弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告が,平成16年11月19日,旧津名町教育委員会に対してし
た情報公開請求に対し,被告が何らの決定をしないことが違法である
ことを確認する。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
主文同旨
2被告
原告の請求を棄却する。
第2事案の概要等
本件は,原告が,兵庫県津名郡津名町(平成17年4月1日,合併によ
り淡路市となる。以下「津名町」という。)教員委員会に対し,情報公開
請求したところ,未だにこれに対する決定がないとして,津名町教育長の
事務承継者である被告に対し,その不作為の違法確認を求めた事案である。
第3前提事実(引用証拠等のない事実は争いがない。)
1当事者
(1)原告は,平成16年11月19日の本件公開請求当時,津名町民であ
り,津名町議会議員でもある。
(2)津名町教育長は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律16条に
基づき,教育委員会に置かれたものであり,同法17条1項に基づき,
教育委員会の指揮監督の下に,教育委員会の権限に属するすべての事務
をつかさどる者である。
2本件不作為
(1)原告は,平成16年11月19日,津名町情報公開条例(平成8年1
2月26日条例第20号。以下「情報公開条例」という。)に基づき,
公開を求める情報として「レトロ体験村関係つづり」と記載した情報公
開請求書(以下「本件公開請求書」という。)を津名町教育委員会に提
出し,情報公開請求(以下「本件公開請求」という。)をした。
本件公開請求に対し,津名町教育委員会又は津名町教育長は前記合併
前において,淡路市教育委員会又は被告は同合併後において,何らの決
定(処分)をしていない(以下,この不作為を「本件不作為」とい
う。)。
(2)レトロ体験村とは,津名町が設置した青少年の健全育成のための宿泊
研修施設であり,津名町教育長がその管理運営をしている(弁論の全趣
旨)。
3本訴の提起及び合併
(1)原告は,平成17年3月18日,津名町教育長を被告として,本訴を
提起した。
(2)津名町は,平成17年4月1日,合併により淡路市となり,津名町教
育長の事務は,被告が承継した。
4情報公開条例の規定(甲2の1)
2条(定義)
2項この条例において「住民」とは,町内に住所を有する個人及び町
内に事務所又は事務所を置く法人その他の団体をいう。
3項この条例において「実施機関」とは,町長,議会,教育委員会,
選挙管理委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会
及び公営企業管理者をいう。
3条(情報の公開)
1項住民は,実施機関に対し,その所持又は保管する情報の公開を請
求することができる。
4条(公開の手続等)
1項情報の公開を要求しようとする者は,実施機関に対し当該情報の
閲覧又は複写(以下「閲覧等」という。)を請求することができる。
2項実施機関は,前項の請求があったときは,その請求書を受理した
日から起算して15日以内に,当該請求に係る情報の公開を行うか
否かの決定を行わなければならない。
3項実施機関は,やむを得ない理由により前項の期間内に同項の決定
を行うことができないときは,同項の請求書を受理した日から起算
して30日を限度として,その期間を延長することができる。
第4争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,①被告の当事者能力又は被告適格の有無,②本件不作為
が違法か否かである。
1争点1について
(1)被告の主張
情報公開条例2条3項では,情報公開の実施機関は「教育委員会」と
定めており,津名町教育委員会事務委任規則では,情報公開条例に基づ
く事務は,教育長に委任されている。
しかし,教育長は,教育委員会の一委員であるとともに,教育委員会
の事務局の長であり,教育委員会の決定に従って,日々の事務を執行し
ている職員の長にすぎない。
したがって,教育長は,法律関係の主体ではなく,裁判上,自己の名
において訴え又は訴えられる権能を有していない。
