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平成12年(行ケ)第501号 審決取消請求事件(平成14年1月21日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   有限会社双野テック
       訴訟代理人弁護士   深 井   潔
       同    弁理士   犬 飼 新 平
       被      告   三山工業株式会社
       訴訟代理人弁護士   渡 邊   敏
       同    弁理士   林     宏
       同          後 藤 正 彦
       同          林   直生樹
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第35665号事件について平成12年11月17
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、名称を「マンホール用足掛具の取り付け構造」とする実用新案登録
第1871750号考案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。な
お、本件考案に係る実用新案登録は、昭和59年10月15日に株式会社デルタ工
業がした実用新案登録出願に係り、平成3年11月19日に設定登録がされた後、
原告において、平成8年3月12日にその実用新案権を同会社から譲り受け、同年
11月18日に移転登録を受けたものである。
   被告は、平成11年11月17日、上記実用新案登録につき無効審判の請求
をした。
   特許庁は、同請求を平成11年審判第35665号事件として審理した上、
平成12年11月17日に「登録第1871750号の実用新案登録を無効ととす
る。」との審決をし、その謄本は同年12月6日原告に送達された。
 2 本件考案の要旨
 マンホールの側壁Wにおける通孔1にテーパー状の受部8と外向き受面9と
を設けるほか、先端に雄ねじ4を刻設すると共に中間に鍔片5を設けた取付杆3、
3が平行に形成されたコ字状主体からなる足掛具2を設けて、この足掛具2におけ
る取付杆3と通孔1の受部8との中間空隙にテーパー付き筒状パッキング12を圧
入する状態のもとに、座金13およびナット7により座金13が受面9に圧接する
ように締め付け固定してなるマンホール用足掛具の取り付け構造。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件考案は、実願昭56-102
834号(実開昭58-9500号)のマイクロフィルム(審判・本訴とも甲第1
号証)、実開昭53-38152号公報(同甲第3号証)及び実願昭56-741
17号(実開昭57-186161号)のマイクロフィルム(同甲第4号証)記載
の各考案及び技術常識に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができた
ものであるから、実用新案法3条2項の規定に該当し、その実用新案登録は、同法
37条1項1号(平成5年法律第26号による改正前の同号の趣旨と解される。)
の規定により無効とすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、甲第1、第3号証の記載事項の認定(審決謄本3頁34行目
~5頁15行目)、本件考案と甲第1号証記載の考案との一致点及び相違点1~3
の認定(同5頁31行目~6頁17行目)、相違点1についての判断(同6頁20
行目~35行目)は認める。
 審決は、相違点2、3についての判断を誤り(取消事由1、2)、また、本
件考案の顕著な効果を看過した(取消事由3)結果、本件考案は、甲第1、第3、
第4号証記載の各考案及び技術常識に基づいて当業者がきわめて容易に考案をする
ことができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべ
きである。
 1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)
 (1) 審決は、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点2として、「本件考
案においては、その受部をテーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入す
るのに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、本件考案のパッキングに対
