弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人A1に対する請求に関する部分を破棄し、右部分につき
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人A2の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人A2の負担とする。
         理    由
 上告代理人原田頼吾の上告理由第一点について。
 被上告人が訴外Dおよび同E(以下「訴外人ら」という。)に対し四回にわたり
合計一四〇万円を貸し渡し、原判示の和解の当時右金額の債権が存在していたとこ
ろ、訴外人らにおいて、本件不動産につき原判示の売買予約を承諾して、右和解を
成立させたものである旨の原判決の事実認定は、挙示の証拠に照らして首肯するこ
とができ、右認定の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に
属する証拠の取捨判断および事実の認定を非難するものであつて、採用することが
できない。
 同第二点について。
 原判決の適法に確定したところによれば、被上告人は、昭和三〇年一二月一六日、
訴外人らに対し、一四〇万円を貸し付けることを約するとともに、訴外人らが債務
を期日に弁済しないときは、E所有の本件不動産の所有権を譲り受ける旨の売買予
約をし、同月一八日、本件不動産につき右売買予約を原因とする所有権移転請求権
保全仮登記を経由し、さらに、右約旨に基づき被上告人が訴外人らに一四〇万円を
貸し渡した後、昭和三二年五月一八日、被上告人と訴外人らとの間に成立した和解
において、訴外人らは連帯して右一四〇万円を同年八月三一日かぎり支払うべく、
右期限にその支払がないときは、被上告人は債権額をもつて本件不動産を買い受け
ることができるものとし、右仮登記に基づく本登記をしても訴外人らは異議がない
旨を約したが、訴外人らが期限に債務の弁済をしなかつたので、被上告人は、昭和
三三年八月六日、Eに対して売買予約完結の意思表示をし、昭和三四年五月二七日、
右仮登記に基づく所有権移転の本登記を了したというのである。
 ところで、右和解当時に本件不動産の価額が六〇〇万円以上であつた旨の上告人
ら主張の事実は認めるに足りず、被上告人がEの無知、窮迫または軽卒に乗じて右
和解を成立させたものとも認められないとした原判決の認定判断は、挙示の証拠に
照らして是認できないものではなく、したがつて、所論のように、本件売買予約が
それ自体ただちに公序良俗に反する無効のものであると解することはできない。
 しかし、右確定事実関係によれば、本件売買予約は、ひつきよう、被上告人の訴
外人らに対する貸金債権を担保することを目的とするものにほかならないと解され
るところ、このように、所有権に関する仮登記の原因たる契約が消費貸借上の債権
を担保するために締結された場合においては、その契約は、売買予約の形式をとつ
ていても、本来の売買を成立させるためのものではなく、その実質は、単にその形
式をかりて目的不動産から債権の優先弁済を受けることを目的とするもので、担保
権と同視すべきものであり、債権者が、弁済期に債務の弁済を受けないため、予約
完結権を行使し、目的不動産の所有権を移転せしめる方式によつて債権の満足をは
かる際においては、目的不動産の適正な時価による評価額から、優先弁済を受ける
べき自己の債権額を差し引き、その残額に相当する金銭をいわば清算金として債務
者に支払うことを要する趣旨の債権担保契約と解するのが相当である(昭和四二年
(オ)第五五七号、同四五年三月二六日最高裁判所第一小法廷判決、裁判所時報五
四四号二百参照)。そして、このような契約において、債権額をもつて売買代金額
とする合意が存する場合においても、目的不動産の適正な評価額と債権額とが合理
的均衡を失するようなときは、その差額に相当する価値を債権者に取得せしめるべ
き理由はなく、右差額につき債権者は清算義務を免れるものではないと解すべきで
ある。
 しかるところ、予約完結権を行使した債権者が、右のような担保目的の実現の手
段として、仮登記に基づく本登記を経由するために、登記上利害関係を有する第三
者に対して本登記についての承諾を求める場合において、右利害関係人が抵当権者
その他目的不動産の交換価値からその有する債権について優先弁済を受ける地位を
債務者から取得した者(以下「後順位債権者」という。)であるときは、清算金は、
後順位債権者の債権の額および優先順位に応じて、右後順位債権者にその一部また
は全部が支払われるべきものであり、また、利害関係人が、債務者から目的不動産
を譲り受けた者(以下「第三取得者」という。)であるときも、第三取得者は、ひ
