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平成22年3月31日判決言渡
平成21年(行ケ)第10247号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月24日
判決
原告カールストーツデベロップメント
コーポレーション
訴訟代理人弁理士志賀正武
同渡邊隆
同村山靖彦
同実広信哉
同阿部達彦
同増本要子
訴訟復代理人弁理士黒田晋平
被告特許庁長官
指定代理人森林克郎
同小松徹三
同廣瀬文雄
同田村正明
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008−1757号事件について平成21年4月8日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が名称を「先端に画像センサを備えた視界器具の可変方向性」
とする発明について日本国特許庁に特許出願(本願)をしたところ,拒絶査定
を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,同庁から請求不成立の審
決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,本願の請求項1に係る発明(本願発明)が下記各引用文献に記載さ
れた発明との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

・特開昭49−131144号公報(発明の名称「内視鏡における観察方向回
転用光学系」,出願人キヤノン株式会社,公開日昭和49年12月16日。
以下,この文献を「引用例1」といい,これに記載された発明を「引用発
明」という。甲1)
・特開昭60−196719号公報(発明の名称「固体撮像素子内蔵の内視
鏡」,出願人オリンパス光学工業株式会社,公開日昭和60年10月5日。
以下,この文献を「引用例2」といい,これに記載された発明を「甲2発
明」という。甲2)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,2005年(平成17年)1月21日の優先権(米国)を主張し
て,平成18年1月23日,名称を「先端に画像センサを備えた視界器具の
可変方向性」とする発明について外国語による特許出願(特願2006−1
4160号)をし,次いで平成18年2月15日に翻訳文を提出し(公開公
報は特開2006−201796号),その後平成19年9月19日付けで
特許請求の範囲の変更を内容とする補正(請求項の数31。甲4)をしたが,
拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2008−1757号事件として審理した上,
平成21年4月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし
(出訴期間として90日附加),その謄本は平成21年4月21日原告に送
達された。
(2)発明の内容
上記補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1∼31から成るが,
そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は以下の
とおりである。
・【請求項1】
視野方向が可変とされた視界器具であって,
先端部と,長手方向軸線と,を有しているシャフトと;
このシャフトの前記先端部に取り付けられたセンサであるとともに,前
記シャフトの前記長手方向軸線に対して実質的に平行な画像平面を有して
いるセンサと;
前記シャフトの前記先端部のところに配置された反射部材であるととも
に,入射光を受領し,その受領した入射光を,前記センサの前記画像平面
上へと案内する反射部材と;
を具備し,
前記反射部材が,前記シャフトの前記長手方向軸線に対して実質的に垂
直な回転軸線回りに回転するものとされていることを特徴とする視界器具。
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は前記引用例1及び2に記載された発明に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許を受けることができ
ない(特許法29条2項),というものである。
なお,審決が認定した引用例1に基づく発明(引用発明)の内容,本願発
明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写しのとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるので,違法とし
て取り消されるべきである。
ア取消事由1(相違点認定の誤り)
本願発明は,「センサ」が「前記シャフトの前記長手方向軸線に対して
実質的に平行な画像平面を有している」こと,及び「反射部材」が「前記
シャフトの前記長手方向軸線に対して実質的に垂直な回転軸線回りに回転
する」ことが特定されている。この2つの構成要件によって,本願発明の
反射部材は回転するが,画像平面を有するセンサは回転しないで固定され
ていることが分かる。
しかし,審決には,センサが「回転しないで固定されている」ことを認
定せずに看過した点に誤りがある。以下,本願発明は「センサ」が「回転
しないで固定されている」と認定すべき根拠について述べる。
まず,本願発明のセンサは「シャフトの長手方向軸線に平行な画像平面
を有する」のであるから,このことだけを見るとセンサはシャフトの長手
方向軸線周りに回転して自由な位置をとることもできる。この限りにおい
ては審決の相違点の認定は正しい。
他方,本願発明の反射部材は「入射光を受領し,その受領した入射光を
前記画像平面へと案内する」ものであるから,もしセンサがシャフトの長
手方向軸線周りに回転するならば,入射光もセンサと同期して回転しなけ
ればならない。なぜならば,画像平面を有するセンサには,光学原理上,
入射光の光軸はセンサの画像平面に対して直交するように入射しなければ,
入射光はセンサ上で結像することができないからである。画像平面が光軸
と直交せずに傾斜している場合には,画像平面内で光軸から離間すれば離
間するほど解像度が低下する。逆に,センサがシャフトの長手方向軸線周
りに回転しないで固定位置にあるとすれば,入射光の光軸も固定しなけれ
ばならない。入射光の光軸は,センサと反射部材の位置関係によって決ま
る。
そこで,本願発明の反射部材をみると,本願発明は「反射部材が,前記
シャフトの前記長手方向軸線に対して実質的に垂直な回転軸線回りに回転
する」構成を特定している。したがって,「反射部材が長手方向軸線に対
して実質的に垂直な軸線周りに回転する」という前提を条件としつつ,
「センサの画像平面が反射部材からの入射光の光軸と直交しなければなら
ない」という一般的な光学条件を充たすセンサは,「シャフトの長手方向
軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されている」と認定されな
ければならない。すなわち,本願発明は,反射部材を回転させながら観察
対象物からの入射光を反射させつつ入射方向の光軸を常に一定方向に反射
させ,シャフトの長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定
されているセンサにその入射光を入射させるようになっている。
審決は,相違点の認定において,本願発明にかかる請求項1の字義的な
記載のみをもって本願発明を認定し,その結果,本願発明と引用発明の相
違点を看過したものである。
また,「反射部材」と「センサ」とが一定の固定関係にあるからこそ,
使用者は長手方向軸線回りにシャフトを回転させることができるものであ
り,本願発明は,「反射部材」が長手方向軸線に対して垂直な軸線回りに
回転し,使用者が長手方向軸線回りにシャフトを回転させることにより,
二つの軸回りを観察可能としてなおかつ機構の複雑さを解消している。
イ取消事由2(相違点認定の誤りに基づく判断の誤り)
(ア)本願発明は「反射部材が長手方向軸線に対して垂直な軸線周りに回転
する」という構成要件と「センサはシャフトの長手方向軸線に対して平
行でかつ回転しないように固定されている」という構成要件とにより,
本願明細書(公開特許公報,甲3)段落【0036】に記載された「画
像撮影手段46を静止状態に維持し得ることにより,電気的配線の曲げ
や回転に関連する問題点の発生を,回避することができる。」という作
用効果を有するのである。ここでいう「画像撮影手段」が「センサ」で
あり,「静止状態」が「回転しないように固定されている状態」に対応
する。
一方,引用例2(甲2)の内視鏡は,その記載(2頁左下欄9行∼右
下欄5行,2頁右下欄12行∼18行,3頁右上欄6行∼18行)によ
れば,反射部材を有せず,対物レンズ系18を通過した光は,直進して
固体撮像素子19に入射する。そして,入射した入射光は,固体撮像素
子19によって光情報から電気信号に変換され,変換された電気信号は
第1図に図示されるように表示装置9a,9b・・・に送信されなけれ
ばならない。しかし,対物レンズ系18と固体撮像素子19とが一体に
なった回転先端部14Bは,モータ16の駆動力により一体となって回
転するから,引用例2には,回転する固体撮像素子19と回転しない先
端部本体14A内に収納されたリード線とのインターフェイスとして接
点23Bとリング状接点23Aとが設けられている。したがって,回転
先端部14Bが回転するつど接点23Bとリング状接点23Aとの接離
