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平成15年(ワ)第382号 損害賠償等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成15年4月15日)
            判       決
     原      告   特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委
員会
     原      告   株式会社日本家庭教師センター学院
     被      告   B
     訴訟代理人弁護士   三 好   徹
     同          吉 田   哲
     同          根 本 雄 一
     同          藤 川 浩 一
     同          高 久 尚 彦
     同          岩 本 康一郎
     同          石 田 央 子
     同          西 尾 政 行
     同          宮 下 正 臣
     同          中 山 素 子
     同          井 川 真由美
     同          津 田 直 和
            主       文
  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
  2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
            事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
 1 被告は,原告らに対し,54万5000円及びこれに対する平成14年10
月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(本判決末尾添付の訴
状写し請求の趣旨[1])。
 2 原告らは,被告に対し,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」名称中の
“優良業者”の削除を求める(前同請求の趣旨[2]a)。
 3 原告らは,被告に対し,商標「家庭教師派遣業自主規制委員会」の無断使用
の禁止を求める(前同請求の趣旨[2]b)。
 4 原告らは,原告らと被告との間において,被告は,原告らに対してAAA審
査の審査料・認定料として支払った2万円の返還請求権を有しないことの確認を求
める(前同請求の趣旨[2]c及び第2回弁論準備手続調書)。
 5 原告らは,被告に対し,被告がD審査委員長に提出した「AAA認定」審査
資料の提出を求める(前同請求の趣旨[2]d)。
 6 原告らは,被告に対し,「家庭教師派遣協会」名称中の“協会”を削除した
社名変更,又は,家庭教師派遣業広告倫理要綱に基づく付記説明,並びに,製版原
版,印刷物,表示物等の提出を求める(前同請求の趣旨[2]e)。
 7 原告らは,被告に対し,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」からの退
会,及び,愛媛県知事への「申出書」の提出が被告への名誉毀損・営業妨害・侮辱
にあたらないことの確認を求める(前同請求の趣旨[2]f)。
第2 当事者の主張
 1 請求の原因
  (1) 請求の趣旨1に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」2,5各記載の
とおり。
   ア 原告らの主張を善解すると,原告らは,被告が商標「家庭教師派遣業自
主規制委員会」を使用する行為は,原告株式会社日本家庭教師センター学院(以下
「原告センター学院」という。)の有する下記商標権(以下「本件商標権」とい
い,下記登録商標を「本件商標」という。)を侵害する行為に当たると主張して,
同商標権の侵害を理由に,50万円の損害賠償金の支払を求めているものと解され
る。
       登録番号      第3366762号
       出願年月日     平成6年(1994)6月7日
       登録年月日     平成9年(1997)12月19日
       商品及び役務の区分 第41類
       指定役務      技芸・スポーツ又は知識の教授
       登録商標      「家庭教師派遣業自主規制委員会」
