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平成22年3月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第15238号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年12月10日
判決
東京都港区<以下略>
原告株式会社VSN
同訴訟代理人弁護士尾崎純理
同渥美央二郎
同飯島康央
同山田朋美
東京都港区<以下略>
被告MVP総合研究所株式会社
愛知県岩倉市<以下略>
被告A
東京都中央区<以下略>
被告B
千葉県千葉市<以下略>
被告C
上記4名訴訟代理人弁護士金森仁
同中村大輔
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して2954万7720円及びこれに対する平
成20年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告らの
負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して3億5225万7465円及びこれに対する
平成20年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,労働者派遣を業とする会社である原告が,被告MVP総合研究所株式
会社(以下「被告会社」という。)の当時の代表取締役であった被告Aが被告B
及び被告Cらと共謀して,原告の営業秘密である原告所属の派遣労働者に関する
情報及びその派遣先企業に関する情報を使用するなどして原告所属の派遣労働者
を違法に引き抜き,これにより原告に対して8億7946万6607円の損害を
与えたとして,被告会社に対し,会社法350条に基づき,被告A,被告B及び
被告Cに対し,不正競争防止法2条1項7号,4条又は不法行為に基づき,損害
の一部の賠償として,連帯して3億5225万7465円及びこれに対する不法
行為の後の日である平成20年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等
(1)当事者
ア原告
原告は,平成16年2月10日に設立された株式会社であり,主に技術
系分野の派遣労働者(以下「派遣エンジニア」という。)を派遣する労働
者派遣事業を行っている会社である(甲1,2,55)。従業員数は40
00名を超え,東京本社を始め,名古屋,大阪,横浜,徳島,福岡など全
国に営業所及び出張所が合計10か所ある(甲2)。原告の営業部門は,
業種ごとに分類され,ME事業部(機械・電気関連),BC事業部(生物
・化学関連),IT事業部(情報技術関連)がある。
各派遣エンジニアは,派遣元である原告と顧客である派遣先企業との間
の労働者派遣契約に基づいて,各営業部門から派遣先に派遣され,派遣先
の指揮命令下で就業する。原告は,派遣先との間の契約関係の管理と派遣
先において就業する派遣エンジニアを管理するために,派遣先企業ごとに
営業担当の従業員を置いている。
イ被告ら
(ア)被告MVP総合研究所株式会社(被告会社)
被告会社は,昭和62年8月1日に設立された株式会社であり,平成
20年3月10日,本店所在地及び商号を現在のものに変更するととも
に,技術系エンジニアの派遣事業を開始した。
(イ)被告A
被告Aは,原告の元従業員で,事業部統括(部長の上級職)の職にあ
った者であり,平成20年2月8日付けで原告を退職し,同年3月10
日,被告会社の代表取締役に就任し,同年8月18日,同代表取締役を
辞任した。
(ウ)被告B
被告Bは,原告の元従業員で,BC事業部長の職にあった者であり,
平成20年1月31日付けで原告を退職し,同年3月10日,被告会社
の取締役に就任し,同年8月18日,同取締役を辞任した。
(エ)被告C
被告Cは,原告の元従業員で,IT事業部システムコンサルティング
課課長の職にあった者であり,平成20年2月15日付けで原告を退職
し,同年3月10日,被告会社の取締役に就任し,同年8月18日,同
取締役を辞任した。
ウその他の関係者(本件訴訟の被告であったが,和解により訴訟が終了し
た。)
(ア)D
Dは,原告の元従業員で,横浜営業所においてME事業部営業課長の
職にあり,かつ,同営業所所長を兼ねていた者であり,平成20年3月
31日付けで原告を退職し,被告会社に就職し,その採用担当となった。
(イ)E
Eは,原告の元従業員で,ME事業部長の職にあり,平成20年6月
11日付で原告に対し,退職の申出をした。
(ウ)F
Fは,原告の元従業員で,横浜営業所においてME事業部営業職に就
き,別紙移籍エンジニア一覧表の番号1から20に該当する「前派遣
先」欄記載の派遣先の営業担当であった者である。Fは,平成20年5
月7日付けで原告を懲戒解雇となった後,被告会社に就職した。
エ原告は,「人材統合システム」等のデータベース及び「新規取引内容報
告書」に記録された原告従業員(派遣エンジニアを含む。)の氏名,役職,
残有給休暇日数,退職日,携帯電話番号,社員番号,分野,担当営業,就
業先,派遣個別契約の満了日及び給与データの情報(以下「本件情報」と
いう。)を電子データ及び書面の形で保有していた。
オ被告A,同B,同C,D及びEは,いずれも原告を退職するまでの間,
本件情報にアクセスをする権限を付与されていた。
2争点
(1)本件情報が営業秘密に該当するか(争点1)
(2)本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エンジニアの
退職との因果関係(争点2)
(3)本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか(争点3)
(4)被告らの共謀の有無(争点4)
(5)損害の額(争点5)
3争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件情報が営業秘密に該当するか)
〔原告の主張〕
ア秘密管理性
(ア)本件情報の電子データは,原告においてNotesというアプリケーショ
ンソフトをカスタマイズして開発されたデータベースにおいて保存され
ており,同データベースのシステムは,情報戦略推進部で一元的に管理
されている。
データベース内の本件情報にアクセスをするためには,まず前提とし
て,①Windowsアカウント,②メール,③Notesアカウント,④DigiShee
t,⑤使用するPC機器等のアカウント申請が必要である。各アカウント
の使用が承認されるためには,申請者の所属する部門長が申請者の業務
遂行上必要であるかについて確認して承認を行い,その後,情報戦略推
進部において,情報の使用の妥当性を確認の上,承認する。
このアカウントの付与があっても,データベース内の本件情報にアク
セスをするためには,さらにアクセス権限申請書を提出してアクセス権
限の申請をし,承認を得る必要がある。このアクセス権限申請書には,
アクセス権限を申請するデータベースの名称,アクセスの理由(必要
性)等を記載する。この申請について,申請者の所属する部門の個人情
報保護部門管理者が,部門における個人情報保護の観点からの妥当性を
確認し,承認した後,申請者の部門長が申請者の業務遂行上,そのデー
タベースへのアクセスが必要かなどを確認し,承認する。その後,個人
情報保護管理者が,全社的な個人情報保護の観点から妥当性を確認した
上で承認し,その上で,情報戦略推進部において,部長が上記各承認を
経ているかをチェックし,さらに申請内容の妥当性を確認して承認の決
裁をする。すべての手続きの完了後,情報戦略推進部において,アクセ
ス権付与の作業を実施する。
(イ)原告の社内の電子データの持出しは禁止されており,原告において
社員に貸し出しているパソコンは,外部記憶媒体の接続部分を密栓し,
外部記憶媒体の使用が物理的に不可能な状態になっており,密栓を解い
て使用する場合には,利用申請書が必要である。また,ノートパソコン
の社外持出しも原則として禁止されており,業務上やむを得ない場合に
は,「ノートPC社外持ち帰り申請書兼誓約書」の提出が必要である。
(ウ)人材統合システムに記録された情報のうち社員個人に関する情報は,
書類としても存在する。この書類は,東京本社2階の倉庫に社員番号順
に整理されて保管されている。同倉庫は,常に施錠されており,その鍵
は,合計3本存在し,総務部人事給与課責任者により1本,総務課責任
者により1本,総務部備付けのキーボックスに貸出用として1本保管さ
れている。
同倉庫に入室し,資料を閲覧する場合には,まず,総務部に備付けの
「鍵貸出管理表」に,日付,部署,氏名,使用場所,鍵番号,貸出時
刻を記載し,認可印欄に許可者(総務部社員)の氏名を記載する必要が
ある。また,鍵返却の際にも,返却時刻を記載し,認可印欄に許可者の
氏名を記載する。
倉庫からの資料持出しは原則として禁止されている。なお,営業部門
の社員が同倉庫に入室することはできないことになっており,必要資料
(社員の経歴書等の採用関係書類のみ)の貸出しを総務部の社員に依頼
し,貸出しを受けることのみが認められている。
(エ)新規取引内容報告書のデータベースに記録された情報は,派遣先と
の基本契約書及び個別の派遣契約書等の書類にも記載されている。
原告は,IT事業部及びBC事業部に関する上記書類を東京本社5階
のキャビネットに,ME事業部に関する上記書類を各営業所のキャビネ
ットに,いずれも施錠して保管している。
上記キャビネットの鍵は,営業事務担当の社員が保管しており,貸出
しの際は,「鍵(キャビネット)管理台帳」に,日付,部門,氏名,鍵
番号,使用目的,貸出時刻を記載の上,鍵の保管者の許可印を受ける必
要がある。鍵返却の際にも,返却時刻を記載し,確認印を受ける必要が
ある。
(オ)本件情報は,いずれもその内容及び客観的状況から営業秘密である
ことを認識することが可能であることは明らかである。また,労働者派
遣事業においては,本件情報のような内容を有するものが営業秘密であ
ることは自明であるだけでなく,原告においては,営業秘密の取扱いに
注意すべきであることを就業規則において明示し(甲10),秘密保持
に関する誓約書を署名押印の上提出させ(甲11),前記のようにアク
セス権を厳重に制限している。さらに,研修などで個人情報保護テキス
ト等を使用して講義をし,周知徹底していた(甲12,13)。
そのため,本件情報のデータベースはもとより,本件情報が記載され