が行われることになる。このように,固体撮像素子19が回転する引用
例2に記載された発明の場合,固体撮像素子19で得られた電気信号を
接点という機械式インターフェイスによって送受信しなければならない
ために,部品数が多くなって構造が複雑になるばかりか,人体の管腔内
という高湿度の環境下での電気信号の正確な送受信や耐久性の問題が不
可避である。
そうすると,本願発明は反射部材を回転させるが,センサは回転させ
ない構成を必須として機械的インターフェイスを排除することにより,
本願明細書の段落【0036】に記載された格別の作用効果を有するも
のであるから,引用発明の構成に引用例2に記載された発明の構成を採
用して容易に想到することはできない。
(イ)なお,本願明細書の段落【0036】に記載された作用効果は,「セ
ンサがシャフト長手方向軸線に垂直な軸線回りに回転するような場合に
生じた」問題点を解決する作用効果には限られず,「センサがシャフト
長手方向軸線の回りに回転するような場合に生じた」問題点も解決する
作用効果である。
ウ取消事由3(阻害要因の看過による進歩性の判断の誤り)
(ア)引用例1に記載された内視鏡は,物体Aから得られた光情報を対物レ
ンズと二つのプリズムと光ファイバーと接眼レンズを介して肉眼で人体
の管腔を直接的に観察する内視鏡である。つまり,この引用例1には,
光学技術のほかに,肉眼で人体の管腔を直接的に観察するために,倒立
像を正立像に変換したりあるいは左右逆像を左右正像に変換するように
光の経路を確保する技術として首尾一貫して機構技術は記載されている
ものの,その他の例えば光情報を電子情報に変換する電子技術は開示も
示唆もされていない。したがって,引用発明の技術分野は内視鏡とは
いってもいわば光学機構技術の分野に属するものである。
これに対し,引用例2に内視鏡は開示されてはいるものの,引用例1
のように人体の管腔を直接的に観察する内視鏡ではなく,人体の管腔内
の光情報を固体撮像素子によっていったん電気信号に変換し,電気信号
を光情報に変換して表示装置等に表示し,観察者は表示装置を通して間
接的に人体の管腔内を観察する内視鏡が開示されている。したがって,
引用例2には,光情報を電気信号情報に変換し,さらにこれを光情報に
変換する電子技術が開示されているといえるから,この引用例2に開示
された技術は,光学電子技術分野に属するものが開示されているといえ
る。
このように,引用発明の光学機構技術と引用例2に記載された光学電
子技術は全く異なる技術分野を対象とするものである。換言すれば,引
用発明の当業者は光学機構設計技術者であるのに対して引用例2に記載
された発明の当業者は光学電子設計技術者であるから,両者は明らかに
異なる。
そうすると,引用発明と引用例2に記載された発明は異なる技術分野
に属するものであるから,単に両者の対象物が内視鏡であるということ
のみによって,引用発明に引用例2に記載された発明を適用しうると判
断した審決の論理には飛躍がある。引用発明と引用例2に記載された発
明とは各々異なった技術分野であるから,両者を寄せ集める事に対して
は阻害要因があるというべきである。
(イ)なお,審決は,引用発明に引用例2に記載された発明を採用する場合
には,引用例1に記載されたプリズム4(直角固定プリズム)を除去す
る必要があるが,これを除去することに格別困難性は認められないと判
断している。
しかし,引用例1には厳然たる事実としてプリズム4は記載されてい
るのであって,恣意的にかつ仮定的にこれを削除して引用発明を認定す
ることは許されない。上記のとおり,引用発明は光学機構技術の分野に
属するものであって,プリズム2で反射した入射光を再度反射して長手
方向へ案内する必然性が存在したからこそプリズム4を必須としている。
そうであるにもかかわらず,審決は「上記のプリズム4は,プリズム2
で反射した入射光(情報)を再度反射して長手方向へ案内する必要に応
じて設置したものである」及び「プリズム2で反射した入射光をそのま
ま通過させた方が良い場合に,」などと,引用例1には記載も示唆もさ
れていない条件を積極的に付与してプリズム4の除去の困難性を否定し
ているが,引用文献に記載された技術を認定する態度としては著しく客
観性を欠くというべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告の主張において,センサが「シャフトの長手方向軸線に対して平行
でかつ回転しないように固定されている」とする主張は,センサがシャフ
トの長手方向軸線回りに回転するならば,入射光もセンサと同期して回転
しなければならない」こと及び「逆に,センサがシャフトの長手方向軸線
回りに回転しないで固定位置にあるとすれば,入射光も固定しなければな
らない」ことを前提とする。そして,上記の前提から「センサがシャフト
の長手方向軸線回りに固定であること」が特定されるためには「入射光の
光軸がシャフトの長手方向軸線回りに固定」であることが必要なはずであ
る。
しかし,本願発明においては,「入射光の光軸がシャフトの長手方向軸
線回りに固定」であることは特定されていない。
これに関し,原告は「反射部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な
軸線回りに回転する」ことを原告主張の根拠としている。これは,「反射
部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線回りに回転する」ことが
「入射光の光軸がシャフトの長手軸線回りに固定」であることと等価であ
ることを前提にしているものと推定される。
しかし,「反射部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線回りに
回転する」ことと「入射光の光軸がシャフトの長手軸線回りに固定」であ
ることは,全く無関係なことである。すなわち,「反射部材が長手方向軸
線に対して実質的に垂直な軸線回りに回転する」場合であっても「入射光
の光軸がシャフトの長手軸線回りに固定」である場合もあれば,「入射光
の光軸がシャフトの長手軸線回りに固定」ではない場合も存在する(例え
ば,特開昭61−143711号公報〔発明の名称「観察方向変化法」,
出願人日本電信電話株式会社,公開日昭和61年7月1日。以下,この
文献を「乙1文献」という。乙1〕の3頁右下欄18行∼4頁左下欄12
行及び第2図)。乙1文献では,鏡26が本願発明の反射部材に相当し,
イメージファイバ1の長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線回りに回
転するとともに,前記長手方向軸線回りに回転している。)。したがって,
両者の間に一対一対応の関係はないのであるから,本願発明で特定された
事項から,本願発明のセンサが「シャフトの長手方向軸線に対して平行で
かつ回転しないように固定されている」という構成を導くことはできない。
そうすると,「反射部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線回
りに回転する」という前提を条件としつつ,「センサの画像平面が反射部
材からの入射光の光軸と直交しなければならない」という一般的な光学条
件を充たす本願発明のセンサは,「シャフトの長手方向軸線に対して平行
でかつ回転しないように固定されている」と認定されなければならないと
いう原告の主張には根拠がない。
イ本願明細書(甲3)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,段落【0
034】に「・・・視界器具(内視鏡)は,使用者によって,長手方向軸
線22回りに回転させることができる。これにより,第1自由度18に
沿って走査することができる。」と記載されており,【図4】の記載も併
せてみれば,入射光の光軸及びセンサは,使用者が内視鏡を回転させるこ
とにより,シャフトの長手方向軸線回りに回転することが記載されている。
したがって,本願発明の認定において,本願発明のセンサは「シャフトの
長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されている」と認
定されなければならないとする原告の主張は,明細書の発明の詳細な説明
の記載からも誤りである。
(2)取消事由2に対し
ア前記のとおり,本願発明で特定された事項から本願発明のセンサが「シ
ャフトの長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されてい
る」という構成を導くことはできないから,前記構成を前提とする原告の
主張は理由がない。
イ前記のとおり,明細書の発明の詳細な説明の記載からも,本願発明のセ
ンサは「シャフト長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定
されている」ということはできない。したがって,原告の主張は,請求項
の記載のみならず,発明の詳細な説明の記載にも基づかない主張であり,
理由がない。
ウ以下,仮に,本願発明が「センサを回転させない」構成を有するとした
場合について述べる。
(ア)引用例2(甲2)には「上記モータ16の回転軸16Aと直交する
方向に凹部を形成して円筒状のレンズ枠17に固定された対物レンズ
系18が収容され,この対物レンズ系18の結像位置に固体撮像素子
19を配設して対物レンズ系18の光軸前方(つまり回転軸16Aと
直交する側方)の対象物の像を撮像する撮像手段が収納されている」
(2頁右下欄12行∼18行)と記載されている。上記記載を引用例
2(甲2)の「上記撮像手段と,照明手段の出射光学系側とが取付け
