弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
原判決中、控訴人Aの被控訴人千代田町公平委員会に対する請求に関する部分を取
り消す。
控訴人Aの被控訴人千代田町公平委員会に対する訴を却下する。
控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。
訴訟の総費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
第一 双方の申立
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 控訴人らの被控訴人千代田町町長(旧千代田村村長)に対する各訴をいずれも
前橋地方裁判所へ差し戻す。
3 被控訴人千代田町(旧千代田村)公平委員会が昭和五二年一二月一日付で控訴
人らに対してなした審査請求却下の裁決をいずれも取消す。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
第二 当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、次のとおり付加
するほかは、原判決の事実摘示と同一(但し、千代田村は昭和五七年四月一日、千
代田町となつたので、原判決中「千代田村」とあるのを、すべて「旧千代田村」と
読みかえる。)であるので、これをここに引用する。
一 事実上及び法律上の主張
(控訴人ら)
1 本件派遣処分の「処分性」について
(1) 行政庁の処分とは、「行政庁が法に基づき優越的な意思の発動又は公権力
の行使として人民に対し具体的事実に関し法的規制を為す行為、すなわち権利を設
定し、義務を命じ、その他法律上の効果を発生させる行為である。」とか、「行政
権が優越的地位において公権力の発動として為す行為、すなわち、いわゆる権力行
為を総称する。国民の権利義務に直接関係のある行為であることを要する。」と言
われている。そして、いかなる場合に行政庁の処分が存在しているといえるかにつ
いては、「具体的行為が、行政争訟の対象として、とりあげるに値するだけの表象
を具えているかどうか、いいかえれば権限ある行政庁又は裁判所が公の権威をもつ
て取消し、その存在を否定するのでなければ、あたかも人民を拘束する力を有する
行政行為が存在するかのごとく誤解させるに足るだけの外観上の表象を具えている
かについて、客観的社会的通念に従つて判断するほかはない。」と言われている。
(2) 本件派遣処分を、「一連の手続中の先行行為によつては直接国民の権利利
益に対し影響を及ぼさず、最終の処分によつて初めて国民の権利利益に対して法律
効果を生じる場合、先行行為は不服申立の対象とならない。」という理論における
先行行為とみるのは正当ではない。このことは、協議に基づいた当該地方公共団体
の長の派遣勤務命令がなければ、派遣職員は、派遣を受けた地方公共団体での身分
を取得することができない。すなわち法的効果を生じないことから裏付けられる。
(3) 本件派遣処分は、単に後の機関(本件では一部事務組合)の任命行為の予
告通知的なものではなく、控訴人らに対する行政庁の外部的意思表示であり、かつ
控訴人ら旧千代田村職員の身分の得喪、職務内容に関するものである。
控訴人らは、本件派遣処分だけによつても、請求原因2に掲記のとおり、具体的不
利益を蒙るのであり、本件派遣処分における勤務先そのものが社会的にみて不利益
な場合すらある訳であつて、本件は、それをも問題にしている。
このように、本件派遣処分自体が直ちに国民の権利利益に影響を及ぼしており、控
訴人らの救済の必要性も認められるものである。
(4) 地方自治法二五二条の一七第二項に事前協議が定められていることを考慮
するなら、本件派遣処分(派遣勤務命令)は、単なる事後の任命行為の「同意」を
意味するものではなく、派遣を求める地方公共団体の長と派遣をする当該職員の属
する地方公共団体の長との「合意」を意味する。
少くとも、派遣勤務命令は、当該職員の身分が変化する(身分を合わせ有する)こ
とについて、後の機関の任命行為と対等な意味を持つものと言える。
(5) 本件派遣制度の運用の実体からみても、右事前の協議においては、当該職
員の所属する地方公共団体の長は、派遣を求めた地方公共団体の事務処理を行うに
