが遊離開始剤によってポリブタジエン
主鎖にグラフトされ,共架橋剤として働き,これによりボールに適
度の硬さ(コンプレッション圧縮比)と耐久性を与えるものと考
えられていた。然しながら,この共架橋された際に生ずるグラフト
鎖が長くなると,ポリブタジエンゴムに他のポリマーを配合したの
と同様の結果,即ちゴルフボールの反発性能の低下をきたす事と成
る。本発明者らは前記α,β−エチレン系不飽和カルボン酸等の共
架橋に際して生ずるグラフト鎖の長さを調節する事により,適度の
硬さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能を著しく向上させる
事を試みる内,2−(4−モルフオリニルジチオ)ベンゾチアゾー
ル及び/又はその誘導体がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に
優れた性能を有する事を見出し,本発明を完成した。」(1頁右欄
11行∼2頁左上欄11行)
d「本発明に於て使用するα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸
は・・・アクリル酸又はメタクリル酸等であり,特にアクリル酸が
好ましい。勿論アクリル酸とメタクリル酸とを併用してもよい。上
記のα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩は2価の金
属塩,例えば亜鉛塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ジルコニウ
ム塩等であるが,特に亜鉛塩が好ましい。」(2頁左上欄15行∼
右上欄4行),「本発明の実施に用いられるゴム成分としてはポリ
ブタジエンを単独又は天然ゴム,合成ポリイソプレンゴム等をゴム
成分の約10重量%以下混合して用いる。」(2頁右上欄12行∼
15行)
e「本発明で得られるソリッドゴルフボールは・・・ツーピースゴル
フボール及び多層構造のゴルフボールであってもよく,いずれに於
てもα,β−エチレン系不飽和カルボン酸金属塩等のモノマーを単
独で使用した場合に比べ,著しく優れた反発性能,耐久性およびフ
ライトキヤリー特性を示す。」(2頁左下欄3行∼左下欄10
行),「実施例1∼3及び比較例1∼4表−1に示す処方で直径
約39m/mのゴルフボール用コアを製造し,その反発係数と耐久性
指数を常法により測定した。さらにこのゴルフボール用コア表面に
厚み約2m/mのカバー(サーリン1601)を被覆し,そのフライ
トキヤリーを測定した。結果を表−1に示す。」(2頁左下欄12
行∼18行)
(イ)前記(ア)の各記載を総合すれば,乙25には,①ソリッドコアを
カバーで被覆したツーピースゴルフボール及び多層構造のゴルフボー
ルであって,ソリッドコアが,ゴム成分としての「ポリブタジエンゴ
ム」と,「α,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸金属塩」と,「
2−(4−モルフオリニルジチオ)ベンゾチアゾール及び/又はその
誘導体」とを含有するゴム組成物から製造されるソリッドゴルフボー
ルが記載されていること,②乙25の「2−(4−モルフオリニルジ
チオ)ベンゾチアゾール」は,「ポリブタジエン主鎖」にα,β−エ
チレン系不飽和カルボン酸が共架橋する際に生ずるグラフト鎖の長さ
を調節する事により,適度の硬さと耐久性を付与しながら,同時に反
発性能を著しく向上させるための「グラフト鎖の分子量調整剤」(す
なわち,ゴム分子主鎖へのグラフト鎖に対する分子量調整剤)として
添加されていること,③乙25の「2−(4−モルフオリニルジチ
オ)ベンゾチアゾール」を添加して得られるソリッドゴルフボール
は,添加していないものと比べて,「著しく優れた反発性能,耐久性
およびフライトキヤリー特性」を示すことが記載されていることが認
められる。
ウ乙26の記載事項
(ア)乙26には,以下のような記載がある。
a「特許請求の範囲」として,「1)4,4’−ジチオ−ビス−ジモ
ルフオリン及び/又はその誘導体を含有するゴム組成物から形成さ
れるソリッドゴルフボール」(1頁左欄5行∼7行),「3)ゴム
成分がポリブタジエンゴムを全ゴム成分の90重量%以上含有する
第1項記載のゴルフボール」(1頁左欄11行∼13行)
b「本発明は新規なソリッドゴルフボールに関する。ソリッドゴルフ
ボールには・・・ソリッドコアをカバーで被覆したツーピースゴル
フボールおよびソリッドコアとカバーとの間に適当な1ないし複数
の中間層を有する多層構造のゴルフボールがある。」(1頁左欄1
5行∼右欄1行),「これらのソリッドゴルフボールとして,その
反発係数を向上させ,かつ耐衝撃性を向上させるために,α,β−
モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩等の不飽和結合を有する
モノマーを共架橋剤として配合したものが知られている。これらの
ソリッドゴルフボールは,それ自体かなり優れた性能を有している
が,より優れた反発係数および耐久性を有するゴルフボールが要請
されている。」(1頁右欄1行∼9行)
c「従来,ソリッドゴルフボールの組成物に添加されるα,β−エチ
レン系不飽和カルボン酸金属塩モノマーを添加したソリッドゴルフ
ボールは,これらのモノマーが遊離開始剤によってポリブタジエン
主鎖にグラフトされ,共架橋剤として働き,これによりボールに適
度の硬さ(コンプレッション圧縮比)と耐久性を与えるものと考
えられていた。然しながら,この共架橋された際に生ずるグラフト
鎖が長くなると,ポリブタジエンゴムに他のポリマーを配合したの
と同様の結果,即ちゴルフボールの反発性能の低下をきたす事とな
る。本発明者らは前記α,β−エチレン系不飽和カルボン酸等の共
架橋に際して生ずるグラフト鎖の長さを調節する事により,適度の
硬さと耐久性を付与しながら,同時に反発性能を著しく向上させる
事を試みる内,4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン及び/又
はその誘導体がグラフト鎖の分子量調整剤として非常に優れた性能
を有する事を見出し,本発明を完成した。」(1頁右欄10行∼2
頁左上欄9行)
d「本発明に於て使用するα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸
・・・アクリル酸又はメタクリル酸等であり,特にアクリル酸が好
ましい。勿論アクリル酸とメタクリル酸とを併用してもよい。上記
のα,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸の金属塩は2価の金属
塩,例えば亜鉛塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ジルコニウム
塩等であるが,特に亜鉛塩が好ましい。」(2頁左上欄13行∼右
上欄2行),「本発明の実施に用いられるゴム成分としてはポリブ
タジエンを単独又は天然ゴム,合成ポリイソプレンゴム等をゴム成
分の約10重量%以下混合して用いる。」(2頁右上欄8行∼11
行)
e「本発明で得られるソリッドゴルフボールは・・・ツーピースゴル
フボール及び多層構造のゴルフボールであってもよく,いずれに於
てもα,β−エチレン系不飽和カルボン酸金属塩等のモノマーを単
独で使用した場合に比べ,著しく優れた反発性能,耐久性およびフ
ライトキヤリー特性を示す。」(2頁右上欄19行∼左下欄6
行),「実施例1∼3及び比較例1∼4表−1に示す処方で直径
約39m/mのゴルフボール用コアを製造し,その反発係数と耐久性
指数を常法により測定した。さらにこのゴルフボール用コア表面に
厚み約2m/mのカバー(サーリン1601)を被覆し,そのフライ
トキヤリーを測定した。結果を表−1に示す。」(2頁左下欄8行
∼14行)
(イ)前記(ア)の各記載を総合すれば,乙26には,①ソリッドコアを
カバーで被覆したツーピースゴルフボール及び多層構造のゴルフボー
ルであって,ソリッドコアが,ゴム成分としての「ポリブタジエンゴ
ム」と,「α,β−モノエチレン系不飽和カルボン酸金属塩」と,「
4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン及び/又はその誘導体」と
を含有するゴム組成物から製造されるソリッドゴルフボールが記載さ
れていること,②乙26の「4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリ
ン及び/又はその誘導体」は,「ポリブタジエン主鎖」にα,β−エ
チレン系不飽和カルボン酸が共架橋する際に生ずるグラフト鎖の長さ
を調節する事により,適度の硬さと耐久性を付与しながら,同時に反
発性能を著しく向上させるための「グラフト鎖の分子量調整剤」(す
なわち,ゴム分子主鎖へのグラフト鎖に対する分子量調整剤)として
添加されていること,③乙26の「4,4’−ジチオ−ビス−ジモル
フオリン」を添加して得られるソリッドゴルフボールは,添加してい
ないものと比べて,「著しく優れた反発性能,耐久性およびフライト
キヤリー特性」を示すことが記載されていることが認められる。
(2)本件訂正発明と乙3等記載発明との対比
ア本件訂正発明と乙3,25,26記載のゴルフボールとを対比する
と,乙3,25,26記載のゴルフボールの構成は,前記(1)ア(イ)①,
イ(イ)①,ウ(イ)①のとおりであって,乙3,25,26の「ソリッド
コアをカバーで被覆したツーピースゴルフボール及び多層構造のゴルフ
ボール」は,本件訂正発明の「カバー材で直接もしくは中間層を介して
