弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴人の当審における新請求に係る訴えを却下する。
3当審における訴訟費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
()第1次的申立て1
ア原判決を取り消す。
イ本件を大津地方裁判所に差戻す。
()第2次的申立て2
ア原判決を取り消す。
イ控訴人が別紙行為目録1及び2記載の日時場所において採捕し,生きた
まま再放流したオオクチバス各1匹につき,生きたまま再放流してはなら
ないとの義務がないことを確認する。
ウ[イの請求についての予備的請求]控訴人が琵琶湖に生息するオオクチ
バスを生きたまま再放流してはならないとの義務がないことを確認する
(当審における新請求)。
エ滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例
18条の規定に係る処分を取り消す。
オ[エの請求についての予備的請求]滋賀県条例第52号滋賀県琵琶湖の
レジャー利用の適正化に関する条例18条の規定が無効であることを確認
する。
カ被控訴人は,控訴人に対し,金10万円を支払え。
キ訴訟費用は,第一,二審を通じ,被控訴人の負担とする。
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
()控訴人は,肩書地に居住し,別紙行為目録1及び2記載のとおり,琵琶湖1
上において,オオクチバス各1匹を生きたまま再放流する目的をもって釣り
上げて採捕し,間もなく,これらを生きたまま再放流したものであり,今後
とも,その思想的信条及び宗教的信念において,同様の行為を続ける意思が
あると主張している者である。
()被控訴人(滋賀県)は,平成14年10月16日,滋賀県条例第52号滋2
賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例(以下「本件条例」とい
う。)を制定し,平成15年4月1日から施行した。
本件条例18条は,(外来魚の再放流の禁止)として,「琵琶湖における
レジャー活動として魚類を採捕する者は,外来魚(ブルーギル,オオクチバ
スその他の規則で定める魚類をいう。)を採捕したときは,これを琵琶湖に
放流してはならない。」と定めている(以下「本件規定」という。)。
()控訴人は,平成14年10月18日,本件訴訟を提起した。各請求の内容3
は,次のとおりである。
ア本件規定は,立法事実が存在せず,また,釣り人である控訴人の権利を
侵害する違憲・違法なものであるとする,控訴人が採捕し,再放流した上
記各オオクチバスにつき,再放流してはならないとの義務がないことの確
認請求(行訴法4条所定の当事者訴訟)[上記第1の1の()のイの請求]2
イ本件規定が処分に当たるとして,本件規定に係る処分の取消し請求(同
法3条2項所定の処分の取消し訴訟)[同エの請求]
ウ上記請求の予備的請求として,本件規定の無効確認請求(同条4項所定
の無効等確認訴訟)[同オの請求]
エ本件規定を含む本件条例の制定やその公布行為,更には本件訴訟におけ
る被控訴人の応訴態度は,国家賠償法上の違法行為に当たり,控訴人は,
これらによって,精神的損害を被ったとして,金10万円の損害賠償の支
払請求(国家賠償法1条に基づく損害賠償請求訴訟)[同カの請求]
()原審は,平成17年2月7日,上記アないしウの請求に係る訴えは,い4
ずれも不適法であるとして,これらを却下し,エの請求は,理由がないとし
て,これを棄却する旨の原判決を言い渡した。
控訴人は,原判決を不服として控訴し,各請求を維持するとともに,上記
同様の義務が現在にアの請求の予備的請求(当審における新請求)として,
おいても存しないことの確認を求める請求(上記第1の1の()のウの請求)2
。これが,本件である(以下,各請求の特定については,上記のを追加した
)。第1の1の()のイないしカによる。2
2争点
本件の争点は,次のとおり,当審における新請求に関する争点を1の2とし