応するシール材がそのような構成を有しない点」(審決謄本6頁10行目~12行
目)を認定した上、当該相違点について、「甲第4号証によると、『パッキン4を
ナット5で圧縮することにより水密構造を得ている』(同明細書1頁19、20
行)との記載があり、防水性確保の点から、テーパー状の受部と、テーパー付き筒
状パッキンを圧入する状態のもとに、座金およびナットにより締め付け固定してな
るとの構成を用いることが記載されている。一方、甲第1号証によると・・・防水
性を確保するためにシール材を設けることが記載されている。してみると、甲第1
号証に記載された課題と同じ課題である防水性をより高めるために、甲第1号証に
示されているシール材に代えて、適用されている直接の技術分野は異なるものの、
甲第4号証において同様の課題解決のために開示されているテーパー状の受部とテ
ーパー付き筒状パッキン等の構成を採用し、本件考案におけるように構成するよう
なことは、特にその適用を阻害する要因もないことから、当業者であれば格別の困
難性を伴うことなく、きわめて容易になし得た程度のことである」(同7頁6行目
~23行目)と判断するが、誤りである。
 (2) まず、審決の上記判断は、甲第4号証には、ケーブルを「締め付け固定し
てなる構成」が記載されているとの認定に基づくものであるが、甲第4号証に記載
された「電動機のケーブル引出装置」においては、専ら、損傷しやすいケーブルの
水密構造を標ぼうしており、ケーブルの固定を目的としていないし、ケーブル自体
の軸線方向への拘束部材も見当たらない。仮に、パッキンの圧縮によりケーブルを
固定しようとしても、ケーブルに軸線方向への力が作用すると、ケーブルは可撓性
のある直線形状であるから、ケーブル自体が変形(縮径)して軸線方向へ移動して
しまい、これを固定することはできない。むしろ、ケーブルは、その接続部で固定
されるため、水密構造を得るためのパッキン自体には固定部材や固定手段を設ける
必要がない。したがって、審決の上記判断は、ケーブルを「締め付け固定してなる
構成」が甲第4号証に記載されていると認定した前提において誤りである。
 (3) さらに、元来、パッキングは弾性材を圧縮して使用するものであるとこ
ろ、その圧縮手段としてねじが多用され、弾性材の圧縮の程度をねじの締め加減で
調節するのが技術常識であり、甲第1、第3、第4号証記載の各考案もこのような
構造を採用したものであって、いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッ
パー構造はない。これに対し、本件考案は、その要旨が「パッキング12を圧入す
る状態のもとに、座金13およびナット7により座金13が受面9に圧接するよう
に締め付け固定してなる」と規定するとおり、座金13と受面9との圧接位置がス
トッパーとして機能する構成を採用したものであり、締め付けの程度、すなわち締
め付け位置があらかじめ規定された構成のものである。そうすると、本件考案は、
甲第1、第3、第4号証が開示していない構成を採用し、ねじの締め加減により調
節する構成の常識的なパッキング装置とは異なるパッキング手段を採用するもので
あるから、本件考案が甲第1、第3、第4号証記載の各考案に基づいて当業者がき
わめて容易に考案をすることができたものとはいえない。
 2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)
 (1) 審決は、本件考案と甲第1号証記載の考案との相違点3として、「パッキ
ングを圧入する状態のもとに、本件考案においては、座金が受面に圧接するように
締め付け固定するのに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、そのような
構成についての明示の記載がない点」(審決謄本6頁14行目~17行目)を認定
した上、当該相違点について、「甲第1号証の、特に第2、3図によると、ナット
11の座金と凹所9の底壁との間にシール材10を介在しているものの、ナット1
1の座金が凹所9の底壁に直接圧接しているかどうか明確でなく、第4図のものに
おいても、『座金が受面に圧接するように締め付け固定してなる』との点に関し、
必ずしも明示の記載はされていない。しかし、この種の足掛部材において、その取
り付けに際し、足掛部材には作業員が手足を掛けてその全体重をのせることから強
固に取り付ける必要があり、又、防水性を確保するためには当然テーパー付き筒状
パッキングを圧入する必要があり・・・これらの点を考慮すると、甲第1号証の第
4図記載のものにおいて、ストッパー5、シール材10、座金、ナットによりコン
