弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人亀田信男の上告理由中第三章を除くその余の上告理由、同井上励
の上告理由、同和田元久の上告理由中第二の八を除くその余の上告理由及び上告人
の上告理由中第三章を除くその余の上告理由について
 酒税法が酒類販売業につき免許制を採用したのは、納税義務者である酒類製造者
に酒類の販売代金を確実に回収させ、最終的な担税者である消費者に対する税負担
の円滑な転嫁を実現することを目的として、これを阻害するおそれのある酒類販売
業者の酒類の流通過程への参入を抑制し、酒税の適正かつ確実な賦課徴収という重
要な公共の利益を図ろうとしたものと解される。このような酒類販売業免許制の採
用後、社会経済の状況や税制度の変化に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合等
が相対的に低下してきているが、本件処分当時(平成四年七月二日)においても、
なお酒税の収入総額が多額であって、販売代金に占める酒税比率も高率であること、
酒税の賦課徴収に関する仕組み自体がその合理性を失うに至っているとはいえない
ことなどからすると、酒税の徴収のため酒類販売業免許制を存置させていたことが、
立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとまで
断定することはできない(最高裁平成六年(行ツ)第七六号同一〇年三月二六日第
一小法廷判決・裁判集民事一八七号登載予定参照)。
 また、本件処分の理由とされた酒税法一〇条一一号は、酒税の保全上酒類の需給
の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合
に酒類販売業の免許を与えないことができる旨定めるところ、その趣旨は、免許の
申請者が参入することにより申請に係る小売販売地域における酒類の需給の均衡が
破れて供給過剰となった場合には、酒類販売業者の経営の基礎が危うくなり、その
結果、酒類製造者による酒類販売代金の回収に困難を来し、酒税の適正かつ確実な
徴収に支障を生ずるおそれがあることから、新規の参入を調整することによって、
供給過剰となる事態を避けようとしたものと解され、右規定は、前記立法目的を達
成するための手段として、合理性を有するものということができる。
 そうすると、酒税法九条一項、一〇条一一号の規定が、憲法二二条一項に違反す
るものということはできない。
 以上は、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四
月三〇日判決・民集二九巻四号五七二頁、最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六
〇年三月二七日判決・民集三九巻二号二四七頁)の趣旨に徴して明らかである(最
高裁昭和六三年(行ツ)第五六号平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六
巻九号二八二九頁参照)。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することが
でき、論旨は採用することができない。
 二 上告代理人亀田信男の上告理由第三章、同和田元久の上告理由第二の八及び
上告人の上告理由第三章について
 1 本件事実関係の概要は、次のとおりである。
 (一) 本件処分当時の酒類販売業免許制の運用については、酒税法一〇条各号
該当性の具体的な判断の基礎となる内部基準として、酒類販売業免許等取扱要領(
平成元年六月一〇日付間酒三―二九五「酒類の販売業免許等の取扱について」国税
庁長官通達の別冊)及び「一般酒類小売業免許の年度内一般免許枠の確定の基準に
ついて」(平成元年六月一〇日付間酒三―二九六国税庁長官通達。以下両通達を合
わせて「平成元年取扱要領」という。)が設けられ、これに従った運用が行われて
いた。
 (二) 平成元年取扱要領は、従前適用されていた酒類販売業免許等取扱要領(
昭和三八年一月一四日付間酒二―二「酒類の販売業免許等の取扱について」国税庁
長官通達の別冊。以下「昭和三八年取扱要領」という。)を全面的に改正したもの
である。昭和三八年取扱要領は、酒税法一〇条一一号該当性の認定基準として、小
売販売地域内の酒類の総販売数量及び総世帯数を基に計算した数値が別に定める小
売基準数量又は基準世帯数のいずれかを上回る場合に限り免許を付与し得ることと
しながら、そのただし書において、右要件に合致しても免許を与えない場合がある
ことを規定していた。これに対し、平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領制定
以降の社会経済の変化に即応し、制度運営の透明性及び公平性を一層確保すること
を目的として、次のとおり改正された。すなわち、平成元年取扱要領は、昭和三八
年取扱要領における前記ただし書条項を全面的に削除するとともに、酒税法一〇条
一一号該当性の認定方法及びその基準として、従前よりも広域の小売販売地域ごと
に地域の規模や人口密度による三段階の格付をし、当該小売販売地域の人口を右段
階ごとに分かれた基準人口(A地域一五〇〇人、B地域一〇〇〇人、C地域七五〇
人)で除して得られる基準人口比率から既に免許のある販売場の数を控除して、新
