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裁判例


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       主   文
一、申請人らの申請を、いずれも却下する。
二、訴訟費用は、申請人らの負担とする。
       事   実
第一、当事者の申立
一、申請人ら
(一) 申請人らが、それぞれ被申請人の従業員として労働契約上の権利を有する
ことを仮に定める。
(二) 被申請人は、申請人Aに対して一カ月につき金五〇、三〇三円、申請人B
に対して一カ月につき金六八、四六三円を、昭和四三年四月一日以降毎月二七日限
り支払え。
(三) 申請費用は、被申請人の負担とする。
二、被申請人
 主文同旨。
第二、申請人らの申請理由
一、被申請人は、東京に本社を、名古屋市に従業員約四五〇名の合板製造工場を有
する会社であり、申請人らは、かねてから、いずれも右名古屋合板工場に勤務する
従業員であり、かつ、被申請人会社従業員をもつて組織する申請外湯浅貿易名古屋
合板工場労働組合(以下組合と略称)の組合員であつて、申請人Aは、右組合の執
行委員長を、申請人Bは副委員長を昭和三八年一〇月からそれぞれ各四期にわたつ
て勤めたものである。
二、被申請人は、昭和四三年三月二八日、その代理人である名古屋合板工場工場長
Cを通じ、口頭で、申請人らに対しそれぞれ解雇の意思表示をなした。
三、しかしながら、右各解雇の意思表示は、次の理由によりいずれも無効である。
(除名手続の違法)
(一) 被申請人は、右各解雇の理由として、被申請人と組合との間に労働協約が
あり、その第七条に「組合から除名されたものを会社は原則として解雇する」旨の
定めがあるところ、組合が申請人らを除名したから、それで解雇したのであると主
張する。
 しかしながら組合の右除名は、これを決議した組合大会が、定足数を欠き適法に
成立していないばかりか除名投票につき、自由な意思決定をなし得ない状況下に投
票をなさしめたから本件除名手続に違法がある。
 すなわち、組合は、昭和四三年三月八日申請人らの除名に関する臨時大会を開催
したが、それが有効に成立するためには、組合規約第一八条の規定上、組合員総数
の三分の二以上が出席することを要し、またその議決については、右規約第一九条
の規定上、総組合員の過半数の賛成を要するものとされている。(議決の定足数に
ついては明文の規定はないが大会成立のための定足数と同じと考えるのが相当であ
る。)
 ところが申請人らの除名決議は、組合員総数の三分の二を下まわる二四二名の組
合員の出席を得ただけの情況で行なわれたものであるから、大会成立の定足数及び
議決定足数を欠いて行なわれた違法が存すること明らかである。また翌日行なわれ
た除名投票は、申請人ら旧執行部派の選挙管理委員が加わらないまま、除名決議を
強行した新執行部が自派内部から管理委員八名を補充して強行したのであるが、規
約第二一条に定める無記名投票制の趣旨を無視し、投票者が互に秘密が守れるよう
な仕切りが設けてなく、何人も自由に監視し得る状態で、心理的に組合員の自由な
意思決定を期待できない方法で行われたものであるから、組合員の自主的な意思が
正当に反映確保されたものということができない。
 以上の次第で本件除名処分はいずれの観点よりするも無効である。
(除名理由不存在)
(二) 一般に、労働組合は、もとより団結確保のためその組織を統制すべきであ
るが、その組織統制権は組合の目的達成のためという一定の枠の中でのみ認められ
るべきである。しかして組合はこれが統制の方法として各種の懲罰制度を設けてお
り、前記申請人らの属した組合においても、組合員のいわゆる統制違反行為に対処
するため除名処分制度を設けている。そもそも除名処分は組合員としての地位を強
制的に剥奪し組合活動より排除する絶対的否定を意味し、しかもユニオンシヨツプ
協定が締結されていると、組合が組合員を除名すると、従業員たる地位をも失う結
果になり被除名者の生活権を著しく侵害する要素を包蔵しているといえる。それ故
に除名理由の相当性の判断に当つては右一定の枠の下に厳格なる制限を加えるべき
であり、基本的には組合の目的達成のために行なわれる争議行為その他組合活動を
積極的に攪乱し当該組合の存在自体を否定し、これを破壊する等の著しい反組合的
行為がなされた場合に限定されるべきである。
 しかるところ本件における除名理由は、被申請人の主張事実によつても明確とは
いい難いが、除名の第一義的な理由として、申請人らが第三回評議委員会により設
置された査問委員会の査問を拒否したという単純且つ現象的な一事実を捉えて、機
関決定及び統制違反としているものと解せられる。
 しかしながら組合は前年度決算報告の名の下に調査委員会を設置し、申請人らを
始め関係人を個別に喚問して多数の威力をかり会計問題よりもむしろ組合運動の指
導面に非難を浴びせ、さらに査問委員会を設置し、査問事項を具体的に明かにする
ことなく申請人らを個別に喚問したので、申請人らは先ず出席し、その席で申請人
らを始め関係人を同席させて充分に説明、弁明の機会を与えるよう申し入れたにか
かわらず組合の現執行部はこれを拒絶したので申請人らは已むなく退席したのであ
る。なおその後も再三同様の申し入れをしたが応じてもらえなかつた。かかる実情
であるから申請人らは査問委員会を拒否したものといえず統制違反とはならない。
 また被申請人は組合の会計不正をも除名理由として挙げている。
 しかしながら右除名理由はそれ自体実質的には何ら不正には属しない組合におけ
る昭和四二年五月以降の会計書類の作成上の単なる過誤や、従来から慣行上容認さ