た書類についても,情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密である
ことを客観的に認識することが可能である。
(カ)以上のとおり,本件情報は,原告において秘密として管理されてお
り,秘密管理性の要件を満たす。
イ有用性
労働者派遣事業は,派遣先との間の労働者派遣契約に基づき,自社の派
遣社員を派遣して対価を得ることを目的としており,特に,顧客である派
遣先のニーズに合った派遣社員を派遣することが重要である。
この点,人材統合システムのような派遣社員名簿は,自己の下にある派
遣社員の氏名,住所のほか,経歴,取得資格,派遣実績等の事項を把握す
るための情報であり,また,派遣先企業のリストである新規取引内容報告
書のような顧客名簿は,一般企業における顧客名簿と同様の性質を有する
に止まらず,派遣先企業の派遣社員に対するニーズや当該会社の業務内容,
執務環境等の事項を把握するための情報であり,両者は,派遣先のニーズ
に合致した人材を派遣するという労働者派遣事業における営業活動にとっ
て必要不可欠なものである。
すなわち,原告は,本件情報を基に,派遣先のニーズに合ったより良い
人材を派遣することが可能となり,その結果,派遣先からの社会的信用を
得て,利益を得ることにつながる。また,本件情報は,労働者派遣事業者
間における競争において有利な地位を占める上でも極めて重要な役割を果
たすものである。
以上のとおり,本件情報は,原告の事業活動において有用な営業上の情
報であり,有用性の要件を満たす。
ウ非公知性
派遣先の情報は,派遣先と取引をすることを前提として派遣元に対して
開示される情報であって,本来的に非開示であり,これらが長年の取引に
よって蓄積されたものである。また,派遣社員の情報は,個人情報を含ん
でおり一般的に非開示である。
しかも,前記のとおり,原告が保有する本件情報は,労働者派遣事業に
おける営業活動にとって必要不可欠なものである上,同業者間での競争に
おいて有利な地位を占めるために極めて重要な役割を果たすという性質上,
他に公開されていない。また,原告は,本件情報を営業活動を通じて独自
に作成し,保有したものであり,公開したことはない。
以上のとおり,本件情報は,公然と知られておらず,非公知性の要件を
満たす。
〔被告らの主張〕
ア秘密として管理されていなかったこと
原告は,本件情報が秘密として管理されており,秘密管理性の要件を満
たすと主張する。しかしながら,以下のとおり,本件情報は秘密として管
理されていたとはいえない。
(ア)本件情報が記載された文書やデータには「マル秘」,「部外秘」等
の表示がされていなかったこと
本件情報が記載された文書としては,待機社員の氏名,経歴,派遣実
績,派遣先等の情報が載った「契約満了表」並びに派遣先との基本契約
書及び個別の派遣契約書等もあった。
これらの文書やデータには「マル秘」,「部外秘」等の表示は一切さ
れておらず,原告は,アクセスした者がその情報が秘密であることを認
識できる表示を行うという最低限の秘密管理さえ怠っていた。
(イ)本件情報にアクセスすることができる者が限定されていたとはいえ
ないこと
a原告は,派遣先との基本契約書及び個別の派遣契約書等を施錠した
キャビネットに保管し,かつ,その鍵を厳重に管理していたと主張す
る。
しかしながら,東京本社の5階や各営業所にあるキャビネットは,
一度解錠されると日中は開けたまま放置されているのが常であった。
現に,必要な文書を取り出すだけであれば鍵の貸出しから返却までに
は長くても数分あれば足りるところ,原告が提出した「鍵(キャビネ
ット)管理台帳」(甲9の資料4)によれば,鍵の貸出しから返却ま
でに1時間以上かかることが頻繁にあり,例えば2月15日,3月6
日,3月11日及び3月14日のように午前中に貸し出されたものが
夕方まで返却されず,長い時には返却までに7時間半もの時間を要す
ることさえあったことが明らかである。
しかも,同台帳は,情報を管理しているという体裁を取り繕うため
だけに記入されることが多く,鍵の貸出し・返却の都度記入されるこ
とは極めてまれで,週末や月末など区切りのいいところで数日分から
数十日分をまとめて適当な数字を記入するというような極めてずさん
な運用がされていた。
原告の東京本社にはタグを用いた入退館管理やセキュリティゲート
などの物理的なセキュリティシステムは一切設置されておらず,間接
社員に加え多数の派遣エンジニアが在籍し,とりわけ数百人単位の新
入社員が配属される春先などは社員同士でも互いを識別することがで
きなかったため,部外者が開いたままのキャビネットから派遣先との
基本契約書及び個別の派遣契約書等を持ち出すことは極めて容易な状
態にあった。
bまた,原告は,毎日1回,待機社員の氏名,経歴,派遣実績,派遣
先等の情報が載った「契約満了表」を作成・更新した上,営業課と人
財課の社員に対してメールに添付して送信し,営業課の社員はこれを
印刷して営業に使用しており,この印刷された「契約満了表」の保管
は社員各人に委ねられていて,回収に関するルールなども定められて
いなかった。
c確かに,原告主張のように本件情報の電子データへのアクセスにア
クセス権限申請書の提出・承認手続が必要であったことは認める。
しかしながら,本件情報のうち顧客情報に関するデータとしては,
新規取引内容報告書だけでなく,同報告書の主要な情報である派遣先
の会社名,勤務条件等の情報が書き込まれた「契約状況表」が作成さ
れており,拠点で管理されている契約状況表については営業部サーバ
にアクセスすることができた者であれば,役職の限定なくアクセスす
ることが可能であり,パスワードによる保護もされていなかった。
dまた,本件情報のうち社員情報については,上記のとおり「契約満
了表」が営業課と人財課の全社員に対してメールに添付して送信され
ており,役職の限定などの人的制限はされていなかった。
e以上のとおり,本件情報が記載された文書には誰でも容易にアクセ
スすることができたこと,本件情報を構成しあるいは加工したデータ
の中には役職による人的制限もパスワードによる保護もされていなか
ったものがあったことからすれば,本件情報にアクセスできる者が限
定されていたなどとはいえない。
(ウ)本件情報の秘密性についての指導が不十分であったこと
原告における情報管理に関する指導の機会は,間接社員に対して年2
回,派遣エンジニアに対して年1回実施される研修しかなく,研修その
ものの頻度も決して高くはなかった。
それに加え,原告が提出した「2007年度実施個人情報研修一覧」
(甲12)によれば,全役員,全従業員を対象とした社員総会研修(派
遣エンジニアに対する唯一の研修)の出席者は1,288名にすぎず,
それを上回る1,434名もの社員が欠席していたこと,欠席者に対し
ては,講義を実施せず,通信教育で代替させていたことが明らかである。
また,その講義内容についても,「個人情報保護研修テキスト」
(甲13)によれば,個人情報や営業秘密についての一般的・抽象的な
指導にとどまり,原告が保有している情報のうちどの情報が営業秘密に
該当するかなどの個別的・具体的な指導はされていない。
したがって,本件情報の秘密性についての原告の指導は極めて不十分
なものであった。
(エ)以上のとおり,本件情報が記載された文書やデータには「マル秘」,
「部外秘」等の表示がされておらず,本件情報にアクセスすることがで
きる者が限定されていたともいえず,本件情報の秘密性についても極め
て不十分な指導しかされていなかった以上,本件情報が秘密として管理
されていたとはいえない。
イ有用性について
派遣業界は,平成11年の労働者派遣法改正以後急成長を遂げ,労働者
派遣事業所数は平成19年4月1日時点で1万4331に達し(乙A3),
上場会社に限っても15社を超え,今なお旺盛な新規参入が続く業界であ
る。このような状況下で,派遣事業に関わる人材は激しく流動しているの
が実情であり,人材の移動に伴いどの企業が派遣社員を採用しているのか
やどのような人材を欲しているのかといった営業情報は当然のごとく業界
内を駆けめぐっている。しかも,どの派遣会社がどのような企業と取引が
あるかは求人ページや求人媒体を見れば,職種,就業場所や就業条件から
かなりの確度をもって特定することができ(原告の公開内容として乙A
4),ハローワークの求人票では派遣先企業名まで明示されている(乙A
5の1ないし5)。
したがって,顧客情報の有用性を判断するにあたっては,上記のような
派遣業界の特殊性を考慮する必要があり,派遣事業者の顧客名簿を一般企
業におけるそれと同列に論じ,有用と評価することはできない。
ウ非公知性について
原告が営業秘密と主張する顧客情報は,被告A,被告B及び被告Cが原
告入社前に独力で入手したものであり,被告らが独力で知り得る情報でも
ある。
また,原告は,新卒採用者のオリエンテーション時に派遣先企業リスト
を配付していたのであり,公開したことがないというのは虚偽である。
さらに,原告では,被告らが本件情報を使用したとされるわずか1年前
に332社の顧客情報(「お客様情報」)と1433名分以上の社員情報
(「派遣エンジニアに関する個人情報」)が「Winny」により流出す
るという重大な事故が起きていた(乙A6)。
この流出事故により,原告の有していたほぼすべての顧客情報と社員情
報は,通常一般人が誰でも容易にアクセスすることが可能なウェブ上に相
当期間さらされていたのであり,原告が意図したものではないとしても,
客観的に公開されていた状態に変わりはない。
(2)争点2(本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エン
ジニアの退職との因果関係)
〔原告の主張〕
ア被告らは,遅くとも平成19年12月ころから,被告会社において原告
と競合する労働者派遣事業を行うことを計画し,事業開始の準備を進めて
いた。
派遣先から支払われる派遣料は,派遣社員の経歴,取得資格,派遣実績
等によって異なり,しかも,技術系の労働者派遣事業においては,技術ス
キルを向上させることが派遣料に反映される。そのため,労働者派遣事業
においては,派遣社員に対する育成コストが必要である。
被告らは,派遣社員に対する育成コスト等の費用をかけずに簡便かつ大
量に集めるための手段として,原告所属の派遣エンジニアを引き抜くこと
を企図し,その方策を講じた。
イその方策の一つは,①原告の派遣先のうち,労働者派遣契約の契約満了
日が近付いており,契約更新のための交渉が行われている派遣先を標的と
する,②原告の営業担当に,その派遣先に対して高率のレートアップ(派
