弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人蘆野弘、同村松俊夫の上告理由第一について
 論旨は、要するに、本件審判開始決定書には、上告人が昭和三九年九月から育児
用粉ミルク「ソフトカードFⅡ」(以下「FⅡ」という。)を発売するにあたり後
記のような販売方策(以下「本件販売方策」という。)を採用したことが私的独占
の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)一九条に違反する
とのみ記載されていたのに、審決が、右記載の範囲を超え、本件販売方策は上告人
の販売する他の育児用粉ミルクについても適用されるものであるとして、育児用粉
ミルク一般につき右販売方策の排除を命じたことは、審判手続における上告人の防
禦権を侵害し、かつ、実質的証拠によらずに事実を認定したものというべきであり、
これを是認した原判決は違法である、というのである。
 よつて按ずるに、本件審判開始決定書の記載によれば、本件販売方策がFⅡの発
売にあたつて採用されたものであるとされていることは所論のとおりであるが、審
判の経過をも勘案すると、本件において審判の対象とされている事項は、上告人が
育児用粉ミルクの価格維持を図るため昭和三九年七月一三日及び同月二五日の常務
会で決定した本件販売方策そのものであつて、審判開始決定書に商品名としてFⅡ
が挙げられているのは、右販売方策がたまたまFⅡの発売を機に決定、実施された
ことを示すにすぎず、FⅡのみに適用されるものであるとの趣旨ではないと解され
る。そして、本件審判においては、右販売方策が広く上告人の販売する育児用粉ミ
ルク一般についての価格維持対策として採用されたものであることを推認せしめる
証拠が取り調べられており、審決は、これらの証拠に基づき、FⅡ以外の育児用粉
ミルクにも右販売方策が適用されるものであると認定しているのであるから、審決
の右認定につき、上告人が所論のようなFⅡ以外の育児用粉ミルクに関する事情を
主張立証して防禦する機会がなかつたものとは認められず、また、審決の右認定を
もつて不合理なものであるということもできない。それゆえ、審決が育児用粉ミル
ク一般について右販売方策の排除を命じたことは相当であつて、これを是認した原
判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二について
 審決の認定によれば、D乳業株式会社の製造する育児用粉ミルクの総発売元であ
る上告人は、FⅡを発売するにあたり、商品の価格維持を図るため、一定の卸売価
格及び小売価格を自ら指定し、これを販売業者に遵守させる方策として、(1)右指
定価格によつて販売することを誓約して上告人に登録した販売業者とのみ取引する
こと、(2)卸売業者が指定卸売価格を守らず又は登録小売業者以外の小売業者と取
引したときは、卸売業者の売買利潤を補填するために上告人から別途に交付する約
定のリベートを大巾に削減すること、(3)上告人と直接取引する小売業者(特殊先
小売業者)が指定小売価格を守らなかつたときは、その登録を取り消すこと等を決
定し、この本件販売方策を取引先の販売業者に通知して実施したものである、とい
うのであり、上告人がいわゆる再販売価格維持行為を行つたものであることが明ら
かである。そして、審決及び原判決は、上告人の右行為は、卸売業者と小売業者と
の取引又は特殊先小売業者と一般消費者との取引を拘束する条件をつけて当該卸売
業者又は特殊先小売業者と取引したものであるとし、法二条七項四号に基づき被上
告委員会の指定した不公正な取引方法(昭和二八年同委員会告示第一一号。以下「
一般指定」という。)の八に該当する、と判断しているのである。
 論旨は、再販売価格維持行為による取引価格の拘束は一般指定八にいう「取引」
の拘束に含まれないものであり、一般指定八が再販売価格維持行為を対象としたも
のと解することは、一般指定八及び法二四条の二の解釈を誤つている、と主張する。
 按ずるに、一般指定八は、「正当な理由がないのに、相手方とこれから物資の供
給を受ける者との取引を拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」を不
公正な取引方法の一つと定めているところ、公正な競争を促進する見地からすれば、
取引の対価や取引先の選択等は、取引の本質的内容をなすものとして、当該取引の
当事者が経済効率を考慮し自由な判断によつて個別的に決定すべきものであるから、
右当事者以外の者がこれらの事項について拘束を加えることは、右にいう「取引」
の拘束にほかならない。そして、上告人の本件再販売価格維持行為は、相手方たる
卸売業者又は特殊先小売業者が第三者とする取引について取引価格や取引先を制限
し、その違反に対して経済上の不利益を課することにより、事実上指定価格の遵守
を強制するものであるから、かかる行為が一般指定八の定める拘束条件付取引にあ
たることは明らかである。一般指定八が再販売価格維持行為を対象としたものでは
ないとの所論は、独自の見解にすぎない。また、法二四条の二は、被上告委員会の
指定を受けた一定の商品及び著作物の再販売価格維持行為について法の適用を除外
しているが、上告人の育児用粉ミルクが右指定を受けた商品でないことは、上告人