   イ また,原告らは,被告は,訴外C(以下「C」という。)及び訴外D
(以下「D」という。)ら「家庭教師優良業者全国ネットワーク」(以下「全国ネ
ットワーク」という。)の会員と共に,平成14年11月28日から同年12月1
2日までの間に,インターネット上[www.aozora.com/kzi]で,また文書でも,原
告特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会(以下「原告自主規制委員
会」という。)に対する誹謗中傷行為や名誉毀損行為を行い,よって,同原告に信
用失墜などの損害を被らせたものであるとして,被告の上記行為が不法行為に当た
る旨を主張し,4万5000円の損害賠償金の支払を求めているものと解される。
  (2) 請求の趣旨2に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」2記載のとお
り。
    原告らの主張を善解すると,原告らは,被告が「家庭教師優良業者全国ネ
ットワーク」の名称を使用する行為は,誇大広告を禁じる特定商取引法43条に違
反するとして,同条及び同法47条等を根拠に,上記「家庭教師優良業者全国ネッ
トワーク」の名称から「優良業者」の文字を削除することなどを求めているものと
解される。
  (3) 請求の趣旨3に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」2記載のとお
り。
    原告らの主張を善解すると,原告らは,被告が商標「家庭教師派遣業自主
規制委員会」を使用する行為は,本件商標権を侵害する行為に当たると主張して,
同商標権の侵害を理由に,上記商標の使用の差止を求めているものと解される。
  (4) 請求の趣旨4に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」3記載のとお
り。
    後記のとおり,被告は,原告自主規制委員会が被告に対し,AAA審査の
審査料・認定料2万円を返還する義務を負う旨主張しているところ,同原告は,被
告の同審査辞退の意思表示は一方的なものであり,上記返還義務は存在しないとし
て,被告の上記主張を争っている。
  (5) 請求の趣旨5に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」4記載のとお
り。
    原告らの主張は必ずしも明確でないが,原告らは,原告自主規制委員会が
実施しようとしていたAAA認定審査に関し,混乱を招いた責任はDにあるとした
上,被告がAAA審査委員長であるDに提出した審査資料は,本来ならば同原告が
保管すべきものであるなどと主張して,被告に対し,上記資料の提出を求めている
ものと解される。
  (6) 請求の趣旨6に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」2記載のとお
り。
   ア 原告らの主張は必ずしも明確でないが,原告らは,被告が家庭教師派遣
業を個人で経営しているにもかかわらず,「家庭教師派遣協会」の名称を用いるこ
とは,家庭教師派遣業者の公的団体であるかのように消費者に誤認混同させるおそ
れがあり,社会通念上好ましくないと主張して,上記「家庭教師派遣協会」の名称
から「協会」を削除した上で社名を変更すること,又は,家庭教師派遣業広告倫理
要綱に基づく付記説明をすることを求めているものと解される。
   イ また,原告らは,本件商標権が侵害されている疑いがあると主張して,
商標法37条,78条等を根拠に,被告に対し,製版原版・印刷物・表示物等の提
出を求めているものと解される。
  (7) 請求の趣旨7に係る請求原因
    本判決末尾添付の訴状写し「紛争の要点(請求の原因)」6記載のとお
り。
    原告らの主張は必ずしも明確でないが,原告らは,会長の訴外E(以下
「E」という。)自らが特定商取引法,不当表示防止法,不正競争防止法等に違反
する疑いのある,虚偽・誇大広告を行っている全国ネットワークは,社会通念上
“優良業者”とは評価できないと主張して,被告に対し,同ネットワークからの退
会を求めるとともに,原告自主規制委員会が愛媛県知事に「申出書」(甲12)を
提出した行為が,被告に対する名誉毀損・営業妨害・侮辱にあたらないことの確認
を求めているものと解される。
 2 被告の認否及び反論
  (1) 請求の趣旨1に係る請求原因について