ついて、その合理化、能率化のために職員の派遣が必要であるか否かを考えること
は勿論、当該職員の人事管理上の問題点、特に派遣先で、いかなる処遇を受けるか
について意を用いるべきであり、実質的には、派遣要請に応ずるか否か、派遣先で
いかなる身分上の取り扱いを受けるか否かは、当該派遣勤務命令を出す地方公共団
体の長によるところが大きいのである。このような運用の実体からみても、本件派
遣処分は抗告訴訟の対象及び不利益処分に対する不服申立の対象となる「処分」と
言える。
2 不服申立機関について
(1) 仮に、本件派遣処分が、それ自体としては独立した処分行為でないとして
も、派遣勤務命令と後の職への任命行為とは関連する行為であり、全体として一個
の処分とも解しうるから、新しい任命行為と同様、派遣勤務命令を出した機関へ
も、その取消を求めることができると解すべきである。
(2) 派遣職員は、派遣をする地方公共団体と派遣を求める地方公共団体の職員
の身分を合わせ有することになるのであり、そうだとすれば、その派遣を求めた地
方公共団体で不利益処分を受けた場合、その不服申立をいずれか一方の地方公共団
体の公平委員会へ為すことも適法と認めてよい。かえつて、両者への不服申立の余
地を認めることこそ、公務員の身分保障につながり、法の精神に合致するものであ
る。そして、このことは、職員の派遣の制度が、行政上の便宜により立法された過
程に照らし、当然首肯しうるところである。因みに、県や市町村の職員の派遣交流
の場合の不利益処分に対する不服は、どちらの公平委員会、人事委員会に対し申し
立てても良いことになつている。
(3) 以上、専ら行政目的から生じた地方自治法の派遣制度について、しかも派
遣職員は派遣以前の身分を合わせ有するという右制度の内容からすれば、控訴人ら
が本件の任命行為を含めた一連の不利益処分について、被控訴人公平委員会を名宛
人とした不服申立は適法であり、同公平委員会が、控訴人らが原審で主張した補正
教示をすることなく、実質審理をせず、理由も付さずに却下決定をしたことは違法
である。
3 控訴人Aの訴の利益について
控訴人Aが昭和五五年四月二八日付で一部事務組合への派遣勤務を免ぜられ、かつ
同月三〇日付で、旧千代田村を退職したことは認める。
同控訴人は、一部事務組合へ派遣されていた間、管理職手当が月額六、四八〇円
(昭和五二年度)ないし七、三九〇円(同五四年度)減額され、勤務場所の変更に
より月額四八〇〇円の交通費の負担を余儀なくされたものであつて、本件派遣処分
が取消され、或は、その無効が確認されることは、事後の右管理職手当等の請求に
影響を及ぼすものであるから、同控訴人が本件訴をなす具体的利益は十分残存して
いる。
(被控訴人ら)
1 本件派遣処分は、それ自体独立した行政処分ではなく、一部事務組合の為した
任用行為(これが行政処分である)に同意を与えるものに過ぎない。控訴人らは、
一部事務組合の任用行為こそ争いの対象にすべきであり、従つて、その不服申立も
亦、被控訴人公平委員会に対して為すべきではなく、一部事務組合の公平委員会に
対して為すべきである。
2 控訴人Aは、昭和五五年四月二八日付で一部事務組合への派遣勤務を免ぜら
れ、かつ、同月三〇日付で旧千代田村を退職しているから、本件訴の利益はない。
同控訴人が一部事務組合へ派遣されていた間、管理職手当が減額されたことは認め
るが、その額がその主張のとおりであること及びその余の主張事実は否認する。仮
に同控訴人が、管理職手当等の差額の支払を求める場合には、直ちに給付訴訟を提
起し、その前提として本件派遣処分の効力を争えば足り、独立して本件処分の取消
を求める法律上の利益はない。
二 証拠関係(省略)
○ 理由
一 まず、地方自治法二五二条の一七の職員の派遣について考える。
地方自治法二五二条の一七は、従来地方公共団体相互間の協力援助の方法として、
出向や併任等の形で適宜行われていた職員の派遣の制度を法制化し、派遣される職
員の身分保障を確保するとともに、地方公共団体相互間の事務処理の能率化、合理
化に資しようとしたものである。すなわち、同条によれば、派遣される職員は、派
遣を受けた地方公共団体の職員の身分をあわせ有することとなり、その身分の取扱
に関しては、政令による特別の定め及び当該職員を派遣し並びにその派遣を受けた