被覆した多層構造ゴルフボール」に,乙3,25,26のゴム組成物で
製造(形成)される「ソリッドコア」は,本件訂正発明のゴム組成物で
形成した「芯球」に,乙3,25,26の「ゴム成分」は,本件訂正発
明の「基材ゴム」に,乙3,25,26の「α,β−モノエチレン系不
飽和カルボン酸金属塩」は,本件訂正発明の「不飽和カルボン酸の金属
塩」に相当するから,乙3,25,26記載のゴルフボールは,本件訂
正発明の構成要件AないしC及びEの構成を有するものと認められる。
他方で,乙3,25,26には,「ソリッドコア」(芯球)を形成す
るゴム組成物に,それぞれ「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイ
ド及び/又はその誘導体」,「2−(4−モルフオリニルジチオ)ベン
ゾチアゾール及び/又はその誘導体」,「4,4’−ジチオ−ビス−ジ
モルフオリン及び/又はその誘導体」を含有することが記載されている
が,本件訂正発明の「ペンタチオクロロフェノール及びその金属塩」(
構成要件D)を含有することについての記載はない。
イ(ア)前記アによれば,本件訂正発明と乙3記載発明とは,構成要件A
ないしC及びEの構成を有する点で一致するが,本件訂正発明では,
芯球を形成するゴム組成物に「ペンタクロロチオフェノール又はその
金属塩」(構成要件D)を含有するのに対し,乙3記載発明では,こ
れを含有せず,「ジペンタメチレンチウラムテトラスルフイド及び/
又はその誘導体」を含有している点で相違する。
(イ)これと同様に,本件訂正発明と乙25記載発明とは,構成要件A
ないしC及びEの構成を有する点で一致するが,本件訂正発明では,
芯球を形成するゴム組成物に「ペンタクロロチオフェノール又はその
金属塩」(構成要件D)を含有するのに対し,乙25記載発明では,
これを含有せず,「2−(4−モルフオリニルジチオ)ベンゾチアゾ
ール及び/又はその誘導体」を含有している点で相違する。
また,本件訂正発明と乙26記載発明とは,構成要件AないしC及
びEの構成を有する点で一致するが,本件訂正発明では,芯球を形成
するゴム組成物に「ペンタクロロチオフェノール又はその金属塩」(
構成要件D)を含有するのに対し,乙25記載発明では,これを含有
せず,「4,4’−ジチオ−ビス−ジモルフオリン及び/又はその誘
導体」を含有している点で相違する。
(3)被告主張の周知技術
被告は,ペンタクロロチオフェノール(PCTP)がラジカル捕獲剤で
あること及びPCTPを含むチオール類が分子量調節剤であることは,本
件出願当時,周知であった旨主張する。
アPCTPについて
(ア)まず,①乙17(「MASTICATIONOFRUBBER」1981年11月発
行)には,「酸素の存在にかかわらず,チオフェノール類又は芳香族
ジスルフィド類は,鎖フラグメントのフリーラジカルを安定化させる
ためのラジカル受容体として使用することができる」(原文310頁
20∼22行の訳文)との記載があること,②乙18(「EffectofR
ubberCompoundingIngredientsonthePeptizationEfficiencyof
ActivatedPentachlorothiophenol」1976年11月発行)には,「
PCTPは,酸素のない低温素練りにおいて,ラジカルアクセプター
として機能する」(原文676頁右欄11行∼13行の訳文)との記
載があること,③乙19(「Improvedeconomicsintheproduction
ofNRgoodsthroughtheuseofpeptizers」1991年8月発行)
には,「現在,産業上重要なペプタイザーは,PCTP及びその派生
物,ジベンゾアミドジフェニルジスルフィド及び金属混合物であ
る」(原文15頁左欄11行∼13行の訳文)との記載があること,
④乙20(「アクチベーター,リターダー,ペプタイザー」1977
年発行)には,「4.ペプタイザー4.1現状と問題点ペプ
タイザーには芳香族メルカプタン類,ジスルフィド類並びにそれらの
亜鉛塩などがある。・・・芳香族メルカプタン類は,PCTP以外は
液体で特異臭があり使用上問題があるが,ジスルフィドや亜鉛塩はこ
の点が改良されている。これらのうち現在主として使用されているの
はPCTP,BADS及びこれらの亜鉛塩を主成分とするものと思わ
れる。」(687頁)との記載があること,⑤甲19には,「素練り
促進剤」の項に「・・・ペンタクロロチオフェノール・・・およびそ
の誘導体,またはこれを主成分とするもの・・・などが,一時多量に
使用されていた。」(685頁)との記載があること,⑥甲30に
は,「7.素練り促進剤」の「ペンタクロロチオフェノール・・・」
の項に「〔作用〕天然ゴム,クロロプレンゴム,ニトリルゴム,SB
R,IRの素練り促進剤・・・」(124頁),「ペンタクロロチオ
フェノールの亜鉛塩・・・」の項に「〔作用〕主として天然ゴムの素
練り促進に卓効を奏し,高温・低温いずれでも促進効果が大きく,イ
ンターナルミキサにもロールにも使用可能で,加硫に影響をおよぼさ
ない。」(125頁)との記載があること,⑦乙10(「ゴム用語辞
典」)には,「ペプタイザー」の項に「(別)素練促進剤,しゃく解
剤原料ゴムの可塑化を早め,素練り作業時間を短縮する目的でゴム
に加える薬剤。素練りで切れた分子鎖ラジカルと反応して再結合を抑
制し,可塑化を促進するもの」(202頁)との記載があること,⑧
甲21(「新版ゴム材料選択のポイント」)には,「ゴムの基礎的
加工方法」の項に「固形ゴムの加工は,粘弾性的性質をもつ原料ゴム
を可塑化し,その状態において製品に要望される性能を付与するため
の薬品を混合し,種々の方法によって成形を行い,熱を加えて化学反
応による編目結合を作り(加硫),最終目的である,弾性のある製品
を製造することである。・・・それぞれの工程には,いくつかの基本
的な単位操作がある。それを表1.5.1に示す。」(34頁)との
記載があり,「表1.5.1ゴムの加工工程と基本的単位操作」に
は,「練り工程」((1)素練り作業(2)混練り作業(3)秤量作
業),「成形工程」及び「加硫工程」(35頁)の記載があること,
以上の①ないし⑧の各記載によれば,ペンタクロロチオフェノール(
PCTP)は,本件出願当時,ゴムの素練りに作用するペプタイザ
ー(素練り促進剤)として周知であったことが認められる。
そして,上記各記載によれば,ペプタイザー(素練り促進剤)は,
ゴムの加工工程における素練り段階において,素練りで切断されたゴ
ム主鎖に作用して,その末端に形成されるラジカルに結合し,切断さ
れたゴム主鎖同士の再結合を抑制し,可塑化を促進することを目的と
して添加されるものであるから,PCTPは,本件出願当時,ペプタ
イザーとしてのラジカル捕獲剤の機能を有することが当業者に認識さ
れていたことが認められる。
また,乙41には,「N,1-hydroxy-2,2,2-trichloroethylmethacry
lamideによるブタジエン・ニトリルゴムの加硫は,ラジカルを供与す
る促進剤により加速される。ジクミルペルオキシド及びペンタクロロ
チオフェノールはゴムの加硫を加速するばかりではなく,熱による加
齢の安定性を改善する。」,「研究は,N,1-hydroxy-2,2,2-trichloro
ethylmethacrylamide(以下メタクリルアミドHICEMAと称す)がブ
タジエン・ニトリルゴム化合物の加硫剤として使用することにより,
製品に全範囲にわたる有益な特性を与えていることを示してい
る」,「加硫促進剤としてラジカルが供与されることによって,この
ような反応を導いたのである。これらのラジカル供与物質としては,
硫黄ベースの加硫促進剤,過酸化物およびペンタクロロチオフェノー
ルが含まれている」(以上,訳文1頁),乙42には,「N,1-hydroxy
-2,2,2-trichloroethylmethacrylamide(以下単にmethacrylamideH
ITCEMA)を加硫剤として添加したブタジエン・ニトリルゴムは,加硫物
に有益な性質を与えることはよく知られている・・・。しかし,この
加硫プロセスは遅く,高温が使用されても,加硫の促進には,加硫促
進剤を必要とする。この目的のための最良の促進剤はペンタクロロチ
オフェノール(ここでは単にチオフェノールPCTPと称す)で,高温
でラジカルを形成する」(以上,訳文1頁)との各記載がある。これ
らの記載は,「N,1-hydroxy-2,2,2-trichloroethylmethacrylamide(
methacrylamideHICEMAないしHITCEMA)」を加硫剤として添加するブ
タジエン・ニトリルゴムの加硫において,ラジカルを供与する加硫促
進剤としてPCTPが使用されていることを開示するものである。
(イ)aしかし,他方で,本件においては,ペンタクロロチオフェノー
ル(PCTP)という特定の化合物が「グラフト鎖の分子量調整
剤」として機能すること(すなわち,ゴム分子主鎖へのグラフト鎖
に対する分子量調整剤として作用すること)を記載した刊行物等の
証拠は何ら提出されておらず,PCTPそのものが,本件出願当
時,「グラフト鎖の分子量調整剤」として周知であったものと認め
ることも,公知であったものと認めることもできない。
bこれに対し被告は,乙40における「混合物Aおよび混合物Bの
実験結果の比較は,Mooneyの粘着性は,予測されたように,ペプタ
イザーの添加により低くなることを示している。・・・化学分析の
結果(表V)は,ペプタイザーにより,架橋の密度が減少し,ポリスル
フィドの架橋の犠牲の下,ジスルフィドの架橋の濃度がある程度増
加した。」(訳文(抄訳)2頁3行∼11行)との記載及び「2.