   ア 被告は,そもそも,「家庭教師派遣業自主規制委員会」の名称を使用し
ていないから,商標権侵害の問題は生じない。
   イ 被告がインターネット上で原告自主規制委員会を誹謗中傷したという点
については,否認する。また,被告が文書により同原告の名誉を毀損したという点
についても,否認する。被告は,同原告の名誉を毀損するようなインターネット上
の書き込みや文書の配布を一切していないので,同原告に対し損害賠償責任を負う
いわれはない。
  (2) 請求の趣旨2に係る請求原因について
    この点に関する原告らの主張(第2,1(2))は,それ自体失当である。
    被告は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の会員であるから,係る
名称を用いることに何ら問題はない。
  (3) 請求の趣旨3に係る請求原因について
    前記のとおり,そもそも,被告が印刷物等に本件商標「家庭教師派遣業自
主規制委員会」を付して使用している事実はない。したがって,商標権侵害の問題
は生じない。
  (4) 請求の趣旨4に係る請求原因について
    被告は,被告が原告自主規制委員会に対し,AAA審査の審査料・認定料
として支払った2万円の返還請求権を有することにつき,以下のとおり主張する。
   ア AAA審査の経緯
    (ア) 原告自主規制委員会は,家庭教師のプロ化及び地位向上並びに家庭
教師派遣業の自主規制の確立を目指す特定非営利活動法人であるが,家庭教師派遣
業に関するサービス評価の格付け制度(前記AAA審査)を立ち上げようと考え,
副理事長のDをAAA審査委員長に任命し,審査制度の調査,実施等を同人に一任
するとともに,無料の一次審査と有料の二次審査を実施することを決定した。
    (イ) 上記一次審査は,全国の家庭教師派遣業者に対し,審査の案内とサ
ービス評価に関するアンケート調査用紙(甲6)を送付し,返送されたアンケート
に基づいて,当該業者が特定商取引法等の関係法令を遵守しているかどうかを検討
し,遵守していると評価できる業者を一次審査合格とする,という内容のものであ
った。
      一次審査の案内書とアンケート用紙は,平成12年1月8日,全国2
06の業者に対し発送され,同年1月15日から翌年5月28日の間に,合計23
の業者からアンケート用紙が返送された。被告も,アンケート用紙をDあてに返送
した。
    (ウ) 原告自主規制委員会は,平成13年9月8日,被告を含む23の業
者すべてに対し,一次審査の合格通知と二次審査の案内を兼ねた文書(甲5の1)
を送付した。
      これによると,二次審査については2万円の審査料がかかり,大学教
授・弁護士などが審査員となって,当該業者の業務が特定商取引法等に適合してい
るかどうか審査した上,審査結果を10月末に通知するとのことであった。そし
て,審査に合格した場合には,「優良業者AAA」の認定証を交付するとともに,
原告自主規制委員会のホームページに業者名を掲載し(ホームページ管理料は年間
5000円),不合格の場合には,審査料の半額の1万円が返金になるとのことで
あった。
      上記内容の二次審査案内に基づき,被告は原告自主規制委員会に対し
て,同年9月26日,審査料2万円を支払うとともに(乙2),審査に必要とされ
る書類一式を同原告に送付した。
    (エ) ところが,同年10月末日を過ぎても原告自主規制委員会から審査
結果の連絡はなく,同年11月20日になって,突然,同原告から被告あてに,
「経済産業省ガイドライン サービス評価審査システム 優良AAA業者認定登録
証交付のご案内」と題する書面が送られてきた。
      これによれば,前記二次審査は,同原告の理事会が一次審査の再審査
という形で既に行ったとのことであり,優良AAA業者としての認定を受けるため
には,さらに,大学教授・弁護士等が審査員となる「最終審査」に合格する必要が
あるとともに,「最終審査」自体は無料であるが,合格した場合は,認定料・登録
料・交付料として15万円が必要とのことであった。
      AAA認定を受けるために15万円もの費用がかかることについて,
審査を申し込む前に一切説明はなかったため,被告は,同原告に対し,審査をキャ
ンセルする旨通知し,支払済みの審査料2万円の返還を求めた。そして,同年11
月末日までには,ほぼ全ての業者が,被告と同様,同原告に対し,審査をキャンセ