遣料増額)を契約更新の絶対条件として交渉を行わせる,③当該派遣先に
派遣されている派遣エンジニアに対し,原告と派遣先との契約更新は困難
であると持ちかける,④当該派遣先において継続して就業を希望している
者に対し,被告会社が派遣先と労働者派遣契約を締結するので,現在の派
遣先で就業したいならば原告を退職して被告会社に入社すれば可能である
旨勧誘する,というものである。
ウ被告ら及びその他の関係者らは,この方策を実行するため,以下のとお
り,原告の営業秘密である本件情報のうち,原告従業員の残有給休暇日数,
退職日,個人の携帯電話番号,給与データ,社員番号,氏名,役職,分野,
担当営業,就業先及び派遣先企業との間の派遣契約の満了日の情報を不正
に開示し,又は使用した。
(ア)Eが本件情報を開示したこと
Eは,平成20年2月18日,被告A,被告B及び被告Cら(以下,
この3名を合わせて「被告ら」ということがある。)が被告会社の営業
開始準備を行っていた東京都千代田区永田町にあるTBRビルの一室を
訪れ,被告らに対して,Eが持参したパソコンに保存されていた原告の
営業秘密に属する本件情報のうち原告従業員の残有給休暇日数及び退職
日に関する情報を開示した。
(イ)Fが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたこと
a契約満了日の迫った会社の派遣エンジニアを標的にしたこと
Fは,原告の横浜営業所において,アマノ株式会社(以下「アマ
ノ」という。)を担当しており,平成20年3月下旬ころには同社と
原告との間の派遣契約の契約満了日が迫っていたため,契約更新に伴
う派遣料増額交渉業務を担当していた。この派遣契約の契約満了日は,
原告の営業秘密であるところ,Fは,契約満了日の迫ったアマノに派
遣されている原告所属の派遣エンジニアを標的として引き抜き行為を
行った。
bGに対する勧誘行為
Fは,平成20年3月下旬ころ,アマノに派遣されていた原告所属
の派遣エンジニアであるGに対し,その個人で保有する携帯電話に電
話をかけ,同人と面接の約束を取り付け,同月末,同人に会うために
アマノを訪れ,被告会社への入社を勧誘した。
また,Fは,同年5月2日,Gの携帯電話に電話をかけ,被告会社
社長の被告AがどうしてもGに会って話をしたいと言っているから会
ってほしいなどと言って勧誘行為を行った。
上記のG個人の携帯電話の番号は,従業員に関するデータとして原
告が管理している営業秘密であり,Gは,Fにプライベートで携帯電
話の番号を教えたことはない。
cHに対する勧誘行為
Fは,アマノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアであるH
及びその他2名と被告Cとを引き合わせて,被告Cとともに,被告会
社へ入社するように勧誘した。その際,Fは,Hに対し,原告の営業
秘密である同人の原告における給与と被告会社に移った場合の給与を
まとめた一覧表を取り出して,被告会社に移った場合の給与のシミュ
レーションを説明し,被告会社へ入社するよう勧誘した。
(ウ)Iが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたこと
aIは,原告に在籍中,大阪営業所所長として,船井電機株式会社
(以下「船井電機」という。)を担当していた。
Iは,平成20年3月31日付けで原告を退職した後,同年4月末
ころ,船井電機に派遣されていた原告所属の派遣エンジニア2名の個
人の携帯電話に電話をかけ,面会の約束を取り付けた。上記2名の個
人の携帯電話番号は,従業員に関するデータとして原告が管理してい
る営業秘密であり,同人らも,Iとプライベートの付き合いはなく,
Iに携帯電話番号を教えたこともない。
bIは,同年5月初旬ころ,上記派遣エンジニア2名に対し,原告の
営業秘密である同人らの原告における給与データと被告会社に入社し
た場合の給与シミュレーションをまとめたデータを示しながら,被告
会社に入社すれば,給与が増額されることを説明して,被告会社へ入
社するように勧誘した。
(エ)Jが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたこと
Jは,原告に在籍中,徳島営業所所長として,三洋電機株式会社洲本
工場(以下「三洋電機」という。)を担当しており,平成20年5月下
旬ころには,同社と原告との間の派遣契約の契約満了日が迫っていた。
Jは,三洋電機に派遣されていた原告所属の派遣エンジニアに対して,
被告会社の方が原告よりも待遇が良いこと,原告を退職しても三洋電機
の同じ部署で,退職日の翌日から同じように仕事をすることができる旨
述べて,三洋電機との契約期間の満了を機に被告会社へ入社するよう勧
誘した。このような契約期間がいつ満了するかは,原告の営業秘密であ
る。
(オ)Eが本件情報が記載されたエンジニアリストを開示したこと
甲第22号証のエンジニアリスト(以下「本件エンジニアリスト」と
いう。)は,平成20年4月25日午後8時46分に,当時原告のME
事業部の事業部長職にあったEらに送信されたものである(甲22)。
本件エンジニアリストには,原告の営業秘密である「社員番号」「名
前」「役職」「分野」「担当営業」「就業先」が記載されていた。
Eは,原告から貸与されていたパソコン上で,同日午後9時52分か
ら同日午後10時にかけて,本件エンジニアリストのタイトルを本件エ
ンジニアリストの内容とは無関係の「Q様試算表」と変更した上で2部
印刷し,その後,タイトルが変更された本件エンジニアリストをごみ箱
へ移動し,最終的には完全に削除するという通常業務では考えられない
不自然な行動をとっている(甲21)。
そして,被告会社は,本件エンジニアリストと比較して「F」「D」
という書き込みが加えられたことを除いて全く同一の文書を保有してい
た(甲22,甲23の1及び2)。
以上の各事実からすると,Eが原告の営業秘密が含まれる本件エンジ
ニアリストにアクセスをし,これを印刷した上で,被告らに交付し,開
示したことは明らかである。
エ上記の被告らによる本件情報の開示又は使用行為と,派遣エンジニアの
退職との因果関係について
Fが担当していた派遣エンジニアで原告を退職したのは20名であった。
株式会社東京精密(以下「東京精密」という。)に派遣されていた派遣エ
ンジニアの7名の退職者のうち5名が平成20年5月15日付けで一斉退
職し,アマノに派遣されていた派遣エンジニアの5名の退職者の全員が同
月20日付けで一斉退職し,ユーディナデバイス株式会社(以下「ユーデ
ィナデバイス」という。)に派遣されていた派遣エンジニアの6名の退職
者の全員が同日付けで一斉退職した。Iが担当していた派遣エンジニアで
原告を退職したのは船井電機に派遣されていた4名であり,その全員が同
年7月31日付けで原告を一斉退職した。Jが担当していた派遣エンジニ
アで原告を退職したのは三洋電機に派遣されていた18名であり,その全
員が同年6月20日付けで原告を一斉退職した。
また,原告を退職したこれら合計42名は,いずれも被告会社に移籍し,
従前の派遣先でそのまま就業していた。
上記のとおり,退職が一斉に行われたこと及び原告を退職した派遣エン
ジニアがそのまま従前の派遣先で就業していたことに加え,本件で使用又
は開示がされた営業秘密は,被告らが勧誘対象者を絞り込むための情報と
して有効であったことは明らかであるから,被告らによる営業秘密を不正
利用して行った勧誘行為によって,上記派遣エンジニア42名が原告を退
職し被告会社へ移籍したことは明らかである。
〔被告らの主張〕
ア原告に所属していた派遣エンジニアで被告会社に移籍した者は,原告へ
の不満等からその自由意思に基づき転職を決意し,被告会社の求人に応募
していたのであるから,被告らがあえて本件情報を使用しなければならな
い必要性はなく,使用した事実はない。
イEが平成20年2月18日に原告従業員の残有給休暇日数や退職日など
の情報を開示したとの原告の主張は,否認する。
被告らは,平成20年2月18日,TBRビルにおいてEと面談したが,
Eから聴き取った内容は原告の就業規則上の有給休暇日数であり,個別の
社員の残有給休暇日数ではない。
ウFが原告の営業秘密を利用してGに対し勧誘行為をしたとの原告の主張
は否認する。
Fは,Gとプライベートでも親交があり,携帯電話番号を教えあって連
絡を取っており,同人の結婚披露宴にも出席しているのであり,GがFに
携帯電話番号を教えたことがないというのは完全な虚偽である。
Fは,Gを被告Cに引き合わせたこと,被告CとともにGに対し被告会
社への入社も今後の選択肢の一つであると話したことはあるものの,Fは,
Gと親しい仲であり,Gから個人的な相談を受けたり,Gから原告の組織
や派遣先業務に対しての愚痴を聞いたりしていたため,被告会社への入社
も選択肢の一つではないかと話したにすぎず,積極的な勧誘を行った事実
はない。
また,被告Aに会って話をしたいと言い出したのはGであり,Fは被告
Aにその旨を伝え,了解を取っただけである。
(3)争点3(本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか)
〔原告の主張〕
被告らは,原告所属の派遣エンジニアを大量かつ組織的に被告会社に引き
抜いて事業を行うことを共謀し,引き抜き行為を実行したものであり,以下
の事情からすれば,不法行為が成立する。
ア引き抜き行為の態様が悪質であること
(ア)Fの行為
Fは,同人が営業担当であったアマノにおいて契約更新の交渉を行う
に際し,15パーセントという高率の派遣料増額を契約更新の絶対条件
として提示してアマノと原告との契約更新を意図的に困難に陥れた上で,
アマノで就業していた原告所属の派遣エンジニアに対し,「アマノは原
告のレートアップ要求を受け入れないだろうから,原告とアマノの契約
は更新されずに打ち切られるので,アマノでは働けなくなる。」旨述べ
て動揺を誘い,その動揺に乗じて被告会社に勧誘した。これにより,ア
マノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアのうち,Fの話を誤信
した者が多数一斉に退職することとなった。
(イ)Iの行為
Iは,船井電機に派遣されている原告所属の派遣エンジニアに対し,
「原告は,現在,船井電機に対して強硬なレートアップ交渉を行ってい
るが,船井電機は応じない可能性が高いので,船井電機と契約を更新す
ることは難しい。原告にいたままでは船井電機で継続して働くのは難し
いから,このまま船井電機で働きたければ,被告会社に移った方がい