実験」の記載は,PCTPが加硫に使用されたことを前提に,PC
TPの加硫における作用機序として「架橋密度の減少」,すなわ
ち,乙3,25,26のグラフト鎖の分子量調整機能と同様の知見
を示すものである旨主張する。
しかし,①乙40には,ペプタイザーによる「スルフィドの架橋
密度の調整(減少)」が,グラフト鎖の分子量調整機能を意味する
ことについての開示も示唆もないこと,②ペプタイザーは,ゴムの
加工工程における素練り段階において,素練りで切断されたゴム主
鎖に作用して,その末端に形成されるラジカルに結合し,切断され
たゴム主鎖同士の再結合を抑制し,可塑化を促進することを目的と
して添加されるものであること(前記(ア))に照らすならば,乙4
0の実験においてペプタイザーとしてPCTPが使用されていると
しても,乙40は,PCTPが「グラフト鎖の分子量調整剤」とし
て機能することを開示するものでないことは明らかである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イチオール類について
(ア)被告は,チオール類が分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤で
あることは,本件出願当時周知であり,PCTPのようなクロロチオ
フェノール類は,チオール類の一種であるから,同様に分子量調整
剤,連鎖移動剤,重合調整剤であることも周知(例えば,乙60ない
し67)であった旨主張する。
そこで検討するに,被告提出の乙50,54,58ないし67に
は,次のような記載がある。
a乙50には,「連鎖移動剤」とは,「重合度を調節する目的で重
合系に加える連鎖移動を起こしやすい物質。・・・したがって重合
体の分子量を調節するのに有効である」(2549頁)との記載が
ある。
b乙54(「アリンジャー有機化学(下)」1976年9月1日発
行)には,「・・・チオールR−SHである」(868頁),「チ
オールからRS・の形成は容易であり,チオールとアルケンの遊離
基付加は円滑でかつ有用な反応である。チオールは非常に有効な連
鎖移動剤であり,このような反応では高分子化はほとんど,あるい
は全然起こらない」(870頁)との記載がある。
c乙58には,「重合調節剤」は,「重合調整剤ともいい,重合体
の分子量を調整する目的で重合系に添加する物質。たとえば,連鎖
重合反応の場合,反応速度をあまり変化させずに,重合体の分子量
を任意の大きさに調節し,または重合体の枝分かれや橋かけを防止
するために加える。代表的なものには,チオール類,ジスルフィド
類,ハロゲン化合物などがある。」(1084頁)。
d乙59には,「連鎖移動剤・・・(別)重合調整剤,分子量調
整」(238頁),「(別)は俗名・俗称を含めた別名・同義語」
との記載がある。
e乙60には,「本発明の目的は,ハロゲン−2−ブタジエン−
1,3の重合の改良方法を提供し,それにより高収量の可塑性ポリ
マーを一つの段階で得ることである。」(訳文1頁),「好ましい
重合調整剤は,芳香族メルカプト化合物およびメルカプトカルボン
酸類である。適した芳香族メルカプタンの例は,チオフェノールお
よびその同族体,およびチオクレゾール類,ニトロチオフェノ−ル
類およびクロロチオフェノ−ル類などの置換生成物である」(訳文
2頁)との記載がある。
f乙61には,「本發明ハ『クロール(2)ブタヂエン(1)・(
3)』ヲ重合シテ『ゴム』状物質ヲ製造スルニ當リ『クロロプレン
』ニ『チオール』化合物ノ鹽類又ハ其酸化型化合物及『チオフエノ
ール』,『チオナフトール』等ノ重合調整劑ノ存在ノ下ニ・・・重
合スルコトヲ特徴トシ・・・『ゴム』状物質ヲ高収率ニ得ントスル
ニアリ」(51頁上段1行∼9行),「調整劑トシテハ・・・『モ
ノサルフアイド』,『ヂサルフアイド』,『テトラサルフアイド』
等其他『チオール』化合物ノ鹽類等最モ有效ニシテ『チオフエノー
ル』,『チオナフトール』等モ用ヒ得ベシ」(51頁下段6∼12
行)」との記載がある。
g乙62には,「今回本発明者らは,上記の連鎖移動剤以外の特定
の連鎖移動剤,即ちメルカプト基と共に,アミノ基,ヒドロキシル
基,クロル基およびカルボキシル基からなる群から選ばれた少くと
も1種の官能基を有する脂肪族あるいは芳香族化合物の存在下にス
チレンとブタジエンを乳化共重合させることにより,加硫した場合
優れた性質を有するSBRを製造することができることを見い出し
た。」(1頁右欄30行∼37行),「本発明におけるこれら特定
の連鎖移動剤の例としては,アミノチオフエノール,アミノアルキ
ルメルカプタン,4−メルカプトベンジルクロライド,4−メルカ
プトフエノール,4−メルカプト安息香酸,p−クロルメチルチオ
フエノール,3−メルカプトプロパノール等が挙げられる。」(1
頁右欄38行∼43行),「連鎖移動剤として4−アミノチオフエ
ノールの代りに・・・p−クロルチオフエノール・・・を同様な条
件で使用してもほとんど同様の結果が得られた。」(2頁右欄28
行∼32行)との記載がある。
h乙63には,「本発明に於いて『連鎖移動剤』,『重合体分子量
調節剤』,『重合体連鎖調節剤』,及び『調節剤』と称するは同様
な意味を有する。」(3頁左上欄12∼14行),「本発明に有用
な他の連鎖移動剤としては次のものがある:・・・1,1,3,3
−テトラメチル−1−ブタンチオール・・・4−ブロムベンゼンチ
オール・・・m−トルエンチオール・・・o−メルカプト安息香酸
・・・ブチルジスルフイド・・・アセチルジスルフイド・・・」(
3頁右上欄8行∼右下欄12行)との記載がある。
i乙64には,「・・・交互共重合触媒の存在下に分子量調節剤と
して(Ⅰ)メルカプタン化合物類,(Ⅱ)スルフイド化合物,・・
・からなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物を加えた場合・
・・生成共重合体の交互性を実質的に阻害することなしにより低い
分子量を持つ重合体が得られることを見出し,本発明に到達し
た。」(3頁5欄13行∼23行),「(Ⅰ)メルカプタン化合物
類としてはメルカプト基を持つ化合物一般である。その具体例とし
ては,メタンチオール,・・・チオフエノール,・・・ベンジルメ
ルカプタン,p−エトキシチオフエノール,α‐トルエンチオー
ル,m−トルエンチオール,o−トルエンチオール,p−トルエン
チオール,チオキシレノール,・・・p−tert−ブチルチオフ
エノール,ドデシルベンジルメルカプタン,トルエン−3,4−ジ
チオール・・・等及びこれらの混合物がある。又,メルカプト基と
共にアミノ基,ヒドロキシル基,クロル基,カルボキシル基が入つ
たもの,例えば4−アミノチオフエノール,4−メルカプトベンジ
ルクロリド,4−メルカプトフエノール,4−メルカプト安息香
酸,p−クロルメチルチオフエノール・・・等及びそれらの混合物
も用いられる。」(3頁5欄41行∼6欄34行),「(Ⅱ)スル
フイド化合物に関しては,モノスルフイド,ポリスルフイドがあげ
られるが,特にジスルフイド化合物が好ましい。ジスルフイド化合
物はジスルフイド結合をもつ化合物一般であって,例えば・・・チ
ウラム・・・等が有る。その具体例としては,・・・テトラメチル
チウラムジスルフイド・・・等及びこれらの混合物がある。」(3
頁6欄35行∼4頁7欄21行)との記載がある。
j乙65には,「メルカプタン化合物は重合調節剤として用いら
れ,n−オクチルメルカプタン,・・・チオフエノール,チオキシ
レノール等の芳香族メルカプタン或いはベンジルメルカプタンなど
が使用できる。」(256頁右上欄18行∼左下欄3行)との記載
がある。
k乙66には,「アルフイン触媒による共役ジオレフインまたは共
役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素の(共)重合において,分
子量調節剤として・・・メルカプタン類・・・の混合物を反応系に
存在させることを特徴とする共役ジオレフイン系重合体の製造方
法。」(1頁左欄4行∼16行),「メルカプタン類とは,一般式
R−SH(Rは,アルキル基,シクロアルキル基,フエニル基,置
換フエニル基などの炭化水素残基を示す)で表わされる化合物であ
り,その具体例としては,メチルメルカプタン,・・・フエニルメ
ルカプタン(チオフエノール)などが挙げられる。」(3頁右下欄
