弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人森本耕司の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 1 熊本市では、昭和五七年九月六日以降、一部の課(市民課、保険課、年金課
等)において、職員の昼休みの休憩時間を交代で繰り下げることによって、午後零
時から午後一時までの時間も継続して窓口業務(以下、この業務を「昼休み窓口業
務」という。)を行うこととなり、これに伴い、当時の市長であるD(以下「D前
市長」という。)は、昼休み窓口業務に従事した職員に対し、「昼窓手当」と称す
る特殊勤務手当(以下「本件手当」という。)を支給することにした。
 2 普通地方公共団体は、その職員に対し、条例に基づき特殊勤務手当を支給す
ることができるところ(地方自治法二〇四条二項、地方公務員法二五条三項四号)、
熊本市においては、熊本市一般職の職員の給与に関する条例(昭和二六年熊本市条
例第五号)一六条が「特殊勤務手当の種類、支給を受ける者の範囲、手当の額及び
その支給方法は、別に条例で定める。」と規定し、これを受けて定められた熊本市
職員特殊勤務手当支給条例(昭和二八年熊本市条例第二二号。以下「本件条例」と
いう。)は、二条において、「手当の種類、手当を受ける者の範囲及び手当の額は、
別表のとおりとする。」と定め、別表において、伝染病作業手当、清掃等作業手当、
夜間看護手当など一三種類の特殊勤務手当を掲げ、これを受ける者の範囲及び手当
の額を具体的に規定している。右別表には、昼休み窓口業務に従事した職員に対し
て支給される特殊勤務手当は掲げられていなかったが、D前市長は、本件条例六条
が、「この条例に定めるもの以外の勤務で特別の考慮を必要とするものに対しては、
市長は、臨時に手当を支給することができる。」(一項)、「前項の手当の額は、
そのつど市長が定める。」(二項)と定めているところから、右別表の改正を経る
ことなく、右六条に基づくものとして、本件手当を支給することとした。
 3 熊本市においては、本件手当の支給を開始するに当たり、他の地方公共団体
において昼休み窓口業務に従事した職員に対して手当を支給しているかどうかなど
の点につき調査を行ったところ、これを支給している地方公共団体が相当数あった
ことから、D前市長は、昼休み窓口業務の開始について職員団体の同意を得るため
に、本件手当を支給するのもやむを得ないと判断したものである。しかし、右の調
査の対象となった地方公共団体のうち昼休み窓口業務に従事した職員に対して特殊
勤務手当を支給していた地方公共団体には、昼休み窓口業務を特殊勤務手当の支給
の対象とする旨の条例の定めがあったのに、熊本市は、根拠条例の有無までは調査
を行わなかった。
 4 D前市長は、昭和五八年以後は、毎年、その年の四月一日から翌年三月三一
日までの期間につき、昼休み窓口業務に従事した者に対して本件手当を支給するこ
と及びその額の増額を決定し、本件条例六条に基づくものとして本件手当の支給を
行った。同六一年一二月にD前市長の後を受けて熊本市長に就任した被上告人も、
毎年、前同様の決定をして本件手当の支給を続け、平成元年一一月一日からは、昼
休み窓口業務を税務部門にも拡大して、本件手当を支給するようになった。
 5 熊本市において、平成元年四月一〇日から同二年四月九日までの間に昼休み
窓口業務に従事した職員は延べ一万〇二二一人であり、被上告人が本件条例六条に
基づくものとして支給した本件手当の総額は、一〇二九万〇九二七円であった。
 二 熊本市の住民である上告人は、被上告人がした右一5の本件手当の支給(以
下「本件支出」という。)は、違法な公金の支出に当たると主張して、被上告人に
対し、その支給総額に相当する一〇二九万〇九二七円の損害賠償及び年五分の割合
による遅延損害金を熊本市に支払うことを請求したところ、第一審判決は、右請求
を認容したが、原審は、被上告人がした本件支出は、本件条例六条に基づき適法に
されたものであり、仮にそうでないとしても、被上告人が本件支出をしたことに故
意又は過失はないと判断して、第一審判決を取り消した上、上告人の請求を棄却し
た。
 三 しかし、原審の右判断は、いずれも是認することができない。その理由は次
のとおりである。
 1 特殊勤務手当は、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特
殊な勤務であって、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を給料で考慮
することが適当でないと認められる勤務に従事した職員に対して支給すべき手当で
あると解されるところ、普通地方公共団体は、その職員に対し、いかなる給与その
他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには支給することができず(地方
自治法二〇四条の二、地方公務員法二五条一項)、給料、手当及び旅費の額並びに