い。」旨述べて,被告会社への入社を勧誘した。
(ウ)被告Cの行為
被告Cは,G,H,Kらに対して,「今の原告の経営陣の考えにはつ
いて行けない。Tさんは今の経営陣に原告から追い出された。Tさんは,
原告で成し遂げられなかったことを成し遂げたいと考えており,そのた
めにTさんに金を出してもらった。」などと原告経営陣が経営者として
不適格であること,「15パーセントレートアップみたいなことをして
いれば,VSNの将来も危ないな」などと原告の会社としての将来が明
るくないこと,「君たちエンジニアも原告で良い思いはしていないだろ
う。被告会社は派遣会社のステータスを上げるような会社を目指してい
く。」などと原告が派遣エンジニアの利益を無視したような処遇を行っ
ていることなど,事実を誤認させることを述べて勧誘した。
(エ)上記各行為は,原告と派遣先の契約更新は困難であり,現在の派遣
先で就業したいならば原告を退職して被告会社に入社しなければならな
い,という詐言を弄して,派遣エンジニアを不安に陥れて動揺させるこ
とによって,転職の意思決定をさせるというものであり,かかる行為は,
もはや自由競争の範囲内を逸脱する行為である。
イ引き抜き対象者が大量であること
Fは,アマノ等において,G,Hを始めとして原告所属の派遣エンジニ
ア複数に対して勧誘行為を行い,Iは,船井電機に派遣されている原告所
属の派遣エンジニア全員に対して勧誘行為を行い,Jは,三洋電機に派遣
されている原告所属の派遣エンジニア全員に対して勧誘行為を行っている。
かかる行為に鑑みれば,被告らがある派遣先企業を標的にして,その派遣
先で就業している派遣エンジニアの大多数を対象者とし,実際に勧誘行為
を行っていたことが認められる。
また,Lの陳述書(甲15)によれば,Dは「150名から160名が
(引き抜きの)ターゲット」と発言し,被告Cは「Fが解雇された以上は
引き抜く人数を1500名まで引き上げる」と発言しており,これらの発
言からすれば,被告らは,原告所属の派遣エンジニア150名,あるいは
1500名を引き抜くことを想定していたことが明らかとなっている。
以上に鑑みれば,被告らの引き抜きの規模が大量であることが認められ
る。
ウ在職中の情報収集,勧誘行為であること
Eは,当時,原告のME事業部長という幹部社員であったにもかかわら
ず,被告らに対し,原告の営業秘密を開示して,被告らの引き抜き工作の
ための情報収集を行っていた。また,Fは,当時,原告の横浜営業所にお
いてME事業部営業職に就いていた原告社員であったにもかかわらず,原
告所属の派遣エンジニアに対し,原告の営業秘密を用いた勧誘行為を行っ
た。
このように,E及びFは,いずれも原告に社員として在籍中に,その地
位と原告の営業秘密を使用して,組織的,計画的に原告所属の派遣エンジ
ニアに対して,競業他社である被告会社への入社を勧誘した。E及びFが
原告の営業秘密の保持義務,労働契約上の職務専念義務及び誠実義務を負
っていたことからすれば,これらの行為の違法性が大きいことはもちろん,
現職社員の地位を利用した引き抜き活動を計画し,実行していた被告らの
共謀の内容の違法性が大きいことは明らかである。
〔被告らの主張〕
ア引き抜き行為の態様が悪質であるとの原告の主張に対する反論
FがGに対して原告とアマノとの契約が更新されず打ち切られる可能性
があることを告げたのは,原告から15パーセントもの派遣料増額交渉の
断行を指示されたからである(乙A2)。原告では,派遣時と待機時とで
派遣エンジニアに対する待遇が大きく異なり,契約の打切りにより待機と
なった場合にはGの生活が脅かされる事態になることから,Fは,派遣料
増額交渉に先立ちGにその可能性を告げたものである。
また,Fは,Gとの間で親交があったことから,Gからの質問に対し,
友人として自らが被告会社に転職する予定であることやGに対しても被告
会社への転職が選択肢の一つとなることを告げたにすぎない。
なお,Fは,原告の指示に忠実に従い,担当企業との間で派遣料増額交
渉をし,約半数の企業に8パーセントから12パーセントの派遣料増額を
承諾させた上で契約を更新させて原告の利益に貢献していたのであり,F
が詐言を弄し派遣エンジニアを不安に陥れて動揺させることによって転職
の意思決定をさせていたなどという事実はない。
イ引き抜き対象者が大量であるとの原告の主張に対する反論
被告会社は原告退職者が中心となって設立されたため,社内において立
ち話などの際に引き抜けたら楽だよなという程度の冗談話がされることは
あったものの,会社として,あるいは,役員が原告所属の派遣エンジニア
を引き抜くとの意思決定をしていた事実はない。
Dが口にしていたとされる「150名から160名程度」という数字は
被告会社の中途採用エンジニアの予定人数であり,被告Cが口にしていた
とされる「1500名」という数字は,被告会社が5か年計画で新卒や中
途で一般採用するエンジニアの予定人数である。
そもそも,原告が抱える2000人強の派遣エンジニアのうち1500
人を引き抜くなどというのはあまりにも荒唐無稽な話であり,派遣業に従
事した経験がなく原告代表者の知人の弟であるLが,社内で耳にした会話
を曲解し,あるいは悪意をもって歪曲・ねつ造したものである。
(4)争点4(被告らの共謀の有無)
〔原告の主張〕
ア以下に述べる事実からすれば,被告らの間で原告から大量の社員を組織
的に引き抜く旨の共謀があったことは明らかである。
(ア)平成19年12月20日,被告会社の代表取締役であったTは,自
宅で自身の誕生日パーティーを開催した。同人は,原告の元代表取締役
会長であり,同年5月に退任して原告の経営陣から外れていた。Tの誕
生日パーティーには,被告Aのほか,被告B,被告C及びEらも出席し
ていた。
そのパーティーの席上,被告Aは,Tに対し,「会長,会社をやりま
しょう。」,「VSNからエンジニアを引き抜けます。」などと声をか
け,Tもこれに同調し,握手するなどしていた。その場にいた他の出席
者たちも,被告AとTの上記のやりとりを聞き,拍手するなどしていた。
被告Aらは,この場において,「MVP」という社名を出して話をして
いた。Tの誕生日パーティーは,被告会社で労働者派遣事業を行い,原
告から社員を引き抜くためのさながら決起集会の様相を呈していた(甲
28)。
このように,少なくとも,被告A,被告B,被告C,E及びTの間で
は,平成19年12月20日の時点において,被告会社でエンジニア派
遣事業を行い,エンジニアについては原告から社員を引き抜くことによ
って確保するという内容の共謀が成立していたことは明らかである。
(イ)また,被告A,被告B及びTは,平成20年2月ころ,Tの自宅に
おいて,原告の派遣先企業を奪取することを内容とする打合せをしてい
た。その内容は,当時,原告のME事業部長であったEを中心として,
一方では原告の各派遣先企業に対して強引な派遣料増額交渉を行うこと
により原告との契約の更新を困難とさせ,他方で,被告会社が同じ企業
に対して派遣料を含む契約条件は従前の原告との契約内容と同様のまま
にするとの条件で被告会社が契約を引き継ぐことを提案し,被告会社が
原告の派遣先企業と新たに派遣契約を締結するというものであった(甲
28)。
すなわち,遅くとも平成20年2月ころには,少なくとも被告A,被
告B及びTの間では,原告所属の派遣エンジニアの引き抜きのみならず,
原告の派遣先企業を奪取するという内容の共謀が成立していたことは明
らかである。
また,上記の打合せは,被告らがこの時点で,原告に幹部として在籍
していたEに,原告内部の情報収集のみならず,原告の契約更新を困難
ならしめて派遣先を奪取するとともに派遣エンジニアの引き抜きを容易
にするための情報操作を行う重要な役割を担わせようとしたことを示す
ものである。
(ウ)さらに,Eが所持していた平成19年度の手帳(甲16)の11月
12日からの週のページには「MVP総研株式会社」との記載があり,
12月24日からの週のページには,原告所属の派遣エンジニアに対す
る勧誘方法,勧誘を行う体制,被告A,F及びDなどの退職予定時期に
関する記載や,原告を退職して被告会社に就職した派遣エンジニアが就
業する派遣先企業名が記載されている。
そして,退職予定時期については,少なくとも対象者らに対して,被
告らの計画を開示した上で話合いをした上でなければ決められないから,
D及びFらについても,平成19年12月末ころに,被告らにおいて上
記内容の共謀がされていることを知り,同人らと意思を通じていたこと
は明らかである。
また,少なくともDについては,平成20年3月31日付けで原告を
退職して被告会社に移籍し,採用担当となっていることから,遅くとも
そのころまでには,被告らとの間に共謀が成立していたことは明白であ
る。
また,Fについても,原告に在職中の同年3月下旬ころ,GやHらに
対して,被告会社の取締役であった被告Cの同席の下で,原告の営業秘
密を利用した勧誘行為を行っていることからすれば,遅くともそのころ
までには,被告らとの間に共謀が成立していたことは明白である。
Iについても,平成19年12月ころから平成20年4月ころにかけ
て,被告会社の役員であった被告Cが同席した上で,原告の営業秘密を
使用した勧誘行為を行っていることからすれば,遅くともそのころまで
には,被告らとの間で共謀が成立していたことは明らかである。
イTからの資金提供
(ア)Tは,平成20年3月,SBIValueUpFund1号
投資事業有限責任組合(以下「SBI」という。)に自己が保有する原
告の発行済株式をすべて譲渡し,その際,原告との競業禁止義務を課せ
られたため,同月10日付けで被告会社の代表取締役を辞任したことに
なっているものの,その後も被告会社にはTから多額の資金提供が行わ
れている。
これは,Tを被告,SBIを原告とする違約金等請求事件(東京地方
裁判所平成20年(ワ)第21472号)においてSBIから提出された
書証,Tから提出された書証及びTの準備書面3末尾添付の「資金移動
一覧表」からも明らかである(甲29ないし39)。
上記各証拠等を基に作成された上記事件における甲第63号証(甲3
4)によれば,Tは,平成20年3月28日及び同年4月21日,被告
会社に対して,直接に合計約2.4億円を送金し,平成20年5月12
日には,Tが代表取締役を務め,T所有の競走馬の管理事業を目的とす
る株式会社FDOを経由して,被告会社に対して,合計1.6億円を送
金している。また,平成20年4月9日から同年7月30日までの間に,
FDOを経由して,被告会社に対して少なくとも合計約1.2億円を送
