弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役四年に同Bを懲役三年に夫々処する。
     但し、被告人Bに対しては、此の裁判確定の日から三年間右刑の執行を
猶予する。
     押収に係る杉丸太一本(昭和二十五年押第四百二十一号の一)はこれを
没収する。
     原審において生じた訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は末尾添附の弁護人牛島定作成名義の控訴趣意書及び追加控訴
趣意書と題する各書面記載のとおりであつてこれに対して当裁判所は次のとおり判
断する。
 弁護人控訴趣意第一点について
 <要旨第一>然し乍ら刑事訴訟法第三百十九条に所謂「任意に供述されたものでな
い疑のある自白」であるか否かは訴訟進行の総ての状況即ち該書類の形
式内容は勿論被告人の弁解及び態度、検察官の釈明、該書類作成に関与した証人の
証言等あらゆる面から原審裁判所において最も合理的な判断を下すべきであつて単
に原審公判廷において被告人が強制による旨弁解供述したからと云つてこれによら
ねばならないと謂うものではない。而して本件記録を精査し、所論の総ての事情を
参酌するも所論摘録の検察官作成の各供述調書が任意に供述されたものであること
は優にこれを認めることができ原審裁判所がこれを証拠能力ありとして証拠調を為
し以つて証拠としたのは洵に相当であつて論旨は畢竟原審と反対の見解に立ち原審
の専権に属する証拠の取捨を論難するものであつて論旨はその理由がない。
 前同第二点について
 本件記録を精査するに原審裁判所は昭和二十四年七月五日附決定を以つて検察官
請求の被告人Aに対する昭和二十四年一月十六日附司法警察員作成の第一回供述調
書、同一月十七日附第二回供述調書、同一月十八日第三回供述調書並に被告人Bに
対する同年一月十八日附司法警察員作成の第二回供述調書をいづれも刑事訴訟法第
三百二十二条第一項但し書により任意にされたものでない疑があると認めて却下し
て居り乍ら原審第五回公判廷において検察官が同じ前記各供述調書を刑事訴訟法第
三百二十八条によつて取調の請求を為しこれに対し弁護人より異議を主張したのに
裁判長はこの証拠を採用して証拠調をしたこと洵に所論のとおりである。
 <要旨第二>よつて原審裁判所の前記証拠調は適法なりや否につき考究するに苟く
も原審裁判所が当該各供述調書を刑事訴訟法三百二十二条第一項但し書
により延いては同法第三百十九条第一項により任意にされたものでない疑があるも
のとして却下した以上は同法第三百二十八条により被告人又は証人の供述の証明力
を争うためにもこれを証拠とすることができないものと解すべきこと洵に所論のと
おりであつて原審裁判所の前記証拠調は違法たるを免れない。然し乍ら数多の証拠
調手続中の或るものに違法手続があつたとしても該違法手続に基く証拠を以つて犯
罪事実の認定資料として居れば格別若し然らざる場合には該違法は直ちに判決に影
響を及ぼすものと云うことができない。原判決挙示の各証拠を詳細に検討するも前
記違法の証拠を採用した形跡は毫も存しないのみならず該違法は毫も判決に影響を
及ぼすものと認め難いから論旨はその理由がほい。
 前同第三点について
 本件記録を精査するに原審第二回公判廷において検察官は未だ証人として喚問さ
れないCの司法警察員に対する供述調書を刑事訴訟法第三百二十八条に基き取調を
請求し裁判所は弁護人の異議に拘らず右書類を提出させて昭和二十四年七月五日附
でこれを採用する旨決定していること洵に所論のとおりである。而してかかる未だ
証人として喚問されないCの司法警察員に対する供述調書を刑事訴訟法第三百二十
八条に基き<要旨第三>被告人証人その他の者の供述の証明力を争うために証拠とす
ることができるか否かについて案ずるに刑事訴訟法第三百二十八条は公
判準備又は公判期日における被告人その他の者の供述の証明力を争うためには同法
第三百二十一条乃至第三百二十四条の規定により証拠とすることができない書面又
は供述であつてもこれを証拠とすることができる旨を規定しているのであつて同条
の法文解釈よりすれば一般的には刑事訴訟法第三百二十一条乃至第三百二十四条の
規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても公判準備又は公判期
日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには総て無制限に証
拠とすることができる趣旨と解すべきであつて所論の如く同条に所謂公判準備又は
公判期日における「被告人、証人その他の者」は「法廷外においてその供述をした
その被告人、証人その他の者」の意味に解すべきではない。されば原審裁判所が前
記の如く公判廷において未だ証人として喚問されないCの司法警察員に対する供述
調書を刑事訴訟法第三百二十八条に基き証拠調を許容したのは毫も支障なく所論は
独自の見解に基いて原審裁判所の措置を論難するものであつて論旨はその理由がな
い。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中野保雄 判事 川本彦四郎 判事 渡辺好人)

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