れてきた便宜的な会計処理自体(従来から組合役員に専従者がいないため専従書記
に会計事務一切を任かせ書記長や財政部長が事後的にこれを確認するという会計処
理をしていた。)を捉え、申請人らに経理上の不正があつたものとなし、それを理
由に右査問委員会を開くに至つたものである。
 したがつて、本件申請人らに対する組合の除名は、組合がその権限を行使すべき
合理的な理由がないにもかかわらず、申請人らについて存する正当な行為をあたか
も経理上不正行為とし、あるいは、組織上の義務違反と強弁したうえ、組合に許さ
れた組織統制権の行使範囲を逸脱しなされた統制処分であり、法律上除名の効力を
有せず、申請人らは現在も依然として組合員たる地位を有するというべきである。
したがつてまた被申請人が、申請人らについて、組合の有効な除名処分があつたこ
とを前提とし、労働協約第七条のユニオンシヨツプ条項を適用してなした解雇の意
思表示は、無効である。
(ユニオンシヨツプ協定適用の違法)
(三) 仮に右除名決議が有効であつたとしても労働協約七条本文に規定されてい
るユニオンシヨツプ条項は、元来これによつて組合の統一と団結を強化することを
主たる目的とするものであり、従つて右条項は組合の結束が維持され統一と団結と
が一応保たれていることを前提としていると解すべきである。ところが本件におい
ては後記のとおり除名決議当時においては組合は分裂状態にあつたのであり、既に
組合の統一が乱れユニオンシヨツプ条項の目的とする組合の統一と団結の基礎は失
なわれている状態にあつたから、かかる状態においてはユニオンシヨツプ条項の効
力は組合に及ばないものというべきであり、右条項を適用してなされた本件解雇は
無効である。
(苦情処理手続の不履行)
(四) 仮に、右主張が理由ないとしても、労働協約第七条には、「被除名者が除
名された日から一四日以内に異議を申立てたときは……苦情処理手続によつて解決
をはかり、それでも解決のつかない場合は愛知県地方労働委員会の仲裁によつて解
決する。」旨の但書があり、これによれば、被除名者が所定期間内に、異議申立を
したときは、異議申立手続を履践しない限り、会社は被除名者を解雇し得ないと解
されるところ、本件各解雇の意思表示は、申請人らの異議申立を無視し、苦情処理
手続を経ないで行なわれたから、無効である。
 すなわち、申請人らは、本件除名処分のなされた後、組合に対し三月一一日口頭
にて、翌三月一二日に「申入れ書」を提出し、右除名処分を不服とする異議の申立
をなした。しかるに、被申請人および組合は、右第七条但書の規定にしたがい苦情
処理委員会において六日以内に判定しないばかりか、そもそも苦情処理委員会さえ
設置しなかつたのである。
 また、苦情処理委員会を設けている制度の趣旨にかんがみれば、被申請人は、解
雇に先立ち、当然、被除名者である申請人らの弁解を聞くべきものであり、とくに
本件除名の如く、旧執行部派と新執行部派の対立などがあり、組合の分裂状態下
(名古屋合板工場労組は昭和四二年春闘以来組合内に民主々義研究会(以下民研と
いう。)というグループが抬頭し申請人ら旧執行部派に対立する動きが表面化し、
昭和四二年一二月の組合大会における役員改選により新執行部が選出されるや新旧
各執行部派の対立抗争は激化していたことは後記のとおりである。)に行なわれた
除名の場合においては、解雇という従業員の地位剥奪行為をなすにあたつては、一
般の場合にもまして、被除名者の十分な弁解を聞くべきであるところ、被申請人
は、これをも怠たり、弁解の機会さえ与えず解雇をなすに至つたのは、重大な手続
違反というべきで、本件解雇は無効である。
(不当労働行為)
(五) 本件解雇は、昭和四二年春闘時における組合と被申請人との間の係争に端
を発し、被申請人が、右闘争時における申請人らの正当な組合活動を嫌悪し、申請
人らの組合活動を封ずるためなしたもので、不当労働行為として無効である。すな
わち、昭和四二年春闘に際し、組合は、申請人らを執行委員として、退職金、賃上
げなどの要求を貫ぬくため、三月末から五月にかけて、五〇日間にわたるストライ
キを行なつたところ、その後、被申請人は、申請人らの組合指導ないしその他の正
当な組合活動を極度に嫌悪し、右ストライキの妥結直後の五月二一日、早くもその
企画により、一部組合員(一一〇名位)を市内の旅館に集合させ、その席に、被申
請人側から、当時の常務取締役D、名古屋合板工場工場長Cら幹部が出席し、「会
社は、愛労評、愛木労に敗けたが、うちの組合に敗けたのではない。」「一方交通
の組合を皆の力で直してほしい。」など力説し、申請人ら当時の執行部を非難し、
組合の分裂弱体化を煽動し、出席組合員に酒食を提供したりした。また、その後、
被申請人のこれらの動きに呼応して、組合員の中から、前記民研なる団体が発足
し、組合の分裂破壊を職業とする極東事情研究所なる団体と結びつき、その指導の
下に各組合員に対し現執行部はアカだ、階級闘争至上主義であるから、そのいうこ
とを聞いておれば会社が倒れてしまう、民主々義研究会に入らぬ者は会社にいられ
なくなるなどいつて、徐徐に組合員を民研に加入させる運動が活発化した。そし
て、五月二八日市内の寺院で行なわれた民研の会合において、被申請人は、出席者
に対し、前記ストライキ中の賃金分の補償をするとの密約をなし、その後、被申請
人労務係員を通じて貸出金名下に一カ月分の賃金相当額若しくはそれ以上の金員を
民研のメンバーに交付した。さらに、民研は、九月三日、名古屋市外の温泉場にお
いて、その講習会を開催すると称し、二四〇名の組合員を出席させたが、その際、
被申請人は、その費用を負担した模様である。その後、昭和四二年一二月、組合の
役員改選に申請人らが少差で落選するや、被申請人と結託した新執行部は、前記の
