弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年(行ケ)第31号 審決取消請求事件(平成16年9月6日口頭弁論終
結)
  判          決
   原      告     スリーエム カンパニー
訴訟代理人弁護士  片山英二
同    弁理士     小林純子
    同            古橋伸茂
    被      告     特許庁長官 小川洋
指定代理人     鹿股俊雄
    同            瀬川勝久
    同            大野克人 
    同            立川功
    同            伊藤三男 
          主          文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
     この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と
定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2001-20589号事件について平成15年9月1日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
   原告は,名称を「再帰反射偏光子」とする発明につき,平成4年5月20日
を国際出願日とする特許出願(優先権主張1991年〔平成3年〕6月13日・ア
メリカ合衆国,以下「本件出願」という。)をしたが,平成13年8月14日に拒
絶査定がされたので,同年11月16日,これに対する不服の審判を請求した。特
許庁は,同請求を不服2001-20589号事件として審理し,平成15年9月
1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月2
5日,原告に送達された。
 2 本件出願の願書に添付された明細書(平成11年4月16日付け及び平成1
3年12月14日付けの各手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」と
いう。)の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明(以下「本願発明」とい
う。)の要旨
   バックライトコンピュータ表示装置用反射光源と,
   液晶表示パネルと,
   前記反射光源と前記液晶表示パネルの間に位置され,第1の偏光状態の光を
液晶表示パネルの方に透過し,第2の偏光状態の光を反射光源の方に反射する薄い
偏光膜と
   を含み,前記バックライトコンピュータ表示装置用反射光源,液晶表示パネ
ル及び薄い偏光膜が同じ幅を有するバックライトコンピュータ表示装置。
 3 審決の理由
 (1) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平2-308
106号公報(以下「引用例1」という。),特開平3-120503号公報(以
下「引用例2」という。)に記載された各発明及び周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができないとした。
 (2) なお,審決は,上記の判断に当たり,本願発明と引用例1に記載された発
明(以下「引用発明」という。)とを対比し,両者の一致点及び相違点を次のとお
り認定している。
  (一致点)
    両者は,「バックライト表示装置用反射光源と,液晶表示パネルと,第1
の偏光状態の光を透過し,第2の偏光状態の光を反射光源の方に反射する偏光手段
とを含むバックライト表示装置」である点で一致する。
  (相違点1) 本願発明における偏光手段は,反射光源と液晶表示パネルの間
に位置され,第1の偏光状態の光を液晶表示パネルの方に透過しているのに対し,
引用発明ではそのような事項について言及していない点。
  (相違点2) 偏光手段が,本願発明では薄い偏光膜であるのに対して,引用
発明では反射型直線偏光素子であり,その薄さや膜状であるか否かについては言及
していない点。
  (相違点3) バックライト表示装置が,本願発明ではコンピュータ用に特定
されているのに対し,引用発明ではそのような特定について言及されていない点。
  (相違点4) 本願発明では,バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パ
ネル及び偏光手段が同じ幅を有するのに対し,引用発明では,そのような事項につ
いて言及していない点。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り)
 (1) 審決は,「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は光源及び
前記光源の背後に設けられたミラーを含むことから,本願発明における『バックラ
イト表示装置』に相当し,従って,引用発明における『光源及び前記光源の背後に