られた回転先端部14Bは」(3頁左上欄8行∼10行)との記載を
参酌して読めば,①固体撮像素子19であるセンサは,回転先端部1
4Bであるシャフト先端部に取り付けられたものであるといえる。
また,引用例2の上記記載から,引用例2のものは「対物レンズ系
18の結像位置に固体撮像素子19を配設」したものであるから,
「入射光の光軸」と「センサ」の位置関係が固定されたものであって,
②「入射光が上記センサの画像平面内に案内される」ものである。
さらに,引用例2の第2図から,③センサが「シャフトの長手方向
軸線に対して実質的に平行な画像平面を有している」ことが認められ
る。
審決において引用例2から抽出した技術的事項は,上記①∼③の事
項であり,審決はその点を「引用例2の上記記載事項及び第2図の記
載から,引用例2には,『シャフトの先端部に取り付けられたセンサ
であるとともに,シャフトの長手方向軸線に対して実質的に平行な画
像平面を有しているセンサを備え,かつ,入射光が上記センサの画像
平面上に案内される』ものが記載されているといえる。」と認定した。
以上のとおり,審決は,引用例2から固体撮像素子19が回転する
構成を抽出するものではないから,固体撮像素子19が回転する構成
を採用したことを前提とする原告の主張は審決を正解しないものであ
り,理由がない。
(イ)一方で,引用例1(甲1)には「1は対物レンズであり,この対物レ
ンズはプリズム2とともに回転する。2は回転軸3の回わりに自由に
回転出来るダハプリズム,4は直角固定プリズム」と記載されており,
第1図を参酌すれば,回転軸3は「シャフト長手方向軸線と直交する
入射光」であることが認められ,しかも上記の「4は直角固定プリズ
ム」の記載から,プリズム4はシャフトに対して相対的に固定されて
いるものといえるから,「シャフト長手方向軸線と直交する入射光」
である回転軸3は,シャフトに対して固定されているものと認められ
る。すなわち,審決の引用発明の認定における「対物レンズはプリズ
ム2とともに回転し,プリズム2は回転軸3の回わりに自由に回転出
来」の「回転軸3」は,「シャフト長手方向軸線と直交する入射光の
光軸」であって,しかもシャフトに対して固定されている回転軸であ
る。
そして,引用発明に引用例2に記載された上記のもの(センサ)を
採用する際には,当然に,引用発明のシャフトに対して固定されてい
る回転軸である「シャフト長手方向軸線と直交する入射光の光軸」と
引用例2に記載された上記「センサ」との位置関係が固定されている
「入射光の光軸」とが一致するように,引用発明に引用例2の「固体
撮像素子19(センサ)」を適用することになる。そうすると,引用
発明に採用された「固体撮像素子19(センサ)」は,当然にシャフ
トに固定されることになる。
したがって,仮に本願発明が「センサを回転させない」構成を有す
るとした場合においても,「センサを回転させない」構成,すなわち
「センサ」が「シャフト」に固定されるという構成は,引用発明に引
用例2に記載された発明を適用することにより必然的に生じる構成で
ある。
(ウ)原告は,本願発明の作用効果について,固体撮像素子19が回転す
る甲2発明の場合には,固体撮像素子19で得られた電気信号を,接
点という機械式インターフェイスによって送受信しなければならない
ために,部品点数が多くなって,構造が複雑になるばかりか,人体の
管腔内という高湿度の環境下での電気信号の正確な送受信や耐久性の
問題が不可避である。これに対して,本願発明は,反射部材を回転さ
せるが,センサは回転させない構成を必須として機械的インターフェ
イスを排除することにより,本願明細書の段落【0036】に記載さ
れた格別の作用効果を有するものであるから,引用発明の構成に引用
例2に記載された発明の構成を採用して容易に想到することはできな
い,と主張する。
そして,原告は上記のとおり「本願発明は,反射部材を回転させる
が,センサは回転させない」と主張するが,これは「シャフト長手方
向軸線回りの回転」も「シャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回り回
転」も混同して同じ「回転」と表現して主張したものであり,そのこ
とにより誤解を招くおそれがあるものである。そこで,被告の反論に
おいては「シャフト長手方向軸線回りの回転」と「シャフト長手方向
軸線に垂直な軸線の回り回転」とを明確に区別し,整理して反論する。
①「シャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回り回転」につき
本願明細書(甲3)の段落【0036】に記載された「・・・画
像撮影手段46を静止状態に維持し得ることにより,電気的配線の
曲げや回転に関連する問題点の発生を,回避することができる。」
という作用効果は,本願明細書の段落【0011】に記載された図
3A又は図3Bに示されるような,センサ46が回転軸線26の回
りに回転するような場合,すなわち,センサがシャフト長手方向軸
線に垂直な軸線の回りに回転するような場合に生じた「ケーブル5
0が,利用可能な走査範囲を制限する。さらに,そのような回転可
能なセンサを支持して駆動させるのに必要な機構は,ある程度の複
雑さを要求する。」という問題点が生じないという作用効果であっ
て,センサがシャフト長手方向軸線の回りに回転するような場合に
生じた問題点が生じなくなったという作用効果をいうものではない。
そして,センサがシャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回りに回
転するような場合に生じた「ケーブル50が,利用可能な走査範囲
を制限する。さらに,そのような回転可能なセンサを支持して駆動
させるのに必要な機構は,ある程度の複雑さを要求する。」という
問題点は,引用例1にも引用例2にも,もともと生じていない問題
点である。なぜなら,引用例1はセンサを有さないから,センサが
シャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回りに回転するような場合に
生じる問題点が生じるはずがなく,また,引用例2は,センサがシ
ャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回りに回転するものではないか
ら,センサがシャフト長手方向軸線に垂直な軸線の回りに回転する
ような場合に生じる問題点が生じることがないからである。
したがって,原告が主張する作用効果は,上記のとおり引用発明
に引用例2に記載された発明を適用したものにおいて当然奏する作
用効果であるにすぎないとともに,引用例1及び引用例2が元来よ
り備えた作用効果であるといえるから格別の作用効果ではない。
②「シャフト長手方向軸線回りの回転」につき
引用例2には,審決が引用した技術的事項の他に,使用者が器具
そのものを回転することなくシャフト長手方向軸線回りに回転させ
ることを可能にするために回転機構を用いることが記載されており,
そのことにより「接点という機械式インターフェイス」が必要に
なったものである。
これに対し,本願発明は,前記のとおり,使用者が器具そのもの
を回転することによってシャフト長手方向軸線回りに回転させるも
の(本願明細書段落【0034】参照)であり,回転機構を用いて
シャフト長手方向軸線回りに回転させることを可能にするという改
良・工夫をするものではないから,「接点という機械式インターフ
ェイス」が不必要なのは当然である。すなわち,原告の本願発明の
作用効果に関する主張は,本願発明の本質ではない事項と引用例2
の審決が引用していない技術的事項を対比して,本願発明の格別の
作用効果であると主張するものであるといえるから理由がない。
(3)取消事由3に対し
ア原告が主張する「機構技術」は,本願明細書(甲3)に記載の「リレー
光学系」(例えば段落【0004】)との差異を含めて必ずしもその意味
するところが明確ではないが,原告の主張に従い「倒立像を正立像に変換
したり或いは左右逆像を左右正像に変換するように光の経路を確保する技
術」と解して以下,反論する。
各種の技術分野で,技術の改良のために電子技術を用いることも,また,
機構技術等の非電子的技術を用いることもあり,どちらを選択するかは当
業者が必要に応じて適宜選択し得ることである。
また,電子技術の発達に伴い,各種の技術分野で機構技術等の非電子的
に行われていた技術が電子技術に置き換えられてきたことは,技術の変遷
において周知の事項である。
内視鏡の技術分野も例外ではなく,技術発展のために機構技術等の非電
子的技術を選択するか,電子技術を選択するかは,当業者の選択に委ねら
れてきたことである。機構技術等の非電子的技術が電子技術に置き換えら
れ,内視鏡の技術が発展してきたといえる。
上記の点は,本願明細書の段落【0003】∼【0006】の記載のみ
ならず,特開昭63−314513号公報(発明の名称「内視鏡装置」,
出願人オリンパス光学工業株式会社,公開日昭和63年12月22日。
乙2),特開平2−173735号公報(発明の名称「内視鏡用カメラ」,
出願人オリンパス光学工業株式会社,公開日平成2年7月5日。乙3)
及び特開昭58−46922号公報(発明の名称「内視鏡」,出願人富
士写真フイルム株式会社,公開日昭和58年3月18日。乙4)からも
裏付けられる。
例えば,特開昭63−314513号公報(乙2)には,内視鏡の接眼
部や表示画面上に倒立画像が表示される問題点を防止する手法として「光
学アダプター内に正立プリズム等を配設して観察画像を正立させる」手法,
すなわち「倒立像を正立像に変換したり或いは左右逆像を左右正像に変換
するように光の経路を確保する技術」としての機構技術を用いる手法と,