金している。
上記を合計すると,Tから被告会社への資金移動は,5.2億円にも
上る。
(イ)また,被告A及び被告Bは,平成20年5月13日又は14日ころ,
Tの自宅において,同人に対し,「VSNから幹部クラスの社員を引き
抜くのに実弾が必要なので,500万円貸していただけませんか。」と
依頼し,Tから,現金500万円を受け取っている(甲28)。
なお,この資金提供に先立つ約700万円の出金については,甲第3
1号証の三菱東京UFJ銀行の回答により裏付けられている。
このように,被告らは,原告から大量の社員を引き抜くことを共謀し,
Tから資金の提供を受け,原告の派遣先の奪取と原告所属の派遣エンジ
ニアの引き抜き行為を行っていたものである。
(ウ)以上のことからすれば,被告らによる引き抜き行為は,Tとの共謀
に基づいて組織的かつ大量に行われていたことが明らかである。
〔被告らの主張〕
共謀の事実は否認する。
(5)争点5(損害の額)
〔原告の主張〕
ア平成20年4月から5月にかけて,原告を退職する派遣エンジニアが例
年になく増加した。この時期は,被告会社が派遣事業開始後本格的に事業
活動に着手した時期であり,その本格化と並行して大量退職が発生してい
る。したがって,少なくとも別紙移籍エンジニア一覧表記載の42名の派
遣エンジニアの退職の原因は,被告らによる引き抜き行為にあることは明
らかである。
イ平均在籍期間による損害算定
別紙移籍エンジニア一覧表記載の派遣エンジニアの原告退職前3か月間
における平均売上額は月額68万5781円,平均給与額は月額31万3
841円であるので,平均売上総利益は月額37万1940円となる。ま
た,原告における派遣エンジニアの平均在籍期間は,約2.4年である。
したがって,当該42人の派遣エンジニアを対象とした1人当たりの平
均利益額から原告の損害を算出すると,下記計算式のとおり,4億498
9万8624円となる。
(計算式)
371,940×12×2.4×42=449,898,624
(1か月の利益)(1年分)(平均在籍期間)(退職人数)
ウ退職率による損害算定
本件の引き抜きの対象となった42人の派遣エンジニアは,被告らによ
る引き抜き行為がなければ同人らが自然に退職するまで原告において稼働
し,原告はこれによって売上げを得ることができたのであるから,引き抜
かれた派遣エンジニアの数と同数の42人の派遣エンジニアが0人になる
までの間に得られる売上の合計を推計し,これに基づいて算出された利益
の総額が原告が喪失した得べかりし利益ということになる。
そして,原告所属の派遣エンジニアの退職率(毎年どれくらいの割合で
退職するのかの率)は,期中エンジニア退職人数÷(期中エンジニア退職
人数+期末エンジニア人数)×100という計算式によって算出すること
ができる。原告の平成20年3月末日における在籍エンジニア数は224
6人であり,原告の平成19年4月から平成20年3月までの退職者数は
432人であるから,下記計算式のとおり,退職率は16.1パーセント
となる。
(計算式)
432人÷(432人+2246人)×100
この退職率によれば,42人の派遣エンジニアは,1年目は42人,2
年目には35.2人,3年目には29.5人などとなり,23年目で全員
が退職する計算となる。そして,22年間ののべ在籍人数は累計で1月当
たり3050.4人となる。
これに別紙移籍エンジニア一覧表記載の派遣エンジニアの1人当たりの
平均利益額37万1940円を乗じると,11億3456万5776円と
なるところ,その中間利息を控除した8億7946万6607円が原告の
被った損害の額というべきである。
エ以上のとおり,算定方法により異なるものの退職率により算定すると原
告の損害は8億7946万6607円となり,請求の趣旨の範囲で損害の
一部の賠償を求めるものである。
〔被告らの主張〕
原告は,平均利益額に平均在籍期間を乗じ,又は,退職率を基に逸失利益
を算出している。
しかしながら,原告の算出方法は,派遣業者が新たな派遣先企業を獲得し
てエンジニアを派遣するまでには長くても2,3か月あれば足りること,原
告の主張に従ったとしても平均在籍期間はわずか2.4年で数か月もたたな
いうちに退職する者も多数存在すること,原告の提出した「2007年12
月以降退職者リスト」(甲5)によれば原告を退職する社員の数は月平均で
44.2名(原告が被告らによる引き抜き行為があったと主張する平成20
年5月を除いた平成19年12月から平成20年4月までの平均)にも上っ
ていたことなどを全く考慮しておらず,極めて不当である。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件情報が営業秘密に該当するか)について
(1)原告は,原告が有する本件情報(原告所属の派遣エンジニアの氏名,役職,
残有給休暇日数,退職日,携帯電話番号,社員番号,分野,担当営業,就業
先,派遣個別契約の満了日,給与データ)が不正競争防止法2条1項7号の
「営業秘密」に該当すると主張するので,この点について判断する。
(2)前記争いのない事実等に証拠(甲8ないし13,19,20)及び弁論の
全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア原告は,本件情報を,電子データとしてデータベース内に保有するほか
に,それが記載された書類の形式で保有していた。
イデータベース内の本件情報の管理(甲8)
(ア)アクセス制限
上記データベースのシステムは,原告の情報戦略推進部で一元的に管
理されていた。データベース内の本件情報にアクセスするためには,ア
カウントの付与を前提としたアクセス権限の付与を受けている必要があ
った。
申請が必要となるアカウントは,Windowsアカウント,メール,Notes
アカウント,DigiSheet,使用するPC機器等であった。アカウント申請
書(甲8添付資料1)による申請があると,その申請者の所属する部門
の部門長及び情報戦略推進部が妥当性を判断して当該アカウント申請を
承認するかどうかを判断し,承認されると申請者に上記アカウントが付
与される。なお,原告の従業員が社外に送信するメールは,必ず上司に
対してもbccとして送信されることとなっていた。
アクセス権限も申請により付与されるものであり,申請書(甲8添付
資料2及び3)には,アクセス権限を申請する対象のデータベースの名
称,アクセスの理由等を記載するものとされていた。その申請について,
申請者の所属する部門の個人情報保護部門管理者がその部門における個
人情報保護の観点から,同部門の部門長が申請者の業務遂行においてそ
のデータベースへのアクセスが必要かどうかという観点から,個人情報
保護管理者が全社的な個人情報保護の観点から,順次,それぞれ妥当性
を判断して承認を行うこととされていた。その上で,情報戦略推進部に
おいて,上記各承認を経ているかを確認し,更に申請内容の妥当性を確
認して承認の決裁をする。すべての手続完了後,情報戦略推進部におい
てアクセス権限の付与がされるものとされていた。
(イ)データ持ち出し防止措置
原告社内の電子データの社外持ち出しは禁止されており,原告が従業
員に貸し出しているパソコンについては,外部記憶媒体の接続部分を密
栓し,外部記憶媒体の使用が物理的に不可能な状態とされており,密栓
を解いて使用する場合には,利用申請書(甲8添付資料4)の提出が必
要であった。
また,ノートパソコンの社外持ち出しも原則禁止されており,業務上
やむを得ない場合には,ノートPC社外持ち帰り申請書兼誓約書(甲8
添付資料5)の提出が必要であった。
ウ書類の保管(甲9)
(ア)人事関係書類
本件情報のうち従業員個人に関する情報が記載された書類は,原告の
東京本社2階の施錠された倉庫に保管されていた。その鍵は3本あり,
2本は責任者が保管し,残る1本が総務部に備付けのキーボックスに貸
出用として保管されていた。
上記倉庫の鍵の貸出しを受けるには,総務部に備付けの鍵貸出管理表
(甲9資料1及び2)に必要事項を記載し,総務部社員が認可し署名す
ることが必要とされていた。鍵返却の際にも,上記管理表に返却時間を
記載し,総務部社員の署名が必要とされていた。
上記倉庫からの資料の持ち出しは原則として禁止されていた。また,
営業部門の従業員は,同倉庫に入室することは許されず,総務部の社員
に依頼することで従業員の履歴書等の採用関係書類のみの貸出しを受け
ることができるとされていた。
(イ)派遣先情報書類
本件情報のうち原告の派遣先企業に関する情報が記載された書類とし
て,派遣先企業との基本契約書及び個別の派遣契約書等があった。
これらの書類は,IT事業部及びBC事業部に関するものについては
原告の東京本社5階のキャビネットに保管され,ME事業部に関するも
のについては各営業所の施錠されたキャビネットに保管されていた。
上記キャビネットの鍵は,営業事務担当の従業員が保管しており,鍵
(キャビネット)管理台帳(甲9資料4)が作成され,日付,部門,氏
名,鍵番号,使用目的,貸出時刻,返却時刻等を記載することとされて
いた。
エ原告は,その就業規則の第45条1項14号及び15号において,業務
上知り得た個人情報や原告及び関係取引先の重大な秘密及びその他の情報
の漏洩等をしたときは懲戒解雇とすると定めていた(甲10)。また,秘
密情報の保持に関する誓約書を従業員に提出させ(甲11),研修などで
個人情報保護テキスト等(個人情報,営業秘密の保護の重要性,どのよう
な情報が秘密情報に当たるのか,秘密管理のルール等について具体的な記
載がされていた。)を使用して講義を行っていた(甲12,13)。
(3)以上の認定事実によれば,原告は,本件情報を電子データとしてデータベ
ース内に保有するとともに,書類として保有していたものであり,データベ
ースについてはアクセス権限を制限し,権限を与える際には多くの決裁者に
よる慎重な決裁を必要としていたこと,書類については施錠することができ
る倉庫又はキャビネットに保管し,その鍵を責任者により管理台帳を用いる
などして管理していたことが認められ,これらのことからすれば,本件情報
は,原告により秘密として管理されていたと認めることができる。
そして,本件情報は,派遣エンジニアの氏名や連絡先,分野,派遣先,給
与データ等の情報や,派遣先企業の名称,派遣個別契約の満了日等の情報を
含んでいるところ,これらの情報は,原告にどのような派遣エンジニアが所
属し,どのような条件で企業に派遣されているのかを知ることができるもの
であるから,労働者派遣事業において有益な営業上の情報であるということ
ができる。