て追加するほかは,原審における争点1ないし4と同じである。すなわち,
[争点1]控訴人のしたという別紙行為目録記載の再放流行為(以下,同目録
1記載の再放流行為を「再放流行為1」,同目録2記載のそれを「再放流行
為2」という。)について,控訴人のオオクチバス再放流禁止義務の不存在
確認を求める訴えの適否(確認の利益の有無)[イ請求関係]
[同1の2]採捕したオオクチバスにつき控訴人の再放流禁止義務の不存在確
認を求める訴えの適否(確認の利益の有無)[ウ請求関係]
[同2]控訴人の本件規定部分の処分の取消し及び本件規定の無効確認を求め
る訴えの適否(本件規定の制定行為の処分性の有無)[エ請求及びオ請求関
係]
[同3]本件規定の適否(違憲,違法か否か)[カ請求関係]
[同4]被控訴人の国家賠償法1条に基づく責任の有無[同]
3争いのない事実等及び原審における当事者の主張
()争いのない事実等は,原判決該当欄記載のとおり(ただし,原判決3頁1
26行目に続けて「なお,本件規定違反の行為につき罰則規定は定められて
いない。」を加える。)であるから,これを引用する。
争点に関する原判決該当欄に記載のとお()原審における当事者の主張は,2
り(ただし,原判決5頁4行目の「不安・危険」を「侵害」と,同12頁7
行目の「外来魚を」を「外来魚について」と,各改める。)であるから,こ
れを引用する。
4当審における当事者の主張
争点1(イ請求関係)について()1
(控訴人)
控訴人が過去の再放流行為について再放流の禁止義務のないことの確認を
求めるのは,控訴人が本件条例の適用を受ける滋賀県民ないしは国民である
という抽象的かつ一般的な立場だけでは,当事者適格の有無について争点と
されるので,これを回避し,当事者適格を補強するために,控訴人が具体的
に琵琶湖でバスフィッシングを継続反復して行う者であり,実際にも採捕し
て再放流できる能力があることを証明するためである。
外形上は過去の権利又は法律関係そうすると,控訴人の上記確認請求は,
の確認を求めるものであっても,当事者間の不安定な紛争状態の除去のため
には,上記確認訴訟以外に適切有効な手段がない場合に当たるから,例外的
に確認の利益が認められるべきである。
()争点1の2(ウ請求関係)について2
(控訴人)
釣りを楽しむことは,憲法13条によって保障された権利である。控訴人
のような釣り人には,琵琶湖を含む河川湖沼等の公共用物を利用する権利,
すなわち,釣りをするという行為を原則として妨害されない権利があり,こ
の権利には採捕した魚を自己の所有とする権利とともに,採捕した上でこれ
を所有せず,生きたまま,再びこれを湖等に戻す(キャッチ・アンド・リリ
ース)権利を含むものである。
キャッチ・アンド・リリースは,資源保全と環境保護を目的とした釣り人
としての世界的な行動原理であって,環境と生命に関する理念とその表現行
為として憲法19条及び20条によって保障された権利である。
にもかかわらず,本件規定は,琵琶湖においてレジャー活動としてオオク
チバス等の特定の魚類を採捕する者に対し,再放流の禁止を義務づけるもの
であるから,控訴人の具体的な権利又は法的利益が侵害されることは明らか
である。
したがって,控訴人には,本件規定の定める義務の不存在の確認を求める
利益がある。
()争点2(エ請求及びオ請求関係)について3
(控訴人)
本件規定を含む本件条例の施行によって,直ちに控訴人の有する上記権利
を制約する効果を生じるのであるから,本件規定の取消し又は無効確認を求
めることは適法である。
()争点3及び4(カ請求関係)について4
(控訴人)
ア被控訴人は,平成16年10月,滋賀県漁業調整規則を一部改正して,
乱獲の原因となる魚群探知機の利用を許可したり,アユが豊漁であるとし
て,その採捕禁止期間を短縮した。このことからも,外来魚の食害によっ
て在来魚が減少していないことは,明らかである。
イ環境保全は,特定の事業者の利益だけを擁護するためのものであっては
ならず,すべての事業者と一般人に対する均衡と抑制が公平かつ公正に実