20行∼4頁左上欄14行)との記載がある。
l乙67には,「アルフイン触媒による共役ジオレフインまたは共
役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素の(共)重合において,分
子量調節剤として・・・メルカプタン類・・・の混合物を反応系に
存在させることを特徴とする共役ジオレフイン系重合体の製造方
法。」(1頁左欄4行∼16行),「メルカプタン類としては一般
式R−SH(Rはアルキル基,シクロアルキル基,フエニル基,置
換フエニル基などの炭化水素残基)が好ましい。具体的にはメチル
メルカプタン,・・・フエニルメルカプタンなどが挙げられ
る。」(3頁左下欄15行∼右下欄5行)との記載がある。
(イ)前記(ア)aないしlの各記載によれば,チオール類やスルフィド
類が,一般にラジカル重合における連鎖移動剤として作用し,重合体
の分子量の調節作用(分子量調整作用,重合調整作用)を奏すること
が,本件出願当時,周知であったことが認められる。
また,このような作用を奏するチオール類には,チオフェノール
類,クロロチオフェノール類が含まれ,それらが種々の重合反応にお
ける分子量調節剤,連鎖移動剤として用いられることも公知であった
ことが認められる。
もっとも,上記各記載は,チオフェノール類に属するペンタクロロ
チオフェノール(PCTP)という特定の化合物が分子量調節剤,連
鎖移動剤として用いられることを開示するものではない(なお,前記(
ア)f記載の「p−クロルチオフエノールは,「ペンタクロロチオフェ
ノール」とは別の化合物である。)。
また,上記各記載は,チオール類が「グラフト鎖の分子量調整剤」
として機能すること(すなわち,ゴム分子主鎖へのグラフト鎖に対す
る分子量調整剤として作用すること)を開示するものでもない。
(ウ)以上によれば,被告が主張するように,チオール類が分子量調節
剤であることは,本件出願当時,周知であったものと認められる。
(4)相違点に係る構成の容易想到性
被告は,①乙3,25又は26に接した当業者であれば,ジスルフィド
類であるDPTT等に替えて他の種類の分子量調整剤を添加すれば,DP
TT等を添加した場合と同様にゴルフボールの飛行性能が改善されること
を予期することは極めて容易であったこと,②クロロチオフェノール類を
含むチオール類が分子量調整剤(連鎖移動剤,重合調整剤)として作用す
ることは本件出願当時周知であったこと,PCTPは,ペプタイザーの代
表格であるが,分子量調整剤でもあることからすれば,分子量調整剤とし
てのDPTT等をクロロチオフェノール類に属するPCTPに置換する動
機付けが存在すること,③ジスルフィド類とPCTPを含むチオール類
は,代表的な分子量調整剤,連鎖移動剤,重合調整剤として,広く互換的
に用いられていたことからすれば,当業者であれば,乙3,25又は26
記載のゴルフボールにおいて,ジスルフィド類のDPTT等に替えて,P
CTP(相違点に係る本件訂正発明の構成)を使用することは容易に想到
することができた旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
アチオール類やスルフィド類が,一般にラジカル重合における連鎖移動
剤として作用し,重合体の分子量の調節作用(分子量調整作用,重合調
整作用)を奏することが,本件出願当時,周知であったことは,前記(3)
イ(イ)認定のとおりである。
しかし,他方で,①甲49(「高分子辞典」)には,「連鎖移動剤」
の項に「ある物質が連鎖移動剤として有効に働くかどうかは,その連鎖
移動定数によってきまる。これは生長速度定数に対する連鎖移動反応の
速度定数の比で,高分子ラジカル(またはイオン)の種類や温度により
変化する。」(772頁右欄6行∼10行)との記載があること,②前
記(ア)aないしlの各記載のとおり,「連鎖移動剤(分子量調整剤,重
合調整剤)」という用語で呼ばれるものには多くの種類の化合物が含ま
れ,それらは,分子量調整のために用いられるものや,重合禁止のため
に用いられるものなど,具体的な用途は異なっていることに照らすなら
ば,チオール類やスルフィド類に属する,連鎖移動剤と呼ばれる化合物
は多数あり,それぞれの連鎖移動定数によって異なる用途に用いられ,
しかも,それらが実際の反応過程において具体的にいかなる機能を有す
るかは,高分子ラジカルとの組合せ,反応温度等にも依存するものと認
められる。
したがって,一般にラジカル重合における連鎖移動剤として作用する
化合物のいずれもが特定の重合系におけるグラフト鎖の分子量調整剤と
して適切に機能し,所望の効果を得られるとの認識は当業者にないもの
といわざるを得ず,このような作用効果を得られるかどうかについて
は,一つ一つの化合物を実際に試してみないと分からないといわざるを
得ない。
イそして,PCTPは,本件出願当時,「グラフト鎖の分子量調整剤」
として周知であったものと認められないことはもとより,公知であった
ものと認められないことは,前記(3)ア(イ)a認定のとおりである。ま
た,本件においては,本件出願当時,PCTPが,そもそも分子量調節
剤,連鎖移動剤として公知であったことを示す証拠も提出されていな
い。
ウ前記ア及びイを総合すれば,乙3,25又は26に接した当業者が,
乙3,25又は26記載のゴルフボールにおいて,DPTT等に替え
て,PCTPを用いることについての動機付けないし契機となるものが
存在したものと認めることはできない。
また,PCTPが,本件出願当時,ペプタイザー(素練り促進剤)と
して周知であり,ペプタイザーとしてのラジカル捕獲剤の機能を有する
ことが当業者に認識されていたこと,PCTPが「N,1-hydroxy-2,2,2-t
richloroethylmethacrylamide(methacrylamideHICEMAないしHITCEMA
)」を加硫剤として添加するブタジエン・ニトリルゴムの加硫において,
ラジカルを供与する加硫促進剤としてPCTPが使用されていることが
公知であったことは,前記(3)ア(ア)のとおりであるが,これらの点が,
乙3,25又は26記載のゴルフボールにおいて,DPTT等に替え
て,PCTPを用いることについての動機付けとなるものではない。
エしたがって,チオール類が分子量調節剤であることが本件出願当時,
周知であったことを考慮しても,当業者といえども,乙3,25又は2
6記載のゴルフボールにおいて,芯球を形成するゴム組成物に含有する
DPTT等に替えて,PCTP(相違点に係る本件訂正発明の構成)を
使用することは容易に想到することができたものとは認められない。
(5)小括
以上によれば,本件訂正発明は,乙3等記載発明と本件出願当時の周知
技術に基づいて当業者が容易に想到することができたとの被告の主張は,
理由がない。
3争点3(原告の損害額等)
(1)特許法102条1項の損害額(逸失利益)
ア被告各製品の譲渡数量
(ア)前記1認定のとおり,被告による被告各製品の輸入,販売は,本
件特許権の侵害に当たる。
別表6に示すとおり,被告製品③ないし⑤の平成17年上期・下期
分,被告製品⑧の平成15年上期・下期分,被告製品⑨の平成15年
上期分,被告製品⑩の平成15年上期・下期分,平成16年上期分の
譲渡数量(単位・ダース)が,別表1の上記各期分に対応する「被告
各製品の譲渡数量」欄記載の数量であることは,当事者間に争いがな
い。
(イ)a鑑定人B1の鑑定(以下「B1計算鑑定」という。)の結果に
よれば,平成15年1月から平成18年2月までの間(ただし,前
記(ア)の争いのない各期分を除く。)における被告各製品の有償譲
渡数量(単位・ダース)は別表8の「有償譲渡」欄記載の数量,無
償譲渡数量(単位・ダース)は別表8の「無償譲渡」欄記載の数量
であることが認められる。
上記有償譲渡数量及び無償譲渡数量を合算すると,別表8の「譲
渡数量」欄記載の数量(小数点以下切捨て)となる。ただし,別表
8の「譲渡数量」欄記載の数量のうち,被告製品②の平成17年下
期分,被告製品⑦の平成15年上期分,被告製品⑧の平成16年上
期分,被告製品⑨の平成15年下期分,平成16年上期分の各数量
は,原告が別表1で主張する数量を超えるものであるが,当該超え
る分についての原告の主張はないから,上記各期分については,原
告が別表1で主張する数量の限度で損害額算定の基礎とすることと
する。