クリート管6の周壁を挟み込むように、換言すればナットの座金が凹所9の底壁
(外向き受面)にシール材10を圧入する状態のもとに、圧接するように締め付け
固定することが当然のこととして必要であり、このようなことは、この種の分野に
おける技術常識からすれば当然に考慮すべき技術事項であると認められる」(同7
頁25行目~8頁5行目)との認定に基づいて、「甲第1号証に開示されているも
のにおいて、特に『座金が受面に圧接するように』締め付け固定するようなこと
は、上記技術常識からすれば当然考慮すべき技術事項であり、このように構成する
ようなことは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし
得た程度のことである。」(同8頁12行目~16行目)と判断するが、誤りであ
る。
 (2) すなわち、甲第1号証の第2、第3図は、ナット11の座金と凹所9の底
壁との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構成を図示す
るものであるから、審決の上記認定は明らかな誤りである。なお、第4図は他例を
図示するものであるが、同図ではナット11の座金とモルタル12が省略されてい
ると考えられるから、この他例においても、ナットと座金を用いて組み立てると、
第2、第3図が図示するものと同様な構成になるものと推認される。また、審決の
いうように「足掛部材には作業員が手足を掛けてその全体重をのせることから強固
に取り付ける必要」があるとしても、この課題から直ちに「座金が凹所9の底壁
(外向き受面)にシール材10を圧入する状態のもとに、圧接するように締め付け
固定することが当然のこと」ということはできない。したがって、甲第1号証記載
の考案に技術常識を併せ考慮したとしても、相違点3に係る構成を得ることが当業
者のきわめて容易にし得たこととはいえない。
    そもそも、座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧
接する水密構造兼固定構造は、水密技術分野における技術常識に反するものであ
り、本件考案が、座金を受面に圧接するように締め付け固定する構成としたのは、
従来の技術常識とはかけ離れた技法を取り入れたものであって、これをきわめて容
易になし得た程度のことであるとした審決の判断は到底容認することができない。
 3 取消事由3(顕著な効果の看過)
 (1) 審決は、「全体として本件考案によってもたらされる効果も、甲第1、3
及び4号証の各号証に記載された事項及び上記技術常識から当業者であれば予測す
ることができる程度のものであって、格別なものとはいえない」(審決謄本8頁1
8行目~20行目)と判断するが、誤りである。
 (2) すなわち、本件考案は、相違点1、2に係る構成を採用することにより、
座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧接する水密構造兼固
定構造を実現し、足掛具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満足する作用効
果を奏するものである。具体的には、パッキング12がテーパー面を介して圧入さ
れているため、パッキング内には常に内部応力が存在し、この力がシール面に伝播
してパッキングが常に押しつけられた状態となり、テーパー状の受部8の内面、取
付杆3の取付部の外周面、座金13のパッキングへの押圧面の合計した広い面積が
シール面となるので、長期にわたり優れたシール性能を維持することができる。さ
らに、本件考案では、取付杆の取付部のほぼ全体にわたりパッキングが巻かれてい
るから、足掛具に作業者の体重がかかっても足掛具の位置ずれや傾斜を防止するも
のであり、また、テーパー付き筒状パッキングを使用することにより、通孔1に対
する取付杆の心合わせを確実かつ容易とし、通孔の大きさや取付杆の太さに製作誤
差が生じても、パッキングをすきまなく詰めることを可能とする。
    他方、甲第1号証記載の考案は、締め付け固定が不十分となりやすく、し
かも、反復荷重や地中での使用環境による経時変化に起因する水密機能の低下とい
う問題があるので、長期にわたり漏水を確実に防止することができない致命的欠陥
がある。甲第4号証記載の考案は、ケーブルに軸線方向への力が作用すると、ケー
ブル自体が変形(縮径)して軸線方向へ移動してしまい、これを固定することがで
きないのであって、本件考案の上記のような顕著な効果は、甲第1、第3、第4号
証がそれぞれ開示するものから当業者の予測し得ないものである。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について