現しうるものでなければならない。ところが,滋賀県の琵琶湖に関する行
政は,本件規定も含め,専ら漁業者だけを保護し,その他の事業者(滋賀
県フィッシングボート協同組合に所属する事業者や釣り具販売業者等)を
保護の対象から除外している。すなわち,本件規定は,キャッチ・アンド
・リリースによるバス釣りを目的とする釣り人を琵琶湖から遠ざけ,釣り
人を顧客として貸しボートや釣具販売等を営む事業者に対し,減収減益を
もたらすものであるのに,これらの事業者に対する補償措置すら講じられ
ておらず,公平かつ公正なものとはいえない。
ウ平成17年6月1日に施行された特定外来生物による生態系等に係る被
害の防止に関する法律(以下「外来生物法」という。)においては,キャ
ッチ・アンド・リリースは禁止されていない。にもかかわらず,条例にお
いて,これを禁止することは許されないから,本件条例は違法である。
エ被控訴人は,各漁協等に対し,在来魚の乱獲や混獲を伴う漁法を改善さ
せないばかりか,規制を乱獲可能な方向で緩和し,更には,自らがブルー
ギルを琵琶湖に拡散した原因を作りながら,これを隠蔽し,釣り人の密放
流が原因であるとして,その罪を釣り人になすりつけ,責任転嫁をしてき
たものである。このような被控訴人が,本件規定により,キャッチ・アン
ド・リリースを禁止することは,法の正義,とりわけ,クリーンハンズの
原則に違反するものであって,許されない。
オ本件規定は,外来魚駆除事業等の補助金行政が目的とする漁業者に対す
る過剰な保護政策に由来するものであり,乱獲により在来魚減少の直接の
原因を作った漁業者に対し,更に,混獲による在来魚減少を伴う外来魚駆
除等を行わせるという,二足のわらじを履かせたこととの整合性を維持す
るために,漁業者を善とし,釣り人を悪とする単純な善悪二分論を押し進
めたことによるものである。
カ外来魚は,従来から,食用とされるほか,これを原料とする肥料,脱臭
剤,農作物の成長促進剤等の開発やその収益事業化が進められてきた。キ
ャッチ・アンド・リリースは,このように水産資源(有価物)となりうる
外来魚を枯渇させない行為であるから,これを禁止する本件規定を存続さ
せるべき理由はない。
(被控訴人)
ア魚群探知機は,漁業の安全を図る上で要望が高く,漁業者の減少やバス
釣りにおける利用実態等をふまえ,禁止を解除したものであって,操業期
間や漁具の制限,許可定数の管理等により,乱獲を防ぐことは可能である。
また,アユについては,河川で産卵し沖合で成長するため,沿岸に生息
する外来魚による食害を受けにくい魚種で,漁獲量も比較的安定している
ものであるから,その豊漁を理由に,外来魚の食害による在来魚の減少が
ないということはできない。
イ再放流の禁止は,むしろ,外来生物による被害拡大を防止しようとする
外来生物法の趣旨に資するものであって,これに違背するものではない。
被控訴人においては,琵琶湖が世界でも有数な古代湖で,多くの固有種を
擁しているという特殊性や,昭和50年代後半から外来魚の食害により在
来魚介類が激減したという事情等から,本件規定を設けたものである。外
来生物法は,全国一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく,上記のよう
な地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解
されるから,本件規定は,同法と何ら矛盾抵触せず,同法に違反するもの
ではない。
第3当裁判所の判断
1争点1(イ請求関係)について
()再放流行為1(平成14年10月18日)については,その事実があると1
しても,本件条例は平成15年4月1日施行であり,本件条例施行前の行為
であるから,その時点においては,本件規定に基づく再放流禁止義務が適用
されるものでないことは明らかである。
したがって,控訴人には,当該行為につき,本件規定に基づく再放流禁止
義務の不存在確認を求める法律上の利益を肯定する余地はない。