とおり、組合の会計帳簿上に訂正印の印もれがあつたなど、ささいなミスを針小棒
大にとりあげ、根拠なくして、組合資金の不当支出、着服などの非難を申請人ら旧
執行部にあびせ、調査、査問に名をかりて、申請人らを多人数で吊し上げ、退職を
強要したりした。しかし、申請人らが、かような不当な要求に屈しないとみるや、
昭和四三年二月一三日に至り、組合は、同組合の大会の次に位置する決議機関であ
る評議員会において、多数決と称して、申請人らを組合から除名するとの決定をな
した。そして、これを理由として、翌一四日、C工場長は、申請人らに対し解雇す
る旨通告した。しかしこの通告は、申請人らの抗議によつて翌一五日撤回された。
ついで、三月八日、新執行部は、前記のとおり、除名問題討議のため、臨時大会を
開催したが、その際、被申請人は賃金カツトしない就業時間内大会を許可するとい
う異例の措置をとり、民研派組合員の出席の便を図つた。また、被申請人は、ユニ
オンシヨツプ条項があり、除名すなわち解雇の問題に至るべきことを知りながら、
あえて三月二八日までの間において、申請人らから何等の弁明を聞く措置さえとら
なかつた。したがつて、これらの事実からすれば、被申請人は、二月一三日以前に
おいて、既に現執行部と連絡をとり、申請人両名の除名を待ち受けており、執行部
の動きに呼応して、ユニオンシヨツプを適用し、除名を理由として、直ちに解雇の
挙に出たことはみやすいところである。
 そうすると、本件申請人らに対する解雇の意思表示は、表面ユニオンシヨツプ協
定によるものの如くであるが、真実は被申請人が組合組織の弱体分裂を図る目的を
もつて、被申請人の意の下に行動する現執行部と通じてなした不当労働行為である
こと明らかで、無効というべきである。
(解雇事由不存在・権利濫用)
(六) また、前記のとおり本件解雇は、被申請人が申請人らに対し解雇の措置に
出るに足りる事由をもたずなしたものであり、また被申請人が解雇権を濫用してな
したものでこの点からも無効である。
四、必要性
 ところで申請人らの解雇前三カ月間の平均賃金額は、Aについて一カ月金五〇、
三〇三円、Bについて同じく六八、四六三円であるところ、被申請人は、申請人ら
に対する解雇の意思表示をなした後、毎月二七日の賃金支給日においてもこれを支
払わないので、右状態が引続くときは賃金を唯一の生計の資とする労働者である申
請人らの生活は、破綻する。したがつて、申請人らが追つて提起する本案訴訟の判
決が確定するまでの間、仮に、申請人らについて被申請人の従業員たる地位を定
め、また前記平均賃金額相当の金員支払いを受けさせる必要性がある。
 よつて申請人らは申請の趣旨第一、第二項の仮処分命令を求めるため本件申請に
及んだ。
第三、被申請人の主張に対する答弁
 被申請人主張の第四の二項の事実は被申請人主張の日ころ申請人らが解雇予告手
当金の還付を受けたことは認めるが、その余は否認する。申請人らは当初から解雇
の効力を争つており、予告手当金の還付を受けたのは本件仮処分事件の係争中であ
る。そして申請人らは生活に困つていたため生計の資金に充てるべく還付を受け、
昭和四三年五月一八日到達の書面を以つて被申請人にその旨通知しているのであつ
て、これら一連の事実は本件解雇をあくまで争おうとする申請人らの意思を明らか
にするものであつて、供託金の還付を受けたという外形的事実から直ちに被申請人
の主張するように解雇を承認したものと認めるべきではない。
第四、被申請人の答弁
一、申請理由第一項および第二項の事実は、認める。
二、申請理由第三項の(一)ないし(六)の各事実は、申請人ら主張の日ころ組合
の臨時大会が開催されたこと、除名可否についての賛否の投票がその主張の日ころ
施行されたこと、労働協約第七条に申請人ら主張のとおりの条項が存すること、組
合が昭和四二年春闘に際しその主張の期間ストライキを行なつたこと、昭和四二年
二月の組合役員改選にあたり申請人らが落選したこと、旧執行部に対し組合資金の
不当支出などの理由により非難が加えられたこと、昭和四三年二月一三日組合評議
委員会において申請人ら主張のとおりの除名決議がなされC工場長が申請人らに解
雇通知をなし同月一五日これを撤回したこと、本件につき苦情処理委員会が開かれ
なかつたこと、申請人ら主張の「申入れ書」と題する書面が申請人らから組合に提
出されたこと(但し提出日は昭和四三年三月一四日である。)組合内に民研なるグ
ループの存すること、申請人ら主張の市内の旅館における一部組合員の集会に被申
請人の工場長ら幹部が出席したこと、以上の事実は認める。申請人らが除名決議に
つき異議申立をしたことは不知、その余の事実及び主張は後記のとおり争う。
三、申請理由第四項中、申請人らの平均賃金額はこれを認め、仮処分の必要性ある
との主張は争う。
第五、被申請人の主張
一、解雇の有効性
(除名の効力と解雇の効力)
(一) ユニオンシヨツプ協定は、いうまでもなく組合の統制力、団結力の強化に
その目的があり、労使間にユニオンシヨツプ協定が存在する場合には、組合が組合
員を除名したときは使用者は、組合からの除名通知によつて被除名者を解雇する義
務を負担するに至る。右除名はもとより組合が独自の判断で自主的に行なうもので
あり、除名と解雇は、それぞれ別個独立に法的判断の対象となる。すなわち除名の
有効・無効の問題は、もつぱら組合と被除名者との関係であつて、使用者は、全く
これに関知できないのであるから、除名の通知のあつたとき、使用者が、本来組合
内部のことに属する除名自体についての瑕疵の有無や効力に対する審査の責務を負
わされるいわれはない。
 したがつて、労働者と使用者との間の解雇の効力を争う訴訟において、組合のな