地方公共団体の長間の協議に基づく別異の定めによるほかは、当該職員を派遣した
地方公共団体の職員に関する法令の規定の適用があるものと規定されている。
右のような立法の趣旨及び同条が「職員の派遣を求めることができる。」と職員の
派遣を求める側を主体とした規定をし、かつ、派遣職員の身分について、派遣をす
る地方公共団体の職員としての身分に変動はなく、同人はそのうえに新らたに派遣
を受けた地方公共団体の職員の身分をあわせ有することとなると規定していること
を考えれば、地方公共団体の長は、他の地方公共団体の長から同条に基づく要求が
あれば、特に支障のない限りこれに応ずべく、派遣を求め、これを受ける地方公共
団体の長は、同条に基づき当該職員に対し、その同意を要せずに任用(採用)発令
を行つて、自らとの間の勤務関係に入らしめうるものであり、当該職員は、派遣を
求め、これを受ける地方公共団体の長の任用(採用)発令によつて、従来の身分に
あわせて派遣を求め、これを受けた地方公共団体の職員の身分を有することになる
ものと解せられる。したがつて、当該職員の法的地位ないし権利関係に変動をもた
らすものは、派遣を求め、これを受ける地方公共団体の長の任用(採用)発令であ
つて、派遣をする地方公共団体の長の、当該職員に対する派遣勤務命令は、当該職
員に対する職務命令ないしは、同条に基づく派遣要求に応じた旨の通知にとどま
り、これのみによつて直ちに当該職員の法的地位ないし権利関係の変動を生ずるも
のではないと解するのが相当である。
二 そこで、控訴人らの被控訴人旧村長(現町長)に対する請求について判断す
る。
1 請求原因1の事実中、同被控訴人に関する部分は当事者間に争いがない。
2 右争いのない事実と成立に争いのない乙第二号証の一ないし三によれば、本件
組合の管理者が、昭和五二年九月二二日付で被控訴人旧村長に対し地方自治法二九
二条、二五二条の一七により控訴人ら三名の派遣を求め、被控訴人旧村長が同月二
九日付で右管理者に対し控訴人ら三名を同年一〇月一日付で派遣する旨回答をし、
然る後同年一〇月一日付で本件各派遣処分及び本件組合の管理者による各任命(採
用)が行われていることが認められる。
3 地方自治法二五二条の一七による職員の派遣については前記一で説示したとお
りであつて、これによれば、本件組合の管理者が控訴人らに対してなした新しい職
への任命(採用)行為が、抗告訴訟の対象となる「処分」であつて、控訴人ら主張
の本件各派遣処分は、これには該らないというべきである。また、右職員の派遣制
度において、右任命(採用)行為を抗告訴訟の対象とする他に本件各派遣処分を殊
更取りあげて、その対象としなければならない特段の事由はこれを見出し難い。
4 してみれば、控訴人らが被控訴人旧村長を相手方として取消を求める本件各派
遣処分は抗告訴訟の対象となるものではないから、控訴人らの訴は不適法なもので
あり、却下を免れない。なお、控訴人Aが昭和五五年四月二八日付で一部事務組合
への派遣勤務を免ぜられ、ついで同月三〇日付で旧千代田村を退職したことは当事
者間に争いがなく、右事実によれば、同控訴人が現在本訴について訴の利益を有す
るかどうか疑がないわけではないが、以上認定判断したとおり同控訴人の本訴は、
その対象においてすでに不適法なものであることが明らかであるから、右の点につ
いては更に立入ることをしない。
三 つぎに、被控訴人公平委員会に対する請求について判断する。
1 請求原因1の事実中、同被控訴人に関する部分は当事者間に争いがない。
2 まず、控訴人B及び同Cの身分関係についてみるのに、控訴人Bが、旧千代田
村の技術吏員で住民課に配属され塵芥収集車の運転手として勤務し、昭和五二年一
〇月一日付で、本件組合に運転手兼清掃手として任命されたこと、控訴人Cが、旧
千代田村の技術吏員で住民課に配属され、塵芥収集車付き清掃夫として勤務し、前
同日付で本件組合に清掃手として任命されたことは、当事者間に争いがなく、成立
に争いのない乙第一号証の一及び二によれば、控訴人Bは、昭和四五年八月一日、
旧千代田村から技手補(運転手)を命ぜられ、控訴人Cは、同四五年八月一六日、
同村から技手補(清掃夫)を命ぜられたことが認められる。
右によれば、控訴人Bは、旧千代田村の職員としては運転手であり、同Cは、清掃
手であつて、いずれも単純な労務に雇用されている者ということができる。尤も、