()再放流行為2について,その事実があるとしても,過去の行為に過ぎず,2
控訴人には,その時点における本件規定に基づく再放流禁止義務のないこと
の確認を求める法律上の利益を認めることはできないというべきである。
すなわち,過去の法律関係であっても,それを確定することが現在の法律
上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場
合には,その存否の確認を求める訴えは確認の利益のあるものとして許容さ
れるが(最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号15
13頁,同平成7年3月7日第三小法廷判決・民集49巻3号893頁),
過去の再放流行為について本件規定に基づく禁止義務が存するか否かの確定
は,ただ単に,その時点における上記義務違反の存否を事実上確定するだけ
にすぎず,また,本件規定には罰則がないことを考え併せると,上記確定に
より,本件規定を巡る現在の紛争を直接かつ抜本的に解決することにはなら
ないというべきであるから,控訴人には,その確認を求める法的利益がある
とはいえないといわねばならない。
なお,本件においては,現在における当該義務の不存在の確認を求める訴
えも許されないことは,次に説示するとおりであるが,本件規定は,もとも
と特定の個人の具体的な権利ないし法律上の利益に影響を及ぼすものとはい
えないということを理由とするものであるから,上記訴えが許されないこと
をもって,例外的に過去の法律関係の存否が許される場合に当たるというこ
ともできない。
()したがって,控訴人のしたという再放流行為1及び2について,本件規定3
に基づく義務のないことの確認を求める控訴人の訴え(イ請求に係る訴え)
は,不適法であって,いずれも却下を免れない。
2争点1の2(ウ請求関係)について
本件規定は,控訴人の具体的な権利ないし法律上の利益を何ら制限するもの
ではないから,控訴人に,本件規定に基づく禁止義務のないことの確認を求め
る法律上の利益を肯定することはできない。
すなわち,一般に,一般私人が琵琶湖のような公共用物(自然公物)を使用
することによって享受する利益(いわゆる自由使用)は,特定人の公共用物の
使用が特定の権利又は法律上の利益に基づくものであることを認めるべき特段
の事情がない限り,公共用物が一般私人の使用に供されていることによる反射
的利益にすぎず,当該私人が公法上の権利として当該公共用物を使用する権利
ないし法律上の利益を有するものではない。本件においては,控訴人のような
一般私人(釣り人)がレジャー活動として琵琶湖でオオクチバスを採捕し,こ
れを生きたまま琵琶湖に再放流(キャッチ・アンド・リリース)することにつ
き,上記のような特段の事情があると認めるに足りる証拠はないから,特定の
個人が,上記オオクチバスを生きたまま琵琶湖に再放流する権利ないし法律上
の利益を有しているとはいえない(控訴人は,上記再放流は,憲法13条,1
9条及び20条によって保障された基本的人権である旨主張するが,上記のと
おりであるから,憲法13条等による保障は,特定の公共用物において採捕し
た特定の魚類を再放流することにまでは及ばないというべきである。原判決の
説示も,結局,以上と同旨を述べるものと解することができる。)。
そうすると,本件規定は,特定の個人の具体的な権利ないし法律上の利益に
影響を及ぼすものではないから,控訴人には,本件規定に基づく禁止義務のな
いことの確認を求める法律上の利益を肯定することはできない。
したがって,控訴人の本件規定に基づく禁止義務のないことの確認を求める
訴え(ウ請求に係る訴え)は,不適法であって,却下を免れない。
3争点2(エ請求及びオ請求関係)について
本件規定の制定は,行訴法3条2項の「処分の取消しの訴え」及び同条4項
の「無効等確認の訴え」の対象となりうる「行政庁の処分その他公権力の行使
に当たる行為」に該当するとはいえないから,本件規定の制定の取消し(エ請
求)及びその無効確認(オ請求)を求める控訴人の訴えは,いずれも不適法で