した除名についての瑕疵・効力を判断することは許されず、除名が、仮に無効であ
るとしても、ユニオンシヨツプ協定にもとづく解雇の効力が当然無効になるという
関係は、右両者の間に存在しないから、申請人らが、本件解雇の無効を主張するに
つき、除名の無効を理由とすることは許されない。
(除名手続)
(二) 申請外組合が申請人らを除名したのは、昭和四二年一二月二三日、申請人
組合第二三回定期大会議定書中の会計決算報告書に、記載上の大幅なあやまりがあ
ることが、右大会の出席組合員に指摘されたことに端を発するものである。組合
は、右指摘にもとづき、大会の決議により真相を調査することを決定し、昭和四三
年一月八日、組合執行部一〇名よりなる調査委員会を設置し、これにより調査をな
し、ついで、二月六日、右委員会の調査によるも明確とならなかつた点を明らかに
するため、組合の評議委員会は、査問委員会を設置する旨決定し、組合執行委員長
Eほか一四名の査問委員を選任し、かくして査問委員会は、同月一二日、申請人ら
および元財政部長Fの三名、その他必要に応じ監査員についても査問をすることを
決定し、申請人らにそのことを通知した。そして、同月一二日査問委員会が開催さ
れたが、申請人らは、査問に応ずることを拒否し、右Fのみこれに応じたが、同人
は当時の会計処理のうち、いわゆる疑義・不正の諸点について、ほとんど関与して
おらず、その詳細についてもこれを知らなかつた。そこで組合は、緊急評議委員会
を召集し、申請人らの右の機関決定無視および統制違反に対する処置を評議委員会
に付議することとした。そして、同月一三日同委員会は、申請人両名の、後記各会
計不正行為及びこれに対する査問を拒否した行為ならびに何等正当な理由なく組合
大会の開催を二カ月間も遷延したことを、それぞれ組合の統制違反にあたるものと
して、組合は、同委員会における二〇対五の票決をもつて、申請人らを除名するこ
とに決定した。
 そこで、組合は、右除名決定にもとづき、そのことを申請人ら、および被申請人
に通知したが、申請人らは、これに対し、組合あて抗議文を提出し組合大会で決議
されればこれに従う旨言明したので、組合執行委員会は、三月五日に右除名問題に
ついて臨時大会を同月八日に開催することを決定し、同月八日夕刻、臨時大会が召
集されたところ、右大会には、組合在籍総員四二〇名中三九二名が出席(そのう
ち、委任状によるもの三一名)し、組合規約第一八条の大会成立定足数である組合
員の三分の二以上出席の要件を充したので、議事に入り、評議委員会において、申
請人らについて除名決議をなした経緯を説明し、出席者の討論を経たうえ、翌九日
申請人らの除名の可否を組合員の直接無記名投票によつて決する旨の決議を、二三
二対二の票決をもつて可決した。したがつて、右決議は、組合規約第一九条に定め
る組合員の過半数の同意を得たものであること明らかである。
 しかして、組合は、右臨時大会の決議にしたがい、三月九日組合員の直接無記名
投票を行なつたところ、総有権者四二〇名中一一二名が棄権し、三〇八名が投票
し、除名賛成二六二票、反対三七票、無効(破棄一名を含む)九票という結果を得
た。そこで組合は、右結果にもとづき、申請人両名に除名通知を出した。
 してみれば、以上の如く、申請人らに対する組合の本件三月九日付の除名は、除
名手続の履践上何等の瑕疵なく行なわれたこと明らかであり、これが成立を否認
し、その効力を否定すべき手続上の何等の瑕疵は存しないといわなければならな
い。
(申請人らの除名理由)
(三) 申請人Aは、昭和四二年一二月の訴外組合の役員改選以前、過去四期間、
組合執行委員長、同Bは、同様組合副執行委員長の職にあつた者であるが、組合
は、同人らには、認印あるいは訂正印のない領収書の発行があり、その合計額は一
五〇万円にものぼること、昭和四二年のいわゆる五〇日争議中、組合の組合活動給
与規定第七条に違反する役員への手当の支払があること、組合内規に反する手当の
二重取りがあること、大会議案書の会計欄にでたらめの数字記載があること、闘争
資金の使途が全く不明であること、昭和四二年一二月以降の活動記録がないのに労
働金庫から二〇万円引き出したこと、そのほか組合規約に違反して合計五〇三、八
九七円の濫費使途不明金があることなど、その在職中にその責任に属する数々の経
理上の疑義不正行為があるとの理由をもつて、昭和四二年二月一二日、同人らを含
む三名の関係者に対し、組合の設置した査問委員会の査問に応じ、事情調査に協力
するよう求めた。しかしながら、同人らは、右査問を拒否したため、組合は、同人
らについて組合の規約違反および機関決定にしたがわない統制違反があるものとし
て、同人らを除名処分に付したものである。したがつて、組合が、同人らについて
何等の理由なく、除名処分を行なつたものでないことは明らかであるから、これを
理由なき除名として無効とすることはできない。もつとも、申請人らは、これら組
合のいう経理上の疑義ないし不正についてあるいは従来の慣行に反せず、たんなる
記載上のミスであると主張しているが、帳簿および領収書の整備状況・会計報告の
記載にかんがみれば、これら申請人のいわゆるミスなるものは、いずれも看過でき
ないほどずさんな整備や、多額の金額に関するもの、その他収支の粉飾をなすため
のものばかりで、これをもつて単なる事務上の手違いのたぐいと同視できないもの
であること明らかである。また申請人らは組合会計処理の慣行として書記に実務一
切を委かせ、事後的に書記長、財政部長がこれを確認していたと主張するが、かか
る慣行は存しない。従来の慣行は発行伝票は必ず書記長、財政部長の押印がされ委
員長の承認(委員長不在のときは副委員長の承認)を得て現金の支出がされていた
のである。従つて前記のとおり押印のない領収書の合計が一五〇万円余も存すると