bこれに対し被告は,被告による被告各製品の無償譲渡は,サンプ
リングと呼ばれる販売店などへの販売促進目的と,リーダーシップ
と呼ばれるプロ選手などへの提供を目的とするものであり,これら
の目的による無償譲渡は,原告も当然に行っており,原告の逸失利
益の喪失を生じさせないのは明らかであるから,逸失利益の算定対
象に含めるべきではない旨主張する。
しかし,特許法102条1項本文の「その侵害行為を組成した物
を譲渡したとき」の「譲渡」は,文理上何ら限定がないから,有償
であると,無償であるとを問わず,また,譲渡の目的を問わないも
のと解される。
したがって,仮に被告各製品の無償譲渡分が被告が主張するよう
な目的による譲渡であったとしても,同項本文の「譲渡」に該当す
るというべきであるから,被告の上記主張は採用することができな
い。
(ウ)以上を総合すると,平成15年1月から平成18年2月までの間
における被告各製品の譲渡数量は,別紙譲渡数量一覧の「譲渡数量」
欄記載の各数量であることが認められる。
イ単位数量当たりの利益額
(ア)「侵害の行為がなければ販売することができた物」
a特許法102条1項本文は,侵害行為を組成した物の譲渡数量
に,「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当
たりの利益の額」を乗じて得た額を,特許権者又は専用実施権者の
実施能力を得た額を超えない限度において,特許権者又は専用実施
権者が受けた損害額とすることができると規定している。
同項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」と
は,その文理上,特許発明の実施品に限定されるものではなく,市
場において侵害品(「侵害行為を組成した物」)と代替可能性のあ
る権利者(「特許権者又は専用実施権者」)の製品,すなわち,市
場において侵害品と競合する権利者の製品であれば足りると解する
のが相当である。
これに反する被告の主張は,採用することができない。
b原告は,原告各製品(別表1の「対応する原告製品」欄記載の製
品)は本件特許の実施品であり,少なくとも市場において侵害品で
ある被告製品と競合する製品であるから,「侵害の行為がなければ
販売することができた物」に該当する旨主張する。
本件においては,原告各製品の芯球(コア)の組成の分析結果な
ど原告各製品が本件訂正発明の技術的範囲に属することを客観的に
裏付ける証拠は提出されておらず,原告各製品が本件特許の実施品
であると直ちに認めることはできない。
そこで,原告各製品が市場において被告製品と競合する製品に該
当するかどうかについて判断する。
(a)株式会社矢野経済研究所(以下「矢野経」という。)作成の
ゴルフデータの分析レポート(乙69の1ないし3)及び弁論の
全趣旨によれば,①別表1のTOURSTAGEX-01は平成16年及び平
成17年に●(省略)●円(希望小売価格),NEWINGは平成15
年ないし平成17年に●(省略)●円(オープン価格),PRECEPT
MCLADYは平成15年に●(省略)●円(オープン価格),PRECE
PTLADYは平成15年及び平成16年に●(省略)●円(オープン
価格),PRECEPTLADDIEは平成15年及び平成16年に●(省
略)●円(オープン価格),TOURSTAGEUXは平成15年に●(省
略)●円(オープン価格)であったこと,②被告製品①,②は平
成17年に●(省略)●円(オープン価格),被告製品③は平成
17年に●(省略)●円(オープン価格),被告製品④は平成1
7年に●(省略)●円(オープン価格),被告製品⑤は平成17
年に●(省略)●円(オープン価格),被告製品⑥,⑦は平成1
5年ないし平成17年に●(省略)●円(オープン価格),被告
製品⑧は平成15年及び平成16年に●(省略)●円(オープン
価格),被告製品⑨は平成15年及び平成16年に●(省略)●
円(オープン価格),被告製品⑩は平成15年及び平成16年に
●(省略)●円(乙69の1の「Ⅲ-03Rank40」,乙69の2
の「Ⅲ-03Rank34」),被告製品⑪は平成15年に●(省略)●
円(乙69の1の「Ⅲ-03Rank45」)であったことが認められ
る。
上記認定事実によれば,被告製品①,②,⑥,⑦,⑪は,●(
省略)●円ないし●(省略)●円(いずれもオープン価格)の価
格帯に属するものである。
そして,原告が被告製品⑥,⑦,⑪に競合する製品であると主
張するTOURSTAGEUXは●(省略)●円(オープン価格)であるか
ら,上記価格帯に属するものといえる。一方,原告が被告製品
①,②,⑥,⑦に競合する製品であると主張するTOURSTAGEX-01
は●(省略)●円(希望小売価格)であり,上記価格帯を超えて
いる。
次に,上記認定事実によれば,被告製品③,④,⑧,⑨は●(
省略)●円ないし●(省略)●円(いずれもオープン価格)の価
格帯に属するものである。
そして,原告が被告製品③,④,⑧,⑨に競合する製品である
と主張するNEWINGは●(省略)●円(オープン価格)であるか
ら,上記価格帯に属するものといえる。
さらに,上記認定事実によれば,被告製品⑤,⑩は●(省略)
●円ないし●(省略)●円(いずれもオープン価格)の価格帯に
属するものである。
そして,原告が被告製品⑤,⑩に競合する製品であると主張す
るPRECEPTMCLADYは●(省略)●円(オープン価格)であるか
ら,上記価格帯に属するものといえる。一方,原告が被告製品
⑤,⑩に競合する製品であると主張するPRECEPTLADYは●(省
略)●円(オープン価格),PRECEPTLADDIE(オープン価格)は
●(省略)●円であり,上記価格帯を超えている。
(b)甲53によれば,ゴルフダイジェスト(2003年1月号)
には,被告製品⑥とTOURSTAGEUXが,週間ゴルフダイジェスト(
2004年10月12日号)には,被告製品⑥とTOURSTAGEX-01
が,週間ゴルフダイジェスト(2005年11月8日号)には,
被告製品①とTOURSTAGEX-01が,それぞれ性能等が類似する製品
として対比して紹介されていることが認められる。
(c)ところで,ゴルフボールのユーザーは,価格,ゴルフボール
の性能(飛距離性能,スピン性能等),その性能とユーザーの技
術との適合性,打球感,ブランドなどの諸要素を考慮して,ゴル
フボールを選択するものであり(甲50,弁論の全趣旨),その
中でも,価格及び性能を重視する傾向があるものと考えられる。
そうすると,価格帯が共通のゴルフボールに対して向けられる
需要は競合するものといえるから,価格帯が共通の製品は市場に
おいて競合する製品に当たるものと解される。また,特定のユー
ザー層を対象とした製品については,価格帯が共通しない場合で
あっても,その価格差が大きなものでないときは,需要が競合す
る可能性が高いものといえるから,市場において競合する製品に
当たるものと解される。
以上を前提に検討するに,前記(a)によれば,原告各製品のう
ち,TOURSTAGEUX,NEWING,PRECEPTMCLADYは,原告が対応する
と主張する被告製品③ないし⑪とそれぞれ共通の価格帯に属する
ものといえるから,市場において競合する製品に該当するものと
認められる。
次に,前記(a)のとおり,TOURSTAGEX-01は,原告が対応する
と主張する被告製品①,②,⑥,⑦の価格帯を超えているが,上
記価格帯はオープン価格であるのに対し,TOURSTAGEX-01は希望
小売価格であるので,単純な価格の比較はできないこと,前記(b
)によれば,被告製品①とTOURSTAGEX-01が,被告製品⑥とTOURST
AGEX-01がそれぞれ性能が類似する製品として対比して紹介され
ていることの事情に照らすならば,TOURSTAGEX-01は,原告が対
応すると主張する上記被告製品と需要の競合関係が存在し,市場
において競合する製品に該当するものと認められる。
さらに,前記(a)によれば,PRECEPTLADY(オープン価格●(
省略)●円),PRECEPTLADDIE(オープン価格●(省略)●円)
は,原告が対応すると主張する被告製品⑤,⑩の価格帯(●(省
略)●円ないし●(省略)●円。いずれもオープン価格)の価格
帯を超えているが,その価格差は100円以内に収まっているこ
と,PRECEPTLADY,PRECEPTLADDIE及び被告製品⑤,⑩は,いず