の認めるところである。したがつて、本件再販売価格維持行為は、一般指定八にい
う「正当な理由」のないかぎり、不公正な取引方法として違法とされることを免れ
ないというべきである。
 原判決の説示するところも以上と同旨であるから、その判断に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
 同第三について
 論旨は、本件再販売価格維持行為は上告人の事業経営上当然許さるべき範囲内の
ものであるにもかかわらず、これについて原審が一般指定八の「正当な理由」がな
いとしたことは、一般指定八の解釈適用を誤つたものである、と主張する。
 思うに、法が不公正な取引方法を禁止した趣旨は、公正な競争秩序を維持するこ
とにあるから、法二条七項四号の「不当に」とは、かかる法の趣旨に照らして判断
すべきものであり、また、同号の規定を具体化した一般指定八は、拘束条件付取引
が相手方の事業活動における自由な競争を阻害することとなる点に右の不当性を認
め、具体的な場合に右の不当性がないものを除外する趣旨で「正当な理由がないの
に」との限定を付したものと解すべきである。したがつて、右の「正当な理由」と
は、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた観念であつて、当該拘束条件が相手方
の事業活動における自由な競争を阻害するおそれがないことをいうものであり、単
に事業者において右拘束条件をつけることが事業経営上必要あるいは合理的である
というだけでは、右の「正当な理由」があるとすることはできないのである。
 所論は、法二四条の二第一項が、被上告委員会の指定を受けた商品につき、競争
阻害性の有無にかかわりなく再販売価格維持行為を適法としていることを根拠とし
て、右の「正当な理由」の解釈を争い、同条一、二項の定める指定の要件に事実上
適合している商品については、形式上被上告委員会の指定を受けていなくても、そ
の再販売価格維持行為に右の「正当な理由」を認めるべきであると主張する。しか
し、法二四条の二第一項の規定は、再販売価格維持行為が競争阻害性を有するかぎ
り違法とされるべきものであることを前提として、ただ、販売業者の不当廉売又は
おとり販売等により、製造業者の商標の信用が毀損され、あるいは他の販売業者の
利益が不当に害されることなどを防止するため、同条一、二項所定の要件のもとに
おいて、被上告委員会が諸般の事情を考慮し価格維持を許すのが相当であると認め
て指定した一定の商品につき、その再販売価格維持行為を例外的に違法としないこ
ととしたものであつて、販売業者間の競争確保を目的とする一般指定八とは経済政
策上の観点を異にする規定であると解される。したがつて、法二四条の二を根拠と
して一般指定八の「正当な理由」の解釈を論ずることは当をえないのみならず、被
上告委員会の指定を受けない以上、当該商品が事実上同条一、二項の定める指定の
要件に適合しているからといつて、直ちにその再販売価格維持行為に右の「正当な
理由」があるとすることはできないというべきである。また、当該商品が不当廉売
又はおとり販売に供されることがあるとしても、これが対策として再販売価格維持
行為を実施することが相当であるかどうかは、前記指定の手続において被上告委員
会が諸般の事情を考慮して公益的見地から判断すべきものであるから、右指定を受
けることなく、しかもすべての販売業者に対して一般的・制度的に、再販売価格維
持行為を行うことは、右の「正当な理由」を有しないものといわなければならない。
 原審は、以上と同旨の見解に基づき、上告人の本件再販売価格維持行為には一般
指定八の「正当な理由」がないと判断しているのであつて、審決の認定した事実関
係のもとにおいては、その判断は正当として是認することができる。なお、所論は
原判決の判断遺脱をいうが、原判文に徴すれば、一般的・制度的な再販売価格維持
行為については個々の販売業者に対する関係ごとに右の「正当な理由」の有無を論
ずる余地はないとして、所論の主張を排斥した趣旨であることが明らかである。そ
れゆえ、原判決に所論の違法はなく、論旨は独自の見解又は審決の認定しない事実
を前提として原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 同第四について
 論旨は、審決の命じた排除措置が不明確であり、これを是認した原判決には審理
不尽、判断遺脱の違法があると主張するが、審決は、昭和三九年七月の常務会で決
定された本件販売方策そのものを対象として、右方策全体を破棄すべきものとし、
かつ、すべての育児用粉ミルクの販売につき右方策に基づくリベートの算定及び登
録の取消をしてはならないこと等の措置を命じているのであるから、右排除措置の
内容及びその効力の及ぶ範囲はおのずから明らかであり、所論のいうようにその適
用を受ける育児用粉ミルクの範囲が不明確であるということはできない。原判決に
所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    吉   田       豊
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    大   塚   喜 一 郎

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