 (1) 原告は、甲第4号証にはケーブルを「締め付け固定してなる構成」が記載
されているとの審決の認定の誤りを主張するが、甲第4号証の第1、第2図に図示
された構造において、テーパー付き筒状パッキン4をナット5により座金7を介し
て軸方向に押し付けると、この力は、パッキンをテーパー状の受部の壁面に沿って
移動させようとする力と、壁面に垂直に押し付ける力に分力され、壁面に垂直に押
し付ける力の反力が壁面に発生し、この反力が筒状パッキンを介してケーブル3の
外周面を半径方向に押すことにより、パッキン4がテーパー状の受部に固定される
とともに、パッキンの内周面とケーブルの外周面との間に反力による摩擦力が作用
することで両者が固定される。このように、甲第4号証記載の考案では、座金とナ
ットを締め付けると、パッキン4がテーパー状の受部の壁面に固定されるととも
に、ケーブル3がパッキン4を介してテーパー状の受部の壁面に固定されるもので
あるから、審決の上記認定に誤りはない。
    この点について、原告は、さらに、パッキンの圧縮によりケーブルを固定
するとしても、ケーブルに軸線方向への力が作用するとケーブル自体が変形(縮
径)して軸線方向へ移動してしまい、これを固定することはできない旨主張する
が、ケーブルは通常ある程度の硬さを有するので、ケーブルをテーパー状の受部の
壁面との間にテーパー付き筒状パッキンを圧入して締め付けた場合、くさび効果に
より発生する大きな力により、ケーブルは筒状パッキンを介してテーパー状の受部
の壁面に固定され、ケーブルに軸線方向の力が作用してもケーブルが軸線方向へ移
動するということはない。
 (2) 次に、原告は、本件考案は座金13と受面9との圧接位置がストッパーと
して機能する構成を採用したものであるのに対し、甲第1、第3、第4号証記載の
各考案には、このようなストッパー構造はない旨主張するが、甲第1号証の第4図
は、パッキングであるシール材10がステップ1の挿通部3とテーパー状の取付凹
部13との中間空隙に、その大部分が取付凹部に収納されて残る部分だけが凹所9
の底壁受面から出た状態を図示している。そして、このような構成のものにおい
て、座金を介してナットを締め付けると、上記シール材が座金に押されて弾性変形
しながら取付凹部内に圧入され、座金が凹所の底壁受面に圧接することは、当業者
には自明である。したがって、甲第1号証の第4図が図示するものは、本件考案と
同様に、座金が受面に圧接する位置がねじを締め付ける際のストッパー位置となる
ものである。
    そして、本件考案も甲第4号証記載の考案も、パッキングを圧着した水密
効果の良いシール手段という点で共通するものであるから、甲第1号証の第4図に
図示されたテーパー状の取付凹部13とシール材10に代えて、甲第4号証に記載
されたテーパー状の受け部とテーパー付き筒状パッキンの構成を採用して本件考案
を構成することは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易に
し得た程度のことである。
 2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について
   原告は、甲第1号証の第4図も、第2、第3図と同様、ナット11の座金と
凹所9の底壁との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構
成を図示する旨主張するが、凹所9に埋設されるモルタル12は、ナット4を締め
付けて座金がパッキング10をテーパー状の取付凹部13内に圧入するように押し
付けてから埋設されることは当然であるから、第4図に示すものでは、原告の主張
するような間隙が存在することはないというべきであり、原告の主張は失当であ
る。
 3 取消事由3(顕著な効果の看過)について
   原告は、本件考案は、相違点1、2に係る構成を採用することにより、足掛
具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満足する作用効果を奏するものであ
り、その顕著な効果は、甲第1、第3、第4号証からは予測し得ない旨主張する
が、甲第1号証記載の考案のテーパー状の取付凹部13とシール材10に代えて、
甲第4号証記載のテーパー状の受部とテーパー付き筒状パッキンの構成を採用して
本件考案を構成することが、当業者のきわめて容易にし得た程度のことである以
上、本件考案と同様に、簡単な構成のもとに長期にわたり漏水を確実に防止するこ
とができるという効果を奏することは明らかであるから、本件考案の奏する効果