つきよう、目的不動産の価値のうち債権者の債権額を超過する部分すなわち実質上
債務者のもとに留保されていた価値を、債務者から取得するものにほかならないか
ら、右留保価値に相当する清算金は、第三取得者に支払われるべきものであつて、
このような後順位債権者または第三取得者は、債権者からの本登記手続についての
承諾請求に対しては、みずから清算金の支払を受けるべき地位にあり、その支払と
引き換えにのみ承諾義務の履行をなすべき旨を主張しうるものと解するのが相当で
ある(前掲昭和四二年(オ)第五五七号、同四五年三月二六日第一小法廷判決参照)。
そして、この理は、昭和三五年法律第一四号による改正前の不動産登記法の規定に
基づき、債権者がまず仮登記に基づく本登記を経由し、しかる後に仮登記の順位に
おくれる登記上の利害関係人に対しその登記の抹消を求める場合においても、異な
るものではなく、抹消登記手続請求に対し、後順位債権者または第三取得者は、清
算金の支払と引き換えにのみ自己の登記の抹消に応ずべき旨を主張しうるものと解
すべきである。
 これを本件についてみるに、上告人A1は、被上告人の仮登記におくれて、昭和
三三年九月二日、本件不動産につき代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保
全仮登記を経由しているものであり、原判決は、同上告人が実体上いかなる権利を
取得したものであるかを詳らかにしていないけれども、記録に徴すれば、同上告人
が、訴外Eとの間に本件不動産を買い受ける契約を締結し、代金の少なくとも一部
を支払つた事実を窺わせるごとき資料があり、もし、同上告人が、右売買により債
務者から本件不動産を譲り受けたものと認められるにおいては、前示の地位にある
第三取得者にあたるものと解することができ、また、仮りに、同上告人の有する権
利が代物弁済予約上の権利であつても、それが債権担保を目的とするものであるな
らば、債務者に対する関係で優先弁済を受けうる地位にあつて、被上告人に対する
関係では前示のような後順位債権者にあたるものと解する余地がある。他方、本件
不動産の時価に関する上告人らの主張を排斥した原判決の判断は前示のとおり是認
できるとはいえ、なお、その時価が被上告人の債権額を相当程度超過するものであ
ることも、記録に照らして窺われないものではない。してみれば、これらの点につ
いてなお審理を尽くすとき、認められる事実関係いかんによつては、被上告人は確
定的に本件不動産の所有権を取得するためには前示のような清算金を支払うべき義
務を負うものであり、上告人A1は、右清算金の支払を受けるべき地位にあつて、
その支払と引き換えにのみ自己の登記を抹消すべき旨を主張しうるものであると認
められるにいたるかもしれないのである。
 そして、本件不動産の時価が被上告人の債権額を著しくこえることを理由に売買
予約の効力を争う上告人らの主張は、被上告人の有する権利の実体が担保権にすぎ
ないものとして、その請求を争う趣旨に解されないではないから、適切な釈明いか
んによつては上告人A1において前記のような主張、立証をなす余地があるにもか
かわらず、原審は、この点の配慮をなすことなく、無条件に同上告人の登記の抹消
を求める被上告人の請求を認容しているのであつて、すでに説示したところに徴し、
この点の原判決の判断は、法令の解釈を誤り、ひいて審理不尽の違法をおかしたも
のといわなければならない。
 次に、上告人A2は、被上告人の仮登記におくれて、昭和三三年八月二七日、本
件不動産につき賃貸借予約を原因とする賃借権設定請求権保全仮登記を経由し、同
年九月九日、賃借権設定登記をしたというのであるが、同上告人が実際に債務者E
から本件不動産を貸借し占有しているものであるとしても、賃借権の設定およびそ
の対抗要件の具備が被上告人の仮登記後になされたものである以上、担保目的実現
の手段として本件不動産につき所有権取得の本登記を経由した被上告人に、賃借権
をもつて対抗することができないことは明らかであり、同上告人のための右各登記
の抹消を命じた原判決の判断は結論において正当であつて、同上告人の上告は理由
がない。
 よつて、原判決中、上告人A1に対する請求に関する部分を破棄し、右部分につ
き前記の点の審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし、上告人A2の
上告を棄却すべきものとして、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、
八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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