ルして2万円を返還することを求めた。
    (オ) 上記最終審査は,同年12月5日,私学会館アルカディアで開催さ
れたが,開始後間もなく,座長のF慶應義塾大学教授から,審査体制そのものに大
きな問題がある旨の指摘がされ,結局,個別の審査には至らず,全ての業者につ
き,合否は保留という扱いになった。
    (カ) 同年12月13日,Dから,被告を含む複数の業者に通知が届くと
ともに,二次審査のために提出した資料が返送されてきた。
      この通知によれば,Dは原告自主規制委員会に対して,審査料を返還
するように働きかけているとのことであったが,その後,同月25日になって,同
原告から被告あてに,「審査結果通知状」と題する書面(乙3)が送付されてき
た。同書面には,被告に関する審査結果が不合格であったこと,及び,審査料の返
還には応じないことが記載されていた。
      なお,同様の書面が被告以外の業者にも送付されており,すべての業
者について,審査結果は不合格とされていた。
    (キ) 被告は,その後も,原告自主規制委員会に対して審査のキャンセル
と2万円の返還を求めたが,同原告からの返金はないまま,現在に至っている。
   イ 被告の返還請求権について
    (ア) 原告自主規制委員会は,平成13年9月8日,被告に対し,一次審
査の合格通知と二次審査の案内を兼ねた文書を送付したが(前記ア(ウ)),これ
は,対価を2万円とする第二次審査契約の申し込みの意思表示と評価できる。しか
し,上記送付行為は,同原告代表者理事長であるA(以下「A」という。)の承認
なくされたものであり(甲16参照),同原告の法律行為であるとは認められな
い。
      それにもかかわらず,被告が2万円を支払い,第二次審査を申し込ん
だのは(前記ア(ウ)),法的には,新たな申し込みと評価される。しかるに,同原
告は,この新たな申し込みに対し,最終審査の認定料・登録料・交付料として15
万円の支払を求めたのであるから,申し込みに合致した承諾の意思表示がされてい
ない。
      そうすると,同原告主張に係るAAA審査契約は,そもそも成立して
いないというべきであり,同原告は,法律上の原因なくして,被告が支払った上記
2万円を利得したことになる。したがって,被告は,同原告に対し,2万円の不当
利得返還請求権を有している。
    (イ) 仮に,平成13年9月18日に,原告自主規制委員会と被告の間
に,AAA審査に関する契約が成立していたとしても,それは,下記①~⑥のよう
な内容のものであった(以下,かかる内容の契約を「本件審査契約」という。)。
     ① 被告は,原告自主規制委員会に対し,審査料として2万円を支払
う。
     ② 同原告は,被告から提出された資料をもとに,被告の業務が特定商
取引法などの関連法規や家庭教師派遣業自主規制規約に適合しているかどうか,更
に審査を行う。
     ③ 審査は,大学教授・弁護士・消費者コンサルタント等,第三者の専
門家が行う。
     ④ 審査結果が「合格」の場合,同原告は被告を「優良業者AAA」と
認定し,認証番号を記載した認定証を付与する。また,被告が同原告に対し管理料
として5000円を支払えば,同原告は自己のホームページに被告の名前を掲載
し,被告のホームページへのリンクを貼る。なお,認定期間は1年間であり,翌年
以後の継続審査料とホームページ管理料として,合計1万円が必要である。
     ⑤ 審査結果が「不合格」の場合,同原告は被告に対し,上記審査料の
半金に当たる1万円を返金する。
     ⑥ 合否の結果は,平成13年10月末日までに被告あてに通知する。
    (ウ) しかるに,原告自主規制委員会は,平成13年10月末日までに被
告に対して合否の通知をせず,前記ア(エ)記載のとおり,同年11月20日になっ
て,同原告の理事会において一次審査の見直しという形で二次審査を既に行った
旨,及び,「優良業者AAA」の認定を受けるためには「認定料・登録料・交付
料」として更に15万円の支払が必要である旨を被告に通知した。さらに同年12
月25日には,同月5日の審査会で実質的な審査が全くされておらず,審査員が
「合否留保」の結論を下したにもかかわらず,被告を「不合格」とする旨の通知を
送付した。
      かかる同原告の所為は,本件審査契約の前記(イ)②,③,④及び⑥に
ついての債務不履行と評価することができ,同原告の債務は既に履行不能となって