右控訴人らの原審における各本人尋問の結果中には、同控訴人らが、運転手ないし
清掃手としての職務のほかに、一般行政事務をも併せ行つていた旨の部分はある
が、前述のとおり同控訴人らが本件組合から運転手ないし清掃手として派遣要請さ
れたことに照して考えると、同控訴人らが右のような事務を行つていたとしても、
それはむしろ付随的ないし臨時的なものにすぎないというべく、この事実があるか
らといつて直ちに同控訴人らが単純労務者でなくなるものとは認め難い。他に、右
の認定判断を左右すべき主張、立証はない。
そうして、いわゆる単純労務者については、不利益処分に関する不服申立に関する
地方公務員法の適用はないから、控訴人B及び同Cの被控訴人公平委員会に対する
不服の申立は、いずれも申立権のないものがなした不適法なものというほかないか
ら、これらを却下した被控訴人公平委員会の決定は、相当である。
3 つぎに、控訴人Aについてみるのに、同控訴人が昭和五五年四月二八日付で本
件組合への派遣勤務を免ぜられ、ついで同月三〇日付で旧千代田村を退職したこと
は、当事者間に争いがない。
右のとおり、同控訴人は現在においては本件組合に派遣されておらず、しかも旧千
代田村の職員でもないのであるから、同控訴人はもはや被控訴人公平委員会のした
本件決定の取消を求める利益を有しないものというべきである。なお、同控訴人は
管理職手当等の差額の支払を求めるため、なお右決定の取消を求める必要があると
主張するが、本件決定は、同控訴人が受けたと主張する不利益処分に対するいわゆ
る行政不服審査手続においてなされたものであつて、その取消が同控訴人主張の支
払請求の前提をなすものではないから、同控訴人に、右決定の取消につきその主張
のような必要性を認めることが出来ず、他に同控訴人において、本訴を維持する利
益を有することを首肯するに足りる特段の事情の存在についての主張、立証はな
い。
したがつて、控訴人Aの被控訴人公平委員会に対する本件訴は、現在においてはそ
の利益を欠くものであるから、更に立ち入つて判断するまでもなく、不適法として
これを却下すべきものである。
4 以上のとおりであるから、控訴人らの被控訴人公平委員会に対する訴は、いず
れも排斥を免れない。
四 してみると、控訴人らの被控訴人旧村長(町長)に対する訴は、不適法であつ
ていずれもこれを却下すべきものであるから、これと同旨の原判決は相当であつ
て、控訴人らの被控訴人村長(町長)に対する各控訴はいずれも理由がないから、
これらを棄却し、控訴人B及び同Cの被控訴人公平委員会に対する請求は理由がな
いから、これと結論において同旨の原判決は結局相当であつて、同控訴人らの被控
訴人公平委員会に対する控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却し、控訴人
Aの被控訴人公平委員会に対する訴は、これを不適法として却下すべきものである
から、これを棄却した原判決を取り消し、右訴を却下することとし、訴訟費用の負
担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとお
り判決する。
(裁判官 川上 泉 小川昭二郎 山崎健二)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 原告らの被告千代田村村長に対する各訴は、いずれも却下する。
二 原告らの被告千代田村公平委員会に対する各請求は、いずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら(請求の趣旨)
1 被告千代田村村長が原告らに対し昭和五二年一〇月一日付でした大泉町外二箇
町村環境衛生施設組合への派遣勤務命令処分は、いずれも取り消す。
2 被告千代田村公平委員会が原告らに対し昭和五二年一二月一日付でした異議申
立の却下決定は、いずれも取り消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告ら(本案前の申立)
1 本件訴はいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 被告ら(本案に対する答弁)
1 原告らの請求はいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告ら(請求の原因)