いうことは申請人らの計理がいかにずさんであつたかを物語るものである。
 しかして、組合において、除名の理由は、規約第三二条よれば、抽象的に規約違
反または統制違反と定められているが、組合は査問委員会に申請人らが出席しなか
つたとの形式を捉えて同人らを除名したのではなく、健全な組合財政の運営上看過
できない前記の疑義、不正など査問事項の重要性をも考慮して、除名理由としたも
のである。したがつて、本件申請人らについては、除名理由の存在は十分である。
(ユニオンシヨツプ適用の正当性)
(四) 申請人らは本件除名決議当時組合は分裂状態にあつたと主張するが、その
ような事実は存しない。
 組合の分裂とは組合員間の意見の対立が激しく組合が団体として意思決定をな
し、且つこれに基づいて活動することが不可能となる程度に達した状態をいうので
あるが、本件においては昭和四三年三月八日の組合大会に若干の退場者が出た程度
であり、直接無記名投票も前記のとおり平穏に行なわれたのであつて、本件除名決
議当時組合が分裂状態にあつたとは到底認められないから組合が分裂状態にあつた
ことを前提とする申請人らのユニオンシヨツプ適用についての主張は理由がないこ
と明らかである。
(異議申立手続)
(五) 組合を除名された組合員の解雇について、被申請人と組合との労働協約第
七条但書に申請人ら主張の規定が存することは事実であるが、右規定にいわゆる異
議申立は、組合が組合員を除名した後、会社が被除名者を解雇するについて履践す
べき手続に関するものであるから、これは被申請人に対しなされなければならな
い。ところが、本件において、申請人らが、被申請人に対し本件除名後、前記第七
条但書の定める一四日の期間内に、被申請人に対し異議の申立をなした事実は存し
ない。
 また、仮に、右異議申立を組合に対しなすことも許されるとしても、申請人ら
が、組合規約に定めるところに従い異議理由を明らかにした異議申立を組合あてな
した事実は存しない。なるほど、申請人らは、昭和四二年三月一四日に申請人らお
よびGほか二名(合計五名)の連署にかかる同月一二日付の「申入れ書」と題する
書面を組合に提出したことはあるが、前記協約第七条但書所定の異議申立は除名処
分自体の効力を争うものではなく除名処分が有効になされたことを前提とし除名に
もとづき直ちに解雇処分がなされることの不当を申立理由として記載すべきである
のに、前記「申入れ書」にはこのような不服理由は、全く記載されておらず、被申
請人側からの代表者をも参加し構成されている苦情処理委員会の全く関知せず、あ
るいは、全く関知し得ない組合独自の内部問題である除名処分の適否について、一
般的な抗議の意思が表明されているにとどまるから、前記「申入れ書」なる書面は
適式な異議申立書とは言えない。
 また、仮に、申請人らが、手続上、異議申立の相手を誤つたこと、および異議申
立理由の記載を全くしなかつたことをしばらく措くとしても、申請人らについて
は、苦情処理手続による解決という利益を自ら放棄した事実があるから、後日、右
手続の履践されていないことを理由に、本件解雇の効力を争うのは信義則にてらし
許されない。すなわち、三月一四日、申請人Bが、申請人両名を代表して、組合が
これより先申請人らに交付した除名通知を返上すべく、組合を訪れ、あわせて前記
「申入れ書」と題する書面を組合に提出した際、組合執行委員長Eが、右「申入れ
書」があるいは前記労働協約第七条但書にいわゆる異議申立と理解し得る余地もあ
るので「苦情処理委員会にかけることとするがどうか」とたずねたところ、(これ
より先組合では苦情処理委員会が開かれる場合に備えてこれに出席する者の人選を
了えていた。)申請人Bは、「問題が違う。苦情処理委員会にかける必要はな
い。」と明言した。また、申請人らは、四月一日解雇処分に不満をとなえ、工場応
接室でC工場長らと会つた際も、C工場長が、「君達は解雇処分に不満のようだ
が、それならば苦情処理委員会にかける手続があるのに、なぜそれを蹴つたのか。
そんなことをすれば、ユニオンシヨツプ協定がある以上、会社は君達を解雇せざる
を得ないではないか。」との発言をしたのに対し、「苦情処理委員会は、労使双方
の委員で構成されているので、そんなものにかけても無意味だから、これにかける
必要はないといつたのだ。しかし解雇は絶対承知できないから徹底的に争う。」と
答えた経緯がある。
 しかのみならず、仮に、以上の主張が理由がないとしても、被申請人は、組合の
申請人らに対する除名処分の後、三月一四日から同月二二日までの間に、前後五回
にわたつて組合と団体交渉をなし、労使双方で右問題について十分その意見を交換
している。したがつて、苦情処理手続の履践の趣旨が、苦情処理委員会の開催自体
に存するのではなくて、労使双方の十分な討議ないし意見交換を遂げることにある
以上、苦情処理委員会こそ開かれなかつたものの、実際には、労使間に苦情処理手
続を履践した以上の団交という形式の協議がなされたうえ行なわれた本件解雇が、
右形式的な手続違背の故をもつて無効とされるいわれはない。
(不当労働行為)
(六) 昭和四二年三月から五月にかけて行なわれたいわゆる五〇日闘争の終結過
程で、組合員の一部に、当時の申請人ら執行部が一般組合員の利益を無視した争議
をしていることの実態を知り、これに疑問を抱き、組合執行部の指導に不安を感ず
るに至つた者が生じた事実は存するが、これら批判勢力の抬頭について、被申請人
が、積極的に介入・支援したような事実は全くない。申請人ら主張の市内の旅館で
行なわれた一部組合員の集会に、被申請人の役員、工場長などが出席したことはあ
る。しかし、これは、争議妥結の際、組合執行部が報告大会を開き、闘争の勝利を