たに免許を付与し得る販売場数の計算値を求め、これをおおむね五年で付与するた
め五で除するなどして、当該小売販売地域の当該年度内の一般免許枠を確定し、そ
の枠内で免許を付与することを原則とし、右免許枠以上の申請があるときは、抽せ
んにより審査順位を定めることとした。また、その例外的取扱いとして、(1)右
の基準人口を採用することが適当でないと認められる場合には、国税庁長官に上申
の上、二〇パーセントの枠内で基準人口を変更することができ、(2)新たに住居
地域、商業地域等が造成される場合、高層建築物が集積し昼間人口が住民登録人口
に比べて特に多い場合など所定の場合であって、小売販売地域内の特定の地区又は
場所において特に一般酒類小売業免許を付与する必要があると認めるときは、国税
局長に上申して、特例免許指定地区を設けた上、年度内特例免許枠を定めて免許を
付与することができ、(3)右以外の場合で、人口又は事務所の集中する地区又は
場所であって年度内特例免許枠を設けて免許を付与することが合理的と判断される
ときは、国税庁長官に上申して、右と同様の措置を執るものとした。
 (三) 平成元年取扱要領が小売販売地域を三段階に区分し、それぞれの基準人
口を前記のとおり定めたのは、当時の各種統計資料に基づく酒類小売業者の経営実
態を参酌したものである。すなわち、昭和五二年から同六二年までの間の一般酒類
小売業の販売場数は緩やかに増加し、その間の国民一人当たりのアルコール消費量、
酒類消費金額の推移も比較的緩やかな伸びにとどまっていたところ、昭和六二年度
における新規免許の付与例における一販売場当たりの平均人口は、A地域が一五六
七人、B地域が一一二六人、C地域が八七八人であって、同年度における一般酒類
小売業者の酒類売上金額を国民一人当たりの平均酒類消費金額で除して得られる人
口は、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人であり、平成
元年取扱要領における基準人口は、ほぼこれらの数値に適合するものであった。
 (四) 被上告人は、平成元年取扱要領に定められた認定基準に従って計算した
結果、上告人の申請に係る小売販売地域(東京都台東区のうち浅草税務署管轄区域
を除く地域)は、A地域であって、基準人口比率が四五であるところ、既に一般酒
類小売業免許を付与された場数が一一九であり、年度内一般免許枠が存在しなかっ
たため、上告人の申請した販売場に対して免許を付与した場合には酒類の需給の均
衡を破り酒税確保に支障を来すおそれがあると判断して、本件処分をした。
 2 以上によれば、平成元年取扱要領は、昭和三八年取扱要領における問題点を
是正することを目的として改正されたものであり、実態に合わせて算出された基準
人口比率によって酒類の需給の均衡を図ることとしたほか、前記ただし書条項を全
面的に削除し、逆に、所定の基準人口に適合しない場合であっても、免許を付与し
得る道を開いたものと解され、恣意を排するとともに、柔軟な運用の余地も持たせ
たものとみることができる。そして、酒類の消費量は、何よりも当該販売地域に居
住する人口の大小によって左右されるものと考えられるから、これを基準として需
給の均衡を図ることは、世帯数等を基準とするよりも合理的な認定方法ということ
ができる。したがって、平成元年取扱要領における酒税法一〇条一一号該当性の認
定基準は、当該申請に係る参入によって当該小売販売地域における酒類の供給が過
剰となる事態を生じさせるか否かを客観的かつ公正に認定するものであって、合理
性を有しているということができるので、これに適合した処分は原則として適法と
いうべきである。もっとも、酒税法一〇条一一号の規定は、前記のとおり、立法目
的を達成するための手段として合理性を認め得るとはいえ、申請者の人的、物的、
資金的要素に欠陥があって経営の基礎が薄弱と認められる場合にその参入を排除し
ようとする同条一〇号の規定と比べれば、手段として間接的なものであることは否
定し難いところであるから、酒類販売業の免許制が職業選択の自由に対する重大な
制約であることにかんがみると、同条一一号の規定を拡大的に運用することは許さ
れるべきではない。したがって、平成元年取扱要領についても、その原則的規定を
機械的に適用さえすれば足りるものではなく、事案に応じて、各種例外的取扱いの
採用をも積極的に考慮し、弾力的にこれを運用するよう努めるべきである。
 3 これを本件についてみると、上告人の申請に係る小売販売地域が事務所や商
店の集中する昼間人口の多い地区であることは公知の事実であるから 例外的取扱
いの採否が問題とされるべきであるが、他方、既に基準人口比率四五を著しく上回
る数の販売場に免許が付与されていることも考慮すると、平成元年取扱要領に従っ
てされた本件処分に違法はないとした原審の判断は、正当として是認することがで
きる。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の認定に沿わない事実をまじえ、独自の
見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず、採
用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄
            裁判官    大   出   峻   郎

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