設けられたミラー』は本願発明における『バックライト表示装置用反射光源』に相
当する」(審決謄本4頁下から第2段落)と認定したが,この引用発明の認定は誤
りであるから,これを前提にした一致点の認定も誤りである。
   ア 引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,本願発
明の「バックライト表示装置用反射光源」に相当するものではない。
   本願発明は,バックライトコンピュータ表示装置の発明であるが,バックラ
イトコンピュータ表示装置では,全体として薄く,表示面積が比較的大きい構造が
要求される。本件明細書(甲2)には,本願発明の装置のサイズに関して,「その
ようなシステム(注,従来技術)は,・・・薄い形状が要求されるポータブルもし
くはラップトップのコンピュータの表示に用いるのには,好ましくない大きさであ
る」(2頁左下欄第2段落),「本発明は,・・・特に,・・・比較的小型(特に
薄い)な用途に適する」(4頁左下欄第2段落),「このシステムにおける本発明
の大きな利点は,全ての成分が領域内で比較的薄くかつ広く,及び実質的に同一の
光軸上に存在するため,システムの外形が大幅に減少できることである」(同頁左
下欄最終段落~右下欄第1段落),と記載されており,これらの記載から,本願発
明のバックライトコンピュータ表示装置は,例えば,ポータブル又はラップトップ
コンピュータの表示装置として用いられるものであり,そのために,比較的薄くか
つ広い表示を可能にする必要がある装置であることが分かる。そして,このような
構造を有すべく,典型的なバックライトコンピュータ表示装置用反射光源は,ライ
トガイド,当該ライトガイドの端に設けられた光源及び当該ライトガイドの背面に
設けられた反射装置を有することが一般的である(例えば,米国特許明細書第42
29783号〔甲7〕の図1には,送光部材4により光を透過させ,送光部材4の端
に光源6を設け,かつ,送光部材4の背面に光を反射させるトランスルーセント部
材7を備えたバックライト1が示されている。)。
     これに対し,引用発明における「光源及び前記光源の背後に設けられた
ミラー」という構造では,光源とミラーが厚さ方向に重ねられるから,装置の厚さ
を薄くすることができない。したがって,装置の厚さを構造上薄くすることができ
ない引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,本願発明の
「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」に相当するものではない。ま
た,引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,ライトガイド
やライトガイドの端に光源が設けられている構造も有しない。
   イ また,引用例1には,フラットパネルディスプレイは開示されていな
い。引用例1に開示された直線偏光光源は,導電性の金属線状パターンを有する反射
型直線偏光素子を用い,光源として点光源を用いるものであるから,バックライト
コンピュータ用のフラットパネルディスプレイとしては使用することができない。
引用例1に示されるものは,上記の直線偏光光源の構造からすると,プロジェクシ
ョン装置に用いられるものでしかない。引用例1には,引用発明に係る直線偏光光
源をバックライトコンピュータ装置に使用するという技術的思想は開示されていな
い。
 (2) 以上のとおり,審決は,引用発明の認定を誤った結果,本願発明と引用発
明の一致点の認定を誤ったものである。 
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
 (1) 上記1のとおり,引用例1にはプロジェクション装置用の直線偏光光源しか
開示されておらず,その直線偏光光源をバックライトコンピュータ表示装置に使用
することや,「バックライト表示装置用反射光源」は示されていないのであるか
ら,それらが示されているとの前提に立ってされた審決の相違点の判断も,当然,
誤りである。
 (2) 本願発明と引用発明との各相違点についての審決の判断には,以下の誤り
がある。
  ア 審決は,本願発明の引用発明との相違点3について,「バックライト表
示装置をコンピュータ用に用いることは従来周知(例えば,特開昭62-1062
1号公報〔甲9,以下「甲9公報」という。〕・・)であるから,相違点3(注,
「2」とあるのは誤記と認める。)は,従来周知な使用方法を単に特定したにすぎ
ず,当業者であれば容易に想到できることである」(審決謄本6頁第4段落)と判
断したが,引用例1には,プロジェクション装置用の直線偏光光源しか開示されて
おらず,フラットパネルディスプレイは開示されていないのであるから,上記判断
は誤りである。
   イ 審決は,本願発明と引用発明との相違点4について,「バックライト表
示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,出願
人が必要に応じて適宜設計変更し得る程度の事項である(要すれば,特開昭64-