あって,却下を免れない。
その理由は,原判決該当欄(「第3判断」中の「Ⅱ争点2について」)
に記載のとおりであるから,これを引用する。控訴人の上記主張は,この説示
に照らし採用できない。
4争点3及び4(カ請求関係)について
()控訴人は,本件規定を含む本件条例の制定(本件規定には,立法目的の合1
理性を支える立法事実がなく,規制手段としても不合理であるだけでなく,
違憲,違法,条約違反等の違法があり,立法裁量を濫用して制定された。)
やその公布行為,更には本件訴訟における被控訴人の応訴態度は,国家賠償
法上の違法行為に当たり,これらによって,精神的損害を被ったとして,同
法1条に基づいて金10万円の損害賠償の支払を請求している。
()しかしながら,その主張に係る被控訴人の違法行為によって侵害されたと2
いう控訴人の被侵害利益は,上記したように,一般私人が公共用物(自然公
物)である琵琶湖を使用することによって享受する利益(いわゆる自由使
用),すなわち,特定人の公共用物の使用が特定の権利又は法律上の利益に
基づくものであることを認めるべき特段の事情がない限り,公共用物が一般
私人の使用に供されていることによる反射的利益にほかならず,当該私人が
公法上の権利として当該公共用物を使用する権利ないし法律上の利益を有す
るということはできない性質のものである。換言すれば,控訴人のような一
般私人(釣り人)がレジャー活動として琵琶湖でオオクチバスを採捕したと
しても,これを生きたまま琵琶湖に再放流(キャッチ・アンド・リリース)
することにつき,上記の特段の事情があると認められないのであるから,控
訴人が琵琶湖において採捕したオオクチバスを生きたまま同湖に再放流する
権利ないし法律上の利益を有しているとはいえないのである。
そうであるとすれば,従来,琵琶湖においてオオクチバスを採捕し,これ
を再放流していた控訴人が,本件規定の制定によって,それを禁止されたこ
と,その他被控訴人の上記各行為により,主観的には精神的苦痛を被ったと
しても,法律上の利益を侵害されたと評価することができないから,被控訴
人に対し,国家賠償法による賠償を求めることはできないものというほかは
ない。
()のみならず,仮に,控訴人が本件規定により,何らかの法的利益を侵害さ3
れたと観念することができるとしても,本件規定は,琵琶湖における外来魚
の個体数を低減し,琵琶湖の自然環境を保全するという正当な目的を,レジ
ャー活動として採捕されたオオクチバス等の外来魚の琵琶湖への再放流を禁
じるという合理的で適法な手段により達成しようとするものであって,立法
裁量の逸脱や濫用はなく,違憲,違法な規定であるということもできないか
ら,本件規定を含む本件条例の制定行為や公布行為が,控訴人の権利ないし
法律上の利益を違法に侵害するものとはいえないし,これに関する被控訴人
の応訴態度も違法ということはできない。
その理由は,次のとおり付加するほか,原判決該当欄の理由説示のとおり
であるから,これを引用する。
ア本件規定は,上記のとおり,琵琶湖の自然環境の保全を目的とするもの
であるが,原判決認定事実からは,琵琶湖は,固有種を含む多様な種類の
魚類や水生生物が生息し,豊かで多様性に富む貴重な生態系を有するもの
であること,にもかかわらず,近年,その沿岸部の魚相が外来魚中心のも
のに変化するなど,琵琶湖固有の生態系が損なわれようとしていることが
認められるから,琵琶湖の自然環境を保全しようとする本件規定の目的は,
正当なものといえる。
イまた,琵琶湖におけるオオクチバスやブルーギル等の個体数を低減する
という本件規定の目的は,急激な魚相の変化や在来魚の減少という,近年
における琵琶湖の実情に対応し,琵琶湖固有の生態系や自然環境の回復を
図ろうとするもので,オオクチバスやブルーギルに関する一般的知見によ
って裏付けられているほか,国の政策やこれまでの被控訴人の政策とも整
合し,県政世論調査に示された県民の意見にも合致するものといえるから,
正当なものであるということができる。
ウ更に,本件規定は,琵琶湖においてレジャー活動としてオオクチバス等