「固体撮像素子15の受光面上に結像された倒立画像を正立画像に変換し
て表示装置18に表示する画像変換機能」を用いる手法,すなわち「光情
報を電子情報に変換する」電子技術を用いる手法とがともに記載されてい
る。すなわち,原告のいうところの光学機構技術を用いる手法も,原告の
いうところの光学電子技術を用いる手法も,ともに従来より内視鏡におけ
る改良の手法として選択的に採用を考慮されてきたものであるから,両者
は相互に関連した密接な関係にあるといえる。
また,特開平2−173735号公報(乙3)には,内視鏡において
「ミラーシャッタ11により反射された像」を「反転されて,接眼レンズ
3を通じてファインダからは正立像を観察できるように」するために「ペ
ンタプリズム4により反転」する技術,すなわち,直接的に観察する内視
鏡において「倒立像を正立像に変換したり或いは左右逆像を左右正像に変
換するように光の経路を確保する技術」としての機構技術の少なくとも一
部を「CCD15により光電変換された後に図示しない処理回路等に入力
されて鏡像から正像への変換等が行なわれた後に図示しないモニタ等に画
像が表示される」技術,すなわち「光情報を電子情報に変換する」電子技
術によって置き換えて改良することが記載されている。
さらに,特開昭58−46922号公報(乙4)には,直接的に観察す
る内視鏡において「倒立像を正立像に変換したり或いは左右逆像を左右正
像に変換するように光の経路を確保する技術」としての機構技術を「撮像
面の画面の左右が正しく変換されるように撮像素子の画素の水平走査方向
を従来とは反対の方向にする」手法,すなわち「光情報を電子情報に変換
する」電子技術によって置き換えて改良することが記載されている。
そして,上記の特開平2−173735号公報(乙3)及び特開昭58
−46922号公報(乙4)から,原告のいうところの光学電子技術を用
いた内視鏡は,原告のいうところの光学機構技術を用いた内視鏡技術を土
台にして発達したものであることが認められ,光学電子技術の内視鏡技術
と光学機構技術の内視鏡技術は相互に密接に関連した技術分野であるとい
える。
したがって「引用例1の光学機構技術と引用例2の光学電子技術は全く
異なる技術分野を対象とするものである」とする原告の主張は理由がない。
イ原告は「引用例1には,厳然たる事実としてプリズム4は記載されてい
るのであって,恣意的にかつ仮定的にこれを削除して引用発明を認定する
ことは許されない。」と主張する。
しかし,審決は引用発明を「プリズム4」を含めて認定しており,原告
の主張は理由がない。
ウ原告は「引用発明は光学機構技術の分野に属するものであって,プリズ
ム2で反射した入射光を再度反射して長手方向へ案内する必然性が存在し
たからこそプリズム4を必須としている。」にもかかわらず,審決は「上
記のプリズム4は,プリズム2で反射した入射光(情報)を再度反射して
長手方向へ案内する必要に応じて設置したものである」とか,「プリズム
2で反射した入射光をそのまま通過させた方が良い場合に」などと条件を
付与して,プリズム4の除去の困難性を否定する旨主張する。
しかし,引用発明のプリズム4は,原告が主張するように「入射光を・
・・長手方向へ案内する」機能を有するものであり,原告のいうところの
機構技術の一部をなすものである。審決は,引用発明に引用例2に記載さ
れた技術,すなわち原告のいうところの電子技術を採用することは容易で
あると判断するものであり,引用例2に記載された電子技術を採用した際
には「プリズム2で反射した入射光(情報)を再度反射して長手方向へ案
内する必要」が無くなるのであるから,機構技術の一部をなすプリズム4
を除去することに困難性はないとした審決に誤りはない。
エ原告は「審決は,『上記のプリズム4は,プリズム2で反射した入射光
(情報)を再度反射して長手方向へ案内する必要に応じて設置したもので
ある』及び『プリズム2で反射した入射光をそのまま通過させた方がよい
場合に,』などと,引用例1には記載も示唆もされていない条件を積極的
に付与してプリズム4の除去の困難性を否定しているが,引用例に記載さ
れた技術を認定する態度としては著しく客観性を欠くというべきであ
る。」旨主張する。
しかし,上記のとおり,審決は「第3引用例」の「2引用例1に記
載された発明の認定」において,引用発明を引用例1の記載から客観的に
認定したものである。また,上記の原告の主張で取り上げられた「上記の
プリズム4は,プリズム2で反射した入射光(情報)を再度反射して長手
方向へ案内する必要に応じて設置したものである」及び「プリズム2で反
射した入射光をそのまま通過させた方がよい場合に,」の記載は,審決に
おいては引用発明の認定について述べた記載ではないから,「引用例に記
載された技術を認定する態度としては著しく客観性を欠く」とする原告の
主張は理由がない。
審決は,引用発明を引用例1の記載から客観的に認定したうえで,引用
発明に引用例2に記載された「シャフトの先端部に取り付けられたセンサ
であるとともに,シャフトの長手方向軸線に対して実質的に平行な画像平
面を有しているセンサを備え,かつ,入射光が上記センサの画像平面上に
案内される」ものを採用することが容易としたものである。
引用発明においては,入射光をファイバー6へ導くために,(保護管7
の)長手方向軸線と直交する入射光の光路を直角に折り曲げて(変更し
て)長手方向軸線方向へに導くプリズム4が必要とされたが,引用発明に
引用例2に記載の発明を適用して入射光をファイバー6に導く必要がなく
なり,むしろ長手方向軸線と直交する入射光の光路を維持して,長手方向
に平行なセンサに向かわせる方が良い場合にはプリズム4は必要がなくな
ることは当然のことにすぎない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告主張の取消事由について検討する。
2取消事由1(相違点認定の誤り)について
(1)本願発明の意義
ア前記補正後の本願明細書(甲3,4)には,以下の記載がある。
・【請求項1】
前記第3,1(2)のとおり
・【技術分野】
「本発明は,例えば患者の体内の外科サイトといったような小さな領
域内において,広い視野角度を得るために装置に関するものである。よ
り詳細には,本発明は,視野方向が可変とされているとともに先端部に
センサを有しているような,例えば内視鏡といったような,視界器具に
関するものである。」(段落【0002】)
・【背景技術】
「例えば内視鏡といったような視界器具は,当該技術分野においては
周知である。一般に,内視鏡は,体内通路あるいは体内キャビティ内へ
と挿入することによって,患者の体内のサイトのところにおいて,操作
者が見ることを可能としたり,また,操作者がある種の外科的処置を行
うことを可能としたり,するような医療デバイスである。公知なように,
内視鏡は,剛直なものともまたフレキシブルなものともすることができ,
また,一般に,長いチューブ状部材を備えている。この長いチューブ状
部材は,例えば,使用者に対して画像を伝達し得るようなあるタイプの
システムを備えている。長いチューブ状部材は,また,場合によっては,
外科手術器具のための動作チャネルを備えている。内視鏡は,患者の外
部に配置された基端部を備えている。この基端部から,操作者は,サイ
トを見ることができ,また,外科手術器具を操作することができる。内
視鏡は,さらに,先端部を備えている。先端部には,患者の体内キャビ
ティの中へと挿入するための内視鏡先端が形成されている。」(段落
【0003】)
・「従来より,このような視界器具においては,例えばロッドレンズや光
ファイバー束やリレーレンズといったようなリレー光学系を,使用して
きた。これにより,患者の体内キャビティの内部からの画像を,内視鏡
の基端部のところに位置した使用者の目に対して,あるいは,その後に
モニター上に表示したりおよび/または画像取得デバイス上に貯蔵した
りし得るよう,内視鏡に対して同様に連結されたカメラに対して,伝達
していた。」(段落【0004】)
・「これら従来構成においては,様々な欠点を避けることができない。ま
ず最初に,リレーシステムを構成したり構築したり組み立てたりするた
めのシステムは,ある程度の実績を有しているけれども,このようなシ
ステムは,高価なままであり,時間を要するものであり,専門知識を要
するものである。さらに,リレーシステムにおいては,典型的には,非
常に多数の光学部材を使用する。そして,それら光学部材は,非常に精
度良く製造されなければならず,また,非常に精度良く位置決めされな
ければならない。そうでないと,満足のいく画像品質を得ることができ
ない。最後に,そのようなアセンブリを使用した場合には,対象物から
の反射光が一連をなす様々な光学表面を通過してしまい,後方反射や漂
遊光やレンズ表面粗さやレンズ曲率の不正確さやわずかのレンズ位置ズ
レといったようなもののすべてが画像品質を低減させてしまうことによ
り,画像が劣化する。」(段落【0005】)
・「したがって,これら欠点を克服することを目指して,様々な構成が,
提案されてきた。例えば,Sheldon氏による特許文献2に開示されて
いるように,先端に配置された小型テレビジョンチューブを備えた内
視鏡を使用することが提案された。同様に,先端部に画像撮影デバイ
スを備えたさらなる構成は,Kakinuma氏他による特許文献3,および,
Moore氏他による特許文献4,に開示されている。しかしながら,その
ような先端部に撮影デバイスを備えた構成は,フレキシブルでありか
つ角度が固定された剛直な内視鏡に関しては効果的ではあるものの,
現在までのところ,視野方向が可変とされている内視鏡に関しては,
