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          主        文
1 原判決を取り消す。
2 控訴人らが,原判決別紙物件目録記載1の土地につき,同目録記載2の土地を要役
地とする通行のための地役権を有することを確認する。
3 被控訴人は,控訴人らに対し,同目録記載1の土地を承役地とし,同目録記載2の
土地を要役地とする通行地役権の設定登記手続をせよ。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,被控訴人所有の原判決別紙物件目録記載1の土地に,控訴人らが共有
する同目録記載2の土地を要役地とする通行地役権が設定されているとして,控訴人ら
が,被控訴人に対し,上記通行地役権を有することの確認及びその設定登記手続を求
めたのに対し,被控訴人が,本件土地に通行地役権が設定されていることを否定するな
どして,控訴人らの請求を争っている事案である。
  原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴の申立てをし
た。
  なお,控訴人らが原審において上記請求に併せて求めていた上記目録記載1の本
件土地についてガス、上下水道、電気及び電話線等の配管、配線権を有することの確
認請求及び上記ガス、上下水道、電気及び電話線等の配管、配線の妨害行為の禁止
請求は,当審において取り下げられた。
 2 前提となる事実及び争点
   次のとおり加除,訂正し,次項以下に当事者双方の当審における主張を追加する
ほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の2,3項に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
 (1) 原判決2頁10行目の「A」を「A(以下「A」という。)に改める。
 (2) 原判決3頁12行目の「41,」を削り,18行目の「同手続に協力する,」の次に「④
将来建物を建築する場合は,当該建築に関する手続に協力し,必要に応じ本件斜面の
使用を承諾する旨の書面等を各所有者又はその指定する第三者に提出する,」を加
え,19行目の「④」を「⑤」に,「⑤」を「⑥」に,20行目の「⑥」を「⑦」に,24行目から25
行目の「原告Xては」を「控訴人Xは」に,末行の「28番26と地上建物及び同番29」を
「28番26,その土地上の居宅及び28番29」に改める。
 (3) 同4頁3行目の「(甲5,6)」を「(甲5,6,47)」に,6行目の「28番28及び本件土
地」を「28番28,その土地上の居宅及び本件土地」に改める。
 (4) 同6頁3行目から16行目までを削る。
 3 控訴人らの当審における主張
 (1) AないしB地所は,28番26,28番27,28番28を宅地分譲した際,本件斜面を
公道に至る通路とした上,これを3筆に分割して各分譲地買受人に分割帰属させた。本
件斜面は,各所有者が独占的に専有することなく一体のものとして各分譲地買受人の
通行の用に供されており,その地下には各分譲地のための上下水道,ガス管等が埋設
され,28番26,28番27の上の居宅の建築確認申請の際は,必要な範囲が所有の区
別なく専用通路とされ,また,それぞれ公衆用道路として固定資産税も免除されている。
   上記の分譲経緯,その利用状況等によれば,C,D及びEに対し上記分譲がされた
際,本件斜面の3筆の土地に,これに隣接する宅地のため,相互交錯的な通行地役権
が黙示に設定されたというべきである。したがって,本件土地には28番27を要役地と
する通行地役権が黙示に設定され,これが28番27の所有権と共に移転し,現在,控
訴人らがこれを有している。
 (2) また,本件合意書1,2において,28番26,28番27,28番28の各所有者は,
本件斜面の3筆の土地を互いに通行し利用する便益を相互に享受すると同時にその通
行を受忍する負担を相互に負うとした上,各所有者がその土地を売却した場合も,これ
を買受人に承継させることを合意しているが,これらは,上記(1)と同様の相互交錯的通
行地役権の設定を合意したものである。
 (3) 通行地役権者は,黙示に通行地役権が設定された場合は,その承役地の転得者
に対し,登記なくして通行地役権を対抗することができるから,控訴人らは,被控訴人に
対し,登記なくして,上記通行地役権を対抗することができる。なお,被控訴人は,本件
合意書2があることを認識して28番28及び本件土地を買い受けている。
 4 被控訴人の当審における主張
 (1) 黙示に通行地役権が設定されたというためには,客観的にみて明らかに交錯的な
利用が不可欠でこれを予定していると考えられるような特別の事情が必要であるが,2
8番26,28番27,28番28の各所有者は,公道との出入りに本件斜面内に有する自