の外来魚を採捕した者に対し,これを琵琶湖に再放流することを禁じるも
のであるから,琵琶湖におけるオオクチバス等の外来魚の個体数を低減す
るという上記目的を達成するための手段として,合理性を有するものとい
える。
この点に関し,控訴人は,これまでは,キャッチ・アンド・リリースの
失敗により,相当量のオオクチバスを駆除できていたのに,本件規定を制
定すると,オオクチバスの釣り人を琵琶湖から遠ざけることになり,かえ
って逆効果になる旨主張するが,控訴人の主張を裏付ける的確な資料はな
いばかりか,証拠(乙94)によれば,本件規定施行後,年間1万㎏内外
の外来魚が回収されていることが認められるから,控訴人の主張を採用す
ることはできない。
また,控訴人は,本件規定は,その施行に当たり,回収箱・いけすの設
置や監視員・指導員の配置等のため多額の予算を必要とするから,費用対
効果の面からも不経済である旨主張するが,外来魚の個体数を低減させ琵
琶湖の自然環境を保全するという目的を達成するためには,一定の予算を
要するのは当然のことであり,本件規定の施行のために不当に多額の予算
を必要とすると認めるに足りる証拠はない。
エ法令違反等に関する控訴人の主張は,次のとおり,いずれも採用できな
い。
(ア)控訴人は,本件規定は,みだりに外来魚を殺すという結果を招くも
ので,教育上の配慮を欠き,子供の学習権や親の教育権を侵害するとと
もに,動物の愛護又は管理に関する法律にも違反する旨主張するが,そ
のことは,控訴人の利益と関連性のないものであるのみならず,本件規
定は,琵琶湖の自然環境を保全するという,上記のとおり正当な目的の
ために,琵琶湖の外来魚の個体数を低減しようとするものであって,理
由なく外来魚の死を生じさせるものではない。
(イ)控訴人は,本件規定において,外来魚の概念は曖昧である旨主張す
るが,本件規定で再放流が禁止される外来魚が,ブルーギル,オオクチ
バスその他の規則で定める魚類をいうことは,本件規定上明らかであっ
て,再放流禁止の対象は明確である。
(ウ)その他,本件規定が,手段としての合理性を欠き,あるいは他人の
権利や利益を不当に侵害し,国の法令等に違反する不当,違法なもので
あると認めるに足りる証拠はない。
オ控訴人の当審における主張も,採用できない。
(ア)弁論の全趣旨によれば,魚群探知機の許可は,漁業の安全を図るた
めに禁止が解除されたものであり,また,アユは,河川で産卵し,沖合
で成長するため,沿岸域に生息する外来魚による影響が少ない魚種であ
るとされていることが認められるから,魚群探知機の許可や,アユの採
捕禁止期間短縮の事実から,外来魚の食害による在来魚の減少がないと
結論づけることはできない。
(イ)本件条例は,琵琶湖におけるオオクチバス等の釣り客を対象として
貸ボート業や釣具販売業を営む事業者に対する営業補償について何も規
定をおいていないが,一般の釣り人に過ぎず,そのことに具体的利害関
係を持たない控訴人が,そのことの故に本件規定が不合理なものである
と主張することは許されない。
(ウ)平成17年6月1日に施行された外来生物法には,キャッチ・アン
ド・リリースを禁止する規定はないが,国は,同年4月5日公表の「特
定外来生物等の選定に係る意見募集(パブリックコメント)の結果につ
いて」及び同月22日公表の「特定外来生物による生態系等に係る被害
の防止に関する法律施行規則(案)に関する意見募集(パブリックコメ
ント)の結果について」において,特定外来生物を捕獲した直後に放つ
行為について,各自治体でどのような規制を行うかは,各自治体の判断
に任されているとの見解を示していたほか,環境省のホームページにお
いても,都道府県によっては,条例により外来生物のキャッチ・アンド
・リリースを禁止している場合もあるとして,注意を呼びかけ,更には,
環境省・水産庁による同年6月3日付けの「オオクチバス等に係る防除
の指針」においても,個体数低減化の効果を期待する観点から,自治体
の条例や内水面漁場管理委員会の指示等によりキャッチ・アンド・リリ