うまく動作していない。」(段落【0006】)
・「視界範囲の方向が可変とされているような様々な例は,Chikama氏他
による特許文献5,Forkner氏による特許文献6,Hoeg氏他による特
許文献7,Krattiger氏他による特許文献8,および,Ramsbottom氏に
よる特許文献9,に開示されている。そのような内視鏡の動作原理が,
図1において概略的に図示されている。可変方向性を有した内視鏡は,
基端部12を有したシャフト10を備えている。そのような内視鏡は,
視野ベクトル14を備えており,視界ベクトル14は,少なくとも2つ
の自由度18,20を有した付随的視界16を備えている。第1の自由
度18により,視野ベクトル14は,シャフト10の長手方向軸線22
回りに回転することができる。これにより,視野ベクトル14は,緯度
方向24内において走査することができる。第2の自由度20により,
視野ベクトル14は,長手方向軸線22に垂直な軸線26回りに回転す
ることができる。これにより,視野ベクトル14は,経度方向28にお
いて走査することができる。さらに,第3の自由度30を,利用するこ
とができる。というのは,通常,内視鏡画像の回転に関する向きが調節
可能とされるからである。」(段落【0007】)
・「図2Aおよび図2Bには,2つの反射器を使用して方向を可変とした
内視鏡の動作原理が図示されている。第1プリズム32は,入射光を,
経路34に沿った方向と,第2プリズム36に向かう方向と,に屈折さ
せる。第2プリズム36は,中空伝達シャフト40内に収容された光学
的リレーシステム38に向けて,光を伝達する。第1プリズム32は,
軸線26回りに回転可能とされているとともに,ギヤ42を介して伝達
シャフト40によって駆動され得る。これにより,紙面に対して直交す
る平面内において,走査を行うことができる。この光学アセンブリは,
ガラスドーム43によってカバーされているとともに,機械的構造44
によって支持されている。機械的構造44は,内視鏡の先端部を形成し
ている。」(段落【0008】)
・「このような内視鏡は,それほど効果的には,従来の光学リレーシステ
ムを使用することができなかった。その理由は,図示されているように,
このような内視鏡が,視野方向を変更するに際して,移動可能な反射/
屈折部材を使用しているからであり,そのため,先端内に光学経路と小
型化伝達機構とを収容したものとするためには内視鏡の先端部として複
雑な構成が必要とされるからである。その結果,光学リレーシステムと
して利用可能な空間がより少なくなり,光学リレーシステムの性能は,
断面積の小型化につれて,低下していく。したがって,方向が可変とさ
れた内視鏡における画像品質は,リレーレンズシステムを使用した場合
には,同じ直径を有した角度固定タイプの内視鏡と比較して,常に劣る
ものとなる。」(段落【0009】)
・「先端部に回転可能な画像撮影手段を備えつつ方向が可変とされた内視
鏡が,図3Aに示されている。電子的画像センサ46が,内視鏡シャフ
ト10の先端に配置されているとともに,軸線26回りに回転可能とさ
れている。この構成は,あまりにも多くの空間を必要とし,そのため,
大部分の標準的な内視鏡の標準的な直径内には適合することができない。
それは,センサ46が,一体型の対物レンズ48と,フレキシブルなケ
ーブル50と,を必要とするからである。固体物理的な画像撮影デバイ
スが,見ようとする対象物と,センサの画像平面と,の間に,一連をな
す複数のレンズを必要とすることにより,このアセンブリは,旋回時に
は,大きな旋回半径を必要とする。このような旋回半径は,大部分の内
視鏡応用において,大き過ぎるものである。加えて,ケーブル50が,
利用可能な走査範囲を制限する。さらに,そのような回転可能なセンサ
を支持して駆動させるのに必要な機構は,ある程度の複雑さを要求する。
図3Bに図示されているような他の同様の構成は,また,同じ様々な欠
点を有している。」(段落【0011】)
・【課題を解決するための手段】
「したがって,本発明の目的は,リレーレンズアセンブリを必要とし
ないような,視野方向が可変とされた視界器具を提供することであ
る。」(段落【0014】)
・「本発明の他の目的は,大きな半径でもって旋回する回転アセンブリを
必要としないような,視野方向が可変とされた視界器具を提供すること
である。」(段落【0015】)
・「本発明のさらに他の目的は,走査範囲の制限の原因をなすケーブルを
必要としないような,視野方向が可変とされた視界器具を提供すること
である。」(段落【0016】)
・「本発明のさらに他の目的は,多数の光学部材を必要としないような,
視野方向が可変とされた視界器具を提供することである。」(段落【0
017】)
・【発明を実施するための最良の形態】
「視界器具は,シャフトを備えている。シャフトは,先端部44と,
長手方向軸線22と,を有している。視界器具(内視鏡)は,使用者に
よって,長手方向軸線22回りに回転させることができる。これにより,
第1自由度18に沿って走査することができる。光学アセンブリが,シ
ャフトの先端部44のところに配置されている。光学アセンブリは,ア
センブリの光学経路34を屈折させるための反射部材32と,後述する
ような他の光学部材と,を備えている。」(段落【0034】)
・「反射部材32は,長手方向軸線22に対して実質的に垂直な回転軸線
26回りに回転可能とされている。これにより,第2自由度20に沿っ
て走査することができる。反射部材32の移動は,アクチュエータに
よって引き起こされる。アクチュエータは,例えば,伝達シャフト40
を備えることができる。伝達シャフト40は,ギヤ42を駆動すること
により,反射部材32を回転させ,これにより,回転軸線26に対して
垂直な平面内における走査を引き起こす。光学アセンブリは,ガラスド
ーム43によってカバーされているとともに,内視鏡シャフト10の先
端部44によって支持されている。画像センサ46が,センサ46の画
像平面45がシャフト10の長手方向軸線22と実質的に平行となるよ
うにして,先端部44内において取り付けられている(つまり,側部取
付)。」(段落【0035】)
・「反射部材32は,光学トレインの光学軸の変更し得るような任意の部
材を備えることができる。これにより,後述するように,入射光を,セ
ンサ46の画像平面45上へと偏向させることができる。反射部材32
は,例えば,図5Aに示すように,直角プリズムとすることができる。
このようにして光学経路を屈折させ得る構成を使用することにより,図
6においてより詳細に示すように,視界器具の視野ベクトル14が回転
時に旋回しなければならない半径を低減することができる。図6は,内
視鏡シャフト10の直径内における対物レンズとセンサとからなるアセ
ンブリの一例を示している。さらに,画像撮影手段46を静止状態に維
持し得ることにより,電気的配線の曲げや回転に関連する問題点の発生
を,回避することができる。」(段落【0036】)
・図面
【図1】視野方向が可変とされた内視鏡の動作原理を概略的に示す図
【図2B】リレーレンズシステムを使用しているような,視野方向が可変
とされた内視鏡を示す側断面図
【図4】画像センサを使用している本発明に基づく視野方向が可変とされ
た内視鏡を示す側断面図
イ上記記載によれば,本願発明は,患者の体内の外科サイトといった小さ
な領域内において広い角度視野を得るための装置(例えば内視鏡)に関す
るものであることが認められる。
そして,一般に内視鏡のような視界器具は,使用者に対して画像を伝達
しうるような長いチューブ状部材を備え,基端部からサイトを見ることが
でき,先端部には内視鏡先端が形成され,このような視界器具においては
リレー光学系が使用されてきたが,リレー光学系は多数の光学部材を使用
する上,光学部材は非常に精度良く製造され,精度良く位置決めされなけ
れば満足のいく画像品質を得ることができないという欠点があり,これを
克服するために小型テレビジョンチューブを備えた内視鏡が提案されてい
るが,視野方向が可変とされている内視鏡に関してはうまく動作していな
い。
また,視野方向が可変とされる内視鏡は,少なくともシャフトの長手方
向軸線回りおよび長手方向の軸線に垂直な軸線回りに視野ベクトルが回転
できるよう構成されているが,これを光学リレーシステムを用いて実現す
る場合,内視鏡先端部として複雑な構成が必要となり利用可能な空間がよ
り少くなることから,同じ直径を有する角度固定タイプの内視鏡と比して
画像品質が常に劣るものとなる。先端部に回転可能な画像撮影手段を備え
つつ方向が可変とされた内視鏡が開示されているが,電子的画像センサが
シャフトの先端に配置されているとともに,長手方向軸線に垂直な軸線回
りに回転可能とされているところ,この構成はセンサが一体型の対物レン
ズとフレキシブルなケーブルを必要とし,旋回時には大きな旋回半径を必
要としてあまりにも多くの空間が必要なため,大部分の標準的な内視鏡の
標準的な直径内には適合することができないという問題があった。
本願発明は,このような課題を解決するため,リレーレンズアセンブリ,
大きな半径でもって旋回する回転アセンブリ,走査範囲の制限の原因をな
すケーブル及び多数の光学部材を必要としないような視野方向が可変とさ
れた視界器具を提供することを目的とするものであり,そのために本願発
明の視野方向が可変とされた視界器具は,シャフトの先端部にセンサを取
り付け,このセンサはシャフトの長手方向軸線に対して実質的に平行な画
像平面を有し,またシャフトの先端部に入射光を受領しその受領した入射
光をセンサの画像平面上へと案内する反射部材を配置し,この反射部材が
シャフトの長手方向軸線に対して実質的に垂直な回転軸線回りに回転する