さらに,本件情報は,原告が事業を継続する中で集積した原告の従業員の
個人情報及び派遣先企業の情報であると認められるから,公然と知られてい
ないものであるといえる。
以上から,本件情報は,原告の営業秘密(不正競争防止法2条1項7号,
6項)に該当するものと認められる。
(4)被告らは,原告が派遣先企業リストを新卒採用者のオリエンテーションで
配布していたこと,情報流出事故(乙A6)があったことから,本件情報に
非公知性はないと主張する。しかしながら,本件情報は派遣先企業の名称の
みならず,その他の契約内容にわたるものであるから,仮に原告が派遣先企
業リストを新入社員に配布したことがあったとしても,それをもって本件情
報の非公知性が失われたとはいえない。また,流出事故についても,証拠
(乙A6)によれば,原告はその後に対策をとっていることが認められるか
ら,これをもって本件情報の非公知性が失われたということもできない。被
告らの上記主張は採用することができない。
2争点2(本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エンジ
ニアの退職との因果関係)について
(1)前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし5,14ないし18,21,2
2,24,25,28,34,39ないし43,45,48ないし50,5
2,53の1ないし42,54ないし57,乙A1,2,7ないし13,乙
B1,証人G,証人L,証人M,被告A本人,被告B本人,被告C本人,被
告D本人,被告E本人,被告F本人。ただし,後記の信用することができな
い部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア原告及び被告会社の経緯
(ア)原告は,平成16年2月10日に設立された株式会社であり,同年
4月,被告会社(当時の商号は株式会社ベンチャーセーフネット)から
特定労働者派遣事業を承継し,それ以降,主に技術系分野の派遣労働者
(派遣エンジニア)を派遣する労働者派遣事業を行っている(甲55。
以下,原告に労働者派遣事業を譲渡する前の被告会社と同事業を承継し
た原告とを区別せず「原告」ということがある。)。原告の事業部門に
は,BC事業部(生物・化学関連),ME事業部(機械・電気関連)及
びIT事業部(情報技術関連)があった。
(イ)原告の前身でもある被告会社は,昭和62年に有限会社関口興産と
して設立された後,株式会社への組織変更,株式会社ベンチャーセーフ
ネットへの商号変更を経て,平成9年から特定労働者派遣事業を開始し,
平成16年に原告に事業を譲渡するまで同事業を行っていた(甲55)。
被告会社は,平成16年4月,特定労働者派遣事業を原告に譲渡した後
は,Tの資産管理会社のような形で存続していた(甲3,57,被告A
本人)。
イ被告ら及びその他の関係者ら
(ア)被告Aは,平成6年に株式会社ハイテック(現在の株式会社シーテ
ック)に入社し,それ以降人材派遣業に携わってきた者であり,平成1
9年3月,Eの紹介により原告に入社し,平成20年2月8日付けで原
告を退職する時点では,事業部統括(部長の上級職)であった(乙A9,
被告A本人)。
(イ)被告Bは,平成6年,株式会社ハイテックに入社し,それ以降,人
材派遣業に携わってきた者であり,平成19年6月,被告Aの紹介によ
り原告に入社し,平成20年1月31日付けで原告を退職する時点では,
BC事業部長であった(乙A11,被告B本人)。
(ウ)被告Cは,平成4年,株式会社ハイテックに入社し,それ以降,人
材派遣業に携わってきた者であり,平成19年9月,被告Aの紹介によ
り原告に入社し,平成20年2月15日付けで原告を退職する時点では,
IT事業部システムコンサルティング課の課長であった(乙A10,被
告C本人)。
(エ)Eは,平成8年,株式会社ハイテックに入社し,そこで被告Aの部
下となり,また,同社のグループ会社の社長をしていた被告Bとも知り
合った。Eは,平成10年9月,原告に転職し,平成15年には執行役
員ME事業部長兼BC事業部長に就任し,平成20年6月に退職届を提
出したころは,原告の執行役員ME事業部長であった(乙B1,被告E
本人)。
(オ)Dは,平成11年,原告に入社して,営業を担当し,平成20年3
月31日付けで原告を退職する時点では,横浜営業所のME事業部営業
課長であり,Eの部下であった(乙A7,被告D本人)。
(カ)Fは,平成16年7月,原告に入社し,横浜営業所のME事業部営
業職に就き,E及びDの部下であった者である。Fは,20社ほどの派
遣先を担当し,別紙移籍エンジニア一覧表の番号1ないし20記載の者
を含む派遣エンジニアの営業担当として,派遣エンジニアからの相談対
応,派遣先企業との交渉等の業務を行っていた(乙A8,被告F本人)。
ウ被告らによる事業立ち上げの経緯
(ア)Tは,原告の株式を大量に保有するとともに,原告の代表取締役で
あったものの平成18年7月25日に辞任し,それ以降,平成20年3
月までは原告の相談役の地位にあり,同月,相談役も辞任した。Tは,
被告会社を使って人材派遣業を起業することを平成19年9月ころから
計画していた(甲1,3,57,被告B本人)。
(イ)Tは,平成19年11月20日,秘書であるNを被告会社の取締役
に就任させ,Nに平成20年1月15日付けで,「MVP総合研究所株
式会社」を転借人とする六本木ヒルズ森タワー28階の転貸借契約を締
結させ,925万7510円の敷金をT自らが負担した(甲3,54,
57)。
(ウ)平成19年12月20日,Tは,自宅で同人の誕生日パーティーを
開催した。同パーティーには,30人から40人ぐらいの出席者がおり,
原告関係者としては,被告A,被告B,被告C及びEが出席していただ
けで,原告の社長やその他の役員らは出席していなかった。そのパーテ
ィーにおいて,被告Aは,Tに対し,「これから一緒に会社を始めまし
ょう。」,「VSNからも人を引き抜けます」などと発言した(甲28,
証人M)。
(エ)Eは,同人の手帳の平成19年11月12日からの週のページに
「MVP総研株式会社」と記載した。また,同年12月24日からの週
のページに「客先」,「声掛け順」,「E/G」(エンジニアの意と認
められる。),「ネタ整理」,「ヴィジョン」,「業務内容」,「給
与」及び「交友関係」と記載し,これらの右下に,「A12/末∼1
/15最終出社」,「F3/25在籍必須→3/末」,「D2/
末」,「I3/末」,「O1/末」,「J2/末」などと記載し
た(甲16)。
(オ)被告A及び被告Bは,平成20年1月23日ころ,甲第42号証の
「MVP総合研究所株式会社5カ年業績計画書」(以下「1月付け計画
書」という。)を,スポンサーに対する説明資料として作成した(甲4
2,被告A本人,被告B本人)。1月付け計画書には,平成20年度上
期(平成20年1月から同年6月)の被告会社の業績計画として予想売
上,予想経費等が記載されており,「売上高」の科目には,平成20年
3月までは0円,同年4月が3575万円,同年5月が4875万円,
同年6月が6175万円,上期計が1億4625万円と記載され,「技
術社員採用広告費」の科目には,同年3月までは記載がなく,同年4
月が71万5000円,同年5月が97万5000円,同年6月が12
3万5000円,上期計292万5000円と記載されていた(甲4
2)。
(カ)被告Bは,平成20年1月31日,被告Aは,同年2月8日,被告
Cは,同月15日,それぞれ原告を退職した。これら3名の被告らは,
同月18日月曜日,TBRビルに集まり,被告会社の事業立ち上げにつ
いて準備会合を開いた。被告Bは,同日の日中に同準備会合にEを呼び
出し,Eに対し,原告社員数名についていつごろ被告会社に移籍するこ
とができそうかを尋ねた。これに対して,Eは,持参したパソコンで確
認しながら被告Bに当該社員の残有給休暇日数を開示するとともに,そ
の日数からいつごろ被告会社に移籍することができそうであるかを答え
た(甲15,証人L)。
(キ)同年3月10日,被告Aは,被告会社の代表取締役に,被告B及び
被告Cは,被告会社の取締役に就任した。また,同日,被告会社は,商
号を「株式会社ベンチャーセーフネット」から「MVP総合研究所株式
会社」に変更するとともに,本店を六本木ヒルズ森タワー28階に移転
した(甲3)。
(ク)Tは,同年3月に1億8000万円,4月に5644万9999円
の資金を被告会社に送金した(甲34,39)。
エ原告所属の派遣エンジニアに対する勧誘
(ア)Hらに対する勧誘
aFは,平成20年2月上旬,担当の派遣先のひとつであるアマノに
行き,原告所属の派遣エンジニア6,7名(Gは欠席していた。)に
対して,Eが原告名義で作成して派遣先に送付した派遣料の単価を次
回更新時から15パーセント増額するよう申し入れる書面(乙A2)
を回覧するとともに,原告がアマノに対して15パーセントの派遣料
増額を要求していることを説明した。Fは,3月27日,アマノに派
遣されている原告所属の派遣エンジニアであるHほか2名と面談し,
アマノとの派遣料増額の交渉が難航していること,アマノとの交渉が
成立せず契約更新がされない可能性があり,そうなると派遣エンジニ
アは派遣先を変えなければならないこと,アマノで働き続けるにはア
マノに雇用してもらうか,派遣元を変えるしか方法がないことを伝え
た(甲25,48,50,被告F本人)。また,Fは,上記派遣エン
ジニアらに対して,F自身は被告会社へ転職するつもりであることを
伝えた(甲25)。
b後日,Fは,Hら上記派遣エンジニア3名を居酒屋の個室に呼び,
被告会社の役員として被告Cを紹介した。被告Cは,Hらに対し,被
告会社について説明をした(甲25,被告C本人,被告F本人)。
(イ)Gらに対する勧誘
aFは,平成20年3月下旬ころ,担当の派遣先のひとつであるアマ
ノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアであるGの携帯電話に
電話をかけ,アマノに行く用事があるからその時に話がしたいと伝え,
面談の約束を取り付けた。Fは,同月27日,アマノの応接室でGと
面談し,原告を退職した人たちが被告会社を立ち上げたこと,出資者
は原告の元会長であるTであること,F自身が被告会社に転職する予
定であることを伝え(被告F本人),一緒に被告会社へ転職すること
を勧誘した(甲17,証人G)。
b同年4月7日,Gは,Fからの連絡を受け,同じくアマノに派遣さ
れている原告所属の派遣エンジニア1名とともに居酒屋へ行き,Fか