れも女性のユーザー層を対象とした製品であることに照らすなら
ば,PRECEPTLADY及びPRECEPTLADDIEは,被告製品⑤,⑩と需要
の競合関係が存在し,市場において競合する製品に該当するもの
と認められる。
(d)以上によれば,原告各製品は,それぞれ被告各製品と市場に
おいて競合する製品に該当するものであるから,「その侵害の行
為がなければ販売することができた物」に当たるものと認められ
る。
(イ)a鑑定人A1の鑑定(以下「A1計算鑑定」という。)の結果に
よれば,原告各製品の単位数量当たりの利益額は,別表9の「単位
数量当たりの利益」の「基準額」欄記載の各金額であることが認め
られる。
bこれに対し被告は,①特許法102条1項本文の「単位数量当た
りの利益の額」は,特許発明の寄与率を考慮して算定すべきである
ところ,ゴルフボールは多数の特許権でカバーされているので当然
に寄与率を考慮すべきである,②本件訂正発明の寄与率の算定に際
しては,市場において本件訂正発明の実施品と同等以上の効果を有
する代替可能な製品が存在すること,本件訂正発明の実施品である
ことが需要者の購入の動機付けとなっていないことなどを考慮すべ
きである旨主張する。
しかし,被告の主張する代替可能な製品の存在等は,特許法10
2条1項ただし書の「販売することができないとする事情」に当た
るかどうかの問題として考慮すべきものであって,「単位数量当た
りの利益の額」の算定に影響を及ぼす事情には当たらないと解され
る。また,被告が主張するように一般にゴルフボールが多数の特許
権でカバーされているとしても,被告は,原告各製品について本件
特許と本件特許以外の原告の特許がどのように実施されているのか
について具体的に主張立証するものではないから,寄与率を論じる
前提を欠いている。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ原告の実施能力
A1計算鑑定の結果によれば,原告は,前記アの被告各製品の販売数
量の全部について原告各製品を製造販売する能力(供給能力)を有して
いたものと認められる。
エ特許法102条1項ただし書に該当する事情
(ア)特許法102条1項ただし書は,侵害品の譲渡数量の全部又は一
部に相当する数量を権利者が「販売することができないとする事情」
があるときは,同項本文の損害額から,当該事情に相当する数量に応
じた額を控除するものとする旨規定している。
被告は,本件においては,本件訂正発明の実施の有無が需用者の購
買の動機付けとなっていないこと,原告各製品の市場におけるマーケ
ットシェアを超える部分は,他の製品が代替して販売されたものと評
価すべきであること,被告の営業努力,ブランド力及び販売力などの
事情が存在し,これらの事情は,原告が原告各製品を「販売すること
ができないとする事情」に該当するので,上記事情に相当する数量に
応じた額を原告主張の損害額から控除すべきである旨主張する。
a(a)証拠(甲50,乙69の1ないし5)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,①ゴルフボール市場には,原告,被告,ダンロップ,
ナイキ,キャラウェイ,ウィルソン等のゴルフボールメーカーが
存在すること,②平成15年から平成19年までのゴルフボール
の販売個数の市場占有率(矢野経の「業態別ブランドシェア」
の「全業態シェア」(乙69の1ないし5))は,●(省略)●
であったこと,③上記各年におけるシェアは,いずれも原告が業
界1位,被告が業界3位であったことが認められる。
そして,被告を除く市場を仮定した場合の他社メーカーの市場
占有率を,次の計算式で算出すると,●(省略)●となる。
【計算式】他社メーカーの市場占有率/(100−被告の市場
占有率)
(b)被告作成の平成16年の製品カタログ(「GOLFBAL
LS2006」)(甲43)には,①「PROV1」(被告製品
①,⑥と同じシリーズ),「PROV1x」(被告製品②,⑦と同じシ
リーズ),「NXTTOUR」(被告製品④,⑨と同じシリーズ),「N
XT」(被告製品③,⑧と同じシリーズ),「DTSoLo」(被告製品
⑤,⑩と同じシリーズ)が掲載されていること,②「PROV1」に
ついて「飛距離をさらにアップ」,「これまでのPROV1にくらべ
飛距離が約2∼3ヤード伸びる」,「PROV1x」について「これま
でのPROV1xにくらべ飛距離が約2∼3ヤード伸びる」との記載が
あること,③「NXTTOUR」,「NXT」について旧モデルと比較して
ドライバーの飛距離及びアイアンの飛距離が伸びていることを示
すグラフの記載があること,④「DTSoLo」について「高初速コア
の採用」,「ゆったりしたスイングでも高初速・高弾道」,旧モ
デルと比較してドライバーの飛距離及びアイアンの飛距離が伸び
ていることを示すグラフの記載があることが認められる。
b以上の認定事実を前提に検討するに,①前記a(a)認定のゴルフ
ボールの販売個数の市場占有率のうち,他社メーカーの市場占有率
分の数量は,被告の侵害行為の有無に影響されるものではないと考
えられるところ,被告を除く市場を仮定した場合の他社メーカーの
市場占有率は●(省略)●であること,②平成15年から平成19年
までの間の原告及び被告の上記市場占有率には大きな変動がみられ
ないこと,③上記市場占有率にはメーカー各社の営業努力及びブラ
ンド力が反映されているものと推認されること,④被告作成の製品
カタログ(甲43)では,「PROV1」(被告製品①,⑥と同じシリ
ーズ),「PROV1x」(被告製品②,⑦と同じシリーズ),「NXTTO
UR」(被告製品④,⑨と同じシリーズ),「NXT」(被告製品③,⑧
と同じシリーズ),「DTSoLo」(被告製品⑤,⑩と同じシリーズ)
について,本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向上をセ
ールスポイントとして挙げており(前記a(b)),このセールスポ
イントがユーザーが上記各製品を購買する動機付けの一つとなって
いるといえること,⑤ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴル
フボールの性能(飛距離性能,スピン性能等)を重視する傾向にあ
るといえるが(前記イ(ア)b(c)),一般のユーザーはゴルフボー
ルの性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成
分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれるこ
と(甲53中のゴルフダイジェスト及び週間ゴルフダイジェストに
おいては,ゴルフボールの性能等が類似する製品を対比して紹介し
ているが,性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体
的な成分等についての説明はみられない。),以上①ないし⑤の事
情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のう
ち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド
力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件
特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することがで
きないとする事情」があったものと認めるのが相当である。
したがって,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,6
0%に相当する数量に応じた額を,原告の損害額から控除すべきで
ある。
(イ)aこれに対し被告は,原告各製品(5種類)が特許法102条1
項本文の「侵害の行為がなければ販売することができた物」である
ことを前提に,その「単位数量当たりの利益の額」を基に損害額を
算定する以上,同項ただし書の「販売することができないとする事
情」としての市場におけるマーケットシェア(市場占有率)を考慮
する際には,上記5種類の原告各製品の市場占有率に限定すべきで
あり,当該市場占有率を超える部分は,他の製品が代替して販売さ
れたものと評価すべきである旨主張する。