1 昭和五二年一〇月まで、原告Aは千代田村の事務吏員で同村役場住民課に配属
されて勤務し)、同課において課長の地位にあり、原告Bは同村の技術吏員で同課
に配属されて塵芥収集車の運転手として勤務し、原告Cは同村の技術吏員で同課に
配属されて塵芥収集車付き清掃夫として勤務していたものであつて、被告千代田村
村長(以下「被告村長」という。)は地方公務員法(以下「地公法」という。)六
条により原告らの任命権者であり、また被告千代田村公平委員会(以下「被告公平
委」という。)は同法七、八条により原告らに対する不利益な処分についての不服
申立てに対する裁決又は決定をする権限を有する行政機関である。そして、原告ら
は、被告村長より昭和五二年一〇月一日付をもつて地方自治法(以下「地自法」と
いう。)二五二条の一七の規定に基づいて大泉町外二箇町村環境衛生施設組合(地
自法二八四条の一部事務組合である。以下「本件組合」という。本件組合は大泉町
内にあり、それまで大泉町の職員のみが派遣されていた。)へそれぞれ派遣勤務を
命じられ、同日、本件組合の管理者より、原告Aは事務吏員に任命されて参事兼庶
務計画係長収集係長に補職され、原告Bは運転手兼清掃手として任命されて収集係
を命じられ、原告Cは清掃手として任命されて収集係を命じられた。そこで、原告
らは右各派遣処分(以下「本件各派遣処分」という。)は不利益処分であるとして
被告村長に処分事由説明書の交付を請求したが、拒否された。ついで、原告らは同
年一一月二日付で被告公平委に対し、本件各派遣処分はその意に反する不利益処分
であるとしてその各取消しを求める審査請求をし、同時に口頭審理を求めたが、同
年一二月一日付で何ら理由を示さずに原告らの不服申立を却下する決定(以下「本
件各却下決定」という。)をした。
2 本件各派遣処分は、原告らに対し以下に述べるような不利益をもたらすもので
原告らはこれに同意していないから地公法四九条のその意に反する不利益処分であ
り、また、被告村長が人事権を濫用したものであるから違法である。よつて、原告
らは被告村長に対し、本件各派遣処分の取消しを求める。
(一) 原告Aについて
(1) 同原告は職制上上位の職である課長から下位の職である参事に降任となつ
た。
(2) 同原告は千代田村役場に一般事務吏員として勤務していたものであるが、
ごみ処理と火葬のみを目的とした本件組合に勤務することとなり、職種が変更され
た。そして、このような職種の変更は、同原告が仕事上で誤りを犯したので左遷さ
せられたものであると評価され、同原告に対する評価が低下する。
(3) 本件組合において支紹される給与は、大泉町外二箇町村環境衛生組合職員
の給与に関する条例によれば、大泉町職員の給与に関する条例によるとされている
ので、同原告は千代田村から管理職手当として本俸の一五パーセント支給されてい
たところ、同組合からその手当は一二パーセントしか支給されないことになつて月
額六四八〇円の減額となる。
(4) 同原告は千代田村役場にバスで通勤(交通費は全額支給されていた。)し
ていたが、本件組合は交通の不便な所(同原告宅から約九キロメートル)にありバ
スや鉄道等の交通機関を利用できないのでやむをえず普通乗用車を運転して通勤し
ているが、燃料費等の負担が増え、通勤費は月額四八〇〇円を多く出費しなければ
ならなくなつた。
(5) 同原告に対する派遣処分は、被告村長が同原告に対する個人的悪感情から
同原告を千代田村役場から追放し」ようとしてしたものであり、自由裁量権の範囲
を逸脱したものである。(6)本件組合の事務にはゴミ収集の業務が含まれていな
いのに、ゴミ収集の一元化を理由に派遣したことは、根拠を欠き違法である。
(二) 原告B及び同Cについて
(1) 両原告は千代田村だけの塵芥収集等の作業をしていたが、大泉町・邑楽町
のごみ収集と危険物破砕作業が加わつて労務の程度が著るしく重くなり、職域も格
段に広がつた。
(2) 両原告は千代田村住民課の職員からごみ収集危険物破砕作業等を目的とす
る本件組合の職員に変更されたが、これにより両原告に対する評価が低下する。
(3) 原告Bは原告Aと同様に普通乗用車で通勤せざるをえなくなり、燃料費等
の負担が増え、原告Cは、千代田村役場には徒歩で通勤できたが、本件組合まで約