57236号公報〔甲10,以下「甲10公報」という。〕(第1図)参
照。)。」(審決謄本6頁第5段落)と判断したが,誤りである。既に述べたとお
り,引用例1に開示されたものは,プロジェクション装置用の直線偏光光源であ
る。プロジェクション装置においては,点光源から光が出射されるので,液晶表示
パネル,偏光手段,反射光源(点光源及びミラー)は,液晶表示パネルの幅>偏光
手段の幅>反射光源の幅,となるように設計される。したがって,引用発明におい
て,これらを同じ幅に構成しようとする動機付けは働かない。また,審決は,「適
宜設計変更し得る事項」との判断について,甲10公報の図を引用しているが,甲
10公報記載の発明は,フラットパネルディスプレイに関するものであるところ,
引用例1の直線偏光光源はプロジェクション装置用であって,フラットパネルディ
スプレイ用ではないから,甲10公報の構成に基づいて,引用発明の反射光源,
液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅にすることは,容易に想到し得ることではな
い。
第4 被告の反論
   審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り)について
    そもそも,審決は,引用例1に記載の「光源及び前記光源の背後に設けら
れたミラー」が本願発明における「バックライト表示装置用反射光源」に相当する
としているのであって,「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」に相当
するとしているのではないから,引用例1のものが「バックライトコンピュータ表
示装置用反射光源」でないとする原告の主張は,失当である。また,本件明細書の
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には,本願発明のバックライト表示装置用反
射光源がライトガイドを有することや当該ライトガイドの端に光源を設けることに
ついては何ら記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づ
かない主張である。原告は,本願発明のバックライトコンピュータ表示装置には薄
い構造が要求される旨主張するが,特許請求の範囲の「バックライトコンピュータ
表示装置」という記載のみで,当該表示装置が薄型のものに特定されるとは到底い
えず,この点も特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。引
用例1に「フラットパネルディスプレイ」が開示されているという審決の認定にも
誤りはない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
    液晶表示素子からなるフラットパネルディスプレイ装置が,通常,携帯型
であるとデスクトップ型であるとを問わず,コンピュータの表示装置として用いら
れ得ることは本件出願時に周知の事項である。そうであるからには,引用例1に記
載のフラットパネルディスプレイ(本願発明のバックライト表示装置に相当)をコ
ンピュータに適用する際に,本件出願時の技術常識(審決において周知例として引
用した甲9公報に記載されたコンピュータ用バックライト表示装置を参照)を参酌
して,バックライト光源部の構成に適宜変更を加えること,例えば,ライトガイド
を配備したり,光源を端部に設置したりして当該バックライト光源部を薄型にする
こと等は,当業者において何ら創意工夫を要するものではなく,コンピュータの種
類(携帯型,デスクトップ型等)に合わせて,適宜設計変更し得る事項にすぎな
い。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り)について
 (1) 原告は,審決が,「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は光
源及び前記光源の背後に設けられたミラーを含むことから,本願発明における『バ
ックライト表示装置』に相当し,従って,引用発明における『光源及び前記光源の
背後に設けられたミラー』は本願発明における『バックライト表示装置用反射光
源』に相当する」(審決謄本4頁下から第2段落)と認定したことに対し,この引
用発明の認定は誤りであるから,これを前提とした,審決の「両者は,『バックラ
イト表示装置用反射光源と,・・・を含むバックライト表示装置』である点で一
致」(同5頁第1段落)するとの一致点の認定も誤りであると主張する。 
 (2) そこで,引用発明についてみると,引用例1(甲5)には,①「〔産業上
の利用分野〕直線偏光光源は例えば液晶表示素子に用いられている。液晶表示素子
は低消費電力のフラットパネルディスプレイやプロジェクション用のライトバルブ
として広く応用されている。本発明(注,引用発明)は偏光としてはランダムな光
源から1種類の直線偏光を非常に高効率に出射する直線偏光光源に関する」(1頁
右下欄),②「第1図は本発明の1実施例を示す説明図である。4は光源の前方に