報告したのに対し、右争議の係争問題の一つで被申請人が主張し組合が反対してい
た年金制退職金制度の実施を組合が受諾しながら、組合が勝つたというのはおかし
い(組合側は年金制退職金に反対していたのであるから、これを承認した以上、組
合が勝つたことにならないのに勝つたと称するのはおかしい)と考え、あるいは、
退職金制度の実際の運営方針について不安に思つた一部の組合員約一〇〇名が集合
し、被申請人側に、妥結内容の説明を求めたから、前記の者が出席したにほかなら
ないものである。
 また、一部組合員が、民主々義研究会なる団体を組織したことは、当時組合の配
布したビラなどによつて被申請人の知るところであつたが、これらの従業員が、市
内の寺院に集合したり、申請人ら主張のような方法で勢力を拡大していつたことは
被申請人の関知しないところである。被申請人が、これらの者の活動に便宜を与え
るため、ことさら就業時間中の会合などその活動を許したことや、ストライキ中の
賃金カツトを補償する意味で金員を交付したことはない。被申請人には、従業員の
福祉をはかるため、貸付制度があり、これを利用して一部の者が金員を借用したこ
とはあるが、これは賃金カツトの補償でないことは当然であり、その貸付事務をた
またま、従前から、労務係で担当していたことを申請人らがことさら邪推するもの
といわざるを得ない。本件解雇は、申請人らが、その所属組合を除名されたことを
理由とする以外の何ものでもない。そして、組合が申請人らを除名した理由、手続
は前記のとおりであり、また、被申請人が、ユニオンシヨツプ条項により、組合か
ら除名された者を原則として解雇すべき義務を負つていることは、申請人らにおい
てもこれを認め、そうでないとしても争つていないのであるから、本件解雇が不当
労働行為に該るとの申請人らの主張は、到底排斥を免れないものである。
(解雇事由不存在・権利濫用)
(七) 前記の如く、申請人らについては、組合からの除名というユニオンシヨツ
プ条項適用上の解雇事由があり、これにもとづき、被申請人が、申請人らを解雇す
るにつき、不当労働行為の意図を有したなどの事実はなく、その他、本件解雇を権
利濫用と目すべき格別の事由もない。したがつて申請人らの解雇事由不存在、権利
濫用の主張もいずれも理由がない。
二、解雇の効力の不可争性
 また、被申請人は、申請人らを解雇するにあたり、解雇予告手当金と、会社所定
の退職金を現実に提供してその受領を催告したが、申請人らは、これを拒絶したの
で、被申請人は、昭和四三年四月二日申請人Aについては解雇予告手当金六一、〇
〇〇円および退職金六九五、六〇〇円、の合計金七五六、六〇〇円を、申請人Bに
ついては、解雇予告手当金八三、〇〇〇円および退職金七三九、六〇〇円の合計金
八二二、六〇〇円をそれぞれ名古屋法務局に弁済供託した。
 しかるところ、申請人Bは、四月三〇日、申請人Aは、五月二日、それぞれ、あ
らかじめ何らの留保の意思を明らかにすることなく、右のうち、解雇予告手当金の
還付を受けた。そうすると、被申請人に解雇予告手当金の支払義務が生ずるのは、
被申請人のなした本件各解雇の意思表示の有効になされた場合においてである以
上、申請人らは、同人らに対する本件解雇が有効に成立したことを承認したことに
なる。また、債権者が予め留保の意思を明らかにすることなく、債務者の供託した
金員を受領したときには、債務者が、供託の原因事実として記載したところを承認
したものと認められ、これに反する主張をなし得ないことは、最高裁判例の説示す
るところである。
 したがつて、申請人らは、もはや裁判上、裁判外を問わず、本件解雇の効力を争
うことはできないと解すべきであるから、本件解雇が無効であることを前提とする
本件仮処分申請は、明らかに被保全権利を欠くこととなる。
第六、証拠(省略)
       理   由
一、申請人らが、かねてから被申請人の従業員で被申請人名古屋合板工場に勤務
し、申請外湯浅貿易名古屋合板工場労働組合の組合員であつたこと、被申請人と右
組合との間に従来から労働協約があり、その第七条に「組合を除名された者を会社
は原則として解雇する。但し被除名者が除名された日から、一四日以内に異議を申
立てたときは、苦情処理手続によつて解決をはかり……。」と定められているこ
と、被申請人が、昭和四三年三月二八日右名古屋合板工場工場長Cを通じ、申請人
らに対し、申請人らが右組合を除名されたことを理由に、解雇する旨言渡したこ
と、以上の各事実は、当事者間に争いがない。
二、申請人らは、右解雇は、ユニオンシヨツプ協定(以下シヨツプ協定と略称)に
したがつてなされたものであるが、除名には正当な理由なく、また、適法な除名手
続を経ないで行なわれたものであるから、かかる除名を前提とする解雇は無効であ
ると主張するからこの点について検討する。
 成立に争のない疎甲第三号証、疎乙第一、第五、第八号証の一、二、第一〇、第
一四、第二三号証、証人E、同Cの各証言、右各証言により成立を認め得る疎乙第
二、第三、第四号証の一ないし三、第六、第七、第九、第一一ないし第一三号証、
第一六ないし第二〇号証、申請人両名各本人尋問の結果の各一部を総合すれば被申
請人が本件解雇に及ぶまでの経過は次のとおりであることが認められる。
(一) 申請外右組合の昭和四二年一二月二三日第二三回定期大会において一部組
合員から同大会議定書中会計決算報告の記載に幾多の誤りのある旨が指摘され、右
決算報告は大会の承認を得られなかつた。そこで右大会の決議により組合新執行部
は昭和四三年一月八日調査委員会を設置して右決算報告につき調査した結果(査問
資料と題する書面(疎乙第二号証)を作成)申請人ら旧執行部の在職していた昭和
四二年五月から同年一二月までにおける組合会計処理につき、決算報告書とその基