しかし,①ゴルフメーカー各社の営業努力及びブランド力は,市
場占有率に反映されているといえるが,それを適切に評価するため
には,ゴルフボール全体の市場占有率を考慮するのが相当であると
考えられること,②本件においては,原告各製品と競合する他社メ
ーカーの具体的な製品についての市場占有率に関する主張がされて
いないなど,被告各製品の譲渡数量のうち,原告各製品の市場占有
率を超える部分は他の製品が代替して販売されたものと評価できる
ことを基礎付ける事情はうかがわれないことに照らすならば,被告
の上記主張は採用することができない。
bまた,被告は,原告各製品及び被告各製品の販売において,本件
訂正発明の対象である添加剤の使用は,一切ユーザーには知らされ
ておらず,本件訂正発明の使用の有無により,ユーザーが被告各製
品の購買の動機付けとなることはあり得ないから,本件訂正発明の
実施の有無が需用者の購買の動機付けとなっていないことを,原告
が「販売することができないとする事情」として考慮すべきである
旨主張する。
しかし,前記(ア)b認定のとおり,ユーザーがゴルフボールを選
択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能,スピン性能等)を重
視する傾向にあるといえるが,一般のユーザーはゴルフボールの性
能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等に
ついては特段の関心を抱いていないものとうかがわれることに照ら
すならば,原告各製品及び被告各製品の販売において本件訂正発明
の対象である添加剤の使用がユーザーには知らされていないこと
を,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量を原告が「販売するこ
とができないとする事情」として考慮すべき余地はないというべき
である。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
オ消滅時効
(ア)被告は,原告の平成18年1月1日から同年2月19日までの間
の被告製品①ないし⑤の譲渡数量に係る本件特許権侵害の不法行為に
よる損害賠償請求は,平成21年2月20日付け訴えの変更申立書で
追加されたものであるが,同日の時点において,上記損害賠償請求権
は,3年の消滅時効が完成しているから,本訴において,上記消滅時
効を援用する旨主張する。
そこで検討するに,原告は,平成17年12月19日に,本件特許
権に基づく被告各製品の輸入,販売の差止請求,平成17年12月ま
での被告各製品の譲渡分に係る本件特許権侵害の不法行為による損害
賠償及び不当利得返還請求を求める本件訴訟を提起した後,平成21
年2月20日に,同日付け訴えの変更申立書を提出して,平成18年
1月1日から同年2月末日までの被告製品①ないし⑤の譲渡分につい
て本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求を追加する旨の訴え
の変更の申立てをしたこと,その後,原告は,平成21年12月14
日に,上記差止請求に係る部分について訴えの取下げをしたことは,
当裁判所に顕著な事実である。
そして,本件訴訟の上記審理経過によれば,原告は,平成18年2
月20日の時点において,同年1月1日から同年2月19日までの間
に被告が被告製品①ないし⑤を譲渡し,これにより損害を被ったこと
を知っていたものと認められる。
そうすると,上記訴えの変更の申立てがあった平成21年2月20
日の時点では,平成18年1月1日から同年2月19日までの被告製
品①ないし⑤の譲渡分に係る原告の不法行為による損害賠償請求権
は,3年の時効期間が経過し,消滅時効が完成していたというべきで
ある。
したがって,原告の上記期間における被告製品①ないし⑤の譲渡に
係る不法行為による損害賠償請求権は,被告の消滅時効の援用により
消滅したものと認められる。
(イ)そして,平成18年2月20日から同月28日までの間の被告製
品①ないし⑤の譲渡数量は,別紙譲渡数量一覧記載の平成18年2月
分の各数量に上記期間の日数分(9日)を日割計算(9/28)して
算出した別紙損害額一覧(逸失利益)の「譲渡数量」欄記載の平成1
8年2月分の各数量であることが認められる。
カ小括
(ア)以上を総合すれば,被告の本件特許権の侵害による原告の特許法
102条1項の損害額(逸失利益)は,別紙損害額一覧(逸失利益)
のの「譲渡数量」欄記載の各数量に「単位当たり利益の額」欄記載の
金額を乗じた額から前記エ(ア)の原告が「販売することができないと
する事情」に相当する数量に応じた額を控除した額,すなわち,上記
乗じた額に「ただし書の数量控除後の割合」欄記載の割合(100%
−60%=40%)を乗じて算出した「損害額」欄記載の金額(合計
17億0198万3531円)であることが認められる。
(イ)これに対し被告は,①本件特許の特許請求の範囲は第1次訂正及
び第2次訂正を経て減縮されており,本件訂正発明の権利範囲が極め
て限定的であること,②本件訂正発明の奏する効果は,公知例と同等
以下の効果しか奏しないこと,③本件訂正発明は設計変更が極めて容
易であること,④被告の2006年(平成18年)以降のゴルフボー
ルは,被告各製品と同等以上のものであること,⑤2007年(平成
19年)の被告のシェアに示されているとおり,被告各製品の販売の
有無は原告の逸失利益に全く影響を与えていないと考えられること,
⑥原告各製品の中には,少なくとも「PCTP及びそれらの金属塩」
を含有しない製品が含まれていること,以上の事情に照らすならば,
本件においては,原告主張の逸失利益の生じる余地はなく,特許法1
02条1項の適用の前提を欠いている旨主張する。
しかしながら,特許法102条1項は,特許権侵害による逸失利益
の損害賠償請求における因果関係の立証の負担を軽減する趣旨で設け
られた,損害額(逸失利益)の算定方法を定めた規定であると解され
るところ,上記①ないし⑥の事情は,同条項の適用そのものを否定す
べき事由に当たるものとは認められないから,被告の上記主張は採用
することができない。
(2)特許法102条3項の損害額(実施料相当額)
原告は,原告が「販売することができないとする事情」に相当する数量
に応じた被告各製品の譲渡数量部分についても,被告が無許諾で実施して
いたことに変わりはないから,当該部分について,特許法102条3項に
基づいて,実施料相当額の損害賠償を請求できる旨主張する。
しかしながら,特許法102条1項は,特許権侵害に当たる実施行為が
なかったことを前提に原告の逸失利益を算定するのに対し,同条3項は,
特許発明の実施に対し受けるべき実施料相当額を損害とするものであるか
ら,両者は前提を異にする損害算定方式であり,また,特許権者によって
販売することができないとされた分についてまで実施料相当額を請求し得
ると解すると,特許権者が侵害行為に対する損害賠償として請求し得る逸
失利益以上の損害の填補を受けることを認めることになるが,このように
特許権者の逸失利益を超えた損害の填補を認めることは,特段の事情がな
い限り,妥当でないというべきである(知財高裁平成18年9月25日判
決(平成17年(ネ)第10047号)参照)。
そして,上記特段の事情としては,例えば,「販売することができない
とする事情」に相当する数量部分が権利者の実施能力を超える部分であっ
て,特許法102条1項の損害額算定の対象とされていない場合などが考
えられるが,本件においては,前記(1)ウ認定のとおり,原告は,被告各製
品の販売数量の全部について原告各製品を製造販売する能力(供給能力)
を有していたものであり,原告が「販売することができないとする事情」
に相当する数量部分についても実施能力を有していたのであるから,この
ような場合には該当しない。結局,本件証拠上,上記特段の事情があるも
のと認めるに足りない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3)被告が返還すべき利得額
ア平成14年3月から同年12月までの分
原告は,被告は,平成14年3月から同年12月までの間,本件訂正
発明の実施についての実施料を支払わずに被告製品⑪を販売したことに
より,その実施料相当額(実施料率・売上高の5%)を法律上の原因な
く利得し,これにより原告は,同額の損失を被った旨主張する。