(2)原告の主張
津名町教育委員会は,津名町教育委員会事務委任規則を定めていると
ころ,同規則により,情報公開条例に基づく事務は,津名町教育委員会
から津名町教育長に委任されている。
したがって,被告適格がある者は,被告である津名町教育長である。
2争点2
(1)原告の主張
原告は,平成16年11月19日,被告に対し,本件公開請求をした
ものの,被告は,現在まで本件不作為を継続している。
原告が,本件公開請求書(甲1)において,公開を求める情報として
「レトロ体験村関係つづり」と記載したのは,担当者の指示によるもの
であるから,公開を求める行政文書は十分特定されている。
よって,本件不作為は違法である。
(2)被告の主張
本件公開請求書は,公開を求める情報として「レトロ体験村関係つづ
り」と記載しているが,津名町教育委員会及び淡路市教育委員会には
「レトロ体験村関係つづり」というものはもともと存在しないし,請求
の範囲が漠然としており,非公開事由(情報公開条例3条2項)に該当
するか否かの判断もできないことから,公開又は非公開の判断ができな
かった。そして,被告担当者が,原告に対し,平成17年3月17日の
津名町町議会終了後,公開を求める具体的情報を尋ねても,原告は,こ
れを明らかにしなかった。
被告は,本件公開請求を拒否しておらず,公開を求める情報を明らか
にすれば何時でも公開する用意がある。
第5当裁判所の判断
1争点1について
(1)当事者能力
平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法(以下「行訴
法」という。)38条1項,11条により,不作為の違法確認の訴えは,
原告のした法令に基づく申請を受けて処分をなすべき行政庁が所属する
国又は公共団体ではなく,当該行政庁を被告として提起すべきことが明
らかであるから,本訴の被告が,権利義務の主体とはなり得ず,民事訴
訟の当事者能力を有しない行政庁であることは,本訴の適法性に何ら影
響しない。
これに反する被告の主張は失当である。
(2)被告適格
情報公開条例では,実施機関として教育委員会を指定しているから,
同条例に基づく事務は,本来教員委員会が行うものと解される。
ところで,地方教育行政の組織及び運営に関する法律26条1項は,
教育委員会は,教育委員会規則で定めるところにより,その権限に属す
る事務の一部を教育長に委任することができる旨定めている。津名町教
育委員会事務委任規則(昭和51年4月1日教育委員会規則第1号。甲
3の2)1条は,津名町教育委員会は,一定の事項を除き,その権限に
属する教育事務を教育長に委任する旨定め,委任しない事項を列記して
いるところ,情報公開条例に基づく事務は,列記された非委任事項に含
まれていないから,同事務は,教育委員会から教育長に委任されており,
したがって,教育長が,その名において,同事務を行う権限を有するこ
とは明らかである。なお,弁論の全趣旨によれば,合併後の淡路市にお
いても,前記津名町教育委員会事務委任規則1条と同旨の規則が制定さ
れ,教育委員会の情報公開に関する事務は,被告に委任されていること
が認められる(現に,原告が,平成17年8月9日及び同月12日付け
で情報公開請求をしたところ,被告は,平成17年8月18日,これら
に対し,淡路市教育長名で公開又は非公開決定をしている《甲5の2,
甲6の1,甲6の2》。)。
(3)まとめ
したがって,津名町教育長を被告として提起された本訴は,適法であ
り,その後の合併により,その地位は,淡路市教育長に承継されたもの
と認める。
2争点2について
(1)被告の主張
被告は,本件公開請求においては,公開請求の対象となる情報(行政
文書)が具体的に特定されていないので,公開,非公開の判断ができな
かったのであり,本件不作為には正当な理由があると主張するかに解さ
れる。
(2)公開を求める情報が不特定の場合の取扱い
情報公開条例に基づく公開請求において,その対象となる情報が特定
されていない場合は,実施機関は,同条例4条2項,3項所定の期間内
に,その公開請求自体を却下すべきであるが,憲法21条及び情報公開
条例の趣旨から,直ちに請求を却下せずに,開示請求者に対し,相当な
期間を定めて補正を求めることも認められるべきである(行政機関の保