その支給方法は、条例で定めなければならないのであって(地方自治法二〇四条三
項)、この理は、特殊勤務手当の支給についても異なるところはない。そうすると、
どのような勤務を対象として特殊勤務手当を支給するのかは、条例において規定す
べきものであって、この判断を広く普通地方公共団体の長の裁量にゆだねることは、
地方自治法及び地方公務員法の右各規定の許容しないところといわなければならな
い。
 しかしながら、普通地方公共団体においては、臨時に、著しく危険、不快、不健
康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務に従事することを職員に命ずることがあ
るが、特殊勤務手当の支給の対象とされている他の勤務との対比において、この勤
務を特殊勤務手当の支給の対象としないことが不合理であると考えられるのに、条
例では、その対象とされていない結果、特殊勤務手当の支給に関し均衡を失する事
態を生ずることも考えられないではない。本件条例六条の規定は、このような場合
には、特別の考慮を要するものとして、臨時に従事させた勤務について、市長の判
断によって、応急的に、同条例別表記載の手当の額に準ずる額を決定して、特殊勤
務手当を支給することを可能にしたものと解される。したがって、本件条例六条は、
職員を臨時に従事させた勤務について特殊勤務手当を支給しないことが、同条例別
表に掲げられた特殊勤務手当の支給の対象となる勤務との対比において不合理であ
ると認められるような場合に、市長が、応急的措置として、特殊勤務手当を支給す
ることを許容したものと解するのが相当であって、その限りにおいて、地方自治法
及び地方公務員法の前記各規定に抵触しないものということができる。
 2 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、熊本市においては、昼
休み窓口業務は、昭和五七年九月六日以降、継続的、恒常的に行われており、職員
を昼休み窓口業務に臨時に従事させたとみる余地はないし、これに対する本件手当
の支給も継続的に行われてきたことが明らかである。そうすると、本件手当が、職
員を臨時に従事させた職務につき、応急的に支給されたものとは認め難い。市長が、
毎年度ごとに、その支給を決定していたという事情があるとしても、この点の評価
が変わるものではない。しかも、昼休み窓口業務は、休憩時間が一時間繰り下がる
ものの、その勤務内容や勤務条件からすれば、本件条例別表に掲げられた一三種類
の特殊勤務手当の支給の対象となる勤務との対比において、特殊勤務手当の支給の
対象としないことが不合理であると認められるような勤務に当たるということもで
きない。したがって、本件支出は、本件条例六条によって市長に許容された範囲を
超えて行われたものであって、条例に基づかない違法な支出であるというほかはな
い。
 3 以上に検討したところによれば、被上告人は、本件条例六条に基づき、市長
の裁量的判断により、昼休み窓口業務に従事した者に対して本件手当を支給するこ
とができるという誤った条例の解釈に基づき、本件支出を行ったものといわざるを
得ないが、前記の地方自治法及び地方公務員法の規定があることに加え、本件条例
六条が同二条及び別表を補充するものとして置かれていることや同六条が臨時的、
応急的な措置を定めるものであることは同条の文理から十分に読み取れることを考
慮するならば、被上告人の右の解釈に相当な根拠があるものとみることはできない。
しかも、前記事実関係によれば、熊本市が前記調査の対象とした地方公共団体のう
ち、昼休み窓口業務に従事した職員に対して特殊勤務手当を支給していた地方公共
団体には、昼休み窓口業務を特殊勤務手当の支給の対象とする旨の条例の定めがあ
ったというのであるから、その点についての調査を行っていたならば、本件条例六
条に基づいて本件手当の支給を続けることに疑義のあることは容易に知り得たもの
というべきである。そうすると、被上告人は、市長として尽くすべき注意義務を怠
り、誤った条例の解釈に基づいて漫然と本件手当の支給を継続したものであり、被
上告人は、その過失により、違法な本件支出をしたものと評価せざるを得ない。
 四 以上によれば、上告人の請求を棄却した原審の判断は、法令の解釈適用を誤
ったものというべきであり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるか
ら、この点をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、
原判決は破棄を免れない。そして、前示説示によれば、上告人の請求を認容した第
一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法
七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    高   橋   久   子

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