設けられた反射型直線偏光素子である。本発明の特徴は該反射型直線偏光素子4と
ミラー2の間に位相差板3を配置している事にある。・・・一方の偏光10は反射
型直線偏光素子4を通過する。他の一方の偏光11は反射型直線偏光素子4によっ
て12の如く反射され位相差板3を通過し楕円偏光13となる。楕円偏光13はミ
ラー2で反射し逆回りの楕円偏光14となり再び位相差板3を通過し,偏光10と
同じ成分を有する偏光15となり非常に高効率に反射型直線偏光素子4を通過す
る」(2頁左上欄下から第2段落~右上欄第1段落)と記載され,③第1図に,引
用発明に係る直線偏光光源の実施例として,光源の後方にミラーを配置し,光源の
前方に位相差板3,更にその前方に反射型直線偏光素子を配置し,光源から出た光
を後方のミラーによって反射するようにした構造が示されている。
    引用例1の上記記載によれば,引用発明に係る直線偏光光源は,光源及び
当該光源の背後にミラーを設け,光源から出た光がミラーで反射されて高効率で直
線偏光素子を通過するようにしたバックライト型の構造であると認められる。そし
て,引用発明に係る直線偏光光源の用途としては,フラットパネルディスプレイな
どに応用される液晶表示素子が挙げられているから,引用発明に係る直線偏光光源
を用いた液晶表示素子を応用したフラットパネルディスプレイ等の表示装置が「バ
ックライト表示装置」であること,さらに,引用発明の光源及びその背後に設けた
ミラーが本願発明にいう「バックライト表示装置用反射光源」に相当するものであ
ることは明らかというべきである。したがって,本願発明と引用発明とは,「バッ
クライト表示装置用反射光源」を含む「バックライト表示装置」との点で一致す
る。
 (3) 原告は,本願発明における「バックライトコンピュータ表示装置」には,
全体として薄く表示面積が大きい構造が要求され,そのために,バックライトコン
ピュータ表示装置用反射光源には,一般に,ライトガイド,ライトガイド端に設け
られた光源及びライトガイドの背面に設けた反射装置を有する構造が採用されると
ころ,引用発明はそのような構造でないから,引用発明の「光源及び前記光源の背
後に設けられたミラー」は本願発明の「バックライトコンピュータ表示装置用反射
光源」に相当するものではないと主張する。しかしながら,審決は,「コンピュー
タ」用との点まで含めて一致点を認定しているわけではない上,本願発明と引用発
明とが,少なくとも「バックライト表示装置用反射光源」を含む「バックライト表
示装置」という点で一致することは,上記(2)に判示したとおりであるから,この点
に関して,審決の認定に誤りがあるということはできない。原告がバックライトコ
ンピュータ表示装置に必要であると主張するライトガイド等を備えた構造は,本件
明細書の特許請求の範囲に記載されたものではなく,また,コンピュータに用いら
れるバックライト表示装置がすべからく原告の主張するようなライトガイド等を備
え,薄く表示面積が大きい構造でなければならないとする理由はないから,その点
からも,原告の上記主張は,採用の限りではない。
 (4) 原告は,また,引用例1に開示された直線偏光光源は,導電性の金属線状
パターンを有する反射型直線偏光素子を用い,光源として点光源を用いるものであ
るから,バックライトコンピュータ用のフラットパネルディスプレイとしては使用
することができないことを理由に,審決が,引用例1にフラットパネルディスプレ
イが開示されていると認定したことが誤りであると主張する。しかしながら,審決
の「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は・・・本願発明における
『バックライト表示装置』に相当し」(審決謄本4頁下から第2段落)との説示
は,引用例1の記載事項に関する審決の説示(同3頁(1)の(a)~(c))と
合わせて読めば,引用例1に直線偏光光源を有する液晶表示素子の用途としてフラ
ットパネルディスプレイが示されているという事実を踏まえて,引用発明に係る直
線偏光光源を「フラットパネルディスプレイ」(これが表示装置の一種であること
は自明のことに属する。)に用いた場合にその表示装置が「バックライト表示装
置」に相当することを述べたものであることが明らかである。審決は,引用例1に
開示されたものは「バックライト表示装置用反射光源」(光源及びその背後に設け
られたミラーからなる。)を有する「バックライト表示装置」であるから,それら
の点で本願発明と一致するとしているのであり,引用例1に開示されたものが「フ
ラットパネルディスプレイ」であるか他の表示装置であるかは,それが「表示装
置」である以上,上記認定を何ら左右するものではない。原告の上記主張は,主張
自体失当というべきである。
 (5) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
 (1) 原告は,引用例1にはプロジェクション装置用の直線偏光光源しか開示され
ておらず,その直線偏光光源をバックライトコンピュータ表示装置に使用すること