(ア)平成14年3月から12月までの間の被告製品⑪の売上高が●(
省略)●であることについては,当事者間に争いがない。
(イ)次に,実施料相当額について判断する。
a甲55(発明協会研究センター編「実施料率〔第5版〕」平成1
5年9月30日発行)には,「表2−27−2ゴム製品(イニシ
ャル無)の実施料率別契約件数」に,「平成4年度∼平成10年
度総件数累計」の実施料率の「平均値」が6.5%であるとの記載
がある。上記実施料率は,ゴム製品の製造技術分野一般に関するも
のであり,ゴルフボールを直接の対象としたものではないが,甲5
5には,ゴム製品であるゴルフボールを除外することを明示した記
載はない。
甲55の上記記載及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件訂正発明
の実施料率は,原告が主張するように,売上高の5%と認めるのが
相当である。
bこれに対し被告は,①●(省略)●,②本件訂正発明の内容,他
の構成の代替可能性,本件訂正発明の寄与度,被告の高いブランド
力,営業努力を考慮すると,本件訂正発明の実施料率は低く評価す
べきであることからすれば,本件訂正発明の実施料率は0.5%を
基準に考えるべきである旨主張する。
(a)しかし,●(省略)●
(b)また,被告が主張する本件訂正発明の内容,他の構成の代替
可能性,本件訂正発明の寄与度,被告の高いブランド力,営業努
力については,本件訂正発明の実施料率を低く評価すべき事情に
当たるものと認めることはできない。
(c)したがって,本件訂正発明の実施料率は0.5%を基準に考
えるべきであるとの被告の主張は,採用することができない。
(ウ)以上によれば,平成14年3月から同年12月までの被告製品⑪
の譲渡分について被告が返還すべき利得額は,被告製品⑪の売上高
●(省略)●(前記(ア))に実施料率5%(前記(イ)a)を乗じた
●(省略)●と認めるのが相当である。
イ平成18年1月1日から同年2月19日の分(予備的主張)
原告は,被告は,平成18年1月1日から同年2月19日までの間の
被告製品⑪の譲渡数量分(前記(1)オ(ア)の消滅時効の対象となった分)
に対する本件訂正発明の実施料相当額(実施料率・売上高の5%)を法
律上の原因なく利得し,これにより原告は,同額の損失を被った旨主張
する。
(ア)B1計算鑑定の結果によれば,平成18年1月1日から同年2月
28日までの間の被告製品①ないし⑤の売上高は,別表10の「売上
高」欄の平成18年1月分及び平成18年2月分の金額であることが
認められる。
このうち,平成18年2月1日から同月19日までの間の被告製品
①ないし⑤の売上高は,別表10の「売上高」欄の平成18年2月分
の金額に上記期間の日数分(19日)を日割計算(19/28)して
算出した別紙被告利得額一覧の「利得額」欄の平成18年2月分の金
額であることが認められる。
(イ)以上によれば,平成18年1月1日から同年2月19日までの被
告製品①ないし⑤の譲渡分について被告が返還すべき利得額は,別紙
被告利得額一覧の「売上高」欄記載の金額に実施料率5%(前記ア(イ
)a)を乗じて算出した「利得額」欄記載の金額(合計1022万04
97円)と認めるのが相当である。
(4)弁護士費用
本件事案の性質・内容,本件審理の経過等諸般の事情にかんがみれば,
被告の本件特許権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額は,500
0万円と認めるのが相当である。
(5)まとめ
以上によれば,被告による本件特許権侵害により被告が賠償又は返還す
べき原告の損害額及び利得額は,別紙損害・利得額一覧の「製品別損害
額」及び「製品別利得額」記載の各金額となる。
したがって,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為による損
害賠償及び不当利得の返還として総額17億8620万4028円(別紙
損害・利得額一覧の「合計認容額」欄記載の金額)及び内金2億6044
万3145円(別紙損害・利得額一覧の平成15年上期の「製品別損害
額」欄記載の損害額を合計した「各期間合計額」欄記載の金額)に対する
平成15年7月1日から,内金3億0180万6544円(別紙損害・利
得額一覧の「平成15年下期」の「製品別損害額」欄記載の損害額を合計
した「各期間合計額」欄記載の金額)に対する平成16年1月1日から,
内金2億9411万0530円(別紙損害・利得額一覧の「平成16年上
期」の「製品別損害額」欄記載の損害額を合計した「各期間合計額」欄記
載の金額)に対する同年7月1日から,内金2億6859万9261円(
別紙損害・利得額一覧の「平成16年下期」の「製品別損害額」欄記載の
損害額を合計した「各期間合計額」欄記載の金額)に対する平成17年1
月1日から,内金2億8247万0890円(別紙損害・利得額一覧の「
平成17年上期」の「製品別損害額」欄記載の損害額を合計した「各期間
合計額」欄記載の金額)に対する同年7月1日から,内金2億8437万
4033円(別紙損害・利得額一覧の「平成17年下期」の「製品別損害
額」欄記載の損害額を合計した「各期間合計額」欄記載の金額)に対する
平成18年1月1日から,内金2400万円(別紙損害・利得額一覧の「
平成14年」の「製品別利得額」欄記載の利得額)に対する平成18年1
月5日(訴状送達の日の翌日)から,内金1017万9128円(別紙損
害・利得額一覧の「平成18年2月20∼28日」の「製品別損害額」欄
記載の損害額を合計した「各期間合計額」欄記載の金額)に対する同年3
月1日から,内金6022万0497円(①別紙損害・利得額一覧の「平
成18年1月」の「製品別利得額」欄記載の利得額を合計した「各期間合
計額」欄記載の金額,②「平成18年2月1日∼19日」の「製品別利得
額」欄記載の利得額を合計した「各期間合計額」欄記載の金額,③「弁護
士費用」欄記載の損害額の合計額)に対する平成21年2月24日(訴え
の変更申立書送達の日の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
4結論
以上によれば,原告の請求は,被告に対し,17億8620万4028円
及び内金2億6044万3145円に対する平成15年7月1日から,内金
3億0180万6544円に対する平成16年1月1日から,内金2億94
11万0530円に対する同年7月1日から,内金2億6859万9261
円に対する平成17年1月1日から,内金2億8247万0890円に対す
る同年7月1日から,内金2億8437万4033円に対する平成18年1
月1日から,内金2400万円に対する同月5日から,内金1017万91
28円に対する同年3月1日から,内金6022万0497円に対する平成
21年2月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め
る限度で理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由がな
いからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官関根澄子
別紙
物件目録
下記名称のゴルフボール
製品の名称ボールの刻印
①TitleistPROV12005年モデル◄PROV1−392►
②TitleistPROV1x2005年モデル◄PROV1x−332►
③TitleistNXT2005年モデル◄−NXT−►
④TitleistNXTTour2005年モデル◄NXT−TOUR►
⑤TitleistDTSoLo2005年モデル◄DTSo/Lo►
⑥TitleistPROV12003年モデル◄・PROV1392・►
⑦TitleistPROV1x2003年モデル◄・PROV1x332・►
⑧TitleistNXT2003年モデル◄NXT►
⑨TitleistNXTTour2003年モデル◄NXTTOUR►
⑩TitleistDTSoLo2003年モデルDTSo/Lo
⑪TitleistPROV1★2002年モデル◄PROV1★392►

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

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