ースを禁止している地域があるが,この手法の導入については,防除水
域の状況に応じて,当該水域での必要性等を個別に検討することが適切
であるとの見解を示している(乙90ないし93)。
外来生物法は,特定外来生物による生態系等に係る被害を防止し,も
って生物の多様性を確保,人の生命及び身体の保護並びに農林水産業の
健全な発展に寄与することを通じて,国民生活の安定向上に資すること
を目的としているものであり(1条),その目的に照らせば,同法にお
いてキャッチ・アンド・リリースが禁止されていないことが,全国一律
にキャッチ・アンド・リリースを禁止しないことを趣旨としているもの
と解することはできず,かえって,上記認定事実からは,各公共団体に
おいて,その実情に応じて,キャッチ・アンド・リリースを禁止するこ
とを許容しているものと解するのが相当である。
(エ)被控訴人が在来魚の乱獲や混獲を容認してきたり,ブルーギルを琵
琶湖に拡散した原因を作ったと認めるに足りる的確な証拠はない(ブル
ーギルは,滋賀県水産試験場が西の湖においてその研究を始める1年前
に確認されたものであるし,また,上記研究中に逃逸したブルーギルが
いたことを示す記録〔甲84〕もあるが,それが琵琶湖に拡散した原因
であるとまで認めることは困難である。)。また,仮に,そのような事
実が認められるとしても,琵琶湖における外来魚の個体数を低減し,琵
琶湖の自然環境を保全するという正当な目的を達成するために,本件規
定を制定することが,法の正義やクリーンハンズの原則に違反し許され
ないということはできない。
(オ)本件規定は,琵琶湖における外来魚の個体数を低減することにより,
琵琶湖の自然環境を保全することを目的とするものであって,漁業者の
保護を目的とするものではないし,また,本件規定の結果,外来魚が減
少して在来魚が増加し,琵琶湖の漁業者の利益につながることになった
としても,そのこと故に,琵琶湖における外来魚の個体数を低減させ,
琵琶湖の自然環境を保全するという本件規定の目的の正当性が失われる
ものではない。
(カ)オオクチバスやブルーギルが水産資源として利用可能であり,その
収益事業化が可能であるとしても,現状において,琵琶湖は,その沿岸
域がオオクチバス等の外来魚により優占され,固有の生態系が失われよ
うとしている実情にあり,また,本件全証拠によっても,これら外来魚
の個体数を大きく減らすことに資するような収益事業化が実現されてい
ると認めることはできないのであるから,このような現状の下において
オオクチバス等の個体数の低減を図ることは,正当なものであり,漁業
資源保護法や生物の多様性に関する条約の規定にも違反しないというべ
きである。
()以上により,控訴人のカ請求は,いずれにせよ,理由がなく,棄却を免れ4
ない。
結論5
,イ,エ,オの各請求に係る訴えを却下し,カの請求を棄却し以上の次第で
することとしまた原判決は正当であって,本件控訴は,理由がないから棄却,
控訴人が当審で追加したウの請求に係る訴えは,不適法であるから,これた,
を却下することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第10民事部
裁判長裁判官田中壯太
裁判官松本久
裁判官村田龍平
(別紙)
行為目録
1日時平成14年10月18日午前7時40分
場所滋賀県野洲川河口南側沖合約300メートルの琵
琶湖上
採捕・再放流した魚類全長23.8センチメートルのオオクチバス1匹
2日時平成15年6月16日午後2時10分
場所大津市雄琴沖合約400メートルの琵琶湖上
採捕・再放流した魚類全長31センチメートルのオオクチバス1匹

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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シフトは週40時間以上
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