いる。
      そうすると,被告が再三にわたり同原告に対してなした「審査をキャ
ンセルする」旨の意思表示は,本件審査契約の債務不履行解除を意味するものとい
うべきである(被告は,かかる解除の意思表示は有効なものであると考えるが,念
のため,答弁書をもって,同原告の上記債務不履行に基づき本件審査契約を解除す
る旨を通知する。)。
      以上によれば,原告自主規制委員会は,被告に対し,契約解除に基づ
き,審査料2万円の返還義務を負っている。
    (エ) また,仮に,原告自主規制委員会が「優良業者AAA」の「認定
料・登録料・交付料」として別途15万円が必要になることを秘匿し,被告に2万
円を支払わせたということであれば,かかる同原告の行為は詐欺に該当するから,
被告は,本件審査契約について詐欺取消(民法96条1項)を主張する。
      また,契約の重要な部分に錯誤があったことになるので,本件審査契
約は錯誤により無効(民法95条)である旨も,併せて主張する。
  (5) 請求の趣旨5に係る請求原因について
    この点に関する原告らの主張(第2,1(5))は,争う。
  (6) 請求の趣旨6に係る請求原因について
   ア 「家庭教師派遣協会」の名称から「協会」の文字を削除せよとの原告ら
の主張(第2,1(6)ア)は,それ自体失当である。
     家庭教師派遣業広告倫理要綱に基づく付記説明をせよとの主張(前同)
についても,同様である。
   イ 商標権侵害の疑いがあることを理由に,製版原版・印刷物・表示物等を
提出せよとの原告らの主張(第2,1(6)イ)については,前記のとおり,そもそ
も,被告が本件商標「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用している事実がない
ので,商標権侵害は問題になり得ない。
  (7) 請求の趣旨7に係る請求原因について
    この点に関する原告らの主張(第2,1(7))は,いずれも争う。
第3 当裁判所の判断
 1 請求の趣旨1に係る請求原因について
  (1) 前記のとおり,原告らは,被告が本件商標「家庭教師派遣業自主規制委員
会」を使用する行為は,原告センター学院の有する本件商標権を侵害する行為に当
たると主張して,同商標権の侵害を理由に,50万円の損害賠償金の支払を求めて
いるものと善解することができる(第2,1(1)ア)。
    しかしながら,本件で提出されたすべての証拠を精査しても,そもそも,
被告が本件商標及びその類似の範囲にある商標を使用している事実を認めることは
できない。
    よって,その余の点につき判断するまでもなく,この点に関する原告らの
請求には理由がない。
  (2) また,上記と共に,前記のとおり,原告らは,被告がC,D及び全国ネッ
トワーク会員と共に,平成13年11月28日から平成14年12月12日までの
間に,インターネットのホームページ[www.aozora.com/kzi]上で,また文書によ
って,原告自主規制委員会に対する誹謗中傷行為や名誉毀損行為を行い,同原告に
信用失墜などの損害を被らせたとして,被告の上記行為が不法行為に当たる旨を主
張し,4万5000円の損害賠償金の支払を求めているものと善解することができ
る(第2,1(1)イ)。
    しかしながら,本件で提出されたすべての証拠によっても,被告が,上記
ホームページ上で,あるいは文書によって,同原告の名誉を毀損する行為や,信用
を失墜させる行為をした事実を認めることはできない。
    よって,その余の点につき判断するまでもなく,この点に関する原告らの
請求には理由がない。
  (3) 本件で表れたすべての事情に照らしても,上記のほかに,請求の趣旨1記
載の請求を根拠付ける請求原因事実が,具体的に主張・立証されているということ
はできない。
    したがって,原告らの上記請求には理由がない。
 2 請求の趣旨2に係る請求原因について
   前記のとおり,原告らの請求は,被告が「家庭教師優良業者全国ネットワー
ク」の名称を使用する行為は,誇大広告を禁じる特定商取引法43条に違反すると
した上,主務大臣の業務停止権限等を規定する同法47条を根拠に,上記「家庭教
師優良業者全国ネットワーク」から「優良業者」の文字を削除することなどを求め
ているものと善解することができる(第2,1(2))。
   しかしながら,特定商取引法は,43条で役務提供者等の誇大広告等を禁止