ら被告会社の役員として被告Cの紹介を受けた(甲17,18,証人
G,被告C本人,被告F本人)。被告Cは,Gらに対し,被告会社に
ついて説明するなどして被告会社へ転職することを勧誘した。また,
Eも被告会社に転職する予定であることを伝えた(甲17,証人G)。
c同年4月12日,Gは,原告本社で行われたリーダー研修の懇親会
で,Eに話しかけ,自分も被告会社に転職するつもりであることを伝
えるとともに,被告CからEも被告会社に転職する予定であると聞い
ているが本当であるか,どのくらいの人数を原告から被告会社に引き
抜くつもりであるのかを尋ねた。これに対して,Eは,自身も夏まで
には被告会社へ行く予定であること,250人くらい引き抜ければい
いかなと考えていることなどを話した(甲17,証人G)。
d同月中旬頃,Gは,Fに対して,被告会社に転職することを伝えた。
Fは,Gに対し,被告会社のホームページに掲載されているメールア
ドレスに応募メールを送るとともに,履歴書を郵送するよう指示した。
Gはこれに従い,同月20日,希望職種,氏名,住所,生年月日,電
話番号のみを記載したメールを被告会社に送るとともに,同月21日,
履歴書,職務経歴書を作成して,被告会社に郵送した(甲17,乙A
12,13,証人G)。
e同月23日,Fは,Gに電話をし,同月25日にFが担当する派遣
エンジニアがそろって退職届を提出するので,この日にGも退職届を
提出するよう伝えた。これに対し,Gは,被告会社における給与の提
示がなかったことなどから,その日に提出することができない旨を回
答した(甲17,証人G)。
(ウ)同月25日,Fが担当する派遣エンジニアの複数名が退職届を提出
した(甲17,22,証人G)。
F及びDが担当していた派遣エンジニアから一斉に退職届が出された
ため,原告のケア担当であるPは,F及びDの担当する派遣エンジニア
を一覧表(本件エンジニアリスト)にまとめて,同日午後8時46分,
Eを含む役員らに対して送信した(甲22)。
Eは,同日午後9時52分から午後10時までの間に,本件エンジニ
アリストの電子ファイルについて,そのファイル名を「エンジニアリス
ト」から「Q様試算表」と変更してデスクトップ上に保存した上で2
回印刷し,同ファイルをゴミ箱に移動し,さらにゴミ箱からも完全に削
除した(甲21)。
(エ)同年5月1日,Gは,被告会社へ転職する意思を変え,被告会社へ
の引き抜き行為が行われていることを,原告に報告した(甲49,証人
G)。
同月2日,Fは,Gに電話をかけ,Gが原告に引き抜き行為が行われ
ていることを話したと聞いた旨伝えるとともに,それが本当であるかに
ついて質問をした。また,その電話で,Fは,Gに対し,「どうしても
うちの社長が」,「MVPの社長ですよ。決まっているじゃないです
か」,「Gさんにどうしてもお会いしたいということだったんで」など
と発言し,被告Aに会うよう働きかけた。Gは,この電話におけるFの
発言を録音していた(甲18,証人G,被告F本人)。
(オ)Fは,同月7日付けで原告を懲戒解雇となり,同月23日付けで被
告会社に就職し,営業課長の役職に就いた(被告F本人)。
オ別紙移籍エンジニア一覧表記載のとおり,Fが担当していた派遣エンジ
ニアのうち東京精密へ派遣されていた派遣エンジニアが同年4月15日付
けで1名,同年5月7日付けで1名,同月15日付けで5名,アマノへ派
遣されていた派遣エンジニアが同月20日付けで5名,ユーディナデバイ
スへ派遣されていた派遣エンジニアが同日付けで6名,株式会社島津製作
所(以下「島津製作所」という。)へ派遣されていた派遣エンジニアが同
日付けで2名,それぞれ原告を退職し,被告会社に就職するとともに,原
告在籍中と同じ派遣先で勤務を続けた(甲24)。
(2)被告らは,Tの誕生日パーティの席において被告AがTに対して「一緒に
会社を始めましょう」,「VSNからも人を引き抜けます」などと発言した
ことを否認する。しかしながら,同事実があったことについては証人Mが供
述しており,同証人の供述内容は被告Aが発言している状況について具体的
であって,また,その他の供述部分についても客観的証拠と整合しており,
不自然な点もなく,信用することができる。
また,被告らは,平成20年2月18日にTBRビルにおいて被告BがE
から聞いたのは,原告の就業規則上の有給休暇制度についてであって派遣エ
ンジニアの残有給休暇日数ではないと主張する。そして,被告Bは,被告会
社に移るつもりがあるのかについてEの本心を探るため呼び出したのであり,
呼び出す口実として就業規則上の有給休暇制度についての説明を求めた旨供
述する。しかしながら,就業規則の内容を知りたければ,電話で聞くなどす
ることができたにもかかわらず,原告に在籍しているEを平日の日中に原告
の競業会社となる被告会社の立ち上げの準備会合に呼び出して1時間ほど参
加させた上で,就業規則上の有給休暇制度についてのみ説明させ,また,E
の被告会社への移籍についての話もなかったという被告Bの供述内容は不自
然である。また,Eは,被告A及び被告Bが原告に戻る可能性があれば説得
したいと思い上記準備会合に出向いたと供述するものの,会合の場で被告A
及び被告Bに原告に戻るよう説得をしなかったとも供述していることから,
Eの供述もにわかに信用することはできない。被告らの主張は採用すること
ができない。
(3)以上の認定事実を基に,不正競争防止法違反(営業秘密の使用等による従
業員の引き抜き)に関する原告の各主張について,以下,検討する。
アEが残有給休暇日数及び退職日を開示したとの主張について
前記認定事実のとおり,Eが原告所属の原告社員の残有給休暇日数を当
時既に原告を退職していた被告Bに開示した事実については,これを認め
ることができる。
原告は,原告社員の退職日も開示されたと主張する。しかしながら,前
記認定事実によれば,Eが残有給休暇日数から原告社員がいつごろ原告を
退職して被告会社に転職することができそうかの予想を被告Bに伝えたこ
とは認められるものの,本件情報の「退職日」を伝えたことについては,
これを認めるに足る証拠がない。
イFが派遣契約満了日の迫った会社の派遣エンジニアを標的にしたとの主
張について
前記認定事実のとおり,Fは,20社ほどの派遣先企業の営業担当をし
ていたものであり,また,Fの供述によれば,担当していたほとんどの派
遣先企業との派遣契約の更新時期は毎年3月末であったことが認められ,
これに反する証拠はない。そうすると,Fにおいては,派遣契約満了日の
情報を用いて勧誘対象者を絞り込んだといった事情は認められないから,
Fが本件情報のうち派遣契約満了日の情報を使用したということは困難で
ある。
ウGの携帯電話番号を使用したとの主張について
前記認定事実のとおり,Fは,平成20年3月下旬ころ,Gの携帯電話
に電話をかけて面談の約束を取り,その面談において,被告会社へ転職す
るようGを勧誘したことが認められる。
しかしながら,証拠(乙A8,証人G,被告F本人)及び弁論の全趣旨
によれば,GはFと携帯電話番号の交換をしていたこと,Gが携帯電話か
らFの携帯電話に電話をして,自身の結婚式の二次会に招待したり,子ど
もが生まれたことを報告したりしていたことが認められ,これらの事実か
らすれば,Fが保有していたGの電話番号のみを取り上げて原告の営業秘
密に当たるということは困難である。
したがって,FがGの携帯電話に電話したことをもって,本件情報の使
用と認めることはできない(なお,前記認定事実のとおり,Gは,Fの勧
誘にもかかわらず原告を退職しなかったのであり,また,Fがその他の派
遣エンジニアに対する勧誘行為に派遣エンジニアの携帯電話番号を使用し
たなどといった事情も認められない。)。
エHに対して原告での給与額を示して勧誘したとの主張について
原告は,FがHに対して被告に転職した場合の給与と比較するためにH
の原告での給与額が記載された一覧表を示して勧誘を行ったと主張し,H
作成の陳述書(甲25)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,F,被告Cは上記事実を否定している上(被告F本人,
被告C本人),前記認定事実のとおり,Gに対しては被告における給与額
を示すことができなかったことも考え合わせると,上記H作成の陳述書の
記載内容をにわかに信用することはできず,他に原告の上記主張を認める
に足りる証拠はない。
オI及びJによる勧誘行為について
原告は,I及びJが派遣エンジニアの携帯電話番号,原告における給与
額及び派遣契約期間の満了日といった本件情報を使用して,原告所属の派
遣エンジニアに対して被告会社への勧誘を行った旨主張し,R及びSの陳
述書(甲26,27)には,上記主張に沿う部分がある。しかしながら,
上記陳述書は,I又はJから勧誘を受けたとされる匿名の派遣エンジニア
から原告の取締役又は担当者が聞き取った伝聞内容が記載されているにと
どまるものであり,同陳述書の記載からただちに上記主張事実を認めるこ
とはできず,他に上記事実を認めるに足りる証拠の提出はない。
カEが本件エンジニアリストを被告らに開示したとの主張について
前記認定事実のとおり,Eは,本件エンジニアリストをメールで受信し
た後に,ファイル名を変更した上で印刷して,ファイルを完全削除すると
いう通常ではあり得ない操作を行っていることが認められ,この事実に,
Eが被告会社の立ち上げの準備会合に参加していること,その場において
派遣エンジニアの残有給休暇日数を被告Bに開示していること,被告らと
Eとの関係等を総合すると,Eが本件エンジニアリストを印刷して,これ
を被告らに開示したものと認められる。
(4)上に述べたところによれば,Eが①営業秘密である原告社員の残有給休暇
日数を被告Bに開示したこと,②営業秘密の記載された本件エンジニアリス
トを被告らに開示したことは認められる。
しかしながら,①については,開示された残有給休暇日数がどのように引
き抜き行為に用いられ,派遣エンジニアの退職に関係したのかが明らかでな
く,原告社員の残有給休暇日数が開示されたことと原告所属の派遣エンジニ
アが退職した事実との間に因果関係を認めることはできない。また,②につ
いては,前記認定事実のとおり,本件エンジニアリストが作成されたのは,
平成20年4月25日に原告所属の派遣エンジニアが一斉に退職届を出した
ことを契機とするものであって,既に退職届が出されていた以上,本件エン
ジニアリストが開示されたことと,原告所属の派遣エンジニアが退職した事
実との間に因果関係を認めることができない。