礎となる会計書類との記載とが符合しない部分の存すること、正式な決定機関の承
認のない不当支出金ないし使途不明金の存すること、領収書中承認印の全く存しな
いものが多数存すること等被申請人主張のとおりの数々の疑義のあることが判明し
た。
 そこで評議委員会は同年二月六日右疑義を解明するため査問委員会を設置し、同
委員会は同月一二日午後一時から査問を始めることとし、同月一〇日に申請人両名
及び申請外F(当時の監査委員)に対し午後一時、三時、五時と銘々時差をつけて
出席方を通知した。申請人らは当日右委員会に出頭し申請人両名と右Fの三名同席
にて査問するよう要求したが、委員会は口裏を合わせられることを恐れて、先ず個
別査問の方針であったため、これを拒絶したところ申請人らは査問に応ぜず帰つて
しまつた。そこで委員会は已むなく査問に応じた右Fのみを査問したが、右疑義を
解明する資料は何ら得られなかつた。
 そこで組合は翌一三日評議委員会(規約第二二条所定の組合大会に次ぐ決議機
関)を開いて討議し、同委員会は申請人らの前記会計処理上の疑義については不正
行為のあることは間違いないと思われることと査問委員会に正当な理由なく出席を
拒否した行為を組合の統制違反行為にあたるとの判断の下に、これを理由に二〇対
五の票決で申請人らを除名することに決議し、その旨申請人らに通知したが、申請
人らから除名は組合大会を開いてその賛否を問うべきである旨の抗議を受け、加え
て規約第二〇条、第二一条に除名は大会の決議に基づく直接無記名投票によるべき
旨の明文の規定の存するところから同年三月六日評議委員会において同月八日午後
四時から除名について臨時組合大会を開くことを定めた。大会当日は総組合員数四
二〇名のところ出席者三六一名(内委任状によるもの三一名)であり、規約第一八
条所定の大会成立の定足数である総組合員の三分の二以上であることを委員長Eが
確認のうえ大会議案書(疎乙第一〇号証)を配布し、除名についての賛否の直接無
記名投票を九日施行し一〇日開票することを提案したところ、提案に反対した約九
〇名が退場したが、最終的には賛成二三二名、反対二名の結果となり規約第一九条
による総組合員の過半数の同意を得た。ついで右大会決議にもとづき除名当否の投
票が施行され(投票の秘密が侵される状況にあつたことは、これを認むべき疎明が
ない)その開票結果は被申請人主張のとおり有権者総数四二〇名中棄権一一二名、
投票総数三〇八名、内賛成二六二名、反対三七名、無効票九名であり、規約第一九
条所定の総組合員の過半数の賛成投票を得た。そこで組合は翌一一日ごろ申請人ら
に対し書面にて右除名を通告したが、申請人らは即日右書面を突き返した。
(二) そして、申請人らは、同月一三日ごろ組合執行部に対し三月一二日付の
「申入れ書」と題する文書(疎甲第二号証)を提出した。右文書は申請人両名の他
に三名を加えた連名のものでその要旨は、執行部が春闘を目前にしていながら労使
一体となつて春闘を封殺し、職場ではイヤガラセや脅しで組合民主々義を踏みにじ
ついてるとの非難から始まり、次で申請人らには会計処理の不正なく、しかも除名
臨時大会は大会成立人員を欠いていたから不成立である。要するに今回の除名は旧
執行部を嫌悪する組合執行部が会社と心を合わせ、組合のために闘つて来た申請人
ら旧執行部を一掃する目的で作為的になしたものであるからその撤回を申し入れる
というものであり、右と同一文書は申請人らによつて職場にも相当配布された。
 なお、右「申入れ書」を直接組合執行部に持参したのは申請人Bであるが、組合
のE委員長は同申請人に対し、苦情処理委員会にかけたらどうか、と質したとこ
ろ、同申請人は、問題が違うから苦情処理機関には関係はないといい放つて帰つ
た。また同年四月一日本件解雇後に被申請人工場長Cが申請人らと話し合つたとき
も申請人の誰かが、苦情処理委員会は労使双方の構成員が同数であるから構成から
いつてもこれをかける意味がないと答えていた。
(三) そして組合執行部は三月一四日付を以つて委員長E名義工場長C宛昭和四
三年三月八日臨時大会を開き申請人両名に対し除名提案を行ない、九日直接無記名
投票の結果賛成二六二名で過半数の同意を以つて除名を可決し規約第一九条により
除名したので通知する旨の記載のある文書(疎乙第二三号証)を被申請人工場長に
手交した。組合執行部からの協約第七条にもとづく解雇要求につき、執行部役員と
被申請人工場幹部との間に三月一四、一六、一九、二〇、二二日の五回に亘り団体
交渉が行なわれた。(団交出席者は組合側は委員長、副委員長、組織教宣各部長、
被申請人側は工場長、勤労部長等各四名内外)
 右団交に際し組合執行部から詳細な除名処分に至るまでの経過の報告があり、被
申請人側は具体的な証拠資料の提出を組合側に求め、自らも本社管理室監査課長で
公認会計士の資格をもつ申請外Hをして調査せしめ会計処理についての調査報告書
を提出させたうえ、被申請人工場は組合のした除名処分は実体上も手続上も誤りな
いものと認めたうえ、申請人らを解雇することに決し、遂に三月二八日前記のとお
り申請人らに解雇通知をなすに至つた。
 なお苦情処理委員会の開催については組合執行部から前述のような申請人Bの言
動を聞くに及んで委員会は開かないことに労使双方の意見が一致した。
 以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する申請人両名各本人尋問の結果部分
はたやすく信用し難く他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
三、しかるところ、一般に労働組合は団結を確保するためその組織を統制する権能