九キロメートルの距離を自転車に乗つて通勤せざるをえなくなつた。
(4) 両原告に対する派遣処分は、被告村長が原告Aに対する個人的悪感情から
自由裁量権の範囲を逸脱してした同原告に対する派遣処分についての非難をさける
ために、原告B、同Cを巻き添えにしたものである。
(5) 本件組合の事務にはゴミ収集の業務が含まれていないのに、ゴミ収集の一
元化を理由に派遣したことは、根拠を欠き違法である。
3 原告らは本件各派遣処分を知つた日の翌日から六〇日以内に地公法四九条の
二、三の規定に従つて被告公平委に対し、本件各派遣処分の取消しを求める審査請
求をしたにもかかわらず、同被告は理由を示さず本件各却下決定をしたものである
ので、本件各却下決定は違法である。よつて、原告らは被告公平委に対し、本件各
却下決定の取消しを求める。
二 被告村長(本案前の申立の理由)
1 本件各派遣処分は処分性がないので、被告村長には被告適格がない。
派遣勤務命令は、その前手続として派遣を求める受入れ機関(以下後の機関とい
う。)の任命権者が派遣対象職員が勤務する機関(以下前の機関という。)の任命
権者に当該職員の派遣を要請し、同任命権者がこれに同意することが必要であつ
て、この派遣要請、同意という実質的な手続を経た後、形式的なものとして前の機
関の任命権者が当該職員に対し派遣勤務を命じ、後の機関の任命権者がこれを任命
するものであるから、派遣勤務命令それ自体は独立して完結する任用行為ではな
く、後の機関の任命権者の任命があつてはじめて完結する任用行為である。しかも
当該職員が後の機関の職員に任命されるという直接の法律効果は後の機関の任命権
者の行為によるものであり、前の機関の任命権者は右法律効果を直接発生させる行
為をなしえない。
2 原告らは本件各派遣処分の違法確認を求める請求から昭和五三年三月二三日そ
の取消しを求める請求に訴の変更をしたが、原告らは昭和五二年一二月一日には被
告公平委が本件各却下決定をなしたことを知つていたのであるから行政事件訴訟法
一四条所定の出訴期間の三ヵ月を徒過しているので、原告らの本件各訴は不適法な
ものである。
三 被告公平委(本案前の申立の理由)
原告Bは塵芥収集車の運転手として、原告Cは塵芥収集車付き清掃夫としてそれぞ
れ千代田村に採用されているから、両原告は単純労務職員であつて被告公平委に対
し不服申立ができないので、ひいては本件各訴も提起できない。
四 被告ら(請求の原因に対する認否)
1 請求の原因1は認める。
2 同2の冒頭部分は争う。
3 同2の(一)の(1)のうち、職制上上位の職である課長から下位の職である
参事に降任となつたことは否認するが、その余は認める。原告Aは千代田村におい
ても本件組合においても等しく行政職給与法(一)の一等級一五号給である。同
(2)は否認する。原告Aは事務吏員の職種についての変更はない。同(3)は認
める。同(4)、(5)は否認する。被告村長は本件組合の管理者から衛生事務の
熟達者の派遣を要請された際、従前の職務に鑑みて同原告を最適任者と判断し、ま
た同原告が転勤を強く希望していたこともあつたのでその派遣を決定したものであ
り、人事権を濫用していない。同(6)は否認する。
4 同2の(二)の(1)のうち、労務の程度が著るしく重くなり、職域も格段に
広がつたことは否認するが、その余は認める。同(2)ないし(5)は否認する。
5 同3のうち、理由を示さず本件各却下決定をしたのは違法である点は争うが、
その余は認める。不服申立を却下する決定には理由を示す必要がなく、単にこれを
申立人に通知すれば足りるのであるから、本件各却下決定は違法ではない。また、
本件各派遣処分は不利益処分ではないので、審査請求を被告公平委は受理すること
はできず、却下すべきものであつた。
五 原告ら(本案前の申立の理由に対する反論)
1 被告村長が当該職員を任命権者を異にする他の機関に派遣する場合には、他の
機関における職務待遇等を考慮して派遣協議をすべきであり、他の機関の任命権者
の任命行為のみによつて当該職員の身分を移動することはできないので、被告村長
は実質的にも形式的にも処分権者であり、本件各派遣処分は処分性がある。
2 本件各派遣処分の違法確認とその取消しを求める請求は、請求の基礎が同一で
あり、第一回口頭弁論期日が昭和五三年一月に指定されたにもかかわらず同年三月