は、甲第1、第3、第4号証にそれぞれ記載された事項や技術常識から、当業者が
予測することのできる程度のものにすぎない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について
 (1) 原告は、まず、甲第4号証には、ケーブルを「締め付け固定してなる構
成」は記載されていないのに、審決は当該構成の記載を認定したとして、その誤り
を主張する。しかし、審決が「甲第4号証によると・・・防水性確保の点から、テ
ーパー状の受部と、テーパー付き筒状パッキンを圧入する状態のもとに、座金およ
びナットにより締め付け固定してなるとの構成を用いることが記載されている」
(審決謄本7頁6行目~10行目)とした認定は、相違点2、すなわち、「受部を
テーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入する」との構成に係る相違点
の判断として、甲第4号証には、テーパー状の受部にテーパー付き筒状パッキンを
圧入する手段として、座金及びナットによる締め付け固定手段が採られていること
をいうにすぎないものであって、「ケーブルの締め付け固定」をいう趣旨でないこ
とは、当該説示及び前後の文脈から明らかというべきである。そして、足掛具の固
定手段に係る構成については、相違点3についての判断として別途示されているの
であるから、審決の上記認定が「ケーブルの締め付け固定」をいう趣旨であること
を前提とする原告の主張は、審決の趣旨を正解しないものであって、その前提にお
いて失当といわざるを得ない。
 (2) 次に、原告は、甲第1、第3、第4号証記載の各考案は、パッキングに用
いる弾性材の圧縮程度をねじの締め加減で調節する構造を採用したものであって、
いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造はないとして、相違点
2についての審決の判断の誤りを主張するが、ねじの締め付け位置を規定するスト
ッパー構造の有無は、相違点3に係るものであって、相違点2、すなわち「受部を
テーパー状とし、テーパー付き筒状パッキングを圧入する」との構成の有無とは関
係がないというべきであり、相違点2についての判断の誤りをいう主張としては、
それ自体失当である。ただし、当該主張の趣旨は、取消事由2(相違点3について
の判断の誤り)において改めて取り上げる。
 (3) 以上のとおり、審決の相違点2についての判断に誤りはなく、原告の取消
事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点3についての判断の誤り)について
 (1) 甲第1号証の第4図に示された考案に基づいて、相違点3に係る構成を当
業者がきわめて容易に得ることができたかどうかを検討する。
    甲第1号証によれば、同号証は「マンホール用足掛装置」に関するもので
あって、その考案の詳細な説明中には、一つの実施例として、「シール材10を安
定した状態で挿通部3に取付ける場合には第4図に示す如く、凹所9内の挿通孔7
の周りにシール材10の取付凹部13を予め形成することも可能である」(4頁1
0行目~13行目)との記載があり、第4図として、コンクリート管6の壁面を貫
通した挿通孔7が壁面に設けられた凹所9の底壁に開口する箇所にテーパー状の取
付凹部13が形成され、パッキングに相当するシール材10が、その大部分を取付
凹部内に収納され、残る部分を底壁から凹所内に出た状態で装着されている状態が
図示されていることが認められる。
    そして、同図には、ナット及び座金は記載されていないものの、挿通部3
が凹所内に露出した側周面にはネジ4が切られていることから、第2、第3図の実
施例と同様に、座金をはめてナットにより螺合して挿通部3を締め付けることが予
定されていることは明らかであり、また、同図に示された考案がマンホール用足掛
装置に関するものであって、ステップ1は人の体重を支えるものであるから、ステ
ップ1を支える挿通部3は、そのような荷重に耐えられるよう強固に固定される必
要のあることは自明の課題というべきである。そうすると、甲第1号証の第4図に
示された考案において、座金を凹所9の底壁に圧接させ、ストッパー5と相まっ
て、挿通部3の周壁部分を挟み込むようにしてステップ1を固定することは、当業
者にとって自明の技術事項というべきである。しかも、そのような締め付け固定方
法を採用した場合、上記取付凹部13は凹所9に向けて開いたテーパー状であるこ
とから、座金がシール材を押してこれを取付凹部13内に圧入することで水密作用
を奏することは明らかであり、甲第1号証記載の考案の目的の一つであるステップ