する旨を規定し,47条で主務大臣の業務停止権限等を規定しているが,役務提供
者等に同法43条に違反する行為があったとしても,私人が同法の規定に基づき当
該業者等に対して業務の停止や違反行為の差止等を求める私法上の権利を有するも
のでないことは,同法の規定から明らかであるから,原告らの上記主張は,それ自
体失当というほかない。その他,原告らが被告に対して上記のような請求をなし得
る法律上の根拠については,原告らから何らの主張も立証もない。
   したがって,この点に関する原告らの請求には理由がない。
 3 請求の趣旨3に係る請求原因について
   前記のとおり,原告らは,原告センター学院の有する本件商標権の侵害を理
由に,被告に対し,商標「家庭教師派遣業自主規制委員会」の使用の差止を求めて
いるものと善解することができる(第2,1(3))。
   しかしながら,そもそも,証拠上,被告が本件商標及びその類似の範囲にあ
る商標を使用している事実を認めることができないのは,前記1(1)で述べたとおり
である。
   よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告らの上記請求には理由
がない。
 4 請求の趣旨4に係る請求原因について
  (1) 証拠(甲1の1~2,2の2,4,5の1~3,6,7の1~2,9の1
~2,13,16,21,乙1~4)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が
認められる。
   ア 原告自主規制委員会の理事長であり,かつ,原告センター学院の代表者
でもあるAは,家庭教師派遣業の草分け的存在の一人とされ,「ふくろう博士」の
通称で知られている。
     他方,被告は,愛媛県松山市において,「家庭教師派遣協会」なる名称
で家庭教師派遣業を営んでいる。
   イ Aは,通商産業省(当時)が継続的役務提供業務の適正化に乗り出した
ことをきっかけに,同省からの依頼を受け,継続的役務適正化研究会の委員に就任
した。同人は,平成6年ころに初めて作成された「家庭教師派遣業自主規制規約」
の取りまとめに際し,中心的な役割を果たしたが,そのころから,自らを「家庭教
師派遣業自主規制委員会」と称するようになった(なお,原告自主規制委員会は,
平成12年12月15日に,経済企画庁から特定非営利活動法人(NPO)として
認証を受け,同月28日に法人格を取得したものであるが,法人格取得の前から権
利能力なき社団として存在したものと認められるので,以下,法人格取得の前後を
問わず,「原告自主規制委員会」と表記する。)。
     Aが代表者代表取締役を務める原告センター学院は,平成6年6月7
日,本件商標「家庭教師派遣業自主規制委員会」を商標登録出願し,同商標は,平
成9年12月19日に登録された。
   ウ やがて,CやDらが原告委員会に加わり,平成10年ころには,以前か
らの構成員であったEを会長とし,C及びDらを副会長として,家庭教師優良業者
全国ネットワーク(前記「全国ネットワーク」)が結成された。
     上記全国ネットワークは,本来,家庭教師派遣業者による任意の勉強会
的な集まりであり,E,C及びDら,その主要な構成員は原告自主規制委員会の委
員でもあるが,Eらの呼びかけに応じて同ネットワークに参加しただけで,同原告
と特に関わりを持たない構成員もいる。
   エ 平成11年10月に,訪問販売法(現特定商取引法)が改正され,家庭
教師派遣業が継続的役務に指定されて,家庭教師派遣業に関する契約や勧誘が法的
規制の対象となった。
     これをきっかけに,原告自主規制委員会においても,もともと金融機関
を対象に使われていた格付け評価(AAA評価)を,家庭教師派遣業者を対象に実
施することを検討するようになり,Dを中心に,AAA審査に関する研究,調査及
び実施に着手した。
   オ 原告自主規制委員会は,平成12年1月8日ころ,被告を含む全国20
0余の家庭教師派遣業者に対し,「安心度AAA評価アンケート調査 家庭教師派
遣業サービス評価委員会」と題する書面を送付した。
     同書面には,上記アンケート調査は,「法を遵守し消費者保護と良質な
役務の提供がなされているか」を調査するものであり,返送されたアンケート結果
と契約書その他の書類を審査して,回答者の提供するサービスを評価する(AAA
審査)ことなどが記載されていたが,それに要する費用等については記載されてい
なかった。