構成とされている。
(2)引用発明の意義
ア引用例1(甲1)には,以下の記載がある。
・「本発明は内視鏡における観察方向を変え得る光学系に関するものであ
る。」(1頁左下欄19行∼右下欄1行)
・「本発明は直視から側視又は逆の側視まで順次観察方向を切替え得,か
つ常時正像観察を可能とし,かつ切替え操作が簡単に行え,内視窓を有
する先端部を傾動しないですむ光学系を提供したものである。」(2頁
左上欄16行∼20行)
・「今これを図面に示す実施例によつて説明すると,第1図において,
1は対物レンズであり,この対物レンズはプリズム2とともに回転する。
2は回転軸3の回わりに自由に回転出来るダハプリズム,4は直角固定
プリズム,5はリレーレンズで必要ならばレンズ1を除きレンズ5で対
物レンズを代用しても良い。この場合プリズム2,4の反射系が大きく
なる危険はある。6は画像伝送用光学繊維,7は内視鏡保護管,8は保
護管上に設けられた内視用の窓,9はリレーレンズ,10はイメージロ
ーテーターで入射及び出射光軸のまわりにプリズム2の反射系と連動し
て回転する。
11は接眼レンズ系,12は人間の目である。
第2図(1)は直視の場合の2,4の反射系の向き
(2)は直視と側視の間45゜を見る場合の2,4の反射系の向

(3)は側視の場合の2,4の反射系の向き
で13は直視,側視又その中間での物体を示す。
14,15,16はそれぞれの場合の反射系のみを通過した後の像の
左右上下の方向を示す。」(2頁右上欄1行∼20行)
・「今第1図の反射系の状態は直視の状態を示している。今物体Aから
の情報は1の対物レンズで平行光となる。これは全体の光学系を小さく
する目的でなるべくプリズム2,4の大きさを小さくするために平行光
とするのが都合が良いがスペースが許せばこの限りではない。
次に今物体Aからの情報は直視の方向に向いた直角プリズム2で反射
の後,直角プリズム4に入り,又プリズム4の反射面で反射しレンズ5
を経てフアイバー6の端面に結像する。」(2頁左下欄1行∼10行)
・図面
第1図:本発明の内視鏡光学系の1実施例図
イ上記記載によれば,引用発明は,内視鏡における観察方向を変えうる光
学系に関するものであり,観察方向を変え得る光学系を有する内視鏡で
あって,先端部と長手方向軸線を有する保護管7を具備し,保護管7の先
端部にプリズム2が設けられており,物体Aからの情報はプリズム2で反
射の後,プリズム4に入り,又プリズム4の反射面で反射しレンズ5を経
てフアイバー6の端面に結像し,対物レンズはプリズム2とともに回転し,
プリズム2は回転軸3の回わりに自由に回転出来,回転軸3は,保護管7
の長手方向軸線に対して実質的に垂直であるという構成を採用し,直視か
ら側視又は逆側視まで順次観察方向を切り換え得,かつ切替操作が簡単に
行え,内視窓を有する先端部を傾動しないですむものであることが認めら
れる。
(3)甲2発明の意義
ア引用例2(甲2)には,以下の記載がある。
・「第1図に示すように1実施例の内視鏡1は,可撓性で細長の挿入部
2と,該挿入部2の後端に連設された太径ないし太幅の操作部3と,該
操作部3の例えば後端に形成したコネクタ受け4にコネクタ5を挿着さ
れるライトガイドケーブル(ユニバーサルケーブル)6を介して接続さ
れる光源装置7と,該光源装置7にそれぞれケーブル8を接続して撮像
される像を表示する表示装置9a,9b,9c,9dとから構成されて
いる。」(2頁右上欄20行∼左下欄8行)
・「上記先端部10は,側周における例えば4箇所が透明にされたカバ
ー13で覆われ,該力バー13における関口する側の後端部が先端部本
体14A外周に固定され,この固定されたカバー13の内側に回転(回
動)自在となる回転先端部14Bが形成されている。
この回転先端部14Bは,その後端基部外周に径方向内側にピン15,
15を突出して,先端部本体14Aの前端外周に形成した周溝に前記ピ
ン15,15を収容して先端部本体14Aに対して回転自在に取付けて
ある。
上記カバー13内側の最前部(頂部)には回転駆動用モータ16のス
テータ側がねじ等で固定され,その回転軸16Aを(その一部を角型等
にして)回転先端部14Bの前端凹部に嵌合収納する等して,回転軸1
6Aの回転と共に回転先端部14Bを回転駆動できるようになっている。
上記モータ16の回転軸16Aと直交する方向に凹部を形成して円筒
状のレンズ枠17に固定された対物レンズ系18が収容され,この対物
レンズ系18の結像位置に固体撮像素子19を配設して対物レンズ系1
8の光軸前方(つまり回転軸16Aと直交する側方)の対象物の像を撮
像する撮像手段が収納されている。」(2頁左下欄15行∼右下欄18
行)
・「上記撮像手段と,照明手段の出射光学系側とが取付けられた回転先
端部14Bは,モータ16によって,対物レンズ系18の光軸方向の前
方(光軸方向における固体撮像素子19と反対側の方向,例えば第2図
においては紙面内における上部側)の撮像方向(あるいは視野方向と記
す。)Sが第3図に示すように例えば左側から右側へと90度ずつ高速
度でステップ状に順次回転駆動され(各方向Sを特定する必要がある場
合には左側から順次S・S・S・Sとする),ステップ状に回転さ1234
れた際の各角度位置の状態θ・θ・θ・θで撮像可能な時間(例1234
えば1/30÷4=1/120sec程度で回転に要する時間分これより若
干短い時間)停止して,それぞれの角度位置の状態θ・θ・θ・θ123
で順次撮像できるようになっている。」(3頁左上欄8行∼右上欄34
行)
・図面
【第1図】(本発明の1実施例の内視鏡を示す概略正面図)
【第2図】(内視鏡の先端側の構造を拡大して示す縦断面図)
イ上記記載によれば,引用例2には,撮像素子19を挿入部2の長手方向
軸線回りに回転することにより視野方向を変更することが記載されており,
引用例2に「シャフトの先端部に取り付けられたセンサであるとともに,
シャフトの長手方向軸線に対して実質的に平行な画像平面を有しているセ
ンサを備え,かつ,入射光が上記センサの画像平面上に案内される」もの
が記載されていることは審決(5頁15行∼17行)記載のとおりである。
(4)原告の主張に対する判断
ア本願発明が対象とする,視界方向が可変とされる視界器具は,前記(1)
のとおり,少なくともシャフトの長手方向軸線回り及び長手方向の軸線に
垂直な軸線回りに視野ベクトルが回転できるよう構成されているものであ
る。この構成について本願請求項1では,反射部材がシャフトの長手方向
軸線に対して実質的に垂直な回転軸線回りに回転する構成とされており,
これにより長手方向の軸線に垂直な軸線回りの視野ベクトルが回転できる
ようにされているが,長手方向軸線回りに視野ベクトルを回転するための
構成についての特定はない。
これを実現するための構成として,本願明細書(甲3)の実施例には,
「・・・視界器具(内視鏡)は,使用者によって,長手方向軸線22回り
に回転させることができる。・・・」(【0034】)とされており,こ
れは,視界器具全体をシャフトの長手方向軸線回りに回転させることによ
り,視野ベクトルを回転させることを意味していると解される。このよう
な構成であれば,センサはシャフトに固定され,シャフトと共に長手方向
軸線回りに回転することになるので,本願発明は「センサが,シャフトの
長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されている」旨の
原告の主張と整合することになる。
しかし,前記のとおり,引用例2には視野ベクトルをシャフトの長手方
向軸線回りに回転する方法として,固体撮像素子19(本願発明のセンサ
に相当する。)を有する回転先端部14Bを挿入部2(シャフト)の長手
方向軸線回りに回転可能とし,視野方向を可変とする構成が示されている。
このような構成であっても,回転先端部14Bが挿入部2(シャフト)の
長手方向軸線回りに回転する間,固体撮像素子19(センサ)は挿入部2
(シャフト)の長手方向軸線回りに実質的に平行な画像平面を有する位置
を保つから,本願発明における「シャフトの前記先端部に取り付けられた
センサであるとともに,前記シャフトの前記長手方向軸線に対して実質的
に平行な画像平面を有しているセンサ」の構成要件を満たすものである。
またこの場合,固体撮像素子19(センサ)は,挿入部2(シャフト)の
長手方向軸線回りに回転するから,原告の主張する「センサが,シャフト
の長手方向軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されている」構
成とはならない。
そうすると,本願発明の視界方向が可変とされる視界器具は,請求項1
で特定されたとおり,センサがシャフトの長手方向軸線に対して実質的に
平行な画像平面を有しているものであれば足り,これに加えてシャフトの
長手方向軸線回りに固定されている必要はなく,したがって,取消事由1
は理由がない。
イなお,原告は,本願発明の反射部材は入射光を受領し,その受領した入
射光をセンサの画像平面へと案内するものであり,光学原理上,入射光の
光軸はセンサの画像平面に対して直交するように入射しなければ入射光は
センサ上で結像することができないから,「反射部材が長手方向軸線に対
して実質的に垂直な軸線周りに回転する」という前提を条件としつつ,
「センサの画像平面が反射部材からの入射光の光軸と直交しなければなら
ない」という一般的な光学条件を充たすセンサは,「シャフトの長手方向
軸線に対して平行でかつ回転しないように固定されている」と認定されな
ければならない旨主張する。
(ア)しかし,入射光がセンサの画像平面に正しく結像されるためには,セ
ンサと入射光を送り出す反射部材の位置関係が定まっていることが重要