己所有地を通行すれば足りるのであるから,交錯的な土地の利用を必要とする事情は
ない。また,建築確認申請のための土地利用は,通行地役権とは別の性質のものであ
るから,通行地役権を根拠付ける理由とはならない。
 (2) 本件合意書1,2は,各土地の譲受人に合意書の内容を引き継がせることを約束
し,所有者が代わる度に作成しているものであるから,債権的な合意をしているにすぎ
ず,したがって,本件分譲地の取得者間に通行地役権設定の合意がされたことはない。
また,被控訴人は,28番28,その土地上の居宅及び本件土地を買い受けた際,本件
合意書1,2があることは知らなかった。
第3 当裁判所の判断
 1 前記前提となる事実及び関係箇所に掲記の各証拠によれば,次の事実が認めら
れる。
 (1) 28番26,28番27,28番28,28番29,28番30及び本件土地(以下,これらを
合わせて「本件分譲地」ということがある。)は,かつてA所有の旧28番18の土地であっ
たが,昭和48年ころ,擁壁を設置する等して後記の分筆により28番26,28番27及び
28番28となる部分が3区画の宅地(以下,この部分を「本件宅地」ということがある。),
同じく28番29,28番30及び本件土地となる部分が通路になるように造成された(以
下,この部分を「本件通路」ともいう。)。旧28番18は,公道に面する東側から西側に向
けて高くなる形状であったため,28番28となる部分の東側(公道に面する部分)及び南
側(本件土地に面する部分),28番27となる部分の東側(28番28及び本件土地に面
する部分)及び南側(本件土地に面する部分)にそれぞれ擁壁が設置され,各宅地の出
入口はいずれも本件通路に面して設置され,本件通路は,傾斜した一体の土地として
全面にコンクリート舗装がされた(甲20,27,乙3の1ないし3)。
 (2) B地所は,昭和48年8月27日,後記の分筆により28番26,28番28となる部分
に,それぞれ木造住宅を建築する旨の建築確認を得た上(甲29,30),平成49年3月
15日ころ,それぞれ木造住宅各1棟を建築した(以下,28番26となる部分の上の住宅
を「26番居宅」といい,28番28となる部分の上の住宅を「28番居宅」という。甲47,4
8)。そして,Aは,同年8月30日,前記造成の形状及び利用区分に沿って旧28番18を
6筆の土地に分割するための地積測量図を作成し(甲7),これに基づき,同年10月1
日,旧28番18を28番26,28番27,28番28,28番29,28番30及び本件土地の6
筆の土地に分筆した。上記6筆の土地の位置及び形状は原判決別紙図面表示のとおり
である。そして,A及びB地所(以下,この2人を「分譲者」という。)は,同年8月28日に2
8番28,28番居宅及び本件土地をCに(甲1,3,48),昭和50年6月27日に28番27
及び28番30をDに(甲2,4),同年12月5日に28番26,26番居宅及び28番29をE
に(甲5,6,47)それぞれ分譲した。
 (3) 本件宅地の各取得者は,本件通路にそれぞれ自己の単独所有地を有するが,こ
れを専有するようなことはせず,一体のものとして互いに通行の用に供し,必要箇所に
ガス管,上下水道管等を埋設し,さらに,各宅地上の建物の建築確認申請(28番28は
除く。)にも協力し合った。すなわち,分譲者は,28番26に26番居宅を建築するについ
て,同土地所有者に分譲される28番29のほか28番27の所有者が取得する28番30
及び28番28の所有者が取得する本件土地のうち南側の幅0.26m,長さ14.71m
の部分を合算した3mの幅員の通路を専用通路として建築確認を得(甲41),また,D
から28番27及び28番30を買い受けたFが昭和62年に28番27に居宅(以下,この居
宅を「27番居宅」という。)を建築した際も,28番28の所有者が所有する本件土地のう
ち北側の幅2m,長さ8.05mの部分を28番27の専用通路として建築確認を得た(甲
14)。
 (4) その後,28番26,26番居宅及び28番29は,平成5年1月14日にEからGらに
譲渡され(甲5,6,47),28番27及び28番30は,昭和61年11月21日にDからFに,
平成2年7月28日に27番居宅も含めてFから控訴人らに譲渡され(甲2,4),28番2
8,28番居宅及び本件土地は,平成7年3月14日にCから被控訴人に譲渡され(甲1,
3,48),上記各居宅には各所有者がそれぞれ居住した。そして,本件分譲地の所有者
が変わっても,本件通路の利用状況に変化はなく,むしろ,平成2年7月18日に当時の
本件分譲地の所有者であるC,E,F間に,平成4年12月20日に当時の本件分譲地の
所有者又は所有者となるC,控訴人ら,Gら間に,それぞれ本件通路の共同利用につい
て合意する内容の書面(甲16,26)が作成された。その内容は,いずれも,自動車通行
を含め本件通路を無償で互いに自由に通行できること,水道管,ガス管,下水道管等を