   カ 被告は,上記AAA審査の趣旨に賛同し,上記アンケートの回答(甲
6)を原告自主規制委員会に返送した。これに対し,同原告は,平成13年9月8
日,被告がAAA審査の第一次審査に合格したことなどを通知する書面(甲5の
1。以下「第一次審査合格通知書」という。)を被告に送付した。
     同書面には,被告が第一次審査に合格したことのほか,第二次審査は,
大学教授,弁護士,消費者コンサルタント等を審査員として厳正に実施すること,
第二次審査に合格した業者を「優良業者AAA」と認定すること,「優良業者AA
A」については,認証番号を記載した認定書を付与し,同原告のホームページに掲
載すること,第二次審査を希望する場合には,審査料・認定料2万円を同年9月3
0日までに指定口座に振込送金する必要があるが,不合格の場合はその半額を返還
すること,第二次審査の結果は,同年10月末に連絡すること,ホームページに掲
載する場合には,管理料として年間5000円が別途必要になることなどが記載さ
れていた。
   キ 被告は,平成13年9月26日,第一次審査合格通知書で指定された口
座に2万円を振込送金した(乙2)。
   ク 原告自主規制委員会は,平成13年11月20日,被告に対し,「経済
産業省ガイドライン『サービス評価』審査システム『優良AAA業者』認定登録証
交付のご案内」(甲7の1)及び「家庭教師派遣業者・個別指導教室『サービス評
価』認定審査委員会規約」(甲7の2)と題する各書面等を送付した。
     これらの書面には,第二次審査は第一次審査の再審査という形で既に終
了したこと,第二次審査の合格者を対象に,同年12月5日,学識者,弁護士,弁
理士等による第三次審査(最終審査)を実施し,その結果に基づいてAAAの認定
をすること,第三次審査に合格した場合には,AAA認定料・登録料・交付料15
万円の納付が必要であることなどが記載されていた。
   ケ 上記各書面の送付を受けた被告は,原告自主規制委員会に対し,第二次
審査の申込みを撤回すると共に前記審査料2万円の返還を求める旨の通知をした。
   コ 平成13年12月13日,Dを通じて,原告自主規制委員会から被告に
対し,第二次審査のために提出した資料が返送されたが,同月25日になって,同
原告から被告あてに,「審査結果通知状」と題する書面(乙3)が送付されてき
た。
     同書面には,被告の審査結果は不合格であったこと,及び,認定審査に
必要な審査料・認定料・登録料・交付料等の諸費用は,理由のいかんにかかわらず
返還しないことが記載されていた。
   サ 原告自主規制委員会は,同じころ,Cらに対しても,上記同様の「審査
結果通知状」と題する書面を送付したが,同原告のかかる対応に立腹したCは,平
成14年4月17日,同原告に対し,同人が清算人を務める有限会社家庭教師紹介
センターを原告として,AAA審査料2万円の返還等を求める訴えを松山簡易裁判
所に提起した(同事件は,後に松山地方裁判所に移送された。同庁平成14年(ワ)
第541号。甲13及び乙4各参照)。
     これに対し,原告らは,平成14年8月に,Dら全国ネットワークの有
力な会員を相手に,上記2万円の返還請求権が存在しないことの確認等を求める複
数の訴えを東京地方裁判所に提起した(甲17~20参照)。また,平成14年1
1月11日,本件被告を相手として,同様の確認等を求める本件訴えを東京簡易裁
判所に提起した(なお,その後の同月22日,本件は当庁(東京地方裁判所)に移
送されて,現在に至っている。)。
(2) 上記のとおり,原告自主規制委員会は,被告に対し,平成13年9月8
日,第一次審査合格通知書をもって,同原告が実施する第二次審査に合格すれば
「優良業者AAA」と認定することなどを説明した上,同審査を希望する場合に
は,同年9月30日までに,審査料・認定料2万円を指定口座に振込送金するよう
通知した((1)カ)。上記通知書の体裁や記載内容に照らせば,通常人であるなら
ば,審査料・認定料として2万円を支払えば,同通知書に記載されたとおりの内容
で,最終審査としての第二次審査を受けることができると理解するものと考えられ
る。しかるに,同原告は,同通知書の記載のとおりに,同年10月末までに第二次
審査を実施してその結果を被告に通知することをせず,かえって,同年11月20
日,被告に対し,最終審査として第三次審査を同年12月5日に実施する予定であ
ること,及び,第三次審査に合格してAAA認定を受けるための費用として15万