(5)以上のとおり,不正競争防止法違反行為と原告が主張する各事実は,いず
れも,違反行為の事実が認められないか,又は違反行為と原告所属の派遣エ
ンジニアの退職との間に因果関係を認めることができないのであるから,原
告の不正競争防止法に基づく請求はいずれも理由がない。
3争点3(本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか)について
(1)前記認定事実によれば,Fは,原告の営業担当として原告所属の派遣エン
ジニアの相談に応じる立場にあり,かつ,派遣先企業との契約更新に関する
交渉を担当する立場にある者であったにもかかわらず,原告所属の派遣エン
ジニアに対し,原告と派遣先企業との契約が更新されない可能性があり,同
じ派遣先で働き続けたければ派遣元を変わる方法があると伝え,被告会社を
紹介するとともに,被告会社の役員であった被告Cと引き合わせ,被告会社
への入社を勧誘したものであって,原告における立場を利用して派遣エンジ
ニアを不安にさせ,その不安に乗じて勧誘を行ったものということができる。
また,Fは,原告所属の派遣エンジニアらに対して退職届を提出する日をそ
ろえるよう指示を出していたことが認められ,これは,引き抜きを原告に知
られないよう秘密裏に行うためであったものと認められる。そして,Fの引
き抜き行為により,平成20年4月と5月の短期間に20人の原告所属の派
遣エンジニアが原告を退職して被告会社に就職した上で,同じ派遣先企業で
就労し続けていることが認められる。
このように,Fは原告に在籍中であったにもかかわらず,その立場を利用
して派遣エンジニアを不安にさせ,その不安に乗じて勧誘を行ったものであ
って,その行為態様は悪質と言わざるを得ず,また,原告に引き抜き防止の
措置をとる機会を与えないよう秘密裏に一斉の引き抜き行為を行ったこと,
引き抜き人数も20人と少なくないことなども考慮すれば,Fの行った別紙
移籍エンジニア一覧表の番号1ないし20の派遣エンジニアの引き抜き行為
は社会的相当性を欠く違法な行為であるというべきであり,これにより原告
はこれらの派遣エンジニアの稼働により得られるはずであった利益を得るこ
とができなくなったものであるから,上記行為は,不法行為に該当するもの
と認められる。
(2)なお,原告は,I及びJの担当していた原告所属の派遣エンジニア(別紙
移籍エンジニア一覧表の番号21ないし42)に対する引き抜き行為も不法
行為であると主張する。しかしながら,前記のとおり,I及びJによる勧誘
行為の有無や内容については証拠上不明であると言わざるを得ないから,こ
の点に関する原告の主張は採用することができない。
4争点4(被告らの共謀の有無)について
前記認定事実によれば,被告A,被告B及び被告Cは,平成20年1月から
3月の間に原告を退職し,そのころから被告会社の立ち上げの準備を行ってき
たものであり,その準備会合に原告の執行役員ME事業部長のEを呼び,原告
所属の派遣エンジニアの残有給休暇日数を聞き出していること,前記のとおり
Eが本件エンジニアリストを持ち出し,被告Bに開示したこと,被告AがTの
誕生パーティーにおいて「これから一緒に会社を始めましょう」,「VSNか
らも人を引き抜けます」と発言したこと,Eが平成19年末ころに手帳に被告
会社への引き抜きに関するものと認められる記載を行い,そこには被告AやF
らの原告退職予定日が記載され,特にFについては「3/25在籍必須」との
記載があり,同記載はFが同日まで原告に在籍して引き抜き行為を行うことを
前提とした記載と見ることができること,被告A及び被告Bが,スポンサーに
対する説明資料として作成した1月付け計画書には平成20年4月から6月の
「売上高」が3575万円から6175万円とされているのに対し「技術社員
採用広告費」は71万5000円から123万5000円と極めて低額とさ
れていることから,被告会社のスポンサーであるTに対して原告からのエンジ
ニアを引き抜くことを前提とした事業計画を説明し,それに応じてTから資金
提供がされたものと推認することができること,Fが原告所属の派遣エンジニ
アを被告Cと引き合わせて被告会社への入社を勧誘しており,被告CがFの引
き抜き行為に現実に関与していたこと,Fが被告会社への移籍を渋っているG
に対し被告Aが会いたがっているとして被告AとGとを引き合わせようとして
いたこと,Fが原告を懲戒解雇になって間もなく被告会社に就職し営業課長の
役職に就いたことが認められる。
これらの事実を総合すると,被告A,被告B及び被告Cは,原告在籍中のF
やEらを利用して原告所属の派遣エンジニアを被告会社へ引き抜くことを共謀
し,Fはこの共謀に基づいて前記引き抜きの不法行為を行ったものと認めるこ
とができる。
したがって,被告A,被告B及び被告Cは,Fの引き抜き行為によって原告
に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うものと認められ(民法719条1
項),被告会社の代表取締役であった被告Aがその職務を行うについて原告に
損害を加えたものであると認められるから,被告会社も原告に生じた損害を連
帯して賠償する責任を負う(会社法350条)。
5争点5(損害の額)について
(1)派遣エンジニア1人当たりの利益額
前記のとおり,被告らの不法行為により原告所属の派遣エンジニア20人
が原告を退職したものと認められる。そして,証拠(甲55,56)及び弁
論の全趣旨によれば,平成19年4月1日から平成20年3月までの期間に
おいて,原告の売上高は178億0944万6000円であり,派遣エンジ
ニアに係る労務費及び経費の合計額は118億4680万3000円であっ
たこと,平成20年3月31日時点における原告所属の派遣エンジニアは2
246人であったことが認められ,これらからすれば,下記計算式のとおり
派遣エンジニア1人当たりの原告の利益額は月額22万1231円であった
と認めることができる。
(計算式)
(17,809,446,000円−11,846,803,000円)÷2,246人÷12か月
なお,原告は,原告を退職した派遣エンジニア42人の平均売上総利益は
月額37万1940円であり,これをもって損害算定の基礎とすべきである
と主張する。しかしながら,原告は,平均売上総利益額について原告従業員
Uの陳述書(甲56)を提出するにとどまっており,上記金額を認めるに足
りる客観的な証拠はなく,また,被告らの不法行為により退職したと認めら
れる派遣エンジニア20人に係る原告の利益額については不明であって,原
告の主張は採用することができない。
(2)損害算定の期間
原告は,平均在籍年数や退職率をもって損害の算定の基礎とすべき旨を主
張する。しかしながら,被告らの引き抜き行為の不法行為と相当因果関係の
ある原告の損害は,補充の派遣エンジニアを確保するまでに必要な期間中の
原告の得べかりし利益とするのが相当である。
そして,証拠(甲2,55)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事業は機
械・電気等の専門分野を持ついわゆる技術系の人材派遣であって,上記20
人の原告を退職した派遣エンジニアも専門的技術を有する者であったと認め
られ,同事実によれば,退職した派遣エンジニアの代わりに直ちに他の者を
補充することができるものではないということができる。もっとも,証拠
(甲2,55)及び弁論の全趣旨によれば,原告における派遣エンジニアは,
おおむね1年の派遣契約に基づいて派遣されていたこと,労働者派遣市場は
流動的であり原告においても中途採用も盛んに行われていること,平成20
年3月31日時点における原告従業員の平均勤続年数は2.4年,平均年齢
は28.3歳であったことが認められ,これらの事情も考え合わせると,原
告が退職した派遣エンジニアを補充する人材を確保するために必要な期間は,
6か月間と認めるのが相当である。
(3)そうすると,上記派遣エンジニア1人当たりの原告の利益額の月額22万
1231円の6か月分である132万7386円に退職した人数である20
を乗じた2654万7720円をもって,原告が被った損害と認めることが
できる。
(4)弁護士費用相当損害金
本件事案の内容や性質等を考慮すると,弁護士費用相当損害金は,300
万円と認められる。
(5)以上のとおり,原告の損害額は,2654万7720円と300万円の合
計2954万7720円と認められる。
6結論
よって,原告の請求は,2954万7720円及びこれに対する不法行為の
後の日である平成20年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか
らこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官舟橋伸行
(別紙)
移籍エンジニア一覧表
退職日氏名前派遣先営業担当
12008/4/15F1株式会社東京精密F
22008/5/7F2株式会社東京精密F
32008/5/15F3株式会社東京精密F
42008/5/15F4株式会社東京精密F
52008/5/15F5株式会社東京精密F
62008/5/15F6株式会社東京精密F
72008/5/15F7株式会社東京精密F
82008/5/20F8アマノ株式会社F
92008/5/20F9アマノ株式会社F
102008/5/20F10アマノ株式会社F
112008/5/20F11アマノ株式会社F
122008/5/20F12アマノ株式会社F
132008/5/20F13ユーディナデバイス株式会社F
142008/5/20F14ユーディナデバイス株式会社F
152008/5/20F15ユーディナデバイス株式会社F
162008/5/20F16ユーディナデバイス株式会社F
172008/5/20F17ユーディナデバイス株式会社F
182008/5/20F18ユーディナデバイス株式会社F
192008/5/20F19株式会社島津製作所F
202008/5/20F20株式会社島津製作所F
212008/6/20J1三洋電機株式会社J
222008/6/20J2三洋電機株式会社J
232008/6/20J3三洋電機株式会社J
242008/6/20J4三洋電機株式会社J
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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
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