弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金三千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金二百五十円を一日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の定める選挙権及び被選
挙権を有しない期間を三年に短縮する。
         理    由
 控訴の趣意は、被告人並びに弁護人奥田実提出の各控訴趣意書記載のとおりであ
るから、これを引用する。
 被告人の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第一は、被告人が頒布したAと題する文
書は、公明選挙運動のための文書であつて、公職選挙法第百四十二条にいわゆる法
定外の選挙運動文書ではないとして、被告人の利益のために事実誤認を主張するも
のであり、弁護人の同第二は量刑不当を主張するものである。
 しかし、職権をもつて調査するに、原判決は、『被告人は昭和三十八年四月十七
日施行された栃木県議会議員選挙の下都賀郡選挙区における選挙人であるが、同選
挙区から立候補したBの当選を得しめない目的をもつて、昭和三十八年四月十四日
頃「県議選公明選挙に協力しましよう」なる標題の下に、右候補は合法的選挙妨害
着でありこの様な後退的有志に一票を投ずるとすれば権利の乱用であろう趣旨を記
載した法定外選挙運動文書であるA四十九枚を同選挙の選挙人である下都賀郡a町
大字bc番地C外四十八名に頒布したものである。』との公訴事実どおりの事実を
認定したうえ、公職選挙法<要旨>第百四十二条、第二百四十三条第三号を適用処断
しているのであるが、公職選挙法第百四十二条判定の趣旨及びその内容等に
照らして考えると、同条第一項にいわゆる「選挙運動のために使用する文書」と
は、特定の選挙につき特定の候補者の当選を得るため投票を得若しくは得しめる目
的をもつて使用される文書であつて、その外形内容自体からみてそれと推知するこ
とのできる文書をいい、特定の候補者に当選を得しめない目的をもつてその候補者
に投票しないことを勧奨することを記載したにとどまる文書は、これにあたらない
と解するのが相当であるから(昭和五年九月二十三日大審院判決、集九巻六七八頁
参照)原審が原判示のような事実を認定してこれを律するに公職選挙法第百四十二
条、第二百四十三条第三号をもつてしたことは、判決に影響を及ぼすことが明らか
な法律適用の誤を犯したものといわなければならない。(証拠によれば、原判示選
挙に下都賀郡より立候補した者は全部で数名あつたが、そのうちa町の居住者で立
候補した者はB及びDの両名だけであつたこと、そして問題となつているAには、
原判決引用の文言に引続き「一万二千に近い有権者の皆さん町の代表としての県議
一名を団結の力によつて送り出そうではありませんか」との文言が記載されている
こと、選挙期間中被告人が時々Dの選挙事務所に行つていたこと等を認めることが
でき、これらの事実に徴すれば、右Aは、むしろDに当選を得させるためa町在住
の有権者に対しBに投票しないでDに投票するように勧める目的をもつて頒布され
た文書であると認定せざるを得ない。)
 したがつて、原判決はこの点においてすでに破棄を免れない。
 それで、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十条により原判決を破棄
し、同法第四百条但書に従い当裁判所が自判することとし、前に説明したとおりの
理由により、起訴状に記載された訴因は、これを排斥し、当審において追加された
予備的訴因を採用して、左のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は、昭和三十八年四月十七日施行された栃木県議会議員選挙に際し、下都
賀郡選挙区から立候補したa町居住Bの当選を妨害して同選挙区から立候補した同
じa町居住Dに当選を得しめる目的をもつて、昭和三十八年四月十四日ごろ、「県
議選公明選挙に協力しましよう」という標題の下に「B候補者は合法的選挙妨害着
であり、この様な後退的有志に一票を投ずるとすれば権利の乱用であろう、一万二
千に近い有権者の皆さん町の代表としての県議一名を団結の力によつて送り出そう
ではありませんか」と、暗にBを除けばa町出身の唯一の候補者であつたDに投票
することを勧める趣旨のことを記載した法定外選挙運動文書であるA四十九枚を、
同選挙の選挙人である下都賀郡a町大字bc番地Cほか同町居住の四十八名方に配
付し、頒布したものである。
 (証拠の標目) (省略)
 (法令の適用)
 被告人の所為は、公職選挙法第百四十二条に違反し、同法第二百四十三条第三号
に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、所定金額の範囲内において罰金三千円
に処し、刑法第十八条により右罰金を完納することができないときは金二百五十円
を一日に換算した期間労役場に留置することとし、公職選挙法第二百五十二条第四
項を適用して同条第一項所定の選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮す
る。なお、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を
適用して被告人に負担させないことと定める。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 足立進 判事 栗本一夫 判事 上野敏)

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