本件通路部分に設置することを承諾しその手続に協力すること,建物を建築する場合
は本件通路の使用を無償で承諾する旨の書類を提出すること,本件分譲地を第三者に
譲渡しても譲受人にこの内容を承継させること等を合意するものであった。
 (5) 被控訴人が28番28,28番居宅及び本件土地を購入した平成7年3月14日当時
も,本件通路の上記の利用状況に変化はなく,被控訴人が28番居宅に居住するように
なった後も同様であった。
 2 上記のとおり,分譲者は,本件分譲地を造成した際,本件宅地の通路の用に供す
るために本件通路を設置し,これを3筆に分筆して本件宅地の各取得者に1筆ずつ帰属
させ,本件分譲地取得者は,本件通路を一体のものとして互いに通行の用に供し,必要
箇所にガス管,上下水道管等を埋設し,さらに,各宅地上の建物の建築確認申請(28
番28は除く。)にも協力し合っていたのであり,しかも,28番26及び28番27の取得者
が買い受けた各本件通路部分だけでは,上記両土地上に適法に建物を建築することが
不可能であったのであるから,分譲者が旧28番18を宅地造成して分筆の上分譲した
際,各取得者との間で,各所有する本件宅地の部分を要役地とし,これに接する他の二
者所有の本件通路の部分の土地をいずれも承役地とする無償の交錯的な通行地役権
を黙示に設定したものと認めるのが相当である。したがって,分譲者が昭和49年8月2
8日に本件土地をCに分譲した際,分譲者とCとの間で,分譲者所有の28番27を要役
地とし,本件土地を承役地とする無償の通行地役権設定の合意が黙示にされ,この通
行地役権が28番27の譲渡に伴い,昭和50年6月27日に分譲者からDに,昭和61年
11月21日にDからFに,平成2年7月28日にFから控訴人らに譲渡されたものと認めら
れる。
   なお,被控訴人は,本件宅地の所有者は,公道との出入りに本件通路内の自己所
有地を通行すれば足りるから,交錯的な土地の利用の必要性がなく,また,本件合意書
1,2は債権的な合意をしているにすぎないので,通行地役権設定の合意はされていな
いと主張する。しかし,上記のとおり,宅地として造成,分譲されており,本件通路も一体
のものとして造成され,その後も一体のものとして通行等の利用に供され,28番28を
除く本件宅地に建物を建築するために必須のものであって,関係者においてその共同
利用を確認する書面まで作成されていたことからすれば,本件通路について交錯的な
通行利用をする必要性は高いものと認められ,また,本件合意書が作成される前の分
譲者から各取得者に譲渡された際に地役権設定の合意がされたものであって,本件合
意書の記載内容からはその合意を解除した上債権的な合意をしたとは認められず,む
しろ,本件分譲地を第三者に譲渡しても譲受人に合意事項を承継させるなどの内容に
照らすと,その実質的な内容はまさに設定された通行地役権の確認と解されるのであっ
て,被控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。
 3 被控訴人は,通行地役権の登記を経由していない控訴人らは,その設定後に所有
権移転登記を経由した被控訴人に対し,通行地役権を対抗することができないと主張す
る。
   確かに,上記のとおり,控訴人らは,本件土地について通行地役権を取得したが,
その登記を経由しない間に,被控訴人が本件土地の所有権移転登記を経由している
(甲8)。
   しかし,上記1の認定事実によれば,本件土地が28番27及び28番26の所有者
らによって継続的に通路として使用されていることは,その位置,形状,構造等の物理
的状況から客観的に明らかであるから,被控訴人は,本件土地を取得した時,そのこと
を認識していたものと推認され,そうでないとしても認識することが可能であったと認めら
れる。そうすると,被控訴人は,本件土地に通行地役権が設定されていることを知らな
かったとしても,通行地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する
第三者には当たらないというべきである。
   したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
第4 結論
   以上の次第で,控訴人らの本訴請求はいずれも理由があり,これを認容すべきで
ある。
   したがって,控訴人らの請求を棄却した原判決は不当であり本件控訴は理由があ
るから,原判決を取り消し,控訴人らの本訴請求を認容することとして,主文のとおり判
決する。
    東京高等裁判所第15民事部
              裁判長裁判官  赤   塚   信   雄
                   裁判官  宇 田 川       基
                   裁判官  加   藤   正   男

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