なのであり,「反射部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線周
りに回転する」構成とされていることと,センサが長手方向軸線回りに
固定される構成とされているか,回転される構成とされているかという
こととは無関係である。すなわち,引用例2において,固体撮像素子1
9(センサ)は挿入部2(シャフト)の長手方向軸線回りに回転するが,
この固体撮像素子19(センサ)に入射光を送り出す対物レンズ系(反
射部材)もこれと同期して長手方向軸線回りに回転して,固体撮像素子
19(センサ)と対物レンズ系(反射部材)が常に所定の位置関係にあ
ることにより,正しく結像するよう構成されている。本願発明において
は「入射光の光軸がシャフトの長手方向軸線回りに固定」された構成に
特定されているわけではないから,センサがシャフトの長手方向軸線回
りに回転する場合であっても,甲2発明と同様に,センサと同期して反
射部材が長手方向軸線回りに回転して入射光の光軸がセンサの画像平面
に対して直交する状態を維持する構成であれば,結像に問題は生じない。
(イ)この点,特開昭61−143711号公報(発明の名称「観察方向変
化法」,出願人日本電信電話株式会社,公開日昭和61年7月1日。
乙1。以下,この文献を「乙1文献」という。)には次の記載がある。
・「第2図(a)及び(b)は,上記の本発明方法を実施する機構の正
面図及び縦断面図である。なお,第1図の鏡20,22,24,26
に対応する鏡については,同一参照番号を付してある。
先端に対物レンズ5を設け内部にイメージファイバ1を収容してい
るケーブル4の先端部の被覆3上には,鏡20,22,24が第1図
に示した配置関係に内部に配置されれている半円筒状のケース30の
ネック部32が回転自在に装着されている。そして,その被覆3には
更に,そのネック部32の周囲に設けられたギヤ34と噛合するギヤ
36が回転軸に装着されたモータ38が取り付けられている。従って,
モータ38の回転により,ケース30はケーブル4の中心軸を中心に
して回転する。
そのケース30の前方には,ケース30の回転軸に直角に円筒状の
穴部40が形成されており,その穴部40には,鏡26を収容し且つ
取り付けている円筒状ケース42が回転自在に装着されている。その
円筒状ケース42の側面には,鏡26に光が入射できるようにする開
口44が形成されている。更に,円筒状ケース42の下端部には,そ
のケース42の周囲を一周するようにギヤ46が設けられ,そのギヤ
46と噛合するギヤ48が回転軸に装着されたモータ50が半円筒状
ケース30に取り付けられている。
以上のような構成の観察方向変化機構において,モータ38を回転
すると,ギヤ36を介してギヤ34が回転駆動させられ,その結果,
ケース30と42との相対位置関係を維持したまま,ケース30がケ
ーブル4すなわち対物レンズ5の中心軸を中心に回転する。すなわち,
鏡20,22,24,26とがその相対配置関係を変えずに同時にケ
ーブル4の中心軸を中心に回転する。
一方,モータ50を回転させると,ギヤ48を介してギヤ46が回
転させられ,ケース42すなわち鏡26が,ケーブル4すなわち対物
レンズ5の中心軸に対して直角な軸を中心に回転する。その時,鏡2
0,22,24はその位置を変えることはない。
今,第2図(b)に示す状態にあるとすると,モータ50を駆動し
てケース42をイメージファイバ1の中心軸に直角な軸を中心として
回転させれば,水平面内のどの方向でも自由に観察できる。なお,開
口44がモータ50の方向に向いたときには,モータ50が視野の中
に入るが,モータ50の大きさに比較して開口44ひいては鏡26を
大きくし,且つ,対物レンズ5のピントをモータ50より遠くにする
ことにより,イメージファイバ1に入射する光量が多少減少するが,
観察できるにようにすることができる。一方,モータ38を駆動して
ケース30をイメージファイバ1の中心軸を中心として例えば90゜
回転させた後,モータ50を駆動してケース42をイメージファイバ
1の中心軸に直角な軸を中心として回転させれば,光ファイバスコー
プは垂直面内のどの方向でも観察できる。従って,モータ38及び5
0を適当に駆動することにより,全方向を自由に観察することができ
る。」(3頁右下欄18行∼4頁左下欄12行)
(ウ)以上の記載によれば,乙1文献に記載された光ファイバスコープは,
ケーブル4(本願発明のシャフト,甲2発明の挿入部)の長手方向軸線
回りに半円筒状ケース30(本願発明のセンサ,甲2の先端部10)が
回転し,これに装着された円筒状ケース42(本願発明の反射部材)が
長手方向軸線に対して垂直な軸線回りに回転する構成とされ,これらを
モータ38,50でそれぞれ回転させることにより,全方向を事由に観
察することができるようにされている。
このように,「反射部材が長手方向軸線に対して実質的に垂直な軸線
周りに回転する」構成としつつ,同時に本願実施例のようにシャフト全
体ではなく,引用例2のようにその先端部だけを長手方向軸線回りに回
転する構成とすることができる。したがって,本願発明に係る請求項1
の記載から,センサがシャフトの長手方向軸線回りに回転しないように
固定される構成が特定されるわけではないから,原告の上記主張は採用
することができない。
ウまた,原告は,「反射部材」と「センサ」とが一定の固定関係にあるか
らこそ,使用者は長手方向軸線回りにシャフトを回転させることができる
ものであり,本願発明は,「反射部材」が長手方向軸線に対して垂直な軸
線回りに回転し,使用者が長手方向軸線回りにシャフトを回転させること
により,二つの軸回りを観察可能としてなおかつ機構の複雑さを解消して
いる旨主張する。
しかし,反射部材とセンサが一定の固定関係にあることと,センサが長
手方向軸線回りに回転するか否かということは,上記のとおり無関係であ
り,本願発明は,使用者が視界器具全体をシャフトの長手方向軸線回りに
回転させる構成に特定されているわけではないから,原告の上記主張は採
用することができない。
3取消事由2(相違点認定の誤りに基づく判断の誤り)について
原告は,本願発明は「反射部材が長手方向軸線に対して垂直な軸線周りに回
転する」という構成要件と「センサはシャフトの長手方向軸線に対して平行で
かつ回転しないように固定されている」という構成要件とにより,本願明細書
に記載された画像撮影手段46を静止状態に維持し得ることによって電気的配
線の曲げや回転に関連する問題点の発生を回避することができる,という格別
の作用効果を有するものであり,甲2発明はこのような作用効果を有さないか
ら,引用発明に甲2発明を採用して本願発明を容易に想到することはできない
旨主張する。
しかし,本願発明が「センサはシャフトの長手方向軸線に対して平行でかつ
回転しないように固定されている」という構成要件に特定されるものではない
のは,前記のとおりである。原告の主張する取消事由2は,本願発明がこの構
成に特定されていることを前提とするものであるから,前提において誤りが
あって採用することができない。
なお,仮に,本願発明におけるセンサはシャフトの長手方向軸線に対して平
行でかつ回転しないように固定されていることにより画像撮影手段46を静止
状態に維持することができ,それによって電気的配線の曲げや回転に関連する
問題点の発生を回避することができるとしても,引用発明におけるプリズム4
を甲2発明における固体撮像素子19で置き換えることは,引用発明と甲2発
明とは内視鏡先端部に設けた回動機構によって視野方向が可変とされた内視鏡
である点で共通している上,後記のとおり,取得した画像の伝達手段として光
学系を用いる内視鏡,先端部に備えた撮像デバイス(センサ)を用いる内視鏡
はいずれも周知であり,相互に技術を適用し得るものであるといえるから,当
業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に
想到し得たことであり,その結果,上記電気的配線等の問題点の発生を回避で
きたとしても,それをもって格別の作用効果ということはできないし,引用発
明に甲2発明を適用することが容易に想到できないことにもならないというべ
きである。
4取消事由3(阻害要因の看過による進歩性の判断の誤り)について
(1)特開昭63−314513号公報(発明の名称「内視鏡装置」,出願人
オリンパス光学工業株式会社,公開日昭和63年12月22日。乙2。以
下,この文献を「乙2文献」という。)に記載された技術
ア乙2文献には以下の記載がある。
・〔発明が解決しようとする課題〕
「従来構成のものにあっては内視鏡の先端部に光学アダプターを装着
した場合,内視鏡の接眼部や,この内視鏡本体に接続された表示装置等
で観察できる画像は上,下が反対になることがあったので,使用者に
とっては使いにくく,誤操作を起こし易い問題があった。また,例えば
光学アダプター内に正立プリズム等を配設して観察画像を正立させるよ
うにすることも考えられるが,この場合には内視鏡の挿入部全体が大形
化してしまう難点があった。
この発明は上記事情にもとづいてなされたもので,表示装置に倒立画
像が表示されることを防止して使用者の誤認識を防止することができる
とともに,挿入部の大形化を防止することができる内視鏡装置を提供す
ることを目的とするものである。」(1頁右下欄18行∼2頁左上欄1
3行)
・〔課題を解決するための手段〕
「この発明は内視鏡本体1の先端構成部5に装着された固体撮像素子
15の受光面上に結像された倒立画像を正立画像に変換して表示装置1
8に表示する画像変換機能を設けたものである。」(2頁左上欄14行
∼18行)
・〔作用〕