や,「バックライト表示装置用反射光源」は示されていないから,それらが示され
ているとの前提に立ってされた審決の相違点の判断も誤りであると主張するが,そ
の主張の理由のないことは,上記1に判示したところから明らかである。
 (2) 原告は,また,相違点3(バックライト表示装置が,本願発明ではコンピ
ュータ用に特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定について言及さ
れていない点)につき,審決が,「バックライト表示装置をコンピュータに用いる
ことは従来周知(例えば,特開昭62-10621号公報〔注,甲9公
報〕・・・)であるから,相違点3は,従来周知な使用方法を単に特定したにすぎ
ず,当業者であれば容易に想到できることである」(審決謄本6頁第4段落)と判
断したことは誤りであると主張する。
    そこで,検討すると,審決が周知技術を示すものとして引用した甲9公報
には,「文字や画像を表示する単純マトリックス型液晶表示装置において,液晶の
背面部から照明するため,冷陰極管蛍光灯と導光板とを用いた平面光源を液晶表示
パネルと駆動回路搭載基板の間に組み込み一体化したことを特徴とする液晶表示装
置」(1頁左下欄の特許請求の範囲),「この発明はコンピュータや事務用機器の
表示装置として使用する液晶表示装置に関するものである」(同欄〔産業上の利用
分野〕),「冷陰極管蛍光灯と導光板とを組み合せた平面光源をバックライト用光
源とした」(2頁右上欄〔問題点を解決するための手段〕)と記載されており,こ
れらの記載によれば,バックライト光源を有する液晶表示装置をコンピュータに用
いることは,本件出願時において周知の事項であると認められる(このような「バ
ックライト表示装置」が周知であるとする審決の認定自体は,原告も争っていな
い。)。
    そうすると,バックライト表示装置をコンピュータ装置用とすることが当
業者の容易に想到し得る事項であることは明らかであるから,原告の上記主張は理
由がない。
 (3) 原告は,相違点4(本願発明では,バックライト表示装置用反射光源,液
晶表示パネル及び偏光手段が同じ幅を有するのに対し,引用発明では,そのような
事項について言及していない点)につき,審決が,「バックライト表示装置用反射
光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,出願人が必要に応
じて適宜設計変更し得る程度の事項である」(審決謄本6頁第5段落)と判断した
ことは誤りであると主張する。
    しかしながら,相違点4に関し,審決が挙げた甲10公報には,第1図と
して,蛍光灯,反射板及び光散乱板からなる「バック光源」と,「偏光板」と,強
誘電性液晶セル(「FLCセル」)とを有するフラットパネルディスプレイにおい
て,「バック光源」(バックライト光源),「FLCセル」(液晶表示パネル)及
び偏光板(偏光手段)を同じ幅にしたものが示されている。このことからすれば,
液晶表示パネルを用いたフラットパネルディスプレイにおいて,バックライト表示
装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,当業者
が必要に応じ適宜採用し得る程度の設計事項にすぎないというべきである。原告の
上記主張は採用の限りではない。
 (4) なお,原告は,引用例1に開示されたものは,プロジェクション装置用の
直線偏光光源であり,この直線偏光光源や当該光源用の偏光子をフラットパネルデ
ィスプレイに使用することはできず,動機付けもないと主張し,プロジェクション
装置用の構造をフラットパネルディスプレイに適用できない理由をるる述べてい
る。しかし,審決は,引用例1に開示された構造をそのままフラットパネルディス
プレイ装置に使用することが当業者にとって容易に想到し得るとしているのではな
く,引用例1には「バックライト表示装置用反射光源」を有する表示装置が示され
ているとの認定(この認定自体に誤りのないことは前示のとおりである。)を前提
として,「バックライト表示装置用反射光源」を液晶表示パネル及び偏光手段と同
じ幅に形成することの容易性を判断しているものであるから,原告の上記主張は,
審決に対する批判として的外れといわざるを得ない。原告が審決の判断に対して主
張するところをすべて勘案しても,各相違点に係る構成の容易想到性を肯定した審
決の判断に誤りがあるとは認められない。
 (5) したがって,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 結論
   以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
    東京高等裁判所知的財産第2部
  裁判長裁判官      篠  原  勝  美
  裁判官      古  城  春  実
             裁判官      岡  本     岳

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