円が必要である旨を通知した((1)ク)。
    被告は,第二次審査を希望して,審査料・認定料2万円を同原告の指定す
る口座に振込送金したのであるから,これにより,第一次審査合格通知書に記載さ
れたとおりの内容でAAA審査の第二次審査を受ける旨の申し込みの意思表示をし
たものと認められる。しかしながら,被告は,上記2万円のほかに,これに比して
格段に高額な15万円の費用が別途必要になることを知らなかったのであり,仮に
これを知っていれば上記申込みをすることはなかったと考えられるから,被告のし
た上記申込みの意思表示には,要素の錯誤が存在するものと認められる。したがっ
て,被告の上記意思表示は無効というべきである。
    そうすると,原告自主規制委員会は,法律上の原因なく,被告から前記審
査料・認定料2万円の振込入金を受けたことになる。したがって,同原告は,被告
に対し,不当利得として前記2万円を返還する義務があるというべきである。
    以上によれば,被告が原告自主規制委員会に対してAAA審査の審査料・
認定料として支払った2万円の返還請求権を有しないことの確認を求める原告らの
請求には,理由がない。
 5 請求の趣旨5に係る請求原因について
   前記のとおり,原告らは,被告がAAA審査委員長であるDに提出した審査
資料は,本来ならば原告自主規制委員会が保管すべきものであるなどと主張して,
被告に対し,上記資料の提出を求めているものと解されるが(第2,1(5)),本件
におけるすべての主張・立証に照らしても,原告らが被告に対し,このような私法
上の請求をなし得る法律的根拠は,不明である。
   したがって,この点に関する原告らの請求には理由がない。
 6 請求の趣旨6に係る請求原因について
  (1) 前記のとおり,原告らは,被告が「家庭教師派遣協会」の名称を用いるこ
とは,家庭教師派遣業者の公的団体であるかのように消費者に誤認混同させるおそ
れがあり,社会通念上好ましくないと主張して,上記「家庭教師派遣協会」の名称
から「協会」を削除した上で社名を変更すること,又は,家庭教師派遣業広告倫理
要綱に基づく付記説明をすることを求めているものと解されるが(第2,1(6)
ア),本件におけるすべての主張・立証に照らしても,原告らが被告に対し,この
ような私法上の請求をなし得る法律的根拠は,不明である。
    したがって,この点に関する原告らの請求には理由がない。
  (2) また,これも前記のとおり,原告らは,本件商標権が侵害されている疑い
があると主張して,商標法37条,78条等を根拠に,被告に対し,製版原版・印
刷物・表示物等の提出を求めているものと解されるが(第2,1(6)イ),原告ら主
張に係る上記法文が,このような請求権の発生の根拠となるものであるとは考えら
れないし,前述のとおり,そもそも,証拠上,被告が本件商標及びその類似の範囲
にある商標を使用している事実を認めることはできない(第3,1(1))。
    よって,この点に関する原告らの請求には理由がない。
  (3) その他,本件で表れたすべての事情に照らしても,請求の趣旨6記載の請
求を根拠付ける請求原因事実が,具体的に主張・立証されたということはできな
い。
    したがって,原告らの上記請求には理由がない。
 7 請求の趣旨7に係る請求原因について
   前記のとおり,原告らは,会長のE自らが違法の疑いのある虚偽・誇大広告
を行っている全国ネットワークは,社会通念上“優良業者”とは評価できないと主
張して,被告に対し,同ネットワークからの退会を求めるとともに,原告自主規制
委員会が愛媛県知事に「申出書」(甲12)を提出した行為が,被告に対する名誉
毀損・営業妨害・侮辱にあたらないことの確認を求めているものと解されるが(第
2,1(7)),本件において,原告らが被告に対し,このような私法上の請求をなし
得る法律的根拠が,具体的に主張・立証されたということはできない。
   よって,この点に関する原告らの請求には理由がない。
第4 結論
   以上によれば,原告らの請求には,いずれも理由がない。よって,主文のと
おり判決する。
  東京地方裁判所民事46部
      裁判長裁判官  三  村  量  一
         裁判官  青  木  孝  之
         裁判官  吉  川     泉

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