「固体撮像素子15の受光面上に観察光学系によって倒立画像が結像
された場合には画像変換機能によって倒立画像を正立画像に変換して
表示装置18に表示させることにより,表示装置18に倒立画像が表
示されることを防止するようにしたものである。」(2頁左上欄19
行∼右上欄5行)
イ上記記載によれば,乙2文献には,従来構成の内視鏡では先端部に光学
アダプターを装着した場合,画像が上下反対になることがあり,これを避
けるためにプリズムを用いると内視鏡の挿入部が大型化してしまう難点が
あったため,内視鏡の先端に固体撮像素子を装着することによりこれを解
決する技術が記載されていることが認められる。換言すれば,乙2文献に
は,光学機構技術である光学アダプターを用いていた内視鏡に光学電子技
術である固体撮像素子を適用することが記載されている。
(2)特開平2−173735号公報(発明の名称「内視鏡用カメラ」,出願人
オリンパス光学工業株式会社,公開日平成2年7月5日。乙3。以下,こ
の文献を「乙3文献」という。)に記載された技術
ア乙3文献には,以下の記載がある。
・[従来の技術]
「従来から,内視鏡用のスチルカメラは,撮影時にスコープに取り付
けてファインダにより観察を行いながら撮影を行っている。
近年,内視鏡画像のテレビ観察が盛んになり,ファイバスコープにも
TVカメラを接眼部に取り付けてスコープ像をモニタに表示させて観察
を行うようになっている。又,スコープの先端に撮像素子を組み込んだ
ビデオスコープも開発されている。・・・」(1頁左下欄20行∼右下
欄8行)
・「第4図は,従来のカメラの断面図である。この図に示すように,この
カメラは,本体1内にレンズ系2とミラ一部6とペンタプリズム4と,
接眼レンズ3とが設けられている。
前記ミラ一部6には,ケーシング8内にミラーシャッタ11が設けら
れており,このミラーシャッタ11の前面にはミラー10が設けられて
いる。又,観察時にこのミラーシャッタ11を保持しておくためのスト
ッパ9も設けられている。このミラーシャッタ11により反射された像
は,ペンタプリズム4により反転されて,接眼レンズ3を通じてファイ
ンダからは正立像を観察できるようになっている。」(2頁左上欄2行
∼14行)
・[発明が解決しようとする課題]
「しかしながら,この従来の内視鏡用カメラを用いてTVカメラと交
換しながら撮影を行うと,交換に手間がかかることや,スチルカメラを
取り付けている間はTV画像が得られないこと等の不具合が発生してい
る。又,ペンタプリズムは高価であるため,カメラが高価になってい
た。」(2頁左上欄15行∼右上欄1行)
・[発明の目的]
「本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,内視鏡画像の観
察とその画像の写真撮影とをカメラを交換せずに行える安価な内視鏡用
カメラを提供することを目的としている。」(2頁右上欄2行∼6行)
・[課題を解決するための手段]
「本発明の内視鏡用カメラは,内視鏡により得た像を撮影する撮影レ
ンズ系と,この撮影レンズ系からの像を2つの光路に選択的に導くミラ
ーシャッタと,前記の2つの光路のうちの一方の光路に設けられていて
内視鏡像を結像させるフィルムと,前記2つの光路のうちの他方の光路
に設けられていて前記内視鏡像を観察すべく前記ミラーシャッタにより
反射される前記撮影レンズ系からの光学的な像を光電変換する光電変換
手段とを具備するものである。」(2頁右上欄7行∼17行)
・[実施例]
「内視鏡像をモニタ等により観察する場合には,ミラーシャッタ11
は,この第1図に示すような位冒にストッパ9により保持されており,
撮影レンズ系2からの内視鏡像は,前記ミラーシャッタ11に設けられ
たミラー10により反射されて,CCD15上に結像されるようになっ
ており,そして,このCCD15上に結像された像は,このCCD15
により光電変換された後に図示しない処理回路等に入力されて鏡像から
正像への変換等が行なわれた後に図示しないモニタ等に画像が表示され
る。」(2頁右下欄3行∼13行)
・図面
第1図:本発明の第1実施例の内視鏡用カメラ
イ上記記載によれば,乙3文献には,従来,レンズ系,ミラー部,ペンタ
プリズム,接眼レンズなどの光学機構技術を用いたスチルカメラを内視鏡
に用いていたところ,テレビ観察が盛んになったため,内視鏡用カメラに
像を光電変換する光電変換手段も具備させるもので,光学機構技術と光学
電子技術を併用した内視鏡用カメラが記載されている。
(3)特開昭58−46922号公報(発明の名称「内視鏡」,出願人富士写
真フイルム株式会社,公開日昭和58年3月18日。乙4。以下,この文
献を「乙4文献」という。)に記載された技術
ア乙4文献には,以下の記載がある。
・「本発明の1つの態様によれば光屈曲手段は鏡であつてよいが,撮像素
子の撮像面には鏡像が結像する。従来技術によれば,たとえば光フアイ
バ撮像系を用いたいわゆる「フアイバスコープ」では,この鏡像を正し
い像すなわち正像に変換するために,ダハプリズムなどの特殊なプリズ
ムを導光手段として用いたり,画像表示側における光フアイバの画像配
列を結像側のそれとは左右が反対になるようにイメージバンドルの途中
で光フアイバ配列の順序を組み替えたりしなければならず,内視鏡頭部
が大形化したり,装置組立ての工数が増大する欠点があつた。本発明に
よる内視鏡では撮像面の画面の左右が正しく変換されるように撮像素子
の画素の水平走査方向を従来とは反対の方向にするという簡単な構成に
よつてこの欠点を解消し,小型で安価な内視鏡を提供することができ
る。」(2頁左下欄19行∼右下欄16行)
イ上記記載によれば,乙4文献には,従来技術によれば光フアイバ撮像系
を用いたいわゆる「フアイバスコープ」では,特殊なプリズムを導光手段
として用いる等していたため,内視鏡頭部が大形化したりする問題があっ
たところ,撮像素子の画素の走査方向を工夫することによりこの欠点を解
消する技術,すなわち,光学機構技術であるファイバスコープを用いてい
た内視鏡に光学電子技術である撮像素子を適用することが記載されている。
(4)原告の主張に対する判断
ア原告は,引用例1には光学機構技術の説明のみがされており,光情報を
電子情報に変換する電子技術は開示も示唆もされていないのに対し,引用
例2に記載された技術は,光情報を電気信号に変換しさらにこれを光情報
に変換するもので,光学電子技術分野に属する技術が記載されており,引
用例1と引用例2とでは技術分野を異にするから,単に内視鏡である点で
共通することのみを理由として,引用発明に引用例2に記載された技術を
適用することはできない旨主張する。
しかし,前記のとおり,乙2文献∼乙4文献によれば,光学機構技術を
用いてきた内視鏡に光学電子技術を適用することが適宜行われてきたと認
められるところ,引用発明と引用例2に記載された発明とは,内視鏡先端
部に設けた回動機構によって視野方向が可変とされた内視鏡である点で共
通しており,また,取得した画像の伝達手段として,光学系を用いる内視
鏡,先端部に備えた撮像デバイス(センサ)を用いる内視鏡はいずれも周
知であり,相互に技術を適用し得るものであるということができる。よっ
て,原告の上記主張は採用することができない。
イまた,原告は,引用発明に引用例2に記載された発明を適用する場合に
は,引用発明におけるプリズム4(直角固定プリズム)を除去する必要が
あるところ,引用例1には厳然たる事実としてプリズム4が記載され,プ
リズムは必須な構成であるにもかかわらず,審決は「このプリズムは,入
射光を再度反射して案内する必要に応じて設置したもので,そのまま通過
させた方が良い場合」などと引用例1に記載されていない条件を付与して
プリズム除去の困難性を否定しているが,引用例1に記載された技術を認
定する態度としては著しく客観性を欠くものである旨主張する。
しかし,引用発明のプリズム4は,前記のとおり,プリズム2から保護
管7(シャフト)の長手方向軸線に対し垂直な軸線方向から送られた物体
Aの情報を受け,これをファイバー6に送り,端面に結像させるための光
学機構を形成する一部材である。そして,光学機構技術を光学電子技術に
置き換えることは適宜試みられることであるところ,前記のとおり,引用
発明におけるプリズム4と同じく,挿入部(シャフト)の長手方向軸線に
対し垂直な軸線方向から送られた入射光を受ける固体撮像素子19を有す
る撮像手段が引用例2に記載されており,引用発明における光学機構技術
を甲2発明の光学電子技術に置き換えることにより,引用発明の光学機構
中のプリズム4は,必然的に甲2発明における固体撮像素子19に置き換
えられることになるものであって,プリズム4で入射光を送る必要がなく
なることになる。そうすると,引用発明におけるプリズム4とそれに続く
光学機構を光学電子技術に属するこの撮像手段に置換することは,当業者
にとって容易に想到し得たことというべきである。
ウさらに原告は,乙2∼4文献に記載された技術は,反射部材(対物レン
ズ)を回転するものではないから,引用発明及び引用例2文献に記載され
た技術とは無関係であって,引用発明に甲2発明を適用することには,依
然として阻害要因がある旨主張する。
しかし,乙2∼4文献は,内視鏡において光学機構技術と光学電子技術
を用いることが適宜行われていることを示すものであり,このことと反射
部材が回転することとは関係がないから,原告の上記主張は採用すること
ができない。
5結語
以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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