二三日に変更されたため、やむをえず同日取消しを求める請求に変更している。従
つて、出訴期間を徒過していない。
3 原告B及び同Cは本件各派遣処分以前は千代田村住民課の技術職員であつて、
単純労務職員ではないので、被告公平委に本件派遣処分の取消しを求める審査請求
をしたことは適法である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 先ず、被告村長に対する請求について判断する。
原告ら主張の請求の原因1の事実については当事者間に争いがない。さて、原告ら
は本件組合の職員に任用された処分を争つて処分の取消しの訴を提起している。そ
して、原告らが取消しを求めている本件各派遣処分は地自法二五二条の一七に基づ
いてされたものであるが、同条に基づく職員の派遣の手続は、後の機関の任命権者
が前の機関の任命権者に職員の派遣を求め、前の機関の任命権者と協議したうえ
で、前の機関の任命権者が派遣に同意すると、前の機関の任命権者が当該職員に対
して派遣勤務を命じ、後の機関の任命権者がこれを任命するというものである。従
つて、前の機関の派遣勤務命令は当該職員に直ちに後の機関の職員たる身分を取得
させるものではなく、派遣勤務命令の次に後の機関の任命権者の任命があつてはじ
めて後の機関の職員たる身分を取得するので、派遣勤務命令は独立して完結する任
用行為ではない。すなわち、このような一連の任用行為の中で主体となるのは後の
機関の任命権者であり、前の機関の任命権者は後の機関の任命権者の任命について
同意を与える行為をするにすぎないものであると考えられる。そうだとすれば、派
遣勤務命令は単に職員を他の任命権者が任用するについて当該任命権者が同意する
旨を当該職員に通知する行為にすぎないものであり、それ自体は当該職員の後の機
関への異動についての独立した行政処分ではなく、当該職員に対して直接の法的効
果を生じさせるものではない(後の機関の任命権者がした新しい職への任命行為が
取消しの訴の対象となる処分である。)。
よつて、本件各派遣処分は原告らが本件組合の職員に任命された処分の取消しを求
める訴の対象となるものではないから、被告村長に対する各請求は不適法であり、
却下することとする。
二 次に、被告公平委に対する請求について判断する。
既に述べたとおり原告ら主張の請求の原因1の事実については当事者間に争いがな
い。
被告公平委は、原告B及び同Cは単純労務職員であるから被告公平委に対し不服申
立ができないのでひいては本件各訴も提起できない旨主張する。しかし、本件各却
下決定は審査行政庁である被告公平委に対する不服申立要件の有無に関する決定で
あるところ、右各決定の名宛人である原告らは自己に申立人適格があると主張して
審査請求に対する裁判所の判断を求めて争うことができるものというべく、本件各
訴訟は被告公平委が審査請求を却下したことの当否を本案とするので、両原告は原
告適格を有するものであり、右主張は失当である。
原告らは、本件各却下決定に理由を示さないのは違法である旨主張する。しかし、
地公法五一条は、不服申立の手続及び審査の結果執るべき措置に関し必要な事項は
人事委員会規則または公平委員会規則で定めなければならないと規定しており、同
条を承けて不利益処分についての不服申立てに関する規則が定められているとこ
ろ、同規則五条四項によれば、不服申立を却下すべきものと決定したときはその旨
を不服申立人に通知する旨規定されているだけであるので、不服申立てを却下する
場合に理由を示さなくても手続的に違法ではないと解される(このように解すべき
ことは、同規則一二条は公平委員会が判定を行なうときは判定書に理由を記載しな
ければならない旨を規定していることからも明らかである)。
よつて、本件各却下決定には理由を示さなくても手続的に違法ではないので、原告
らの被告公平委に対する各請求は理由がなく、棄却することとする。
三 以上説明したとおりであるから、その余の争点について判断するまでもなく、
原告らの被告村長に対する各訴はいずれも却下し、被告公平委に対する各請求はい
ずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適
用して、主文のとおり判決する。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