の取付部分の防水性の向上と何ら矛盾しないばかりか、むしろこれに沿うものであ
る。
    したがって、甲第1号証の第4図に示された考案に、上記自明の技術事項
を適用して相違点3に係る構成を得ることは、当業者にとってきわめて容易に想到
し得るものということができる。
    原告は、甲第1号証の第2、第3図は、ナット11の座金と凹所9の底壁
との間に間隙が存在し、その間隙にモルタル12が充填されている構成を図示する
ものであって、ナット等の記載の省略された第4図に示された考案においても、こ
れと同様な構成になるものと推認される旨主張する。しかし、上記第2、第3図
が、座金を凹所9の底壁に圧接せず、間隙が存在する状態を図示するものであると
しても、それは、同各図の実施例が、第4図の実施例と異なり、シール材10を収
納するためのスペースとなる取付凹部13を設けないものであるために、座金と凹
所9の底壁との間に取り付けられたシール材10の存在により、座金と凹所9の底
壁とが物理的に圧接し得ず間隙が残ってしまう状態が示されているにすぎないとい
うべきであり、それ以上にこのような間隙を残しておくべき技術的必然性はにわか
に見い出し難い。もっとも、水密機能の維持に必要な限度を超えてシール材が押し
つぶされることによるシール材の劣化を防止するといった配慮も考えられるが、そ
のような配慮は、第2、第3に示されたものと異なり、シール材10の大部分を収
納する取付凹部13が設けられている第4図に示された考案においては、ほとんど
考慮する必要のない事項にすぎないから、結局のところ、第4図に示された考案に
おいて、ナット11の座金と凹所9の底壁との間に間隙を残しておく技術的必然性
はなく、座金を凹所9の底壁に圧接させるという自明の技術事項の適用を阻害する
要因とはなり得ないというべきである。したがって、甲第1号証の第2、第3図に
おいて、座金が凹所9の底壁に圧接せず、間隙が存在する状態が図示されていると
しても、上記の認定判断を何ら左右するものではない。
 (2) 原告は、取消事由1に関する主張として、甲第1、第3、第4号証記載の
各考案は、パッキングに用いる弾性材の圧縮程度をねじの締め加減で調節する構造
を採用したものであって、いずれにも、ねじの締め付け位置を規定するストッパー
構造はない旨主張するが、これを相違点3についての判断の誤りをいう趣旨と解し
たとしても、甲第1号証記載の考案(第4図の実施例に係るもの)に自明の技術事
項を踏まえて検討した場合、ねじの締め付け位置を規定するストッパー構造が実質
的に開示されているということができるから、原告の上記主張は、結局、採用する
ことができない。
 (3) したがって、相違点3についての審決の判断に誤りはなく、原告の取消事
由2の主張は理由がない。
 3 取消事由3(顕著な効果の看過)について
   原告は、本件考案の顕著な効果として、相違点1、2に係る構成を採用する
ことにより、座金によりパッキングを圧入すると同時に同じ座金を受面に圧接する
水密構造兼固定構造を実現し、足掛具の確実な固定と確実な水密効果とを同時に満
足する点を主張するが、このような効果が、甲第1号証(第4図の実施例に係るも
の)から当業者の予測し得る程度のものであることは、上記2(1)で述べたところか
ら明らかというべきである。
   また、原告は、本件考案では、①テーパー状の受部8の内面、取付杆3の取
付部の外周面、座金13のパッキングへの押圧面の合計した広い面積がシール面と
なるので、長期にわたり優れたシール性能を維持することができること、②取付杆
の取付部のほぼ全体にわたりパッキングが巻かれているから、足掛具に作業者の体
重がかかっても足掛具の位置ずれや傾斜が防止されること、③テーパー付き筒状パ
ッキングを使用することにより、通孔1に対する取付杆の心合わせを確実かつ容易
とし、通孔の大きさや取付杆の太さに製作誤差が生じても、パッキングをすきまな
く詰めることが可能となることについても主張するが、これらの点は、甲第1号証
が開示するシール材と取付凹部に代えて、甲第4号証が開示するテーパー状の受部
とテーパー付き筒状パッキングを適用すれば、その客観的な構成自体から当然に当
業者の予測することのできる程度のものにすぎないというべきであり、これを本件
考案の格別顕著な効果ということはできない。
 4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
つき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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