有する情報の公開に関する法律《以下「情報公開法」という。》4条2
項参照)。
前記補正を求めたにもかかわらず,公開請求者が相当期間内に請求対
象情報を特定しない場合又は補正を拒否する意思を明らかにした場合は,
実施機関は,特定されない部分又は公開請求自体を却下すべきである。
なお,この場合,本来補正に要する期間(現に補正に要した期間がそれ
より短い場合はその期間)又は補正拒否の意思を明示するまでの期間は,
開示決定等すべき期間に算入しないと解するのが相当である(情報公開
法10条1項ただし書参照)。
したがって,実施機関は,公開を求める情報が特定されていないこと
を理由に,情報公開請求に対して何らの決定をしないでおくことは許さ
れず,公開を求める情報が特定されていない場合でも,情報公開条例4
条2項,3項所定の決定期間を徒過すれば,原則として,行訴法3条5
項にいう「相当の期間」が経過したものと解すべく,その不作為は違法
となると言わねばならない。
(3)本件不作為が開示決定等の期間を徒過しているか
ア情報公開条例4条3項によれば,実施機関が,やむを得ない理由に
より,公開又は非公開決定するまでの期間を30日を限度として延長
する場合には,その旨の決定をしなければならないと解すべきところ,
本件公開請求については,この期間延長決定がなされたとの主張,立
証はない。
したがって,津名町教育長は,情報公開条例4条2項により,本件
公開請求書を受理した平成16年11月19日から起算して15日以
内に,本件公開請求に係る情報の公開を行うか否かの決定を行わなけ
ればならない(もっとも,30日の期間延長決定がなされたと仮定し
ても,本訴提起の遙か以前に,延長期間が経過したことが明らかであ
る。)。
イただし,公開請求対象情報が不特定であるためその補正を求めた場
合,本来補正に要する期間(現に補正に要した期間がそれより短い場
合はその期間)又は公開請求者が補正拒否の意思を明示するまでの期
間は,開示決定等すべき期間に算入しないと解すべきことは前示のと
おりである。
しかし,津名町教育長が,平成16年11月19日から起算して1
5日以内に,原告に対し,公開請求対象情報を特定するよう補正を求
めたことを認めるべき証拠はない。かえって,本件公開請求の担当者
であるA(社会教育課長)が,平成17年3月17日の津名町議会お
ける原告の質問に対し,「本件公開請求は,レトロ体験村に関する設
立の経緯に関するものなのか,また運営状況に関するものなのか,ど
のような請求がされたのか,判断がつきかねず,上司に相談しておっ
た。」旨の答弁をしていること(甲4の議事録27頁)からすらと,
津名町教育長は,本件公開請求の対象情報が特定されていないと認識
しながら,前記期間内に,原告に対して補正を求めなかったと考えざ
るを得ない。
したがって,津名町教育長は,平成16年11月19日から起算し
て15日以内に,本件公開請求に対する公開又は非公開の決定(その
当否はともかく,同教育長の認識からすると非公開決定となる。)を
すべきであったのであり,この期間の経過により,行訴法3条5項に
いう「相当の期間」も経過したものと解すべきである。この相当の期
間経過につき,他に正当な理由があることを認めるべき証拠はない。
なお,被告は,被告担当者が,原告に対し,平成17年3月17日
の津名町町議会終了後,公開を求める行政文書を尋ねても,これを明
らかにしなかったと主張するが,前記期間経過後の事情であるから,
これが事実であると仮定しても,前記判断を左右しない。
ウしたがって,本件公開請求を受理した日から起算して15日以内に
何らの処分をしない本件不作為が違法であることは明白である。
第6結語
以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから認容することし,主文
のとおり判決する。
神戸地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官佐藤明
裁判官今中秀雄
裁判官高橋信幸はてん補のため署名押印できない。
裁判長裁判官佐藤明

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