を有し、これが統制権の発動として組合員に対する懲戒的手段が講ぜられている。
また、シヨツプ協定は右団結の強化を目的とし、労働組合が除名した場合は使用者
はその組合員を解雇しなければならぬ拘束を受けるが、労働組合が右統制権にもと
づき組合員を除名するなど統制手段に及ぶことは右統制権の本質上自主的に決定し
得るところである。ただ右自主性ももとより無制限でなく、組合によつて懲戒的事
由と主張される事由そのものが不法はもちろん明かに不当であつてはならず、また
懲戒手続と主張されるものが一般的に考えられる民主的方法で行われなければなら
ず、もし右限界を超えるときは除名に重大な瑕疵があつたものといわねばならな
い。
 しかしてシヨツプ協定のある場合に使用者が労働組合から組合員除名の通知を受
けても、除名事由と除名手続が明かでないときは、組合に対し除名事由と除名手続
を質すべく、かくのように配慮し、別言すれば使用者において故意または重大なる
過失なくして右瑕疵を見出し得ないときはシヨツプ協定にしたがい被除名者を解雇
すべきである。
 ひるがえつて本件をみるに、被申請人が申請人らを解雇するに至るまでの経過は
前示認定のとおりであつて、右認定事実からして被申請人は除名事由は、如何なる
ことをもつて事由とされたか、また、その手続は民主的方法にて行われたかどうか
を組合に質し、組合から右事由と手続につき前示認定どおりの事実関係の説明を得
て申請人らを解雇したことが認められ、被申請人の当時知り得た右事由と手続は組
合の統制権についての自主性の限界内と解せられる。
 したがつて被申請人において右認定の事情の下に申請人を解雇した以上は、右解
雇は有効と解すべく、仮に除名事由とされた事実の不存在あるいは除名手続が不当
にて除名が無効とするも、組合の自主独立を尊重する建前から本件解雇の効力に影
響を及ぼさないものと解すべく、申請人らの除名無効を前提とする本件解雇の無効
の主張は失当である。
四、申請人らは組合は解雇当時分裂状態にあつたから本件ではユニオンシヨツプ条
項の効力は申請人らに及ばない旨主張するけれども先に認定した事実特に除名審議
のための組合大会において退場者が九〇名余出たものの、右大会も翌日の投票も滞
りなく終了している事実に徴しても組合が分裂状態になつているとは到底認められ
ないから右主張は採用の限りではない。
五、つぎに申請人らは協約第七条但書の苦情処理委員会が開かれなかつたから本件
解雇は無効であると主張するからこの点について判断する。
 右委員会が本件解雇につき開かれなかつたことは被申請人の自認するところであ
る。
 しかして前示疎乙第一四号証によれば、被申請人と組合との労働協約第五三条な
いし第五六条に苦情処理についての定めがあり、苦情処理委員会は労使側各四名を
もつて構成せられ、同委員会は労働協約及び諸規定の適用解釈に関する個人的異議
を処理し、組合員が苦情を申立てるには苦情原因である事項と主張とを明確且つ簡
潔に記載した文書を組合側に提出することができる、となつていることが認められ
る。
 右規定からすれば、組合が個人的苦情につき異議申立権あることはもちろん、組
合員も異議申立権があつて、それにつき文書を組合側に提出することができること
になつており、本件解雇は労働協約の適用解釈に関する事項と見られるから、申請
人らは右異議申立権がある。
 しかるところ申請人らは前示認定したごとく、組合に対し「申入れ書」と題する
書面を提出したが、その作成名義は申請人両名のほかに三名の者が加わり、その内
容は組合活動を非難し延いて除名の不当をもつぱら組合に抗議するものであり、そ
の提出時期は本件解雇前のことであること、右事実になお申請人Bの右「申入れ
書」を提出した時のE委員長に対する言動および申請人の一人の被申請人側のC工
場長に対する言動をあわせ観れば、右「申入れ書」を苦情処理委員会に対する本件
解雇の苦情申立と認めることができない。
 したがつて、苦情処理委員会が開かれなかつたから本件解雇は無効であるとの申
請人の主張は失当である。
六、また、申請人らは、本件解雇が申請人らの組合からの除名を理由にしてなされ
た不当労働行為で無効である旨主張するので、さらにこの点について判断する。
 ところで、この点については、申請人らが執行委員として在任した昭和四二年春
にいわゆる五〇日闘争なる労使紛争が被申請人名古屋合板工場において行なわれた
こと、その直後、市内の旅館で組合員の一部が会合をもつた際、その席に被申請人
役員ないしC工場長らが出席したこと、その頃、組合員の間にいわゆる民主々義研
究会なるグループが発足したことについては、いずれも当事者間に争いがないとこ
ろ、右事実をもつてしては、いまだ本件申請人らに対する被申請人の解雇が、被申
請人の不当労働行為意思ないし目的に出たものと即断できないし、申請人らにおい
て、その他被申請人が申請人らを解雇するにつき不当労働行為をする意思ないし目
的を有したとの事実を認めるに足りる疎明は、申請人らにおいて、何等これをなさ
ない。したがつて、その主張事実を到底認容すべくもない。
七、その他、申請人らは、本件解雇が解雇事由なく、また解雇権を濫用し行なわれ
たもので無効であると主張するが、前示各認定にてらし、右各主張を肯認すべき事
由は存しない。
八、よつて、申請人の本件仮処分申請は、その被保全権利について理由がないの
で、その余について判断するまでもなく、失当としてこれを却下することとし、訴
訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、主文のとおり判決
する。
(裁判官 西川力一 松本武 鬼頭史郎)

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